インフィニット・ストラトス 〜チョウゾの新たな歩み〜 作:すくりゅうあたっく
中央の机に集まった3人は、翻訳がされたノートに書かれているパワードスーツの性能をホワイトボードに記していく。
「このパワードスーツを再現する上でモジュール機能は絶対に外せん。以前解析を依頼したバイオ金属はこのモジュール機能の補助も兼ねている。ブレイクスルーが起きない限り、装甲材もこれでほぼ決まりだろう」
「そうね……それと、気になった所がひとつあるわ」
「ふむ、言ってみろ」
マオがパワードスーツのコンセプトと基礎設計について説明していると、雪美が疑問に思った部分を挙げる。
「このパワードスーツは宇宙空間での活動は想定していないのかしら?」
「多少は想定しているが、元々私の一族が作るパワードスーツは重力下での活動を前提にしていてな。宇宙では艦艇や小型の宇宙船と連携する事で最低限の姿勢制御システムで事足りると思っているが……」
マオはこのままで良いと考えているが、雪美からすれば一つ懸念点があった。
「ダメ……それじゃ汎用性においてISの劣化と思われる可能性があるわ。このプロジェクトをやる以上、ウチの全てをかけなきゃいけない。いざ学会で発表してダメでした……なんて事は絶対に許されないもの」
「劣化も何も、大前提である活動環境に違いがあるのだがな……それに、私はISが完璧とは思っていない」
「…そりゃ確かに女性しか乗れないという弱点はありますけど……それ以外の基礎設計は完璧のはずですよ? だから今、軍隊すら戦車や戦闘機を見限り、総力を挙げて研究しているじゃないですか」
マオの意外な発言に水木は少し驚くが、すぐに反論する。
だが、マオは自身の考えているISの懸念点を挙げる。
「確かに基礎設計は素晴らしい。汎用性が高く、女性にしか使えないとはいえそこさえ改良できれば将来性もある。だが、最も重要な部分であるISコアの進化を見込めないのが問題だ」
マオはモニターに映されたISの画像の中にあるISコアを指でさし、ISが必ずハードウェア面で限界をきたしてしまうのを挙げた。
「そうね……確かに言われてみればISコアの改良は全く手付かず。製作者である篠ノ之 束さんも何故か女性にしか使えないという欠点を改良しようとしていない。こんな致命的な欠点を放っておくとは思えないし、本人も分かっていない部分が存在すると考えるべきよね」
「ISコアというハードウェアの面はいつまで経っても進化できない可能性がありますが、スーツというソフトウェア側は今尚進化を続け……いつかISコアがスーツ側の進化に追いつけなくなり、稼働時間が著しく低い機体も現れていくでしょう。ただでさえ現在でも稼働時間は1日にも満たない状態なのに、これ以上短くなろうものなら……」
「マルチフォームスーツとしての役割は遂行そのものが不可能になっていくだろうな」
「「………………」」
雪美達もISの限界点が早々に訪れる事を認識し、いずれ起きてしまうだろう事故を想像し息を呑む。
「だが、IS側には参考にすべき点もあり、このパワードスーツの一部は再現が非常に困難、或いは不可能なパーツや機能が存在する。ならばパワードスーツの基礎部分とモジュール機能のみ再現し、細部をISの技術を流用するハイブリッド機として製作するべきだろう」
技術的な着地点を見つけた3人は、更なる問題点を挙げていく。
「そうね……ジェネレーターはどうするのかしら?」
「パワードスーツのジェネレーターを再現するには、別惑星で作れる物質が必要だ。唯一地球上でも入手、製作可能な炉心の熱量に耐えうる素材はタイムクリスタルだが、現在の地球では条約で実質的に採掘が禁止されている以上、それは難しいだろう」
「同じタイムクリスタル製のISコアを流用させるにしても、ウチみたいな超零細企業には行き渡りませんからね……八方塞がりです」
現在、ISコア量産を防ぐ為に原材料であるタイムクリスタルの流通を規制する条約が定められており、例外として現状唯一ISコアを製作可能な篠ノ之 束以外のあらゆる個人、企業、国家はタイムクリスタルの入手が非常に困難とされている。
タイムクリスタルと同等、或いはそれ以上の物質は全て外宇宙にのみ存在し、地球で同じ物質を作るには天文学的なコストを必要とする。
「むぅ……ジェネレーターが無ければパワードスーツはただの金属と同じだ。何か代替物質を入手出来ないものか……」
「1から作るのも難しいでしょうか……」
「……可能ではあるが、コストに見合わん。金属片サイズを作るだけで瞬く間に破産するだろう」
3人が唸っていると、突然鎧から警告のメッセージがモニターへ送られる。
それを見たマオはすぐさまパソコンに飛びつき、凄まじいスピードでタイピングしていく。
「ハ、ハッキング!? ISのネットワークに繋いでいるとはいえ、この鎧を知っているのは極わずかなのにどうして!!」
雪美は突然すぎるサイバー攻撃に狼狽えるが、マオは犯人におおよそのあたりをつけていた。
「ふん、逆探知するまでもないな。四六時中ネットワークを閲覧可能で、
「ま、まさか…篠ノ之 束博士……?」
「奴と見て間違いないだろう。……チッ、こちらが予想以上の防御で意固地になっているのか……? 全く、無駄な時間を浪費させられる……!」
ハッキングはマオと鎧に備えられた防御機能で弾かれても尚執拗に行われており、マオは苛立ち始める。
「……」
「どうしたんですか先輩! 携帯なんか見つめてないで手伝ってくださいよ!」
「待って。もしかしたらこのハッキング、あの子に止めてもらえるかも……!」
水木は携帯電話を睨んだまま動かない雪美に怒鳴るが、雪美は何かを決断して誰かに連絡を入れる。
3コール鳴った瞬間、電話の相手と繋がったようだ。
携帯電話から幼い男の子の声が聞こえてくる。
『はい、おりむらです』
「もしもし一夏くん! 今すぐ千冬ちゃんに代わって!」
『ちふゆねぇにかわればいいんだね?わかった!』
5秒程で雪美の目的の人物に代わった様で、今度は若い女性の声が漏れて来た。
『どうしましたか島星先輩。私に用があると一夏から聞きましたが……』
「千冬ちゃん! この前篠ノ之 束博士と知り合いで親友って言ってたわよね!ね!ね!?」
『は、はい、そうですが……』
電話の相手は雪美の鬼気迫る声に困惑しながらも肯定する。
「今その篠ノ之 束博士がウチで開発してるデータのサンプルに対して何度もハッキング仕掛けてるのよ! 申し訳ないけど千冬ちゃんが止めてもらえる!? 直接! 物理的に!!」
『はぁ……分かりました。1分と30秒でカタをつけてきます』
雪美のお願いを聞いた電話の相手は真剣な声色で返事をし、通話を切った。
「マオくん、水木くん! 1分半耐えて!」
「了解だ!」
「わ、分かりました!」
その後本当に1分半が経つとピタリとハッキングが止まり、3人は安堵の息を吐く。
「つ、疲れました……」
「ふん……水木と言ったな。貴様もやるではないか」
「お褒めに、預かり…光栄で、す……」
「はぁ……後で千冬ちゃんに何か特大のお礼をしなきゃね……あら?」
ぐったりとした水木と彼女の評価を改めたマオを横目に、雪美は先程の電話相手から一通のメールが届いて来たのを見た。
メールにはこう書かれていた。
後日束がどうしてもそちらへ行くつもりなので私も監視として向かいます。
堂々とハッキングを仕掛けて来た挙句、アポも取らずに来る、面の皮が厚すぎる来客に3人は頭を悩ませる。
……どうやら騒動はまだ続くようだ。