俺、40歳。おっさん。ええ、モブです。説明省くけどモブです。金無し、夢無し、彼女無し。家と工場を往復するだけの日々。
無駄に長いから上司には「○○って皆に伝えて」だの「○○やっておいて」だの便利屋扱い。のわりに皆からの視線は冷たい。
「だって言えっていわれてるんだもん。規則じゃん?ルールじゃん?首傾げんなよ怒鳴んなよ。」
今日だって、っと帰り道溜め息をつきながら徒歩で家路につく。溜め息は心を安定させる効果があると言われているが、
「はぁ・・・」
そのせいかもう三度目だ。歩きながらつく溜め息は、しかし心のざわめきを取っ払うどころかますます増えていった。
そのせいか見逃していた。反対の歩道へ横断歩道もない場所で渡ろうとする。
わずかばかり下を向いていた顔は、鳴らされたクラクションにわずかばかり反応しただけだった。そして・・・。
自分の事をモブと呼んだ。斉木命(さいき みこと)は後方から来る車に跳ねられ。あっけなくその生涯を終えた。
はずだった。確かに轢かれた!よく覚えてる。ろくに確認もせずに道路渡ろうとしてそこに緑のワゴンが迫ってきて。あぁ、人間って良く飛ぶんだなって良く解んない感想ひねり出しながら死んだはずだった。
ろくに痛みも覚えちゃいない。
脳がパンクしてたのか死ぬ間際のドーパミンがどうとかなのか。
それがどうした?目が覚めたら全く見覚えの無い車の後部座席に乗ってて、隣には不機嫌そうな顔の整った男が座ってて、前には何かの制服を着たらしき男が二人。
全員が外国人!なにかをしきりに話しかけているがなぜか聞き取れる。日本から出たこともないのにだ?
「なぁ、教えてくれよ。こんな山奥に何しに来た?面白れぇもんなんか無ぇぜ?」
前方の運転していない方の男が話しかけてきていた。
「まぁ・・・ただの、迷子探しだ」
「え?迷子?誰が?」
隣の男の返答にうっかり間抜けな反応を示す。
そして始めて外を見ていただけの顔がこちらを向いた。
その顔に不信感が込められていたのは言うまでもない。
「何だ?観光にでも来てたつもりか?」
眉間にシワを寄せながら懐からファイルを渡される。
「読み直せ」
と言われて目を通すが全部英語である。しかし、なぜか読めた。なぜかは解らない。だけどとても自然な気がした。
「なんだこりゃ・・・。」
「なんだ?なに書いてあるんだ?迷子の子猫の詳細か?」
運転席の男たちがゲラゲラ笑う。
「署長直々の命令だからあんたらを手伝うが、細かいことなんて何も聞いてないんだ。」
男が振り向きもしないでそう言ってくる。俺だって知らないよ?と思いながらファイルに目を通す。
「気にするな。こんな時間だ、ちょっとしたピクニックにでも来たと思ってくれ。最高だろ?」
二人がまた笑う。会話についていけない為ファイルだけを読み漁る。書かれている内容は、どこかで聞いたことがある内容だった。
「中々言うじゃねぇか」
隣の金髪の返しが気に入ったのか言葉を続ける。
「ここだけの話なんだが、良いことを教えてやる。」
次の言葉は、しかし不意に出てきた言葉で遮られた。
「この森では行方不明者が続出している。」
話していた助手席の男が驚いた表情でこちらを見ていた。
「あんた、知ってたのか?」
「あ、いやぁ、なんかそんな感じの森だよなぁって」
あわてて適当な言葉を返す。つい口から出た言葉だがなぜ出たのか自分でも解らなかった。
「ああ、その通りだ。先週もハイカーの捜索があったばかりだ。」
「心強いな、今回も頼む」
そんな会話をよそにファイルを読み終わる。
アシュリーグラハムの捜索。現職アメリカ合衆国大統領の娘。どうして俺が?こんな?全く解らない。俺はただの工場員だぞ?
一人でぶつくさ言っていたのか、隣から肩を揺すられる。
「おい、大丈夫か?」
その心配は現状かそれとも不信感からか?どちらにせよ大丈夫、と答えるのが精一杯だった。
不意に車が止まる。
「ちょっと待っててくれ、すぐ戻る」
そう言って一人が車から降りる。
なにか英語以外の言葉でやり取りしている。こちらは何を言っているか解らない。どうなっているのかと頭を抱えていると
「吸うか?」
差し出されたたばこに
「いいや」
とぶっきらぼうに答える金髪。ファイルに合った名前は、
「あんたは?」
そう言われて始めてたばこを進められていることに気がついた。
「あぁ、もらいます」
そう言って一本取り出し火を借りる。口一杯に広がる苦味と共に煙が喉に入る
「ゲホッゲホッ!うぇ!」
「何だよ吸えないのかよ?」
体が受け付けなかった。すぐに独特な頭痛がやってくる。噎せて吐く背中を金髪がさすってくれた。
「ありがとう、レオン」
咳き込みながら何とか礼を言う。
「全く、国も何でこんな新人を連れていかせたのか」
泣けるぜ、と言いつつ面倒を見てくれる。いい人なのだろうか?と言う疑問は、違う疑問で上書きされた。
「どうしたんだ?遅いな。穴にでも落ちたか?」
中々帰ってこない相棒を心配してレオンに提案する。
「悪いけど、ちょっと見てきてくれないか?」
一度顔を見合わせて。やれやれとばかりに車を降りた。
「俺は車を見張っとく、駐禁とられたくないしな?」
さてはこいつ、降りるのめんどくさいな?
そんな些細な疑問と裏腹にレオンは歩いていく。
この先の暗闇に潜む何かを。俺達はまだ知らなかった。
次回、
始めてのお使い。
第一村人発見
村総出の歓迎会
でお送りする予定です。