一歩一歩近づいてくる度に心臓がはね上がるように鼓動する。頬を伝う汗が自分が緊張していることを教えてくれた。克服したと思っていた銃を持つ手は震え、呼吸が定まらない。目の焦点があってないのか視界がぼやけて見える。一歩、又一歩と少しづつ下がると窓ガラスが自分の顔を映した。
(なんて顔・・・)
映し出されたそれは自分には最早冷静な判断が出来ないことを悟らせた。
足音が一際大きくなる。姿が見えるまで後一歩?二歩?
唾を飲み込む喉の音がひどく大きく聞こえた。
「頼む、頼むレオン、来ないでくれ。」
願いを込めて呟く。決して叶わない望み。
まるで今日始めて知ったかのような恐怖が全身を覆っていた。それでも目だけは音の来る方へしっかりと向けられていた。
来た!と思った瞬間発砲した。
弾丸は壁に刺さりしかしそれは止まらなかった。
「男」がそこに現れた。
頭はひしゃげ、足取りもおぼつかなく、腕だけがまっすぐにこちらをとらえていた。
見覚えがあるがそんなこと考えるより先に銃を撃ちまくった。
狭い空間、足取りは早いため距離は直ぐに詰められる。
(レオンじゃなかった!)
目の前に敵だと言うのに不思議な安心感があった。
だがそれもつかの間、狙いを定めた男が駆け寄るように向かってきた。
「脅かしやがって!」
狙いやすい体部分に五発撃ち込む。
オーバーキルのような気もしたが男は仰向けに倒れてそのまま動かなくなった。
「ローグ!どうした?何があった!?」
走ってレオンが近付いてくる。冷静になって聞いていれば全く違う足音だった。
だがレオンは状況を確認すると直ぐにこちらに来た。
「大丈夫か?怪我はないな?」
優しく言い聞かせるように聞いてくる。その時になって始めて自分が極度の緊張状態であることに気が付いた。
「大丈夫、大丈夫だ。」
息を整え、まだ構えたままだった銃を下ろす。
自分でも嘘と思えるほどの状態だった。
数歩歩いて窓をみる。
そこに先ほどのひどい顔した自分は映っておらず、しかしひどく疲れきった様子ではあった。
「そうか、だが少し休め。」
そういうとリビングへ、椅子を引き出し座らせてくれる。
「直ぐ終わるから水でも飲んで待っててくれ。」
そう言うと先ほどの場所へ向かう。言われた通り水を飲んで落ち着いていると何かが外れる音がした。
戻ってきたレオンが握っていたのは少し大きめの水晶だった。
「それは?」
「恐らくこれが鍵だ。上に行くが動けるな?」
上で何か見つけてたのだろう。返事をして立ち上がる俺を見て
「行くぞ」
と肩を軽く叩いた。
痛みが少し、心地よかった。
レオンに続いて階段を上がると直ぐにドアがあった。
覗き穴があるぐらいの高さに大きめの穴が空いていてそこに先ほどの水晶を嵌め込む。
「これだけじゃ開かないか。」
ドアノブを動かしてみるがびくともしない。
「なかに何かあるな?」
ためしに動かしてみる。とは言え仕掛けは知っているので楽勝だ。と思っていたが中に入っているのは気泡のようなものだった。
「回すと何かの形になるのか?」
「分かるのか?」
「いや、そう言うアートみたいなの有っただろ?」
そう言うがイマイチピンと来ないような顔をしたレオンを置いてさらに回してみる。
「何か方向性があるのか?」
少し回すと形が見えてきた。前世の記憶を便りにそれを探し当てる。
カチリ、と音がした。
「開いたか?」
確認のためドアノブを回すとゆっくりとドアが開いた。
顔を見合わせて二人でクリアリングしていく。
中は誰もいなかった。
大きめのベッド、祭壇、机が二つ。何かないかと探してみるが薄気味悪い内容の本があっただけだった。
「登山客、レオン」
「何か見つかったか?」
「いや、だが覚えてるか?車の会話。ハイカーが行方不明になったと。」
「ああ、奴らか?」
「生け贄にされたらしい」
「そうか、可愛そうに。」
言うだけ言うと探し物に戻る。少し冷たい印象があったが彼の今までの経歴を考えると気持ちの切り替えが早いだけなのだと納得する。その証拠はこれまで十分なほど見てきたはずだ。だが、
「一体どれだけの地獄を見てきたんだ?」
その呟きはレオンには聞こえなかった。
「あったぞ!」
机の引き出しから少し大きめの鍵を入手。水晶のマークと同じ形の鍵だ。
「これで門が開くな。」
「ああ、先を急ごう。」
出ていこうとした矢先、大男がドアから入ってきた。
身の丈二メートルは越えるであろうその男は、
「お前!さっきの!」
答えるより先にレオンが発砲。命中!
しかし、堪えるどころか大腕を振って反撃してきた。
とっさにガードしたがテーブルと窓の側まで吹き飛ばされる。
「ローグ!くそっ!」
更なる銃撃もまるで聞いていない。防弾コートなのだろうか?構うことなく手を伸ばすとレオンの首を絞めた。
「レオン!」
視界がもとに戻った!
すかさず横から狙えるだけ撃ち込む。が、こちらを見もしなかった。
「血が混じってきたようだな・・・。」
「このっ!」
突撃を試みるも蹴りひとつで合えなく撃退された。そのままクローゼットに叩きつけられる。
酸素が一気になくなり呼吸が出来なくなった。背中を打った反動だろうが本来なら致命的だ。
ガシャン
ガラスが割れる音がした。窓ガラスから外を見ていた男は何かを見つけたのかレオンを放り投げ急ぎ足で外に出ていった。
「レオン!無事か?」
「何とかな。何故かは知らないが助かった。」
「窓の外に誰かいたみたいだが?」
「・・・、気のせいだろ?ここは二階だぞ?」
言うがエイダが来ているはずだ。隠したいのか気にしたくないのか。
「そんなことより、それは?」
話題をそらすためかもしれないが後ろを指差す。見るとレバーがあった。床に落ちている絵画を見るに裏にあったのが衝撃で落ちたのだろう。
動かしてみるとタンスの上辺りに折り畳み隠し梯子があった。
「よし、手伝ってくれ。何かあるかもしれない。」
「よしレオン、乗れるか?」
しゃがんで足を乗せてもらう。そのまま立ち上がれば上に届くだろう。と言うところでハニガンから通信が入った。
「コンドル1、ルイス・セラについて少し分かったわ。彼は元研究員よ。アンブレラのね。」
一度降りて聞いた内容に驚くレオン。
「アンブレラ?足くらい折っておけばよかったな。」
「詳しくは資料を送るわ。ともかく、今はターゲットを優先して。」
「ああ分かった、これから教会へ向かう。それじゃあ後で」
「あいつアンブレラだったのか?」
「ああ、信用できないとは思っていたがまさかだな。」
「じゃあ今回の事件に一枚噛んでるのかも?」
「可能性はある。次に会ったら聞き出してやる。」
やる気十分に物騒なことを言う。本当にやりそうだなと苦笑しながら屋根裏へ行こうと促した。
物色が終わったらいよいよ教会へ行く事になる。
胸の中の不安と恐怖は、まだくすぶったままだった。
次回
見知った敵
見知らぬ姿
見たくない物