狭い屋根の上にも関わらず機敏な動きと背中からはえた触手攻撃に翻弄されうまく狙えない。俺達はあの犬、と呼んで良いのか解らないものに苦戦していた。
と言うのも平面的な動きだけではなく触手を使ったこちらの伸長を遥かに上回るジャンプ攻撃等も仕掛けてくる。
おまけに屋根に突き刺さる旅に破壊されるから足場もだんだん悪くなっていく。
「くそっ、速すぎる!」
「落ちるなよ!囲まれるぞ!」
レオンに言われチラリと下を見る。今にも落ちてきそうな獲物を前に下で犬達が走り回っていた。
たった一匹にこちらは完全に翻弄されている。
「ローグ、飛ぶ前に触手を屋根に突き刺す!狙えるか!?」
「やってみる!」
さすがの観察力、レオンが攻略を練ってくれた。
後は飛ぶのを待つばかり。なのだが、
「あっ、くっ!ぬぉ!」
情けない声を出しながら触手を払い、避け、転がっていく。狙うどころか避けるのが精一杯だ。
横から銃声、犬が吹っ飛ぶ。
レオンの銃撃、二発とも命中し倒れるがレオンと犬との間に触手が突き刺さる。
「今!」
構わず発砲するレオンと追撃をする俺。痛みからか触手が苦しそうに悶え、犬は頭から血を拭き出す。暫くすると触手も体も力無く倒れ込みそのまま動かなくなった。
「やったか・・・な?」
「残念だが次のお客さんだ」
梯子を上って村人がやってきた。良く見れば奥の崩れた場所からも上ってきている。
「犬が来ないのが救いだな」
家の中を通るためか村人しか来ない。数も少ないようだしこれなら。
「やれるか?」
マガジンを取り出して残弾を確認しながら呟く。少しずつ、だが確実に行為に違和感がなくなっている。マガジンを入れ直して念のためスライドさせて装填。敵は上に三体下に一体犬は来ないなら後回し。と考えた所で目の前の一体が頭を撃ち抜かれて屋根から落ちる。レオンは俺より早く状況の整理をしていたようだ。
「一体任せる!」
そう言って家の中の敵へ向かう。直ぐに片付くだろうが下もある。
「お呼びじゃないんだよ!」
梯子を上って来た所を至近距離からの頭部射撃。
「これぐらいじゃ死なないよ、なぁ!」
反時計回りの回し蹴りで屋根から叩き落とす。落ちた所に追撃で二発。動かなくなったことを確認して梯子を蹴倒して家の中へ行くとこちらも終わっていた。
「やったか?」
「ああ、後は・・・。」
一番厄介なのが残っている。
屋根の上から見下ろすと一部は今だ走り回っており時折止まってこちらを見ているが数匹が物陰に隠れてこちらを観察するかのように見ていた。
試しに狙ってみたが驚異と解るのか止まらなくなるか同じように物陰に隠れてしまった。
「仕方ない。降りて誘い出すしかないか。」
レオンがそんなことを言い出す。確かにここにとどまっても仕方ないことだがあの速さはたちが悪い。
「射撃に自信は?」
「それなりだ。」
なんて言い出したが実際の腕前はクリスも認めるほどなのを知っているし映画じゃゾンビに囲まれているところをハンドガン一つで切り抜けていた(この頃より先の話のはずだけどね)
「じゃあ俺が囮になる」
言うとレオンが驚きの表情を見せた。
「正気か?」
「yes of course」
笑ってこたえる。
しゃれてみたが内心ガックガクである。だが逃げるだけなら俺にも出来る。はず?
「・・・無理はするなよ?」
何か思ったようだが予想よりすんなり受け入れてくれる。
こくんと頷き下を見る。今か今かと待ち構えて走り回る奴らを確認しセンチネルを構えた。
「待て」
出端をくじかれる。
「どっ、どうした?」
「奴らとやりあうならそっちの方がいい。」
そう言って腰を指差す。指された先にはスカルシェイカー。ショットガンだ。
「動きが早いから広範囲で狙わなくてもある程度当たる武器の方がいい。狙うより近付かせないようにするのがコツだ。」
ラクーンではそうした、と教えてくれた。似たようなのが居たのだろう。武器を変えて改めて覚悟を決める。
「じゃあ、よろしく!」
レオンを一瞥して飛び降りる。たいした高さではないが着地して一回転。止まると奴らが狙いを定めてこちらを見ていた。うなり声をあげる不気味な顔が、牙と涎を見せつけるかのように不気味に開く。
その一匹が吹っ飛ぶ!寸分たがわずレオンが頭を撃ち抜いたのが解った。そしてそれを合図に俺と奴らのおいかけっこが始まった。
出来るだけレオンから見えるようにするために村の中心辺りで逃げ回る必要がある。隠れていた奴らも出てきて襲いかかってきた。
「後二匹だ!」
レオンが教えてくれる。思ったより数は少なかったようだがそれでもいざ真っ正面から狙うとなると難しい。
「後ろだ!」
言われて振り替える。銃は腰だめ、狙わず払うように。
レオンのアドバイス通りに構えて、それは来た。
まさに飛びかかろうとしたその姿に一瞬気後れするが、負けじと引き金を引く。広範囲にばらまかれた散弾が辺り一面を支配する。至近距離の一撃は吹き飛ばすには十分で、だが止めを指すにはいささか足りなかったようだ。直ぐに近づき立ち上がった頭を吹き飛ばす。これで後一匹!
「止まるな!走れ!」
慢心が油断を生んだ。わずかな時間のはずだが足を止めたほんの僅かな時間が奴らにとっては絶好の好機だった。
レオンの忠告虚しく横からの衝撃に押し倒される。俺の喉笛か顔を噛みちぎるために大きな口を開けてスカルシェイカーを噛み壊そうとする。
「うぁっ、くっ、はなっせ。」
覆い被されてるせいか思ったよりでかくて思いそれを、退かすこともずらすことも出来なかった。削れたスカルシェイカーと涎が顔に落ちてくる。ガチガチと音を立てては無理やり押し込もうとして来る牙が、何度も何度も顔面近く迄届きそうになる。その度に横にずらそうとするが押し込まれる力が強すぎて一時しのぎにしかならなかった。狂ったように鳴らされるその牙はまさに狂気そのものである。
「やめろ、やめろ!」
無意味な命令がなんの役にも立たないと知りながらも叫ばずにはいられなかった。大きな口がいっそう大きく開けられたと思ったらスカルシェイカーが悲鳴を上げる。
ガキン!
(まずい!)
今にも折れそうな武器をそれでも離すことが出来ずに暴れていると不意に腕が軽くなった。
レオンが駆けつけて犬を蹴り飛ばしてくれたのだ。そのまま狙いを定めてハンドガンを打ち込む。
二、三発で動きを止めたのを確認して駆け寄ってくれる。
「無事・・・には見えないな。」
酷い有り様だった。顔は涎と木屑と部品の欠片。傷こそないものの顔面は蒼白であった。
辺りを警戒して一番近い家の中へ。ペットボトルから水を取り出してタオル代わりに服で整える。
「大したことがなくて良かった。だがそいつはもう駄目だな。」
そういわれて初めて気が付く。噛む力が強すぎたのだろう。口に押し込んで防御に使っていたスカルシェイカーだが、弾を込める場所はひしゃげて持ち手には穴が空いていた。所々深い傷があり下手に打てば暴発することが素人目でも解るほどだ。中の弾を取り出そうとすら出来なかった。
「マジかよ」
「残念だがここにおいていけ。」
代わりにやるよと自分が使っているのを差し出される。一度は断るが「あると安心するぞ?」と言われて渋々引き取る。今だ頼りない部分が強いのだろうか?いや、
「頼るには力不足か」
この任務が終わる頃にはあの背中に追い付けるだろうか?
そんなことを考えながら俺は銃の重さに安心よりも不安を抱えていることに気が付かなかった。
戦いの終わった広場は静まり返り、しかし倒れた塔と崩れた家屋のせいで小さな迷路のようになっていた。俺達は進める場所を探して家から窓から道を作った。そうして着いた紋章の扉。鍵を回すと予想よりも軽い音が響く。
お互いに顔を見合わせ、ゆっくりと、軋む音をさせながら扉を開いた。
閉じた扉の音が、逃がさぬと警告を発している気がした。
風邪を引いたようです。
喉が痛い。
咳が出る。
言い訳すんな?させてくださいよ旦那(笑)
次回
商人再び
教会
会いたくない湖