遅くなり申し訳ない。
しゃがんだ頭の上を人の頭ほどもある鉄槌が通りすぎる。回転しながら向かってきたそれは途中で止まることも出来ずに真っ直ぐ通りすぎた。だがその背後からさらに鎌や斧が投げ込まれる。
下がるにも足元は動きの取りづらい水の中。パリィも避けるも限界がある。何より、
「何でこんなに頑丈なんだよこの牛頭!」
頭に何発も撃ちこんでいるのに怯むどころか向かってくる始末。
橋から落ちた俺たちは出来るだけ静かに一番近くの上がれる場所な行く予定だった。
クリアリングのために顔半分だけ、曲がり角から覗き見したのだが
「あっ、」
「ウゥゥオゥアァ!」
牛頭とばったり出会った。
勿論でかい声も音も立てながら落ちたのでばれているとは思っていたが、角のそばにいるとは思わず鉢合わせ時に声をあげたのもいけなかった。
雄叫びをあげてハンマーを掲げる牛頭。
その後ろから何かを叫ぶ誰か。
連鎖するかのように集まる敵。
連続する展開に頭を悩ませながらも銃を構えるレオンと水に足を取られてうまく下がれず手をついて転ぶ俺。
そして最初の展開である。
後先考えず突っ込んでくる牛頭とそれをフォローするかの如く武器を投げてくる村人。
「下がり続けてもジリ貧だ!前に出るぞ!」
言うや否や駆け出すレオン。フォローのために銃を構えるも敵とレオンが近すぎて撃てない。結果残ったのは、
「ローグ!」
一対一の状況に追い込まれた俺と牛頭。
雄叫びをあげながら振りかぶり突進してくる。
それを前転で躱し、
「おうぇぇ・・・」
水が鼻や口に入り再び吐き出す。少し飲んだ気もするが気にもしていられない。後ろではタフな牛がこちらを睨み付けているはずだ。
服に染み込んだ水のせいで体が重い。上着を脱ごうにもある程度の装備が入っているため脱ぐ訳にも行かない。何より防御力が下がる気がする。
尚追いかけてくる牛頭を後ろにレオンの側へ行く。
「こっちだ!」
行く方向が解っているのか当てずっぽなのか、前を走るレオンを追いかける。途中ちらほらいる敵を特に狙わずに撃ち、怯んだところを蹴りや投げでやり過ごす。
「飛べ!」
不意に叫びが来て前方にに注意を促される。見れば爆薬に繋がったライントラップが張ってあった。レオンは既に飛び越えた後、側に居た敵を足を引っ掻けた上で顎を押して橋から落とす。
「うぼぉう!」
牛の叫びか人の声か?良く解らない掛け声と共にハンマーが振り下ろされる。とっさに半身ずれたが頭から当たったらと思うとゾッとする一撃だ。だがその一撃が思ったより強かったらしい。ハンマーが床を打ち破り抜け無い。
「おい!」
抜くのに必死になっている牛頭に呼び掛け手に持ったショットガンを至近距離から放つ。
これには流石にたまらず後ずさる牛頭だが、
「これでも倒れないのか?!」
今だ倒れぬ敵にうんざりすると後ろから牛頭の後ろから来た敵に向かって掩護射撃が来た。
「急げ!」
援護してくれたレオンの背後にも敵が来ているため直ぐ様其方と相対する。稼いでくれた時間のお陰でトラップを飛び越え隣に並ぶ。前方の敵は二人、左の敵に狙いを定めて発砲。そこまで距離がなかった為三発中二発が頭に命中、一発は後ろの壁に当たった。
(下手くそ)
心の中で毒づき横目でレオンの相対した方を見るとやはり頭を撃ち抜かれて怯んでいた。二人で走り込みそれぞれの敵に肉薄する。レオンは肘で敵を壁に叩きつけ、俺はナイフで喉元から頭にかけて突き刺す。レオンに教えて貰ったナイフ術である、を実践していた。倒した敵には目をくれず直ぐ様橋から飛び降りて再び水面へ、直後後ろから爆発音が轟く。二人とも中腰になって爆風から身を守りそのままの姿勢で前に逃げる。ある程度の離れて振り替えるとどこかで見覚えの有りそうな足が吹き飛んでいた。
「伏せろ!」
組伏せられて無理やり押し倒された上を何かが通りすぎた。振り返りレオンが狙ったのは崖上に居たクロスボウ。
「次から次に!」
撃ち抜かれて崖から落ちる敵。起き上がると前方にもフォークを持った敵が狙いを定めて来た。すかさず発砲!胴体に当たって敵が怯むとすかさずレオンが蹴り倒す。
動かなくなったことを確認する暇もなく矢が飛んでくる。すかさずライフルを構えるレオン。一発、二発。撃つにつれ静かになる広場にそれでもまだ群がってくる。
「まだいるのかよ」
文句を言っても始まらない。ハンドガンを構えた姿勢だけは崩さずに少しずつ後ろへ下がる。目の前には斧が二人と今にも突撃してきそうなフォークが一人。背後は小屋だが逃げ場がない。と、左にドラム缶があった。すぐに狙うが、
「あ、燃料。」
うっかりそう考えて引き金を引けなかった。激戦の中、小屋の中にあることすら失念していた俺は見当違いな事を考えていた。
そしてそのせいで付け入る隙が生まれた。
「ローグ!」
直ぐ様レオンがドラム缶を撃つ。爆発が敵を巻き込むがその直前に投げ込まれた斧が反応の遅れた俺に向かって飛んでくる。
「うわぁ!」
咄嗟にナイフで払うが払い方が悪かったのか斧の勢いに負けてナイフを落とす。そして、
「ローグ!」
再びレオンの呼び掛け。左手には捌ききれなかった斧のダメージを示すように赤い血が滴っていた。
「怪我は?」
庇うように前へ。敵は倒れたが警戒を解く訳には行かなかった。俺はと言うと。
「痛い・・・。」
手を握ろうとすると痛みが走る。フリーにしててもズキズキとする痛みが残る。
「血、血が・・・」
レオンの隣に並べると信じた自信が崩れさるのは一瞬の出来事であった。
前世では滅多に流すことの無い血を、明確な悪意によって受けた傷から流れていく。
勿論たいした怪我ではないのは解っていた。だが、
「怪我をする」と言う目の前の現実と滴り落ちる血が、俺の心を「ローグ」から「斉木」へと引きずり戻した。
その結果。
「ひ、あっ、ひあぁぁぁぁ!」
手に持ったハンドガンをかなぐり捨て。
無様に泣きながら。
俺は小屋の中へ逃げ込んだ。
訓練があろうと経験があろうと、人は簡単には変われないようです。
次回
平和と言う毒
いい加減にしろ!
脱出