車に残っていた警官が襲われた。
トランシーバーは最早なにも語らなかった。
「急ごう」
そう言って階段に歩きだした俺は階段から誰かが降りてくる足音を聞いた。
脇のホルスターから拳銃を抜き出す。今回支給された「センチネルナイン」は連射性能に優れた制圧向きな武器だ。
足音は一人分、十分一人でやれる。先ほどの汚名返上と行こう。
近づくレオンにハンドサインで一人、来る、と指示を出し銃を構える。
「誰だ」
そこまで大きくはないが十分聞こえてるはずの声量で問いかける。しかし、聞こえてきたのは不気味な唸り声だけであった。
目を細めてライトで暗闇を照らす。そしてそいつは現れた。
先ほどレオンが蹴り殺した男。首は確かに折れている。が、虚ろに開かれた目も、伸ばした腕も足取りも。生きてるそれと違わず真っ直ぐこちらに向いていた。
「とっ、止まれ!撃つぞ!止まれ!」
言っても無駄なのは本能で解るし常識的にも無理のはずだがとっさに出たのはその言葉だけだった。
「ローグ!撃て!」
そう言ってレオンも銃構える。「SG-09R」扱いやすく威力も申し分ないその銃を、彼は真っ直ぐに、迷い無く向ける。
パンッ!パンッ!パンッ!
浴びせられた弾丸は間違いなく頭と右胸辺りを貫いた。はずだった。
「とっ、止まれ!来るな!」
その足取りは変わること無くこちらに向かってきていた。パニックに陥った俺は最早正常な判断すら出来なかった。
「くるなあぁぁぁぁ!!!!」
ハンドガンの連射。ロングマガジン採用の十九発を、定まらない銃口で撃つ。最初の二発が胸、肩に命中した以外は壁や家具なと明後日の方向へ飛んでいく。撃って、撃って、撃って、弾がきれてスライドが戻らなくなっても尚引き金を引くことを止めなかった。
「もう大丈夫だ!しっかりしろ!それでも訓練した兵士か!」
レオンが駆け寄る。いつのまにか尻餅をついていたが腕だけは両手で村人がいたはずの空間を狙っていた。銃口は、いや最早体全体が震えていた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
狂ったように繰り返されるその言葉はいったい誰に向けたものなのか。泣き腫らし、震え、立ち上がることすら出来ないそれはもはや兵士ではなく足手まといの類いだった。
レオンがほほを殴る。殴られて始めて自分の現状を思い知った。
「落ち着け。やつは死んだ。」
そう言って目線を向ける。村人はもう起き上がる気配はなかった。俺は最早、自分を保つことは出来なかった。
「だって、だって、あいつ、死んで、立ってて、こっち、来るから、おれ、おれは、」
尚混乱は収まらない。レオンがそっと銃を構えたままの手に手をのせた。ゆっくりと下げさせると優しく言い聞かせる。
「この状況は初めてか?いいか、訓練を思い出せ。この状況は普通じゃない。あの男もだ。俺達が考えていること以上に厄介な状況のはずなんだ。」
「くん・・・れん?」
涙声で繰り返す。レオンがああ、と首を立てに振る。
「そうだ、状況が解らない今、俺達は進むしかない。泣きべそかいてる暇はないぞ?」
そう言って立ち上がり手をさしのべる。
「お前の手助けがいるんだ」
鼓舞するための言葉。相手を思っての言葉だが内心、宛にはしていなかった。せめて自分の身ぐらい守って欲しいと諦め半分で投げ掛けた言葉だったが、そんなことは気付いてもいなかった。
くんれん、しなない、くんれん、仕事、訓練、任務、アシュリー、撃った、救出、人を、人を撃った?
込み上げたものが喉を通った。バタバタと端へ行き、胃の内容物を戻す。
「泣けるぜ」
お守りより厄介なものが増えたことがレオンの気を更に重くした。
カツン、ガリッ、
階段から更に足音がした。一人らしいがなにかを引きずる音もついてくる辺り武器だろうか?冷静な判断が出来なさそうな相棒を庇うように前に立つ。ライトを照らせばそこには農具のフォークを持った村人がこちらを指差していた。
「まったく!」
再び構えられた銃を向けると同時に走り出す村人。フォークを構えての突進、狙いは腹部。をとっさに腰から抜いたナイフでパリィして流す。そのまま足を狙い銃を撃つ。膝立ちになった村人の喉へパリィしたナイフを突き立てた。
血を拭きだし、声も出さずに倒れる村人。俺はその一部始終を四つん這いの情けない格好のまま見ていた。
置いてかれる訳には行かない。訓練を思い出し、足に力を入れる。震えるせいか上手く立てない。それどころか歩けるかどうかも解らない。息は荒く、心臓は痛い程興奮しているのに。体は冷たく覚めきっているようで。だが、
「だい・・・じょうぶ!です。」
一体何度目だろう?最早自分でも信用できない言葉を気合いだけで吐き出す。
レオンがリロードを終えた自分の銃をしまって俺のセンチネルを掴む。マガジンを排出しこちらの腰にある新しいマガジンと交換する。
「ほら」
渡されてしっかり掴む。いや、震えた手を握るように包んで渡す。
「あの娘が待ってる。お前より弱い娘が、お前より怖い思いをして。誰かの救助を待ってる。」
知ってる。俺は彼がラクーン帰りだと言うことを。
あの地獄から帰ってきたことを。だから、
「おまえ、へいきなのか?」
つい衝動的にいった。俺は知ってる。彼がどんな気持ちであの地獄を生き抜いてきたか。それでも聞かずにはいられなかった。
「平気じゃないさ。それでも慣れるしかない。」
行くぞと促し歩き出す。その足取りは重く、しかししっかりと進むべき道を歩いていく。
俺に出来るだろうか?息も落ち着かぬまま後ろを付いていく。
「レオン。」
不意に呼び掛ける。
「どうした?」
振り向いて問いかけるレオン。俺はうつむいて、少し申し訳なさそうに。俺は続けた。
「少し、漏れた・・・」
レオンは少し苦笑いしながら首を横に振り「泣けるぜ」と言って階段を上った。
そろそろ覚醒。
と言っても無双系ではない感じ。
次回
繋がった記憶
斉木とローグ
覚悟
さてさて、この勢いでどこまで行けるやら?