兄、俳優 妹、アイドル 母、元アイドル   作:朝霞リョウマ

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『嘘を吐くのが得意なアクアはアイドルに向いてて、信じさせるのが得意なルビーは役者に向いてる』という動画のコメントを見て思いついた。


王子様系アイドル《星野アクア》爆誕

 

 

 

 きっかけは、『深堀れ☆ワンチャン!!』内でとある芸人が発した何気ない一言だった。

 

 

 

 ――ルビーちゃんのお兄ちゃんなんやから、じぶんもアイドルいけるんちゃう?

 

 

 

 何を馬鹿なことを言っているんだと、心の底からアクアは思った。心の底に留めておくことが出来ずに口から「芸人だからってわざと逆張りして面白くないことを言わなくてもいいんですよ」なんて言ってしまったほどである。

 

 アクアにとってアイドルとは、今の人生の母親であり前世から変わることなく不動の推しである『B小町』のアイそのものだった。辛うじて妹のルビーとその他二名で結成された『二代目B小町』も、片手間程度になら推してやろうと考える程度だ。そ(・)れ(・)以(・)外(・)の存在なんてもの、アクアの人生にとっては存在しないも同然である。

 

 ゆえに所詮番組内で発せられた芸人の戯言程度にアクアは興味を示さない。自分がアイドルになって一体誰が得をするのだと本気で考えていた。

 

 

 

 しかし、そう考えていたのはアクアただ一人であった。

 

 

 

「お兄ちゃんがアイドル!? なにそれ面白そう!」

 

 まず最初に反応を示したのは、双子の妹ルビーだった。この面白そうというのは『似合っている』や『向いている』などといった肯定的な意味ではなく、文字通り『兄がアイドルをしている姿を見たら笑ってしまう』という意味であった。

 

 

 

「ふむ……それもありだね」

 

 次に反応を示したのは、星野兄妹をネット番組にレギュラー出演者としてキャスティングしたプロデューサー鏑木だった。元々アクアの顔立ちに、かつて伝説となりかけた『B小町』のアイの面影を見ていた彼は、そんな彼がアイドルとして登場する画(え)を見てみたくなった。

 

 

 

「アクアがアイドル!? 考えたことなかった! そっか、そーゆーのもありだよね!」

 

 そして最も前のめりな反応を示したのは、母アイだった。かつて自分も出演した映画に子役として出演したアクアの演技を見て、アイは「アクアは将来役者さんだ!」と褒めたこともあった。現在のアクアは役者だけでなくマルチタレントとして活動しているが、自分の血を引く子どもならば確かに男性アイドルという路線も悪くない。そう考えたのだ。

 

 

 

「いや……やらないって。アイドル」

 

 そうしてアクアの意志とは無関係にそ(・)れ(・)は着実に進行していったが、彼の心は揺るがなかった。ときには妹に煽られて無視し、プロデューサーからの提案にも難色を示し、その他様々な人間からの甘言蜜語をのらりくらりとかわし続けた。まさに鋼鉄の意志である。

 

 しかし母親からの『見たいな~アクアがアイドルやってるところ見たいな~』という甘えるような目線に、アクアはあっさりと膝を折った。文字通り生まれる前から推している存在からのおねだりに勝てる人間なんていないのである。アクアが弱いのではない。推しが強すぎたのだ。

 

 

 

 かくして、ここに期間限定アイドル《星野アクア》が爆誕することとなった。

 

 

 

 

 

 

『みんな! お待たせ!』

 

『ははっ、やっぱり緊張しちゃうなぁ』

 

『でも今日はアイドルとしてみんなを虜にしちゃうから』

 

『……覚悟、してよねっ』

 

 

 

 

 

 

「誰だコイツ」

 

「お兄ちゃんだよ」

 

 そんなバカな……とは思わない。しっかりと自分の意志で演(・)じ(・)て(・)い(・)る(・)ので覚えていないわけがない。だが改めて客観的に見ると『信じたくない』という心の方が強く表に出てきてしまったのだ。

 

 しかし現実……! これが現実……! 見紛うことなき現実……! 爽やかな笑みを浮かべ、振り付けと共にポップなラブソングを歌い、時折ウインクや指ハートを画面からこちらに向かって投げかけてくるのは、星野アクア本人なのである……!

 

「お兄ちゃん、ファンサまで完璧じゃん……」

 

 これには『盛大に笑い飛ばしてやろう』と意地悪いことを考えていたルビーも軽く引いた。以前恋愛リアリティショーへと出演したとき以上の陽のオーラを発する光系な兄の姿に、全く笑うことが出来なくなってしまった。最初こそ『あ、こういうのも本当にありかも……』とは思いもしたが、それ以上に居た堪れない気持ちになってきてしまったのだ。

 

 そしてアクアもアクアでキラキラ王子様系アイドルを演じている自分を見るのがそろそろ辛くなってきた。衣装的に黒歴史というよりは白歴史だな、なんて微塵も面白くない冗談を心の中で呟いてしまうぐらい精神が疲弊し始めていた。

 

 なんというか、せめて盛大に笑い飛ばして欲しかったというのがアクアの本音である。道化を演じたいとは思わないが、それでも「あぁ、うん……に、似合ってるじゃん」とか言われる方が精神的にキツいのだ。

 

 そんな双子に挟まれるようにしてソファーに座り、黄色い声を上げて応援団扇とペンライトを振り上げる女性の姿があった。

 

 

 

「きゃ~! アクアかっこいいよ~!」

 

 

 

 当然、二人の母親であるアイである。そこにはかつてステージの上で多くのファンたちを魅了したトップアイドルであった頃の面影はなく、ファンとしてペンライトを振る喜びを知ってしまった悲しき獣(ヲタク)に成り果ててしまったのだ。ちなみに、既にルビーたち『二代目B小町』のライブの関係者席で前科一犯である(おなじことをしていた)。

 

「ねーねーやっぱりコレ期間限定なんて勿体ないよー。これからもアイドルとして活動しようよー」

 

「……馬鹿なこと言わないでくれよ母さん。今回はどうしてもっていうからやったけど、こんなことは二度とやらないから」

 

 ……実はこのとき、口では拒絶していたアクアも満更ではなかった。

 

 かつてはアイを引退に追いやった(ついでに前世の自分が死ぬきっかけとなった)父親を探し出すという目的で芸能界に入ったが、その父親が『かつてと同じ手口を利用しようとした結果、逆に自分が刺される』というなんとも間抜けな死に方をしてしまったため、アクアの熱意は宙ぶらりんの状態だったのだ。

 

 ここでアイの一押しがあれば、きっとアクアも『アイドルとしての活動を悪くないかも』なんて考えたことだろう。実現するか否は別として、そういう未来も選択肢の一つとして真面目に考えたことだろう。

 

 

 

「もしそうなったら、ママはアクアとルビーの兄妹共演ステージとか見たいな~」

 

「「絶対にやらない」」

 

 

 

 しかし残念ながら選択肢を間違ってしまった。あーあ。

 

 

 




ユニットメンバーKちゃん「は? アイドル? なにコイツふざけてんの?(録画)」

(仕事上の)彼女Aちゃん「アクア君は王子様系よりもオレ様系の方がいいと思うんだけど(REC)」
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