競馬界のレジェンドになったら…   作:展開郎

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第一話 人は緊急時でも常識を持ちうるのだろうか?

ふと目が覚めたら電車の中にいた。

なんというか少し汚れている感じのディティールを感じさせる雰囲気がある。

つい先ほどまで家で寝ていた筈なのだが、いつの間にか電車の中にいる。昨日は確か疲れ果てていた筈だがら、自分が知らぬうちに電車に乗り込んでいたのかもしれない…

電車はガラガラと空いて、窓も完全に開きっぱなしで風がもの凄く気持ちいい。

 

とりあえず今手元に何も、いや握りしめていた左拳の中に少しクシャッとなっている切符があった。

どうやら『淀駅 行き』と書いてあるようだ。しかし淀駅となると確か京都競馬場の最寄駅の筈だ。

今日は日曜日だから競馬場に向かおうとしていたのかもしれない。いやはや人というのは意識せず行動したら恐ろしい行動を取るようだ。

自分は大の競馬好きと言ってもよいだろう。競馬にハマったのはかれこれ…確かオルフェーヴルの三冠を中学生の時に見てから、とてつもなく見出した。週刊キャロップなどの競馬雑誌から20世紀の名馬100頭など動画からラジオやテレビ番組は欠かさず見るほどの大のオタクであった。

社会人になってからは流石に忙しく、競馬に割ける時間も減っていってしまっていた。だからこそ余計、疲れていたから気分転換にでも競馬場に向かっていたのかもしれない。

 

ガタンゴトンと刻みのいい、耳に入れても良い音だ。どうやら各駅停車なのか動いては止まってを繰り返し、止まる度に沢山の人が入ってくる。

といっても新聞と鉛筆を持った、何処から見ても競馬しに行っているのが分かる。こういう光景を見ると、懐かしみを感じれて心がもの凄く落ち着く気がする。

競馬場というあんなに煩い場所が、僕にとってはかけがえのない憩いの場であったということはそれほどまでに競馬に入れ込んでいたことを証明している。

 

人がどんどん入ってきてからか今度はガヤガヤという聞く人にとっては嫌な響きが聞こえてくる。自分はこのガヤガヤという音が、人が間近にいるという雰囲気が心を安心させてくれる。

そんな馬券のために必死で考えている人たちは、こちらを見て少し驚きの色を顔に浮かべている。一瞬、自分の姿がおかしいのかと思ったがそういう訳ではなさそうだ。

すると俺の席の前の吊り革を握りながら立っていた男が俺に喋りかけてきた。

 

「どしたんや、僕?何処へ行きはるん?」

 

「淀駅、京都競馬場にレース見に行くんだ。」

 

僕?と問われた。いやまぁ確かに同期の同僚たちよりは童顔ではあるが、知り合い以外からにはそんなに若く見えるのだろうか。

 

「そういうことかい。………僕競馬好きかい?」

 

「勿論、好きなのはテンポイントかな。稲本アナウンサーも贔屓にするほど強いんだから。」

 

「そうか、テンポイント…テンポイントなぁ。」

 

どうやらこのおじさんは、テンポイントという話題を出すと表情をすぐにクシャッと歪ませた。恐らくテンポイントの悲劇の事を考えているのであろう。

悲劇というのは、海外遠征を予定していたテンポイントの日本でのラストランとなる日経新春杯で足を骨折し治療の甲斐もなくレースから約二ヶ月後の三月に亡くなった。

そもそもこの悲劇を引き起こしたのは馬主や調教師、騎手サイドではなくテンポイントを応援する関西ファンによる要望であった。当時の事を知っている訳ではないが自分がもしテンポイントのファンだとしたら本当に絶望のどん底に落とされ、泣き喚く自信がある。

 

「テンポイント、悲しくなりますよね。」

 

「あぁ、ほんまに、ほんまに可哀想やわ。」

 

おじさんのその反応を見るからに、恐らくというか絶対にテンポイントの大ファンだっただろう。いやしかし当時の事を知っている人の反応を聞く事は新たな知識の一つとなる。

急に話しかけられて、内心びっくりしてしまったがこの反応が見れただだけで十分と言えるだろう。

 

『次は〜、淀駅、淀駅で、ございます〜。』

 

「じゃあまた今度会えたら。」

 

「せやな、また今度会えたら少し話そうな。」

 

ぎゅうぎゅう詰めだった人たちも電車の扉が開いた瞬間に膨張というより爆発するかのごとく外に飛び出していく様を見ると少し競馬場に来た感じがする。

しかしこの切符、自分の左拳で握っていたやつはどうも見たことのない形の切符である。普通、切符というものは後ろが黒い筈なのだがそうではない。最近世の中はエコが云々という時代ゆえのコストカットなのかもしれない。

ようやく自分が立ち上がっても良さそうなほど空いて来たので、席から立ち電車の中から抜けた。

しかし自分が思っていたような光景じゃないことに驚きというより困惑の感情が溢れてしまった。

 

自分の視界に入って来たのはどう見ても2023年の景色ではなかった。どう考えてもそれより30いや40年以上前は確実なそんな風景が瞳の中に映し出された。

もの凄く昭和チックな香りがする風景に少し混乱し、頭が痛くなる。そもそも淀駅の手前からおかしかったのだ。淀駅は高架に線路が敷かれている筈なのに普通に地面にそのまま線路が敷かれている。

おかしい、おかしい。どう考えてもおかしい。こんなの、タイムスリップしたとしか考えられないほどこんな風景は2023年にはない。

少し落ち着くためにベンチに座るとある程度、気分や頭の痛みはマシになったがそれでも若干苦しい。急に信じられないことが起きて、体のあちこちから異常反応が示されているのだろうか。

ふと左の方向から駅員さんがやって来てくる。どうやら僕を心配して来るのだろう。これまた今風ではない容貌をしていて改めて自分の置かれている状況がおかしいと再確認させられてしまった。

 

「僕、大丈夫かい?気持ち悪いの?」

 

「い、いや、大丈夫です。少しベンチで座ったら落ち着くんで。」

 

「それなら良いんやけど、小学生が無理しちゃいけないよ。」

 

「…………え?小学生?」

 

この駅員は急に何を言っているのだろうか。更に混乱してくる。

駅員に問いただそうにも、他の業務があるのだろうかさっさと自分では追いつけなさそうなスピードで元の場所に戻っていった。

小学生……そんな馬鹿な話あるわけなどない。人間いくらなんでもタイムスリップなどは不可能な話だ。自分自身、物理学に詳しい訳ではないが確かタイムスリップは物理的に不可能とよく聞く。

だがしかし、小学生と言われたのは事実だ。自分の身長は人権を保有するほどの高さなどで小学生などと聞かれることは絶対に万が一にもない。

ベンチから降りて、トイレを探そう。この状況を調べるためにも鏡で自分の姿でも確認するしかない。歩くとすぐ距離の所にトイレがあるようで向かう。

 

 

 

 

そこには見事とは言えないが、どこにでもある一般的な量産された鏡があった。

しかしそこに映るのは大人ではなく、()()()()()()()()()風貌の少年だった。

競馬史のIF

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