バンブーメモリーの馬房は奥から三番目にあるらしく、どんな馬か楽しみにしていると、親父が小声で話しかけてきた。
「馬房に近付かんほうがええで、びっくりするから。」
「え?あぁ、うん。」
バンブーメモリーについては、あまり知っておらず安田記念とスプリンターズSを制覇したことしか知らない。もしかしてバンブーメモリーは気性難なのかもしれない。
そういうことを考えながら、親父の背中についていきながら目的地の馬房をたどり着く瞬間に親父が言っていたことが起きた。
「ヒ、ヒヒーン、ひひん、ヒヒ〜ン。」
バンブーメモリーと思われる馬が馬房から、顔を柵から物凄い勢いでぐるんぐるん回している。
なるほどこれはびっくりするし、もし馬房に近づいていたらお腹にダイレクトアタックしていたことだろう。
そんなバンブーの態度に親父は苦笑いをしている、苦労する息子を持つような笑みなのだろうか。楽しいけれど、大変そうな親父の顔に無性に笑ってしまいそうになった。家に帰っては小難しそうな顔で考えるか、酒を死ぬほど飲んでいるかどっちかしかなかったあまり見たことない親父の表情が新鮮に思えた。
「豊に言っておくんやけど、別に気性が激しいわけや無くて滅茶苦茶真面目なんやわ。ただ真面目すぎるというか…何でもかんでも全力で頑張る不器用な子やわ。そう言うところをお前がなんとかするんや。」
「そうなんか、親父。バンブーメモリーってどんな馬なんや?」
「あぁ、ダートをよぉ走ってくれるわ、芝はうまいこと走ってくれへんねん。どっちみち足が弱いからそっちの方が有難いけど。」
ん?
え?いや、そんな訳はない。バンブーは確かに安田記念とスプリンターズSを勝っていた通り、芝適正の馬の筈だ。前の自分が記憶し違えた訳でもない、確かにバンブーメモリーは芝を走る馬のはずだ。
それが何故、ダート適性のある馬となっているんだ?足が弱いと言うのも初耳だったが、如何してだろうか。
「まぁ、とりあえず調教で乗ってみてええか?」
「ああ、ええさ。」
こうしてバンブーメモリーを見てみると、不思議なのは
あのオグリキャップとマイル路線で戦い合ったバンブーメモリーなのかと思うぐらい全く僕に勝利のビジョンを見させてくれない。偽物かもしれないと思ってしまうほど、跨ってみてもビジョンを感じさせてくれない。
何かこう、あとちょっともない。
なんと言うべきか…今ではない、そんな気がバンブーメモリーからはする。ただ、晩成という感じもしない。
うーん、しかしどうやってこんな馬で前の世界の竹豊は勝てたのか本当に不思議だ。いや、勝利のビジョンを感じれないということが前の竹豊に劣っているということを指し示しているのかもしれない。
だけど、なんかこう…何とかしたらいける気もしない訳ではない。
ダートコースで走らせてみても、並大抵よりは走る、というか真面目に頑張って走ってくれるのもあって強いは強い。
だけどG1級の強さ…という訳ではない。何かが足りない、そう思わざるを得ない。
サッカーボーイもスーパークリークも、G1を勝利してきた馬からはやはり勝利のビジョンが見える。厩舎巡りで見てきた牝馬二冠のマックスビューティでもそれは同じだし、先ほど騎乗を依頼されたシヨノロマンも3頭とは違いビジョンがはっきりと見えた訳ではないが見えるのは見える。なのに、バンブーメモリーだけは違う。何か違う。
晩成という訳ではなさそうだけれども、こう…うーん、何か言い表せないけれど今じゃない。
「どうや、豊?ええ馬やろ?プレゼンやけど喜んでくれたか?」
「うん、良い馬や。ただ、なんか…いや親父、ちょっとええか?」
「どしたんや豊?」
「バンブーメモリーさ、なんかおかしいと感じへんか?」
そんな言葉を言うと、親父は少し驚いたと同時に悪戯が成功したような顔をし出した。
子供の頃に、酷い悪戯をした時のあの顔と全く一緒だったような気がする。
「ほぉん、豊。それが分かるんか…俺がちょっと一人前のジョッキーになれたなと思った時でもそんなことは気づかへんかったで。」
「………?
「んー、それはやなぁ…まぁ教えへんとくわ。」
「それはないて、親父。教えてくれや〜。」
「乗ってたら分かる、自然とな。」
どうやら何かがバンブーメモリーにあるのは確かなのだが、親父はそれを教えてくれることはあらへんかった。考えても、考えてみても何も思いつかない。
親父も気づいたのは、若くなかった時って言うしなんとなく難しい答えなんやろうけど本当に一体なんなんかは分からへんなぁ。だけどこの答えを前の竹豊は自力で導けた、というかまずおかしいと疑問もなしに答えれたってことが僕と彼との違いだろうか。競馬界のレジェンドは未来の知識を持つよりすごい才能を持ってやがる。
竹田厩舎に戻ってパイプ椅子に馬乗りのように座りながらまた考え込んでしまう。この問題の回答を知りたいという気持ちはあるが、それよりこの問題を自力で解きたいという気持ちの方が上回る。
だから川内先輩や、竹田先生にも聞きたくはない。そんな風にグラグラと椅子を動かしながら、考え込んでいると厩舎の電話が鳴り響いた。
ちょうどいたのは僕だけだったから電話を取った。右手にペンを持ちながら、厩舎にとって大事なことだったら書き記そうかと考えていると知っている人からの電話だった。
「豊くん…かい?」
「…もしかして佐藤先生ですか?」
「そうだよ、佐藤だよ。実は豊くんに話すことがあって。」
「もしかしてサッカーボーイの次走とかですか?」
「あぁ、その通りだよ。サッカーボーイの次走なんだけどね、9月27日の函館三歳Sに出ることになったんだ。」
函館三歳Sといえば、前走と同じ1200か。前走は新馬戦だったから、勝てたけれど今回は重賞ともなる。
少しというか心配になってしまう。今まで重賞はずっと二着に終わっている。どの馬も強かったかと言われたら、そうではなかったから負けても精神的には安心する所があったがサッカーボーイだとそうではない。
サッカーボーイは確かこの函館三歳Sで負けたはずだ。恐らく、その距離故に負けてそしてスプリントで戦うには遅い馬だ。いや本来は速い馬だけどサッカーボーイの蹄がスプリントを拒絶してしまう。
そしてここで負けたら僕は鞍上を下ろされてしまう。負ける可能性が多い中で、勝たなければいけない。
「………次走は変えれない感じですか?」
「うん、変えれないよ。でもサッカーボーイのポテンシャルと豊くんの才能さえあれば勝てると思うんだ。」
そのポテンシャルを十分に引き出せないことが一番の問題だ。しかし、それをやらなければいけない。
正に矛盾としか言いようがない。本当に無茶ばっか言ってくる…
「分かりました、なんとか頑張ります。」
「それなら電話切るね。」
あぁ、マジでどうしようか、どうしたら勝てるのだろうか。
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