競馬界のレジェンドになったら…   作:展開郎

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【訂正】

サニースワローが牝馬かのように書きましたが、サニースワローは牡馬であるため一部表現を変更しました。

【訂正】



前回の投稿が11月だということに、信じられない著者です。
本当にお久しぶりです。恐らくですが、これを読んでいるということはお気に入り小説リストの一番上かその下ぐらいに表示されている謎の小説をタップしてここに来たことでしょう。

まっこと、申し訳ございません(ダイビング土下座っ!!)

いや、本当に…こう…色々あったんですよ!!

ま…まぁ、とりあえず、十九話をどうぞ!!


第十九話 新聞はお読みに?

皐月賞といえば弥生賞、日本ダービーといえばNHK杯か青葉賞、そして菊花賞といえば神戸新聞杯である。そう、今挙げたのはG1競走とそれに関わるトライアルレースである。

このトライアルレースは時代によっては様々である。例えば皐月賞のトライアルレースをスプリングステークスという人もいれば、日本ダービーのトライアルレースを青葉賞という人もいれば、菊花賞のトライアルレースをセントライト記念という人もいるだろう。そしてトライアルレースとは、そのレースを一〜三着以内だと対応するG1競走の優先出走権を手にすることができるのだ。

だからこそ、有力馬はこぞって出走したがる。さてそんな、トライアルレースで個人的に好きなトライアルレースがある。それが“京都新聞杯”である。

京都新聞杯を、ある中年の人が聞けば、菊花賞のことを。ある若者に聞けば、日本ダービーのことを語るだろう。さて、この両者の意見はどちらかが間違っているように感じるが間違ってはいない。

京都新聞杯というレースは元々、菊花賞のトライアルレースとして設立されていた。神戸新聞杯と京都新聞杯の両方のトライアルレースを出走する馬もあり、両方とも勝利した馬といえばマチカネフクキタルやミホノブルボンだろう。しかし菊花賞の施行日が変わったことによりトライアルレースから外され、5月に移動した。距離は縮小はしたが、出走条件は変わらなかった。時期変更によるおかげで京都新聞杯は一番格式高いレース、日本ダービーに出走する馬のための前哨戦や出走条件の足掛かりとなる最終便的な立場になった。

日本ダービーにもトライアルレースとして青葉賞があるが施工距離は京都新聞杯が2200に対して、2400となっていて京都新聞杯の勝ち馬は2200と2400の連戦に対して、青葉賞馬は2400の連戦となっていて京都新聞杯からはダービー馬が出ても、青葉賞からは未だダービー馬は輩出されていない。決して青葉賞馬が弱いことはなく、シンボリクリスエスやゼンノロブロイ、フェノーメノなど名馬も輩出している。さて、そんな京都新聞杯に僕はレオテンザンで出走する。

 

「はぁ…やっぱり落ち着かない。」

 

愚痴を自分以外いない調整ルームでぼやく。今日という日まで準備はしてきたものの、レース前日ともなるとやはり緊張する。

まだ早朝、何もやることもない。ただ、朝ごはんを食べてシャワーを浴びるだけしかない。今日は8レースも乗りながら、その中で重賞を勝たなければならない。本当に騎手というのは激務なように感じる。そんなたくさんのレースを乗って勝っていたからこそ竹豊は日本競馬界の至宝と言われたんだろうな。

レオテンザンはひょっとしたら負ける、気を一瞬でも抜いたら負ける。それは最初から分かっていた、何故ならあの馬からはビジョンがほんの微かしか浮かばなかったからだ。サッカーボーイにしろ、スーパークリークにしろ、マティリアルにしても強い馬というのは乗ってみたり、触ってみたり、はたまた見てみるだけで勝利へのビジョンが思い浮かぶ。しかしレオテンザンは弱い、決して貶すために言っているのではなく事実を提示した。だからこそ、僕の能力をフルに活用して勝たせないといけない。今は朝の五時、まだまだ眠れる時間だというのに眠れない。トウカイローマンのときとは違う感覚がする…最初のうちは勝つことが当たり前だと思っていたが、今は逆のように感じる。勝つことがプレッシャー…とまではいかないが精神的にしんどい気がする。それも重賞ともなれば、なおさらのように感じた。だけど、しんどくてもこれが自分の天職だというのは分かっている。なぜならしんどくもあるし、楽しくもあるんだから。

 

 

 

 

 

 

『十月になって、この京都の舞台に冷たい風と共に最後のクラシックの風が吹き込んできます。第35回京都新聞杯、菊花賞トライアルです。さぁ、クラシックの風を悠々と漂わす12頭が入場します。』

 

 

『関西全連対の実績は、ここでも現れる。一枠一番ラッキーオーシャンと荻窪幸雄。』

 

 

『あざみの走りは幻などではない、それを今こそ示せ。二枠二番ダイイチボーイと南伊克巳。』

 

 

『2200の連戦、されど名馬は勝つ。三枠三番ベルグマイスターと田山良保。』

 

 

『父と同じ道を辿るためにも、ここを勝ちたい。四枠四番ホリノグリーンと田山信行。』

 

 

『青葉賞二着、ダービー五着の実力は侮れない。五枠五番チョウカイデュールと川内洋。』

 

 

『三歳阪神の王者、再び関西で金色のメダルを手に入れるか。五枠六番ゴールドシチーと猿棟重利。』

 

 

『函館の苦闘は何者にも変えれないものとなったはず。六枠七番ミリオンキャスパーと浜田達也。』

 

 

『三歳のマイル王がまずは先手を打つ。六枠八番ユーワジェームスと高田富男。』

 

 

『おのおの方、油断めさるな、なんといってもダービー二着。七枠九番サニースワローと小西直宏。』

 

 

『ダービー三着、一番人気のこの馬が再び天才を鞍上に現れた。七枠十番ニホンピロマーチと多原成貴。』

 

 

『関西初出走でも勝ってみせる、それがジャックの望み。八枠十一番ジャックボーイと町元善之。』

 

 

『若き天才との初タッグ、京都大賞典と続いて淀のレースを勝てるか。八枠十二番レオテンザンと竹豊。』

 

 

返し馬は…何も問題ない。レオテンザンと勝てるかどうか、少し心配だったが問題はなさそうだ。キャンターも上手くいっている。

あとは僕のコンディションさえ、順調なら問題はないはずだ。朝から散々悩んで、レースを何回も走りながら分かった。勝てるビジョンが思いつく。このレースは勝てる、それが頭の中で何度も反響する。

輪乗りの最中だが、他の馬を見てもやはり勝てると思える。慢心とかではない…とは思う。僕たちは折り合いがもうついているが、ゴールドシチーやニホンピロマーチとかは少し荒れている。だけど、このレースは勝つための障害があるように見えない。ただ、あるとすれば本当に僕次第だ。

 

 

『さぁ、各馬ゲートインが始まりました。まずは奇数枠の馬から…っと、ゴールドシチーが少しゲート入りを拒みましたが…なんとか入ったようです。』

 

 

『偶数枠も順調に入りまして、最後は大外枠のレオテンザンが入ります。』

 

 

『間も無くレース発走します。』

 

 

 

 

 

 

今、竹豊は集中している。それはサッカーボーイの函館三歳Sよりも、トウカイローマンの京都大賞典よりも集中している。

彼は、ある一つの賭けをしている。それは側から見れば、“ズル”と言われてもしょうがないことである。しかし、それこそがレオテンザンを勝たせる方法であり、竹豊が持つセンスが光る小手先の技術でもある。

勿論、それが出来なくても大丈夫なように代替の作戦案もある。しかし、恐らくこの賭けが成立さえすればレオテンザンが勝つ確率は代替案よりも更に上がる。このレース唯一の懸念点のために、万全を期していた。だが、それでも竹豊は緊張していた。そのせいか、無意識的に鞭を小さめにクルクル回している。

声援のせいか、音が聞こえないこの京都競馬場に微かな金属音が聞こえる。芝を踏みつける蹄鉄の音が、どこか楽器のように聞こえる。金属が持つ冷たさによって冷静になり、馬が持つ暖かさによって闘志を燃やす。もう竹豊は恐れなどない、今はただこの数分が彼にとっては長い時間になる。

 

「(光が見えない…まだ見えない)」

 

ゲートの作動音が聞こえる、しかしまだその隙間は閉ざされたままだ。竹豊はスローモーションのような世界の中で、そう思う。俗に言うフローに入ったわけでも無く、刹那の瞬間の中で自分の思い通りにゆったりと遅くさせていた。タイミングを見計らうためにも、彼の視界はどんどんと遅くなり色は黒ずんでいきモノクロ調になっていく。まだ視界を照らす光は隙間からは見えない。コンマ一秒ですら、彼には1時間を超えるような感覚にさせる。

だから竹豊はスタート出来なかった。そう、まだスタート出来ない。

まだ開かない、だからこそ()()()()()()()()()()()()()

彼は恐れないし、過信しない。今彼の胸に秘められたのは勇気などというものではなく、覚悟がそこにあった。

 

「(手綱はしっかり握った。鞭はしっかりある。ゴーグルも問題なし。)」

 

では逃げの最大のメリットを答えよう。それは—————————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゲートが開いて、スタートを切りま、、おおっと!!??レオテンザンが好スタート、ぽぉんと出て他馬を、一馬身、二馬身、差をつけて一気に先頭に躍り出ます。』

 

 

 

————————自分がレースを支配できるからだ。

 

 

 

 

 

 

京都競馬場 第11R京都新聞杯(GⅡ) 芝2200・右 芝:良 ダ:良

 

よぉぉっっし!!

 

 

スタートが決められた!!

 

 

これさえ決まれば後は勝ったも同然だ。すこし姿勢が崩れて、想定よりは少し距離を離せてはいないが十分な距離がある。

大外枠というのは本来、競馬のレースにおいては入りたくない枠である。それは内枠の馬との走る距離が増えてしまうことにある。

だが大外枠であっても不利ではない理由はたくさんある。今回の場合は誰もレオテンザンを包み込む馬はいない、ゆっくりと自然に前に出れて逃げることができる。スタートダッシュと大外枠、これら二つの要因が重なりさえすれば馬群に包まれて“前が壁”みたいな状況にはならない。

結局のところ、レオテンザンという馬は普通に逃げてもこのレースは勝てる。しかし次のレース、菊花賞では勝てはしない。それは単純な力量差、すなわち逃げであるが故に差しや追い込みには勝てない。

確かに逃げというのは自由に他の馬に左右されない走りが出来る。しかし、逃げ馬というのは常に全速力で走るという馬にとってハードな戦術でもある。だからこそ、ほんの少しでも和らげるためにスタートダッシュを極めることが必要不可欠だ。自分のセンスに全部頼る戦術ではあるが、レオテンザンにはそれでいい。

レオテンザンは素朴な馬だ。名馬とは正直言えない。どこかぼんやりとした印象がある馬だ。

だけどこのレオテンザンという馬は乗り手に左右される馬だ。素朴…すなわち自然が故にジョッキーによって見せる姿が変わる。自分の能力をまるで鏡写しにさせるような能力だ。正確に言えば、僕らの乗り方に合わせにいっているのだが…

地の底まで走れるスタミナがあるわけでも、天まで翔るスピードがあるわけでもない。ただ、小手先のテクニックという点において他の能力より突出している。

少し後ろを見ると、他のジョッキーたちは驚いている顔で見ている。そりゃ、そうだ。何故なら、この戦術の対応策なんてみんながグルで潰しにいく以外不可能だからな。スタートダッシュだけは邪魔なんてしようがない、出来るとすればゲートぐらいだ。

 

『中から、レオテンザンを見る形でベルグマイスターが前に出ます。その後ろ一馬身あきまして内にホリノグリーン、その外にユーワジェームスとニホンピロエースが横並びと並んでおります。最内に入ったラッキーオーシャンは、』

 

ユーワジェームスとニホンピロエースが前めについてるのか…どっちもかなり厄介ではあるが、どうにか出来ないということはない。ニホンピロエースはダービー三着、ユーワジェームスは後の菊花賞と有馬記念の二着馬だ。だが、この2頭は恐れる必要はない。

 

 

 

 

何故なら——————『ボキッ』

 

 

 

 

…ん?い、今なんか変な音がした。いや、レオテンザンの馬体に故障はない。ならば一体何が…。

 

『っと、とっ、一頭落馬しました。おっと危ない、えぇ、七番のミリオンキャスパーが故障したようです。』

 

へ、変な音は落馬の音か。後ろを少し振り返ってみるが…ミリオンキャスパーが故障で、原因は恐らくゴールドシチーの斜行だろうか…ゲート入り前から気性が荒かったがまさかこんなことになるとは。ゴールドシチーは元から要注意の馬には入ってなかったが、これで今からこのレースは12頭立てから10頭立てに変わった。

ニホンピロマーチとゴールドシチーを懸念しない理由は、神戸新聞杯で負けたからだ。僕が()()()()神戸新聞杯で乗って戦ったニホンピロエースとゴールドシチーは二冠牝馬マックスビューティのもとに惨敗した。決してマックスビューティが弱いなんてことはない。間違いなく三冠馬になれると思う素質馬だと思っている。それは去年のメジロラモーヌと引けを取らない素質だ。

 

ではなぜ負けたのが理由か。まずゴールドシチーの理由としては二つあり、一つは乗り替わりであること。元々デビュー戦から乗っていた松田騎手から猿棟騎手に神戸新聞杯では乗り替わった。元からゴールドシチーは気性が荒い馬で有名で、神戸新聞杯で乗り替わった時に僕は注意深く見ていたがレースでは制御するだけで手一杯という様子で勝負を仕掛けれるものではなかった。そして二つ目は三着の内容である。神戸新聞杯の勝ち馬は先から述べているマックスビューティだが二着の馬は()()のヒデリュウオーだった。ゴールドシチーは終始三番手を保持したままで、捉えきれずゴールした。これは僕のレオテンザンでも同じ結果が、いやそれ以上の結果になる。連戦のゴールドシチーに比べて、レオテンザンが負ける訳はない。

次のニホンピロマーチに関してだが、父のアローエクスプレスと恐らく同じではある早熟な馬であることだ。今ここで早熟か晩成かどっちがいいかの論争はしないが、早熟は早熟でもニホンピロマーチは能力に上昇傾向はなく停滞気味…あるいは衰え出していることにある。神戸新聞杯では主戦騎手の多原さんがニホンピロマーチではなく、マックスビューティに乗っていたからなのか七着、ブービーという結果だった。それは乗り替わりどころや、マックスビューティがいるどころの問題ではない惨敗だった。

レオテンザンの夏の成長の分も合わせれば、十二分に勝てる。だが例外のパターンが2つある。一つはニホンピロエースと多原さんの相性が良く本当の力が隠されているケース、もう一つはゴールドシチーがぐいぐい展開など気にせず前に来るケースだったのだが、そのゴールドシチーは斜行で恐らく失格処分になる筈だ。そしてニホンピロマーチは目の前に馬が置けてない…馬が目の前にいなければ、邪魔をする存在がいないから良いわけではない。差し切るための脚を溜めることが出来なくなる。実際に後ろを見ても、多原さんが頑張って馬を前に置きたくてもみんながそうしない、そうさせない。一番人気のニホンピロエースが勝てないように。

 

 

『2コーナーから向正面に入って先頭は、好スタートのレオテンザンが先行集団を五馬身から六馬身の差をつけて逃げています。二番手の位置にベルグマイスター、外から四番のホリノグリーンその後ろに三頭が固まっています。外からニホンピロマーチ、そして中からはユーワジェームスが上がろうとしています。そのあとは差が少し開いてラッキーオーシャンがいます。』

 

かなり、差は開けた。目測で五馬身ぐらいなら()()()()()()だ。ここまで、レオテンザンとの折り合いは大丈夫、発汗もそんなにない、これならまだまだ逃げれる、最悪粘ってでもゴール出来る。だけど、何故が背筋がゾワゾワする。今まで感じたことがないレベルの悪寒がする。別に寒いとかではなく、足がさっきからヒクヒクしている。いや、なんとなく分かっている。こんなこと

 

しかしそんな二頭より実を言うと怖い馬が一頭だけいる。僕だから知っている怖さだ。一番何を考えているかが分からない。ある意味、もう一人の天才がいる。僕と多原さんと、そして—————————

 

 

『その後ろ、半馬身開きましてゴールドシチー。外を突いてサニースワローが中団から、先行集団を狙いに行きます。』

 

スピードを上げてきたかっ!!

やはり小西さん…何かが()()()!!あのサニーブライアンの小西さんなら、何か秘策が…いや()()がある。だから、今ここで追い上げを始めているっ!!

そうだ、そもそもダービーで22番人気で二着に来た伏兵が、同じような低人気のこのレースで何もないはずがない。遥か昔の、フルゲートが18頭どころか24頭も走るダービーで二着なんてイレギュラーすぎる。

そこにあるのは、フロックじゃない。サニーブライアンのダービーのように何かが()()()!!

 

 

今の小西さんは、多原さんより怖いっ!!未来のことを知ってる僕だからこそ、恐れているっ!!

みんながニホンピロマーチやゴールドシチーやユーワジェームスを恐れている中、俺だけがサニースワローを恐れていた。勝利のビジョンを考える時にもあのコンビがどうしても邪魔で仕方がなかった。

 

「デカいな…」

 

つい言葉が溢れてしまった。京都大賞典でも味わった筈なのに、この淀の坂が大きく感じる。クラシック限定重賞だからこそのプレッシャーなのか、孤独な逃げゆえにそう感じてしまうのか、もしくは小西さんが怖いからなのかは分からない。上がりはゆっくり、下りもゆっくりというのが鉄則だというのは騎手になってから一番実感することだ。

 

『縦長の展開となって、五馬身開いてジャックボーイがいて、またさらに四から五馬身差が開いてチョウカイデュール。そして最後方にポンっと一頭ここにダイイチボーイがいます。これから第三コーナーの上りに入るところですが、依然先頭は好スタートのレオテンザンと竹豊。レオテンザンが先頭で三馬身から四馬身、差をとっています。』

 

淀の坂、それを登り出すと唐突に僕の体にとてつもない重さがのし掛かる。中山競馬場の坂がこれよりもっとキツいと考えると、泣けてきそうだが乗り越えれない訳ではない。そして先行集団との差を開きつつも、坂を登る。ゆっくり登りながら、速めに走る。矛盾してるようだが、それを手綱で無理やり制御する。レオテンザンはそれに対して、しっかり付いて来てくれる。

何も問題はない。レオテンザンと僕には何の問題もない、あとはサニースワローがどこまで来るか…それが問題だ。どう考えても、このレースの運命は僕と小西さんの手の中に入った。両方とも、低人気で一番人気のニホンピロエースはまだ中団…皆一様にあとは自分が動くだけと考えているけど、もうその時点で土俵の外の外だ。

 

やはりダービー二着の馬は末恐ろしい。

やはり、二冠馬サニーブライアンの近縁というだけはある。

 

後ろを少しばかり、チラッと見るが一切脚を溜めることもせず…いやスパートを開始してこっちにどんどん向かってきている。誰もサニースワローの前に出ないから、どんどん上がってくる。いつのまにか貯めた脚にみんなは気づかない。というより、気付けない。

ダービー二着はフロックだという先入観は判断を誤らせる。ダービーの後の中日スポーツ賞は人気に反する大敗だったが、セントライト記念は八番人気からの四着…側から見れば気性による好不調の波が激しいように思うが、馬体重という観点で見れば勝因と敗因が同時に分かる。ダービーが472、中日スポーツ賞が480、セントライト記念が474、こう見てみると馬体重が大きかった中スポ賞のときは大敗、ある程度絞れたセントライト記念は四着、そしてそれより絞ったダービーは二着…そして今回の馬体重は460ときた。末恐ろしい…末恐ろしい。

 

 

…恐ろしい。

 

 

…恐ろしい?

 

 

…恐ろしいだとっ!!??

 

だっ、駄目だっ!!

そんなことは頭から叩き出さないと。

落ち着け、僕。落ち着け、竹豊。

大丈夫だ。ペースは順調、急ぎすぎても、遅すぎてもない。予定通りのペースで脚を運べてる筈。下り坂までもう少し、何も怖くはない。

サニースワローが僕の予想以上じゃない限り、問題にはならないはずだ。どうしても小西さんがあの馬に乗っているというだけで…ついつい考えてしまう。最悪のパターンを…

 

さぁ、もうそろそろで下り坂。そしてコーナーも来る、手前を左から右に変えて…少し後ろを見てみる。

後ろを見てみるが、僕と馬群の間に1〜2馬身差がある。あとはサニースワローはどんどん上がっていってる。前半は綺麗に馬群の後ろで脚をためて、向正面からは少しずつ上がってくきている。なんとも、綺麗な理想系のような騎乗だ。

それを真っ向正面から潰さなければいけない。

…だというのに、何かおかしい。

 

『さぁ、下りにかかるというところで依然先頭、レオテンザン。二番手は一馬身開いてベルグマイスター、半馬身開いて外からはホリノグリーン。そしてその内を突いて、サニースワローがここにいます。三馬身開いてユーワジェームズ、それを見る形で外にニホンピロマーチがいます。ゴールドシチーも二頭の背後にいる状態、人気の各馬はちょうど中段にいる形で、やや縦長の展開になっています。まもなく、第四コーナーのカーブです。』

 

 

 

 

 

お、おかしい。上り坂が終わって、レース終盤に入った。

だけど、全然終わりが分からない。体内時計はちゃんと進んでる。

確実に前へ、前へと進んでる。

我慢するのは、もう少しだけ。もう少しだけなんだ。だというのに、我慢ができない。

頭中が汗だらけで、何もかも投げ出したくなる。

 

 

「…っくん…は、は、はぁ…」

 

 

足腰がどうにもならない。我慢するだけなんや、我慢…我慢…喉の奥から吐き出したい。

いっ、意味が分からん。楽観的に一切、考えられない。どうしてもサニースワローが差すイメージが浮かんでしまう。

背中に蛆虫が湧くみたいにウズ痒い。何をどんだけ考えても、終わりが見えない…

泥まみれになったゴーグルを外す手は進んでる。だというのに世界は進まない。外すどころか、ゴーグルの下にセットしている次のゴーグルからクリアになった視界を意識出来てるのに何も起きない。

 

 

「んっ、…はぁ…はっ、はぁ…」

 

 

こんなことは初めてだ。今までにこんなことはなかった。

トウカイローマンでも、スーパークリークでも、サッカーボーイでもこんなことなんて無かった。

緊張なんかは当たり前にしてたし、かといって慢心したわけなんかはない。

なのに、馬に跨ってる姿勢が変にぎこちなくなってくる。レオテンザンが一番走りやすくさせているポーズから、少しずつ狂い始めている。

前傾姿勢のはずが、どんどん腰が真っ直ぐになっていってしまいそうだ。

まだだ、もう少しだけ我慢や自分。体制をなるべく変えたらダメだっ!!

 

 

 

「頑張れ、…ハァ…レオテンザンっ…」

 

 

まだだ、まだなんだ。

 

 

ラチに沿って

 

 

走りさえ…

 

 

走りさえ…

 

 

すれば何の問題もないんだ。

 

 

手綱を…爪が掌にめり込むまで…

 

 

ふり絞る————————————————

 

 

 

 

 

「……ちく…しょう。」

 

 

外に…膨れたっ…!!

しょうがない…少し伸びたといってもレオテンザンの能力的にはいけるはずだっ!!

 

 

『さぁ、先頭は少し開いてレオテンザンでありますが、外から一気にベルグマイスター突いてきます。ベルグマイスター、ベルグマイスターが差を詰めて4コーナーから最後の直線コースに向きましたっ!

 

 

更に最内から今度は突っ込んできたのはサニースワロー、サニースワローでありますっ!!』

 

 

やっぱし、()()を狙っていたかっ!!

この京都競馬場は外回りと内回りの合流地点、僅かではないがラチが無くなるっ!!

G1のフルゲートのレースだったらギリギリのタイミングで1頭が捩じ込んで通れるか五分五分の道だが、今回は訳が違う。このレースはG2、なおかつ開催四日目の荒れた内、そして有力各馬は後方に付いている。となると、サニースワローは誰の邪魔なく最短でゴールを目指せる。

ラチ沿いを譲りさえしなければ、こんなことにはならなかった!!

直線残り400mだというのに、どんどんサニースワローはこっちに向かって来ている。あんなに、稼いだ距離が食い潰されていく。だからといってレオテンザンが勝てない訳やない。

本当に残りは根性で、サニースワローの前を維持するしかないっ!!

 

 

『更にはゴールドシチーあたりも中から突っ込んで参りましたっ。』

 

 

しょうがない、斜行にはならない程度にラチ沿いに戻るしかない。鞭を打ちつつ、ラチにもたれないようにレオテンザンを上手くコントロールする。

後ろを振り返るが、ラッキーオーシャンもニホンピロマーチも脚が届かない。ベルグマイスターはずるずると下がっている。やはりサニースワロー、ダービー二着は強い。

 

 

『さぁ、先頭はレオテンザンか、レオテンザンか。サニースワローか、サニースワローかっ!?』

 

 

最内に潜り込んで、サニースワローを外に出した…

出したというのに、スピードは衰えない。それどころか徐々にどころじゃない…一気に脚の回転数がもっと上がっている。他馬とは四馬身ぐらい差が空いてるというのに、サニースワローを振り切れない。

鞭で叩いても、サニースワローと違って格段に速度が上がるなんてない。

本当の本当に、これは根性の戦いだ。

もっと…もっと、レオテンザンが走れるように。

そう、レオテンザンがサニースワローを楽に勝てるような…

少しずつ、体勢を…レオテンザンが走りたがるようにっ!!

願うみたいに、体を馬に預けているみたいに。

 

「はぁ…はぁ…はぁっ!!」『ベチんっ、ベチんっ!!』

 

 

小西さんの声が聞こえる距離まで縮まった。

レオテンザンとサニースワローの距離が残り僅かになった。後ろを見なくても感覚でそこにいるのが分かるところまで来た。

勝てるかとどうか分からない…だから恐ろしい。けど、それとは逆の()()()が不思議と体中を流れていく。たった、2分と数秒となるレースでここまで感情が揺さぶられる。

凄く詩人になったような感覚がする。ゴーグルが泥まみれで、次のゴーグルに変えなければいけないのに変える気にならなかった。

 

 

『ニホンピロマーチがようやく大外から伸びてまいりますが、先頭はレオテンザン。レオテンザンが先頭っ』

 

 

差は縮まった…それは事実だ。サニースワローの脚はレオテンザンを捕えようと駆け抜けている。

そして並び掛けようとしている。それも事実だ。小西さんが必死に鞭を叩いている。

 

だけど、()()()()()()()()()()()

ここまで来た。ここまで来たんだから、残りは馬と僕との精神勝負。それなら負けることはないっ!!

 

 

『そしてサニースワローが追い詰めるっ!!だがレオテンザンが逃げ切ってゴールインっ!!竹豊、二週連続重賞制覇っ!!天晴れな逃げ切り勝ちです。一着レオテンザン、二着にサニースワロー…そして三着はラッキーオーシャンでございます。』

 

 

「勝った…勝ったんだ…これで菊花賞は行けるっ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……豊くんには本当に申し訳ないなぁ。」

 

 

月が雲に隠れる夜の中、眼鏡を掛けた老紳士は一人独白する。

 

 

「君になら託してみたいと思ったんだ。」

 

 

窓を見上げながら、いやその奥の宙に輝くものを見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()を…もう一度蘇らせて欲しい。」

 

 

 




『夜火  Rudel raingotto hisagi 紅月ーアカツキ 柚子茶 あい216 koda0402 天翔 ねむち たぬき poo 大富豪 ヘイトリッド 昼月2022 あああんあん kanase ジャコの助 色龍一刻 hoikita ヴェル ラピス777 しろいこ 陽灯 明日雨 testtype55 gakigakikun 足軽 あかさなは seto617 狐狗狸堂 治綱』さん、お気に入り登録ありがとうございます。

そして、お気に入り登録とか評価してたのに全然投稿してなくて、本当に皆様申し訳ございませんっ!!

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