競馬界のレジェンドになったら…   作:展開郎

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第二話 情けは人のためならず、良い報いは返って来るのか?

駅を出てもやはり景色は変わらない。どこか昭和チックなこの世界観は永遠に地平線の彼方まで恐らく続いている。駅から出る時も人があの便利な自動改札などはなく、人の手によって切符を回収していた。確かああ言うのをモギリと言うんだったか忘れてしまった。というよりそんな大した事を考えられないほど切羽詰まっている。

自分が、いた世界ではない世界にいることに気づき恐怖心とも言うべきか焦りの心が湧き上がって来る。とりあえず見知らぬ世界に飛ばされたと言ってもまだ日本で良かった。

巷で有名な異世界転生とやらではなくて、本当に安心だ。日本は世界有数の治安が良い国だし命の危機に瀕することは、そうそうないだろう。

しょうがないまずは情報探しでもしよう。いつの日本に俺はいるのかを。

 

 

多少淀駅周辺は変わってはいるが、2023年と同じ商店街がずらっと並んでいる。

今度は悲しく感じる、自分のいた世界とは違う所にいる孤独感に心が蝕まれる。

それと同時にではあるがもう一つ蝕むものがある、それは寒さである。

確か自分が元の世界にいた頃は11月で寒さ七割、涼しさ三割といった感じだったのがこの世界では半々に感じられる。一応長袖を来ていたから大丈夫ではあるがもう少しで歯をガタガタさせたくなるものだ。

そうこうして、ちらほら歩いていると風が何かを運んできてくれたようだった。

 

ふむふむ、どうやらまだ新めの新聞…競馬新聞だ。

 

「ハ、ハハ…ははっ。」

 

乾いた笑いしか出てこなかった。テレビ番組とかである『ドッキリ大成功』などと言った文字が書いてあるから笑った訳ではない。

もう本当にどうしようもないと言うことが分かったから笑ってしまったのだ。意味も分からず笑ってしまっていた。ある種の諦めが含まれた笑である。微苦笑と言ったやつであろあうか。

いや微たることでは断じてない。何故なら新聞には1977年の2月と書かれていた。その瞬間に完全に理解したさ、自分は完全に別の世界にいることを。

そもそも子供になっていた時点で分かっていた事ではあったけれど、夢の筈だと信じていた微かな希望も踏み潰された。

そんな希望を潰された反発か無心に新聞をくちゃくちゃに丸めて破り捨てそれを上に舞い上げさせた。紙吹雪みたいに思える、それは紙吹雪と違って祝っているものではない。

ただこの叫びたくなりそうな、体を引きちぎりたくなる様な心象が現実にまで投影された結果である。

 

「………〜い、………君。」

 

右ポケットにはサイフと言っても、中にはやはり見たことのない硬貨と紙幣。嫌でも自分がタイムスリップさせた事を見せつけられるものが入ってある。

とりあえず競馬場にでもいってレースを見てから今後のことは考えよう。もう自分が自分ではない何者かになっているのだから。

とはいえ、僕は子供である。おおよそ保護者の誰かはいる筈なのだが、その存在というのは分かっていたらよかったのだがそんなありがたいことが起きている訳はない。

 

「ねぇ〜ってば、か君。お〜い!!!」

 

その爆音に俺の鼓膜は破けたかのような幻覚を見せるほど痛みを発してしまった。なお幻覚と分かるようにちゃんと音は聞こえる。そこまで人体というものは柔に造られてないことが分かる。

しかし急に話かけられて来たこの餓鬼は一体誰なんだ?拳の一発でも喰らわせようと思ったその瞬間、心で思っていただけなのに拳が出てしまった。

 

「お前、この野郎っ!!耳元で大声出すなよトシちゃん。」

 

「だっ、だってユタカくんだって声を掛けてもうんともすんとも反応しないじゃないか。」

 

今、自分は会話していない。いや何を言っているか自分ですら分からないんだが本当に俺は話しかけていない。口が勝手に喋りかけていた、拳が出てしまったのと同じように。

そして勝手に喋っている最中に俺は新しい俺が一体何者かを知ってしまった。いやというより先ほどまでは絶望に落ちていたのが急に後ろにジェットパックがついて天にまで登るような幸せ、絶好感を感じれる。

俺が成り変わったのはまさか、まさかの人物だった。

その人物は、日本競馬界の至宝でJCRA最多勝利騎手で騎手大賞を何度も受賞した

 

 

あの、!

 

 

あの、

 

 

あのっ!!

 

 

()()くんはほんまに変やな〜。」

 

竹豊だったのだっ!!競馬を知らなくても知ってる騎手と言えば竹豊と言われるほどの騎手である。急に知ってしまった自分の正体に興奮している。

そして今俺と喋っているこの人物も知っている、というか有名なあの調教師だ。

栗毛の暴君、オルフェーヴルやその全兄であるドリームジャーニー、今となっては大馬主となった里野納の初G1馬となったサトノダイヤモンドなどを管理した沼江泰利だ。

これは競馬ファンいや、オタクにとっては鼻息荒らしたくなるような状況である。いやぁ、本当に凄い。前の俺がなんだ、今の俺が絶対的に良いに決まっている。

 

「あ、何言ってんだよお前。僕は変じゃないさ。大体変なのはお前の方さ。野球だろうとサッカーだろうとなんでも完璧にこなす俺の何がおかしいって言うんだい。」

 

「へぇ〜、そっかじゃあ今度女の子たちにユタカは自転車乗れないって言わないとなぁ。」

 

「ちょっ、おま、それは言わない約束だろぉっ!!」

 

まるで自分のことかのような赤裸々な秘密に顔を真っ赤にしてしまった。いや今となっては自分なのだから恥ずかしくなる気持ちは当たり前なのかもしれない。

 

 

 

 

 

トシちゃんと喋れば喋るほど、新しい自分の存在が脳内にインプットされていく。

どんどん彼がどういう風に行動するか分かって、少しずつ彼の性格というか奥深くのものがどんどん分かったような気さえする。

しかし彼は日本のトップジョッキーである、分かったなんて大層な口は言えないので心の中の独り言としておく。

そうこう話し続けて歩いていくと見えるのは京都競馬場………と言っても自分が知っているようなピカピカの京都競馬場ではない。

そりゃタイムスリップしたし、なんと言ったってハイセイコーによる第一次競馬ブームが起きたとしても未だ競馬はギャンブルの一種と思われていた時代である。そんなギャンブルの時代からスポーツの時代に変わったのが分かるのはアイネスフウジンの日本ダービーであろうか。

 

「ねぇねぇ、ユタカくん。今日そっちの家泊まっていい?」

 

「いいけど何しに来るんだよ。」

 

「何って?……いやそりゃ遊びに行くだけなんだけど。」

 

なんともまぁ、子供っぽい理由である。そりゃ子供の頃から大人と同じ人なんてそう滅多にいない。昔は昔、今は今である。

しかし自分が竹豊か………騎手にでもなってみようかなぁ。俺の父親は“ターフの魔術師”こと竹邦彦、弟は竹幸四郎である。

そして俺の家の隣には親父と匹敵いやそれ以上の才能を持っている元祖天才ジョッキーの福長洋一がいる。周り全員殆どが騎手なのだから折角なら騎手になりたい。

それに調教師は社長で厩舎が会社みたいなものだ。厩務員を養うために頑張れるかと言えばそこまでの責任感は俺には少し足りない気がする。というか無いだろう。

 

 

競馬場の手前へと到着すると何やら恰幅の良いお爺さんと若い男の人が並んで階段を歩いているのが見える。恐らく何かしらの馬主であろう。

特に気も止めずトシちゃんと話をしよう思った瞬間に俺の脳内に危険信号が発令される。今あのおっちゃんが足を踏み出そうとしている階段には下を見ない限りでは分からない石があり恐らくあれを踏むと足を滑らせて転んで挙げ句の果てには階段を頭の真正面から受けてしまうのが想像出来てしまう。

そうと分かった瞬間に俺の体はバネの如く弾けた。子供になったから分かったのでは無い、恐らく竹豊になったからこそ分かったのだろう、今あの人が転びそうというのが。

しかし止まってと言ってももう止まれない状況になってしまった。もう足の先は石を踏んでおり重心がぐらつき出している。

こうなったらしょうがない。俺は階段の上で足が熱くて皮が破けそうな感覚のままスライディングをしておっちゃんの胸を手で止めれる所についた。

 

「うわああぁっ!!」

 

悲鳴がこの階段の所に響いた。間に合わなかったかと思ったが僕の右手と左手には確かな感触があった。目を開けるとそこには服が写っておりもう少し顔を上げてみると眼鏡をかけた男の人が目を瞑った状態でいた。

どうやらすんでのところで間に合ったようだ。少し安心したとら、隣にいた若いお兄さんが急いでやって来ておっちゃんの肩を持って立たせた。

 

 

 

 

 

「本当にありがとうだよ坊や。」

 

「いやいや僕は大したことありませんよ。」

 

「しかし私は本当に頭をパックリしてしまうほどの怪我を負ってしまうところだったよ。」

 

「そんな大袈裟なことにはなりませんよ。」

 

「うーむ、そんな君に是非ともお礼がしたいんだが、どうだろうさせてくれないだろうか?」

 

なんと先程助けた人は本当に俺に感謝の意を述べているようである。

まぁしかし僕は子供であるしお礼は丁重に断ろうと思う。

 

「いやいや構いませんよ。僕本当に大丈夫なんで。」

 

「そうか…………」

 

少ししょんぼりしたようにその場を立ち去ろうとした瞬間に何か思い付いたのかくるっと俺の顔を喜びながら見た。

 

「ねぇ坊や、競馬場に来てるって言うことは競馬好きかい?」

 

「ええ…まぁ、はい!!」

 

「それだったら騎手とかになりたいかな?」

 

「はい!!」

 

何やらおっちゃんが発した言葉に嫌な予感を感じたのかは分からないが急に隣の若い男が話に割り込んできた。

 

「ちょ、親父待てよ。まさかだとは思うけど…」

 

「いや、そのまさかだよ。ねぇ坊や何か書くものあるかい?」

 

書くものと言われて大変困った。右ポケットにある財布しかないのだから。体を隈なく探してみると、胸ポケットに何やらメモ帳があったのでそれを渡した。

するとそのおっちゃんは同じく胸ポケットから高級そうな万年筆で何かを書いていた。書き終わるとそのメモ帳を再び俺の元へと返してくれた。

 

「それを見せてくれたら私は君に強い馬をあげるという事を約束しよう。こう見えてもおっちゃん、ちょっとした馬主だからね。」

 

そう言っておっちゃんと若い男は去っていった。去っていくのを確認してから僕はメモ帳の中身を確認した。

そこにはサインが書かれており、『吉………』と書かれている。サインをあまり見ないからかなんと書かれているか一文字目しか分からない。そのサインの横には日付とちょっとした英語らしき文が書かれていた。

このサインが後々、凄いことになるとは思わず俺は胸ポケットに適当に入れてトシちゃんの方に走りながら向かったのであった。

 

 




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