競馬界のレジェンドになったら…   作:展開郎

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え?次の投稿はてっきり数ヶ月後だと思ったって?

まぁ…いや、ほら過去が過去だから、しゃあないけどさぁ。

とりま本編どぞ。


第二十二話 Shall we drive?

とりあえず僕の頭でその情報は処理しきれなかった。僕たちの隣に何故他の馬がいるか。

本来ならゴール板の鏡が僕らだけを映し出すはずなのに。

疲れ切った僕の頭にには毒より激烈なモノだった。理解できない、理解したくない、認識したくないんだその事実を。

そして同時に天皇賞(秋)は終わったんだと思うと、体が軟体生物みたいにシリウスの上にへばりつきそうになる。

僕らの目の前にいる勝ったニッポーテイオーと二着のフレッシュボイスだけが別の世界、同じ戦いの中にいたというのにも関わらず関われないみたいな感覚に少し呆然としそうになる。

あの世界が僕たちが辿りつかなきゃいけない世界だったと思うと、途端に消え失せていた悔しいと感情が戻ってくる。

茜色の空とは真逆のブルーな気持ちになる。初のデビュー戦で掲示板内、それは他の人からしてみたら凄いことなんだろうとは思う。

けれど僕は満足できない。あの二頭と二人の世界を見ると、どうしようもない屈辱感を身をもって味わせられる。

 

 

自分の中では三着と思っていたが、掲示板とターフビジョンを見るに僕の左にはレジェンドテイオーがまだ粘っていて三着を死守していたようだ。

確かにレジェンドテイオーはかなりの大逃げではあったが、映像を見てみると4コーナーの手前あたりから徐々にペースを落として掲示板入りをねらっていたみたいだ。

完全に僕がフレッシュボイスとニッポーテイオー、ダイナアクトレスにしか注目しなかったせいでレジェンドテイオーのことを見落とした。

ペースを落としているとかわったら、もう少しでも早く仕掛けるべきだったのに。そして今、レースが終わり僕は裁決委員の人たちに囲まれている。

 

「だから、何度も言ってるじゃないですか。あれは走行妨害の斜交ではありません、事実シリウスシンボリとダイナアクトレスの間には十分な間があり走行妨害だとしてダイナアクトレスがすぐさまに進路を変更すれば良い問題です。僕は外の走りやすい馬場を求めて外目に持ち出しただけです。失格行為には当たりません。」

 

「仮にそうだとして、私が後ろにいるのにそれを注意せずに前に出るは騎手の注意義務を怠っている。この時点で当該行為は失格の対象行為だ。裁決委員の方々には良識ある判断をお願いします。」

 

レース中にこのような状況が起こる可能性も考えたが、予感は的中した感じだ。

発端は直線コースでシリウスが外目に持ち出してアクトレスの前につけたことが発端となって、今となってはアクトレスがすぐさまに進路変更をしないことに疑問を持つべきだった。

前にばっか集中しすぎた結果がこれだ…

しかし、僕がどれだけ意見を述べても、丘部さんはそれに被せてくるように失格させるように裁決委員に述べている。

 

「両者、共に落ち着き給え。我々は君たちに当時の状況を語ってもらいたいだけで、要望を語ってほしいとは一言も言っていない。裁決が決まるまで各々静かにしてもらおうか。」

 

裁決委員の一人がそう言うと、ガヤガヤしていた他の関係者たちまで静かになる。この場所を今支配してるのは裁決委員だということを思い知らされる。

失格なら、例え一着であろうと何にもなしになる。最下位より更に下の扱いだ。

…無理せずに、シリウスを信じてあんなに外に出さずにダイナアクトレスに併せて、競り合いをすればよかった。

どうしてその考えをレース中に出来なかったのだろうか。

これがもう少し未来だと、失格ではなく降着処分だけで終わるというのに。

誰も彼も喋らない、ただ裁決委員たちの喋る小声だけは響く。

自分が何も介入することも出来ず、ただ待つだけ。そんな場面が僕に焦燥感を与える。

そして後悔が僕の体を押し潰そうとする。

レースとは違う…そう、親に怒られたとき以上の感覚に陥る。ここから逃げ出したくなる、人の目も気にせず逃げたくなる。みんながみんな、僕をサーカスのピエロのように見る。

ただその視線には悪意が含まれているような、そんな気がする。

確かに今まで2世騎手ということで、そんな風に見られたことはあるけれどここまで直接的な感じは今までにない。ただ間違いな沼今まで関西で感じたような雰囲気ではない。

 

「裁決委員の皆さ〜ん、まぁそんなに悩まずに…ね?頭柔らかく考えましょうよ。」

 

急に誰かが後ろからひゅうひゅうとした声で話し出した。

いやこの声の持ち主なんて一人しかいない。

 

「た、多原さん?」

 

「いや〜、豊くん。初めてのG1で興奮したから、あんな騎乗しちゃったんだね、分かるよぉ。」

 

きゅ、急にどうして喋り始めてっていうか。多原さん、ついさっきまでいなかったのにいつの間に来たんだろう。

本当に何しに来たんだろ。わざわざ、泥舟に乗りに来たというか。

 

「多原くん、先ほども言ったが静かにしてくれないと。同じ栗東所属の騎手で庇いたい気持ちもわかるが、裁決は公平にせねば。」

 

「いや皆さんが大層悩んでいらしたので、ここで私から一つ具申させていたたごうと思った所存です。」

 

そういうと、ついさっきニッポーテイオーにあと少し届かず惜敗したとは思えないほど意気揚々と語り始めようとする。

そんな多原さんと僕に対して、丘部さんは少し顔を顰めながら睨みつけてくる。

いや丘部さんだけじゃない、芝田さんや尾島さんまでこちらを冷たい目で見ているだけのように見える。

 

「今回の争点は結局のところ、彼が丘部さんのダイナアクトレスが後ろにいるにも関わらず注意せず前に出た点ですよね。馬が斜行しようとしているのを制御出来なかったわけでもなく、被害馬がレース中に大きな被害を受けたわけでもない、そして彼の言い分は勝利を狙う騎手としては納得できる。

これらの点を踏まえつつ注意を怠っただけで失格とするにはあまりにも重すぎる、ここは()()ではどうでしょう。」

 

か、戒告…それだったら特に問題はない。

戒告ならば、その名の通り注意だけで終わりレースの着順になんの変化もなく僕も騎乗停止などの期間が生じることもない。

多原さん、僕にどうしてそこまで…いや本当にありがたいです。

 

「そんなことを言い出すと思ったぞ、多原!!そんな軽いモノだと彼の成長のためにならん。こういうのは若いうちにしっかり罰を受けてねば。」

 

「そうだ、その通りだ。これは彼のためにも重い罰にすべきだ。」

 

「その意見に全く同意だ。」

 

多原さんが僕に差し出してくれた助け舟はすぐさまに、丘部さんだけではなく、今回の事件に全く関係のない別の騎手まで多原さんの案に反対意見を出している。

そんな中、多原さんはまたもやひゅうひゅうとまた話し始める。

 

「へぇ〜、それなら若くないあんた達は()()()()レースしてるのかい?自信持って言えるなら、意見を撤回しますよ。」

 

そういうと、更にこの場は沈黙で支配された。氷河期が急遽到来したような、ノストラダムスの大予言より先に地球が滅びそうな勢いだ。

それとは真逆に丘部さんは怒り心頭にこちらを睨みつける。ヘルメットでぐちゃぐちゃになった髪の毛が怒っているせいか余計に、鬼の角のようにさえ見る。

他の騎手たちも全員、苛立ちを隠せていないようだ。

時を同じくして裁決委員たちはガヤガヤと騒ぎ出し、少しの話し合いを身振り手振りを交わしながら結論を出すことになる。

 

「………それでは、裁決委員としての結論としては竹豊に戒告をするものとする。なお、本件は被害馬であるダイナアクトレスが早急に進路変更をすれば走行妨害による被害は減らせたものと判断した上での結論である。それで戒告を受ける竹豊には———————

 

 

 

 

 

 

———————多原さん、本当にっ!!ありがとうございます。」

 

「たいしたことしてないさ。私は川内に頼まれたことをやっただけだから、ほいじゃまた。」

 

助け舟を出してくれた多原さんに感謝の意を告げると、またもひゅうひゅうと視界の外に消えていった。

多原さんが消えたと同時に、今度はひゅうひゅうとは現れたわけではないが僕を呼びながらこっちに向かって来る。

というか川内兄さんが頼んでくれたんだ…なんというか、こんな時まで世話焼いてくれてありがたい。勿論助けてくれた多原さんに感謝の気持ちしかない。

 

「八重先生、お久しぶりです。」

 

「いやぁ豊くん、今日のレース…まぁ色々あるとは思うけど素晴らしいレースだった。今回のような騎乗、()()()()()()()してるから。」

 

こちらの八重先生が誰かというとレオテンザンの調教師だ。先生と会うのはマティリアルの件で美浦に寄ったときと、京都新聞杯のときだから今回で会うのは三回目になるのか。

あんまし、その時は多くを喋れなかったけど色々とレオテンザンの状態や乗り方とかの話し合いをしたりしていた。

スイフトスワロー産駒譲りである馬体の重厚はないが、均整が取れている馬体を見たときには京都新聞杯で良いとこまで行けるとは思っていたな。

 

「京都新聞杯は勝てました、この勢いで是非とも…」

 

「ハハハ、そんな無理なこと言わなくていいんだよ。とりあえず掲示板入れるよう頑張りなさいな。それじゃあ、挨拶だけしたかったから。」

 

………無理か。

まぁ確かに、G1を勝つなんてまぁ早すぎる…か。

こんなにも勝ちたいと、悔しくなるほど思うのはまだ僕には早すぎる毒なんだろうか。

今思えば、シリウスをもっと上手く乗る方法があるというのに僕は一体なんで、それを実際のレースで出来ないんだろうか。

自分のポンコツな頭をぶん殴りたくなる。鞭でもあったら直ぐにクルクルしながら頭を叩けるというのに。ついつい左手が鞭を動かすときの指の動きを無意識でやってしまった。

そうかぁ、あんなに長かった天皇賞・秋はもう数時間前の出来事なのかとつい独白する。ただ、ただ独り言みたいに心の中でボソボソと云う。

その後は倭田オーナーや菊澤先生、あと厩務員たち、チームシリウスシンボリのメンバーたちと話し合いをした。

意外にもみんなから、騎乗に対しては良い評価を貰った。特に一番褒めてくれたのは厩務員の深山さんだった。シリウスの状態的にも掲示板にも入れるかどうか怪しいと思っていたところであと一歩馬券内に届かずの四着だったのだ。その結果に朝から晩まで毎日付き添っている深山さんは涙がボロボロで、こちらの手を握りながら頭を下げていた。

こちらこそ、最後の直線の件であわよくば失格になるかもしれなかったので頭を下げたいのは僕の方だというのに。

とりあえずシリウスの今後については、オーナーと先生のどちらともシンボリ牧場に戻してから判断するということになった。

それと菊澤先生からは今回の戒告について少し文句を言われてしまった。まぁ仕方のないことなんだろうけど、別の人から別の角度で注意されると胸にグサグサと刺さるものだ。

早くても一週間以内には、遅くても来週までには決めるとのことだった。話し合いが終わってからは、皆バラバラに解散して僕はというと終電ギリギリの最後の新幹線に乗って関西に戻った。

 

 

 

 

ふと目が覚めて窓を見ると、太陽はいまだ昇らず空には雲一つとしてないのに、輝きの強いはずであろう一等星さえも見えない。ただ青紫色に染まる空の断片だけが世界という丸い天井に貼られているように見える。

目を閉じれば府中の最後の直前の光景が未だに蘇る、そして目を開けると栗東の独身寮の天井という身も蓋もない現実だけが映し出される。

とりあえず布団を畳み、自分の部屋の食卓にダランと空気の抜けたバルーン人形みたいに横たわる。白熱電球のスイッチである紐が宙をぶらんぶらんと揺れている…気分は少しばかり赤ちゃんになったような気分だ。

立ち上がって、何もないことは分かりつつも何かの儀式のように冷蔵庫を開けては閉じてを繰り返す。

ひとまず何も入っていない空洞に、蛇口から捻ってきた水を入れながらとりあえず考え事をする。

天井に掛けてある時計を見てみると時刻は4時13分、なんとも微妙な時間帯だ。

調教に乗るには1時間ぐらい時間はあるし、かといって寝ようにも再び起きたら昼間になりそうな時間。

とりあえず目を覚ますためにも柔軟体操でもしようか。

 

「ん?なんだ、留守電が入ってる…昨日着いた時には確認していたんだがなぁ。」

 

誰もいないシンとした独身寮でついついボヤいてしまう。

寝間着を脱ぎながら、受話器を耳につけ再生ボタンを押す。

 

ガチャッ『豊、明日の朝早速だがバンブーの調教頼むで。』ツーツーツー

 

「…は?」

 

こんな疲れてるところに、それも今日の朝っぱらから調教とかマジだふざけてるだろ親父。

G1初デビューした息子に何か労いの言葉をかけてくれるかと思ったけど、そんな淡い幻想は即座に砕け散った。

このバカ親父は、折角なら褒め言葉の一つぐらい言えよってんだよ。深山さんは勿論のこと、少し怖めな菊澤先生だって褒めてるくれるっていうのに。

はぁ…ほんまに人使いが荒いというか。というかバンブーの調教に最近乗ってないような。

特に何かが変わることもないだろう。どうせ起きようとは思ったけど、こりゃないだろ。

畳んだ布団を押し入れに入れて、電気の紐を引っ張ると僕の耳に白熱電球のジ〜という音が聞こえてくる。

なんとも自然と言えない、デジタルっぽい音を聞きながら調教に乗るための準備を始める。

本当に月曜ぐらいは休ませて欲しい、それも切実に。

 

 

 

 

 

 

「ぐはぁっ!!」

 

それは目覚めの一発としては中々強烈な一発だった。

いや寝てたわけではないのだ、ただ眠気でボヤボヤな意識を一気に普通に戻すには十分な一発だった。

 

「おぉ〜、豊ぁ。バンブーからのモーニングコールどうや、目がばっちし覚めるやろ。」

 

「これ、覚めるとかっ…どうこう…より、骨いつか折れるて。」

 

「そんなんで折れるようじゃ、騎手は引退せなポックリ死ぬぞ〜はっはっはっ。」

 

親父の厩舎になんの注意もなく入って馬房を適当にほっつき歩いてたところ、バンブーの馬房に丁度すれ違って僕を見た瞬間に頭をお腹にぶつけてきよった。

こんなに素早くぶつけることができるならゲート試験もそうやけど、スタートダッシュは中々に良い線をいきそうだ。あわよくばそのスタートした瞬間の写真を年賀状にしてみるのも…悪くはないな。

本当についつい、忘れてしまうなこの馬の癖というか、人懐っこさというか。

 

「しっかし、ほんまにお前はよう変わらんな。」

 

ダイレクトアタックは減点だが、この人懐っこさはそれを上回る加点だ。

右手を舐めては、左手を舐め、それが終わると馬房の中で一回転、二回転、三回転トーループまで見せてくれる()

これなら競争馬をやめても、牧場で乗馬として大成………いや、よく考えたら乗馬には向かんなバンブー。確かに人懐っこくて可愛くはあるんだけど…いやぁ他の点がなぁ。

ほんとに、バンブーはあいも変わらずアホの子だこりゃ。まぁ、うん…別にそれが悪いとは言わんのよ。

ただなぁ…唯一困る時があるんだよなぁ。本当に顔だけは凛々しくて、イケメンだってのに中身がコレだからなぁ…本当に種牡馬として牝馬たちにモテるんかお前っ!?

アホすぎて牝馬たちに呆れられるぞ。まぁ、僕を見て嬉しそうにしてる顔見てたらそんなこと微塵も気にしてなさそうやな。

 

「そろそろ調教しに行くぞぉ〜」

 

「は、はぁい…」

 

はぁ…調教が始まってしまう…のか。

憂鬱、というか未だに昨日の疲労が身体から抜けきっていないというのにこんな()()()()()()()()()()()()()()調教をさせるなんて本当に酷すぎるぞ、親父。

僕の体、頼むどうか保ってくれ!!今日はほんまに疲れてるから、バンブーちょっと優しめでやってくれよな。な!!

 

 

 

 

 

「お、おばちゃん、ごめんけど、み、水ちょうだい。」

 

「あらぁ、今日ももしかして()()()()()()()?」

 

「そ、そうっす。もう死にそうっす、あ、水ありがとうございます。」

 

「そんじゃ、お昼も頑張ってね!!」

 

調教スタンドのソファでようやく座れる。

あぁ、下が動かないってこんなに幸せなんか…バンブーは本当に良い子なんだ、本当に。それは間違いなどないり

だけど、調教で併せ馬した瞬間に暴走し始める。もうそれは凄い暴れっぷりで、隣にいる馬を追いこすまで走り続ける。併せ馬してくれる調教助手や厩務員の人たちはこっちを見てビックリする。

なんとか僕もバンブーを抑えてなんとか制御しようとしても、暴走は止まらない。それどころか、抑えようとし続けると徐々に僕の手と足が疲労していき力がなくなり完全にストッパーがなくなったバンブーはそりゃ恐ろしい事になる。

まだ三歳馬ながら、成長して古馬にでもなったら調教レコードを叩き出しそうな気さえする。

まぁ…けど、気性が悪いわけじゃないんだよなぁ。

こう、なんというか子供ながらの無邪気さというとか下町の鼻水垂らしてる子供のようなそんなもんだ。だからこそ、余計矯正することが出来ない。

バンブーを矯正するぐらいなら、僕の体が暴走に耐えうるように改造した方が早い。

調教助手の人たちはバンブーメモリーが来てからというもの、トレーニングメニューがいつもの数倍以上になっているそうだ。

本当にこのソファ気持ちいぃ〜お尻が幸せになる。

このままここに根をはりたい気分、というか昨日遅く帰ったせいもあって若干眠い。あとは枕さえあればここで明日の朝まで爆睡できそうだ。

 

「んっ、んっ…」

 

やばいな、……本格的……に眠くなって…ん。

ちょっとだけ………右目閉じるだけ………右目だけなら寝ない……

寝ないから………うん、寝てない…寝てないです……

 

 

 

「んぐ、ぐぐぐぐ、、、ぅ、ぅ〜ん。」

 

「おい、起きろぉ。起きろって、ホラ。」

 

「うぇふぇは?な、なんですか、寝てないですよ。」

 

「いや、ばっちり寝とるやんけ。」

 

やばい、ちょっとだけ目を閉じたつもりが完全に寝落ちてしまった。

というか、起こしてくれたのヤエノムテキを管理してる津木野先生じゃないか。

わざわざ先生に起こしてもらって、僕とんでもないやらかしをしちゃったぞ。

 

「お、お久しぶりです。あの…もしかしてヤエノムテキの調教依頼ですか?」

 

「いやぁ〜、そうしようと思ったけど別件でな。ちょっと2階の個室で話さんか?」

 

そう言われたので、僕は着いて行くしかなく二人並んで階段を登って調教スタンドの2階の個室…まぁ会議部屋みたいなものに入る。

久々に入ってみるが、うん特に変わらない。美浦の調教スタンドとそんなに変わらない。

そんなことを思ってると、椅子に先生が座って喋り始める。

 

「とりあえず、座れや。」

 

「それじゃあ、失礼して。…で、話ってなんです?」

 

「お前来週の日曜の京都のレースの騎乗スケジュールどないなっとる?」

 

来週の日曜日っていえば菊花賞の日だから、確か3Rと6R以降全部が埋まってたような。

10Rの菊花賞は勿論のこと、9Rの天王山特別は僕がデビューして以来ずっと乗せてくれるクリメイトとも走るんだったな。

橋山先生には本当つい最近までは二着ばかりで本当に申し訳なかった。

 

「3と6以降のレースは全部騎乗予定決まってます。」

 

3Rは無理か…それじゃあ一つお願いがあるんやけどええか?」

 

「お、お願いですか?」

 

「せやねん、あのさお前5R依頼とかってまだないよな?」

 

5R…は確か、三歳の新馬戦だったか。

ん?新馬戦…まさかだとは思うけど、いやそんなまさか。

そういや、まだデビュー戦とかまだ決まってないけど、来週デビューとか急遽すぎませんか、先生っ!?

 

「えぇ、今んところは。」

 

「それじゃあ、騎乗依頼したいねん。」

 

コレ間違いない、ヤエノムテキの新馬戦だこりゃ。

あぁ、どうしよう。まだあんまし調教とかたくさん乗ってないんやけどなぁ。

 

「え、でも先生デビューちょっと遅らせません?まだ彼のことを知りきれてないというか。」

 

「大丈夫、大丈夫、超問題ないから。」

 

笑顔でそう返事をするけどちょっと待て。

いやいやヤエノムテキ死ぬほど気性悪い上に、調教助手の息子さんの修さんも乗りこなせるかどうかっていうのに僕がすぐに乗りこなせきれる自信ないんですけど!?

騎乗依頼は本当にありがたいんだけどなぁ、流石にもうちょっと時間というか。

 

「先生、そもそも何故来週新馬戦って急遽決まったんです?」

 

「いや本来は別の奴に騎乗依頼してたんだけど、別の馬に乗ることなって今君に頼み込んでるわけよ。」

 

「………え?というか、なんで僕じゃなく別の人に屋根任せるんですか!?だってあの馬は僕に是非ともって電話までしてくれて。」

 

「はぁ?お前何を…そういうことか、すまんすまん。意味がわかったわ、ヤエノムテキの騎乗依頼やないねん。」

 

「え?ヤエノムテキやなくてですか?で、どんな馬任してくれるです?」

 

先生のところにいた三歳馬ってそんなに多いわけじゃなかったような。

確か四頭ぐらいはいたような記憶はするけど…どの馬の新馬戦だ?どの馬も新馬戦はまだだったような。

 

「同じ馬主さんのヤエノダイヤのことだよ。」

 

「あぁ〜、なるほどそりゃ問題ないって言いますわ。………え?僕がですか!?」

 

「新馬戦限りになる可能性もあるけど、ええか?」

 

「良いですよ、是非とも。一回調教で乗らせてもらいましたけど、最高の乗り心地でしたよ。」

 

ヤエノムテキがユンボやトラクター、ダンプカーなどの重機と例えるなら、ヤエノダイヤはドイツやイタリアの超高級外車と言える。

同じヤエノの馬でもかなりベクトルの違う馬で、ムテキの方は正直なところ馬体にしろ気性にしろ無骨というか破茶滅茶な所があるがダイヤは競馬関係者なら皆揃って綺麗という形に仕上がっている。

正直なところ話だけ聞くと、なんで後世にヤエノダイヤの話が残らなかったのかが少し謎というか…早熟の馬だったのかとか思うが、父トウショウボーイの産駒ってそこまで早熟傾向が高いわけでもないしなぁ。

というかヤエノダイヤ級の馬ともあろうなら鞍上が急遽変更なんて事態はかなり珍しいんだけどなぁ。厩舎一の期待馬ともなれば、例えば川内兄さんなり、多原さんなり、南伊さんとかに回って来そうだけれども。

ここ最近騎手の誰かが怪我したり落馬したなんてのは聞かないし、何かそれなりに別の大きい理由がありそうなもんだが。

かといってそんな大きい理由と言えるもんなんて、無いしなぁ。

 

「ちなみに予定した屋根って誰だったんです?」

 

「あぁね、気になるわな。ほら、お前が昨日大変なことになった丘部だよ。」

 

「えっ!?丘部さんが何で急遽降りたんです!?」

 

「いや、なんか急遽京都じゃなく福島で騎乗するって連絡が来てね。そんなわけで日曜日に出す馬全部鞍上変更なんだよ。」

 

わざわざメインの京都じゃなく福島…やっぱリーディング上位の人の行動はよく分からんなぁ。

ていうことは菊花賞の丘部さんが騎乗するだろうと言われてたウイルドラゴンとかってどうなるんだろうか。

水曜日までには続報が誰かしらから回ってくるとは思うが…オールカマー三着かつオクトーバーS一着でかなり実績は高いからマークされるポジションではあるけど、丘部さんが乗らないっていうならあんまし能力面は高く見積らなくてもいいかな?

 

「とりあえず僕は今のところ5Rは空いてるんで、騎乗依頼は全然承れます。とりあえず今から調教とかってのは…」

 

「調教はもう朝にしたから、とりあえずうちんとこに来て顔だけ合わすか?」

 

「それじゃ、お言葉に合わせて久々に会ってみたいです。あ、ヤエノムテキの調教って…」

 

「あ、それもそうだな。今から乗ってけよ、丁度息子は今日ぶっ倒れてるから調教誰に乗ってもらおうか悩んでたんだよ。」

 

「ええぇぇ、もう良いですよぉ。朝からバンブーだけでしんどいっていうのにぃぃぃ。」

 

「若い奴がそんなんでへばってたら、騎手なんて長く続けられんぞガッハッハっ。」

 

「そ、そんなぁ〜」

 

そうやって僕は津木野先生に首根っこを掴まれながら引き摺られていく。

ただその道中で僕の心に嫌な予感がする。何故丘部さんが京都から福島に行くか、そのことだけがどうにも引っかかる。

魚の骨が引っかかった以上に、何か変な気がする。

僕が予想だにしない事が起きそうな予感がする。僕が昨日丘部さんと例の件で色々あったから余計そう感じるだけなのだろうか。

どうにも、こうにも楽観的には考えられない何かが起きているのは確かだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

86年 菊花賞

 

メジロデュレン、決死の逆転劇

唯、誰にも負けたくない

 

 

菊花賞が来る

 





次回、菊花賞。

『ホホー ぽてたま たかしろ 尻を副会長 酔いどれわんこ koudf アハゴン@ユウキ ミナヅキ チヨコレイト モリワキ Yuupon apotheke1116 akai たあん 丹砂 マーフィア 火流真 いちじく シアレイン 菊ポン kon_a かんほ nagi106b 帝具はメガネ teriyaki ことぶきえい がく84 チャッカム 牛肉時雨 そいらて ミカチュー ベータアルファΣ 敦盛 やべーやつ masagais 屋那覇屋那覇 サイドン ばろっく グラシェ アライグル ちっく ゴマ豆腐 五條玲 ヒレ酒 photonflak クロネコ96 カンパネルラ 抹茶ごま ホルダー ぼしち 
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