競馬界のレジェンドになったら…   作:展開郎

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第四話 運命なんて変えられるのか?

長い辛い競馬学校、卒業するとなると喜んでいたが実際卒業してみると少し虚しい気分になる。

青春とも言えた数々の日をもう体験できないことに寂しさを覚える。しかし勝負の世界に入れると思えると少し、清々しい気分がする。

卒業式の日、父は出席してくれた。式が終了した後、わざわざ車で千葉から滋賀県まで走り出した。その長い間のドライブで色々と騎手としての心構えを教えてくれたがその中でも一番心に来たのは、

 

『みんなに愛される騎手になりさない。』

 

だった。みんなにというのは厩舎のスタッフから調教師、馬主の方々、ライバルとなる他の騎手、他にも発走委員や医療スタッフ、マスコミの記者たちも含まれる。

その言葉の真意というのは、騎手というのは()()()()立場だからである。いかに腕のあるジョッキーであろうと嫌われ出したら、馬の騎乗数も減っていき次第に騎手生命は潰されていくのだ。

父は新たに騎手となる僕に対して、父として、騎手として、人生の先輩として語ってくれた。

家に帰ると、弟の幸四郎や母そして次男である勝実兄さんは喜んでくれていたが長男の伸兄さんはあまり嬉しそうではなかった。

伸兄さんは筋骨隆々な容姿で騎手には向かない体つきであった。しかし兄さんは騎手になりたかったそうだが、夢を諦め別の道に進んでいる最中僕が昔夢であったことを叶えたことで居心地の悪い感じがしたのだろうか挨拶を少しして家から去っていった。

 

 

 

そして俺は卒業してすぐの二月から二年から三年の間まで実習として所属していた竹田作十郎厩舎に所属することになった。そこには兄弟子となる川内洋も所属しており、皆僕を一人前のジョッキーになるように頑張って教えてくれた。様々な馬や人と触れ合うごとに自分は騎手になったという実感が並々湧いてきた。たまに友達であるエビちゃんと電話を取り合って最近の近況などを話したりしていた。

そんなまだ新しい環境に身を置いて約一ヶ月が過ぎた頃、先生に呼び出された。

 

「豊、お前のデビュー戦なんだが3月1日の阪神第4レースに決まった。」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

デビュー戦…ようやく自分が騎手として世間に出る日が来たのである。

競馬学校での様子などは度々新聞に載っていたこともあり、みんなは俺を期待している。俺はそんな期待を乗り越えなければいけない。

プレッシャーとは一切思わない、ただ自分が活躍するための追い風だと思っている。

 

「お前が乗る馬はアグネスディクターって言って、お前がよく調教で乗っている馬だ。乗れるよな?」

 

「ええ、大丈夫です。」

 

「よし、分かった。後その日は6レースと8レース、12レースにも出てもらうからな。」

 

今回自分がデビュー戦で乗るのはアグネスディクターうちの厩舎所属の馬でレースは阪神のダート1200の15頭立てである。

今回注意すべきポイントとすればスタートダッシュだろう。アグネスディクター自身、先行から逃げ寄りの脚質であるのもそうだが阪神のダート1200はまず最初下り坂から始まる。ここで躓いたりすれば一気に勝利の道は遠ざかるだろう。新聞に大言壮語が載ってしまったからには勝たなければいけない、是が非でも。そのためにもアグネスディクターを跨ってどういう風に走るかを体に刻みつけなければいけない。

前の世界の竹豊が唯一後悔していることがある、それはデビュー戦で勝てなかったことだ。もう古い記憶だが確か二着か三着で終わっていたはずだ。

俺はその運命を変えようとしている。どうなろうと、勝てばいいんだ。勝ちさえすれば…まぁデビュー戦ばっか気にするのではなく他のレースも勝てるよう頑張らなければ。

 

 

 

 

 

 

 

デビュー戦当日の日になった、意外と緊張などはなかった。川内先輩からは応援の喝を入れてもらえて先生からも燃えるような瞳でただ見られた。

競馬場に到着すると、人が多いように感じれた。理由はやはり『タケユタカ』目当てなのだろうか。競馬場では少ない女性の方たちもどうやら来ているようだ。

一体記者たちは俺を新聞の上でどう書いてるのか気になってしまうが、そんなことよりデビュー戦の方が断然大事である。

 

 

今回アグネスディクターは特に文句もない馬番9に入ることとなった。今回、迷った結果ではあるが逃げ切りを狙おうと考えている。

正直言ってディクターは闘争心が少ない方だ。例え先行で走ったとしたら恐らく逃げ馬を差しきれないだろうと考えた。

そして今回警戒する相手は一番人気かつ馬番5のモガミホースだ。札幌記念を三着で終えてから半年以上経っており、実力が不透明だけれども警戒しない訳にはいかない。

二番人気は…僕が騎乗するアグネスディクターだから飛ばして、三番人気のスズカジョンブルは成績からしても警戒しなくてもいいだろう。

五番人気のナムラアローは前走、前々走で阪神ダート1200で一着二着で警戒すべきと思われるが、それではなぜ五番人気なのかというと騎手が乗り替わっているからである。元は川内先輩が担当していた馬らしいが、今回は先輩ではない別の騎手が担当をするらしい。

 

そうこう考えているとパドックの地下道から光が漏れ出した。

もうそろそろで本馬場入場即ち、戦いの時が来るのを表していた。僕たちというか、僕が本馬場入場をすると歓声が湧いた。

と言っても黄色い歓声の方が多い気がする。先程は考えないようにしていたが本当に記者たちは何を書いたんだ。

馬場を走らせてみるが、アグネスディクター自身に問題はない、気性も落ち着いている。

あとは上手くスタートダッシュさえ上手くいけばいい。そうこう走らせていると、もうゲートが見えるようである。

本当に本当に退くことができないところまで来たのだと肌で感じ取れてしまうほど戦いの雰囲気が感じられる。

僕の後ろの馬たちが揃うと各馬一頭ずつ速やかにゲートに入っていく。そんな訳だからすぐに自分の順番は回ってきた。アグネスディクターはゲートにもなんの問題もなくすんなり入ってくれた。

そうして残りの馬が全頭入るのを待つのみである。ただ待つ間の時間がたったの数十秒でしかないのに1秒が経つのがとてつもなく遅く感じる。時計の秒針が重力に逆らおうと下から力を入れているようなイメージさえ見えてくる。

 

 

 

そして全頭入った、その瞬間から視界はスローに感じさせてくれる。一体いつになったらゲートが開くか、それを見極めるためにも瞼は永遠に閉まることはない。ゲートの隙間から光が徐々に、徐々に漏れ出した瞬間にディクターを動かした。

 

『ガッコンっ!!』

 

素晴らしいほどのスタートダッシュが決めれた。そのせいか今現在、差はごく僅かではあるけど先頭に立っている。

この上下に感じる振動感が俺を興奮させ、空気を切り裂く風の感覚が俺を冷静にしてくれる。どうやら俺の後ろには12番と1番が迫ってきている。

逃げといてよかったという安心感が湧いたが、中々に12番が速い。俺の頭の中でペースを早めるかどうか考えたが、計算した結果早めても問題ないと出たので更に早くするために鞭を数発打つ。

するとディクターは伸びる、伸びる、伸びてくれる。伸び過ぎはしないほど伸びてくれた。カーブをなるべく楽に終わらせようと、速度は少し上げつつも内に入り込もうとする。外側の方に12番はついていて、1番は内側に付いてはいるが十分入るのにスペースも時間も問題はなく第三コーナーを曲がり切った頃には完全にインを付いている状態だった。

 

 

あとは第四コーナーで大きく回らなければいいだけである。手綱をしっかりと手汗で湿っている手で握る。

12番はどうやら一着を狙うのを諦めたのか少しゆっくり目なペースになるのを横目で見つつ、第四コーナーに入った。

手綱をしっかりと握り方向を調整するとアグネスディクターもそれに応えてくれて、第四コーナーは緩やかに体力の消耗がなく回れた。

そして最後の阪神競馬場の直線に入った。約400mの直線はアグネスディクターには何の苦もなかった。100m、200mと徐々に進み大丈夫かどうか後ろをちらりと見れば、15番がすごい勢いで第四コーナーを回り差し切ろうとしていたが、もうすでに300m走っている。ディクターの体力には何の心配もない。

 

 

残りの100mは徐々に綻びを見せていき、まだ僕たち以外しか受け付けていなかった。そして半分が過ぎた50m付近になってスタンドを見ると色んな人たちがいた。馬券を紙吹雪のようにばら撒いている人もいれば、15番を応援しているのか怒鳴っている人もいる、そして僕を見にきた人もどうやらいるようで少し恥ずかしかった。

勝つのは意外と大したことないと思ってゴール板を越えた。横には誰もいない、それどころか後ろも少し離れている。

その瞬間、地面どころか空気がひび割れるんじゃないかと思うほどの歓声が響いた。それを聞いた僕の心は突然どうしたのか熱く、暑く、太陽よりも熱いぐらい燃え出した。

そして俺は右手で鞭を持ちながらガッツポーズをしていた。

 

「しゃあああああっっつ!!!」

 

歓声で打ち消されたが雄叫びを上げていた。僕はいつの間にか、興奮していた。こんなにも勝つことは凄いのかと思ってしまった。

競馬学校で味わったことのない勝利の快感にただ心をありのままに委ねてしまった。




次回、竹豊のお手馬が現れます。


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