競馬界のレジェンドになったら…   作:展開郎

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第八話 竹馬の友なんているものか?

あれからさらに僕は勝利を重ねていった。サッカーボーイの主戦騎手になる為にも。

 

5月は23日と24日で4勝、30日と31日で3勝で計7勝を挙げた。

6月は6日と7日で5勝、21日に1勝、28日に1勝の計7勝を挙げ、中京競馬場で重賞初挑戦として金鯱賞をシヨノリーガルに騎乗し挑んだが二着と惜しい結果で終わった。

そして最後の7月、残る勝利数は3勝だけであった。7月4日に1勝、7月5日に5勝をして無事G1騎乗の条件かつサッカーボーイの主戦騎手になるための31勝を超えた。7月5日の騎乗に関しては5レース連続勝利でもあり、その次の日には競馬新聞系の記者たちからの質問責めにあい中京競馬場の外から全く出れないような状況になりかけた。

そうこうして中京競馬場から栗東トレセンの独身寮に戻ると、どうやら僕宛に電話があったようなので掛け直すことにした。

 

「もしもし竹豊です、どちら様でしょうか?」

 

「豊くん、おめでとう。君は私の約束を守るどころか、それより凄いことをしでかしたようじゃないか。」

 

電話の受話器から耳に入ってくる声は、5月の頭に初めて出会ったサッカーボーイの馬主でもあり社大グループのオーナーの吉野善哉さんであった。

まさかの電話でビックリしてしまい、一旦受話器が手から滑り落ちてしまいそうだったがなんとか掴み直し電話をし続けた。

 

「いやいや、あれはたまたま上手くいっただけで…」

 

「運も実力のうちという言葉もある、今回のことは君の実力が成し得た事だよ…さて君に話があるのはお祝いではなく、サッカーボーイの初戦について話をしようと思う。」

 

「は、はい、ボーイの初戦はどうなるんでしょうか?」

 

「サッカーボーイの初戦は8月9日、函館競馬場で行われる三歳新馬に出すことに決まった。距離は1200m、豊くんなんの問題もないだろう?」

 

「いやっ、なんの問題もありません。サッカーボーイで勝たせていただきます。」

 

「よろしい、8月9日を楽しみに待ってるよ。君は本当に約束をきっちり守るね。」

 

そうやって電話は通話が終わったことを表す音だけが鳴っていた。

吉野さんとの電話に一安心して部屋に戻ろうとするとまたもや、電話が鳴り響いた。もしかして吉野さんが何か言い忘れがあったのかと思い急いで電話を取った。

すると現れたのは……

 

「豊くん、豊くん、佐藤修司です。聞こえてるかい?」

 

「はい、ちゃんと聞こえてますよ。」

 

どうやら吉野さんじゃなくて佐藤調教師だったようだ。

恐らくスーパークリークの話をするのだろうが、デビュー戦の話でもするのだろうか?と何を話すのだろうと思いつつ電話を続けた。

 

「スーパークリークのデビュー戦なんだけどね、8月の函館競馬場の三歳新馬に出そうと思うんだ。距離は1200mだよ。」

 

「………はい?」

 

急に自分の頭の中に完成一歩手前のパズルがイメージとして浮かび上がって来た。

サッカーボーイのデビュー戦とスーパークリークのデビュー戦が重なり合う、そういうパズルが出来上がってしまった。

サッカーボーイを蹴るか、スーパークリークを蹴るかどうしよう。サッカーボーイは無理言ってこちらから鞍上になったようなものだし、スーパークリークは先生から是非ともという感じで鞍上になった。どちらを蹴るのも難しいと思って、電話で先生に聞いてみることにした。

 

「先生、その…出馬表にサッカーボーイっていますよね?」

 

「……………」

 

受話器は単なる電子音しか僕に聞かせてくれなかった。恐らくサッカーボーイはいるのだろう、その出馬表に。

嗚呼、本当にどうしよう。どっちも蹴るのが難しい。わざわざ社大グループのオーナーの馬を蹴ると今後が危ういし、かと言ってスーパークリークを蹴るとなると竹豊としての成功街道の一歩目から崩れ去ってしまう。

どちらも選んでも最悪である、こんなことになるのなら厩舎巡りをせず自然とスーパークリークが来るのを待ってれば良かったのに…

 

「いやねぇ、サッカーボーイはいないよぉ。」

 

「え?ちょ、ちょっと待ってください。スーパークリークのレースっていつですか?」

 

「あぁ、8()()8()()だよ。」

 

よ、良かったぁぁぁ〜。どっちも蹴らないという選択肢をどうやら神様はくれたようだ。その一言に少し安心ゆえの脱力感が体に染み渡っていく。

有力馬を二頭引き受けているからこその、苦労とも言うべきか本当に良かった…ダブルブッキングにならずに済んで本当に、本当に良かった。どちらも手放したくないと言う我儘はどうやら神様が叶えてくれたようである。………しかし一つ気になるポイントがある。それだけ聞いて電話を切ろう。

 

「先生、スーパークリークって言うなれば長距離血統ですよね。1200m勝てますかねぇ?いや勝たせる自信はあるんですけど1200となるときついんじゃないかなと。」

 

「いやクリークはああ見えて、長距離血統ではあるがスピード血統の気もある。全然1200でもそのスピードが発揮して勝てるだろう。それに出来るのなら中距離の2000mの新馬戦を走らせたいが、レースも少ない。今のうちに新馬戦を余裕で勝っておいて、クラシック三冠レースに無事出走できるようにしようと思う。豊くん、これで大丈夫かな?」

 

「ええ、先生の論理は何も間違ってはないです。それじゃあ8月の新馬戦頑張りましょう。じゃあ、切ります。」

 

「あぁ、頑張ろう二人とも。」

 

そうやって電話は切れてしまった。

今度こそ、電話器からは音が鳴る事はなくなり部屋に戻ろうと再び思うとまたもや電話が鳴り出した。流石にいい加減にしてほしい思いで荒々しく電話に出ることにした?

 

「どちら様ですか?」

 

「どちら様って、それが()()に対する態度か。」

 

「おっ、親父ぃぃぃっ!!??」

 

まさの親父、竹邦彦からの電話だった。そして今度こそは受話器を地面に落っことしてしまい、ガッコンっと言う音と、床が少し凹んでしまった。

すぐに受話器を掬い上げ、電話を続けようとした。

 

「おっ、親父、急に電話なんてどうしたんや?」

 

「いや〜、豊。ええ馬乗せてもらうんやな。二頭見せてもらったけど、ええ馬や。お前あんな馬乗れるなんてずるいなぁ、俺がもし乗ったらバンバンG1取るで。」

 

「もうええよ、親父の話は。ほんで電話はそれだけかいな?」

 

「ちゃうちゃう、いや俺なぁ。お前に誕生日プレゼントあげてへんかったや。せやから、お前にプレゼントあるげるわ。」

 

「なんやねん、プレゼントって。今さらオモチャはいらへんで。もう一人前のジョッキーや。」

 

「アホタレ、お前のどこが一丁前や。いい感じで勝ちまくってるけど、時間経ったらそうはいかんへんで。」

 

「はいはい、分かったよ親父ほんでプレゼントって?」

 

()()

 

馬、その単語にまず考えたのは自分の耳の調子を考えてしまった。いや、そないなまさか親父が俺に馬を預けるなんて思いもしない。

恐らく聞き間違いだろう。そう思って聞き直すことにした。

 

「……すまん、親父もう一回言ってくれや。」

 

「だから()()()()()()()()()()

 

どうやら僕の聞き間違いなどではなく、親父は本当に俺に馬を預けるそうだ。

そうなると笑い話ではなくなる、親父と息子の関係から調教師と息子の関係へと一転する。とりあえずどんな馬なのか聞いてみることにしてみた。

 

「どんな馬や、教えてくれや。」

 

「うーん、バンブーメモリーゆうてまぁ、ダートで強いわな。ええ馬やから、屋根にお前に乗ってくれたらなぁと思ってんねん。どうや?」

 

 

俺のお手馬はどうやら本当に良いようだ、競馬の神様がまるでそうしてるかのように。

バンブーメモリーって言ったら、やはり思いつくのはオグリキャップとの名試合だろう。あのマイルCSでの争いは今でも非常に心が熱くなる。

 

「そうか、分かったよ。乗ったるわ、親父。」

 

「ほんじゃ、電話切るで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親子の絆




次回、W新馬戦です。
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