溶鉄のマルフーシャCS版発売記念
ストーリーのネタバレしたくなかったので、導入は常世ノ塔公式MODからほぼそのまま拝借
独立軍事国家カゾルミア。
貧困格差は当たり前。不平を言えば収容所。
苦しむ国民から搾り取った税金は何処かへと消え、おまけに隣国すべてと戦争中。
そんなちょっぴり刺激的な国でパン屋に勤めながら、妹とささやかな暮らしをしていた少女マルフーシャ。
今日も勤め先のパン屋で生地をコネていた。
「コネ……コネ……コネ……」
しかし彼女の日常は突如として……本当に脈絡もなく突如として、変化を迎える。
「コネ……コネ?」
ふと気が付くと、彼女は見覚えのない場所に立っていた。そこは、どこまでも続くまっ平らな野原のど真ん中だった。
(えぇ……どこだここ)
見ればさっきまでコネてたパン生地すらも忽然と姿を消している。夢かと思って自分の頬っぺたをつねってみるが、痛いだけで何も変わらない。
そもそもこれが夢だとしても、こんな澄み渡るような青空なんてテレビでだって見たことがない。絶え間ない戦争と排気ガスに汚れきった故郷では、空は濁った灰色なのが当たり前だったから。
兎に角。これは夢でなく、しかも全く知らない地域に放り出されたらしい。
となればここでじっとしている訳にはいかない。
「妹が心配しちゃう……早く家に帰らないと」
懐を探れば、普段から身に付けていたKa42ハンドガン*1が一丁あるだけ。当然予備の弾倉なんて無い。
情報は一切無し。水も食料も持っていない。武器は数発だけ装填された拳銃のみ。
だけど心折れている場合ではない。最愛の妹が、家で帰りを待っているのだから。
「ひとまずの目標、12時方向の人工物。国民番号XXXXX マルフーシャ。偉大なる祖国に忠誠を」
カゾルミア国民として骨の髄まで叩き込まれた宣誓を、誰に聴かせるでもなく口にして歩き出す。
見据えるのはたった今目に入った遠くに見える建造物。巨大なそれを街の外壁だと判断した彼女は、そこを目指してひたすら歩くことにしたのであった。
◆
俺の名前はサトウカズマ。
訳あって自らを女神と呼称する存在を連れて異世界に転生した日本人。
今日はいよいよ初めてのクエストを請けて、冒険者らしくモンスターと戦うべく繰り出したのだが……。
「アクアぁぁあああ!!!助けてぇぇえ!!」
俺は今現在、カエルに殺されそうになっていた。
「ぷーくすくす!カズマさんたら、早速大ピンチね!プークスクス!」
「笑ってねえで何とかしろよぉおおお!!!」
なけなしの金を叩いて買ったショートソードを片手に、俺は必死に逃げ回っていた。
相手はジャイアントトードという名前の、初心者向けの雑魚敵であるらしい。
「これのどこが初心者向けだあああ!!普通の人なら食われて死ぬぞコレ!!」
考えてみても欲しい。山羊くらいなら丸呑みするというサイズの生物が、のっしのっしと地響きを鳴らしながら迫ってくるのだ。逃げ回る以外に何ができるというのか。
「いいからどうにかしてくれよおおお!!」
悲鳴を上げながらも必死に走るが、ずっと部屋に籠もってたせいで体力がすぐに尽きてしまう。
そしてついには足がもつれて転んでしまった。
その隙を逃すはずもない巨大ガエルは、大きな口を開けて俺目掛けて飛びかかって。
「あ、死んだ……?」
マジか。
俺の二度目の人生、やりたくもない土木工事しただけでカエルに喰われて終わるとか。異世界らしいこと全然してないんだけど。
取り敢えずあの駄女神は祟る。絶対にだ。そんな事を考えながら、反射的に目を瞑ったとき。
―――パンパンパン。
爆竹が破裂したときのような、乾いた音が響いた。
◆
なんか男の子がおっきいカエルに襲われてたから、つい反射的に撃ってしまった。
3発放った銃弾は見事に全弾とも見事に命中していた。的が大きくて助かった……けど、それが向こうにとっても有利に働いたのか即死とはいかなかったらしい。もんどり打って倒れた後、起き上がってこちらへ向き直ってきた。
「そこのあなた、離れていてください!」
未だに転んで呆けた様子の男の子に声を掛けると、私は銃を構え直す。狙いはさっきと同じ、脳天だ。
軍事科目*2で習ったことを思い出しながら、巨大カエルに正対する。
足は肩幅まで開いて右を半歩引き、お腹に力を込める。上体をやや前のめりにしながら腕をまっすぐに伸ばして固定。両手でグリップを包み込むようにしっかり保持する。
そして、絞るように引き金を。
パン。
こんな豆鉄砲で倒せるかは分からないが、やれるだけの事はやるしかない。せめて動きだけでも止まってくれと、半ば祈るような心地で撃ちまくる。
パン。パン。
実のところこれが初めての実戦だった私には既に、残弾を気にする余裕なんてとても無かった。
パンッ。
けれど内一発の当たり処が良かったのだろうか。やがて巨大蛙の動きが鈍くなり、どうっと地面に横倒しになったまま動かなくなった。
「……やった……のかな」
恐る恐る近付いて確認するが、ピクリとも動かない。
生まれて初めての命の遣り取りを乗り切ったのだという安心から汗が噴き出すのを自覚し、そこでようやく弾切れに気付いた。つまりこれで完全に丸腰になったわけだ。
……どうしよ。
まあ、これからの自衛手段については後で考える事にしよう。今はそれよりも。
「大丈夫?」
先程の男の子の方へと向く。
私より少し若く見える……高等学校生くらいの歳かな。というか、ジャージに剣とはまた時代錯誤というか奇抜な格好を……外国だと流行っているのだろうか?
「……おい、あんた」
警戒していると、彼が恐る恐るといった感じに声をかけてきた。
「あ、あのさ、その手に持ってるのって、まさか……」
わなわなと震えながら指差された先は、私の右手。今し方まで使っていた国民拳銃だ。
「これ?これは―――」
「ちょっとちょっとちょっとぉ!あんたなんて物持ち込んでくれちゃってるのよー!!」
説明しようとしたら、後ろからいきなり声をかけられた。驚いて振り向けば、なんか全身真っ青な女の人がすごい剣幕で詰め寄ってきていた。
「え、えぇ?なんですかあなた」
「それこっちのセリフなんだけど!銃とか転生特典の中でもNGリスト入りのトップクラスに入るヤツじゃないのよ!あなたを担当した子は何考えてるの!?」
「と、特典?いえ、これは国から国民一人ひとりに支給された……」
「きっとあの後任の子*3の仕業ね!人から奪った役職だからっていい加減な仕事しないでほしいわとにかく没収よ!」
なんだこの人、言っている事がサッパリわからない。しかも勝手に人の武器を奪おうとしているし。
とはいえ今の私にはこの女性に抵抗する術が無いのも事実だし、
そのためにもこの人には一旦落ち着いて貰わないと……。
「あの、すいません。とりあえず話を聞いてください。これには深い事情があって。というか後ろ……」
「あくまで渡さないっていうなら実力行使よ!女神の力を思い知りなさい、ゴッド―――へぶっ」
説得むなしく問答無用とばかりに女性が飛び掛かってきた瞬間、彼女の姿が一瞬にして消え去った。
消え去ったというか、カエルに置き換わったというか。さっき撃ち殺したのとそっくりな巨大カエルが、後ろから女性の身体を飲み込んだのだ。
私からは迫るそれが見えてたのだが、女性の剣幕に押されて伝えられなかった。
哀れにもカエルにおいしく頂かれてしまった彼女は、はみ出す足がバタつかせているが、程なくその足もつるんっと吸いこまれて見えなくなる。
人ひとりが目の前で丸呑みにされるというあまりの出来事に、私は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「アクアぁぁ!?おま、お前喰われてんじゃねえええ!!!」
放心気味に見ていた少年もあまりの衝撃映像に正気を取り戻したらしく、慌てて駆け寄る。
「い、いやまて丸呑みにされたんならまだ間に合う!おいあんた、さっきの銃で……!」
「ごめん、もう弾切れ」
「こなくそおおおぉぉぉ!!」
結局、半ば自棄になった少年の英雄的な突撃によって、見事女性は救出されたのであった。
◆
「うええぇぇぇ……ひぐ、えっぐ……うあぁぁぁ……」
危うく捕食されるところだった青い髪の女性は、カエルの粘液やらでベトベトになりながらも泣きじゃくっている。
少年が甲斐甲斐しくも慰めているが、心なしか距離感が遠い。
かくいう私もかなり遠巻きに見ているのだが、ここからでも生臭い匂いが漂ってくるので正直近寄りたくない。下層街*4の排水溝を通り掛かった時を思い出した。
「……で、改めて訊きたいんだが、あんたは一体何者なんだ?」
ようやく落ち着いてきたところで少年はそう切り出した。なんか色々あったせいか警戒するのも疲れてしまって、私は正直に答えることにする。
「私はマルフーシャ。見ての通り、しがないパン屋の店員ですよ」
「いやパン屋要素どこだよ……まあいいや。俺はカズマ、一応冒険者だ。で、あっちでカエル汁まみれになってるのが……」
「よーく聴きなさい!」
「あ、復活した」
いつの間にか復活していた青い髪の彼女が、ビシッと指を突き付けてくる。
やたら決まったポージングなのはいいんだけど、全身ベトベトのせいでイマイチ締まらない。あと臭い。
「私こそはアクシズ教の主神にして水を司る女神アクア様よ!!崇め奉りなさい、そして平伏しなさい!」
「……と思い込んでる痛い人なんだ。悪いけど付き合ってやってくれないか?」
「思い込みじゃないもん!!ちゃんと本物だもん!!」
「はあ。冒険者のカズマに女神のアクアと」
なんかもう色々とツッコミどころ満載な二人だけど、とりあえずこの見知らぬ土地でのファーストコンタクトだ。
致命的に会話が成り立たないって訳でもなさそうだし、この機を逃す手は無いだろう。
「それで、早速だけど訊きたいことがあって。ここって何処なの?気づいたらここに居て、自分の状況がよく分かってないの」
「は?ここはアクセルの街外れの平原だけど……って、気づいたらってどういうことだよ。新しい転生者じゃないのか?」
「てんせい?何それ」
聞き慣れない言葉に首を傾げると、少年は信じられないようなものを見る目で私を一瞥し、それから女神を名乗る女性と何やら小声で話し始めた。
内容までは詳しく聞き取れなかったけど、どうやらさっきも出た転生というワードを多く口にしているみたい。それに天界がどうとか神器がなんとかとか。
女性の方はやっぱり拳銃について特に気にかけているようで、しきりにこっちを睨んでは「あれは駄目あれは没収」と呟いている。
そういえばカゾルミア以外の国だと銃の所有や持ち込みは厳しく制限されるって聞いた事があるような……。
密輸とか言われてしょっぴかれたらどうしよう。こっちだってこんな所に居るのは不可抗力なんだから、少しは弁明の余地はあるのかな。
そんな事を考えているうちに、話はひと段落ついたようだ。カズマと名乗った少年が、私に向き直って口を開く。
「取り敢えずさ、詳しい話訊くのにも、一旦俺達が拠点にしてる街まで一緒に来てくれないか?ここじゃいつまたカエルに襲われるかも分からないし、あといい加減コイツを風呂にぶち込まないと臭くてやってらんねーし」
「ちょっと!人を汚物扱いしないでくれる!?」
「お前は黙ってろ。マルフーシャ、だっけ?それでいいか?」
「それはいいけど……。私、身分証明できる物とか何もないけど大丈夫?門兵に捕まったりしない?」
「ああ、アクセルは旅人とか冒険者になりに来た奴がよく出入りするから、そういうのは割と緩いと思うぞ。あー、でもその拳銃は隠しておいて貰えると助かるというか……人前で出さないで貰えると……」
「あ、うん。分かった」
流石に人混みの中で銃なんて振り回したら大騒ぎになるのは分かるので、私は大人しく従う事にした。どのみち弾なんて撃ちきってしまってるので、武器としてはもう無用の長物だし。
「じゃあ、お世話になるね。案内よろしく、カズマ。」
「お、おう……」
これからしばらく頼ることになりそうだし心象を良くしておいた方が得策だろう。
パン屋勤めで培った営業スマイルを浮かべつつ握手をしようと手を差し出すと、カズマは何故か顔を赤く染めながらおずおずと手を握り返してきた。
「あらー?握手くらいで照れてるのカズマさん?いくらなんでも女の子に免疫なさすぎじゃない?」
「うっせぇこの駄女神!ほら、行くぞ!」
「うわーーーん!カズマさんが駄女神って言ったー!しかもぶったー!」
そんなこんなで、正直未だに訳がわからないままだけど。
妹の元に帰るため、私は異郷の地で新たな一歩を踏み出す事になったのだった。
恐らく単発