プレナパテスは夢を見る   作:仮面の文豪B-A

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おまたせしました。
やはりカルバノグ2章を読んでからじゃないと解釈違いが怖すぎたので……。



それでも手放さなかったもの(3)

 ザワザワと音が反響する廃ビルの地下で、アビドスのみんなと顔を合わせる。シロコ、アヤネ、ホシノ、そしてノノミ。少しだけ浮かんだ余計な感情を押し込めて、現状を整理する

 障害物の多い屋内戦、深夜という事もあって視界は悪い。相手の主装備は重装甲で、数と武装は相手に分がある。そして何より、一点突破で無理矢理ノノミを救出した結果、私達の退路は断たれている。

 普通に考えれば不利な戦況だけれど……私にとってはなんとでもなるレベルだった。

 

 ──一度目の私が経験した戦場は、今の比じゃなかったからね。

 

 そんな思いを押し込めつつ、口を開いた。

 

 "現状を私の目線から整理すると、取れる手段は一つだと思う"

 

「それは……ゲリラ戦、ですか? 現状、私達がマーケットガードと正面から戦闘をすると、恐らくは数で押しつぶされますし……もう一度正面突破は、流石に上手く行かないと思いますから」

 

 "その通りだよ、アヤネ"

 

 良く分かっているね、と私が言うと、アヤネは顔を赤くして「しょ、消去法ですから、それほどでも」と謙遜した。現状、私達の状況は良くない。けれども、私達がマーケットガードに対して勝っている点が4つある。

 

 少数精鋭の利点である機動力。

 私のカードを用いた継戦能力。

 夜の暗闇と遮蔽物の多さによる地の利。

 そしてノノミが持つ圧倒的な攻撃性能と攻撃範囲。

 

 それらから総合的に導き出せる戦略は、ノノミを中心としたヒットアンドアウェイのゲリラ戦だ。時間が無いから、あっさりとその事を伝えると、背中のホシノが小さく考えるような声を上げた。

 

「うーん……それしか無いのは分かるんだけどさ、おじさんは、相手との戦力差が開きすぎてる気がするんだよねー」

 

 "そうだね。ゲリラ戦の弱点は幾つかあるけど、これだけ数で負けていると戦略として成立しない可能性があるよね"

 

 でも大丈夫だよ、と私は笑った。私の笑みを一番近くで見ていたホシノが、オッドアイを見開いて珍しい表情をする。ちらりと見ると、アヤネもノノミも驚いたような表情で……何故かシロコは無表情に小さく笑みを浮かべている。

 

 "ここは、私を信じてほしいな。先生として、シャーレの顧問として──かっこいい所を見せてあげるから"

 

「う、うへ〜……先生、そんな顔出来るんだね。先生にそこまで言われたなら、おじさんは何も言えないよ。おじさんは、先生を信じてるからね〜」

 

 冗談めかしてホシノは言うけれど、その心臓はバクバクと早鐘を打っているのが分かる。ホシノは私の表情に何かを言おうとしたけれども、遠くから聞こえてきたマーケットガードオートマタの足並み揃った足音に表情を固くした。

 その緊張はすぐにアビドスの全員に伝わって、ノノミが困ったような顔で私を見る。

 

「すみません、先生……私、武器をマーケットガードに奪われてしまって。もしかしたら、このビルの中にあるのかもしれませんが、少なくとも手の届く場所には無いと思います……」

 

 "うん、それは私に任せて。ノノミの『リトルマシンガンⅤ』に比べたら性能の低い廉価品だけれど、同じ武器種のミニガンを用意するね。それと、ついでにみんなの分の無線と弾薬とグレネードも……"

 

 時間が無いので、素早くコートの中の大人のカードに手を伸ばす。そしてそれを虚空にかざして……少しだけ暗い思案があった。かざされた私のカードは、全体的に煤けて黒ずんでいる。大きなヒビ割れは無いけれど、引っかき傷のような小さなキズが幾つもあった。

 

 ──このキヴォトスでは銃や弾薬がコンビニでも買えるような相場だけれど……流石に大口径のミニガンと弾薬一式、スタングレネードやスモークグレネードを纏めて大人のカードで用意したら不味いかな。

 

 けれども、迷っている時間は無かった。一瞬の迷いを切り捨てて、カードを振りかざす。

 

「わっ!?」

 

「わぁ☆確かに私の子とは少し違いますけれど、この子も立派で可愛いですね〜。少し軽いので照準がズレてしまうかもしれませんが、許容範囲内です」

 

「スモーク、スタン、EMP……取り敢えず私は二つづつ貰っていく」

 

「わ、私はうまく使える気がしないので、シロコ先輩は私の分も持っていってください。変な扱い方をしたら自爆しそうですから」

 

「ん、アヤネも一つは持っていたほうが良いよ。一つあるだけで選択肢が広がるし、命綱にもなる。……これは使いやすいし、緊急用のフラッシュとして持っていたほうがいい」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

「心配しなくても、いつもアヤネちゃんが直してる水道管よりは扱いが簡単だと思うよ? ピンを引いて投げるだけ、簡単だよねー?」

 

 それぞれ武器の準備をし始めたみんなを横目に、大人のカードに目を向ける。

 

 "……"

 

 カードの黒ずみが、酷くなっている気がする。傷はどうやら増えてはいないようだけれど、若干、カードの角の欠けが悪化しているように見える。なにより……今回は明確に、カードの限度額に近づいた感覚があった。

 一巡目の黒服が言っていたように、大人のカードの代償として支払っているのは、私の寿命、あるいはそれに近しいものだ。過度な乱用は、私の命を物理的に削っていくだろう。

 

 それらに一瞬、渋い顔をしながら、すぐに押し込めた。顔をあげると、既に全員臨戦態勢で武器のチェックをしている。今回の戦闘メンバーはシロコ、アヤネ、ノノミ、そして私とホシノだ。

 

 "それじゃあみんな、準備は良い?"

 

「ん、大丈夫」

 

「問題無いですよ〜」

 

「はい、準備は大丈夫です」

 

「駄目って言っても向こうがもう来ちゃうね。おじさんも大丈夫ー」

 

 "場合によっては秒単位で指示を出すかもしれないから、私の無線に集中しててね"

 

 私の言葉に全員が驚いた顔をするけれど、すぐに持ち直して武器を構える。私の肩口でホシノがハンドガンのセーフティを解除し、滑らかに薬室と弾倉を確認する音を聞きながら、アヤネが見せてくれたビルのマップを脳裏に浮かべつつ、動き出す。

 

「まず、この部屋の出入り口は既にエイミングされてるから、スモークを投げてから動くよ。スモークと同時にシロコ、ノノミ、アヤネ、3人揃って部屋から出て、シロコは左に、ノノミとアヤネは右に分かれて。シロコは十一時の方向にある柱に張り付いて牽制、ノノミとアヤネは姿勢を低くして右の壁沿いに遮蔽を伝って目立たないように移動して。私はシロコと動くけれど、場合によって動き方を変えるから逐一指示に従ってね」

 

 了解、とみんなの返事を聞いて、シロコがバッグの中からスモークを取り出し、部屋の出入り口に投げ込む。パン! と甲高い破裂音に合わせて、シロコが一番手に部屋から飛び出した。それに合わせてノノミとアヤネも部屋を飛び出し、しゃがみながら右に分かれる。シロコは自分に目線を集めるためにスモークの中から奥へ牽制射撃をしつつ、遮蔽に移動した。

 

 "ホシノ、基本的に射撃はホシノに任せるけど、時々狙って欲しい場所を言うからよろしくね"

 

「了解、先生〜。外さないとは思うけど、おじさん目が悪くなっちゃったから、その時は謝るね」

 

 "大丈夫。その時はすぐに別の案を出すから"

 

 そう言いながら、私もスモークの中をホシノを抱えながら進み、シロコの後を追う。一瞬、スモークから体を出した瞬間にホシノが照準を構え、私を狙うオートマタの頭を撃ち抜いた。……これはホシノが外す可能性は低い方で見積もっても良さそうだね。

 遮蔽に身を隠しながら、一瞬見えた敵の陣形を元に、即座に戦術を組み直す。

 

 "ノノミ、アヤネ、しゃがんだ状態で一番近くの遮蔽に付いて止まって。シロコ、私の指示の5秒後に二時の方角へフラッシュ。そのタイミングで柱から顔を出して出来るだけ奥にEMPを投げ込んで。狙いは一時、十二時の方角なら適当で大丈夫だよ。アヤネはフラッシュと同時に右の壁沿いに進みながら足元をクリアリング、ノノミはフラッシュと同時にその場で立ち上がって左から右へ一斉掃射。狙わなくていいから5秒間撃ち続けた後、すぐにしゃがんでアヤネに追従。ホシノはフラッシュに対抗してくる相手の投げ物を撃ち落としてもらうから準備して。シロコ、フラッシュまで5秒前"

 

 4、3、2、1、0、フラッシュ、と私の小声の無線に合わせて閃光弾が炸裂し、同時に全員が動き出す。

 

「一時から十二時へ……」

 

「……」

 

「お仕置きの時間ですよ〜♧」

 

「また命中〜、おじさんこの目に慣れてきたかも」

 

 ノノミの一斉掃射でマーケットガードオートマタがある程度薙ぎ倒され、シロコのEMPがマーケットガードオートマタの後ろに控えていたマーケットガード達の通信機器を破壊し、指揮系統を落とす。当然ながら相手も即座にグレネードで返そうとするが、それをピンポイントでホシノが撃ち抜いて破壊する。空中で華麗に撃ち抜かれたのはどうやらスタングレネードのようだが、穴の空いた不発弾となってコンクリートの床に転がる。

 

 5秒が経過し、ノノミへ声を掛ける。合わせてシロコに更に左方向へ展開させ、私とホシノは現在地から動かず定点で戦場を俯瞰する。

 

 "ん……シロコ、もうちょっと手前に下がれるかな。一つ前の遮蔽で大丈夫だからスモークを使って戻って。ノノミ、次のコンクリートの遮蔽に付いたらリロードして大丈夫だよ。あ、シロコ、そこから二時に見えるマーケットガードへフルバーストで射撃、撃ち切るか無力化したらリロードする前にスモークで下がって"

 

「分かった」

 

 "ノノミとアヤネはシロコがスモークを使うと同時に思い切り走って右前二時15メートルにある防火シャッターまで走った後にフルバーストで射撃。撃ち終わりにスモークを『床に転がして』敵に放って"

 

 みんなに声を送っている通信機器(トランシーバー)の音量を弄りながら、わざと少しだけ大きな声でそんな指示を飛ばして、戦況を見つめる。予想以上にノノミの掃射が敵に打撃を与えてるね。相手が予想していなかったフラッシュやスモークの連投も効果的だし、マーケットガードは思う通りに攻めが進まなくて焦ってくるはずだ。

 何も考えず数で押しつぶして来ようとするほど甘い相手ではないことを加味すると、次に狙わせる場所は……私自身だ。

 

 少しだけ悪い笑顔を浮かべつつ、ホシノに目配せをして……そっと物陰から動き出す。

 

「クソっ! 何なんだあの女は!?」

 

「武器は確実に奪ったはずだぞ!?」

 

「どうしてこれだけのスタングレネードやスモークグレネードがある!?」

 

「いや……」

 

 視線が私の方に集中するのを感じる。シロコはスモークで下がっていて左側は視界が悪い。シロコに気を取られた隙にノノミがマーケットガードオートマタ達をなぎ倒し、慌てて狙おうとしたタイミングで足元からスモークが立ち上がって右方向もてんてこ舞い。

 そして、私という司令塔が眼の前に隠れていて、誰の援護も受けられていない。

 

 孤立した私には射線が簡単に通せるし、シロコはスモークが逆に私への援護を難しくしている。ノノミは掃射の影響でリロードが必要。

 

 だから、君達(マーケットガード)は確実に──

 

「あそこだ! 正面に隠れている大人を狙え!」

 

「ヤツはまともな武器も持っていない! 人海戦術でヤツを人質にするか、最悪無力化すれば我々の勝利だ!!」

 

 無理をしてでも、私を狙いに来る。シロコ、私、ノノミとアヤネの陣形が縦に深いV字型になっているこの状況で、私に対しての突撃。もしも彼女たちが苛立っていない状態で、冷静にじっくりと状況を俯瞰していれば、誘われていることが分かったはずだ。

 彼女たちがやるべきだったのは、徹底的に私達の退路を塞いで自分達の周りを守り、シロコやノノミが疲弊するか焦れるまで射程圏外からじっくりと攻めること。

 

 それが出来なかった時点で──

 

 "君たちの負けだよ。シロコ、私が合図したらフラッシュを投げ込んで、全力で奥に陣取っているマーケットガード達を蹴散らして。アヤネはシロコのからワンテンポ遅らせて同じように突撃して。ノノミ、リロードが終わったら、さっき投げ込んだスモークを利用しながらシロコと同じように前に飛び出して、私の方に向かうオートマタの背中を撃ち抜いて"

 

「えっ、せ、先生の方向へ向かって射撃をするのですか?」

 

 "大丈夫だよ、ノノミ。だって……私はもう、そこに居ないからね"

 

「へっ?」

 

 "シロコ、突撃"

 

「ん。任せて、先生」

 

 シロコがフラッシュに合わせてマーケットガード達に突撃する。私への攻撃という選択肢で視野が狭まったマーケットガード達は、私を守るのではなくて逆に突撃を仕掛けてきたシロコに大慌てになった。オートマタと違って、マーケットガードたちの装備は軽装備だから、シロコの攻撃が綺麗に刺さるはず。

 目を白黒させながらリロードをするノノミを視線の先に捉えながら、こっそり歩いてきた道を振り返る。

 

 オートマタ達はさっきまで私が隠れていた遮蔽に容赦のない一斉掃射を仕掛けながら素早く攻め込み……そして、持ち主を失ったトランシーバーを無機質なレンズに映して固まった。

 私はノノミが存在感を一番出した瞬間に受話音量を上げたトランシーバーを床に放置して、ホシノを背負いながらこっそりアヤネがクリアリングしてくれた道を追従していた。

 

 度重なるスモークとフラッシュでマーケットガード達の視界は最悪だっただろうし、何より最初に投げたEMPで彼らが暗所に対応するためのナイトスコープやサーモグラフィ、動体検知モジュールは意味を成さなくなった。

 後は私の音でマーケットガードを釣り出して、手薄になった本陣をシロコとアヤネで制圧。敵陣で罠に気付き、けれども指揮官が命令を下せず右往左往するオートマタ達を後ろからノノミが撃ち倒す。

 

 "我ながら綺麗にハマったね"

 

「う、うへ〜……ゲヘナの諜報部隊がたまに使う釣り方だー。先生はちょっと敵に回したくないなぁ。まあ、敵に回るつもりは最初から無いけどさ」

 

 ろくな抵抗も出来ず、ノノミの掃射で薙ぎ倒されていくマーケットガードと、フラッシュとEMPで視界を確保できなくなった状況でシロコに吹き飛ばされて倒れていくマーケットガード達を眺めながら、ちょっとはカッコいい所を見せられたかな、なんてキザな事を思った。

 

 

 

 ──────戦闘終了後──────

 

 

 

「クソ……何故、何故だ……あれだけ、我々は有利だったというのに……!」

 

 オートマタの残骸が転がる廃ビルの地下で、紐に縛られたマーケットガード達が項垂れている。その殆どが戦意を喪失しているけれど、唯一私達に最初から敵意を剥き出しにしていたリーダー格の少女だけは、変わらない瞳でこちらを睨んでいた。

 

「地の利も、数の有利も、時間的な有利もこちらにあったはずだ……! 潤沢な物資も、装備の質も負けていなかった。違いがあるとするならば……」

 

 鋭い瞳が私を射抜く。特に目をそらすこと無く、私は彼女の目を見つめた。

 

「先生という大人がそちらに居たことか。シャーレの先生、とやらは昏睡状態と聞いていたが……計算を狂わされたな」

 

 "私はそんなに大した人間じゃないよ。ただ、君達よりも少しだけ経験を積んでいるだけの大人だから"

 

「……謙遜、というヤツか。舐められたら終わり、が常識の我々には考えられんが……存外、悪く見えないものなのだな」

 

 少しだけ、リーダーの目が柔らかくなった。そんな他愛も無い会話をしていると、首に回ったホシノの腕に少しだけ力が籠もった。私が何かを言う前にシロコが武器を構えてリーダーへ向きつける。

 

「ん、お喋りはおしまい。ノノミの持っていたものの場所を吐いて」

 

「ふん。その女から奪ったもの……あぁ、あの鉄塊めいたミニガンと武装一式、それとカードだろう? あれは中々の資金になったな」

 

「資金、ですか? もしかして、私のゴールドカードはもう──」

 

「安心しろ。カードの中身までは流石に我らでも触れられなかった。だが、カードそのものは別だ。アレはこのキヴォトスにおける財力と権力の象徴だ。ガワだけでも欲しがる好事家はゴマンと居る」

 

「……そう、ですか」

 

「足を辿ってブラックマーケットの市場から取り戻そうなどとは思わないことだ。今頃は、転売に転売を重ねられた挙げ句、行方が分からなくなっていることだろう。このマーケットでは日常茶飯事だ」

 

 それはやってみないと分からないことではある……けれど、現状それをやるだけの時間も労力も、私達には無い。ノノミのカードがいつブラックマーケットに流れてしまったのかにもよるけれど、今からそれを取り戻そうとするのは、とても現実的ではなかった。

 ノノミにもそれが分かっているのか、一瞬だけ暗い顔をした後に、すぐにいつもの穏やかな笑顔を浮かべた。

 

「……それなら、仕方ありませんね」

 

「ノノミ、詳しく聞かなくて大丈夫?」

 

「はい、大丈夫ですよシロコちゃん。勿論、失くしても問題ないものではないです……けれど、今はもっと大切なことがありますから」

 

「アヤネちゃん、全部が終わってからノノミちゃんのカードを再追跡するのって出来そうー?」

 

「時間ができ次第、私の方でブラックマーケットの市場のリサーチを進めてみますが……マーケットガードが言う通り、マーケットでは私達の常識が通用しないので、私の力だけでは厳しいです……」

 

 "……ノノミの言う通り、今はセリカのことに集中する必要があるかもね"

 

 私の言葉に全員が頷いて、シロコが再びリーダーにノノミの武器の場所を問い詰める。 

 

「その女の武器なら、とっくに我らの本部に持ち込んでいる。あまりにも馬鹿げた重さのくせに、軍用ヘリに取り付けるには口径が足りず有効射程が短すぎるから、今頃は軍用備品倉庫に転がっているはずだ」

 

「ん。それならノノミの武器は後でマーケットガードの本部を襲って取り戻せるね」

 

「……勘弁してくれ。貴様らが言うと冗談にならん。今回の件で万全のお前達とやりあえば損害が大きいのは分かった。本部まで来れば私が話を通しておくから、前回のように爆破はするなよ」

 

「……爆破、ですか?」

 

「そういえば、さっきおじさん達のことを『覆面水着便利事務所』って──」

 

 "あーっ、えっと、それはまあ後で説明するよ。うん"

 

 この戦闘が巡り巡って私達の銀行強盗のせいで起きたという事実は、なるべくオブラートに包んでおきたい。……その方がなんとなく私の心に優しいからね。

 わざとらしすぎる私のセリフにノノミは小首を傾げ、ホシノは何かを考えるような声を上げた後に、「それならおじさんはいいんだけどさ」と水に流してくれた。

 

 ノノミの武器の場所が分かった所で、シロコはようやくリーダーに向けていた銃口を下げて、青い瞳で私を見つめる。多分、次は

 どうしたらいいか、という目だと思う。

 少し考えて、私はコートの内側から一枚の紙を取り出した。カイザーの理事から受け取った、ヘルメット団の事務所と連絡先の書かれた紙だ。一応、ここへ来るまでの間に連絡を入れてはみたけれど、当然ながら知らない番号からの連絡に彼女たちが応じることはなかった。

 

 "……"

 

 ノノミの武器は出来れば回収しておきたいけれど、この廃ビルがある地域がブラックマーケットでもかなり端の方にあるから、中央に構えられたマーケットガード達の本部とはかなり遠い。

 武器自体はいつでも回収出来そうだし、ノノミには私から武器を渡しているから戦闘への支障はほとんど無い。次の行動を選ぶなら、まず間違いなくヘルメット団の事務所に向かうべきだ。

 

 ただ……そっと顔を上げて、みんなの姿を見てみる。

 ノノミは傷こそ少ないものの、長い監禁生活で体は確実に弱っている。

 アヤネは酷い寝不足と慣れない戦闘で足元がフラフラしている。

 シロコは特に酷い。大きな負傷こそ無いけれど、これまでの戦闘とさっきまでの大立ち回りで体中がボロボロだ。目の下の隈も酷いし、先程から少しだけ呼吸が浅い。

 背中に背負ったホシノも、本来なら意識を保っているのがおかしいくらいの重体だ。

 

 この状況で、ヘルメット団の事務所へ向かう? 高確率で戦闘になるはずだ。私が全力で指揮をすれば勝つこと自体は出来ると思うけど……そういう問題じゃない。

 

 "……まずは、マーケットガード達を開放してあげて。彼女たちはカイザーコーポレーションに雇われた加害者だけれど、同時に被害者でもあるから"

 

「ん……先生が、そう言うなら」

 

「助かる。正直、このままここに縛られて放置されたらかなわんと思っていた。お前のEMPで通信機器は軒並みイカれたからな」

 

 シロコがカバンから取り出した刃物でマーケットガード達を縛る拘束を外していく。基本的にシロコやアヤネに気絶させられたガード達ばかりだったけれど、そうでないガードを中心に、彼女たちを起こしていた。

 それを眺めながら、少し考えてこう言う。

 

 "……それじゃあみんな、お疲れ様。一旦休憩しよう。三十……いや、一時間。それだけしかあげられないけれど、一度休んでからヘルメット団の事務所に向かうよ"

 

 私の言葉にシロコとアヤネが驚いたような顔をして、口を開く。

 

「せ、先生? 私の体でしたら、まだ大丈夫です! ……た、確かに少し疲れましたけど、セリカちゃんを一刻も早く助けてあげないと……!」

 

「アヤネの言う通り。私もまだやれる。足は動くし、目もちゃんと見えてる……か、ら……」

 

 "……駄目だよ、シロコ"

 

 胸に手を当てて私に無事をアピールするシロコだったけれど、貧血か寝不足か、めまいでくらりと来たみたいで、頭を抑えながら後ろに二の足を踏んだ。

 ……シロコは本当に、ずっとずっと頑張っていた。本来なら遥か前に限界を迎えていた体を無理矢理動かして、休まず皆のために動き続けた。これ以上はきっと、取り返しがつかなくなる、と私の勘が言っている。

 

 シロコの様子にホシノは何も言わず肩越しに私の顔を見つめていて、ノノミはセリカについて知らないから、不安そうに私の言葉を待っていた。

 

 "これ以上無理をしたら、今度は別の誰かが死んでしまうかもしれない。少しでいいから、休まないと"

 

「…………分かった」

 

 先生を信じる、とシロコは俯きながら言った。この一時間の休憩でなんとかみんなの体調を整えて、ノノミとホシノに詳しく現状の話をしよう。そしてヘルメット団の事務所に全員で向かってセリカの居場所を問い詰めて──今度こそ、アビドスのみんなを救ってみせる。

 

 ──そういう形で、方針が固まった時だった。

 

「なあ、おい。シャーレの先生」

 

 "……うん?"

 

 少しだけ気まずそうに、マーケットガードのリーダーが私に声を掛けた。シロコが一瞬だけ殺気立って、アヤネとノノミがそっとその両端に立ってそれを抑える。

 二人に目線で感謝を伝えながら、リーダーに向き直った。

 

「不可抗力だが、少しだけ会話が聞こえてしまってな。柄にもないお節介にはなるが、一つ伝えておくべきであろう事柄がある」

 

 "うん。それはどんなこと?"

 

「貴様らは次に、ヘルメット団のアジトに向かうのだろう? 恐らくはアビドスのメンバーの関係で向かうのだろうが……そのヘルメット団そのものについてだ」

 

 ヘルメット団そのものについて? と疑問符が浮かんだ私に、リーダーは神妙な面持ちでこう言った。

 

「アビドスで活動しているカタカタヘルメット団は──現在壊滅状態にあるそうだ」

 

 "……え?"

 

「なんでも、とある任務でアビドス砂漠の奥に進み……そこで激しい砂嵐と『巨大な白い蛇』を見ただとか、『神』がどうとか言っていたらしい。その部分はブラックマーケットの浅い噂ではあるが、奴らが壊滅状態にあることは事実だ」  

 

 "…………"

 

 もしも奴らの事務所に向かうのであれば、そう大した戦闘が起きることは無いだろう。おずおすとそう告げたリーダーの言葉が、脳裏を反射する。

 

 激しい砂嵐。

 巨大な白い蛇。

 神。

 

 "……『ビナー』"

 

 頭の中でいくつもの可能性と選択肢が入り混じり……噛み締めすぎた奥歯が割れる音が聞こえた。






ここまではある程度自重してましたが、ここから先は二次創作全開のオリ展開ラッシュです。対戦よろしくお願いします。
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