プレナパテスは夢を見る   作:仮面の文豪B-A

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原作のレールをぶち抜けていくのは二次創作の常……ということで飛ばしていく。




手のひらに残った答え 1

「──こ、これがあたし達が知ってる全部だ……後は目の前の状況で分かるだろ?」

 

 "……"

 

 野戦病院めいたカタカタヘルメット団の事務所の応接室で、多分ヘルメット団のリーダーと思われる子から聞いた話は、私を沈黙させるに値するものだった。

 

 カイザーPMC理事から資金提供や武力支援を受けたカタカタヘルメット団はアビドス高等学校を襲撃し、私の介入であえなく撤退させられた。私の支援やホシノ、シロコを含むアビドス対策委員会との正面戦闘は愚策だと考えた彼女たちはバイトの掛け持ちで対策委員会のみんなから離れがちなセリカを誘拐して、装甲車の中に詰め込む。

 そしてカイザーPMC理事の指示に従ってアビドス砂漠近郊のランデブー・ポイントでセリカを引き渡し、人質にした。

 

 ──そこまでは『向こう側の私』と同じ筋書きだ。けれどもここから先は話が違う。単純なタイミングのズレか、ブラックマーケットの動きに変化があったのか、カイザーPMC理事の『目的』に何かあったのか……恐らくは、取るに足らない小さな変化の積み重ねが、事態を一変させてしまった。

 

 カイザーPMCの動きからアビドス高等学校の危機を見抜いたブラックマーケット陣営がアビドスの利権欲しさに学校へ私兵を差し向け、そこにタイミング悪く便利屋68の襲撃が重なり、立て続けに便利屋68の捕縛を盾に()()殿()()アビドスの土地に踏み入った。

 それらを同時処理しながらセリカの携帯のGPSから居場所を特定したものの……その時点でヘルメット団に与えられていたカイザーPMC理事からの命令が変わっていた。

 

『もうその生徒に人質としての価値は無くなった。適当に砂漠の端にでも埋めておけ』

 

 そして私達がランデブー・ポイントに辿り着いた時には既に、その場はもぬけの殻になっていた。態勢を立て直し、セリカを探すために一度アビドスに戻った翌日、ホシノが姿を消した。

 ……その時の私は、はっきり言って多くの手を間違えたんだと思う。大きな二択を外すような失敗じゃない。細かな判断の順序の違い、優先順位の誤り、判断を下すタイミングの遅れ。それらが巡り巡って取り返しのつかない状況になって、その翌日に私は──

 

 "…………"

 

「お、おい……?は、話すことは全部話したぞ?用が無いなら出ていって……下さい」

 

 掛けられた声に顔を上げると、不安そうな表情のヘルメット団のリーダーが居た。そうだ、今はこんな風に物思いに耽ってる時間なんて無いんだった。深く溜め息を一つ吐いて座っていた椅子から立ち上がる。何かを勘違いしたらしいリーダーが泣きそうな顔で狼狽え始めた。

 

「た、頼む……!ウチには立ち上がれないくらい消耗してる奴らだって居るんだ!こんな状況、ブラックマーケットじゃなくても、そこらのスケバン共に知られたら……」

 

 "うん?あぁ、大丈夫だよ。最初にも言ったけど、私は君達を傷つけるつもりは無いし、君達が苦しい思いをするようなことをするつもりも無いよ"

 

「そうか……それなら、良かった」

 

 "うん。それじゃあ、そろそろここからお邪魔させてもらうね"

 

 私がそう言うと、リーダーは露骨に安堵したような顔をした。応接室を出ると、先程見た怪我人だらけの事務所の様子が目の前に広がった。

 ……カイザーPMC理事の指示を受けた彼女たちはセリカを連れてアビドス砂漠の奥に向かい、適当な場所にセリカを埋めている最中にビナーに遭遇している。それをリーダーの顔は唇まで真っ青だったし、どれだけ凄惨な戦場だったかは容易に想像ができた。

 

 カイザーPMCから支援された武器を持って、 複数人で戦った彼女たちでさえこうなってしまうのだから、弱ったセリカ一人だけじゃ……いや、止めよう。リーダーの話によれば、セリカが閉じ込められていたのは装甲車の荷台の中だ。適当な袋に詰められて砂漠に埋められているよりもよっぽど希望があるはず。

 

 血の味が滲む奥歯を噛み締めながら、ヘルメット団の事務所を出る。ビナーの大まかな居場所と方角はリーダーから聞いた。少なくともブラックマーケットからは数百キロは離れた砂漠の奥だ。この場から何も考えずに歩いて行けば何日かかるか分かったものじゃない。

 取り敢えずビナーの居る方角へ歩きながら、ちらり、と流し目でブラックマーケットの様子を観察する。

 

 夜明けが近いブラックマーケットは早くも人の動きが巡り始めている。夜明け前が一番暗い、というのならば、今の時間は彼らにとって絶好の『稼ぎ時』なのかもしれない。

 一瞬、彼らに手を貸してもらって移動することを考えたけれど、正直リスクや費用対効果を考えたら妥当じゃない。

 

 "……あまり、『これ』を使いたくはないんだけど"

 

 状況が状況だし、もうなりふりを構ってはいられなかった。駆け足で路地裏に進んで、人気のない場所を選びながら周りを見渡す。すこし適当に歩けば、目的の場所が見つかった。大量の廃材やゴミが不法投棄されたゴミ溜めだ。一度周りの目を再確認してから、私はそれらに手を伸ばす。

 そして、自分の内側にある『それ』に触れた。

 

 "プロトコル:■■■・■■■■、起動"

 

 名前の無い権能。本来は私ではない者が持つべき特権。それらからもたらされるリソースの分解と再構築が私の眼の前で起こって、ものの数秒で目の前のガラクタと廃材は新品同然のバイクに再構築された。

 あまりにも法外な力に自分自身で苦笑いしつつ、バイクに跨ってエンジンを掛ける。エンジンの内部構造がしっかり再現されているか少し心配だったけれど、エンジニア部のみんなと関わっていた事が良い方向に向いたみたいだ。

 

 "……私の『一度目』も、完全に無駄だった訳じゃなかったってことかな"

 

 自嘲的に笑って、バイクのエンジンを吹かす。そしてそのまま一気に速度を上げて、コートの裾でブラックマーケットの夜風を切り裂いていった。

 

 

 ────────―

 

 

 最高速で砂漠を走り抜けて、数時間。無事に日は昇り、朝焼けの太陽が私を照らしている。喉の渇きと飢え、そして疲労や眠気が少し辛くなってきた。けれど、私よりもセリカのほうがきっと苦しい思いしているはずだ。それを思うと、ハンドルを握る手に力が籠る。

 

 "……そろそろ、近くなってきたかな"

 

 ヘルメット団のリーダーから聞いた場所は大体この近くだ。一応、彼女たちが最後に確認した座標地点もこの辺りだから、セリカが残されているのは本当にこの近辺だということになる。

 流石にセリカを詰めた装甲車の正確な座標までは分からないと言っていたから、最悪の場合この辺り一帯の砂漠を掘り返す必要があるかもしれない。

 

 ──そんなことを思っていると、不意に冷たい風が吹いた。頬を撫で付けるような、不自然な風だ。同時に私の内側にあるものと、私自身の本能が何かを捉えるのを感じた。

 

 ここから先に、居る。不明瞭な確信があった。浅く息を吸って、バイクの速度を上げる。……どちらにせよ、この辺りの砂漠を掘り返す時点でビナーと対峙することは避けられない。

 向こう側の私がビナーと砂漠で対峙したら数秒も持たずに肉塊になるだろうけど、こちらの私ならビナー相手に勝算さえある。

 

 また冷たい風が響き、背筋に鳥肌が立った。いつの間にか目の前には薄く砂嵐が立ち込めていて、こちら側も段々と視界が悪くなってきている。

 お互い対等な状態からの正面衝突なら、ビナーの装甲を端から順にバラバラに解体していって私が勝てる。『吹き荒れる砂塵』はこちらの『吹き荒れる砂塵』で掻き消せる。『大道の劫火』を始めとしたミサイル群は空中で分解すれば問題ないはずだし、最悪処理しきれなくてもヒエロニムスの『獅子の救済』や『ウルガータ』で丸ごと撃ち落とせる。唯一怖いのは『アツィルトの光』だけれど、それは上手く避けるか、最悪ペロロジラの『白熱眼光』で打ち消すしかない。

 

 眼の前で吹き荒れ、膨らんでいく砂嵐にそんな戦術予想を立てていた、その時だった──

 

 "──あ"

 

 吹き荒ぶ風の中に渇いた血の匂いがした。思わずブレーキを掛けて、周囲を見回す。削れ、流れていく砂の山の中に、黒い何かが微かに見えた。

 即座にハンドルを切り返し、誘蛾灯に導かれる蛾のようにそこへ駆け寄る。恐らくはどんどんと接近してきているビナーのことなんて頭から放り捨てて、バイクから飛び降りて、『それ』を見つけた。

 

 "…………"

 

 それは、血を吸って赤褐色に変色した、セリカのスポーツバッグだった。初めてのバイト代で買った、と自慢げに話していて、セリカが何年も肌身離さず持っていた愛用品のバッグだ。それがこんなにボロボロになって、ポツンと砂漠に捨てられている。

 呆然としたまま拾い上げると、角に空いた大きな穴から大量の砂と画面の割れたスマホ、そしてアビドスの学生証と、セリカが通っている沢山のバイト先の名札が零れ落ちた。

 

 ──スケバンとの戦闘でボロボロになったバッグを、修理店で直してもらったこともあったよね。

 

 もう一度、拾い上げたバッグに視線を向ける。それは最早バッグというより破れた布きれに近いものになっていた。一段と強く砂嵐が吹き荒れて、私の思考をかき乱す。

 

 ──どうしてセリカのバッグだけがここに?

 ──バッグの血は一体?

 ──ビナーが来る。早く対処しないと。

 ──セリカはこの近くに埋もれたまま?

 ──そもそもセリカは……生きているのかな?

 ──ここで戦闘が起きるのはダメだ。

 ──逃げる?

 ──砂漠を荒らさないように守りながら戦う?いや、絶対に無理だ。

 ──いや、ビナーと戦いながら砂漠を掘り返してセリカを探して……。

 

 泥水をかき混ぜたように濁った思考を咎めるように砂嵐が派手に吹き荒れて、数メートル先の視界さえ遮られていく。つむじからつま先まで、鋭い悪寒と本能的な恐怖が私を包んでいく。砂を撹拌する地響きの音と、足裏に感じる振動。

 それらに完全に無視して、私は虚空に手を伸ばす。途端に私を中心に風が吹き荒れて、台風めいた砂嵐の中で逆巻いていく。ビナーの持つ『吹き荒れる砂塵』を私の『吹き荒れる砂塵』で掻き消しながら、私を中心に砂を巻き上げていく。もはや一秒だってこの焦燥を抱えていたくなかった。

 

 掃除機で吸われる埃のように砂が上空に巻き上げられて、砂漠に埋もれていた多くのものを露出させていく。壊れたアサルトライフル、空っぽのマガジン、携帯食料の入ったカバン。カタカタヘルメット団のロゴが入ったボロボロの戦車や迫撃砲、装甲車……そして、上下逆さまに横転した輸送車が一台。

 

 間違いない、あれだ。そう確信した瞬間──砂嵐を裂いて、白い巨体が砂漠を抉る。高層ビルめいた巨体が蛇のようにとぐろを巻いて鎌首をもたげた。その黄金の瞳に睨まれた瞬間に理解した。これは人の手が及ばない神性の具現化であって、神の存在証明を為そうとするものだと。

 

『違いを痛感する静観の理解者』、ビナー。満を持して(あらわ)れたそれに、私は静かに目線を合わせた。瞬間、ビナーの頭部に浮かぶヘイローから光と共に衝撃波が放たれ、空の雲や周囲の砂山が一瞬で吹き飛ばされる。

 透き通るような青い空を背負い、立ち込める砂塵を纏ったビナーは、変わらない棒立ちでその姿を見上げる私を凝視した。

 

 "……"

 

 一秒か、二秒。あるいはそれよりも少しだけ長い時間、私とビナーは目線を合わせて睨み合った。そして……私はそっと、ビナーから目線を外す。完全に顔を背け、体の正面さえ向けず、無言で眼の前の輸送車に向けて歩き出した。

 私の第一目的はビナーを倒すことじゃなくて、セリカを助けることだ。ボロボロのバッグを片手に輸送車まで歩いていく私を、ビナーは四つの瞳で睨みつけ……その体からカシュッ、と音がした。

 

 続けて、けたたましい咆哮と共に、夥しい数のミサイルがビナーの身体から射出される。白煙を吹きながら複雑な弾道を描くミサイルに対して、私はただ一度目線を向けた。

 その瞬間、空を覆い尽くすミサイルの群れは空中でバラバラに分解されていく。それはまるで逆再生めいた分解で、ネジや板金単位でミサイルの部品がバラバラに解体され、私に到達することさえできず砂漠に落下していった。

 

 後に残ったのはバラバラにされたミサイルの部品が生み出す鉄の雨と白煙、燃焼できなかった火薬が生み出す黒い霧だけだ。

 

 ドサドサと音を立てながら砂の波紋を生む鉄の雨音の中、私とビナーは再び目を合わせた。見れば分かる。ビナーは私を警戒している。私はビナーと目を合わせながら、砂漠に散った部品に右手を伸ばし、こう呟いた。

 

 "『玉座への喚び声は此処にありて』"

 

 言葉の終わりに合わせて、バラバラになった部品が生き物のように動き始める。これはビナーと同じデカグラマトンの一柱、ケセドの権能だ。私の喚び声に従い、再構成された部品は機械兵団に生まれ変わって、ビナーと相対する。

 さらに私は左手をボロボロになった戦車や迫撃砲、装甲車に向けて、口を開く。

 

 "『インベイドピラー生成』"

 

 最早見慣れた分解と再構成、そして権能による機能の付与。ただの鉄の塊だった戦車と装甲車は形を変え、インベイドピラーとなってビナーの眼前の砂漠に屹立する。ほどなくして起動したインベイドピラーは砂漠の一部を侵食し始めた。

 ……その気になればこの状態からさらにミニペロロジラを放つことも出来るけれど、今はそこまでやるつもりはない。

 私はまたビナーに目線を向けて、口を開く。

 

 "今は私の邪魔をしないでほしいな"

 

 ──この後、すぐにでも相手をしてあげるから。そこで言葉を切って、またビナーから目線を外す。同時にインベイドピラーの侵食が加速し、機械兵団が一斉掃射を始め、ビナーの咆哮と砂嵐が吹き荒れる音が広い砂漠に響き渡った。







先生は怒りに身を任せて権能使いまくってるけど大丈夫なの?って思ってる人もいるかもしれませんが……普通に駄目ですね。(無慈悲)
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