魔法少女怪人 作:ハリー・ルイス博士
契約関係となった妖精のクリポヮと魔法少女の俺は、怪人の攻撃で崩壊した街並みを歩いていた。
日陰から日の当たるところに出ると、今の体の女性らしい柔さ、肌のきめ細かさがよくわかる。
「このカラダ、何歳くらいなんだ?」
怪人となる前の俺は、もう大学を卒業して働いていた。
まだ老いとかを感じる年齢ではなかったが、それにしたって今のこのカラダが若返っていることくらいは感じている。
視点が低すぎるというのもそうだが、手のシワが薄い。
手というのはよく見る部位だからか、意外とこれがよくわかる。
「魔法少女はある一定以上の年齢になると、劣化がストップするんだクポ。人によるけど、肉体年齢が20を越えた例は聞いたことがないんだッポ。契約で体中に魔力が漲っているメリットの一つだクポ」
「劣化って……いやそうなんだけどさ」
そこまでストレートな表現は、コンプライアンス的にヤバいと思う。
男だった俺としては、そんなに加齢なんて意識したことはなかったが、女性にとっては年齢は気になるものという認識くらいはある。
となると。これは魔法少女になる上で、かなりのメリットになるんじゃないだろうか。
「で、結局何歳なんだ?」
「ボクは人間じゃないから、あんまり人間の年代はわからないんだッポ。でも少なくとも60とかではないクポ」
「それくらい顔を見てない俺にもわかるわ! いや、でもまあ妖精に人間の年齢なんてわからないのもそれもそうか……」
俺だって、クリポヮの年齢はどれくらいか聞かれたら、全くわからない自信がある。
なんならコイツ以下だ。現状、クリポヮが妖精の中で高齢なのか若者なのかすら、さっぱり判別できていない。
「年齢と言えば、アキラには学園に通うことをお勧めするんだッポ」
「学園? いやいや、いくら見た目はごまかせても、学校はまずいだろ」
「そんなことないッポ。学園に通うのは全魔法少女の権利なんだクポ。それは何歳で魔法少女になっても変わらないんだッポ」
「なんだそれ? 全魔法少女の権利──とか。なんか選挙カーで言ってそうだな」
「それはそうだクポ。だってこれは、まさに政治的に勝ち取った権利なんだッポ」
クリポヮは「どこから話したものかッポ……」と、なんだか難しそうなことを考えていそうな顔をつくった。
「さっき、魔法少女の相手は本来ファントムで、怪人も相手しているのは自主的なものだと説明したクポ」
「人間側としては、どっちにしろ存亡の危機だからな。でも、妖精目線だと自主的ってことになるのか」
「そうだクポ。ボクらとしては、ファントムより強い怪人とも戦うのはリスクが増えるだけなんだッポ」
妖精としてはハイリスクノーリターンで意味がない、と言えばそうかもしれないが……、妖精と魔法少女が一組だと考えると、魔法少女の意見を棚に上げている気もする。
「だから、ボクらは政府と交渉して、魔法少女のリスクを下げる取り組みを始めたんだッポ」
「それが学園……?」
「正確に言うと、この頃は魔法少女学園なんだッポ」
微妙に新しいワードが追加された。
「魔法少女学園では魔法少女たちを一括して集め。戦闘能力の育成や能力的な相性のいい仲間との関係の醸成を図ることで、ボクらは戦闘力の底上げを図ったんだクポ」
たしかにそう聞けば、魔法少女が学園に通う権利があるというのはポリティカルな活動の成果と言える。
クリポヮの言い分から察するに、実際それによって死亡率なり何なりが下がったんだろう。
「学園と、その魔法少女学園では何が違うんだ?」
「政府はこの魔法少女学園の成功を見て、魔法少女以外の能力者たちにも同じような教育を施すことにしたみたいだッポ。だからのちに統合されて魔法少女学園は、今は魔法少女に限らない学園になったんだッポ」
「なるほど……。って能力者たち?」
「巷ではヒーローとか呼ばれている連中ッポ」
魔法少女もいればヒーローもいるってわけか。
正直、違いはよくわからないが。
妖精と契約してるのが魔法少女で、野良能力者がヒーローってところだろうか。
「ヒーローは魔法少女と違って、体系的な能力とかはないから。個人的にはあんまり学園で学べることは多くないと思っているクポ。まあ、別にいてもいなくてもどっちでもいいクポ」
意外とドライだな。コイツ。
「でもヒーローがいれば、魔法少女たちの負担も減るんだから、死亡率も減っていいことじゃないか? 協力できるケースもあるだろうし」
「恋愛沙汰とかその他もろもろで引退する魔法少女もいるから、どっちがよかったとは言い切れないんだクポ」
「へぇ。戦場の吊り橋効果で恋愛ってやつか。よくあることなのか?」
「今の魔法少女の引退理由の結構な割合は、戦闘後に猛りをぶつけあった末の寿引退なんだッポ」
生々し過ぎだろ。
ファンだった魔法少女が引退した時に、ついでに脳破壊されてるヤツがいそうだ。
「でも、アキラはホモでもなければ寿引退できなさそうだから、ある意味安心クポ。メス同士でならいくらでもやってくれていいッポ」
「それLGBTQナンチャラカンチャラの人たちにブチ切れられるぞ」
ホモとレズの概念を理解しているということは、妖精にもホモとかいるんだろうか。
いや。こいつらには性別とかなさそうだし。『なんでそんな生産性のないことやってるんだッポ。訳がわからないッポ』くらいには思ってそうだ。
「学園がどういうものかはわかったけど。いまから行って入学できるのか? できれば寮にも入りたいんだけど」
「学園はいつでも転校を受け入れていたはずクポ。寮の方も、たぶんイケるッポ」
俺の衣食住すべてが掛かっているんだから、そんなあいまいな憶測で語らないでくれ……。
「それにそんなにあせらなくても、一旦、自分の家に帰れば……ハッッ!!」
ここに至るまで、クリポヮは事態の深刻さを理解していなかったらしい。
はっとしたように見えなくもない顔から、すぐに真っ青になったようにも見えなくもない顔になった。
「何年、経ってると思ってるんだ。残ってるわけないだろ」
「ボクの契約後の悠々自適ライフは……」
「ねぇよ。んなもん。てかそんなこと考えてたのか」
愕然とした、ようにも見えなくもない表情で、クリポヮは落ち込んでしまった。
仕方ないので、コイツは放置して、当分の食料を探そう。
クリポヮの言い方から考えれば、その学園とやらはこの街にはないようだし、移動が必要となるだろう。
「なにやっているんだクポ?」
「いや何をやってるも何も、食料の確保だよ」
「それ、窃盗ッポ! 火事場泥棒クポ!!」
俺は半壊したスーパーの陳列棚から食料となりそうなものを入手していた。
客観的に見れば、もしかしたら火事場泥棒のように見えてしまうかもしれないが、どうせ街には誰もいないんだ。資源の有効活用と呼んでほしい。
「しょうがないだろ。食うモンにも困ってるんだから。俺が魔法少女として働いてみんなを守った分の前払いってことで」
「酷いマッチポンプを見ている気分だクポ……。なんだかアキラが怪人になった理由が分かった気がするッポ」
「マッチポ……、ってなんだ?」
「知らなくていいクポ」
スーパーには、意外なほど新鮮な生鮮食品が残されていた。
停電しているので肉類はちょっと怖いが、野菜などと合わせて大丈夫そうなものをいくつか見繕った。
パンコーナーを回っておかずになりそうなものをさらに数点。
お菓子は少し迷ったがあきらめた。かさばるからだ。
俺がいつのまにやら着ていた魔法少女のコスチュームにはポケットがない。レジ袋に入れて両手で持つ分がせいぜいだ。
「壊されたばっかりって感じだな。この街が廃墟になってからどれくらい経ってるんだ?」
「一日も経ってないクポ」
「へ?」
そんな具体的な情報が出てくるとは思っていなかった俺は、変な声を出した。
「いや、どんだけ広いと思ってるんだ? それを一日?」
この今、俺がいる街はかなりの大都市だ。
遠くには崩れた巨大なビル群も見える。
あそこまで遠く広がる街を、一日もかからずに破壊しつくしただって?
「アキラだった怪人は、ウォーボーンと呼ばれていたクポ」
「ウォーボーン……」
戦争の骨? って意味だろうか。変な名前だ。
「"
もしかしてコイツ、俺の思考を読んでるんだろうか。
「戦争の申し子?なんて言われるくらいなんだから、どっかの国と大規模な戦争でもしたのか?」
「国なんてレベルじゃないクポ。ウォーボーンは全世界を相手取って戦争を起こしたんだッポ。その末に、人類は一度、ウォーボーンに敗北したんだッポ」
「強すぎだろウォーボーン。って、それ俺なのか……」
他人事な世界の歴史みたいに言ってるけど、そのやらかしまくったウォーボーンは俺らしいのだ。
「で、でも、まだ人類は生き残っているんだろ? こんな風に街だってあるんだしさ」
「それはウォーボーンには、人類を支配する気がなかったからだッポ。今では、ただ戦争がしたかっただけだったんじゃないか、とまで言われているクポ。だから人間は今でもウォーボーンに目を付けられないように大規模な軍事組織を持っていないんだッポ」
「軍がないって、街を防衛する軍事力もないのか?」
「それは、ヒーローやボクたちみたいな魔法少女の役割だッポ」
もはやこの時代の国家には、国同士の戦争なんてものはやる余力もないッポ、とクリポヮは付け加えた。
たしかに、攻めてくる仮想敵国もないのであれば、軍なんて持つだけ無駄だ。
自国の防衛、つまり現在で言うならヒーローなどの超能力者の発見とその教育に力を注いだ方がよっぽどいい。
「まあ、最高クラスの危険度のアポカリプス級怪人なんて、まともに相手するのが馬鹿らしくなるくらい強いから逃げた方がいいクポ」
「そんなに強いのか」
「強いなんてもんじゃないッポ。ウォーボーンを例にすると。ウォーボーンには、敵対者の能力に適応し、対処し、模倣し、改良し、増産する能力があるんだッポ」
能力は1怪人につき1つとかじゃないのか。
「え、いや何個能力あるんだよ」
「能力という数え方は微妙クポ。ただ、うーんまあ、簡単に言うと、こっちの攻撃は何も効かず、コピーされた挙句、上位互換を作り出して、それを大量生産して数の暴力で殴ってくるッポ」
それ、強いを通り越して理不尽すぎないか。
しかもそんな最高クラスの怪人は複数いるらしい。
よく世界、というか人類が滅びてないな。
「アポカリプス級の怪人は17座と呼ばれていて、全部でそれくらいいるとされているッポ」
「でも、それもこれからは16座だな。ウォーボーンはいなくなったんだろ?」
「いや、そうとも言えないクポ……。さっきウォーボーンの特徴には増産があるって言ったクポ。実はそれには自分自身も含まれるんだッポ」
そう言って、クリポヮはスマホのような端末を取り出した。
端末の画面には地球を開きにしたような地図が映っていて、いくつかの光点が世界中に散らばっていた。数にして20はくだらない。
そのうちの一つをタップすると、ポップアップに画面が映る。そこには鉄の塊のような巨大な怪物、ウォーボーンが映像に捉えられていた。
おそらく、その光点全てが複製されたウォーボーンということなのだろう。
しかし、そうなると気になることがある。
「俺ってさ、コピーされた偽物なのか?」
「まあ、その可能性は大いにあるッポ。でも、怪人となったアキラにはとくに意識なんてないみたいだから、べつにオリジナルだと思ってても構わないんじゃないッポ?」
映画一本は作れそうなテーマを、クリポヮはサラッと流した。
たしかにオリジナルがどうとかよりも、今ここに俺の自意識があることが重要だろう。
「まあいっか。それで、その学園とやらはどこにあるんだ?」
「びっくりするくらい切り替えが速いんだッポ」
「だって、クローンとかそんなこと、いつまでも考えていても仕方ないだろ?」
結論が出る見込みもない哲学的な話を考えていても、頭が痛くなるだけだ。
対してクリポヮは一瞬考えるようなそぶりを見せた。
「話を戻すと学園は、ぶっちゃけ歩いていくには遠すぎるから、先に魔法少女として最低限の能力を習得して、移動手段を覚えてからにするのがオススメクポ」
「ヘェ。修行パートってわけか」
「だれないように、さっさと終わらせてほしいッポ」
それは師匠たるクリポヮにかかってる部分もあるんじゃないか?