「ふあぁ〜〜〜。」
雲ひとつない、気持ちのいいほど青々したお空を見上げると、思わずあくびが出てきてしまった。
今日はなんて素晴らしいお昼寝日和なのだろう。
わたし、彼方ちゃんは、愛用の枕さんとともに、学園のとある場所でのんびりと過ごしている。
ここは草がふわふわしていてとても寝心地がいい、最近見つけた私のお気に入りのお昼寝スポットだ。
ここからはグラウンドが見える。普段はソフトボール部が使っているけど今は誰もいない。
年度末も近い今の時期は活動をおやすみしている部活・同好会も多い。私の所属するスクールアイドル同好会も、しばらくの間お休み期間だった。
そういうこともあって、最近はよく、ここでのんびり過ごしているのだ。
「ふぁ、眠くなってきちゃった…、おやすみなさい〜。」
私の意識は夢の中へと落ちていった…。
…………た
………なた
……かなた〜
…んん?誰かが彼方ちゃんを呼んでいる〜…?
私は私を呼ぶ声に意識が目覚めた。
私は目を開けた。
目の前には果林ちゃんがいた。
「あ、やっと起きた。」
「あれぇ、果林ちゃんどうしたの〜。」
「もう遅い時間よ、そろそろ帰った方がいいんじゃない?私は寮だから大丈夫だけど…。」
そう言われ辺りを見るともう暗くなってきていることに気づいた。
「本当だ〜、もうこんな時間。ありがとう果林ちゃん。…あれ?でも果林ちゃんはどうしてここが分かったの?」
「たまたまよ、たまたま。最近モデルの仕事が忙しくってね…。どこかゆっくりできる場所はないか探していたら、ここに辿り着いたのよ。」
「そっか〜、果林ちゃんもこの場所に気づいちゃったか〜。彼方ちゃんもここを見つけたのは最近なんだけどねぇ。いい場所だよね〜。」
「ええ、広々していて、色々な景色も見えて、のんびりするには最適な場所ね。…彼方は最近はいつもここにいるの?」
「うん、いるよ〜。果林ちゃんも疲れたらまたここにおいでよ。一緒にのんびりしよ〜。」
「ふふっ、そうね。そうさせてもらうわ。」
それから、果林ちゃんは度々この場所を訪れるようになった。
そして、いつからか、このお気に入りお昼寝スポットで、私と果林ちゃんの2人でのんびりするのがいつもの事になっていた。
この通りはあまり目立たない場所だけれど、校舎や部室棟や、グラウンドとか色んな場所と繋がっているから、時おり人が通ってくることがある。そんな色んな人たちを眺めながらのんびりしているのも結構楽しいのだ。
とかとか考えてるうちに今日も誰かがここにやって来たみたい。
あれは、…この学校に住んでいる小さな白い猫さん、はんぺんだ。
はんぺんが私達の前にちょこんと座った。
「あら、はんぺんじゃない。どうしたのかしら。」
「お腹が空いちゃったのかなぁ、ごめんね、今なにも持ってないんだ。お詫びによしよししてあげよう〜。」
はんぺんの頭を撫でてあげる。はんぺんは目を閉じて気持ちよさそうだ。
そうしてしばらく私たちははんぺんと遊んでいた。しばらくするとはんぺんは疲れたのか、私と果林ちゃんの間に立ち、ごろんと寝転んだ。
「寝ちゃった見たいね。ふふっ、はんぺんもこの場所がお気に入りなのかしら。」
「そうみたいだね〜。今日は3人でおやすみしよっか〜。」
「ふふ、そうね。おやすみ、彼方、はんぺん。」
「おやすみ〜」
すやぁ…
翌日
今日はやることがいっぱいあって、いつもより遅くなったけど、私はいつもの場所へ向かう。
そこには既に果林ちゃんがいた。
「果林ちゃん、おはよ〜。」
「おはよう、彼方。珍しくいなかったから驚いたわ。」
「今日はやることたくさんあって大変だったんだ〜。果林ちゃんがここに1人でいるのもなんだか新鮮な感じ〜。」
「もう気がついたら自然と足がここに向かっているのよね…。私、ここが好きになったみたい。」
「果林ちゃんがこの場所を好きになってくれて彼方ちゃんも嬉しいぜ〜。」
そんなふうに果林ちゃんと何気ない会話を交わしていると、辺りから歌声が聞こえてくる。
ラララ〜ラ〜ラ〜ララララ〜ラ〜ラ〜♪
声の方を見てみると、エマちゃんが歌を唄っていた。
周囲に草花が咲き誇る場所で、エマちゃんはくるくると回転しながら歌っている。
「…綺麗ね、エマ。」
「うん。…とっても可愛い。それに、エマちゃんの透き通るような歌を聴いてると気持ちよく眠れそう…。」
うとうとしながら眺めているとエマちゃんの傍に歩夢ちゃんが寄って来ていた。
「こんにちは、エマさん。」
「歩夢ちゃん、こんにちは。ここでどうしたの?」
「私は、お花を探しているんです。綺麗なお花がたくさん咲いている場所がないか探していて…。」
「そうなんだね。…でも、どうしてそんな場所を…?、もしかして、あの子に…?」
「え?えぇ!?、と、そそそ、そんなんじゃなないでデスよ?」
エマちゃんの言葉に凄く動揺する歩夢ちゃん。
「…わかりやすいわね…。」
「うん。」
動揺しながらも歩夢ちゃんは言葉を続ける。
「え、えーと…、もうすぐあの子の誕生日なので、何かプレゼントしたいなーと思って。それで…。」
「ふふっ、そっか。…ねぇ歩夢ちゃん。私、向こうの方にね、綺麗なお花がたくさん咲いてる場所知ってるの。だから、一緒に行ってみない?」
エマちゃんの言葉に歩夢ちゃんの表情がパーッと明るくなる。
「エマさん…!ありがとうございます。一緒に行きましょう!」
2人は遠くの方へ向かって行った。
「いい場所が見つかるといいわね。」
「そうだね〜。」
エマちゃんの歌で既に眠たくなっていた私はそのまま眠りについた。
すやぁ…。
翌日
「今日もいい天気ね。」
「うん。ぽかぽかで気持ちいいねぇ。」
いつもの場所でいつものように、私は果林ちゃんと何気ない会話を交わしていると、遠くの方に、かすみちゃんの姿が見えた。
かすみちゃんはニヤニヤしながら、何やら怪しげな封筒を持って、校舎の方へ向かっている。
「かすみったら、また何かいたずらしようとしてるわね。全く懲りないわねぇ…。」
はぁーと、呆れた感じで果林ちゃんはかすみちゃんを眺めていた。
そして、しばらくすると。
校舎の方からかすみちゃんが戻ってきて
「ぴええぇ〜ん。なんでかすみんが~!こんな筈じゃなかったのにぃ〜!」
と、ぴええぇ〜んと、可愛く(?)泣き叫びながら、さっきとは逆方向に向かって去っていった。
「また失敗したのね…」
「あはは〜。」
それからしばらくすると、今度は栞子ちゃんの姿が見えた。
栞子ちゃんは、なにやらはんぺんとお話ししているようだ。ニコニコとしながらはんぺんの頭を撫でている。
はんぺんが突然走り出すと、栞子ちゃんは、待ってください〜と言いながらはんぺんを追いかけて行った…。
「栞子も、可愛いところがあるわね。」
「うん。そうだね〜。」
栞子ちゃんの可愛い一面を見て、ほっこりしていると、びゅおおおーと、突然とても強い風が吹いた。
「凄い風ね…」
「そういえば今日風が強くなるって天気予報で言ってたかも…。」
そう言ってるうちに風が少し収まってきた。
「あら?彼方、風で髪がちょっと広がってしまっているわね。…よし!果林お姉さんが手入れしてあげるわね。」
果林ちゃんは鞄からヘアブラシを取り出して、私の髪を直してくれる。
「えへへ、ありがとう果林お姉ちゃん。」
果林ちゃんの優しい手使いが、とても心地良くて、私はそのまま眠りについてしまった…。
すやぁ。
翌日
……ん、んん。
何かがお腹の上にのっている感じがする。それになんだかいい匂い…。
その匂いにつられ目を覚ます。
見ると、お腹の上にハンバーガーが置いてあった。
果林ちゃんも目が覚めたようだ。
そして、私の隣にはミアちゃんもいて、果林ちゃんの隣にはエマちゃんとはんぺんもいた。
「Good morning. おはよう彼方、果林。」
「おはよう、彼方ちゃん、果林ちゃん。」
「あれぇ、みんなどうしたの〜」
「ボクは、ここで作曲してたんだ。そしたら2人が寝てるのをみつけたから来たんだ」
「私ははんぺんとお散歩してたらここに来てね。皆がいるの見つけたから来ちゃった」
「そうだったのね。ところでこのハンバーガーは?」
「それは、ボクのハンバーガーだよ。今日はたまたま4つ持ってたからさ、だから、その…、あげるというか…、よ、良かったら、みんなで食べようよ。」
少し恥ずかしそうにミアちゃんはそう言った。
「ミアちゃんありがとう〜!とっても嬉しいよ〜。それじゃあ、みんなでお昼ごはんにしますか〜。」
果林ちゃんとエマちゃんもうん!と頷いた。ミアちゃんも嬉しそうに微笑んだ。
そんな中、はんぺんが私達を羨ましそうに見ている。
「あ、はんぺんの分どうしよう…。」とエマちゃんが言った。
「大丈夫だよ〜。じゃーん!この前の事もあって、彼方ちゃんは、はんぺん用のごはんをいつも持ち歩いているのだ〜!」
私は鞄からはんぺん用のお皿とご飯を出し、はんぺんのご飯を準備した。
そうして私たち5人はのんびりとお昼ご飯を食べたのだった。
みんなで食べるごはんはおいしいな〜。
「あ、見て!愛ちゃんが私たちに手を振ってくれてるよ!」
エマちゃんがそう言ってグラウンドの方を見て手を振っている。グラウンドでは愛ちゃんがソフトボール部と一緒に試合に出ていた。
私たちも愛ちゃんに向けて手を振り返した。
「Excellent…全ての打席でしっかりヒットを打って、守備も隙がないほどに上手い。チームとの連携も完璧だ。凄い選手だな愛は…、ソフト部が助っ人に欲しがるワケだ…。」
と、ミアちゃんが感心したように呟いていた。
「ふぁ〜。食べたら眠くなってきちゃった。」
「それじゃあ皆でお昼寝しよっか。」
「そうね、そうしましょ。」
皆で寝る準備をする。そんな中ミアちゃんがなにやら呆れた様子で言った。
「…いつも思うけど、外で寝るなんて器用だよね、みんな…。」
「そう?ミアちゃんは寝ないの〜?ふかふかで気持ちいいよ〜。ほら、はんぺんも気持ちよさそうに寝てるよ。」
「う…、きょ、今日だけだからねっ。」
そう言ってミアちゃんも眠りについた。
この日は暗くなるまでずっと5人一緒だったのだ。
すやぁ…。
それからも、このお昼寝スポットでの、私と果林ちゃんの日常は続いた。
璃奈ちゃんとしずくちゃんが楽しそうにお散歩していたり。せつ菜ちゃんとランジュちゃんがアニメごっこ(アニメのキャラの真似)していたり。
この場所から見られる同好会の皆の姿は、同好会の活動の時とはまた少し違う、普段の姿。そんなみんなも好きだなぁ〜と思う。
そんな事を思いながら過ごしていたある日、果林ちゃんが言った。
「この場所で彼方と過ごし始めてから結構経つわね…。」
「そうだね〜。」
「ねぇ彼方、私ずっとここで過ごして、皆を見て、思ったの。私この学校に来てよかったなって。皆のことが好きだなって改めて感じたわ。」
「果林ちゃん…。うん、私も同じこと思ってたよ。」
「ふふっ、それは嬉しいわね。…それにね、私、大切なモノが1つ増えたのよ。」
「果林ちゃんも?私もだよ〜」
「あら、こっちもお揃いね。彼方の大切なモノって何かしら」
「それは〜、果林ちゃんが教えてくれたら教えてあげる〜」
「それじゃあ私は、彼方が教えくれたら教えてあげるわ」
「え〜なにそれ〜」
「ふふっ」
「ふふふっ」
……。
…、んん。
あれ、気づいたら眠っていたみたい。
隣を見ると果林ちゃんもちょうど目が覚めたようだ。
そして、私の隣にはもう1人眠っている子がいた。
…あの子だ。
あの子の胸の上には開かれたノートがあった。
開かれたページには、同好会の皆のそれぞれの、宝物が書かれている。その内容が埋まっていないのは、私と果林ちゃんの部分だけだった。
「そういえば、最近皆に聞き回っていたわね、新曲の参考にするって。」
「きっと、私たちに聞こうと思って、待ってくれていたんだね。」
そして果林ちゃんがふふっと笑いながら言った。
「それじゃあ、書いてあげましょうか。私たちの、宝物をね」
果林ちゃんはノートに書いた。
書き終えるとはい、と私にノートを渡す。
果林ちゃんの書いた宝物。それは、私が書こうとしているものと同じだった。
私もノートに宝物を書いた。
その内容は… 『この学校の お気に入りのお昼寝スポット』
書き終えた私は、ノートをあの子の胸の上にそっと戻した。
「ねぇ果林ちゃん、彼方ちゃんが何て書いたかわかる?」
「見なくても分かるわ。彼方、アナタの顔を見れば、ね?」
「えへへ〜そうかな〜」
「ふふっ。…いい曲ができるといいわね。」
「うん。この子のことだからきっと凄い曲を作ってくれるよ。」
私と果林ちゃんは草の上に寝転がる。
「…こんな幸せな時間が、ずっと続いてほしいわね。」
「私は果林ちゃんと一緒なら、いつだって幸せだよ。」
「ふふっ、私もよ、彼方。」
そして、また日が暮れていく。
今日も私達は、大切なこの場所で、大好きな友達と、のんびりと日々を過ごしている。