SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish   作:ゴリニティ75

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#6
第23回 暗・雲


 

灯りの消え掛かっている室内では、パソコンのモニターの光だけがうっすらと彼女の周囲を照らしている。

 

「また…負けた…」

 

怪獣の創造主であるコピーはモニターに映るゴウ・リタガドールが撃破されるのを見て、虚な瞳で椅子にもたれかかった。

 

「…あんなのずるいじゃん!」

 

未だコピーはグリッドナイトに勝利したことがない。

 

自身の創った怪獣が片っ端からやられていく。

 

その度に彼女は苛立ちを覚えさらに怪獣に憎悪という名の情動を注いでいく。

 

今回もその怒りが抑えられなくなり、自身の感情のままに机を足で思い切り蹴り飛ばす。

 

机の上の粘土やバロックがキラキラと宙を舞い、バラバラと虚しい音を奏でた。

 

「…まぁまぁ〜♪イレギュラーの介入があったとはいえ、ゴウ…リタガドールはよく善戦できてて私は良かったと思いますよ〜♪」

 

バスターボラーが突如現れた際は顔を歪めていた望美だったが今はいつものにこやかな顔へと戻っていた。

 

「…ノゾミさんは…もう大丈夫なんですか…?」

 

「あー…♪はいっ♪安心してください、ちょっとびっくりしちゃっただけですよ〜♪」

 

そう言ってコピーの頬を両手でムニムニと触り始めた。

 

 

「…わざわざあっちから出向いてくれるなんて♪バカですね〜★」

 

コピーにも聞こえないほどの小さな声で望美は怪しくにやけ呟いた。

 

 

「…何か言いました?」

 

「いえ何も〜♪それより…もっとすごい怪獣を創っていきましょーっ♪」

 

望美は今回もコピーを励ます。

 

穏やかな口調で、甘い言葉をかけながら。

 

甘い樹液に吸い寄せられる昆虫のように。

 

自分のことを想ってくれる彼女に応えるためにコピーは怪獣を創り続ける。

 

それが望美の表面上だけの言葉とも知らずに。

 

 


 

 

怪獣により傷ついた街を瞬く間に修復していく不思議な光。

 

光の名は《聖なる光》。

 

それはフィクサービームとは似て非なるもの。

 

フィクサービームは破壊された街を、世界を修復するための光。

 

対して聖なる光は破壊された世界に、新たな世界を創造する光。

 

その光は死んでしまった生命でさえも甦らせる。

 

生命は本来一つでなければならないのに。

 

その蘇った生命は本当に元の生命なのか。

 

それを知る者はまだこの世界には存在しない。

 

 

◾️

 

樹がグリッドナイトとの合体を解除し、パソコンから飛び出す。

 

「…その…さっきはごめん」

 

太陽がゴウ・リタガドールに飲み込まれたとき、樹は親友を失ったという事実を受け入れられず放心状態になってしまった。

 

結果的にはライラとボラーの乱入により事なきを得たが、もし二人が来なかったら今頃街は、世界はどうなっていたか容易に想像できる。

 

「友を失いそれを受け入れられない…そう思うのは必然だ。だがそれが戦いの中で迷いに繋がる事は無いようにしろ」

 

今のグリッドナイトはナイトと樹の二人の心が一つとなってようやくその真価を発揮できる。

 

二人の心が合わさらなければ当然、力は発揮できない。

 

「お前が迷っている内に被害を出してからでは遅いぞ」

 

いつになく真剣な表情で放ったナイトの声が、樹の心へと刺さった。

 

「…うん」

 

 

わかっていた。

 

怪獣と共に戦っていればいつか仲間を失う可能性もあるということに。

 

最前線で戦う。それは危険と隣り合わせな状況だ。

 

なのに自分たちなら大丈夫だという自負があったのだ。

 

今思えば、その考えはどこから来たものだったのか。

 

自分に特別な才能などない事など、少し考えればわかるはずだろうに──。

 

怪獣とて生き物なのだ。

 

自身の使命を全うするために、生きるために戦っている。

 

それの目の前で戦意を喪失するというのは絶対にあってはいけないものだ。

 

樹が今一度、戦うことの意味について考えていた、その時。

 

パソコンからもう一本の光の矢が飛び出してきて、樹の背中に激突してきた。

 

「ってぇっ!!!」

 

光に押し倒され、うつ伏せの状態で床に倒れる。

 

「…来たか」

 

まるでパソコンから飛び出してくるのがわかっていたかのようにナイトは小さく呟く。

 

「うぅん……。………!?子、…供?」

 

樹は自身の背に乗る存在を見て驚く。

 

レックスと同じスーツに身を包んだツインテールの小学生のような人物が出現していたのだ。

 

…いや小学生が背に乗っているなら寧ろこの状況ご褒美では…?

 

と思考が完全に犯罪臭がするのでここらへんでやめておく。

 

生憎、俺はそっち系の趣味は持ち合わせていない。

 

「誰が子供だぁ?やんのかこのヤロー」 

 

その小さな体躯が見るからに不機嫌になっていくのがわかった。

 

ドスの利いた…とは到底言えないような可愛らしい声だが、発している言葉はなかなか棘がある。

 

まるで絵に描いたようなヤンキーのセリフでガンを飛ばしてきた。

 

…いや格好的にはヤクザか?

 

その姿に驚きつつも一応謝罪をしておく。

 

「…あっ…すいません」

 

「おう」

 

即座に謝った樹に、腰に手を当ててふんぞり返っている。

 

どうやらすぐに機嫌が直ったようだ。

 

「んでお前…名前は?」

 

「…新条、樹…です」

 

「…ふーん」

 

樹を奇異な目で見つめながらボラーは黙り込む。

 

そんな目で見続けられ、耐え難くなった樹は目を逸らす。

 

「まぁ…いっか」

 

ナイトに自身の名前を明かしたときと似たような空気を感じたが気のせいだろうか。

 

俺…そんな変わった名前してんのかな?と思うがまぁ気にしないでおく。

 

「で、ナイトのヤローはどこ行った?」

 

「…こっちだ」

 

「なんだよ、いるなら声かけろ…よ……?」

 

威張った態度で声がした方へと視線を移した後、面を食らったように動きを止める。

 

しばらくそのまま硬直したまま、なんとも言えない空気が室内を支配し始める。

 

だがそれは一瞬で破られた。

 

 

「だははははっ!!おまっ!グリッドマンみてぇになってやんの!」

 

「…おい」

 

パソコンに映るナイトを指差し、腹を抱え笑う。

 

それを心底嫌そうな顔で睨むナイトを見て軽く悪寒がする。

 

前にダル絡みをしてアクセプターから電気ショックを食らったことが記憶に新しい。

 

しばらく笑われた後、完全に放置されていた樹にナイトがボラーを紹介した。

 

「こいつはレックスと同じ新世紀中学生の…ボラーだ」

 

「ん」

 

「は、はぁ…」

 

スーツを着ている時点で大方そうだろうと察していたが、予想通りすぎて寧ろもう少し何かを期待してしまう。

 

「まぁ…何はともあれよろしくな。…樹っ!」

 

ボラーと呼ばれた彼は、言い終わりに足を振り上げ樹の脛へと思いっきり蹴りを入れた。

 

「"いっっだっっ"!!」

 

脛に強烈なトーキックを受け、悶絶しながらボラーへと文句を言う。

 

「…いきなり何するんすか!?」

 

「…すまん、なんかつい癖で」

 

ボラーは笑いながら頭をポリポリとわざとらしく掻く。

 

…ぜってぇわざとだろと若干恨みの念を持つ。

 

 

「…じゃっ、じゃぁ…積もる話もあるだろうし…俺はこれで…」

 

珍しく気を利かせ、脛を蹴られた足を引きずりながら樹は教室を去っていく。

 

「おう、今日はあんがとなー」

 

手をヒラヒラと振り、樹を見送る。

 

樹が完全に帰ったのを確認すると、デスク用チェアの背もたれ部分に手をかけ逆座りをする。

 

 

「ふぅ……で何が起こってる?」

 

先程までの態度と一変、ボラーは声を低くしていつになく真剣な顔で話し始めた。

 

 


 

 

「改めて…さっきはありがとな、ライラ」

 

「…だから…大丈夫だって…もう」

 

先程から何回もこうして太陽たちから感謝の気持ちを伝えられ、ライラももううんざりしてきていた。

 

「でも…本っ…当に…良かった」

 

全員を自身の腕で抱き寄せ、口端を吊り上げレックスは嬉しそうに笑う。

 

「おうおう!なんかチームっぽくなってきたなおい!」

 

その言葉を言った瞬間、レックスにまるで頭を何かに刺されたかのような痛みが襲う。

 

「ってぇぇ…なんだ…これ…」

 

足はふらつき立っていられず、その場に倒れてしまう。

 

「レックスさん?!」

 

ノイズが酷く砂嵐のような風景がレックスの頭にフラッシュバックする。

 

 

 

ねぇねぇ隊長隊長!このメンバーでLINEのグループつくりましょうよ!

 

 

今更感あるけど…俺はいいと思うよ。みなみさんとこよみさんは?

 

じゃあ私は… よもぎくんと一緒で賛成でいいよ

 

あぁー…まぁ休みの連絡とか入れやすいしいいか

 

じゃあ決まりっすね!グループ名は……そう!ガウマ隊!!

 

 

肝心な名前の部分にノイズがかかり、よく聞きとることはできなかった。

 

(なんだこれ…誰だこいつら…これは…俺の記憶…?)

 

脳裏に映る景色は相変わらずよく見えないが、辛うじて4つの人影を見定める。

 

(あんたらは…誰だ…?)

 

忘れてはいけないかけがえのない奴ら…そんな想いがレックスの中に溢れてくる。

 

(…お前らは……)

 

 

 

「─────さん、レックスさん」

 

「はっ…!」

 

太陽の声によって眩暈が和らぎ、徐々に気分が悪かったのが治ってくる。

 

「大丈夫…ですか?」

 

響子は心配する様子を見せ、ライラはレックスを気遣い背中をさすってくれている。

 

「…あぁ…もう大丈夫…だ、ありがとな」

 

不思議ともう今は体調にどこも支障はない。

 

やはり少し眩暈がしただけだ…今はそう思い込むことにした。

 

 

 

「んんっ…じゃあ気を取り直して…これからよろしくなライラ!!」

 

意気揚々とライラへと手を差し伸べるレックス。

 

だが、ライラは下を向いたまま黙り込んでしまっている。

 

なんでだ?と首を傾げ、声をかけようとしたところでライラが口を開く。

 

「その話だけど……ごめん…アタシは…戦えない…」

 

「うんうんこれからよろしくって……え?」

 

「…そりゃあどういう…」

 

ライラの口から放たれた言葉に一同は驚きの表情を見せる。

 

「アタシはあくまでも観測者じゃないといけない…今回は特別に手を貸しただけだから…」

 

頭に被っている長帽子をガサゴソと漁りだし、中からダイナストライカーを取り出す。

 

「これは…アタシが責任を持って新しい適合者を見つける…」

 

毅然と顔をあげ、太陽たちの目を見て言い放つ。

 

「でも…これでお終い」

 

先程までの彼女と一変し、冷酷な表情を見せる。

 

彼女の目にはもう初めて会ったときの笑顔、ファミレスで共に語ったときの好奇心溢れた明るい輝きは消えていた。

 

ただひたすらに冷ややかな視線がこの場にいる全員に注がれる。

 

「だから…アタシにはもう関わらないで」

 

雪解け水のように清冽で、しかし凛と厳しい声で短くそう告げると、ライラはその場から離れていく。

 

「っ…」

 

納得がいかないと太陽たちは彼女を呼び止めようとするが、何故か出来ない。

 

脚がすくんでしまっていたのだ。

 

彼女の今まで見せたことのない表情を見て。

 

そうしている間に、ライラは遠くへと歩いていく。

 

 

 

これでいい。

 

これでいいんだ。

 

自身にそう言い聞かせるようにライラは独り歩いていく。

 

行き過ぎた干渉。それはやがて破滅をもたらす。

 

だから…今のうちに関係を絶っておかなければならない。

 

彼らの不思議な音を自分はただ遠くから聞ければそれでいい。

 

遠くからずっと…見て…いれば…

 

ト音記号を模ったワッペンを強く握り締め、ライラは夕日に向かって歩いていく。

 

みんな…ごめんね。

 

自分でも気づかないうちに目元に無数の涙が流れていた。 

 

 

「ライラ…」

 

そんな彼女のどこか切ない背中が、太陽の頭から離れなかった。

 

 


 

 

「……なるほど…な」

 

レックスが記憶喪失になっていること、そしてキャリバーが敵となっていること、そして自身の身に起こっていることを伝えた。

 

「恐らく…マックスとヴィットも相手の手中にあると考えていた方が良さそうだな」

 

キャリバー同様、ほかのアシストウェポンたちも黒幕の手に渡っていると考えるのが自然だ。

 

だがそれだと何故レックスだけが無事…(記憶喪失だが)だったのかと疑問が出てくる。

 

「…ったく何勝手に洗脳なんかされてやがんだよ…」

 

そう毒吐きながらボラーは表情を曇らせる。

 

「それと…奴との戦闘中に感じたことがある」

 

「…まだあんのか?」

 

「奴のあの異常なまでの力…異形の姿…まるで怪獣だ」

 

ゴツゴツとした鬼の金棒に近い形状、峰にあたる部分には竜の角のような突起。

 

もはやそれはキャリバーと一目で見分けるのは難しい程に変わっていた。

 

残っていた部分は鍔部分の宝玉ぐらいで、ほとんど元のキャリバーの原型を留めていなかった。

 

「……怪獣…ねぇ」

 

アシストウェポンが怪獣へと変えられたと目の前で言われ、半信半疑の目を向けるがナイトの顔を見る限り嘘ではなさそうだ。

 

 

 

「恐らく黒幕は…」

 

ナイトの声に続けるようにボラーは口を開く。

 

「…俺たちのことを熟知しているやつ…か」

 

ボラーの脳裏にアレクシス・ケリヴやマッドオリジンの姿が甦る。

 

「あーあと、ゴルドバーンはどした?」

 

「…一緒じゃないのか」

 

てっきり二代目たちと一緒にいると思っていたナイトだったがどうやら違っていたようだ。

 

パソコンで目を覚ます前に合体していた筈だが、このパソコンの中にゴルドバーンの姿はない。

 

ゴルドバーンもこの世界のどこかにいるのかもしれない。

 

どっちにしろ問題は山積みだ。

 

「なぁ…一つだけ文句言っていいか…」

 

話にケリをつけ、椅子から離れると窓を開けて思いっきり叫んだ。

 

 

「くっそめんどくせぇーっ!!!」

 

 


 

鶴傘公園内の水辺が見えるベンチで、ライラは1人俯いていた。

 

「……アタシは…」

 

「あー!★や〜っと見つけた★」

 

不意に後ろから声がして、ライラはハッと後ろを振り返る。

 

艶やかな紫色の髪、まるでこの世の人間全員を魅了するかのような美貌をもった少女がそこに立っていた。

 

…音が全くしなかった。

 

生き物であれば誰しもが必ず感情の音を発する。

 

人間だろうと動物だろうと、植物、機械、怪獣ですらも。

 

だが今目の前にいる少女からは何の音も感じない。

 

アタシが音を聞き逃すなんてことは決してない。

 

ニコニコと笑顔を振り撒いているが、その笑顔には何もない。何も感じられない。

 

そう"虚無"なのだ。

 

この子は……?

 

「ちょっといいですか〜♪そこの可愛いお・じょ・う・さん♪」

 

 

紫の暗雲がライラへと立ち込めた─────





余談)ボラーはナイトに対してあんまり友好的じゃないらしいです(小説談)

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