SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish 作:ゴリニティ75
願わくばアレクシスも…出しとクレェ!!
空気に、匂いがある。
覚醒直前の断片的な思考のなかで、ふとそんなことを意識した。
鼻腔に流れ込んでくる空気には大量の情報が含まれている。
甘い花の匂い、青々とした草の匂い、胸を洗うように爽快な木々の匂い、そして車の廃棄ガスの匂い——
…最後のは余分だった気がする…
そんなことを思いながら、樹はゆっくりと瞼を開いた。
「どこだ…ここ」
少なくとも先程まで怪獣と戦っていた場所ではないことだけは明らかだ。
そして自身の身体に視線を落とす。
…なんか俺…小さくね…?
なんと説明したら良いのかわからないが、大まかに伝えると自身の視線が低いのだ。
まるで身長が子供の頃に戻ったかのように。
自身の身体に違和感を感じていると、もう一つ異変に気づく。
「…あれ…アクセプターがない…」
逆の腕も、ポケットの中も探すがどこにもない。
…というか俺さっきまでグリッドナイトになってたよな…なんでこんなところにいるんだよ…
…ほんと何がどうなって——
懸命に頭を巡らせていると不意に後ろから声がかけられる。
「「樹」」
その声に身体の全神経が逆だったかのような感覚に襲われる。
突然声をかけられ驚いたからではない。
そのもう忘れかけていた声に、樹の身体が、心が反応したのだ。
「…父さん…、母さん…?」
声を震わせ、何度も瞬きを繰り返す。
「樹、大丈夫?」
いつも俺のそばにいてくれて、どんなことも真剣に聞いてくれた、優しい母さん。
「怖い夢でも見たのかい?」
厳しくも、どこか子供っぽくて面白い父さん。
そんな2人を見ていると、不思議と胸のうちから何かが溢れそうになる。
「樹、どうした?怪我したのか?」
「大変!早く痛いところ見せて!」
自分でも気づかないうちに、滲んだ無数の涙が頬を伝っていた。
だって父さんも母さんも…昔……むか…し…
…何かあったっけ…
あれ…俺…さっきまで何考えてたんだ…
「あれ…どうしてこんなところに…」
視界が開くと、太陽は公園に居た。
自身の腕の中には鮮やかな桃色をしたボールを抱えている。
…俺…あの時…怪獣の攻撃に—-
すると、
「太陽こっちこっち!」
「はやく来いよぉ!」
そんな声と共に、小学生ぐらいの少年たちが飛び出してきた。
太陽に手を振る彼らの顔はどれも顔馴染みのものばかりだ。
…そうだ…俺…今日…みんなで公園に遊びに行こうって言ってたんだっけ…
「太陽?どーしたー?」
少年たちは不思議そうな表情で太陽の顔を覗く。
「あ、あぁ……ごめん、今行く!」
口端を吊り上げるように笑うと、少年は駆けていった。
彼は戻っていく。在りし日の、少年の姿にへと。
「…くすぐったいほど夢が…胸の中で踊ってる…」
懐かしい子守唄だ。
「…手を伸ばそうよ…今明日へ—-っと…おはようライラ」
優しい腕の中で目を覚ましたライラは、その腕の主を臨む。
女性だ。
綺麗な栗色の髪、全てを見透すかのような銀の瞳。胸元にはト音記号を模したアクセサリーが着いている。
「目を覚ましたかい?眠り姫さん」
その女性の隣でライラを優しく覗く男性の姿があった。
こちらは濃い茶色の髪を揺らす、橙の瞳を宿している。
腕にはこちらもト音記号のマークが見える。
「…なんで………」
その2人は紛れもない。ライラの両親の姿であった。
何故、何が起こった、怪獣は…?
思考を巡らせていると、不意に心臓を掴まれるかのような独特の不快感がライラを襲う。
「カハッ!」
息がし辛い。自分が自分じゃなくなるような不快感。
この感覚は前に経験済みだ。
思考を妨げようとする痛みは、考えるのを辞めると同時に止んでいく。
…そういうことね…今回の怪獣の能力…大体わかった気がする…
どこか憂いに満ちた目で両親の姿を臨みながら、ライラはふと何かに気づく。
この世界は————-
車のエンジン音が間近で聞こえる。
「—-ちゃん」
車に乗っているのだろうか…?心地の良い振動が眠気を誘ってくるのを感じた。
「—-ちゃん、ねぇお姉ちゃんってば!」
何者かに、何度も身体を揺すられ響子は目を覚ました。
「奏…?」
自身の目を疑った。
病院にいるはずの妹が目の前にいる…それどころか、どこか幼く見える。
「…お姉ちゃん?」
そんな妹の姿を見て呆気に取られていると、奏は心配そうに響子を見てくる。
「お姉ちゃん大丈夫…?どこか痛いの?」
「…え?」
気づけば、涙が頬を伝っていた。
「なんで…」
手の甲で瞼を擦るが、涙は止まらない。
「ねぇお母さん!お姉ちゃんが泣いてる!」
「えぇ?!響子、大丈夫?ちょっとアナタ、車停めて」
「えぇ!ここ高速道路なんだけどなぁ…でも娘のためなら!」
「それはやめて」
まるでコントのような雰囲気で運転席に父と母が話していた。
その姿は今の両親とはまた違う、怪獣に襲われる前とも違う、どこか懐かしい姿がそこにはあった。
「……」
何が起きているのか理解できず、響子は頭を悩ませる。
…おかしい…この気持ちは何…?
…どうしてこんなにも胸が苦しいの…?
…あの怪獣はどこに行ったの?
窓の外を覗いても、怪獣の姿は見当たらない。
ダイナウイングもないし、それに—-
「新条くんたちは…?」
「…だぁれ?それ?」
「新条くんは学校の———って…あれ?」
思考を巡らせるが、だんだんと頭の中に霧がかかるような感覚に襲われた。
…新条くんって…誰だっけ…
…知らない天井だ。
「っ…あったまいてぇ…」
何かに殴られたみてぇに頭の中がズキズキ痛みやがる。
クラクラする感覚のなか頭を振りながら起き上がり辺りを確認する
…?どこだ…ここ…?
…見たところ…居酒屋…か?
明るい店内はどこも活気に溢れていて、みんな各々騒いでいる。
かという俺は御座敷で知らねぇ4人とでテーブルを囲んでいる。
ってぇなんで俺こんなとこいんだよ!?さっきまで怪獣と戦ってたはず…だよな?
自分の頬をつねってもちゃんと痛いと感じるし…
夢の中…にしちゃあよく出来すぎてるな。
…なんか美味そうな匂いが俺の鼻を刺激してくるし…
「…ん?」
とだいぶ頭が回ってきたところで俺は自分の身体へと視線を移して絶句した。
…なんだこのダッセェ服…白い軍服?に似たやつだ。
…なんか見ただけで軽く悪寒がする…
いつも着けてるサングラスもねぇし…って待て待て…ダイナダイバーもねぇじゃねぇか!
愛機がないことに気づき自身の身体中、身の回りを探す。
だがダイナダイバーは見当たらない。
どこいったんだよ…あれは"あの人"からの大切な……
……あの人って誰だ…?
「あ、起きた」
と俺から見て向かいの右手に座る、スタイルのいい女が喋りかけてきた、
「…?」
ぼーっとしている俺を見兼ねたのか、目の前の女は俺を心配そうに見てくる。
「…ねぇほんと大丈夫?ガウマってば急に倒れちゃったんだよ」
「ガウ…マ…?」
その名前には聞き覚えがある。
確か…ナイトたちと初めてあったときにもその名前を聞いた。
ってことは…俺はガウマって名前…なのか?
でも…ナイトとかボラーは俺のことレックスって呼んでたし…
「おうおうガウマァ…起きたか!ヒック」
赤のハーフモヒカンってやつか?…特徴的な髪型をした酒クセェやつが話しかけてきた。
なんだコイツやけに馴れ馴れしいな…。
…あれだ居酒屋によくいるオッチャンたちに似た雰囲気してる。
相当酔っているのか身体を前のめりに倒して向かい側に座る俺の肩をバシバシと叩いてくる。
「オメェもあの程度の酒で参っちまうとは…ガウマもまだまだだなァ!!ヒック」
「うるっさい…あとあんたは飲み過…ぎっ!」
明らかに痛そうな音を奏でながら、女はモヒカン野郎の脇腹めがけて肘打ちを繰り出す。
「ってぇ!!…何すんだよムジナ!」
脇腹を突かれて少しだけ酔いが醒めたのかモヒカン野郎がムジナと呼ばれた女に文句をぶつける。
「ちょっと…静かにしてよ、ほら…ジュウガあんなに気持ちよさそうに寝てるんだからさ」
「むにゃ…ガウマ…さん…」
俺の隣ですやすやと横に眠るマッシュヘアーの…ジュウガとか呼ばれたやつを覗きながら、ムジナは口を出す。
「そんなんだからお姫様にも「オニジャ…もうちょっと静かにできる?」って言われるんだよ。
…あ、もうお皿空じゃん…すいませーん焼き鳥とお酒の追加お願いしまーす」
「んなっ…ムジナてめぇもういっぺん言ってみろぉ!」
「焼き鳥とお酒追加で?」
「"そこじゃねぇっ"!」
モヒカン…オニジャと呼ばれたやつはムジナに食ってかかるが、それをムジナは軽くあしらいマイペースにメニュー表へと目を向けている。
「…ガウマ、大丈夫?」
そんなやつらを横目に、ゆったりとした口調で金髪の褐色肌のやつが水の入ったグラスを俺に渡してくれた。
「お、おぉ…サンキュー…」
渡されたグラスの中の水をしばらく見詰める。
…どうなってんだ…これ…
このような状況はこれで2度目か。
俺の目の前にはコンピュータの中と同じような闇が広がっている。
アクセスフラッシュが解けた、或いは先程の怪獣の能力によるものか。
後者ならば話は早い。
対象者の記憶の中にある苦い思い出…トラウマにつけ込み精神的に追い詰め、やがて対象者を崩壊させる。
粗方そんなような能力だろう。
嫌な趣味をしている。
ここに長居は無用だ。
腰のレプリナイトキャリバーに手を掛けようとしたそのときだった。
〈———-インスタンス・アブリアクション!!〉
今まで真っ黒だった視界が開き、目の前に少女と黒ずくめの者を見定めた。
「………ア…」
上手く声が出せない。身体が動かない。
頭ではわかっていたはずだ。こうなることは。
それなのに。
〈"アカネ"くん、今回はこれ…どういうコンセプトなんだい?人間…にしか見えないけど〉
「いやぁ〜前回までの反省を踏まえてみようかなっていう」
〈ほう…〉
「やっぱり自分で考えて学習する怪獣がいいのかなぁって、あと…いきなり剣?武器出してくるからさ〜グリッドマン」
〈そうだね〜ずるいよね〜アレは…こっちは手ぶらなのに!〉
「ね?だからグリッドマンの力をコピーできる能力を持ってるの!この子は!」
〈いいねいいねぇ、流石アカネくん〉
「えっへへぇ、やめてよアレクシス〜照れるじゃ〜ん」
〈いやいやお世辞じゃなくって…〉
「…じゃあ…もっと褒めても良いよぉ〜?」
「うへへへ」〈ハッハッハッハッハ〉
何が楽しいのか、神である少女は机を叩きながらけらけらと笑う。
それに合わせるように蒼き炎を灯す黒ずくめの者も、声を弾ませる。
「じゃあ…アンチ?私の命令は''絶対"だからね」
「…あぁ…わかっ…た」
自分でも気づかないうちにそう答えてしまっていた。
「ちゃんとグリッドマン倒すんだよ?」
「…必ず倒す」
あの時も、俺はこう言った。
〈…アンチ?〉
「そう、この子の名前。アンチ君」
新条アカネ、そしてアレクシスケリヴ。
そうか…俺はまた——————
「アハハハッ!みんな消えたミンナキエタッ!ハハハハッ!」
暗い部屋の中で、1人の少女の笑い声が響き渡る。
「コピーちゃん、今回の怪獣さんの能力はなんなんですか?…グリッドナイトさんたちの姿が消えちゃってますけど」
モニターに映し出された映像を観ながら望美はコピーへと問う。
「私、今回はいつもと切り口を変えてみたんです。いつもはただグリッドナイトを倒す!…ってことだけ考えて創ってますけど今回は…」
卓上のファンドを透明なボックスへと力いっぱい詰め込みながら望美へと説明する。
「今回は"封じ込める"ことを目的として創りました。まぁ…別に倒しても封印してもどっちでも良いんですけどね、私たちの邪魔をしなければ変わんないです」
ファンドを入れ終わり、卓上を整理していく。
「話が脱線しましたね…あの子の名前は…幻憶奇蹄怪獣…ゴウ・ムネモシュネ!!…です」
「…幻…憶…?」
「はい。対象者を自身の体内へと取り込み、その対象者にとって大切な、幸せな過去の記憶へと飛ばすんです」
「おぉ…今までとは一味違う新しい案ですね♪」
「幸せな記憶の世界にずうっと…居られる、そんな世界からこんな絶望ばかりの現実に戻ろうと思う人間なんていない。
それはグリッドナイトたちも同じはずです。
…いくらグリッドナイトと言えど、大切な記憶の中では抗うことはできない…つまり私の勝ち…!!」
PCチェアの上に両足を乗せ胡座をかきながら肩を揺らして笑う。
完全に勝ち誇った顔で、怪獣が街の人間を取り込んでいく様子を嬉々として見守る。
「このまま全ての人間を飲み込んじゃえ!ゴウ・ムネモシュネ!」
そんなコピーを横目に望美は扉へと足を運んでいた。
「あ〜★私、やることがあるので今日はお暇しますね〜♪」
ニコニコと笑いながら望美は部屋から出て行ってしまう。
「え、ちょ、も、もう行っちゃうんです、か…ってもういないし…」
いつもは一緒に怪獣観戦をするのだが今日はしないらしく、コピーは少し肩を落とす。
「……ふぅ」
扉を閉じた後、1人廊下に背中を預けると望美は思い耽るように天井を見上げた。
「……過去…か」
「くっそ…どうなってんだ…!」
静寂しきったキヨシ台をボラーが駆けていく。
彼の足音のみがキヨシ台へと木霊する。
…あの怪獣の能力か…?
…俺はたまたま隣町に居たから、怪獣の攻撃範囲外だったのか…
ハァ…運が良いのか、悪いのか…ったく…
…とにかく…急がねぇと…!
自然と足に込める力が強くなっていく。
「…………ン」
歩道橋へ差し掛かったところで、突如として足を止めた。
「…ハァ…悪りぃが今テメェに構ってる暇ねぇんだわ」
静寂しきった街に、淡々とボラーの声が反響する。
「…そこにいるんだろ?さっさと出てこいよ、キャリバー…!」
刹那。
空間を切り裂くかの如く、刃がボラーへと襲い掛かる。
「チッ…!」
その刃をどこからともなく取り出したサバイバルナイフ型の短刀・スクラップメーカーダガーで瞬時に弾く。
《キィン》と激しく火花が舞起こり、金属音が周りへ鳴り響く。
「はん!いきなり斬りつけてくるとは…お前らしくもねぇ、これじゃあもう"サムライ"キャリバーじゃなくて"ヒトギリ"キャリバーに改名だなぁ!」
「な、何…」
ボラーは身体が温まってきたようで、刃を交える度にその速度を増していく。
「出し惜しみしてねぇで、さっさと4本全部使って来いよ!」
「…なんだ…と…」
キャリバーの貌つきが緊迫したものへと変わっていく。
「オラァッ!!」
ブレイクダンスを舞うかのように器用な動きでキャリバーを蹴り飛ばすと、続けてスクラップメーカーダガーを逆手に持ち替え視線を移す。
「それと…そこ!」
柄を離すが早いか、ボラーはいきなりダガーを明後日の方向へと投擲した。
《チィン!》
やがて投げられた白刃は空中で何かに当たり、その何かとともに地面へと深く突き刺さる。
「気づいてねぇとでも思ったか…ヴィット!」
ボラーが言い放つと、歩道橋の影から二つの矢を番えた弓銃を手に握る青年の姿が出てきた。
「…あっれ…?おかしいなぁ、俺今回が初任務なんだけど…お前なんで俺のこと知ってるわけ?」
弓矢を肩に乗せ、ヴィットと呼ばれた青年は問いかけてくる。
スラットした体躯の優男、金の縁取りをした白スーツに身を包むその姿はまさしく雑誌モデルを彷彿とさせる。
「はんっ…こちとら嫌というほどテメェらのこと知ってんだよッ!」
ボラーは地面へと刺さる短刀を拾い上げるやいなや走り出す。
呆然とするヴィットへと距離を詰め、一気に畳み掛ける。
「まっずいなぁ…」
そう苦笑しながらもヴィットはどこか余裕を見せながら、ボラーの攻撃を華麗に避けていく。
「…こんにゃろぉ…舐めやがって!」
姿勢を落とし、ヴィットの足元を掬う。
「うわっ」
足元を掬われ、バランスを崩したヴィットの胸元へボラーの短刀が迫る。
「ッシ…!」
そこに2本目のトレイルカタナソードを抜き放ち、キャリバーが割って入ってくる。
「ヴィ、ヴィット…息を合わせろ、コイツは…強い」
「あー。はいはい、俺は適当に後ろで撃っとくからキャリバーは好きに動きなよ」
「りょ、了解した」
鍔迫り合いの後、互いに間合いを取る。
「2対1か…はんッ!いいハンデじゃねぇか!」
ボラーは鼻をいつも通り威張りながら鼻を鳴らすと、2人を挑発するかのようにダガーの刃先を向けた。
「…2人纏めてかかって来い、本気で相手してやんよ」
[俺は…怪獣はもっと自由であるべきだと思うんだ]
次回【悠・遠】。