SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish 作:ゴリニティ75
「樹。」
怪獣:ゴウ・ムネモシュネの体内。
フィルムという一枚の壁を隔て、樹とナイトは邂逅を果たした。
「…誰だよ、あんた…」
唸りにも似た声が両者を隔てる空間へと低く響く。
「もうお前も全てを思い出しているはずだ、…なぜ元の世界に戻ろうとしない」
「……ほっといてくれ…俺は…戻りたくない…」
樹はナイトに背を向け、下を向いた。
「何故だ。」
黙りこくる隙を与えず、ナイトは追随する。
「…元の世界に戻ったって…俺は…一人だ…だから…ほっといてくれ…。ほら…もう少ししたらまた二人に会えるんだ…」
自身の身体を包むように樹はうずくまる。
「…。」
籠る樹の姿にナイトは既視感がある。
——––どこでも、好きなところ行きなよ———
樹のふとした動作の一つ一つに見覚えがあった。
—— 俺の名前は樹、"新条"樹————
彼の名前を聞いたとき、ナイトは自分に言い聞かせていた。
これは、ただの偶然だと。そんなことはあり得ないと。
だが。
彼の要所要所に、感じていた。
彼女の面影を。
そして、今も。
その澆薄に霞むその背中は。虚な瞳は。
自身を創った、かつての神の姿が重なって見えた。
『…合…体…』
『…竜.人…』
『ダイナ…、ゼノン…』
4機のマシンの真なる姿—ダイナゼノン。
その竜人の登場に、搭乗者である太陽、響子、ライラは驚きと興奮の二つの感情に染まった。
「…ダイナゼノン……待たせちまったな…」
久々のそのなんとも頼もしげな感覚に、レックスの顔には思わず笑みが込み上げている。
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巨人の顕現に、呆然としていたゴウ・ムネモシュネはダイナゼノンを敵とみなし咆哮する。
「ッ…それじゃあ、お前ら…準備はいいなぁ…!いくぞ!」
怪獣の咆哮により気を引き締めなおし、各々が決意を決めるが早いか、操縦桿を握った。
『…ダイナゼノン……!』
ダイナコントローラーを操作し、レックスは戦闘開始を告げる号令を高らかに叫ぶ。
『バトル……ゴォーッ…!!』
レックスが叫ぶと同時、ダイナゼノンは走り出す。
『『『ゴ、ゴォー?』』』
と、しばし遅れて太陽たち3名の掛け声も合わさり、ダイナゼノンは力強く地面を蹴った。
『先手必勝ォッ!!』
そう言って力一杯跳躍し、同時に背中のブースターを噴かしながらゴウ・ムネモシュネ目掛けて殴り掛かる。
しかし。
『ぐッ……やっぱ当たんないよなぁ…』
グニャリと身体を粘土が捏ねられるかの如く変形させ、見事にダイナゼノンの拳を避ける。
『オォリャアッ!!』
続けざまに拳を、脚を振り被るが、その攻撃が怪獣に届くことはなく逆に足元を掬われ横転させられてしまう。
『ぐぬぬぬぬ〜ッ!?』
すぐさま体制を立て直して、反撃を繰り出すダイナゼノン。
だが、悉く避けられてしまう。
『クッソ…こっちもだいぶ強くなってるのに…』
ゴウ・ムネモシュネで突出すべきは、やはりその身体の異常なまでの柔軟性だろう。
自身の身体を自在に変化させ、こちらの攻撃を自在に避け続ける。
ダイナゼノンがどれほど強くなろうが、怪獣に攻撃が与えられなければ意味がない。
『だけど…やり続けるしか…!』
この際もう攻撃のどれかでも良いから当たれという一心でひたすらに殴り蹴りを繰り返す。
[———‘:;///!!!!!!!]
こちらを子供を相手にしているかのように醜く嘲笑い身体に穴を開け、拳を避ける。
『ぬぁら…!これでどおだァァッ…!』
ダイナゼノンは咄嗟に握り拳を開き、手首を回転させると同時に剣の柄となるバンパーパーツを展開した。
『ダイナセイバーッ!!』
瞬間、翡翠色の光剣が怪獣目掛け、一直線に伸びる。
それさえも避けようと身体を凹ませようとした、その時。
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ダイナセイバーの剣の先が、ゴウ・ムネモシュネの身体の一端を掠めた。
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今まで攻撃を避け続けていたため、ゴウ・ムネモシュネはその初めて体感する痛みに動揺し、身体を波打たせる。
『攻撃が…当たった…!』
初の攻撃ヒットに本心が漏れ出る一同。
「で、でも…なんで突然当たったのかな…?」
と、当然の疑問が浮かぶ。
『…そうか…この怪獣…』
今も身体を波打たせるゴウ・ムネモシュネをジッと見つめ、何か納得するようにライラは呟く。
『ライラ、どーいうこと?』
『端的に換言すれば…過剰なまでの記憶摂取によってこの怪獣における"オーバードーズ"を引き起こしているから動きが急激に鈍くなったということ』
ゴウ・ムネモシュネはレックスたちが囚われている間にも何百もの人を取り込んできた。
この怪獣の能力はその人間にとっての幸せな世界の形成。
それを実行するには、一度その人間の記憶情報の"全て"をロードする必要がある。
ロードされた記憶は蓄積されていき、やがて必要な記憶のみを残して怪獣のメモリーから削除される—はずだった。
だが、人の情動は時に怪獣の存在と同じく、理解の及ばない、想定しない事象を引き起こす。
それは、ナイトという異端から連なり、ライラ、太陽、響子、そしてレックスへと連鎖していった。
その度重なるイレギュラーにより、ゴウ・ムネモシュネのメモリーが傷ついていき、やがて致命的なバグが起きた。
バグにより、不必要な記憶が削除できずどんどん蓄積されていったことでキャパオーバーしてしまい、怪獣の機能が低下した…とライラは推理した。
『お、おーばー…どーず…?』
聞き慣れない言葉をうまく頭で連想できなかったのか、動きが止まるレックス。
『つまり…《食べ過ぎ》で動けないってことです!!』
それをすかさず響子がフォローした。
『なるほどな…!そういうことなら…!!』
状況をしっかり理解したレックスはこのチャンスを逃すまいと、もう一方の腕からもダイナセイバーを展開し、斬りかかる。
『攻撃が…効いてる…!これなら…!』
今までの戦闘が嘘のように、怪獣への攻撃が成功していく。
『喰らえぇッ!!』
両手の翡翠の斬撃はまさに乱舞。
ゴウ・ムネモシュネの柔軟なボディも悉く斬り裂いていく。
そして遂にゴウ・ムネモシュネに肉薄したダイナゼノンは、その無防備な胴体目掛けて二刀の光の剣を振りかぶり、上下から挟み切る。
『こいつで終いだッ!…ダイナセイバー!ビッグブレードォォォッ…!』
レックスが力を溜めるように重々しく唱える。
『ストラァイィクッッ!!』
その叫びと同時、ダイナゼノンの渾身の一撃がゴウ・ムネモシュネの胴体が真っ二つに両断した。
『よっし…!!倒せ————』
太陽が喜びの声を上げようとした、その時。
[——!—;::/-:;!!!!!!]
切り裂かれたゴウ・ムネモシュネが悍ましい雄叫びを上げ、辺り一帯を震撼させた。
『い、一体何が起こって…』
一同が困惑していると、切り裂かれた怪獣の中から夥しい量の煙が飛び出してくる。
『どお…なってんだ…これ…』
その煙はやがて、真っ二つとなった怪獣にまとわりつき、新たな姿を形成していくではないか。
『姿が…変わった…?!』
先程までの4速歩行の獏のような姿ではなく二足歩行のもはやなんの生物かもわからない歪な姿へと、ゴウ・ムネモシュネは変化を果たした。
『この怪獣に蓄積され続けて行き場をなくした記憶が暴走してる…!?』
人の情動は時に怪獣の存在と同じく、時に理の外側へとその力を奮う。
度重なるイレギュラーにより傷ついた怪獣はその異端ごと自身の力へと取り込んでみせたのだ。
『…マジかよ…』
ダイナゼノンのインナースペース内の4人を、戦慄が包む。
「樹。」
「……まだ…いたのか…」
消沈した様子でナイトを一瞥し、また下を向く。
「本当に、戻らなくてもいいのか?」
「…戻りたくないって言ってるだろ…もうほっといてくれよ…」
「何故だ?」
「…さっきも言ったろ…戻ったって…俺は——」
「一人ぼっちだ」、そう言おうとしたのをナイトは遮る。
「何故、そう言い切れる?」
「だから…誰も俺のことなんか—————」
「そうやってお前は、いつまで逃げ続けるつもりだ」
「…は…?」
「自分は孤独。どうせ誰からも相手されない。…そう思い込んで、お前は一人で勝手に絶望しているだけだろう。」
「ッ…うるさいなぁ…!」
「何故、前を向こうとしない。…こんな世界にいたとてお前の心は晴れんだろう」
手厳しい言葉を浴びせるナイトに、次第に沸々と樹の中から怒りが込み上げ、声を上げた。
「黙って聞いてれば…好き勝手言いやがって…俺だって…俺だってなぁ、これでも必死にやってんだよ…ッ!!」
フィルムの内と外という一枚の壁を隔て、言葉が飛び交う。
「俺はな…毎日がずっと苦しかった。…母さんと父さんがいなくなった日から…ずっと…」
ナイトへの怒りから声を上げていった筈なのに、言葉を繋げていくうちに自分がどんどん虚しくなっていることに樹は気づかず、いつの間にかポツリポツリと心の奥底で抱えていた感情を漏らしていた。
「前を向こうともしたさ…だけど…他人と話す度に…二人の姿が…あの日の記憶がチラつくんだ…この関係もいつか…怪獣が来たらまた簡単に壊されてまた…何もかも失うと思うと…俺は…」
新条 樹が、クラスや社会に馴染もうと関わろうとしない理由。
それは『失うこと』を恐れているからだ。
人の温かさが、話した思い出が、繋いだ関係が、全て、崩れてしまうことが、恐ろしいから。
失うことが怖いならば、最初から人との絆なんてもの紡がなければいい。
そう…自分に言い聞かせて、彼はこれまで生きてきたのだ。
「だから…俺は戻りたくない。ここで永遠に…幸せな世界を過ごしたいんだよ…」
溢れ出る感情を抑えられず、樹は項垂れる。
そんな彼の姿に、ナイトは表情ひとつ変えず、言葉を返した。
「ならば何故、あの時、俺の言葉を承諾した」
———これからお前は俺と共に怪獣の脅威と戦わなければいけない。それでも本当にいいんだな?———
樹とナイトが学校で、初めてアクセスフラッシュを果たし、怪獣を撃破した始まりの日。
樹は言った。
——俺は戦う。ナイトと一緒に——と。
「それは…成り行き…で…」
「成り行き…?違うな。お前はあの時、『変わりたい、恐れてばかりの自分を変えたい』…そんな想いがあったからこそ、戦うと決めたのだろう」
「…違う…俺はそんなこと…」
ピシッと一つ、また一つと、樹のフィルムにヒビが入っていく。
「樹、お前は————-」
「…ッ違う…チガウちがうッ…!お前に…俺の何がわかるって言うんだよッ…!!」
そう言い捨て、その場で崩れ落ちた。
「………。」
感情を剥き出しにした樹を、しばらく見つめ、ナイトは再び口を開いた。
「あぁ…そうだな…俺はまだお前のことを、何も知らない」
「…なら黙っ—————」
「だからこそ俺は思う、お前のことを…もっと知りたい…とな」
かつては知ろうとしなかった。人の心を。
もう二度と、あんな想いにはさせまいと、そう自分に誓ったから。
今度は、逸らさない。彼女と重なる、彼の心を。
「それと…お前は一人だと、誰も自分なんて気にかけない—そう思い込んでいるようだが…お前には聞こえないのか。お前のことを呼ぶ、この声が。」
「え……?」
ナイトのその言葉に、下を向いていた樹は頭を上げる。
すると徐々に、声が直接、樹へと流れ込んでくる。
レックス、ライラ、響子、太陽。
今まで共に戦ってきた仲間の声が、樹の耳に反響する。
「…なんだよこの声…やめろ…やめてくれ…俺はこんなの——-」
「望んでない」そう言おうと思ったのに、何故かその言葉が出なかった。
いや—出せなかった。
最初はこんな関係が大切になるなんて思わなかった。
だがいつしか、こんなにも…こんなにも樹の中で彼らの存在が大きくなっていた。
それは樹だけではない。太陽たちの中でも欠けがえのないものへとなっていっていた。
その言葉とともに、樹とナイトを隔てていたフィルムは粉々に割れ、散った。
「…この声を聞いても…まだ眼を背け続けられるか…?」
ナイトの張りのある声、そして偽りなき言葉が、いつも以上に樹の胸に刺さる。
「…いいか樹、お前に足りなかったもの、それは少しの勇気だ。」
「…ゆう…き…」
「そうだ。ほんの少しで良い、その少しの勇気で…お前の世界は大きくなっていくはずだ」
数々の世界を渡り歩いて感じた。
人間の、心を持つ生き物の、可能性を。
「…何かを失うということは誰にとっても等しく、恐ろしいことだ。だが…失うことを恐れてばかりではいつまで経っても前に進むことはできないぞ」
割れたフィルムを踏み越え、樹に身を寄せる。
「俺は先程、お前のことを何も知らないと言ったが…訂正しよう。
俺は知っている。お前の強さを、優しさを。」
その樹に、太陽たちは惹かれたのだ。
そしてそれはナイトも例外ではない。
「樹。一人で抱え込まなくても良い、お前には俺たちがいるのだからな。」
樹に目線を合わせ、しゃがむ。
「だからもう…お前は、1人じゃない。」
…その言葉が…ずっと前から…聞きたかった。
そう言うように、樹は一筋の涙を流した。
「ッ……ナイト…おれ、は…—————————-」
『『『『グワアアアアァッ!!』』』
記憶の暴走により強化されたゴウ・ムネモシュネのその圧倒的なパワーに、ダイナゼノンはなす術もなく、蹂躙されていく。
『ハァ…ハァ…ッ…マジ…かよ』
真紅のボディの各所に煙が立ち昇り、状況の深刻さを物語る。
今までの避け続けていた戦法が嘘だったかのように、肉弾戦を繰り広げていく。
『くっそ…押し…負ける…』
歯噛みする太陽たちの声すら轟音に呑み込まれ、ダイナゼノンはとうとう地面へと倒れ込んでしまった。
『『『うわあああああああああああっ!』』』
空中に固定されたダイナコントローラーにしがみつき、衝撃に耐えることしかできない。
[:—————/((;;////::!!!!]
ズシンズシンとゴウ・ムネモシュネは、地面に倒れ伏すダイナゼノンへと近づいてくる。
『ダ…イ…ナ…ゼノン…。』
一同のインナースペースのモニターに、今まさにこちらに腕を振り上げる絶望的な光景が映し出され、各々は息を呑んだ。
『………ダイナ、ゼノン…!』
だが、レックスだけは目を閉じて精神を集中させ、コントローラーを握り締めた。
『…ダイナゼノン…やられる前に、教えてくれ…お前がいったい何者なのか…俺たちに…!!』
[:———-//—/-/——-‘!!!!!!!!!!!!]
ゴウ・ムネモシュネは咆哮し、トドメの一撃を繰り出した。
『お前の…真の力を…見せてみろォッッ!!』
その魂の問いかけに応えるように、ダイナゼノンの全身が光り輝くと、炎を噴き散らしながら分離し、怪獣の攻撃を避ける。
"生きたい"。人間としての根源的な一念により、4つの心は重なっていく。
この瞬間、4人の心は一つとなり、偶発的にだが、ダイナゼノンの真の力を解放した。
ダイナソルジャー、ダイナウイング、ダイナストライカー、ダイナダイバーの4機が、天空へと舞う。
「…え…?」
ダイナソルジャーの背中、胸から上顎と下顎が展開、巨大な頭部が形成される。
腕を折り畳み収納し、その後両脚が回転して雄々しい腕へと変貌を果たす。
ダイナダイバーの船体が二つに割れ、さらに中ほどで折り曲がりより野生的な脚を形成、ダイナソルジャーの腰に連結。
脚部の先端から爪を広げて空を斬り裂く。
ダイナウイングはダイナソルジャーの背中へとドッキングし、さらに主翼から副翼が引き出され、大きな竜の翼を創り出す。
さらに、ダイナストライカーが前部のバンパーを連結パーツとして引き起こし、巨大な尾となり合身する。
そして降臨する——ダイナゼノンの真なる姿、その名も———
『合体強竜!ダイナレックス!!』
レックスが叫び名乗ると共に、ダイナレックスは双眸を光らせて飛翔する。
『…竜が…目覚めた…!!』
ダイナレックスの覚醒を待ち侘びていたようにライラは声を弾ませる。
『巨人が…恐竜に……?』
響子は、ぽかーんと口を開けたまま唖然としている。
合体強竜ダイナレックス—その覇様はまさに、かつてこの惑星の支配者、帝王として君臨した最強の恐竜だ。
『……もう何がなんやら…』
展開が目まぐるしすぎて脱力する太陽だが、すぐに笑って前を向いた。
いつだってそうだ。
レックスがいるだけで不思議と笑みが、勇気が湧いてくる。
この力があれば———————
[—/::;:”’//:/-/:::—/-!!!!!]
逆襲の雄叫びを轟かせる合体強竜に怯むことなく、ゴウ・ムネモシュネは尚も飢えた獣の如く襲い狂う。
それを翼から推進エネルギーを噴射し、天高く舞い上がりゴウ・ムネモシュネの背後をとった。
『返してもらうぞ……俺たちの…今を…!!』
レックスに呼応し、ダイナレックスは大きく口を開け必殺の火炎を練り上げてゆく。
『必焼大火炎…レックスゥ………ッ!』
自身も負けじと口から火を吹かんばかりに燃え猛り、レックスが吠える。
『ロアァァアァァ—————ッッッ!!!』
ダイナレックスの口から猛烈に吹き荒れる炎が発射され、目の前に火柱が昇る。
『————-;:::::::;;;:;!!!????]
膨張した記憶ごとゴウ・ムネモシュネの身体が火炎に包まれていき、そして—
灰燼へと帰すとともに、人々は解放されていった———
あとがき
なんかグリッドナイトが『勇気』とか口にすると頭の中に勇気爆発してそうなやつの声聞こえて草生えました()