SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish   作:ゴリニティ75

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第41回 不・達

 

—もう一人の新世紀中学生

 

——異形のグリッドマンへと変貌する少女

 

———ハイパーエージェントを名乗り 助けを必要とする人たちを求め 二人はコンピュータワールドを巡る旅へ出る

 

———その行動動機は「正義」ではなく「自己愛」

 

—–———欲望の先に待ち受ける真実とは

 

————選ばれなかった男と、ヒーローを求めた少女がヒーローを喚び寄せるために創った怪獣

 

——時の流れの中に消え去った、使命と救済の世界があった…

 

ユニバース♯Ⅱ【グリッドマン・ドグマ】

 


 

照りつける日差しは、すでに夏の熱を帯び、どこまでも広がる空と海は、息をのむほどに鮮やかな青のグラデーションを描いていた。

 

水平線は曖昧な境界線となり、天と海が溶け合うようだ。

 

寄せては返す波は、白い繊細なレース編みのように砂浜を飾り立て、潮騒とともに微かな海の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「コップ、みんなに行き渡ったかー?」

 

賑やかな声が上がる。

 

「こっち、紙皿があと三枚足りないぞ!」

 

「おい、そこ!パラソルを独り占めするな!」

 

ざわめきは、夏の陽光に照らされた砂浜に咲く花のように、色とりどりの声が飛び交う。

 

やがて、香ばしい匂いが漂い始め、BBQの準備が整ったことを確認すると、ひときわ明るいオレンジ色の髪を持つ少年――天木太陽は、その場にいる全員に響くような快活な声でグラスを掲げた。

 

「……よーし!……これにて、一年E組、一学期お疲れ様でした会!そして、来る台高祭の準備もみんなで力を合わせて頑張っていきましょうってことで〜…」

 

「「「「かんぱーい!!」」」」

 

若さ溢れる歓声が、青い空に吸い込まれていく。一年E組の面々は、それぞれの想いを込めた紙コップを掲げ、夏の始まりを告げる乾杯を交わした。

 

どうやら今回のクラス会は、台高祭への士気を高める会でもあったようだ。

 

台高祭。

 

キヨシ台高校名物の10月に行われる…他の学校で言うところの文化祭みたいなものだ。

 

各クラス、各部活動の催しで賑わい、生徒の家族なども多数訪れる。 

 

食べ物関係の出店よりかは、クラス独自の企画や部活動の発表会が目立っており、文化的な色合いが強いのが特徴だ。

 

6月下旬頃には各クラスの催しが決まり、台高祭の準備が始まる。

 

ちなみに…樹達が所属する1年E組の今年の出し物は[驚天!オモチャの反乱]という企画名の射的をすることに決まったらしい。

 

「……」

 

周囲の喧騒とは裏腹に、ライムグリーンの髪が潮風にそよぐ中、樹は一人、手渡された簡素な紙コップを静かに見つめていた。

 

信じられない、というのが正直な感想だった。

 

つい数ヶ月前まで、自分がこんな場所にいるなど、想像すらしていなかったのだから。

 

クラスの皆と、こうして夏の海辺で笑い合う日が来るなんて。

 

「ヘーイヘーイ、イツキング!」

 

陽気な声が降ってくる。

 

「もっと盛り上がっていこうぜ!」

 

「はいはい……イツキングって…もうちょいマシなあだ名で頼むよ…」

 

樹は苦笑しながら、話しかけてくるクラスメイトの肩を軽く叩いた。

 

以前なら戸惑っていただろう、こうした他愛ない絡みも、今は自然に受け流せるようになった。

 

自分から一歩踏み出すことの大切さを、最近になってようやく実感している。閉じこもっていた殻を破り、積極的に関わることで、世界はこんなにも色を変えるのだと知った。

 

先日のナイトの言葉があってこそだろう。

 

そして、「夏を楽しめ」と言ってくれたレックスの言葉が、今になってじんわりと胸に響く。

 

彼らの言葉に、素直に従ってみて本当に良かったのかもしれない。

 

この賑やかな喧騒の中に身を置いていること自体が、何よりの証拠なのだから。

 

…補足だが…アクセプターとかダイナソルジャーとかはナイトたちがいる海の家へと預けてある。(盗まれても困るし)

 

「樹氏、はやく食さないとなくなっちゃうで候」

 

肉や野菜を乗せた皿を手渡され、樹は現実へと引き戻される。

 

「あぁ…ありがと、う?」

 

…このクラス変なのしか居ないの?()

 

そう苦笑いで手渡された皿を受け取った直後、樹は固まった。

 

「…oh…」

 

眼前にはアスファルトのように脂身が黒く焦げてしまった豚肉、芯まで焼けていないかぼちゃ、生焼けのその他野菜類…

 

何コレ…イジメかな?という念を込めた視線を調理担当へと向ける。

 

「ウワッ燃えてる燃えてる!」

 

「オイーッ!網の上に直接マシュマロ乗っけたの誰だ!くっついちゃってるよ!」

 

「食えりゃいいんよ、食えりゃ」

 

「これじゃあ食べれねぇだろ!」

 

「……」

 

…まるで地獄絵図だ。

 

ほんと食べ物で遊ぶのは良くない(真顔)

 

家庭科の授業ってやっぱ大事なんだなぁ…

 

しみじみとそう思いながら、樹は調理組へと足を運ぶ。

 

…まぁ…悪気はないのはわかってる。

 

本人たちは至って真面目に調理しているのだろう。

 

だが…BBQを焼き肉食べ放題店と同じ感覚で焼いて良いというものではない。

 

いつしかBBQグリルの前まで来ていた樹に、調理組は気づいた。

 

「あぁ新条くんどうし───」

 

「BBQを無礼(なめ)るなよ」

 

「へ?」

 

刹那、樹は目にも止まらぬスピードで調理を開始した。

 

「その肉はまだ食べないで余熱でしばらく休ませてから…っとそれ!筋の取り方が────── 」

 

調理担当へアドバイスしながら、手際よく動く。

 

その姿を見て、他のクラスメイトたちは唖然とする。

 

「「「ギャップ萌えぇー」」」

 

「新条くんって料理系男子だったのか…」

 

「この手のキャラって無駄に生活力高いのなんなん?」

 

「バーベキュー番長だ…」

 

炭火のパチパチという音と、肉の焼ける香ばしい匂いが立ち込める中、樹は慣れた手つきでトングを操っていく。

 

初めて見せる樹の意外な一面にクラスメイトたちは湧く。

 

その後ろで、太陽は腕を組み、まるで自分の手柄のように「うんうん」と得意げに頷いている。

 

「さっきから聞こえてるからね!?…あとバーベキュー番長ってなんだよ…」

 

呆れた様子の樹に太陽はニヤニヤとしながらからかってくる。

 

「他人のことお節介野郎って言う割にはお前も結構だよな〜」

 

「…るっさいわい//!?」

 

「ハハハ樹がデレた」

 

頬をほんのり赤らめ、むくれる樹の姿に、周りのクラスメイトからはクスクスと笑いが漏れる。

 

賑やかな笑い声と、時折聞こえる波の音。

 

これが樹たちが肩を並べて歩んでいく、飾らない日常の一コマなのだ。

 

そんな、何気ないけれどかけがえのない瞬間を、樹たちはこの夏の陽光の下で、それぞれの心に深く刻んでいく ──────

 

 


 

「イツキ…勇気出せたんだね」

 

ざわめきと熱気に満ちたビーチの一角で、数人のクラスメイトに囲まれ、どこか誇らしげな表情を浮かべている樹の姿を、ナイトたちが会議をしている海の家の屋根上からライラはそっと見守っていた。

 

先日まで所在なさげに俯いていた樹が、今は周囲の視線を一身に集め、何かを語っている。

 

その様子に、ライラの胸にはじんわりとした温かいものが広がった。

 

その姿を見届け、彼女はゆっくりと視線を落とし、自身の太ももの上に丸まっている小さな怪獣を見つめた。

 

「キミは……私たちの味方?それとも敵?」

 

ライラは、まるで独り言のように、その小さな怪獣に問いかけた。周囲の喧騒とは隔絶された、静かで優しい声だった。

 

『——………』

 

ライラの言葉に応えるように、小さな怪獣はか細く、消え入りそうな声を発した。

 

それは、肯定とも否定ともつかない、曖昧で、どこか悲しげな鳴き声だった。

 

時折、弱々しく身じろぎするものの、その動きは、ライラの太ももに微かに伝わるだけだった。

 

しかし、ライラの耳には、その儚い音色が、動作が、彼女の問いかけをそっと否定しているように聞こえた。

 

「そっか…やっぱりキミはグリッドナイトたちの…」

 

その弱々しい鳴き声と、見るからに輝きを失っている錆び付いた体を見て、ライラは直感的に理解した。

 

いや、小さな怪獣から発せられる優しい音、そしてライラに流れる怪獣の血がそう感じさせる。

 

この小さな怪獣は、今までの何者かが創造した街を、人を襲う怪獣たちとは違う。

 

どこか脆く、 今にも消えてしまいそうな危うさを感じさせる存在。

 

そして、おそらく、グリッドナイトの仲間なのだろうと。

 

この小さな怪獣も、かつてグリッドナイト、ダイナゼノンと共に怪獣の脅威から数多もの世界で戦ってきた存在だと。

 

そう察すると、ライラはもう無理しなくても良いと諭すように、その小さな、ザラザラとした質感になった頭を優しく撫でた。

 

「無理しなくて良いからね」

 

多くの人間の様々な感情が渦巻くこの場所なら、もしかしたらこの小さな怪獣も、その弱った力をいくらかでも取り戻せるかもしれないと、ライラはほんの少し期待していた。

 

しかし、周囲の喧騒とは裏腹に、怪獣の様子は依然として 弱々しく 、ほとんど反応を示さず、あまり効果はなかったようだ。

 

…アタシはこの子に何ができるのだろう、そう思った時、ふと、群衆の中に見覚えのある姿が目に飛び込んできた。

 

「ん……あれって…」

 

ライラの瞳が、樹たちのクラス会の中に佇む濃い紫色の髪の少女を捉えた。

 


 

「ふぅ…粗方終わりか」

 

BBQが終わり、大体のクラスメイトたちはまた海へと遊びに向かい、樹や台高祭実行委員の面々はBBQの後片付けをしていた。

 

「新条くんあんがとね、実行委員でもないのに手伝って貰っちゃって」

 

「いや…俺は全然、大丈夫、大丈夫」

 

近くで片付けをしている女子…確か古澤さんと仲が良かった…花子さん?に声をかけられ、戸惑いながらも言葉を返す。

 

…もうちょっと遊ぶの疲れちゃったから片付けに参加しただけなんだけどね…ハハハ。

 

「てかさっきのBBQの時もマジ助かったわ〜」

 

さらに隣にいた…コレまた古澤さんと仲が良い…えっと…風…そう!風間さん!も会話に加わってくる。

 

「ほんとそれ!新条くん居てくれて良かった〜」

 

「そっか…それならよかった、よかった」

 

ぎこちないながらも返答をする。

 

「この調子で台高祭準備も頑張っていこーね」

 

「いこーね!」

 

「おいこら乗んなバカ」

 

花子と風間はそう言ったのち、戯れ合い始めた。

 

「いいじゃーんべつに〜減るもんじゃないしー…ま!元々減るものもないか!あははは」

 

「はいキレた、完ッ全キレました〜!降りろゴラァ!その水着剥ぎ取ってやるよ!」

 

 

 

「あははは…仲良いんだよね?」

 

…古澤さんの友達…なかなか癖強いなぁ…

 

 

「…ふぅー」

 

まだ1日の半分しか終わっていないが、なんだかどっと疲れた。

 

今日、みんなと海に来て誰かの為に行動するのもそんなに悪くないと思えたが、やはり人と喋るのは嫌じゃないが定期的にリラックス時間が欲しいかもしれない。

 

「こういう対人関係っていうのも難しいものなんだな…」

 

それを毎日そつなくこなしている現役高校生たちには、尊敬の念を抱かざるおえない。

 

…とは言え流石にアレには憧れは抱かないがな…と、先程から何やら声がする方へ視線を向ける。

 

「Excuse me, I'm trying to find a hotel for tonight. Can you help me, please?」

 

「イエスイエス!I'll tell you my recommended hotel!ハッハー」

 

視線の先には外国人と何やら会話して色々と教えている太陽の姿がある。

 

先程からあの調子で目を離す度に違う人たちへとお節介を焼いているのだ。

 

…せっかく遊びに来てるのにまたあいつは────────

 

と、太陽に視線を向けていたせいもあってか、背後から忍び寄る気配に気づくのが遅れた。

 

「新条くん♪おつかれさま…です★」

 

不意に背中に冷たい感触を感じ変な声を出すとともに振り返ると、ニコニコとした笑みを浮かべる濃い紫色の髪が視界についた。

 

「冷たッ…あぁ!えっと…………あ、小鳥遊さん?…」

 

「も〜なんで疑問形なんですか〜ひどーい♪せっかく隣の席なのに〜」

 

頬を少し膨らませて、可愛らしく抗議する。その明るい声は、周囲の喧騒の中でもよく通る。

 

望美の声は、相変わらず語尾に可愛らしい音符や星を散りばめていた。

 

揶揄うような、けれどどこか憎めない明るい笑い声が、黒いビキニタイプの水着と相まって、彼女をまるでいたずら好きな小悪魔のように見せる。

 

「はい★新条くんも後片付け手伝ってくれたって聞いたので〜」

 

彼女はそう言いながら、きらきらとした瞳でこちらを見つめてくる。

 

「台高祭実行委員長として皆んなに冷たいジュースをプレゼント〜♪しに来たわけです♪」

 

そう言って差し出されたのは、まだ表面に薄い氷の膜を張らせたペットボトルだった。

 

触れた指先にひんやりとした感触が伝わり、あの冷たさの正体がようやく分かった。

 

彼女の笑顔は、その冷たいジュースと同じくらい、人をドキッとさせるものがあった。

 

「あぁ……あ、ありがとう」

 

これでも声がうわずらないように答えたつもりだ。

 

男子高校生にとって、望美の着用している水着はあまりにも刺激が強すぎた。

 

持ち前のスタイルに加え、素材の良さも相まって、彼女の魅力を一層引き立てているようだ。

 

…これでは余計なことばかり考えてしまう為、樹はなるべく顔を見て話すことにした。

 

「うーん★こうして新条くんと面と向かって話すのも実に27話ぶりぐらいに感じますね〜♪」

 

「ウーン急なメタ発言やめな!?……まぁ確かに…隣の席なのに全然話してなかったよねぇ…」

 

…俺がコミュ弱すぎて…というか接点があまりないからなぁ…

 

望美が転校してきた初日、お昼を一度一緒に食べたのと…授業中に数回話したことがある程度だ、ほんとに終わってる()

 

…っていかんいかん、これじゃあお昼一緒に食べた時の二番煎じだぞ…

 

樹がなにか話題がないかと思考していると、望美が先に声を出す。

 

「新条くんは…海って好きですか?」

 

望美は屈託のない笑顔でそう問いかけた。

 

その瞳は、どこまでも広がる青い海のように澄んでいるが、その奥には何か計り知れない深淵が隠されているようにも見える。

 

「うん…まぁ…綺麗だと思うし、いつもとは違う雰囲気味わえて俺は好きかな」

 

樹は、望美の唐突な問いに少し戸惑いながらも、素直な感想を述べた。

 

水平線まで続く青、打ち寄せる白い波、潮の香り。日常から離れた海の景色は、確かに心地よいものだ。

 

「ふふっ♪、そうですか。でもそれって〜あくまでも表向きの考えですよね?」

 

望美は、樹の言葉を否定するでもなく、ただ楽しげにそう言った。

 

しかし、その声音には、先ほどの無邪気さとは異なる、何か含みのある響きが感じられる。

 

「…表向き…?」

 

樹は、望美の意図が掴めず、訝しげに眉をひそめた。

 

彼女は一体、何が言いたいのだろうか。ただの世間話にしては、その言葉には妙な引っ掛かりがある。

 

望美は、遠くの水平線に目をやりながら、ゆっくりと話し始めた。

 

「海って、一見するとどこまでも青くて、穏やかで、美しいですよね〜…でも、深く潜ってみると、全く違う世界が広がっているんです。暗くて、冷たくて、私たちが普段目にすることのない奇妙な生き物たちが蠢いていたり……時には、想像もできないような巨大な力が渦巻いていたりする」

 

そして、ふと視線を足元の打ち寄せる波に向け、泡立つ様子を指差した。

 

「ほら、あそこに浮かんでいる泡を見てください」

 

樹もつられて、波打ち際に目をやる。

 

白い泡が、儚く消えては生まれている。

 

「あれは、海の表面でほんの一瞬だけ形を成して、すぐに消えて変化してしまうんです」

 

望美は、そう言って樹を見つめた。

 

その瞳には、深い思索の色が宿る。

 

「一見、確かなものに見えても、もっと大きな力が働けば、あっという間に形を変え、消え去ってしまう。そして、また新しい泡、つまり新しいルールが生まれる」

 

望美は、先ほどの海のたとえを繰り返しながら、その意味を反芻するように目を細めた。

 

「私は…それが嫌いなんです★」

 

望美の言葉には、友好的な口調の裏に、 固い拒絶の意志を宿していた。

それは、まるで長年抱えてきた根本的な信念を、短いながらも明確に突きつけた刃のようだった。

 

彼女の純粋な瞳の奥には、絶対的な不同意さが宿るように見える。

 

「…それって…小鳥遊さんは変わることが嫌いってこと…?」

 

けれども樹は、望美の言葉に、少し動揺を見せながらも、彼女の言葉の核心を掴もうとした。

 

彼の脳裏には、先ほどの海のたとえ話が蘇る。

 

絶えず形を変え、消えていく泡。

 

彼女が嫌いなのは、その不確実さ、儚さなのだろうか。

 

彼の声は、まだ確信を持てず、弱々しく揺れた。

 

それでも、自身の考えを伝えたいという 純粋な気持ちが、彼を言葉へと駆り立てる。

 

「俺は…変化することは、そんなに悪いことだとは思わないけどな……もちろん、辛い変化もあるかもしれないけど、でも、変わることでしか見えない景色もあると思うし…」

 

自身もそうだった。

 

勇気を出して踏み出したからこそ、今日という日を過ごせていると思うから。

 

ナイト、太陽、響子、ライラ、レックス、ボラー…自分を信じてくれていることに気づけたから。

 

「昨日まで知らなかったことを知れたり、できなかったことができるようになったり……そういう意味では、変化って、結構面白いんじゃないかなって…そう思う」

 

樹は、少し照れながらも自身の想いを言葉に換え告げた。

 

…偉そうなことを言ってしまったかもしれない。

 

勇気を出して行動し始めたのはつい最近のことだ。

 

けれど実際、行動してみないとわからないから。

 

変化を恐れず進もうと、そう決めたから───

 

望美がどのように受け止めたか、内心少し不安だった。

 

すると、望美は暫しの無言の時間を空いた後、ぱっといつもの明るい笑顔に戻り、声のトーンも以前の友好的なものに変わった。

 

「アハ★な〜んて★冗談に決まってるじゃないですか〜♪」

 

「え…?」

 

「ほら♪私って台高祭実行委員長じゃないですか〜、それで演劇をやるクラスの脚本の見直しとかを任されてるんです♪そういう設定もありかな〜と思って♪ごめんなさいね新条くん♪」

 

そう彼女は、まるで普通の友好的な会話に戻ったかのように、明るく 話す。

 

「…あ、あはは…そ、そっか、なら…よかった…」

 

今までの話は全て冗談だったのか。

 

否。それで済ませて本当にいいのか。

 

何故か、本能的にそう感じてしまう。

 

そして、樹は気づいていた。

 

彼女の、望美の、その紫苑を宿す瞳の奥には、先ほどまでの一瞬の冷たい光が、今はより深い認識として残っていることに。

 

そして望美は、静かに呟いた。

 

「………やっぱり貴方は違う…」

 

うっすらと聞こえてきたその言葉に、樹は言葉を詰まらせる。

 

「それって…どういう…?」

 

「…さぁ♪どういう意味でしょう♪」

 

にこやかな笑顔で返され、それ以上の返答をする気は起きなかった。

 

樹にはわからなかった。いや望美の言わんとすることが。

 

何故望美が自分にそんなことを言ったのか、その心意とは────

 

「あ、いたいたノゾミーン」

 

明るく陽気な声が、望美と樹の間に割って入る。

 

振り返ると、日焼けした肌とサングラスの反射が眩しい水上と、少し控えめな笑顔の宮田が、手を振っていた。二人は望美と同じグループのようで、親しげな様子だ。

 

「そろそろバナナボートうちらの番だってさ」

 

水上が、楽しそうな笑顔で望美に告げる。

 

望美はその声に答え、表情を明るくした。

 

「はーい♪わかりました〜♪…では新条くん、私はこれで♪」

 

彼女の態度は 先ほどの雰囲気はすっかり影を潜めている。まるで、何事もなかったかのように。

 

「う、うん…」

 

樹は、望美の急な別れに、 頼りない返事を返すのが精一杯だった。

 

彼女が伝えようとしていたことは、一体何だったのだろうか。

 

意味深な言葉が、樹の心に小さな棘のように引っかかっている。

 

転校生の小鳥遊望美──彼女の心意に、樹が気づける日は来るのだろか。




あとがき

ライラは絶対にスク水。はっきりわかんだね()

本当に久しぶりの更新。ちゃんと物語は終わらせたいと思っているので気長に更新お待ちください。

あと…何気に過去の話をところどころ改修していたりするので、良かったら更新されるまでの間、過去話をご覧になってみてください。

それでは次回更新までadieu!
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