SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish   作:ゴリニティ75

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第42回 空・声

 

—ツツジ台の異変

 

—— ありふれた日常を侵食する異形の存在たち

 

——— ただひとり気づいた少女は、黒いスーツを来た不思議な"サムライ"と出会う———

 

——サムライ・キャリバーが託した一振りの太刀と装甲をまとい戦う少女の世界があった———

 

ユニバース♯Ⅲ【SSSS.GRIDMAN 姫とサムライ】

 


 

白い波が寄せては返す午後の浜辺。

 

樹は岩場に腰を下ろし、サンダルを脱いで、足だけ海に浸していた。

 

空はまだ明るく、潮風が髪を揺らす。

 

口の中に残るのは、言葉にできなかった感情だけ。

 

どう答えるのが正解だったのか…いや、正解があったのかもわからない。

 

自身の答えが、彼女の求めていた答えと違った、ただそれだけのこと…

 

そのまま視線を落とし、波が足を洗っていくのを見ていた。

 

…小鳥遊 望美…彼女の言葉の裏にある、自分でもよくわからないもやもやを誤魔化すように笑う。

 

行き場を無くしたこの感情をどうしたらいいものか、ふと、ポケットの中に手を入れる、すると何か冷たい感触がある。

 

何だ?、そっと取り出されたのは、小さなビー玉。

 

「これ…こんなところに入ってたのか…」

 

…夏休み前、コンビニ前にいた、刀を背負った白スーツの怪しげな男から貰った、この小さなガラス玉。

 

青と緑が混じり合い、濁りのない光を宿したそれは、掌の中で静かにきらめいている。

 

ひとつ、目を細めながらビー玉越しに空を見た。

 

澄んだガラスの球体を通して見る世界は、少しだけ形を変えていた。

 

空と海の境目が溶け合い、逆さまの雲が砂浜の上に浮かんでいるようにさえ見える。

 

現実のはずの景色が、ほんの少しだけ“どこか違う場所”のようだった。

 

そんな視界に、樹は黙って見入る。

 

次いで望美から渡された、まだ水滴の残るペットボトルを手に取った。

 

ビー玉を持った指ごと、それを重ねるように構える──

光が透過し、ビー玉の中に濁ったオレンジ色がじわりと広がる。

 

…一瞬、世界がぐにゃりと歪んだ気がした。

 

見えていたはずの水平線は崩れ、空は海に飲み込まれるように沈み、光は断片的に砕けて散った。

 

映っているものが、現実なのか、それとも自分の中にあるものなのか──境界線すら曖昧になる。

 

あの刀を背負った白スーツの男の言葉が、頭の中を反芻する。

 

 

─────この世界は歪んでいる────

 

 

 

「……歪み、か……」

 

低く、独り言が漏れた。

 

風が吹き抜け、ビー玉の光が反射する。

ただのガラス玉と、ただのペットボトル。

それでも今、自分の目に映っているものは──

 

“どこかで何かが噛み合っていない”、そんな世界の断片のように思えた。

 

それでも胸の奥に残ったざわめきは、風が吹いても消えなかった。

 

望美の表情。あの時の言葉。ビー玉を手渡してきた“あの人”の、目。

 

“知らなくていいことを、知りかけている”。

 

そんな警告めいた気配が、すぐそこにある気がした────

 

 

 

 

 

そう思い詰めていると、背後からザクッ、ザクッと砂を踏む音とともに、潮風に混じってかすかに甘い香り。

 

…今日はやたらと背後に気配を感じるな…そう思い振り返る。

 

視界の端で、風にふわりと揺れた水色の髪が目に入る。

陽光を透かして、きらきらと柔らかく輝いていた。

 

「ふ、古澤…さん…?」

 

来訪者が誰なのかわかったのも束の間、振り向く間もなく、彼女はすとんと隣に腰を下ろす。

 

体育座りで膝を抱え、じっと前を見つめたまま、何も言わない。

 

――その横顔には、いつもよりわずかに強い感情の色があった。

 

……あれ…なんか怒って…る…?!!

 

彼女はムスッとした表情で水着の上に羽織っているラッシュガードの袖口をギュッと握っている。

 

…まずい…… …俺…何かやらかしたか……?

 

その様子を見て、思わず樹は頭の中をぐるぐると探りはじめる。

 

そういえば…今日一度も古澤さんとは話してない…いやいやそんなことでわざわざ来るわけないし…うーん…

 

そうして逡巡の末、思い切って口を開く。

 

「あのぉ……ふ、古澤さん……もしかして、なにか……怒ってたり……します?」

 

恐る恐るそう聞いて、返ってきたのは短い沈黙。

波音だけが耳に届く中、響子は俯いたまま、ぽつりとつぶやいた。

 

「うん、怒ってる。だって…新条くんが、私との約束をやぶったから」

 

「………へ?」

 

思いもよらない言葉に、樹はぽかんとした顔で響子を見る。

 

響子は、膝を抱えたまま、少しだけ目を伏せる。

 

「…したでしょ。悩んだり、辛かったりしたときは、一人で抱え込まないって。ちゃんと、私に話すって…」

 

その声は怒っているというよりも、どこか寂しげで、少し拗ねたようだった。

 

「……あぁー…」

 

樹は思わず頭をかきながら、気まずそうに目をそらした。

 

それは、かつてふたりの間で交わされた約束だった。

まだ響子との距離が今よりも少し遠かった頃──彼女が不意に見せた優しさに救われて、だからこそ口にした言葉。

 

「前に太陽くんと喧嘩してた時もそう、そして今日も……の、望美ちゃんと何か話した後にこうやって1人でずーっと海を眺めて…思い詰めて、1人反省会ばっかりしてる…」

 

視線を向けると、響子はラッシュガードの袖をきゅっと握りながら、すこしだけ頬をふくらませていた。

 

 

「…ちょっとぐらい私に話してよ」

 

今度は唇を尖らせながら、むくれたように小さく言う。

 

「…!」

 

その言葉に、表情に、樹は一瞬返す言葉を失う。

 

…そうか…俺はまた…いやまだ無意識に1人で解決しようとしちゃってたんだ…

 

勇気を出して、色んな人と交流することばかり優先して、身近な人たちのことを蔑ろにしようとしていた…

 

「……ご、ごめん。別に、隠してたつもりじゃなくて……ただ、うまく言えなくて……」

 

言葉を探して、俯いたまま砂を指でなぞる。

 

…どうしてこんな簡単なことが、難しいんだろう。

 

「……俺、まだダメなんだ。人に頼るって、どうすればいいか……よく分かんないままでさ」

 

目の前の波が引いていく。言葉も、気持ちも、どこかに引きずられていきそうになる。

 

「……そっか…。でも…」

 

隣から、ふわっとした声。やわらかく、でもちゃんと真っ直ぐな響き。

 

「私には…頼ってくれてもよかったのに」

 

ぽつんと、海に落ちるしずくみたいな言葉だった。

 

「ちょっとだけ……寂しかったよ。新条くんが、ひとりで考えてたの、なんとなく分かってたから」

 

目は合わないけど、声だけはちゃんと届いてくる。

 

「……人と関わるって、難しいよね。私だって、うまくできないときあるし…」

 

ぽつりと落とされたその声は、波の音に紛れそうなほど小さくて、でもどこかあたたかい。

 

「無理に全部ちゃんとしようなんて思わない方がいいと思う。言えないときは、言えないままで」

 

そう言う響子の声は、どこまでも優しくて、けれど芯があった。そっと砂浜に視線を落としながらも、その横顔には迷いがない。

 

「だけど……だけどね、誰かのために、相手に否定されても自分自身の言葉を伝えようとする新条くんの姿…私、好きだよ」

 

少しだけ首をかしげて、どこか照れくさそうに笑う。

 

「つ、つまり…私の言いたかったことは……新条くんが困った時は、私も、一緒に考えて…支えたい…そう思うから…」

 

風に揺れた水色の髪が頬にかかり、それを指先で払うしぐさに、どきりとする。

 

「だから……今度は…約束、ちゃんと思い出してね?」

 

 今度は、まっすぐに樹を見つめていた。空のような瞳が、真剣に彼の心の奥を覗き込むようで――樹は、その視線に正面から向き合わずにはいられなかった。

 

「……うん、ごめん。これからは…ちゃんと相談します…」

 

言葉にした瞬間、胸の中に少しだけ詰まっていたものがふっとほどける気がした。

 

「はい、宜しい」

 

どこか先生と教え子みたいなやり取りに、思わずふたりとも吹き出してしまう。

 

響子はくすくすと笑いながら、樹の顔を覗く。

 

「やっとこっち向いてくれた」

 

その一言が、不思議とすとんと心に落ちてくる。

 

まるでずっとかかっていた霞が晴れたように、頭のモヤモヤがふわりと消えて、視界が驚くほどクリアになっていく。

 

波の音が、さっきより少しだけ近くに聞こえた。

 

「…でも、どうしてそこまで…俺のことを…その…心配?してくれるの?」

 

ふと思ったことを口にしたが、言った後に自分でも気恥ずかしくなって、声が尻すぼみになる。

 

「……えっと、ね…」

 

響子はすぐには答えなかった。

 

指先でラッシュガードの裾をいじるようにしながら、どこか楽しそうに目を細めて――

 

「……それは内緒」

 

小さく微笑みながら、そう言った。

 

それは冗談っぽいけれど、本当のことを隠しているような、どこか不思議な響きだった。

 

△▼△

 

……新条くんは覚えてないと思うけど…あの日…以前まで 夢の中の出来事だと思ってた…怪獣が現れた日…

 

…私たちがまだ4〜5歳のとき(・・・・)、私と奏を助けてくれた、励ましてくれたライムグリーンの髪色が目立つ男の子…

 

…名前も知らなかったキミを……高校の同じクラスで見かけてから私は─────

 

△▼△

 

 

潮風が、ふたりの間をすり抜ける。

 

「……」

 

しばらくの沈黙のあと、響子が小さく息を吐いて、ちらと樹の方を見た。

 

「……ねぇ、新条くん」

 

「ん?」

 

「今日、どう……かな……?」

 

ぽつりとした響きに、何のことかと一瞬首を傾げた――その瞬間、樹の目の前で、響子がラッシュガードのジッパーを指先でつまんだ。

 

ゆっくりと下ろされていくファスナー。

 肩から、薄い布が滑り落ちていく。

 その下に現れたのは、控えめで清楚なデザインの水着――黒地にさりげない水色の縁取りが、彼女らしい優しさをにじませていた。

 

 露になった素肌が、陽光にふわりときらめく。

 

「どう……かな?」

 

小さく問い直すように言って、ぽつりと落ちたその一言が、やけに静かに耳に届く。

 

「…新条くん?」

 

 

…いや…その…

 

「声ちっさ」

 

樹の頬が一気に紅潮する。

 

――ち、近い……!

 

…って、なんでこんなに緊張してんだ俺!?

 

風間さんとか花子さんとか…他の女子と話してるときは、ここまで動揺なんてしなかったのに。

 

…他のクラスの女子だって水着姿だったハズだよな!?

 

…まぁ小鳥遊さんは小鳥遊さんでドキド……凄かったけど…それとは別ベクトルの……やばい、頭が回らな──

 

ゴフッ

 

「し、新条くん!?だいじょうぶ?!」

 

う、うんなんとか…」

 

 

…古澤さん…それは反則すぎる──────

 

 

直視できないほど眩しくて、頭が真っ白になりかけた。

視界が霞み、意識がふわりと浮かびそうになる。

 

だが、こんなにも勇気を出して見せてくれた響子に、意識を飛ばすなんて、あまりにも失礼だ。

 

だから────伝えねば。

 

意識を、心を、彼女の姿にしっかりと向ける。

 

「――すごく、似合ってる」

 

自然に、何の躊躇いもなく、口からこぼれていた。

 

言葉が出た瞬間に、自分でそれに気づいて、樹は顔を真っ赤にする。

 

「っ……俺ってば、つい口が……!」

 

 うつむいて慌てる彼の姿を見て、響子はしばらく呆然としていたが…

 

 

…うん…ア、ありがとう…

 

 

 そう言って、響子は顔を仰ぐように手をパタパタと動かし始める。

 

「……な、なんだか暑いねぇー!?……」

 

「そ、そうだね!?な、夏だし……ていうか、えっと……日射しとか……うん……あは、あはは……」

 

どこかぎこちない笑い声が、潮騒にまぎれて消えていった。

 

お互いに頬が赤くなり、ふたりして視線を逸らしてしまう。

 

照れくささと、なぜかほんの少しあたたかい空気が、波音の隙間にそっと流れた────

 

 

 


 

一瞬、幻かと思った。

 

だが、あの異様に明るい声と、深い紫苑の艶のある髪は、記憶に深く焼き付いている。

 

かつて、自分を"あちら側"へと誘い、心を操った──あの3人組のうちの1人。

 

ライラは息を殺すように歩を進め、無防備に浜辺を歩く望美へと駆け寄る。

 

「……待った。キミたち何を企んでるの?ここで」

 

望美はくるりと振り返り、ぱっと花が咲くように笑った。

 

「わ〜♪ ライラナクスちゃんじゃないですか〜♪ 奇遇ですね〜♪こんなとこで会えるなんて〜★」

 

「…そんな顔をしたって…キミの心は少しも笑っていない、そうでしょ?」

 

「…あ〜ん♪ライラナクスちゃんってばひどい〜★」

 

「…キミたちの目的は何……?」

 

ライラは息を殺すように歩を進め、無防備に浜辺を歩く望美へと駆け寄る。声が震えた。抑えきれない怒りと、恐れと、責任。

 

「まぁまぁ〜♪落ち着いてくださいよ〜♪」

 

望美はライラの問いかけをスルーするようにくるくると回り、背後から小さな模型を取り出した。

 

「これなーんだ★」

 

それは粘土で作られた怪獣の模型。

 

それを目にした瞬間、ライラは声を強張らせた。

 

「待った…!ダメ…!こんなところで実体化させたらどれだけの────」

 

「待ちませーん★インスタンス・アプリアクショ〜ン★

 

カチ、と何かがはじけた。

 

模型が淡く光を放ち始め、浜辺の空気が歪む。

ライラの叫びは、もう止めることなどできなかった。

 

「…!」 

 

異変を感じとったのか、ライラの手中の小さな怪獣が身震いする。

 

「それじゃあ私はこれで〜♪またね〜ライラナクスちゃん♪」

 

軽やかな足取りで、望美はその場を離れていく。

 

「ッ…まだ話は終わってない…!」

 

「アハハッ♪…私なんかに構ってていいんですか〜?ほら★」

 

刹那、辺りの自然音が静まり、代わりに徐々に大きくなっていく音が一つ。

 

何度も聞いてきた、一つの神経を逆撫でる不協和音。

 

否…今回は…一つじゃない…!?これは…!

 

「…まずいみんなが────────」

 


 

 

潮風が重くなる。

空に雲が広がり、空気の色まで灰がかるような錯覚。海岸沿いに立つ人々が、なにか”おかしい”と気づいた瞬間——地鳴りが走った。

 

 

ゴゴゴゴ……!!

 

 

それは大地の鼓動か、それとも目に見えない足音か。

 

海辺の岩場が突然、膨れ上がるように隆起する。地面に亀裂が走り、砕けた地層の隙間から、跳ねるような影が姿を現す。

 

白い鎧を纏った巨大な体躯。四肢の節々が岩のように固く、脚力をため込む構造。

 

そして背中には、跳躍の着地時に衝撃を拡散させる「地盤振動器」のような器官を備えている。

 

まず砂浜に現れたのは、跳盤芻皇怪獣ゴウ・リアーゾル。地を駆け、地を穿つ。

 

ゴウ・リアーゾルが、岩場を破壊しながら立ち上がる。眼は光り、顎を開いて咆哮を上げる。

 

[———‘:;///!!!!!!!]

 

だがその叫びと同時に、海面が一面、音もなく泡立ち始めた。

 

 

ズズズ……ズゥウゥゥ……!

 

 

まるで深海の口が開くかのように。

海面の中心で、水が逆流し、女王のような姿をした怪獣が浮上する。

 

細長くしなやかな体。イルカとクラゲを思わせるような流線型。

白い鎧の胸元には輪のような発光体があり、そこから音波が波紋となって広がっていた。

 

[———¥.)(‘;(;:;!!!!!]

 

2体目に出現したのは水響輪妃怪獣ゴウ・ソナーベル。深海の歌姫……破滅の旋律を奏でる。

 

 

皇と妃。

 

陸と海。

 

その二体が、それぞれのフィールドに立った瞬間——自然そのものが反応するかのように、海と陸の境界線が震えた。

 


 

「…2体同時か」

 

「まだ話は終わってないっつーのに…」

 

地鳴りのような咆哮が、海の家の建物内にまで響き渡る。

 

世界の真実についてナイト、ボラー、レックス、そして今は敵勢力であるはずのヴィットを交え会議をしていた最中、怪獣が出現したのだ。

 

「……あれ、おかしいなぁ。予定の時間より、ずいぶん早い……」

 

窓越しに広がるのは揺れ動く大地と、荒れ狂う波と、うごめく2つの巨大なシルエット。

 

彼は顔に手を当て、ひとりごとのように呟いた。

 

その背後から聞こえる、ヴィットを訝しむ声。

 

「おいお前……ここに怪獣が出るって、最初から知ってたのか…」

 

肩をすくめるように、ヴィットは振り返る。

 

「まぁ…ね。あーでもさ、ちゃんと君たち全員この場に呼んだんだから、そんなに怒らないでよ。俺なりの親切心ってことで」

 

薄く笑うヴィットに、レックスが眉を吊り上げる。

 

「お前なぁッ……!」

 

そこへ割って入ったのは、腕を組んだボラーだった。

 

「レックス、落ち着けって。…ったくよ…洗脳されてても、その自由すぎる性格は全然変わんねーな」

 

その言葉に、ヴィットはきょろきょろと辺りを見渡しながら、首をかしげる。

 

「え、誰のこと?」

 

「オメェのことだよ!!」

 

ボラーが声を荒げていると、そこへ樹と響子が海の家へと息を切らしながら到着する。

 

「ナイト!!……うぉ…なんか知らない人もいる…」

 

「どーも」と、手を振る白いスーツのヴィットを見て樹はたじろぐ。

 

……あのスーツ…やっぱコンビニにいた人と同じ…仲間…なのか…?

 

樹の背後からピョコっとに顔を覗かせた響子が記憶を辿り、分析する。

 

「同時に2体なんて…今までなかったよね…?」

 

響子の言葉通り、この世界で2体同時に怪獣が出現したのはこれが初めてのことだ。

 

怪獣のダブルヘッダーという緊急事態に、一同は焦りを禁じえない。

 

「お前ら……なんか顔赤くねぇか?」

 

樹と響子、2人の顔を見てレックスが呟く。

 

「そ、そんなこと…」「ないです…デス…」

 

察しのいいボラーとヴィットは「あぁ〜…」という反応を示し、察しの悪いナイトとレックスは「…?」といった感じだ。

 

そういったやり取りをしている間に─────

 

「っしゃ!お待たせ…!」「……お、おまたせ…」

 

数秒遅れて、太陽とライラも駆けつけ、一同が集結する。

 

「ライラちゃん…何かあった?」

 

いち早く、いつもと異なる様子のライラに響子は心配そうに声を掛ける。

 

「……あぁ…うん。みんな…ごめん、止められなかった。アタシ…あの子を──」

 

苦悶の表情を浮かべ、拳を強く握りしめる。

 

ライラは、自身を利用したあの三人組──ファージ、望美、そして“コピー”のことを、未だ樹たちには伝えれていなかった。

 

というのも、洗脳を解かれた直後は記憶が錯乱していた。その後も、タイミングを見失い、言い出せずにいたのだ。

 

その自分への苛立ちと悔しさが、いま胸を締めつけていた。

 

そんな様子のライラに、ナイトが声を掛ける。

 

「…その話は後で聞く。今はそれよりも怪獣の対処が最優先事項だ」

 

ナイトの声は冷静で、だが決して彼女を責めるものではなかった。

 

「…わかってる。……でもみんな…この戦いが終わったら聞いて欲しいことがある、タイヨウたちにも、全部──」

 

太陽は短く頷き、ライラの背中に手を添える。

 

「そのためにも…まずは、やるべきことをやろうぜ」

 

「…うん、そうだね」

 

太陽の言葉に、少しだけライラの暗い気持ちが軽くなったように見えた。

 

「よし…!避難誘導しつつ出撃だ!」 

 

バーカウンターの上に置いてあったそれぞれのマシンを手に取り、一同は頷き合う。

 

「「はいっ!」」「うん…!」

 

レックスの指揮の下、海の家の戸を勢いよく開け、4人は飛び出していく。

 

 

 

「ナイト、俺たちもいこう…!」

 

「…あぁ。俺たちに課せられた使命を…真っ当する、それだけだ」

 

画面に映るナイトに覚悟を示すように、樹は構えた左腕に右腕をクロスさせた。

 

「アクセスッ…フラッシュ…!」

 

樹の身体が光と化し、コンピュータの中へと突入する。

 

 

「っしゃ…俺も行くとするか…!アクセスコード!バスタ────」

 

「ストップ。」

 

と、続けて出撃しようとしたボラーを白スーツを纏ったヴィットが制止する。

 

「んだよ!?」

 

声を上げるボラーに対し、ヴィットは無表情のまま、静かに言い放った。

 

「…ボラー、キミ(・・)には別の任務がある」

 

▼▼▼

 

初夏の陽気に包まれた観光地、海辺の町。

 

砂浜では子供たちが水を掛け合い、パラソルの下でカップルが笑い合っていた。

 

そんな、当たり前すぎる光景が——突如として崩壊する。

 

ズゥゥン……バゴォォン!!

 

沖合いで水柱が爆発した。

 

海面から、巨大な輪の発光体を胸に持つゴウ・ソナーベルが浮上し、その振動で砂浜のスピーカーが破裂。

 

続いて背後の断崖が崩れ、跳ねるように現れたゴウ・リアーゾルが岩場を破壊しながら上陸してきた。

 

「キャアアアアッ!!」「なにあれ!?」「逃げろっ!!」

 

地響きと音波で混乱した人々が、パニック状態で四散する。

 

 

 

「──きゃあっ!」

 

ビーチで遊んでいた数人の学生たちが、突如巻き起こる振動と轟音に悲鳴を上げた。

 

「イタタ…」

 

水鉄砲を手にしたまま、響子の友人・風間が砂に足を取られて転ぶ。

 

「ハッ…風間っ!」

 

近くにいたこちらも響子の友人の花子が駆け寄ろうとするが、その目前に巨大な影が落ちる。

 

海から姿を現したゴウ・ソナーベルが、滑るように海岸へ迫る。

その口元が振動し、水面を震わせながら超音波を発する。

 

 

[———¥.)(‘;(;:;!!!!!]

 

周辺施設の窓ガラスが割れ、地鳴りが走る——

 

 

「「キャアアアアアッ!!!!」」

 

2人の少女は身を寄せ合い、涙を溢す。

 

 

───ウチらの人生これで終わり…?───そう覚悟したその時────

 

 

『ハァッ…!』

 

 

間一髪、影の中から紫と黄色の閃光が走る。

 

グリッドナイトが前に飛び出し、その巨大な身体で音波の直撃を防いだ。

 

〈ギリチョンセーフッ…!この野郎…みんなを狙いやがって…!〉

 

響子の友人たちの目に、グリッドナイトの背中が焼き付く。

 

「…あれって…」「ヒーロー…?ってまじか…」

 

現実味のないその光景に、2人はキョトンと顔を見合わせる。

 

彼女らには、その中に新条樹がいることは知る由もない。

 

だが、誰よりも心配そうに目を見張っているのは、ダイナウイングのコクピットにいる響子だった。

 

『…よかった…2人とも無事で……ありがとう新条くん…!』

 

 

 

 

[———‘:;///!!!!!!!]

 

一方、ゴウ・リアーゾルの足元では、クラブハウスの外に出ようとしていた数人の男子たちが足止めされていた。

 

「まずいまずいぃ!どうすんのこれぇ!?」

 

「俺に聞かれてもわっかんねぇワァ!」

 

パニック状態の彼らの声が聞こえ、ゴウ・リアーゾルはクラブハウスを覗き込みさらにけたたましい咆哮を上げる。

 

 

[———‘:;///!!)(:)))&)!!!!!!!!!!]

 

「ヒィィィィィィィィィィィィィィ!?!」「ごめんなさいごめんなさい〜!」

 

悲鳴を上げる男子たち、そこへ────────

 

『ダイナソルジャー…キィックッ!!』

 

ゴウ・リアーゾルの頭部目掛け、ダイナソルジャーの一撃が炸裂する。

 

[———‘:;///!??!!!]

 

吹き飛ばされたゴウ・リアーゾルの隙を見て、太陽はコクピットから声を張り上げる。

 

『はやくこっちへ!、裏の道へ回れ!』

 

エコーが掛かっているのもあるが、まさか太陽の声とはクラスメイトたちはわからないだろう。

 

「お、おう…」「うわ、ロボット!?あれ本物!?」

 

避難していく面々を見送り、臨戦態勢へと移行していく。

 

 

 

〈よし…これで存分に戦えるな…〉

 

粗方、避難誘導が済み怪獣へと視線を移す。

 

海岸線に広がる破壊の痕跡と、なおも蠢く二体の怪獣。

 

ゴウ・ソナーベルは潮流を操るように海面を震わせ、

ゴウ・リアーゾルは地を跳ね、砂浜を崩壊させながらこちらへ迫ってくる。

 

〈…あの怪獣…〉

 

『どうした、樹』

 

〈いや…なんか…前よりも…怪獣の造形が細かいっていうか……〉

 

例えるなら、初代ウルトラマンに登場したゴモラと、大怪獣バトルに登場したレイの操るゴモラ…同じ怪獣でも時代の流れによって造形は深く

、より鮮明なものになっていく。

 

それと同じように、今目の前に出現した2体の怪獣の情報量が、ディテールが以前までよりも増した…そんな気がする、

 

〈いや…やっぱ忘れてくれ…〉

 

…俺の…気のせい…ならいいんだけど…

 

 

 

後、怪獣の様子を分析したグリッドナイトが、仲間たちに静かに告げる。

 

『……地の利は怪獣側にある。二手に分かれるぞ』

 

すぐさま、ダイナダイバーのコクピットでレックスが声を荒げる。

 

『言われなくてもわかってるつーの! それじゃあお前ら…』

 

波しぶきを切り裂くようにダイナダイバーの機体が身構える。

 

『行くぞぉ!!!』

 

水しぶきと砂煙の中、戦いの火蓋が切って落とされた──────

 

 


 

「う〜ん!やっぱ二体同時は迫力が違うな〜ッ♪」

 

黒曜石のように艶やかな黒髪が、跳ねる。

 

その少女——コピーは、破壊と混乱の真っ只中で、ただひとり楽しげに身を乗り出していた。

 

瞳は爛々と輝き、まるで贅沢なエンターテインメントに目を奪われる観客のように。

 

爆発。悲鳴。揺れる地面。

 

だが、彼女にとっては全て「演出」に過ぎない。

 

「ちょっと雑すぎ!ちゃんと狙ってよ〜」

 

指先でくるりと髪を弄びながら、不満げに怪獣たちを叱る口調は、

あくまでペットの芸がうまくいかない程度のもの。

 

「し・か・も〜この怪獣にはまだまだ〜ッふふふ♪」

 

意味深な笑みを浮かべ、肩を揺らしながら、怪獣たちの隠された力を愉しげに予告する。

その無邪気さが、余計に恐ろしい。

 

そんな彼女に、のんびりとした声が届いた。

 

「コピーちゃーん♪今回も〜とってもいい怪獣ですね〜♪私〜感激です★」

 

砂浜をピョンピョン跳ねながら望美がコピーの元へと現れる。

 

どこか浮世離れした声と、首をかしげるような仕草。

 

だがその笑顔の裏には、確かな何かが潜んでいた。

 

「望美()()()こそ〜いつも実体化お疲れさま〜」

 

「……♪いえいえコレが私の仕事なので〜♪アハッ★」

 

愛嬌たっぷりに首を振る望美。

 

その裏で、唇が不敵に持ち上がる。

 

それはまるで、コピーの言動の変化を待っていたかのように。

 

——この“役割”が、誰かの意思などではなく、

彼女自身の「選択」であると認識している者だけが浮かべる、底知れぬ笑み。

 

灼けた空に、異様な熱気が混ざる。

 

そして、その熱は確実に——戦場の空気を、歪めていく───

 

 

 

 

 

その時、背後から声が響いた。

 

「怪獣が暴れてるっつーのに…随分と呑気にお喋りしてるなぁ、お嬢ちゃんたち」

 

黒髪の少女は、欠けたレンズの奥から鋭い眼光で声の主をギロリと、横目で睨みつけた。

 

「……だれ?」

 

声の主は、ニヤリと歪んだ笑みを見せる。

 

「やーっぱヴィットの見立て通り…お前らなら間近で怪獣を見物すると思ったぜ」

 

スクラップメーカーダガーを携え、その男ーボラーは口元に、嘲弄の色を濃く浮かべた。

 

「よ〜やく会えたな…この世界の黒幕さんたちよぉ…!」





あとがき

今回の怪獣のコンセプトは兄妹怪獣(または双子怪獣)。ウルトラマンレオに出てきたガロンとリットル、レッドギラスとブラックギラス的な…
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