SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish 作:ゴリニティ75
50回 迷・走
暗闇。何も見えないはずなのに、音だけが異様に響く。
…どこだ…ここ…?
辺りを見渡すが、視界にはただの闇しか広がっていない。
どうなってる…?もしや―また、怪獣の能力で……!?
そんなことを考えていると、どこからか金属がぶつかるような音が聞こえた。
…なんだ…音が…聞こえる…
金属がぶつかる音が、耳に深く刺さる。
誰かが戦っているのか…?
途端、景色が変わって…ってここ空か!?
『…キャリバーたちを何処へやった!!』
…俺の声…?
いや…俺今喋ってねぇし…これ…どういう──
目に映る景色が目まぐるしく変わってて…ちょっと待て…
自分の身体を見下ろす。
これ…俺が…ダイナレックスになってる…?!
心臓が早鐘のように打つ。
…頭の整理が追いつかねぇ…
というか敵は……誰だ、一体……!?
その時、黒い斬撃が視界の端をかすめ、低く冷徹な声が耳を刺す。
[……再度忠告する……俺たちと共に……来る気はないか……?]
…くそ目まぐるしく視点が変わるせいで相手の姿が見えねぇ…
[君も…私⬛︎ちと同じく…⬛︎⬛︎バー⬛︎の存在で⬛︎るという⬛︎のに…]
…ノイズがひどくて上手く聞き取れなくなってきやがった…
『誰がお前らなんかと…!!』
俺…いや、ダイナレックス?が吠え、勢いよく突っ込んでいく。
[そうか───残念だ]
次の瞬間、黒い波動と共に斬撃が、一瞬で全身を貫くような感覚。
視界が歪み、音が遠くなる。体が、思い通りに動かない。
空中から一気に降下していく感覚…
…負けた…のか…?
狭くなっていく視界の中で、黒い影を見つける。
そこで初めて、対峙していた相手の姿が目に入った。
漆黒の装いを纏い、闇のように光を吸い込む瞳。
背中から伸びる黒いオーラは、まるで世界そのものを覆うかのように広がっている。
その圧倒的な存在感に、全身が硬直し、恐怖と戦慄が一瞬にして押し寄せた。
あれは……黒い…魔王…?
「────クス、レックスってば」
その声で、レックスは目を覚ました。
「ん……ライラ」
目の前には、少し小柄なライラが、心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
小さな手でタオルを握り、レックスの肩にそっと置いたまま、顔を覗き込むようにしている。
「レックス…酷く魘されてたけど…大丈夫?」
レックスは胸の辺りで乱れる呼吸を整えようと、肩をすくめる。汗で髪が額に張り付き、腕を軽く振って滴を払う。
「…あぁ…」
目の前のライラを見つめると、夢で感じた圧倒的な黒の影がまだ残像のように胸にちらつく。
深呼吸を一つして、ようやく自分を取り戻す。
「夢……か」
海での怪獣騒動から数日。
夏休みはまだ始まったばかりに思えていたが、なんやかんや残すところ数日となってしまっていた。
台高祭まで数週間を切り、学校は夏休みだというのに準備をする学生で溢れている。
樹たちの1-Eもその例外ではなく、今も絶賛作業中だ。
「ねえ、的はもう全部組み立て終わった?」
「うん、あとは色塗りだけだよ」
「看板も立てなきゃ! あ、紐が足りないかも」
教室の隅では、駄菓子を片手にくつろぎながら作業する人もちらほら。
「こっちの箱、倒れやすいから気をつけて置いて」
「わ〜、景品いっぱい集まったね! お客さん喜ぶかな?」
そんな喧騒の中、樹はクラスの中で望美の姿を見つめていた。
「のぞみ〜ん!これレシートね」
「はい♪確かに承りました〜♪」
望美は台高祭の実行委員長として、経費の管理や計算の仕事に追われながらも、友達と笑い合っている。
樹がその姿をじっと見つめていると、望美は視線に気づき、にこやかに手を振った。
思わず目線を逸らす樹。
「…おっと」
その反動で手に持っていた筆があらぬ方向に滑り、塗っていたところをはみ出してしまう。
それを茶化すように、最近樹と話すようになったクラスメイトたちが声を上げた。
「あー…どんまい、新条」
「小鳥遊さんが手振ってくれたからって、見惚れてんなよ」
「いや…そんなんじゃ───」
「望美さんは"俺に"振ってくれたんだ」
「なわけねーだろ、鏡見ろヒョロガリ」
「え、そこまで言う…?…うわーん新条〜!」
「ハイハイ」と、そんなよくある男子高校生の軽口を横目に、樹ははみ出したペンキを下地の白で丁寧に塗り潰していく。
「……」
だが、その手は次第に止まり、頭の中はざわめきに包まれる。
海での怪獣騒動あの日の戦いの後の記憶。
そしてナイトから告げられた──信じ難い事実。
ライラを怪獣に変え、ボラーを拉致した──この世界の黒幕の存在。
その黒幕の名に、小鳥遊 望美の名前が含まれていること────
今も、隣で笑顔を見せながらクラスメイトたちと何気なく会話する彼女─── その姿が、樹の胸に小さな混乱と疑問を生んでいた。
……本当に…小鳥遊さんが……?
台高祭の準備期間といえど、部活動はきちんと続いている。
汗で濡れたユニフォームを脱ぎ、着替えを終えた太陽は体育館の扉を押し開けた。
「ふぅ……中より涼しぃ」
軽く息を整える。
むっとした熱気に包まれた室内より、外の風の方がわずかに涼しく感じられた。
夏の夕暮れはまだ遠いが、ほんの少しだけ空気の色が変わっている。
体育館の段差を下りたところで、ふと視線の先に見覚えのある後ろ姿があった。
「……お、委員長じゃん」
呼びかけると、振り返ったのはやはり響子だった。
「太陽くん……」
「どしたん? 体育館になんかよう?」
「ううん……そうじゃないんだけど……」
響子は目を伏せ、小さく言葉を濁した。
「……教室に、戻りにくくて」
太陽は一瞬だけ黙り、彼女の気持ちを察したように眉を寄せる。
そして低い声で答えた。
「……小鳥遊のこと、だよな」
「……うん」
響子の返事は短く、それでも十分すぎるほどの重さを帯びていた。
「……望美ちゃんは……いつも笑顔で明るくて、クラスのことも一生懸命で…今も台高祭をみんなで成功させるために動いてくれてて…
そんな子が黒幕の1人だったなんて、私……まだ信じられなくて…」
響子は視線を落とし、両手の指先をぎゅっと絡める。
「……何か理由があるんじゃないか…とか…自分の意思じゃなくて誰かに強要されて仕方なくやってるんじゃないかって思っちゃうの…」
太陽は一瞬だけ黙り込み、唇を噛む。
「俺も…できれば…そう信じたい…でも──」
小さく首を振ると、太陽は拳を握りしめて言葉を続けた。
「…ナイトさんの話通りなら…俺は…小鳥遊を許せない…」
苦しげに歪む表情の奥に、まだ拭えない困惑が揺れていた。
「何回も…街を、みんなを傷つけて…ライラも…怪獣にされて…ボラーさんも…」
太陽の言葉に響子は、視線を落とす。
戦いの後のあの光──セラヴィービームで両親も、街で命を落とした人たちも“再構築”されていることを響子は知っている。
再構築された人は、完全に元通りになるわけじゃない。
少しずつ、前のその人とは違っていて、性格も、人間関係も、言葉遣いも…違う。
しかし、周囲はその違いに気づかず、日常はそのまま流れていく。
おそらくセラヴィービームは、人々の認識さえも書き換える…世界の認識も再構築される。
そんな…命の重さを、想いを、軽く扱うように弄ばれたような感覚に、胸がざわつく。
…本当に望美ちゃんが…?
響子の胸に渦巻く困惑と、太陽の瞳に宿る迷い。
「「……」」
言葉にならない思いが交錯し、二人の間にしばし沈黙が落ちる。
しかし──それも束の間、2人の背後に、静寂をすり抜けるような軽やかな声が降ってきた。
「あ★お二人ともここにいらしたんですね〜♪探したんですよ〜♪」
にこやかな声が響いた瞬間、太陽と響子は思わず振り返る。
そこに立っていたのは、先ほどまで姿のなかった小鳥遊 望美だった。
…いつの間に……?
困惑に言葉を失う二人を前に、望美は相変わらず柔らかな笑みを浮かべる
「アハッ★ちょっとお時間、いただけますか♪」
真夏の日中、校門から一人トボトボと歩く樹。
汗で額が濡れ、リュックの肩紐が食い込む。
背中には色塗りチームで使った絵の具のにおいがまだ少し残っていた。
「結局…話しかけれなかった」
午前中の作業が早々に終わり、特にすることもなくなったため、そのまま帰宅することにしたのだ。
太陽と響子はそれぞれ違う持ち場のため、帰る時間が違う。
同じ色塗りチームのメンバーも、自転車だったり、バスだったり、そもそも帰り道が違ったりと、なんやかんや1人での帰宅となってしまった。
街路樹の木陰を避けるように歩く。
蝉の声が耳に重くのしかかり、足元のアスファルトからはじわりと熱気が立ち上る。
いつもは一瞬なのに、気温のせいでやけに時間がかかってようやく高架下のトンネルへとたどり着いた。
周囲の暑さが嘘のようにひんやりとして、コンクリートの匂いと風の流れが混ざる空間を一人、黙々と歩く。
足音が低く反響し、遠くでクラクションの音が途切れ途切れに聞こえる。
「ここ出たらまた地獄だな…」
思わず小さく呟き、重いリュックを背に少し足を進めようとしたその瞬間──背後から柔らかい声が響いた。
「イツキくん」
振り返ると、そこにはフードを目元まで深く被った黒髪の少女が立っていた。
紫のフルジップパーカーを真夏にもかかわらず羽織って…中には…キヨシ台の…制服…?
「…うわっ」
少女の方から樹の眼下まで近づき、眼鏡の奥の赤い瞳が、じっと樹を見つめる。
「久しぶりだね…!私のこと覚えてるかな?」
「えっと…」
言葉を濁す樹。
……誰ですか、あなた?(真顔)
人の顔を覚えるのは…正直、苦手なんだよな…
クラスメイトですら、まだ顔と名前が完全には一致していない。(大問題)
必死に思い出そうと焦る樹の視線の先で、彼女は一冊の本を取り出し、胸の前に差し出した。
「この本…買ってくれて…本当にありがとう」
本…?
注意深く表紙を覗き込むと、それはSF・特撮ビジュアルマガジン――[宇宙船]だった。
しかもそれは《ウルトラ怪獣大特集》が載ってる──と彼女の胸の前に出されたその本を見入った時、無意識のうちに彼女の胸部装甲にも視線が行ってしまった。
うおっ……ここにも大玉スイカ……!
…夏だからね…仕方ないね──じゃなくて!
と、そこから記憶が刺激され、思い出す。
確か水着買いに行った際に、休憩で立ち寄った書店で出会った娘だ。
「あー…!あの時の!」
「えー忘れてたの?ひど〜い」
…酷いどころか最低な思い出し方をしてしまい…本当に申し訳ない…と心の中で謝っておく。
……あと…なんか前に会った時より…明るくなってる…?キャラ変ってやつデスカ?新学期には早いよ嬢ちゃん…
自責の念を抱き、視線を逸らす樹。
すると彼女はしゃがんで樹の顔を下から覗き込み、手に顎を乗せるようにして笑みを浮かべてくる。
「ずっと探してたんだ〜、君のコト」
声には自然な弾みがあって、聞いているだけで楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
フードの下の眼鏡から見える瞳もキラキラしていて、思わず樹の胸が跳ねる。
「…ねぇ、今から私と…デートしようよ」
その言葉に、軽やかで楽しそうな笑みが添えられている。
樹は思わず目を見開き、頭の中が一瞬で真っ白になった。
「……はィ?」