SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish 作:ゴリニティ75
「夢を見た…?」
夏休み中のキヨシ台高校のコンピュータ室。
その一角で、ナイトが映し出されているパソコンの傍にレックスの姿があった。
「いや…ただの夢じゃなくて…俺がダイナレックスになってて、黒い……魔王みたいなやつと戦って────」
夢で自身が見た情景を必死に、言葉に換言し、夢の内容を忘れぬうちに伝える。
レックスは拳を握りしめ、思い出すように吐き出す。
「でだ。前にボラーがキャリバーに聞いたっていう“魔王の影”。あれと俺の夢に出てきた奴……同じヤツなんじゃねぇかと思ってよ」
「……」
これはあくまでレックスが見た、ただの夢かもしれない。
だが、どうにもあれが虚構だったとは思えなかった。
今の彼らにとって、僅かな情報でも無視できない。
画面に映し出されたナイトの瞳が電子の光で細く光る。
「お前の見た“夢”という不確定要素ばかりの情報からの主観的推測だが……それはレックス、貴様が記憶を失う直前の、最後の記憶である可能性が高い」
「記憶を……失う前の、俺の記憶……」
レックスの声がかすかに震える。
「あぁ。最後にダイナレックスが受けたという独特の黒い波動、そして斬撃──それは、俺がこの世界で目を覚ます前に何者かから受けた攻撃と特徴が酷似している」
ナイトは淡々と、しかし重い確信を込めて言葉を続けた。
「その記憶を夢を通して見た…ということは、お前の記憶が、完全に取り戻されつつあるという事だろう」
「俺の……記憶が……?」
レックスは思わず息を呑む。胸の奥がざわつき、鼓動が速まる。
「そうだ。夢の中で見た光景は、恐らく“偶然の産物”ではない。
これまでのダイナゼノンを通じて戦ってきたことでお前が失った記憶の断片が、奥底に消えた潜在的な意識と結びつき、夢という形で呼び戻されている状態だ」
ナイトは短く区切りながら、重く響く声で続けた。
「……そして今回のお前の話で、ようやく確信に至った。
俺をこの世界でコンピュータに縛り付けた存在も―お前から記憶を奪った存在も……“ファージ”だったということだ」
重い沈黙が数秒続く。
冷房の風音だけが虚しく響き、会話はいったん途切れる。
何やら、またも奴の手のひらの上で踊らされているような気がする。
だが今のナイトたちは立ち止まるわけにはいかない。
少なくとも、レックスが記憶を確かに取り戻しつつある──その吉報を得られただけでも十分だ。
そう思い直し、一区切りつけたナイトはわずかに姿勢を正すと、視線を横に向けた。
「……で、先程から何か用か、ライラナクス」
ナイトが映し出されているパソコンの側でレックスに付いてきて、ソワソワとしているライラにナイトがようやく声をかけた。
「うん……そのね。この子を……2人に見せたくて」
ライラはそう言うと、肩から掛けている小さなポシェットの中へ手を伸ばす。
大事そうに両手で包み込んでいた何かを、そっと持ち上げた。
「きっと……2人と関係がある子だから」
両の手がゆっくりと開かれる。
そこにいたのは──小さな翼を持つ、錆びたような見た目をしてぐったり横たわっている、ワイバーンのような見た目の怪獣。
その姿を認めた瞬間、ナイトの表情がわずかに強張る。
「……ゴルドバーン……!」
「私と…デートしてよ」
高架下で唐突に言われ、返事もできぬまま。
気がつけば、樹は未だ名前も知らない黒髪の少女に手を引かれ、真夏の街へと歩み出していた。
……でーと……DATE……デート……?
頭の中でその言葉が何度もリピートする。
…いやいやいや、落ち着け俺。
…これってつまり……俺はいま、女の子と並んで歩いてるってことか?
しかも手まで繋がれて……? やばいやばい……!
心臓が変なリズムを刻み始めている。
…これ……どうなっちゃうんだぁ〜!?
「着いたよ!」
彼女の弾むような声に我に返り、顔をあげる。
気づけば目の前に広がっていたのは、駅前から少し離れた中古ホビーショップ《SEVENDARAKE》。
店舗の入り口脇には、ウルトラマンダイナ第49話に登場した…ゼルガノイドの立像が鎮座し、存在感を放っている。
さらにガラス張りのショーウィンドウには、年季の入った怪獣ソフビやヒーロー玩具が所狭しと並び、通りがかる人々の視線を釘付けにしていた。
……いや、待てよ。これって本当にデートなのか?
…そもそも俺の知ってる“デート”って、もっとこう…カフェとか映画館とかで……
思考がぐるぐると回る中、店内へと足を踏み入れる。
途端、視界いっぱいに広がったのは、ガラスのショーケースにびっしり詰め込まれたソフビ、プラモデル、そして懐かしのDXトイの数々。
埃すら宝石のように思えてしまうその光景に、胸の奥で抑えきれないワクワクが跳ねた。
「ほらコレ! グランドキング、しかも初版版!」
彼女は目を輝かせながらガラスケースに駆け寄り、指先でコツコツと叩く。
「お、おぉ……! マジかぁ……今じゃプレミアついてるやつじゃん…!!」
樹も思わず隣に並び、ガラス越しに身を乗り出す。
「こっちにはジェロニモンもあるし!」
「ね〜!ここ結構レアモノ眠ってるんだよね〜」
「こっちのショーケースには……ファイヤーゴルザ……!」
食い入るようにガラスケースに顔を近づけ、指先でコンコンと叩く。
「1話とか初期に出てきた怪獣はさぁ〜、中盤くらいに炎とか纏ってパワーアップ再登場するけど〜…そういう展開めっちゃ好きなんだよね〜!」
彼女も隣にしゃがみ込み、頬をほころばせながら語る。
「"わかる"……"凄くわかる"……!!」
会話が弾むごとに、さっきまでの妙な緊張は少しずつ溶けていく。
気づけば自然に笑っていて、息を合わせるように次々と怪獣の話題を重ねていた。
──想像していた“デート”というものとはまるで違う。
けれど、同じ熱量で語り合える相手が隣にいることが、こんなにも気楽で楽しいとは思わなかった。
気がつけば夢中になり、時の流れさえ忘れて、名も知らぬ彼女と、不思議な刻を過ごしていった。
「あー、おいしい♪ やっぱりひと仕事終えた後は、ご褒美がないとですよね〜♪」
三人が向かい合い席を囲んでいるのは、駅前にあるカフェチェーン『STARBOWS COFFEE』。
体育館近くで話していた2人を探していたという望美の要件はクラス企画の買い出しに手伝ってほしい…とのことだった。
望美のお願いを無理に断わらないという選択をし、二人は表面上は快く受け入れた。
買い出しを終え、少しひと息つこうと立ち寄って……今この状況というわけだ。
ガラス窓から差し込む夏の光が店内をやわらかく照らし、コーヒーの香りと穏やかなBGMが三人の間に満ちている。
けれど、その調和はどこかぎこちなく、微妙に噛み合わない空気が漂っているような不快感を2人は感じていた。
「いや〜、お二人が手伝ってくれたおかげで、予定よりも早く買い物終わりました♪ ホントありがとうございます〜★」
ストローを軽くくわえ、満足げに微笑む望美。
「う、うん……! 役に立ったなら何よりだよ」
響子は笑みを返しつつも、どこか落ち着かない。
「…」
一方、太陽は黙したまま視線を落とし、氷が溶けていく音だけが彼のカップから響いていた。
…買い出し程度なら、わざわざ自分たちでなくてもよかったはずだ。
…教室に残っていたクラスメイトに頼むことだってできただろう。
…──なのに、彼女はわざわざ自身と太陽を選んで……
……どうして、私たち二人を?
心の中で浮かんだ問いを、響子は唇の内側で押しとどめる。
「──どうして──そう思ってます?」
望美がにこやかに笑ったまま、響子の胸の内を掬い上げるように声を落とした。
「わたし〜ずっとお二人ともお話ししたいなぁ〜って思ってたんです♪」
ふわりと微笑んだまま、望美はカップを揺らしながら声を落とす。
「…気づいちゃったんですよね? わたしが〜この世界に怪獣さんたちを呼んでる黒幕の1人だって★」
軽やかな声色とは裏腹に、その言葉が落ちた瞬間、テーブルを囲む空気はひどく冷たくなった。
「……いつから…?」
先程から黙っていた太陽が低く声を絞り出す。
「アハッ★そりゃ気付きますよ〜♪
この前クラスの皆さんと海に行った後から〜樹くんも含めた御三方ってば、やけに真剣にわたしの事見てくるんですもん♪」
望美は肩をすくめ、楽しげに笑う。
「それに〜、わたしの方も気づいてますよ♪」
軽い調子のまま、しかしその瞳だけはどこか鋭く光る。
「お二人がダイナゼノンを操縦してて〜そして樹くんがグリッドナイトだってコトくらい──もうとっくに★」
テーブルに置かれたストロー付きのカップをくるくると弄びながら、望美は何気ない日常の会話でもするようにさらりと言い放った。
「アハッ♪そんなに構えないでくださいよ〜
わたし〜別に、今日この場で戦うとか、そんなつもりはないですから★」
望美はストローを軽く噛み、いたずらっぽく目を細める。
「……望、美ちゃんは……」
響子は唇を震わせ、言葉を絞り出す。
「どうして……怪獣を……そっち側にいるの?
本当は……理由があったり……誰かに無理やり従わされてるとか……そうなんでしょ……?」
まるで願うように、縋るように響子は問いかける。
クラスメイトが“黒幕”だと、どうしても信じたくなかった。
けれど──その淡い期待は、望美の笑みにあっけなく踏み潰される。
「いいえ?」
望美は軽やかに首を振る。
「ぜ〜んぶ、わたしの意志ですよ♪」
笑顔を崩さぬまま告げられたその答えは、響子の胸に冷たい刃のように突き刺さった。
「……どうして……」
響子の声はかすれ、震えていた。
「どうしてそんなこと……っ 怪獣が出れば、街の人が…学校の友達、家族だって……みんなの大切な人が、場所が…たくさん傷つくのに……!
望美ちゃんだって────」
「うーん…?」
望美は小さく首を傾げ、わざとらしく眉を寄せてみせた。
その仕草は、まるで叱られた子どもがとぼけるように、軽くて悪びれがない。
「わたし、…この世界には…両親いませんし〜、学校での“オトモダチ”?…そういうのも別に……居なくなっちゃって困るほどじゃないんですよね。オモテ向きだけの付き合いなので〜♪」
通常の会話のように放たれるその言葉を聞き、響子の手がだんだんと冷たくなっていく。
「それに…死んじゃったとしても〜どうせ"再構築"されるんだから、別に良くないですか?」
「…は…?」
思わず零れた声は、驚きというよりも、理解を拒むかのように掠れていた。
頭が真っ白になり、言葉の意味を咀嚼する前にただ反射的に口から出たものだった。
「あれ、わたし何か可笑しなことでもいいました?」
望美は肩をすくめ、紫色の髪が光を受けて淡く揺れる。
「怪獣さんによって死んじゃっても再構築されるんだから誰も悲しみませんよね?
…誰かの不利益になることって実際問題、起きてないでしょ?」
彼女の言っている言葉は理解できる、しかし、それを心が受け止めることができない…心が拒んでいるのだ。
「まぁ〜たしかにぃ〜死んじゃう前と同じ人格になることはまずないですけど〜
それに関しては世界そのものの認識が変わるので皆さん違和感なく暮らしてますし♪」
「おかしいよ…そんなの…!再構築すればいいだなんて…!
その人は、その人しかいない、一つしかない命なんだよ?
たとえ見た目が同じでも…その人自身じゃない…っ!」
胸の奥から溢れる感情が、必死に言葉となって押し出される。
「でも───響子ちゃんだって嬉しかったでしょ?
前のご両親が"再構築"されたこと♪」
「ッ───」
言い返そうとする。そこ言葉に必死に抗おうとする。
けれど声が出ない。
胸の奥で、響子もまた──心のどこかで、そう思ってしまっている自分に気づいてしまったから。
「わたし〜なんでも知ってるんですよ〜。響子ちゃんが、ご家族のことで心を擦り減らしながら健気に頑張っていたこととか…」
その声音は同情にも慰めにもならず、ただ秘密を暴いて愉しむかのように甘く響いた。
「それでわたし、なんだかとぉ〜ってもかわいそうだなぁ〜と思ったので──御実家ごと“わたしが”再構築してあげたんですよ〜♪」
望美は小さく笑い、氷の溶けかけたカップを指先でくるくると回す。
「それにね……もしかしたらぁ、響子ちゃんも太陽くんも──もう何度も“再構築”されて生まれてきてるのかもしれませんよ?
そのたびに前の自分は消えて……でも誰も気づかずに“今の自分”を生きてる。そう考えると、ちょっと面白いですよね〜★」
ぞわりと背筋を撫でるような声音だった。
「わたしたちがしていることって……ただ壊してるんじゃないんですよ?
古くて、歪んで、痛んでしまったモノを一度きれいに壊して──もっと新しくて素敵なモノにしてあげる。
…わたしたちも〜単なるイジワルで怪獣さんを呼んでるわけじゃないんです♪
怪獣が壊した街も、人も──その後には前よりもっと素敵なモノになる。
だからこれは“破壊”じゃなくて、“浄化”なんです♪」
その声音は澄み切っていて、まるで祈りを口にするようだった。
「これは"聖なる行為"…世界を…もっと綺麗なモノにするため…そのための怪獣さんなんですよ★」
その笑顔は無邪気そのものなのに、語られる理屈はどこまでも冷酷で、ぞっとするほど噛み合っていなかった。
「…何が聖なる行為だよ。そんなの…ただの正義の押し付けじゃないか…!」
今まで黙っていた太陽が、ついに堪えきれず声を荒げた。
望美はぱちりと瞬きをし、しばらく考えるように視線を宙に漂わせる。
「正義の押し付け……?」
まるで初めて聞いた単語を転がすように、ぽつりと口にする。
「…アハハッ★太陽くんがそれ言っちゃいます?」
ふわりと微笑み、今度は太陽に真っ直ぐ視線を向ける。
「逆に……太陽くんたちは何を守ってるんですか?
戦ったあと、わたしたちのセラヴィービームがなかったら…街も人も壊れたまま、死んじゃった人は死んだまま…それって、守れたって言えるんですか?」
望美は小首を傾げ、あくまで軽やかに続ける。
「実際、今までの戦いでも…グリッドナイトが来るまでにも…戦闘に巻き込まれたりとかでも犠牲出てますし…」
彼女の紫苑の瞳に妖しい光が灯る。
「それと…怪獣を倒してるのは、ダイナゼノンやグリッドナイトの力であって……太陽くんや響子ちゃん…あと樹くん自身の力じゃないでしょう?
なのにどうしてそんなヒーロー面?が出来るのかな〜って」
その声音は挑発的でも怒気を含んだものでもなく、純粋に「理解できない」という調子だった。
「え〜っと、長くなっちゃったけど、つまりわたしが言いたいのは──」
わざと勿体ぶるように間を置き、望美は頬に人差し指を当てて小さく笑う。
「──もう、ヒーローごっこは辞めてね……ってコト♪」
ガタッ、と椅子を弾く音が響き、太陽が勢いよく立ち上がる。
突然の物音に、近くの席にいた客たちが一瞬だけこちらを振り向く。
しかし何事もなかったように視線を戻し、再び静寂が店内を包む。
テーブルを挟んだまま、望美は微笑を崩さない。
一方、太陽も響子も何か言い返そうとして──けれど喉が塞がったように言葉が出てこなかった。
ただ重苦しい沈黙が流れ、望美の笑みだけが異質に浮かぶ。
「それじゃあ〜今日はこの辺で♪
今日はお互い言いたいこと言えて良かったです♪」
軽い足取りのまま、望美はガラス扉を押し開けて去っていった。
振り返ることもなく、その背中は雑踏に紛れていく。
残されたテーブルには、口をつけられないまま放置されたアイスコーヒー。
氷はすっかり溶けきり、もはやただの薄い液体と化していた。
──まるで今の自分たちのように、形はあっても力を失った、薄く脆い存在に思えてならなかった。
〈あとがきメモ〉
コピーが創った怪獣が纏う、金縁のある白い鎧。
これ、はたから見ればまるで聖職者のようにも見えるんですよね。
ファージたちは、自分たちの行動こそ正しい―“聖なるモノ”だという信念で動いています。
だからこそ、グリッドナイトたちと並べてみると、色合い的にはむしろ怪獣の方が「正義の味方」に見えてしまう…そんな逆転した印象を狙ってるのかも…?