SSSS.GRIDKNIGHT Another God Wish   作:ゴリニティ75

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第52回 照・合

 

 

 

「いやー……いっぱい買ってしまった…」

 

店を出たあとも、2人はそのままいくつかのホビーショップを巡り歩いた。

 

気づけば、どちらの手にも紙袋が増えている。

 

「ねー…まぁ今日はチートデーってコトでいいんじゃない?」

 

「…チートデーってこういう場面で使うものだっけ……」

 

他愛ないやりとりに、思わず2人で笑い合う。

 

彼女との買い物──もといオタ活を重ねていくうちに、だいぶ打ち解けてきた気がする。

 

太陽や響子と話している時と同じような…なんとも言えぬ居心地の良さを感じた。

 

そんな不思議な感情に包まれたところで、ふとスマホの画面で現在時刻を確認する。

 

──あれ…?

 

画面に表示された時刻に何故か違和感を覚えた。

 

思っていたよりも、ずっと短い時間しか経っていないのだ。

 

…都内で回れる範囲の店舗をハシゴして、2、3時間は経っているつもりだったんだけど…

 

どういう訳か時刻的には30分ぐらいしか経過していない。

 

…いや、楽しい時間はあっという間に感じるとは言うけど…これは────

 

胸の奥のざわつきをまだ言葉にできないまま、樹は思わず立ち止まる。

 

そんな気配をよそに、コピーはくるりと軽やかに振り返った。

 

「ねぇねぇ! 私…まだ着いてきてほしい場所があるんだけど……来てくれる?」

 

 

黒髪を揺らしながらそう言ったコピーは、返事を待つ間もなく樹の袖をそっとつまんだ。

 

「じゃあ、こっちだよ〜。すぐだから♪」

 

軽やかな足取り。 

 

ほんの散歩の続きみたいな自然さで、樹は紙袋を抱え直し、その後ろ姿を追った。

 

歩きながら、ふと周りに目を向ける。

 

「……ここって…」

 

見覚えのある電柱、角の小さな公園、通りの傾き。

 

気づけば、樹は“よく知っている道”を歩いていた。

 

毎日のように通っている道──

電柱の位置も、家々の並びも、目を閉じていても歩けるくらいに覚えている。

 

そんな道の先で、コピーがぱっと歩みを止めた。

 

くるりと振り返り、楽しげに手を広げる。

 

「じゃーん! 行きたいところって言うのはね──私の家でした〜♪」

 

そう言って指差した先は、樹の家の隣だった。

 

樹は思わず目を瞬かせる。

 

胸の奥が、理由もなくひやりとした。

 

「……わぁ……すっごい……偶然……?」

 

疑問符がついたのは、言葉より先に“違和感”が口を突いて出たからだ。

 

説明できない。でも、先程の時刻の件から、どこか変だ。

 

しかし、その違和感を口に出そうとはしない─いや、してはならない。

 

何故か、そう思う。

 

今はただ、未だに名も知らない目の前の少女に行動を委ねろと、身体が言っているかのようだ。

 

樹の瞳に写る彼女は、変わらない笑みで樹の言葉を返す。

 

「そう……すっごい偶然なの」

 

コピーは隣家の門扉へ向かって、軽い足取りで歩き出した。

 

樹もつられるようにして後ろをついていく。

 

近所の家の前を歩いたことぐらい何度もあるはずなのに──

 

見慣れたはずの風景が、辺りの色彩が、いつもより褪せて、違って見えた。

 

自分でもはっきりとは掴めない。

 

ただ、胸のざわめきだけが確実に形を持っていく。

 

浮かれた気持ちが、言い表せない、形のない不安に変わっていく。

 

 

「な〜に〜?もしかして……緊張してるんすか?」

 

先程より半歩近い距離で、からかうように笑う。

 

喉を鳴らし、かろうじて返す。

 

「……ハハ…まぁ…そう、かな…」

 

それ以上の言葉が出てこない。

 

言葉を探すより先に、“何か”が胸の奥で引っかかった。

 

彼女の正体って────

 

そう思った瞬間、身体のどこかが止めに入った。

 

考えるな。言葉にするな。ついて行け。

 

そんな“意志”が、自分の中に埋め込まれているような錯覚すらあった。

 

 

 

「ささ、遠慮なく上がって上がって〜」

 

金属の小さな音がして、扉がゆっくりと開く。

 

樹は、一歩踏み出す足を見下ろした。重いのに、勝手に動く。

 

まるで薄い膜の底へ沈んでいくみたいな、そんな足取りで──玄関に足を踏み入れた。

 

瞬間、ひんやりとした空気が肌を撫でる。

 

視界に広がる、生活よりも無機質さの方が勝る部屋。

 

「モデルルームみたい」と言えば聞こえはいい…が、それは逆に人が日常を過ごすには気味が悪いそう言い換えることもできる。

 

隣にいる彼女──コピーが着ている紫のパーカーだけが、このシンプルすぎる空間の中でやけに“色”を主張していた。

 

無機質な灰色の世界に、ぽつんと置かれた異物のように。

 

「〜♪〜♪」

 

前を歩く背中を、樹は黙って追うしかなかった。

 

手汗が滲む紙袋の持ち手を握り直しながら、導かれるように無機質な家の奥へ進んでいく。

 

階段を上がるにつれ、足音がやけに響く。

 

家具がほとんどないのだろうか。家の中なのに、学校の廊下みたいな“空洞の中”を歩く感覚に近い。

 

2階に上がると、コピーは廊下の一番奥で立ち止まり、くるりと樹の方へ振り返った。

 

 

「ふふ〜ん…それではお待たせしいたしました〜!ここがイツキ君に見せたかった…私の"怪獣部屋"だよっ!!」

 

 

意気揚々と扉が開き、彼女の部屋の全貌が顕になる。

 

まず目に入ったのは何個ものガラスケース。

 

その中には所狭しと並んだ怪獣のソフビたち。

さながら怪獣博物館のようだ。

 

ジャンル問わずさまざまな怪獣グッズが飾られている。

 

樹の知る限りでもかなりのプレミアがつくものなどが当たり前に並ぶその光景に圧倒される。

 

…てっきりゴミ袋が散乱している部屋を何故か想像していたが杞憂だったようだ。

 

「スッゲ……ェ………」

 

普段なら物凄い勢いで食いついているところだが、不思議と今はそうすることに躊躇いを感じた。

 

感動・興奮よりも先に一つの疑問が、引っかかる。

 

…おかしい。

 

これだけのものを集めるには相当な財力も必要だ、がそれだけでは足りない。

 

情報を追い、店を回り、オークションを張り、発売日を逃さず…何年も、いや、何十年以上かけてようやく辿り着く量だ。

 

「どう?!スゴイでしょ!きっとイツキくんも喜んでくれると思って頑張って集めたんだ〜」

 

「……うん…ほんとに…よく、集めたね…」

 

朗らかな笑みを浮かべるコピーとは対照的に樹の声音は弱々しくなっていく。

 

……いくらなんでも、早すぎる。

 

…子供の頃から集めてきた形跡も、親のコレクションを受け継いだ、ということでもない。

 

そもそも彼女は、樹と出会った時点では、

ウルトラ作品に登場する怪獣たちをほとんど知らない様子だった。

 

名前も、作品も、世界観も。

あれは紛れもなく“初めて触れる者”の反応だった。

 

──あの時から、せいぜい一ヶ月程度しか経っていないはずだ。

 

 

「…イツキくん、どうかしたの?何か変な所でもあったかな?」

 

突然かけられた声に、小さく肩を揺らす。

 

「…ァ………いや…なんでも…」

 

自身の中の疑問を口に出そうとするも、喉の奥に引っかかった何かが、それを許さなかった。

 

「ふーん……まぁいいや。

でねでね! 今回イツキくんに本当に見てもらいたかったのは〜……」

 

コピーはそう言うと、くるりと踵を返し、部屋の奥へと向かった。

 

机上に無造作に置かれていた“それ”を手に取って、戻ってくる。

 

「ジャッジャーン!! これな〜んだ?」

 

差し出されたのは、紙粘土のような素材で形作られた、歪で不揃いな塊。

 

だが──輪郭。角の形。節の入り方。

 

樹の脳裏に、嫌というほど見覚えのある“線”が重なる。

 

喉が、ひくりと鳴った。

 

「──怪……獣……!?」

 

思わず漏れた声に、コピーはぱっと嬉しそうに目を輝かせる。

 

「えへへ♪ 正解〜!」

 

それはソフビでも、プラモデルでもない。

売り物ではなく、展示用ですらない。

 

──彼女によって作られたものだった。

 

しかも、ただ“好きだから作った”という軽さで済ませてはいけない何かを、その造形物は確かに宿していた。

 

「すごいでしょ〜?これもイツキくんのおかげだよ〜」

 

そう言って、コピーは紙粘土の怪獣をくるりと回して見せた。

 

楽しげな手つきは、まるで工作の続きを自慢する子供のようだ。

 

何気ない口調。無邪気な笑顔。

 

普通の学生たちの日常会話のように淡々と語られる言葉。

 

樹の背中を、冷たいものがゆっくりと這い上がっていく。

 

「……おれの……おかげ……?」

 

思わず漏れた声は、自分でも驚くほど低く、掠れていた。

 

「うん、そうだよ〜」

 

コピーは即座に頷き、悪びれる様子もなく続ける。

 

「前からね、新しい怪獣を早く創れ〜って急かされてたんだけど、

どうにも私ひとりだとアイデアが出詰まっちゃっててさ〜

そんなときに、イツキくんに出会ったの」

 

軽い調子のまま、樹に笑顔を向ける。

 

「イツキくんがくれた、あの本に描かれてた怪獣たち……

すっごく参考になったよ〜。ほんと、ありがとう!」

 

感謝の言葉と一緒に向けられた笑顔は、どこまでも素直なものだった。

 

 

「でさ〜」

 

そのまま、コピーは手の中の怪獣を一度机の上に置く。

 

何気ない前置き。

昼休みの雑談でも始めるみたいな調子で口を開く。

 

 

 

「私といっしょに、怪獣創らない?」

 

 

 

あまりにも軽く。

あまりにも当たり前のように。

 

その言葉が、この部屋の空気を、静かに変えた。

 

「……怪、獣を…つくる…?」

 

思わず、聞き返していた。

その単語だけが、妙に現実感を持って、耳に残る。

 

「そう、怪獣」

 

彼女の言っていることの意味が理解らなかった。

 

一緒にこの紙粘土でオリジナル怪獣を作ろう…という意味合いだろうか。

 

「…イツキくんさぁ」

 

彼女は机に身を乗り出して、少しだけ声を落とした。

 

「普段生きてて、嫌だなーって思うこととか、なんで自分ばっかり、って感じることとか………あるでしょー?」

 

「…それは…」

 

……確かに、ないと言えば嘘になる。

 

少し前まで学校に行くのは億劫だった、人と関わることも苦手だと思っていた。

 

けれどそれは、なにも特別なことじゃない。

 

生きていれば、誰だって抱えるものだ。

 

…今はそう思う。

 

そう口を開こうとした、その瞬間彼女の声が、先に滑り込んできた。

 

「でもさ…そういうのも全部、怪獣は壊してくれる。怪獣が、思い通りの世界を叶えてくれるんだよ」

 

…先程から彼女は何のことを言っているのだろうか。

 

単に先程見せられた模型を一緒に作ろうという話で収まらない領域まできてしまっている。

 

──まるで彼女自身が、怪獣を創って暴れさせている張本人だと────

 

「…イツキくんは知らないと思うけど、私たちはそうやって何度も、気に入らないモノを、この世界を怪獣で壊して、再構築してきたの」

 

彼女は、ためらいもなくなおも続ける。

 

 

「だからさ…私と一緒に…怪獣、創ろうよ」

 

 

その言葉を再度聞いた瞬間、ようやくナイトから聞かされていた“名前”が、頭をよぎる。

 

グリッドナイトたちと対峙する黒幕の1人。

 

怪獣を創る存在。

 

世界を、再構築しようとする者。

 

「……キミは…」

 

それは、どこか遠いもっと先の話だと思っていた。

 

けれど今、その輪郭は、

目の前の少女と、ぴたりと重なった。

 

…いや、それより前から気づいていたのかもしれない。

 

…自身の中でそうはあって欲しくないと思ってしまっていたから、無意識に目を逸らし、気づかないふりをしていたのだ。

 

初めて趣味の話のできる友達──そうなれると思っていたから。

 

だが、そんな想いは今、彼女の言葉ひとつで、あっさりと打ち砕かれてしまった。

 

そう今、樹の目の前にいる彼女こそ────

 

「…キミが……コピーさん……なんだね」

 

紫のパーカーのフードが捲れ、眼鏡をかけた黒髪の少女の顔が露わになった。





あとがき♡


更新頻度がゴミで申し訳ない(戒め

ともあれ止まっていた期間で結構色んな作品に触れて創作意欲が湧いているので(ただし消費期限は早いものとする)頑張りたいです

まぁ一応最終章には近づいてはいるので乞うご期待…ということで…

あでゅーゅ!
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