ようこそ享楽至上主義の教室へ IF等まとめ   作:wind flower

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ケヤキモールのお店たち(アニメより)



                              
Fairy Mart7






                                
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おまけっぽい話

 

【船での会話】

 

 

 備え付けのプールでは色とりどりの水着で身を装った男女のはしゃぐ声が絶えない。だが、そこには異質な雰囲気の漂う二人組もいた。

 

「ねえ、山田くん。『HOT LIMIT』って曲、知ってるかな」

 

 返ってきたのは沈黙。それを否定と捉えたらしく、ククリは「そっか、知らないか」とつぶやいた。

 

「そこの歌詞にね、『ナマ足 ヘソ出し マーメイド』ってあるんだ」

 

「Mermaid?」

 

 屋上のプールにはビーチチェアもいくつか設置されている。そこへ優雅に腰掛けているククリはアルベルトの言葉に頷くと、テーブルに置いているトロピカルドリンクのストローを咥えた。軽く喉を潤してから、再び話し始める。

 

「ここで一つ疑問が生じるわけだ。果たして人魚は卵生なのか、それとも胎生なのかと」

 

 胎生の動物にはヘソがある。しかし卵生の動物──哺乳類の中だと例えばカモノハシは卵生である──にはヘソがない。

 

「『ナマ足 魅惑の マーメイド』ってあるんだけどさ、こっちも謎だよね。そもそも昔から日本で描かれてた人魚って人間の上半身に魚の下半身がとかじゃなくて、人間の頭部に魚をくっつけたようなものが多いし。魚成分85%くらいはあるんだよな」

 

 だから八百比丘尼(やおびくに)みたいに人魚を食べる話が残ってるんだろうね、と続ける。理解しているのか理解していないのか、アルベルトはわずかに首を縦に振った。

 

「人魚姫のお話みたいに足を得たのなら矛盾はない。ただこの場合果たしてマーメイドと呼んでいいかということになるのだけど。難問だね」

 

 むーとククリは唸る。給仕が一礼して机上の空いているグラスを下げ始めた。彼が去るのを待ってから、ククリは話を締めくくる。

 

「ま、ともかく魅力的なフレーズであることは間違いないわけだし、私たちの作る歌にもこういうのを盛り込めればなあ」

 

 船上でののどかな時間は、こうして過ぎていく。

 

 

 

 

【占い】

 

「好き、嫌い、好き……」

 

「どうしたんですか、ククリさん」

 

 問うた有栖に、ククリはすっと花冠(かかん)を見せた。

 

「花占い。キャロルもやる?」

 

 なるほど、確かに彼女の周りには花弁が散っている。

 

「いえ。花びらの枚数は植物によってある程度決まっているのですから、基本的に選んだ時点で結果も自然と判明するものではないでしょうか」

 

 特によく用いられるマーガレットは花弁が21枚ほどで、ほとんどが奇数。よって「好き」から始めればそれで終わることになる。

 

「むぅ。でもさ、こういう自分で占う系好きなんだよね」

 

「他人に占われるのはお嫌いなのですか?」

 

「嫌い、というか。返金されるパターンが多くて」

 

「分かります。ついつい相手の方を論破してしまいがちですよね」

 

 え、とククリは戸惑ったように首を傾げた。

 

「そんなつもりはないんだけど、『私にはとても……』という感じで占ってもらえないというか。スピリチュアル的なことはどうにもわからないなあ」

 

 それは単に潜在的な占術の才が相手を上回っているのでは、と思った有栖であったが、面白そうなので黙っていることにした。

 

 

 

【石崎くんはクラスのムードメーカー】

 

 

「そういや今年は結局、着物着なかったなあ。お祭りとかあれば良かったけど流石に無いし、花火で遊んだりプールで上級生の屋台があったりくらいだったよね」

 

 馴れ馴れしい声は妙に耳当たりが良く、それがまた腹立たしい。この女が大量に被っている猫はちょっとやそっとじゃ()がせないことを、龍園はよく知っていた。おそらく、椎名や伊吹に何匹か分けてやったほうが互いのためになるだろうが、世の中そう上手くは回ってくれないものだ。

 

「お前には似合いそうだな、着物」

 

「……え?」

 

 信じがたい言葉を聞いたというように、ククリがその目を大きく見開く。

 

「た、たっつーが普通に私を褒めた? え、え、熱でもあるんじゃないの? それとも変なものでも食べた? 駄目だよ、拾い食いは」

 

 より騒がしくなる彼女に呼応したのか、教室内も少しざわつき始める。その中心点が石崎なところ見るに、どうせいつもの奇行だろう。気にせず、続ける。

 

「寸胴体型にぴったりだ」

 

「言うに事欠いてそれか貴様!」

 

「だがこの理屈だと坂柳のほうが……いや、子供服はまた別か」

 

「あのね、キャロルも普通にふつーの服買ってるからね!」

 

 あと彼女もそのへんはわりと気にしているんだから、とククリは心の中で呟いた。

 

 

 

 

 §

 

 

 

 

「くしゅんっ」

 

「風邪か姫さん。大丈夫か?」

 

「いいえ、この感じですと誰かが私の噂でもしていたのでしょう。大方、龍園くんあたりですかね」

 

「あんた、くしゃみ一つでそんなの分かるわけ……?」

 

「フフ。もし真澄さんや橋本くんが噂してたとしても、きっとすぐに分かりますよ」

 

「何それ、怖いんだけど」

 

 

 

 

 §

 

 

 

 

 ──お前には似合いそうだな、着物。

 

 ────お前には似合いそうだな、着物。

 

 ──────お前には似合いそうだな、着物。

 

 この台詞が、石崎の脳内ではリフレインしていた。何度も、何度も。やがて、

 

「尊い……」

 

 そう呟いてパタリと倒れる彼の周囲に、わらわらと人が集まる。

 

「死因:尊死、か」

 

「おーい、誰かA(阿呆を)E(ええ感じに)D(どうにかするやつ)持ってこーい」

 

「待て、これはスタンダール症候群じゃないか?」

 

「……なんかすごい病気っぽい名称だな」

 

「ああ、フランスの作家スタンダールがフィレンツェで体験したことからつけられた名前だ。美術品を鑑賞してる時にめまいが起きたり卒倒してしまうって症状らしいぜ」

 

「別にあの2人のやり取り、芸術作品でも何でもねーだろ」

 

「おい、このまま放置してるとクラスポイント減るかもじゃね?」

 

「なら起こすか〜」

 

 男子生徒が一人、石崎を揺さぶり起こそうと近づいた。

 

 

 

「ったく、馬鹿らしい」

 

 賑やかになってきたクラスに対し、伊吹が毒を吐く。

 

「だいたい、石崎があんなんだから変な噂とか出てくるんでしょうが」

 

「ククリちゃんに(まつ)わる噂ですね。そういえば、伊吹さんのものも耳にしましたよ」

 

「ふーん。どんなの?」

 

「『脳みそまで筋肉になった女』って噂されてます」

 

「……それ、誰が言ったの。しばき倒してやる」

 

「えっと──石崎くん、とか」

 

「石崎ィ!」

 

 憤怒の形相で進む伊吹に周りの男子は蹴散らされる。そして、鈍い打撃音とともに「ごあっ」という悲鳴が響いた。

 

「──あと、私とかも、ですね」

 

 たまたまこの椎名の囁きを拾ってしまった金田は戦慄した。彼女は石崎に自身の罪をなすりつけたのではないか、と。

 

「石崎氏……」

 

 金田は彼の幸福を祈った。だが石崎の幸福とはつまり龍園×ククリなのでは、ということにまでは、残念ながら考えが及んでいなかった。

 

 

 

【雑談】

 

 絵になる美少女。その本性はさておき、坂柳有栖という少女の美貌はそう形容するにふさわしいものだと神室は思う。彼女が持てばそこらの缶コーヒーですら途端に高級なものに見えてくるのだから、不思議だ。

 

 ベンチに腰掛ける坂柳の横には、京楽菊理の姿があった。彼女は足をブラブラと動かしながら話し始める。

 

「エコノミークラス症候群っててっきり経済的な何かだと思ってたら、全く違ったんだよねえ」

 

「旅行者血栓症とも呼ばれますね。デスクワークなどでも起きるケースがあるそうですけど」

 

「……あんたら、ちゃんとエコノミークラスのこと知ってるわけ?」

 

 一等客室以外認めないというか、そんな箱入り娘に神室からは見えるのだが。いや、箱入り娘だとしたら間違いなく箱から出しちゃいけないタイプの少女たちだろうけれども。

 

「そんな世間知らずではありませんよ。一人で遠出をしたこともありますし」

 

「私も、中学の時はずっと電車通学してたよー」

 

 どうやら、意外と普通の生活を送っていたらしい。

 

「あ、でも症候群というと、ストックホルム症候群とかリマ症候群のほうが興味あるかも。人間の心理ってよくわかんないなーって感じがして」

 

「面白いですよね。色々な要因はありますが、それらにおいては『共通の敵』というものが一つ挙げられるかと思います」

 

「同じものを嫌うと連帯感が生まれて、って感じかな」

 

「ええ。人質と立てこもり犯で言いますと、両者が警察といった外部の人間を『共通の敵』と認識する。何とも奇妙な感覚です」

 

 アホっぽい感じのある京楽が坂柳と楽しげに会話しているというのは異様なようでいて、これが通常。興味を持った事柄に関しての知識量は意外にもなかなかなところがある京楽がそれでもアホっぽいのはおそらく、ペラペラとその内容を語るからだろう。あと言い方とか、調子の印象も大きい。

 

「人質の支配……キャロルだったらどうする?」

 

「共同生活でしたらルールを作るというものがやりやすいかと。相手がそれを破った際に罪悪感を抱き、自罰的な傾向になりやすいでしょうから」

 

「あー、何か『おまえだけ営業ノルマこなせなかったぞ!』みたいなやつか。なるほど。むー、私だったら普通に上下関係をはっきり示す、とかかなあ」

 

「肩書きというのも重要ですね。上の立場の者には従うべきだと、そちらが自分より正しいのだと盲目的に考えるケースは決して少なくはありません」

 

 不穏な方向に話が進んでいく。どうでもいいと神室が無関心でいると、それに気づいたらしく京楽がこちらを向いた。

 

「ええと……神室さんは……」

 

「別に無理に話しかけなくていいから」

 

 無理にじゃないんだけどなあ、と京楽は苦笑する。

 

「ん、そうだ、好きな絵とかあるのかな?」

 

「特に。見るのと描くのでも違ってくるし」

 

「確かにそうだね。あ、ちなみに私はヴァニタスとか好きだよ」

 

 そうだったんですか、と坂柳が微笑んだ。こうして大人しくしていると、やはり彼女は抜群に愛らしい少女である。

 

「……京楽はもっとカラフルな絵が好きと思ってたけど」

 

「それもそうだけどさ、ヴァニタスってかっこいいじゃん。不運(ハードラック)(ダンス)っちまうぜって感じで」

 

「あんた、本当にヴァニタスの話してるのよね?」

 

 人生の虚しさやらを表した静物画のはずなのだが。

 

 ──やっぱりこの子と話すのは、坂柳とは別のベクトルで疲れる。

 

 そう思う神室の耳に、クスリと溢れる笑みの音が届いた。

 

 

 

 

 

【ククリ・三人称】

 

 デスゲームが何故魅力的であるか。そこらへんについては一家言あるのだが、まあそれは置いておいて。

 

 京楽菊理が東京都高度育成高等学校に入学したのは、そんなささやかな理由だった。そして、それは入学したその日にあっさりと打ち破られた。

 

 ならばさっさとやめるか、と考えつつもククリが実行しなかったのはある生徒の存在が大きい。

 

 龍園翔。彼の名前のネームプレートを見たときはもしや、と思っていたのだが。実際その思い浮かべた通りの人物だった。

 

 そして、次の日。龍園はククリの期待に沿うかのように動いてくれた。クラスを指揮する、支配するとの宣言。文句をつけてきた石崎たちをわざと挑発し、自身を囲ませることで監視カメラからの死角を作った上で暴力を振うという計算づくの行動。小学校の時から容姿もあまり変化していなかったが、性格はもっと変わっていなかったらしい。あちらはというと、ククリの髪型が違っているからか、単に忘れているのか、無反応だった。ククリとしては好都合だったのでその状況の継続を望んだ。

 

 あまり彼に近づきすぎるのは良くない。介入しすぎるのは駄目だ。それはククリが龍園の素質に満足していることの証左であり、観劇していたいのだという欲望の現れだった。

 

 同級生よりも上級生や教師などとの関わりを優先する。そのほうが益となり、また動きが悟られにくい。

 

 坂柳と知り合ったのは偶然も偶然。久しぶりにお姫様抱っこしたいな、くらいの気持ちだった。その相手がこうも鋭い人物であるのは予想外で、とりあえずククリはそこそこの付き合いを望んだ。目立ちすぎるのは良くない。決めた役柄に反する。

 

 彼女が自らを天才と、そしてククリのことも天才と──ただし多少下に見ているであろう──評しているであろうことは特別興味をひかれる事項でも無かった。時代や場所、人によって変動する価値観だとククリは思っている。褒められているっぽいのは嬉しいが、それだけだ。

 

 坂柳も坂柳で龍園と似た素質があった。しかし彼女とは話が合う一方で、合わない部分があることも感じ取っていたククリとしては、どちらかといえば龍園のところにいるほうが楽だ、という結論を下していた。もちろん、他にも色々と要因はあるが。

 

 龍園というクラスの中心地に近すぎず遠すぎず。立ち位置として、椎名ひよりの友人というのはなかなかの好ポジションであるとククリは判断した。彼女は龍園に完全に従う気はなく、かといって逆らう気もない。それでいて有能なので助言くらいは求められる。

 

 伊吹はというと、龍園の下につくことになったからだろう、ククリから離れることを望んでいた。せっかく仲良くなった人物がそうなってしまったことは寂しく思いつつも、ククリはこれを止めなかった。この状況の改善には龍園との対話が必要であり、それをするのは避けたかったのだ。

 

 小テストが過去のものと同じ問題であったのはククリにとって思いもよらぬことだった。わざと間違えようかとも考えたが、不自然な行動は逆に目をつけられかねない。100点をとると予想通り龍園に呼び出されたが、やり取りは普通の範囲に終わった。

 

 そう、安心していたのに。6月、雨の日。龍園から接触されたククリのテンションはだだ下がりだった。山脇との一件が悪かったのかと考えるも、あの場合はあれしかなかっただろう。ともかく、配役を直さなければいけなかった。

 

 ある程度派手に動くことも許容し、クラスにもそこそこ積極的に関与する。伊吹との関係も修復した。当人たちに気づかれないようそれとなく誘導する、くらいが好みだったが。そのへんは諦めて切り替える。

 

 

 夏休み、真鍋たちを通じて綾小路清隆であろう人物の暗躍を知ったククリの胸には、驚きと納得とがあった。無意識に彼へ抱いていた好感にようやく名前がついた気がして、嬉しくなったものだ。

 

 龍園や椎名は一之瀬と神崎のことを参謀タイプとしていたが、ククリは綾小路こそ参謀に適していると考える。彼にはやる気というものがこれっぽっちも見受けられない。あるいは、綾小路が本気で望むのであれば彼ほどリーダーに相応しい者はいないだろうが、現状から変化がなければそれを支えるほうが向いているように感じるのだ。

 

 他人が影で動いているよりもよく見える場所で活躍しているほうが好きなククリとしては綾小路に頑張ってもらいたいものだが、彼を変えるのは自分には不可能だという確信があった。今のままの綾小路でもあれはあれで好ましいと思っていることは否定できないのだ。

 

 綾小路や龍園がククリのことを全く信用していないのは構わない。むしろ完全に信頼でもされれば失望するだろう。信じているように見せかけようとする坂柳の行動も、好ましいものだ。

 

 京楽菊理の心は矛盾を(はら)んでいて。それでいて、本人の中では成立している。

 

 

 

 

【坂柳有栖に見える景色】

 

 林間学校も終わり、2月に入った。

 

 こうしてケヤキモールに来てもこの時期というのは分かりやすいと神室は思う。ピンクにハートに、いかにも女子が好みそうな装飾があちらこちらに見えるのだ。この学校もバレンタインムード一色に染まっていた。

 

 しかし神室は勿論、同行人である見目麗しい少女もさして興味はない様子だ。振られた話題にもチョコの匂いは微塵も感じられなかった。

 

「飲むフレグランス、というものがあるそうです」

 

 何それ、と疑問を発する神室に坂柳が微笑みかける。

 

「飲用する香水とのことで、飲み続けると身体から薔薇の香りがするようになるんだとか」

 

「……胡散臭いわね」

 

 飲むと痩せるという謳い文句のサプリとかと似たもののように思えてならなかった。

 

「確かに、効果が無かったという声もあります。一方効力が発揮されたとの声も。プラシーボ効果が入っているのかも知れませんけれど」

 

「そう。で、それがどうかしたわけ?」

 

「真澄さんのお誕生日に何か、と悩んでいるのですが……なかなか難しいですね」

 

 神室の誕生日は20日。1週間以上あとのこととはいえ、この聡明な少女はきちんと覚えていたらしい。

 

 少し、ほんの少し緩みそうになった唇をきゅっと引き結んで、神室は口を開いた。

 

「別にいらないけど。プレゼントなら京楽あたりにでもあげれば?」

 

「ククリさんに対してでしたら、既に言葉は尽くしましたから」

 

 よく分からない発言だが、理解させる気もないのだろう。綾小路との関係のこともそう。何故あの男を──『龍園の探していたDクラスの生徒』を狙っているのか。以前綾小路が神室の尾行に気づき接触したことを察しているのか。坂柳には隠し事が多い。

 

 それでも、神室は彼女に従い続けなければならない。弱みを握られているのだから。

 

 4月の時点では、クラスポイントやらの仕組みを知らなかった時は、万引きのことなど大した問題ではなかった。ただ神室に罰が下されるだけと思っていたのだから。しかし、今は大きなウィークポイントになり得る。この少女は、自分たちのクラスポイントが減ることになろうと神室の万引きを学校側に告げるのを躊躇わないだろう。そしてクラスメイトには上手く説明してのける。そういう人種だ。

 

「大切にしてるのね、京楽を」

 

 脅すだとか弱点を暴くだとか、坂柳の常套手段を用いない点でそれは明白。と、思っていたのだが────

 

「どうでしょう。私は、ククリさんを見下していますよ」

 

 さらりと告げられた台詞により、否定される。その言葉に嘘は含まれていないように神室は感じた。いやそっちのほうが問題だろうに。

 

「見下す?」

 

「ええ。それが彼女の戦略であり、望みでもあります。ならば意に沿うのが道理というもの」

 

 本当なのかと不思議がる神室へと、坂柳は言葉を投げかけた。

 

「後輩を可愛がる。子を可愛がる。『可愛がる』というのは、目上から目下への行為ですよね?」

 

「まあ、そうね」

 

「下に見るというのは、その人へのガードが緩むということにも繋がります」

 

 その点で言えば、この坂柳などは万人を下に見ていそうなものだが……ガードを緩めても尚、余裕を保てるだけの推理力やら対応力やらがあるのだろう。

 

「侮るというのは、警戒を解くことに繋がる。彼女の狙いはこのあたりでしょう。もっとも、本質的には必要のないことですから趣味と言い換えてもいいかも知れませんね」

 

「本質って。言っちゃ悪いけどただの単細胞な子に見えるけど?」

 

 ふふ、と坂柳は愉快そうな表情を浮かべる。

 

「『別にあんたのことなんてどうでもいいんだからね!』、と言ったとしましょう」

 

「全く似合わない台詞ね……」

 

「私がではなくククリさんが、です。そして彼女の場合、本心からの言葉になります。それが誰に対してであっても」

 

 佯狂(ようきょう)ということなのか。ある意味清々しいまでの平等。その冷酷さはやはり眼前の少女と似ている。そんな神室の考えを見透かしたかのように、坂柳は笑みを深めた。

 

「あるいは、推理小説の話をしましょう。探偵が犯人を捕まえたがその裏には黒幕がいた。よくある展開ですよね?」

 

「犯人を操っていた黒幕を暴き出す。確かにありがちなストーリーね」

 

「黒幕を捕まることで物語は終わった。しかし実はさらにその人を誘導している人物がいたとしたら?」

 

「黒幕の黒幕ってわけ? でもそれを言ったら際限がないでしょ」

 

 何より物語として、気持ちよく読了できないのは駄目だろう。主人公である探偵が黒幕を捕まえたのに、徒労になってしまうなんて納得がいかない。

 

「ええ、でも読み手は小説外のことを知り得ないですし。まず現実として有り得るものでしょう? ククリさんの好むポジションでもあります」

 

「つくづくいいお友達ね、あんたらは」

 

 この性悪どもめ、と神室は嘆息した。

 

「ありがとうございます。けれど私は真澄さんのことも、大切なお友達と思っていますよ?」

 

「どうだか」

 

 てんで信じられてない様子を目の当たりにしても、坂柳の面差しは涼しいままだ。

 

 カツリカツリと音が鳴る。この杖の音も、随分と聞き慣れてしまった。

 

「だからこそ忠告しましょう。真澄さんはククリさんに心を許さないほうがよいと」

 

 ────食われてしまいますから。

 

 そう、告げる彼女の横顔は。思わず絵に描きたくなるようなもので。ゾッとするほどに、美しかった。

 

 

 

 

 

 

 ──少し、脅かしすぎてしまったでしょうか。

 

 お気に入りの子にはつい意地悪したくなってしまう。そんな加虐心を抑えつつ、有栖はゆっくりと話しかける。

 

「そういえば、期間限定のドリンクが出ていましたね」

 

 ちょうど今視界に映っているカフェだったはずだ。神室も同じ方向を見やって、頷いた。2人でお茶するというのはよくあることなのだ。カウンターへと足を向ける前に、ちょっと言い残す。

 

「勝手にそこから動かないでよ。あんた足悪いんだから」

 

 はい、と笑顔を返した有栖は側にあるベンチに腰掛けた。カフェの店内は混雑しているが、外は反対に静かなものだ。じわじわと身体を凍えさせる冷気にふうと白い息を吐いていると、自分たちが来たのと同じ方向から迫る人の気配があった。

 

 ──珍しいですね。

 

 歳は、父より上だろう。瀟洒(しょうしゃ)な背広に身を包んだ男。お嬢様育ちの有栖には容易にその値が計算できた。どう見ても、ただの教職員や従業員ではない。

 

 政府関係者か、あるいは──と思っているうちに、男が大仰な仕草とともに声を出した。

 

「これはこれは。坂柳有栖嬢じゃあないですか」

 

 馴れ馴れしい様子だが、やはり見覚えはない。ひとまず立ち上がろうとしたところで、「そのままでそのままで」と掌で制止された。座ったまま会釈すれば、男は満足げに唇を歪める。

 

「ワタクシはこの学校の理事を務める者でして──まあ平たく言えばアナタのお父様の部下ですね、部下」

 

 明るい声音とは裏腹に。その目から、口元から、悪意がほとばしっていた。

 

 年下の若造に使われることが我慢ならない、と。その敵愾心は有栖にも向けられていて。隠す気も、ないらしい。

 

「ここで会ったのも何かの縁。他でもないアナタのお父様のことですし、少しお教えしておきましょう」

 

 ろくでもないことを口に出すとは分かっていても、耳を塞ぐことはしない。情報というのはそれだけで武器になるのだから。

 

 不穏な雰囲気にも表情を崩さない有栖の様子を不服に思ったのか、男はおどろおどろしい声色に切り替えた。

 

「アナタのお父様のお立場が、現在少々まずいことになっていましてね。理事長に不適格。そう判断されてしまう証拠がわんさか出てきたんですよ。いやはや、今までよく隠してきたものだと思ってしまうくらいに、ね」

 

「そうなのですか。ご教示いただき、誠にありがとうございます」

 

 こういった手合いは受け流すに限る。にこにこと黙礼すれば、男の顔つきは醜く歪んだ。

 

「ひとまず停職。その後は……どうなるか。ワタクシとしてはそれはもうとてもとても心配ですよ。胸が張り裂けそうなくらいに」

 

「お気遣い、痛み入ります」

 

 用件はそれだけですか?という有栖の思いは、きちんと届いたらしい。男は捨て台詞を吐いて去って行った。

 

 ──お父様と学内で会う機会は二度と訪れないかもしれない、ですか。

 

 陳腐な言葉だ。有栖は父が蟄居させられようと、やがて復帰することを確信している。故に揺らぐことはない。

 

 たとえ理事長代理が置かれることになろうと、あの男が選ばれることはないだろう。あまりにも小物すぎる。

 

「お待たせ──って、何かあったの? あんたがそんな考え込んでるって」

 

 理事長が誰になろうと生徒には関係ないこと。とはいえ、肉親のことが気にかかるのは事実。ただ、直接本人に尋ねるのは決して不可能ではないもののはばかられる。

 

「生徒会に、いえ、ククリさんに聞いておきたいことを思い出しまして」

 

 理事長職が果たしてどうなるか。何かのついでに彼女に探ってもらうよう頼んでおこうと、心を決めた有栖は礼を述べながら神室からドリンクを受け取った。

 

 

 

【冬の体育は寒い(奇術部所属の男子視点)】

 

 

 体育をクラスごとに行う高校というのは少ないのではないかと、僕は思っている。男女別のクラス合同って形が一番多いんじゃないかな。まあ、この学校はクラス間の争いがある以上、特に体育なんて下手すれば怪我しそうな授業を一緒にやるってのは難しいんだろう。

 

 着替えを終えて校庭に出ると、たいていのクラスメイトは寒そうにしているんだけど、いくらか違った雰囲気の人々もいる。まずアルベルト君。寡黙な彼はどんな時も落ち着いている感じだ。そして隣にいる石崎君。今日も元気いっぱいといった様子で寒気とは無縁そうなのは、やっぱり何とかは風邪をひかないと……いや、これ以上言うのはよそう。

 

 とにかくそんな石崎君の視線の先にいるのは、ジャージ姿で尚この校庭すらも不良の溜まり場と錯覚してしまいそうなオーラを放っている男子生徒。そこだけ見事に誰も近寄らないので、ぽつんと一人ヤンキー座りしてる感じだ。

 

 しかし、そんな危険地帯に踏み入る女生徒がいた。龍園君とは逆に、お花畑を幻視してしまうくらいぽかぽかした空気を身にまとっている少女。言わずもがなだろうが、ククリさんである。

 

 これから体育を受けるというのに何故伊達メガネをかけているのか。彼女の高尚な考えは、僕なんかの及びもつかないところにあるんだろう。

 

 寒いらしく上着のポケットに手を突っ込んでいるククリさんは、そのまますとんと腰を下ろすと、猫みたいな仕草で龍園君の肩に額を押し付けていた。

 

 何だ、とドスの利いた声は、もし僕に向けられたとしたらしゃちほこばること間違いなしなんだけど、彼女はのほほんと笑うだけだ。

 

「ちょうどいい位置に肩があったから」

 

 …………? 

 

 いくらかその言葉を反芻して、ようやく気づく。たぶん、ククリさんはずりさがってきたメガネ上げるのに龍園君の肩を利用したんだろう、と。手を使って上げるには必然外気に触れなくちゃいけなくなるから、それを嫌ったんだと思う。同じ結論に至ったらしく、龍園君は眉間に深い皺を刻む。

 

「手を使えこの類人猿」

 

「何だよこの与太郎め」

 

 そういえば、道具を使うのは手先が器用な人間だけだとか言うななんて考えてると、ククリさんの出す話題もそんな方向になっていった。

 

「むー、別に器用さで言えばたっつーより私のほうが勝っていたはず。ほら、家庭科かなんかでチクチク作った可愛らしい人形をあげた記憶がかすかに残ってるんだけど」

 

「奇遇だな。ブードゥー人形で呪われた記憶なら俺にもある」

 

 彼女の裁縫の腕が残念なのか、龍園君の言い方が露悪的なのか。正直前者な気がする僕をよそに、ククリさんは毅然とした態度で反論した。

 

「甘いよ甘い。ターキッシュデライトくらい甘いんだよ!」

 

 えーっと、たしか『ナルニア国物語』に出てくるお菓子だったと思うんだけど。ククリさん、あの小説か映画、好きなんだろうか。

 

「私が龍園君を呪うならもっと確実な方法でやるもん!!」

 

 そして……否定すべきところは、果たしてそこでいいんだろうか。やっぱり彼女の感覚はどこか独特だ。その突飛な発想はタンポポの種を思わせるふわふわ具合で、追いかけるのが大変というか。

 

 龍園君も追求を諦めたらしく、「んなことより」と猛禽のような鋭い視線をククリさんへ向けた。

 

「俺の時間を邪魔した罰だ。お前なんか面白いこと言ってみろよ」

 

 よくある無茶振りだ。紛うことなき嫌がらせっぽいんだけど、龍園君も実は案外呪いのことを気にしてたりするのかもしれない。まあ、この授業前の時間に話しかけられただけで怒ってるわけではないはずだ。きっと。

 

 ククリさんは苦とも思ってない様子で口を開いた。

 

「んー、あのね、昔SISの人とスパイ天国……あ、これ言っちゃダメなやつだった気がする。えとえと、そうだなあ、呪いの話に戻るんだけど」

 

 戻ってくるのか。というか、旅行会社の人と何を話したのかな。普通に気になってしまう。

 

「私がそろそろ新しい消しゴム買わないとなーって話してたら、石崎君がプレゼントしてくれたんだよ。あんまりそういうの受け取りたくなかったんだけど、どうしてもって言われちゃって」

 

 彼が懇願する様子は簡単に想像できた。しかし少し怪しいとも感じる。何故、消しゴムにそこまで熱意を……? 

 

「それでちょっとじっくり見てみたらビニールを開封した形跡があったから、どんな仕掛けがあるのかとカバーを外してみたらね。油性ペンで書いてあったんだよ」

 

 あ、流石に僕でもだいたい展開が読めた。

 

「龍園翔って」

 

「石崎ィ!」

 

 ああ、(いか)れる猛獣が誕生してしまった……龍園君の場合わりといつもこんな感じだけれども。

 

 懐かしいな、好きな人の名前を消しゴムに書いて使い切ったら恋が成就するだったり、そういうおまじない。僕は小さくなった消しゴムは使いづらいし捨てちゃうから無縁だったんだけど、小学校の時とか流行ってたっけ。でも他の人が書いた場合でも効果はあるのかな……? 謎だ。

 

 ぐい、とククリさんは龍園君の腕を引っ張る。

 

「暴力はダメだよたっつー、もうすぐ先生来るんだから」

 

 教師が来なければいいんだろうか。ううん、言葉のあや、もしくは方便だろう。

 

 ククリさんの言う通り、遠くには体育教師の姿があった。こちらに向かってきているようだ。こうなるとクラスポイントを減らしたくない龍園君としては大人しくするほかない。どうにか先生から見えないように殴ることも不可能ではないけど、だったら後でやったほうが早いに違いない。いや、暴力行為なんてやって欲しくはないけどね。

 

 それにしても絶妙なタイミングだ。これで龍園君はイラついたまま体育の時間を迎えることになる……これ、授業中僕たち男子に飛び火するんじゃないかな? 考えただけで怖くなってくる。

 

 そう思いながら、号令をかける教師のもとへ行く僕は気づかなかった────彼らの会話の続きに。

 

 

 

「先生から聞いたんだけど今日、男女合同でドッジボールやるらしいんだよね〜。ってことでたっつー、頑張ってね。デスゲームみたいな感じで。応援してるよ」

 

「そのために俺を煽ったか……あざとい(あくどい)女だな、相変わらず」

 

「あはは。不思議とよく言われるんだ、その手の台詞」

 

「ちっ。消しゴムは結局どうしたんだ?」

 

「名前部分を削って使ってるよ。せっかくもらったわけだしね。ん、あと、言っとくけど私の顔面狙っちゃだめだよ? メガネかけてる人にぶつけようとするのはタブーだもん。危ないからね」

 

 

 

 

 

 

 

【雪合戦での会話】

 

「綾小路ってよ」

 

 雪玉を作りながら、石崎は話しかけた。椎名のほうは佐倉と喋っており、他の生徒たちは投げ合いに集中している。ある意味理想的な状況ではあるのだ。

 

「ククリとどういう関係なんだ?」

 

「そう……だな。実は、生き別れの兄弟なんだ」

 

 石崎は驚愕した。まさか、そんなドラマがあったとは思っても見なかったのである。

 

「そんな……そんなことってあるのかよ」

 

「いや、すまん。冗談だ」

 

 すっかり騙された石崎は少しイラッときた。しかし手を出すことはしない。力量差というものを分かっているからだ。さらっと避けられてそれで終わりだろう。

 

「友達、だな。いいやつだと思う」

 

 そう話す綾小路の手付きは最初はおぼつかなかったものの、今は機械的に綺麗な雪玉を量産するに至っていた。

 

「なら綾小路は付き合ってるやつとかいねーの?」

 

 しかしこの一言でその手が止まる。なぜかは知らないが椎名と佐倉のほうもお喋りをピタッとやめたようだった。沈黙が降りる。

 

「いないな。残念ながら」

 

「じゃあよ、好きなやつとかは?」

 

「今のところは、特に」

 

 実に人畜無害な反応だった。流石の石崎の警戒も緩む。やがて雪玉作りのコツなども教えてもらい、雪合戦が終わる頃にはすっかり石崎は彼と打ち解けていた。チョロいというか、まぁ良くも悪くも情に厚い男なのである。

 

 

 

【ネーミングセンス】 

 

「前にグリーンカーテンの話したじゃない?」

 

 ええ、と頷く有栖にククリがニンマリと微笑む。

 

「あのねあのね、それですっごく面白いものを発見しちゃったんだよ」

 

「面白いもの、ですか」

 

「そう!」

 

 ビシッと名探偵が謎解きをする時のように華麗なポーズを決めるククリに対し、有栖は「何でしょう」と優雅に首を傾げた。

 

「キン肉ゴーヤマン」

 

「はい?」

 

「ゴーヤの名前。グリーンカーテンに最適らしい。あとほうれん草の品種名のラインナップとかすごくてね、『ジャスティス』『チェックメイト』『ルーク』『ビショップ』『バハムート』とか。めちゃめちゃカッコよくない!? 他にも通称が『デストロイヤー』のジャガイモがあったり、『ゴリラ』って名前のすごく綺麗なチューリップもあったな〜」

 

「それは……すごいですね」

 

「うむうむ。1番好きだったのはトウガラシかな。ネーミングはズバリ『インドジン・ウソツカナイ』! 社内公募らしいけど、もうこのセンスが素晴らしいと思うのよ」

 

 楽しそうに語るククリにつられてフフ、と笑いをこぼした有栖はふと思った。

 

 彼女が名前のことに拘る理由。その真意を、まだ自分は測りきれていない。

 

 京楽という名字でなくククリという名の方を好んだり。他者をニックネームで呼びたがったり。

 

「ククリさんは名前、というものを大切にされていますよね。そういった品種名に限らず、普段から」

 

「うん。だってほら、名前は最初の祝福にして、この世で一番簡単で単純な呪いでしょう? 名前を書いた人間を死なせることができる死神のノートなんてのもあるくらいだし」

 

 ほわほわとした笑みだが、瞳には知的な光が宿っていた。ククリの知識は有栖のそれに比べ遥かに劣ってはいるものの、興味がある分野についてならばそこそこ詳しい。

 

(あざな)(いみな)なんてのが典型的だよね。中国だと諸葛孔明は(いみな)が亮で(あざな)が孔明だから本名は諸葛亮だったり、劉備は姓が劉、(あざな)は玄徳で(いみな)が備。曹操も姓が曹で(いみな)は操、(あざな)を孟徳! なかなかに複雑ですな」

 

「日本でもそうした文化は見られますね。徳川家康は『徳川次郎三郎源朝臣家康』、徳川が名字、次郎三郎が通称、源は(うじ)朝臣(あそん)(かばね)、家康は(いみな)と記憶しています」

 

「ん、あとは男子に女子の名前をつけたり女装をさせて魔除けにする風習あたりもよく耳にするなあ」

 

「はい、読本(よみほん)の登場人物ですが『南総里見八犬伝』の犬塚信乃もその風習に倣った一人でしたね」

 

「そうそう」

 

 だからカピバラ麻呂もそういうので昔女の子の格好してたのかと思ったんだけどね、と言った意味はいまいち理解できなかったものの、ククリが名前にかける情熱は伝わってくる。

 

「では私への呼称もきちんと意味があるんですか」

 

「う、うん。キャロルは小鳥のさえずりのように愛らしいからね。インド人嘘つかない」

 

「ククリさんは日本国籍をお持ちですよね……?」

 

 有栖の問うような視線に、ククリはさっと目をそらす。

 

 流石に本人の前で「旧支配者のキャロルが似合いそうだと思った」とは、口が裂けても言えなかった。

 

 

 

【SS電話のおまけ】

 

 

 フフ、と可憐な笑いを零す有栖に、ククリはのんびりと話しかけた。

 

「どうかした?」

 

「つい先ほど、龍園くんから素敵な宣戦布告をいただいたのを思い出しまして。2年生からの新しい戦いも期待ができそうです」

 

「およ、バッチバチだね。ん、というか直接会ったの?」

 

「いいえ、それほどの用件でも無いですし通話で済ませました」

 

 もし龍園が電話を拒否した場合は嫌がらせも兼ねてククリとともに会いに行ってやろうかと考えていたが、その必要はなかったらしい。

 

 

 

【王様】

 

 

「そういやカピバラ麻呂が『キング』って何か呼ばれてた気がしたんだけど。キャロルは知ってるかい?」

 

「……ええ、まあ」

 

 有栖は曖昧に答えた。彼女の冴えた頭脳はそれが林間学校の男風呂でのふざけた勝負が原因であると察してしまったが、さりとてそれを告げるわけにもいかない。

 

「あ、やっぱりあれってキャロルがチェスの駒でたとえたから?」

 

「…………」

 

 確かに有栖はそういった話を、チェスの駒、クイーンやキングを彼らに当てはめたことがあった。しかしこれは全く関係ない。

 

「そうかも……知れませんね」

 

 自らの想いを汚された気がした有栖は、とりあえず諸悪の根源であろう橋本をいびることを誓った。

 

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