ようこそ享楽至上主義の教室へ IF等まとめ 作:wind flower
【船上のCクラス】
スペランツァ。『希望』という意味のイタリア語の名前を持つ豪華客船、その屋上のプールでは夏休みを満喫するという希望が叶った生徒たちの歓声で
「いやー、無人島も楽しかったけどよ、やっぱこの船での生活が一番だな」
「船内施設の利用は全てタダ。美味いメシだっていくらでも食べ放題とくりゃ、今もサバイバルに
ハハハ、と軽快な笑いがそこかしこから上がる。
8月1日、高度育成高等学校第一学年に告げられた特別試験。無人島でサバイバル生活を送るというそれを、彼らCクラスの支配者──龍園翔は実に
自分と、他クラスへ送り込んだスパイ2人以外の全員リタイア。しかもリタイアするまでの数日は無人島でいくらでも遊んでいいというおまけ付きだった。
それでは自分たちのクラスポイントはどうなるのか、と考える者がいなかったわけではない。むしろ皆の頭に一度は
まあ、こうして遊び
「にしても眼福だな。女子たちの水着、無人島の時とはまた違うしよ」
「そりゃそうだろ。無人島に持ち込めるのは持参した水着だけだったけど、今はこの船で水着やら遊泳道具やらは無料で貸してくれるんだぜ? 色々と着たくもなるさ」
「なるほど持ち込み、か…………そういや定番の質問だけどよ、もし無人島に一つだけ持っていけるとしたら、お前らは何を持っていく?」
一人の男子が投げかけた問いに、また別の男子が手を挙げ答える。
「ネコ型ロボット!」
「おいおい、反則カードだろそりゃ。今ちゃんと実在するものでいこうぜ」
「えー、じゃあ十徳ナイフで」
「えらい現実的になったな」
苦笑しつつもOKが出されると、他の男子たちも我先にと口々に意見を言っていく。中身のない会話になったりもするが、これもまた青春の1ページなのだろう。
試験が終わるのは8月7日。どうせまだまだ時間はたっぷりあるのだ。
やがて、意見が出尽くしたかに思えた頃。ポツリ、と小さな声が、されど確かにその場に響いた。
「『彼女』……! 彼女と一緒に無人島へ行きたい!!」
人は物ではない。故に理屈で言えば問いへの答えとして全くふさわしくないのだが、その言葉は周囲の男子たちに感銘を与えた。
「……お、俺だって」
「欲しいよなー、彼女」
「この学校じゃなけりゃ、ひと夏のアバンチュールもチャレンジしたかったぜ」
「他クラスの女子との火遊びとかもいいよな」
「このクラスの女子、気が強いヤツ多いもんね」
たくさんの同意を得ることが出来た男子生徒は、しかし不満げな表情を浮かべる。
「俺……このクルージングが終わったら、告白しようと思うんだ」
自分には想う相手がいるのだと、固い意志の表明だった。ついでに言うとちょっと死亡フラグくさかった。
「よ、吉本!? おまえ、そんな、急に」
「急じゃない。ずっと気になってた先輩がいるんだ。それに俺、こうやってさ、久しぶりに弓道から離れて気づいたんだよ」
強い日差しに負けないくらい熱意の籠もった瞳で、告げる。
「──俺。モテたくて弓道やってんだよな、って」
「「「「「他に気づけることはなかったのかおまえ!!!」」」」」
幾重にも重なったツッコミは、残念ながら吉本の口を縫い留めることは出来なかった。
「やっぱりさ、弓道部アピールのためにさ。ラブレターは矢文にするべきだよな?」
「落ち着いて深呼吸しろ吉本。矢文を放つのはよせ。おまえのそれは告白ではない、告訴か告発を招くだけだ」
「でもよ、弓道部の一番格好良い瞬間って矢を射る時だろ」
「あのな、それでかかるのは恋じゃない、傷害未遂の容疑だ。確かにインパクトはあるしドキドキもするに違いないがな、悪い意味で! いいから普通にラブレターは手渡ししろ……」
そうして、学校に帰った後。クラスメイトからきちんとしたサポートを受けたおかげか、吉本の告白は大成功に終わるのだが────何となく釈然としない気持ちが彼らの胸に巣食ったのも仕方のないことと言えるだろう。
【お見舞い】
「ククリちゃんが、体調不良でお休みなんです」
図書館で会ったひよりからの言葉に綾小路は驚きを隠せなかった。もしやサボりか、と考えてしまったのは無理もないことだろう。あのククリが体調を崩すというのはイメージすることすら難しい。
「見舞いには行くのか?」
「それが……メッセージを送ってみたところ『来るな』とのみ返信が来まして。どうしたものかと」
ひよりと伊吹は彼女の部屋の合鍵を持っているようで──知らぬ間に池、須藤、山内、櫛田に合鍵を作られていた綾小路とは異なり、むしろククリ本人がポイントを払って入手し2人に渡したとのこと──強制的に押し入ろうと思えばそれも可能だ。しかし拒否されている以上はどうにも気が引ける、と。そういうことらしい。
「ならオレが訪ねてみてもいいか?」
「綾小路くんが、ですか?」
「ああ。問題はないだろうが、やはり心配だからな」
細菌兵器でも使われたのか、それとも新種のウイルスあたりが発見されたのか。綾小路はとても心配している。
その真剣な雰囲気を感じ取ったのだろう。ひよりは少し悩む素振りを見せつつも、最終的には綾小路にカードキーを託してくれた。
放課後、スポーツドリンクやら熱冷まし用冷却シートやら定番の品を買った綾小路はククリの部屋のチャイムを鳴らす。しかし返事はない。
部屋で倒れている可能性も考慮した綾小路は遠慮なく合鍵を使用した。
中へと進むと、マスクをしたククリはすやすやとベッドで寝ている。テーブルの上には冷凍食品などを食べた痕跡があった。食事はきちんと取っていたらしい。
室内では加湿空気清浄機がきちんと作動しており、環境的には問題ないようだ。免疫力が高いほうである綾小路だが、念の為自身もマスクを着用した。
「んむぅ……」
近づいてくる綾小路の気配によってか、ククリは眠りから目覚めたらしい。半分くらいはまだ夢の中に居るようで目をゴシゴシ擦ったりパチパチ
「カピバラ麻呂?」
「ああ、綾小路清隆だ」
一応自分の本名を主張したものの、ククリが聞いている様子はない。
「何でここに……?」
「ひよりから合鍵を借りた」
「んー、そっかぁ……ま、カピバラ麻呂なら大丈夫かなぁ……」
どんな意味で言った台詞なのか。とりあえず綾小路はうつらうつらしているククリに許可を得てゴミ等の片付けをした。
簡単に探ってはみたが、どうやらただの風邪だという結論に落ち着く。そうなると綾小路が部屋に長居しても彼女の負担になるだけだろう。
「何かオレにしてほしいことはあるか?」
「ん、特にないかな」
ならば帰ることにしよう、と背中を向ける綾小路に、ククリが寝台からそっと手を伸ばす。
「ありがとうね、清隆君」
破壊力満点の笑みとともに、ゴキリと肩から音が鳴った。この程度、ホワイトルームのカリキュラムで慣れている綾小路は外れた関節を自分でもとに戻す。
不条理、不利な状況での戦闘は幼い頃から繰り返し叩き込まれているのだ。呼吸するように対処できる。
「わ、わわ、ごめん……むー、やっぱ駄目だなぁ、体調悪い時は……」
「これが、ひよりに『来るな』と言った理由か」
コクッと小さく頷くククリ。なるほど、確かに綾小路だったから良かったものの、ひよりにこんな攻撃が当たれば大惨事である。
「まあ、あれだ。お大事にな」
部屋から退散した綾小路は思った。今度からククリのお見舞いに行くときはもっと警戒するか、いっそ行かないほうが身のためだ、と。
少なくともひよりが行こうとしても絶対に阻止しなければいけない。カードキーを返す時にきちんと言い含めよう、と綾小路は決意を固めた。
【告白の告白】
坂柳有栖は駒をよく使う。情報収集であったり、監視のためであったり。例えば、軽井沢。綾小路の駒であるらしい彼女を有栖はたまに観察させている。綾小路本人への監視は彼に気づかれてしまうので難しいのだ。
そして。ククリの周辺の情報収集も、有栖は行っていた。
「ククリさんに男の影……ですか」
山村から報告を受けた有栖は、単刀直入に尋ねに向かった。
「え? うーん、告白は受けたけど、それだけだからなあ」
というか何で知ってるの、というククリの疑問を有栖はサクッとスルーする。
「返事は保留、ということでしょうか」
「そうなるのかな」
なるほど、と有栖は思考を巡らせた。
有栖にとっての『天才』には基準がある。しかしそれは明確にこれと定義できるようなものではない。ただ、自らを頭脳面での『天才』とする有栖は他の音楽であったり、スポーツであったりといった分野の『天才』も認めないわけではないのだが、一歩劣るという判断を下していた。理由は単純明快、自分が駒として使ったほうが彼ら彼女らはより輝けるのだから。
突出した才能というものはどの分野にも存在する。だが、有栖は自分がその気になれば彼らを支配できるという自信があった。それはククリに対しても変わらない。
万能型ではあるが、頭脳戦においても類まれなる才能を見せるホワイトルームの最高傑作、綾小路清隆とチェスを指した有栖は。父親も、母親も、どちらの祖父母も「普通の人」である綾小路を『天才』と……つまり突然変異により覚醒した『天才』と結論した。
有栖はホワイトルームは意味がない機関だ、と信じてやまない。人工的に天才を作り出すなんて無意味な実験だと思えて仕方ない。脱落して、あの施設に幽閉されデータを抽出され続けるだけの生涯を送っている子どもたちは、ただはじめから才能がなかっただけで。綾小路のように生き残った子どもたちは、はじめから才能に恵まれていただけという話で。
だから。『天才』とは教育で決まるものではなく、生まれた瞬間に決まっているものなのだ。ホワイトルームを当たり前にしてはならない。そんな不幸は打ち砕いてみせる。それが、有栖が父に誓ったこと。
有栖は綾小路と競い合うことで彼のことを知りたい。たくさん、たくさん知りたい。そしていずれ彼に教えたいのだ。ホワイトルームの教育は間違っているということを。彼に敗北感を与えることで、彼を壊すことで、呪縛を解き放ち。その心を救ってあげたいのだ。
だが、彼を倒したところでそれはホワイトルームの否定には繋がらない。有栖の中で綾小路は紛れもない『天才』であり、それは生来の素質。ホワイトルームの教育に左右されるものではないのだから。
父との誓いを果たすには、他の生き残ったホワイトルーム生を倒さなければいけない。偽りの天才たちを葬らなければいけない。
懸念があるとすれば、どうも綾小路は自身を「ホワイトルームの中では最優」と位置づけているらしい点だろうか。ホワイトルーム生たちが、どんな状況でならば自らの敗北を認めるのかというのは手探り状態だ。正面から叩き潰す、というのが最も良い方法なのか。
兎にも角にも。手数は、多いほうが望ましい。
「ククリさんに、
「もちろん。たとえ恋人ができたとしてキャロルをないがしろにすることは有り得ないよ」
信頼を得るには、こちらが信頼を寄せていることを示すのが近道だ。しかしどうしても一抹の不安を感じる。
ククリがホワイトルーム側に立てばどうするか、と。知らないうちに協力者に仕立て上げられる可能性は十分にある。今話題にしている告白についてだって月城が介入していないとも限らない。理事長代理という肩書きは生徒にとって強大であり、魅力的だ。
特別試験終了後、月城が試験への不正操作を告げたときのことを思い出す。介入によって勝負が傷つけられてしまったのはいい。そのあと図書館にて綾小路とチェスの続きができたのだから満足だ。ただ、月城が残した言葉。「出来れば自主退学を選んでください。これ以上他の生徒を巻き込まずに済みますよ」というそれが、果たして特別試験のことのみを指すのか。綾小路を信じる有栖は彼が月城の出方を見ると話している以上は任せようと思っているが────
「こちらから攻撃できないというのは、もどかしいものですね」
「ん?」
どうした、と首を傾げるククリに有栖は「何でもないです」と微笑みかけた。
◆
龍園翔は気づいていた。最近、クラスメイトの男子の一人の様子がおかしいことに。
その人物の視線の方向。かすかに赤らむ顔。お花畑みたいに馬鹿っぽいオーラ。加えて前科付きだ。ここまで条件が揃えば嫌でもわかる。
「来い、ククリ」
え、何で?と首を傾げる鈍い女を龍園は呼び出した。
適当に他から聞かれない場所まで移動すると、先にククリのほうが口を開いた。
「で、どうしたの?」
「おまえ、告白されただろ」
「……たっつーってエスパーか何かなのかな?」
それは肯定という意味だろう。
面倒なことになった、と龍園はため息を吐く。
「受け入れたのか」
「保留!」
元気よくしゃべるククリとは裏腹に龍園の心は沈んでいく。
別に龍園だってクラスメイトの恋路に興味はない。問題は相手が京楽菊理だということだ。
「え、あれ、もしかして嫉妬とかしてるの?」
「…………」
何言ってんだおまえ、という
「おまえも前に似たようなこと言ってきたくせに! 言ってきたくせに!」
確かに龍園は船上試験の際、櫛田から呼び出され部屋へと向かう途中でククリに対し「嫉妬か?」という台詞を吐いた。だが龍園は自分のことを何の躊躇もなく棚に上げる男だった。
「……少し黙れ。
「呼びつけておいて何様だよ!?」
騒ぐククリを無視した龍園は思考の海に沈む。
龍園にとってククリが厄介な点は、自らが得意とする暴力や脅しが効かないことだ。例えばクラスメイトであれば「裏切れば息の根を止める」とでも言っておけばいい。あるいは、あれで中々精神力の強い伊吹や椎名の場合は「お友達が傷つけられることになるぞ」とでも告げればいい。
だが。ククリは殺せる気もしなければ、暴力を怖がる気配もない。そしていくら友人が傷つこうが気にしないだろう。可哀想に、くらいは言いそうなものだが。6月に言い放った「お前が裏切れば、死んだほうがマシと思うような目に遭わせる」というのは妥協の産物であり、どこまで効果があったかは怪しいものだった。というか実際裏切った。まぁ程度が軽いものではあったが。虫嫌い、という弱点は露呈しているもののではいざ顔面にゴキブリでも貼り付けたらどう反応するのかはわからない。気絶するだとか可愛らしいものであればいい。しかし暴れでもされれば止めることはできないのだ。
何を仕出かすかわからないこの女が『恋人』という新たな存在を作ったとしたら余計に行動が読めなくなる。もし、万が一、強い愛情を抱きヤンデレにでもなれば手に負えたものじゃない。考えただけでゾッとする話だ。
告白した当の本人がククリの被害に遭うなら、自業自得であるからまあよしとしよう。龍園も一度は止めてやったし、これ以上気にかけてやる義理はないのだ。しかし周囲へ災厄を撒き散らされでもしたら困るどころではない。
「付き合うってなったらそいつだけを見てろ。いいな? 絶対に余所見すんじゃねえ」
「何で居もしない恋人の件で私はさっそく浮気を心配されてるのかな……?」
心配しているのは浮気なんぞではなく、嫉妬なり思い込みなり何なりで自分たちに危害を加えてくる可能性である。
不思議そうな面持ちのまま頷くククリに龍園は不安感しか抱けなかった。
【もしククリがメイド喫茶に参加した場合(和装メイド)】
「お帰りなさいませご主人様。ご注文はお決まりでしょうか。お抹茶? 御羊羹? それとも──ぶ・ぶ・漬・け?」
「入店早々に退店を促すやばい店じゃない……」
「お客さんが帰ったらお塩でもまいてそうなメイドさんですね。加えて、店頭に逆さ箒が置いてありそうです」
「でもだって、『お帰りなさいませ』って言ってるじゃん。帰れって優しく丁寧に最初に」
「それはそういう意味じゃないから」