ようこそ享楽至上主義の教室へ IF等まとめ 作:wind flower
もし駅があったらこんな感じかなと。
特殊タグはID:22426 山石 悠様の「特殊タグのテンプレ置き場」を参考させていただき作成しました。
√高円寺〜もしあのバスにククリが乗っていたら〜
今日は晴れの日。私、京楽菊理はとうとう
バスに乗り、「お隣失礼します」と一言断って席に座る。通路を挟んだ反対側には私と同じ制服を着た男女が座っていた。冷たそうな雰囲気を漂わせる黒髪ロングの美少女と、ぬぼーっとしてる感じのイケメン。2人とも無表情なとこがお揃いですな。
私の隣に座るのはサラリーマンらしき男性。もしあっちの席みたいにお隣が同じ新入生であれば私は話しかけただろうか……うーむ、公共のバスの中でいきなりおしゃべりとかはちょっとハードル高いな、うん。しかも車内が静かだから余計に口を開きづらい。
黙ってバスに揺られ、幾分か経った時だ。
「席を譲ってあげようとは思わないの?」
入学式に向かう私たちと同じ時間帯にバスに乗り、スーツを着ているということはおそらく会社へ向かうところなのだろう。少し神経質そうな、明らかに私たち高校生より歳上であろう女性が声を張り上げる。
「そこの君よ君。ねえ、お婆さんが困っているのが見えないの?」
その批判の矛先は優先席に座る金髪の、制服からして私たちと同じ高度育成高等学校の新入生っぽい、でも何か貫禄のある男子生徒。
女性は隣に立つお婆さんのために優先席を空けろと立ち退きを要求しているようだ。素晴らしい、なんと見上げた敬老精神なことか!
「実にクレイジーな質問だね、レディー」
レディー、と呼んではいるものの彼からは人を敬う気配が全く感じられない。むしろ馬鹿にしてる感じすらするね。そもそもクレイジーって言っちゃってるからなあ。
「何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい?」
その後は、彼のオンステージだった。優先席には法的な義務はない。彼が席を譲るかどうかは彼の自由。筋が通った主張である。道徳とか人道的にはアレだけど。
この面白い見世物をルンルンで眺めていると、新たなる美少女が参戦した。彼女も私たちと同級生のようだ。
「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」
社会貢献になる、という彼女の意見を「興味がない」「優先席以外の人がのうのうと座っているのは見過ごすのか?」という感じで金髪男さんはバサッと切り捨てた。正論が痛いなあ。
誰か席を譲ってはくれませんか、という少女の訴えに私は立ち上がった。
「ここ、どうぞ」
お婆さんからわりと近い席だ。混雑するバス内でもまあ何とか移動できるだろう。
「ありがとうっ!」
満点花丸をつけたくなるような笑顔で少女が礼を告げる。彼女に誘導され元私の席に腰を下ろしたお婆さんもペコペコと何度も感謝の意を伝えてくれた。
それに応じてから、私は優先席に座る金髪男の前へと移動する。別に文句を言いたいわけじゃあない。見世物の代金として席を譲っただけなのだ。めちゃくちゃ音漏れしてるイヤホンについても別に聞くに堪えない音楽とかじゃないし許す! ククリちゃんの堪忍袋の緒はそこそこ強靭だもの、この程度へっちゃらである。
ただ。彼が優先席に座るのが自由であるとするならば。私のこれから取る行動とて自由に違いない。
「そこな御方。私はあなたの膝の上に座ろうと考えている。よろしいか?」
にこにこと微笑む私に対し、金髪男は高らかに笑った。
√椎名〜もし本当にデスゲームが始まっていたら〜
「新入生の皆さん。ご入学、おめでとうございます」
優しくも威厳のある声が体育館に響き渡る。壇上に立つのは60前後の男性。この高度育成高等学校の校長だ。
教室で行われた担任の説明のあと、こうして入学式に参加する新入生たちの多くは浮かれた顔をしている。充実した施設。どこでも希望の進路を選べるという約束された将来。さらにお小遣いにすればいいと言わんばかりに10万円も配布されたのだ。華々しい高校生活が送れると喜びはしゃぐのも無理はない。
「──では、最後に重要なことを一つ」
そんな新入生たちに配慮したのか、校長の挨拶は簡潔に締められようとしていた。
もちろん長ったらしい話なんて望んでいない新入生たちは喜色を滲ませる。女子生徒──椎名ひよりもその1人だ。しかしその理由は図書館に行きたいから、というもの。本の虫である彼女はこれから3年間を過ごす場所がどのようなものであるか、一刻もはやく確かめたい気持ちでいっぱいだった。
校長がスタンドからマイクを取って口元へと近づける。
「皆さんには10万ポイントずつ配布されたかと思いますが、くれぐれも使いすぎには気をつけてください。ポイントが0になった瞬間、皆さんには『退学処分』が下されます」
退学。その剣呑な言葉に皆がざわつき始めた。10万ポイントもあればそう簡単に消えることはないだろうが、不安感は拭いきれない。
10万円相当のポイントをポンと出してくる学校に違和感を覚えてはいたものの退学まで持ち出してくるとは、と椎名も驚きを隠せなかった。
しかし、話はここでは終わらない。
「そして『退学処分』を下された生徒には……死んでいただきます」
そう、校長が言うと。周囲の空気が変化したように椎名は感じた。教職員たちの間にピリッとした雰囲気が漂ったのだ。
「は? 死んでいただきますって何だよ」
「校長先生、ふざけてんすか〜?」
新入生から上がった声はごく当たり前の反応。校長の発言は確かに一般常識に照らせばふざけてるとしか思えないものだ。
だが。洞察力に優れた椎名は、強い警戒心を抱いていた。だから気づけたのだろう。
教職員の1人が、日本刀を抜いたことを。
「だ、駄目────」
スパン、と。風が、吹いた。
クルクルとナニカが勢いよく転がっていく。
ドバドバと流れていく赤い液体が血液であると、理解することを頭が拒否した。
「う、うわ、うわぁぁああああ!」
「な、なによ、これ! ど、ドッキリでしょ!?」
「嘘だろおい……」
野次を飛ばしていた男子生徒の首が、切られた。一つの命が、あっけなく散っていった。
恐怖とは伝染するものだ。たちまち体育館はパニックに陥った。
絹を裂くような悲鳴。すすり泣く声。その場にへたり込む人。逃げようとして、教職員から拘束を受ける人。すべての光景が現実味のないもののように映る。
そんな中、平然としている生徒も何人かいた。
「はい、ただ今デモンストレーションとして行わせていただきましたが、皆さんが0ポイントになった場合は彼のような状況になってしまいます。ご注意くださいね」
校長の話はまだ続いていく。
「毎年ここで1人には退学していただいているのですよ。まあ運も実力の内、と考えてください」
壇上に立つ彼のにこにことした柔和な顔ははじめから一貫している。それが今となっては恐ろしくてたまらなかった。
「それでは、これで入学式を終了いたします」
校長が一礼して席に戻る。途端、我先にと出口に人の波が押し寄せた。この体育館から出たところで学校から出られるわけではないということは、新入生たちの頭からすっぽりと抜け落ちているらしい。
「きゃっ」
単純に積極的に動こうとは考えていなかったことと、お世辞にも運動神経が良いとは言えないことが原因だろう。
どかっと誰かに勢いよくぶつかられてしまった椎名は床に倒れた。
そんな彼女に手が差し伸べられる。
「あー、えっと。椎名さん、だよね。大丈夫?」
「はい……ありがとうございます」
教室での自己紹介を覚えていたのだろう。椎名のほうも彼女に見覚えがあったものの、名前は思い出せなかった。
「私は京楽菊理。バスで隣の席だったよね。改めてよろしく、かな」
明るい会話は、普通であれば好印象を与えるものだ。だが、だが。
死体を回収している教職員がいるこの場でものんびりとした様子を崩さない彼女は、どう考えても一般的な生徒には見えなかった。
「京楽さんは、どうして──」
──そんな落ち着いているのですか、と。
問いかけようとして躊躇した椎名のことを勘違いしたらしい。
「ん? ああ、大丈夫だよ。別に体育館にこのままいたところでペナルティはないと思うから」
流石にそれだと理不尽すぎるし、と呟く彼女はどこかウキウキしているようですらあった。
「まあ何か起きても椎名さんのことは守るから、安心してほしいな」
なぜ、彼女は自分にこうして好意を向けてきているのだろう。理由がわからず戸惑う椎名に対して彼女は屈託のない笑顔を浮かべた。
「バスでシャーペンを拾ってもらったからね。そのぶんの恩返しくらいはするよ」
【もしかしたらAクラスはこんな感じだったのかもしれない】
5月1日。Aクラスは、揺れていた。
自分たちが他クラスから攻撃を受ける側になったこと──それはいい。構わないのだが、では誰が音頭を取るかということで揉めていた。
誰も彼もが自分に自信を持ち、我こそがと挙手の勢いは止まらない。
そんな中、
「っつう────!」
一際うるさかった男子生徒の悲鳴が聞こえた。
「さ、坂柳さん……いきなり何を」
突然の凶行。杖での打撃はそこそこのダメージを彼に与えていた。
「動物園のように騒がしいものですから、つい手が出てしまいました。申し訳ありません」
にこやかに語られた言葉に男子生徒は憤り──そうになって、逆に顔を青くした。
「リーダーに最もふさわしいのが誰か。そんなこと決まりきっていると思うんです」
スラリ、と。杖の内部からは刀身が覗いていた。あれは仕込み杖だったらしい。そしてこのお嬢様、ナチュラルに脅しをかけてくるらしい。
「やめろ坂柳。何をしようと俺はお前をリーダーとは認めん」
「そうだそうだ! リーダーにふさわしいのは葛城さん以外いねえ!」
そう言われた坂柳はというと。急にしおらしくなり、ポロポロと真珠のような涙を流した。
「そんな、私はただ……クラスのことを想って……」
流石に周囲も戸惑い、言い過ぎだったのではという視線が葛城と戸塚にぶつけられる。
「す、すまん。だが────」
直後。坂柳が杖のダイヤルを回し、ぴかっと光が部屋中に溢れた。
「「「「目が、目がぁぁぁあああ!!」」」」
教室内は阿鼻叫喚。無事だったのはこれを予期して目を閉じていた坂柳に近しい人物たちくらいだ。
「あまり、敵に隙を見せるべきではないと思いますよ?」
「直接攻撃は反則だろう……」
Aクラスの面々は悟った。坂柳と葛城が仲良くできる日はこないな、と。
【龍園if】
「もし俺がお前に告白したとすれば、どうする?」
「そうだなあ」
呟いたククリは唐突に龍園のネクタイを引っ張り、彼がバランスを崩した隙をついて押し倒した。馬乗りになったその状況は、屋上での出来事をどこか思わせる。
「うーん、本当の本当の本気?って聞きたくなるかも」
「この体勢になる前にやるべきだろそれは」
「いや、問い詰めるのにもあるじゃん、姿勢ってものがさ」
見下される形になったのは正直不快であったが、龍園は会話を続けることを優先した。
「本気だ、と言えば?」
「んー、そうなると……」
存分に悩む素振りを見せつけてからククリが取り出したのは1枚のコイン。ピン、と妙に綺麗な音を立てて飛ばされたそれは宙で金色の軌跡を描くと、そのまま彼女の手に戻っていった。
「コインの表と裏、どっちが好き?」
裏、と答えた龍園にククリはにんまりと微笑んだ。
「オッケー。じゃあ、私は表で──」
「待て。そのコインを見せろ」
龍園はよく知っていた。この女が普通にイカサマしてくるやつだと。表しかないコインを用いたり、あるいはこちらが全く知らないコインを使うことで『どちらが表でどちらが裏か』という情報を偽り自らの勝ちを作り出すような人物だと。
「表はどっちだ」
「ちぇー。そっちのウェルキンゲトリクスの顔があるほうだよ」
どうやら歴史の偉人の金貨らしい。こうしたコイントス用に、あるいは趣味で持ち歩いているのだろう。
「満足したならいいかな?」
龍園から戻されたコインをククリはまた軽快に弾いた。瞬間、龍園は素早く起き上がり手を伸ばす。
空中を舞った金貨は見事彼の掌の中に収まった。
「…………そういうの、反則って言うと思うの」
「俺がコインを取ってはいけないなんてルールは無かっただろ?」
「むー。この卑怯者〜、いやしんぼー、ずっこいぞ!」
「何も聞こえねぇな」
コインの導き出した、その結果は──────
「さて。あなたは私に、愛を教えてくれるのかな」
「お望みとあらば存分に
√暴君平田
『平田洋介』は壊れた。壊された。そして再建した。在りし日の姿の再現。中学時代、暴君として君臨していた頃に戻ったのだ。
もちろんDクラスでは彼に対する反発があった。しかし。一人ずつ一人ずつ、丁寧に平田は陥落させていった。
山内が退学したばかりで皆の心が落ち着いていないというのも理由にあるのだろう。彼らの心を支配するのは中学の時よりは容易だった。
平田はまず、綾小路を呼び出し告げた。自分は敵にならず、また必要とあらば隠れ蓑を務めることを。次に高円寺に対して自由を保証する代わりに互いに不干渉でいようと約束を取り付けた。この2人は敵に回してはまずい存在だ。しかし彼らさえ片付ければ後は問題ない。
三宅や須藤が反抗してきても、平田は『暴力』で応戦した。クラス内の揉め事は基本的に学校へ訴えることはできない。それは直結して自分たちの首を締めることに繋がる、つまり報告してしまえば自分たちの内情が漏れたり、最悪クラスポイントが減少してしまう恐れがあるためだ。
堀北に関しても、櫛田と協力して心を折ることで対処できた。櫛田は彼女を退学させたいようだが、そこまでやるかはまだ様子を見る必要がある。
平田とて暴君になるのは心苦しかった。だがこれも全て友達である、クラスメイトである彼らを守るため。そのためなら平田は心を鬼にする。
「僕は、二度とあんな悲劇は繰り返さない」
上手くクラスを支配して、Aクラスまで勝ち上がる。
「これだけが、僕たちに残された唯一の道筋なんだ」
だから、仕方ない。
「僕は、僕は、僕は、僕は────」
平田洋介は平和主義な『暴君』である。
√綾小路
「ね、麻呂君」
いつもどおりのにこやかな笑みで、いつもどおり明るい声で。ククリは綾小路に話しかける。
少し恥じらうようにもじもじとした様子を見せた後、意を決したように息を吸って、吐いて。くるくると万華鏡のように表情を変化させながら、彼女は言葉を紡いだ。
「それが、許されざることだとしても。私は────」
それが本心なのか。彼女の感情につけるべき名前は、彼女と自分の関係性につけるべき呼称は何か。自分はどのような表情を作ればいいのか。綾小路にはわからない。
「ああ」
結局、能面のような無表情を保ったまま囁く。
「オレはおまえを一生縛りつけよう。骨の髄まで利用し尽くそう」
最低な告白に、ククリははにかみながらも微笑み。コクリと頷いた。
√龍園
「要するにおまえは人嫌いなんだよ」
唐突に投げかけられた言葉に、ククリは目をぱちくりとさせた。
「そんなことないと思うけど……私は、みんなのことが好きだよ?」
「その『好き』は愛玩動物に言うそれと同じだろ。おまえにとって平等に無価値だということに過ぎない」
そうかなあ、と首を傾げるククリはしかし今度は龍園の言葉を否定しなかった。
彼女は理由さえあれば誰であっても躊躇いなく傷つけられるし、自分が傷つくことに何の
小学校の時は、離れることを選んだ。中学では正直彼女のことは忘れていた。そして、この高校で。再び出会ってしまった。
とんだ貧乏くじだ、と龍園は思う。それでも自分しかこの役目をこなせないことはよく理解できていた。
「俺はおまえを監視し続ける。勘違いするなよ。一ミリたりともおまえのためじゃねえ」
苦々しく吐き捨てる龍園の様子にククリはクスクスと笑みをこぼす。
「あのね、たっつーこそ勘違いしてると思うけど」
善悪の区別も、なんの混じり気もない純粋な声。
「私はあなたのこと、嫌いじゃあないよ?」
そして。天使のような、悪魔のような、ふわりとした笑顔だった。
√坂柳
「どうでしょう、ククリさん。私の
そんな有栖の発言に対し、ククリは。んー、と困ったように眉尻を下げた。
しかしその反応は予想済みだとでも言うように有栖は話を続ける。
「もしあなたが私の下では満足できないようでしたら……その時は、私を壊していいですよ」
「壊すって」
苦笑するククリだが、その目は笑ってはいなかった。本当におまえにその覚悟があるのかと、問うような視線。有栖はそれを真正面から受け止める。
「私は猛獣に喰われるような猛獣使いには決してならないつもりです」
「首輪でもつけてくれるのかな?」
「お望みでしたら。とびきりの品をお贈りしましょう」
「あはは、面白いこと言うねえキャロルは」
しばし悩み込む素振りを見せた後、ククリは口元をゆるめる。
「うん、わかった。いいよ」
「では──」
流れるような動作で
「全てあなたの仰せのままに、女王様」
忠誠を誓う騎士のようなポーズ。しかし、その本性は、本心は。