ようこそ享楽至上主義の教室へ IF等まとめ   作:wind flower

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7巻部分綾小路先生視点(0巻ネタバレあり)

 

 

 

 

 

 

 自らの計画のために出向いた高度育成高等学校で、ホワイトルームの最高傑作(綾小路清隆)がコントロール下にあるかの確認をした日。

 

 応接室を出て、ふと窓の外を眺めると、そこでは生徒たちの歩く姿があった。女子生徒一人、男子生徒二人。友達と形容するよりかはお嬢と護衛のほうが近く見える。実際、こちらの視線を感じたらしい男子生徒たちは黒髪の少女を庇うように動いた。どこか記憶に引っかかる姿。ややあって、その正体に気づけば、一瞬驚きが身体を支配した。

 

 勅使河原(てしがわら)菊理。奇跡の子という表現があれほど相応しい人物を、綾小路篤臣(あつおみ)は他に知らない。

 

 

 

 勅使河原茉莉(まつり)という女がいた。篤臣のホスト時代の客であり、ごく平凡な家庭でごく平凡に育った人間。政界に入ってからも関係を保っていたという点では稀有な女だが、何も特別扱いというわけでない。水商売の女たちと同程度、いや、それ以上に弁えていたからというだけだ。自分に心酔しきっていて、いざとなれば処分も容易い女。子を()せない身体というのも好都合だった。

 

 そんな女が、妊娠していた。これが1つ目の奇跡。尤も、篤臣にとっては面倒事というだけだったが。

 

 発覚したのは丁度美香(みか)の妊娠が分かったのと同時期だった。しかしこれは事情が異なる。美香との婚姻届は提出済。結婚の公表と挙式も控えている。大切な我が子という偶像はホワイトルームへの出資者を募るための存在。一方こちらはただ邪魔な、弱みにもなりかねない存在。

 

 それでも始末しようとしなかったのは、どのみち出産に耐えきれない身体と医師が診断を出したからだ。中絶しようと同じ、母子ともに死ぬだろうと。ならばと出産まで放置していた。

 

 予定通り茉莉は出産とともに命を落とした。だが。その子は、どういうわけか健康に産まれてきたらしい。これが2つ目の奇跡。

 

 3つ目の奇跡はすぐに現れた。病院のベッドが破壊されたという連絡が届いたのだ。ギフテッドと呼ばれる天才とすべきか、遺伝子のいたずら、突然変異とすべきか。ともかく子どもは赤子を超絶した、大人すらも凌駕しそうな身体機能を持って産まれてきたようだ。

 

 しかし篤臣にとってはどうでもいいことだった。ホワイトルームの目的は劣悪なDNAからでも優秀な人材に育て上げることであり、産まれた瞬間からの天才、そうと分かる肉体異常に意味はない。

 

 さっさと消そうとして。しかしその手を止めさせたのは、直江だった。

 

「それ、俺に寄越してはくれねぇか?」

 

 是、以外の返答は用意されていない。もし篤臣が子どもを深く愛する、坂柳のような善人だったとしても、逆らうことは許されない。そんな直江からの依頼として、今回のこれは非常に易しい部類だった。

 

 何故、と聞かずともおおよそ推測は出来る。駒としての用途はいくらでも考えられるのだ。こうして、篤臣は顔を見ることすらなく赤子のことを記憶から抹消しようとした。

 

 とはいえ、ギフテッドのデータを活用しろということなのか、写真つきの資料はたびたび送付されてきた。清隆より一月はやく産まれたそれは女だったらしい。鈴懸たちは喜んでその成長記録をホワイトルーム生との比較材料に使っていた。

 

 ホワイトルームがそうであるように、あの女児も政財界の一部の間では話題になっているようで、いくらか情報は篤臣の耳にも入ってきた。死んでも構わない存在と、こちらは興味など欠片もないのにそれだから、よほど特別とされているのだろう。

 

 だが、手に入れたいと思う人物がいくら湧こうと、裏にいる直江仁之助に気づけばそこでほとんどは諦める。諦めないような馬鹿は、馬鹿としてそのまま処理される。あれを引き取ったということになっている京楽伏厨(ふしず)という男はかなりの手練らしく、月城が冗談混じりにした話では規模は小さくとも悪名高い人物の揃っている大場(おおば)組すら一人で相手取ってもおかしくないと、そんな評価を下していた。

 

 伏厨というのは月城に似た立場の男で、ただ彼のようにコウモリじみた匂いは皆無。どの陣営にも立たないが、どんな仕事も引き受ければ必ず達成させると、そう信頼されている人物だ。金さえ積めば裏切らないプロフェッショナル、といったところか。あれはその下で仕事を見て学んでいるらしい。

 

 将来直江の息子の護衛とすることを見越しての英才教育。当たっているかすらどうでもいいが月城の予想ではそのあたりだったはずだ。直江も四方八方から恨みを買っている自覚はあるのだろうし、矛先は息子にも向くのは確実。何であれ、どんな場面にも溶け込みパフォーマンスを発揮できる駒を欲してもおかしくはない。

 

 ただ、幼少期に比べ最近はとんとその噂が流れていなかった。篤臣の離反が波及して不適格とされたのか。どのみち、あれのことを大々的に世間に認知させるのはホワイトルームと同じで直江自身が火傷することになる。故に篤臣は何も気にせず、存在すら忘れていたのだが──────

 

高育(こういく)にいたとはな」

 

 信頼を勝ち得ているわけではない鴨川(かもがわ)は知ることが出来なかったのか。単に必要のない事項とされていたのか。手元にはない情報を求め、車内から月城へとコールする。

 

『息子さんとの1年半ぶりの対面はいかがでしたか』

 

「勅使河原菊理(きくり)の情報はあるな」

 

『勅使河原……? ああ、今は違いますよ。姓は京楽、名は菊理(くくり)になっています』

 

 名前など単なる記号。そう考える篤臣の気配を電話越しに察してか、『かなり前の話なのですが、本当にご興味がなかったようで』と苦笑して月城は言葉を続けた。

 

『中学はお堅いことで有名な女子校へ進学。小学校時代には育て親の仕事で海外に付き添うことも多かったですが、以降は大人しいものでした。直江先生の周囲からも育成対象でなく飼い殺しになったとみなされています』

 

 与野党に顔が利き、財界とのコネクションもある存在。月城には篤臣も自らの情報を与え、代わりに情報を得ている。

 

『しかし高度育成高等学校へ入学した、ということは……秘密裏に鬼島(きじま)先生の介入があった可能性も考えられますね。何にせよ、数奇な運命と言いましょうか。まさかご息女とご子息が巡り合うとは』

 

 生誕時から天運に恵まれていた奴だ。何をしようとどこにいようと不思議ではない。だが、清隆の……いや、篤臣自身の障害になるかという点は気にかかる。

 

「京楽の育成方針は?」

 

『以前京楽さんから聞いた話では、大きく2点。一つ目は他者を人と思わないように思考誘導すること』

 

「兵隊としての運用か」

 

 殺人への忌避感を薄れさせる方法。そう思いきや、返ってきたのは否定の言葉だった。

 

『いいえ、どうにも癇癪持ちで一度暴れ出すと止まらないらしく。ならば怒りを他者に容易く抱かぬよう見下す方向へシフトさせた、と。「飼い犬に噛まれる」とは言いますが、愛玩動物が少し牙を見せた程度では寛容に笑う人が大半でしょう。あるいは離人症に近いものかもしれません』

 

 直江にとっての篤臣とホワイトルームはまさに『飼い犬に噛まれる』か。ともかく、菊理の認識としては他者が何を喚こうが室内犬がキャンキャン元気に鳴いているように見えているのだろう。もしくはただの芸や劇と。それにより、激情に駆られることはない。

 

『二つ目は感情を「楽」で埋めさせること。これは想像ですが……簡単にあらゆる物を破壊できるからこそ、その心理的なハードルも低く、自然と衝動も強くなる。故に享楽で気を紛らわす』

 

「欠陥品なのか」

 

『京楽さんの赴任後すぐに安定していますので、教育は成功と判断されています。意図的に武術を学ばせない点はやや非効率に思いましたがね』

 

 護衛もこなすこの男なりの視点に、武術にも教育にも通暁(つうぎょう)していない篤臣は口出しする気もなかった。

 

 しかし護衛といえば、鬼島のお膝元である高育への同行は流石に不可能であったが、もしいつも通りボディーガードどもを連れていれば────

 

「会話するのも楽しめたかもな」

 

 親子の団欒、などという温かいものではなく。ただ、観察対象とホワイトルームの代表として。

 

 どのみちホワイトルームの最高傑作は神の作った最高傑作(生まれながらの天才)を超える。そうでなくては、日本を、今の腐敗した政界に変革をもたらすことなどできやしないのだから。

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