ミノルとミウは冒険に必要な装備を購入後、ミドガル王国を出国。
オリアナ王国国境の都市<ミッドタウン>への道の外れを歩いていた。
「ミウ・・・僕たちの関係だけど。」
「はい。」
「姉弟ということでいこうと思うんだ。」
「姉弟・・・?ですか?」
僕はここに来るまで冒険者ミノルとミウの関係性について悩んでいた。
凄腕冒険者ミウとモブ冒険者ミノル・・・このままだと遅かれ早かれ「なんであいつがミウさんと組んでるんだ・・・?」とモブにあるまじき注目を周りから浴びるであろうことに気づいたのだ。そこで思いついたのが二人は家族という設定だ。これなら一緒のパーティーでも違和感はないだろう。それに弟という立場は慣れている。
「僕たちは名もない村から出てきた姉弟、という設定でいく。」
だから僕はミウに合わせて髪の色を茶色に変えているし、顔を隠すフードも茶色だ。黒色よりはこの世界ではメジャーな色だしね。
「なるほど・・・ミノルの変装はそういうことだったのですね・・・」
「そういうこと。これからよろしくねミウ姉。」
「よ、よろしくね・・・ミノル。」
(ミウ姉・・・ミウ姉!?シャドウ様と二人きりというだけでも身を焼くほどの喜びだというのに・・・これ以上何かあったら表情に出てしまいそうだわ。)
そして国境のオリアナ王国の都市<ミッドタウン>に着き、そのまま都市内の冒険者ギルドへ向かった。
ミドガル王国内は騎士団が権力も戦力も強いため冒険者ギルドが存在しなかったがこの都市にはあり、ミウによるとミドガル王国の人間が冒険者になる場合はみんなこの都市に集まるらしいのだ。
「ようこそ。冒険者ギルドへ。新規登録の方でしょうか?」
そう話すのは受付のお姉さんだ。
「確かに僕たちはそうですけど・・・どうしてわかるのですか?」
「冒険者は分かりやすいように首に冒険者証をつける決まりですから。」
「なるほど、知らなかった。それで今すぐ登録できるものなのですか?」
「はい。冒険者登録に必要なものは名前のみです。そして、パーティーの新規登録も同時に行うことが出来ますよ。」
「ではお願いします。僕の名前はミノル。彼女はミウ。姉弟です。パーティー名はブラウンズで。」
「承りました。作業がありますのでしばらくお待ちください。」
「ブラウンズですか。素朴ですけど良い名だと思います。」
「僕たち姉弟の髪の色と似ているからね。ブラウンは。」
「そ、そうですね。ミノル。私も気に入りました。」
「お待たせしました。こちらが最初の冒険者証、カッパープレートです。」
受付のお姉さんが持ってきたのは首にかけれる銅色のプレートだった。プレートには僕達の名前が書かれている。それをミウと一緒に首に付けた。
「ありがとうございます。これからどうしたらいいのかってどこかで分かりますか?」
「それでしたら・・・ちょうど今から新人冒険者講習が始まりますよ。参加されますか?」
「ぜひお願いします。」
そして講習会場に二人で向かった。会場には僕たち以外同じパーティーらしき数人しかいなかった。
「オリアナ王国はつい最近聖教に異端宣言を受けた国です。中立を謳っている冒険者ギルドは王国から撤退したりはしませんが・・・規模の縮小は避けられないのでしょうね。」
「なるほどね。」(ローズ先輩を覇王にしたのはいいけどまだまだ大変そうだな。少し手助けしてから次の国に向かうか。)
考えていると向こうにいるパーティーの人間が話し始めた。
「ねぇ、アキト。こんなしけたギルドで冒険者活動を始める必要はなかったんじゃないの?『黒キ薔薇事件』で王都の冒険者ギルトも閉鎖したままなそうだし、別の国に行った方がいいと思うわ。そう思わない?ユーナ。」
そう赤色の髪の女性が話した。腰に付けているのは・・・レイピアか?
「そうよ。レイアの言う通り。こんないつ滅びるかわからない国はアキトには相応しくないわ。」
今度は紫色の髪の女性が話した。帽子や手に持つ杖からして明らかに魔法使いだ。異世界ではありふれているように思えるが、ミドガル王国では見たことなかったな。ほぼ全員騎士だった。
「ふっ・・・レイア。ユーナ。冒険者ギルドの発足理念は知っているだろう。人類融和の促進、人類敵対種の盗伐、だ。むしろ諍いがある国でこそ冒険者は求められる。それに・・・レイア。舞剣士を辞めたとはいっても君の出身国だ。ならば僕にとってもここは大事な国さ。」
そうアキトという大剣を背中に付けた剣士が話した。どこかで見たことがあるようなキャラだが・・・身のこなしからして何気に強いな。アイリス王女より強いかもしれない。まさか・・・主人公キャラか?
「アキト・・・私、アキトに出会えて本当に良かったわ・・・」
そろそろ盗み聞きするのも飽きてきたところでさっき話した受付のお姉さんが来た。
「皆様、静粛にお願いします。
それでは新人冒険者講習を始めます。
冒険者ギルトはそもそも数百年前に設立されーーーーー
」
うん。やっぱり興味ないな。ちゃんと聞いてもすぐ忘れそうだ。まぁ記憶力よさそうだしミウが全部聞いて覚えてくれるだろう。持つべきものはパーティメンバーか。
そして講習が終わった。
「ミノル。これからどうしますか?」
「そうだね。まずは宿を探そう。」
もう時間はすでに午後。もしかしたらもう空いている宿はないかもしれないな。最初にやってればよかったかも。
「でしたら、ミツゴシ商会所有の・・・」
「いや、それはなしだ。ミツゴシ商会の御用冒険者にでもならない限りミツゴシ商会とは関わらない。」
「ご、御用冒険者・・・?分かりました。」
「そうだな・・・どうせ表通りの宿は満杯・・・裏通りに行ってみよう。」
「分かりました。」
そして裏通りに着いた。
「そうだな・・・ここはミウに任せるよ。雨風を防げるのなら何でもいいよ。できれば誰もいないところがいいかな。」
「分かりました。お任せください。」
そしてミウの姿が消えた。勿論自分で探すのがめんどくさかったのもあったが、一人で考える時間が欲しかったのだ。それはミウについてだ。敬語や呼び名はこちらに合わせてくれているが、それ以外の行動は全てニューの時とほぼ変わっていない。これでは周りの人間が少し見たらすぐにこいつら本当に姉弟なのか・・・?と疑ってしまうだろう。でもこれはミウが悪いんじゃない。僕自身弟らしいことを何一つしていないからな。僕は小さいころシスコンキャラを演じたことがあるが、それによって姉さんは首を絞めてくる系のブラコン姉になってしまった後悔からその一切を封印していた。だけど、ミウならそんなことないだろうし試してみるか。
「ミノル、お待たせしました。お婆さんが一人でやっている宿屋がありましたよ。」
「よし、じゃあ行こうか。同じ部屋でもいいよね?」
「は、はい・・・是非!」
(やはりこれではだめだ・・・一緒にいることが当たり前。そう思ってもらわないといけない。これは相当な荒療治が必要だな。)
そして宿屋に着き、女将らしきお婆さんがいた。
「いらっしゃい・・・聞いていた通り可愛い弟さんだねぇ・・・」
「ミノルといいます。姉と一緒の部屋がいいのですが空いていますか?」
「フフフ・・・仲がいいんだねぇ・・・勿論空いてるよ。今日はあんたたちだけさ。」
「お金は2日分払ってあります。行きましょう。ミノル。」
「うん。姉さん。」
そして部屋に二人で入った。
「これからどうしますか・・・ミノル?キャッ・・・!?」
「静かに」
そう言いながらシャドウ様は私に抱き着き、私はベットの上に押し倒された。勿論抵抗する気はない。
「姉さんに僕の瞑想のやり方を教えようと思うんだ。」
「瞑想・・・?」
「睡眠時の魔力の流れをコントロールすることで体力の超回復を行い、睡眠時間も削ることが出来るんだ。勿論、言葉だけで分かるとは思わないから姉さんの魔力の流れをコントロールしながら今日僕は眠るよ。いいね?」
(僕は瞑想によって通常の人間の半分の睡眠時間で行動できる。実家でも学園でもそれで真夜中に抜け出して好き勝手していたけど・・・パーティーなら一緒に行動しないといけないし、ミウにも習得してもらわないとこれから困るだろう。それに毎日密着していればいずれミウも僕に慣れてくれるはずだ。一石二鳥の作戦だね。)
「よ、よろしくお願いします・・・」
「勿論、姉さんと一緒に寝たいというのもあるけどね。」
「!?」
「それじゃあ始めるよ。何かあったら起こしてね。」
そういうとシャドウ様は眠った。それと同時にシャドウ様の魔力が私の体内を駆け巡る。シャドウガーデンでの鍛錬で私は常人とは比べ物にならないほど頑強な魔力回路をもっている。でもシャドウ様の魔力はそんな魔力回路を無視し、まるで血管のように体の隅々を通ろうとしているように感じる。悪魔憑きを治療された時とは違い、人造的な悪魔憑きになっていくかのようだ。
(シャドウ様はこのようなことを恐らく物心ついた時から毎日欠かさず行っている。だからこそこれほどの魔力操作が・・・)
通常、他者の魔力に体が侵された場合、魔力回路が耐えられず致命的損傷を受け死に至る。ゼータ様がそのような攻撃法を近接戦で好んでいるという話を聞いたこともある。でも、シャドウ様のこれは私の魔力回路を全く傷付けず、かつ最良と思われる魔力の動きを指し示しながら循環させている。
(私はシャドウ様の魔力に同調させながら自分の魔力を動かし、それでいながら寝ないといけない。でないと明日シャドウ様のために動けないし、シャドウ様の計らいが無駄になる。それに自分でも薄々気づいていたがミノルの姉として私はうまく動けていない。だからシャドウ様はあんな発言を・・・。
シド様を託したクレア様のようにミノルを愛する姉だと本気で感じ、本気で行動しなくては・・・。
七陰の皆様もいつもこのような事を求められていたからこそ、あそこまで強くなったのだろうか?)
ミノルは完全に寝ていた。魔力操作はともかく、外から見ると姉の胸に顔をうずめるただの犯罪一歩手前のシスコンな弟だ。
(今日は・・・今日はシャドウ様の魔力を信じそのまま身を委ねて寝てみましょう。それよりも私に求められているのはミノルの姉ミウとしての立ち回り。そのことだけを考えて今日は眠るのよ。)
ミノルの顔を見つめるミウ。
(ミウにはミノルしかいない。ミノルがミウのすべて。ミウの体は全てミノルのもの。ミウはミノルの姉・・・)
そのようなことをずっと考えながら目だけはつぶった状態で数時間起きていたミウであった。
そして、しばらく時が経った深夜に覗き穴からそんな姉弟の様子を探る一つの陰があった。
~朝~
「ふわ~~~あ。こんなに寝たの久しぶりかも。やはり一人の時とは勝手が違うか・・・」
「おはよう、ミノル。」
ミウはそういいながら朝ごはんの準備をしていた。
「えっ姉さんがご飯作るの?あの女将の人が作るんじゃないの?」
「あの人なら深夜に私達の荷物を盗もうとしたので詰問したところ、逃げ出しました。どうやら盗賊まがいの人間だったようです。」
「あーまぁこんな裏通りに老婆が一人って明らかにおかしかったからね。じゃあしょうがないか。」
「ミノルが大好きな料理を作りますからね。」
「姉さんの料理なら何でも大歓迎さ。」
(食べたことないけど。というかミウって料理できるのか?)
宿の地下に老婆とその仲間の死体が埋まっている以外、平和な姉弟の日常であった。
つづく。