乗馬中に落馬したら自分に耳としっぽついてて草生える。
そんな冗談はさておき、私はとある一般ウマ娘に憑依か転生したようです。今はトレセンにいて、アニメ時空にもアプリ時空にもなかったチーム「ボイジャー」でデビュー待ちです。芝生える。
名前は…なんか由来のわからん名前です。「ドールマウンテン」です。母によると神かなんかから授かった名のようです。いや、なんやねん人形山って。
さて、私はウマ娘になりました。どんなモブであれ、ウマ娘にはモチーフとなった競走馬がいます。そしてモチーフとなった競走馬同士が血縁関係にあると、ウマ娘世界では「運命的なナニか」を感じるそうです。となると、当然以下のような好奇心が湧きます。
『自分の血統表が知りたい』
となるとやることはひとつです。運命的な何かを感じるネームドウマ娘とその強度を書き出して、自分の血統表を推測します。だって知りたいもん。自分のルーツ。
というわけで、いろんなネームドウマ娘と接触すべく、聞いたことのあるチームに入ろうと頑張りました。えぇ、それはそれは頑張りましたとも。
チームリギルに入ろうとしてリギル独自の選抜レースを走りました。理由はネームドウマ娘がたくさんいるからです。レースは16人立て、ウッドチップコース左回り1200メートルでした。結果は散々でした。
まずスタートで思いっきり煽りました。二本足なのに。そして思いっきり出遅れ、最後方からの競走になりました。正直最悪です。私は追い込みができるほど加速力とトップスピードがよくありません。つまるところ、もう私に勝ち目はありません。はい、終わりです。
次に、バ群に追い付いた時に前のウマ娘が蹴りあげたウッドチップをもろに顔に被りました。それだけなら問題ないのです。問題はそれが両耳に入ったことです。ウマ娘の聴力は人間のN倍だそうです。ご想像に容易いと思いますが、スゴい騒音で、レースどころではありません。聴力が頼りにならないと、何か危険なことが起きても気づくのが遅れてしまいます。ここで私は減速しながら大外へ緩やかに逸走、競走を中止しました。我ながら賢明な判断だったと思います。
競走を中止した私の元に、エアグルーヴさんが駆けつけてくださいました。耳にウッドチップが入って競走を中止したことを伝えると、
「賢明な判断だな。保健室にいくぞ」
と、保健室まで付き添ってくださいました。
「運命的なナニか」は…感じましたがかなり薄かったです。しかしわずかとはいえ、エアグルーヴさんと関係があるということがわかったのは一歩前進でした。
続いて翌日に普通の選抜レースに出ました。16人立て、芝の右回り1400メートルです。今度は失敗しないぞ、と意気込んでレースに臨みました。結果は散々でした。
まずスタートです。…また思いっきり煽りました。二本足なのに(二度目)。しかし今回はうまくリカバリーできて、コーナーに入る前にバ群外側につけることができました。
しかし道中はとにかくうまくいきませんでした。ウッドチップコースの時と違って、蹴りあげられた芝は塊で飛んできました。すごく痛かったです。不幸中の幸いは耳カバーをしていたお陰で耳に入らなかったことです。またバ群外側からじわじわ上がってこうとしましたが、前を走っていたウマ娘が大きくよれて、その回避のため外側への大きな横移動と減速を強いられました。そしてコーナーだったのでとにかく加速しづらく、中団うしろ、しかも大外をぶんまわして直線に向きました。
直線に向いたときにはすでに絶望するしかありませんでした。度重なるハプニングですでに集中は切れており、もはや勝とうという気力すらもありませんでした。持久力は十分に、まだ有り余るほどありましたが、それを使ったところで間に合わないとソラをつかってしまいました。
結果は12着。1着から8着までは全部ハナ差でしたが、私は1着から8バ身離されました。圧倒的な能力不足です。フィジカル面だけならまだしも、気性にまで難があるとは我ながら恥ずかしい思いでした。
レース後、キンイロリョテイさんと思わしき黒いウマ娘さんからせんぶり茶をいただきました。お茶をもらっただけならよかったのですが、『運命的なナニか』を感じてしまいました。しかも、それはエアグルーヴさんに感じたものより強かったのです。もし、私がステゴ系の競走馬がモチーフのウマ娘だとしたら、今後も気性難に悩まされることが確定してしまいます。できるだけそれは避けたいのです。しかし、可能性が浮上した以上、対策を考えねばならなくなってしまいました。
その後隔日で3日ほど選抜レースに出ましたが、気それたりハプニングに対応できなかったりして、18人立て8着、15人立て13着、16人立て9着と見せ場なく終わりました。特に最後のレースなんかは、直線を向いたときは先頭まで3馬身程しかなく、しかもハイペースで前がつぶれていたのでホントに勝てそうでした。嘘じゃないです。なぜか進路がだんだん観客席側に向いていっただけです。よれてなんかないです。
さすがにこれではトレーナーもつかなさそうなのでしょぼくれていました。黄色い半分ハゲのおっさんに脚を揉まれても特に気にせず軽く蹴り飛ばしてそのまま寮に帰る程しょぼくれていました。もはや痴漢を警察に通報する気力すらも残っていなかったのです。
事態が一転したのはその翌日でした。教室で「そんなに落ちこぼれなのにトレセンに居座るのなら廃業しそうなトレーナーのところに行くのがお似合いじゃない?」とからかわれ、そうだその手があったか、と気付き、チーム「ボイジャー」を見つけました。チーム「ボイジャー」はここ五年程新しいウマ娘が入っておらず、トレーナーの成績も13勝、しかも22年前の勝利が最後と寂れていて、おまけに今所属しているウマ娘はシニア級4年目以上のウマ娘が4人いるだけでした。しかも彼女らは条件クラス。私でも歓迎してくれるにちがいないと考え、早速チームに入りたい旨を「ボイジャー」の水田チーフトレーナーに伝えました。
返事は「ボクとしては嬉しいんだけど、君はいいのかい?」でした。もちろんここでよくないと答えると私はトゥィンクルシリーズに出られないかも知れないのでYES以外の選択肢はありませんでした。
そして今に至るのです。ね、私めっちゃ頑張ったでしょ?
「ドールちゃーん、追いきりいくよー!」
この先輩の呼び声からもわかるとおり、私のメイクデビューは一週後。しっかり追いきりで調子を確かめておかないといけない。…追いきりってウッドチップコースだよね、耳カバーつけてるけど大丈夫かな。