社畜が行くロボッ娘メイドへの道 作:d1199
真っ暗な場所で目が醒めた人物は、複数の人の気配に気付いたが、ベッドの上で四肢を拘束されていたのでどうにもならなかった。その人物は、慄く様に言った。
『ここは一体どこだ。俺を自由にしろ』
応えたのは真っ暗に響き渡るスピーカーからの声である。
『あっはっは。世界征服を企む悪の組織によくぞ来てくれた。知能指数600・スポーツ万能となった君は、選ばれた栄光の社畜だ』
『ばかな! 俺はそんなブラックに入ったつもりはない!』
『はっはっは。もう遅いのだ。君の意思にかかわらず、君は既に我々の一員にほぼなってしまっているのだ。君が意識を失っている間に、我々の科学グループは、君の肉体に改造を施した。君は既に改造人間なのだ』
『改造人間? 信じるものか』
『信じざるを得ない様に見せてやるがいい。これから君の体に――』
『五万ボルトの電気を流すのか!?』
闇夜から現れたマッドサイエンティストが持つ物は、ふわひらのメイド服だった。
「今からメイド服を着せるのじゃ」
「めいど?」
「今日からお主はロボッ娘メイドになるのじゃ!」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
教育と調教と洗脳の狭間
その部屋は、映画で見る様な豪勢で瀟洒な洋間だった。元々客間だったが、客など来ないと気付いたのが作った後だったので、少女に宛てがわれたのだった。部屋の窓から見える空は、ようやく陽が昇ったばかりの黎明だったが済みきっていた。それは、新たな一日を期待させるのに十分だった。
「ん……」
少女の身体にだるさなどは無く、まどろみの中ですら清々しさがあった。それは、朝が希望に満ちていた在りし日の子供時代のモノだ。作り物の身体ならそれは当然だったが、久しく忘れていた感覚は少女を満たしていった。だが。表現できない感覚に全てが押し流されてしまったのである。
カラダの二つの場所からもたらされるその刺激は、その場所のみでは収まらず胸全体に及び、何時しか身体全体に達していた。
それは。少女が初めて知る熔けてしまいそうな程に甘い蠱惑的な感覚だった。
紅く染まった端正な顔には、苦悶の表情が浮かんでいた。
(な、なに?)
うっすらと開いた目が見た者は、膝立ちで少女に跨がる見知らぬ少女だった。
その見知らぬ少女はツインテールだった。側頭部にある二つのテールは二の腕の中程まで掛かっていた。右の目元に泣きぼくろがあった。釣り上った目尻は、気の強さを感じさせた。見た目のみならば同年代であった。来ているメイド服は、黒と白のツートンカラーで修道服をイメージさせた。
そのツインテは、少女の柔らかくたわわな胸を ――揉んだり抓ったり押したり転がしたり―― いじり回していた。ツインテの物言いは、腫瘍を見つけてしまった医師の様である。
「大きいわね。無駄に大きいわ。生体組織なのに、こんなに大きくても垂れないって不思議よね」
少女が、ベッドの白いシーツの上で全ての肌を晒していたのは、ツインテに毛布を剥ぎ取られていたからであるが、少女の唇から悩ましい声が漏れたのは、ツインテのテクニック以外何物でもない。
「あんっ」
「あ、起きた? なかなか可愛い声じゃない♪」
身を起こしたツインテの笑みは唐竹を割った様な気持ちの良い物だったが、ツインテの手を払い退けたその少女は「うひゃぁぁぁあぁぁあぁあっ!」十分に発育した尻を振りながら四つん這いで床を駆きだした。見えない手で壁に押え付けられる様に、部屋の隅で腰を抜かしてしまった。
「な、なっ! なぁぁあぁあぁぁああぁっ!?」
「なによ! 突然大きな声出したら驚くじゃない!」
少女がビシリと指を差したのは、勿論ツインテである。
「やかましい! ちゃんと聞くから男の胸を触るちゃんとした理由があったら言ってみろ!」
「アンタ、自分の身体を見てみたら?」
少女がハラハラと泣き出したのは、柔らかで豊かにふくらむ感覚が自分の胸にあると思い出したからだった。
「そうだった……」
くの字に曲げた左腕を、傾げた腰に添えるモデルポーズのツインテは、珍しい生き物でも見る様な顔をしていた。ただそれは、少女も同じだった。
「君が、博士の言ってたアンドロイドなんだな? 本当に人間と見分けが付かない……訂正。ルックスという意味では、人間を越えてると思う」
「ありがと。アンタもカワイイわよ? ……なにショックを受けてるのよ。せっかく褒めてあげたのに」
「十代半ばの女の子に可愛いとか言われても、困惑するのみだから」
「ふぅん」
「言いたい事は、はっきり言う様に」
「アンタの事は聞いてるわ。でも、こうなったんだから素直に受け入れたら?」
「受け入れてる。もし拒絶してるなら、おかしくなってるか死んでるかのどちらかだ」
「私が言ってるのは、女の子って意味なんだけど」
「もちろん、してる」
「(とてもそうは見えないけれど)私は、博士からアンタをメイドに仕立て上げろって言われてるけど、それは良いのよね?」
「かまわない」
「早速で悪いんだけど、上はともかくせめて脚は閉じなさいよ。大事なトコロが丸見えじゃない。それとも……ひょっとして誘ってる?」
壁と床の隅に尻を押し込んだ少女は、開いた脚をMの字に立てていたのだった。“気にしないから見たければ見ろ”そう言えなかったのは、弄ばれた胸先が立っていたからだった。敏感になった胸全体が、自己主張していた事も後押ししていた。背中と腰でのたうつ、ゾクゾクとした未知の感覚に戸惑う少女が思い出したのは、一瞬のみ漏らした甘い吐息である。ドクンドクン。鼓動の高鳴りと共に、身体の全てが敏感になっていった。少女は、ツインテの視線が酷く気になったのだった。慌てふためき、抱きかかえる様に身体を隠す事だけは精神力で押え込んだ。
どちらの性別でも下半身を曝すのは論外だ。体育座りの要領で膝を抱きかかえたのは自分への折衷案であった。少女は拗ねた様に言った。
「……よく知らないんだけども、寝ている間に胸を揉むのは女同士なら普通なのか」
「割と良くあるわね」
「俺の知ってる常識から飛びすぎておいそれと信じられない」
カツコツと足音を立てて、ツインテが向かった先は、廊下に通じる部屋の扉だ。
「目が醒めたなら付いていらっしゃい。ここでの事を引っ括めて教えてあげるから」
少女が昨夜脱ぎ捨てたセーラー服をキョロキョロと探し始めたので、ツインテはソファーに掛けてあるTシャツを指さした。
「もう洗濯に回したから、着るのはそれよ」
「一日中、ダボダボTシャツ?」
「仕事着を直ぐあつらえるから、問題ないわ。ここには私たち以外居ないしね」
廊下に出た瞬間、少女はドテと尻餅をついた。ツインテは本気で心配していた。
「鈍臭い子ね。そんなので大丈夫?」
「まだ慣れてないだけだ(足腰が浮き足立ってるのか)」
赤い高級絨毯の上を歩くツインテは、振り返るとこう言った。
「あ、そうそう。私は紅葉〈くれは〉よ。これから宜しくね。AAA-0704」
「AAA-0704?」
「アンタの仮の名前〈開発コード〉よ。Artifactual ArchAngelシリーズの第七世代型の四番機」
(神罰を下す人造の大天使か。博士も好きだな)
紅葉が足を止めたのは、少女が死神に取り付かれた様な顔をしていたからだった。
「サイボーグだって聞いてるけど、前の名前に未練があるわけ?」
「いや、それで、いい」
「安心して。名前を貰う方法がちゃんとあるから」
「知りたくないから言わなくて良い」
「変な事言うのね。仮のままでも良いの?」
「今の状況に納得はできないけれども、理解はしている。受け入れる」
その少女は、ゆらりと歩き始めた。
「(名前を貰ったら俺と言う個人が起きてしまう。俺が何かを持ってしまう)社畜の墓標に名は要らぬってやつだ」
「ま、良いけどね」
(心を殺せ。俺はこれまでも何度もしてきた。今度だってできる)
◆
だぼだぼTシャツを着る少女は、スリッパの音を立てながら右隣を歩く紅葉にこう聞いた。
「紅葉の外見は、ナノマシンとマテリアルでできてる?」
「そう。私はメタルフレームとのハイブリッドである第六世代型なのよ。呼吸や発汗などの生理現象を擬似的に再現できるっていう特長もあるんだけど、最大の特徴は同じ背格好という制限があっても姿を変えられること」
「胸が大きすぎて困ってるから俺も変えたい。仰向けで寝られなくて昨夜は大変だった」
Tシャツ一枚の下にある二つの胸は自然に揺れていた。
「サイボーグである第七世代型のアンタは無理よ」
「紅葉と俺に違いがあるのか」
「脳殻・骨格・人工筋肉・パワーセル。これらは無機質だけれど、お腹の中の人工臓器を含めたそれ以外の場所は、有機組織でできてる。自己修復の為に若干量のナノマシンが入ってて、パワーセルからのエネルギーでも組織維持ができるけど、食事をすればエネルギーの節約になるわ。手間だけどその方が良いと判断されたのね」
だぼだぼTシャツ越しに下腹部を擦っていた少女の声は、かすかに震えていた。
「だったら、この腹の中に詰まってるモノは、」
「臓器の数も機能も人間の女の子と全く同じよ」
「(なら、納得)悪いけどトイレの場所を知りたい」
「突き当って右だけれど、やり方は分かる?」
「想像は付く」
「お尻側から後ろ方向に拭くのよ?」
「初めて聞いた。知りたくなかった」
「手伝ってあげても良いけど」
「要らない。直ぐ済ませるから少し待っててく――」
ちゃく。それは、だぼだぼTシャツの裾の奥で跳ねた水の音だった。
◆
頬を真っ赤に染めた少女は走り去る前に、「っ!」背後から抱きつかれた。紅葉の左手は腹部に回っていたが、右手は胸の谷間に置かれていた。紅葉は、「レクチャーの続きをしましょ?」囁く様に言った。紅葉の瞳が妖しく光ったのは、少女が男の理性を奪う目眩を起す様な強い香りを、しっとりと汗を掻いた首から放っていたからだった。
「左の胸にある心臓が破壊されても生体組織にダメージが生じるだけで活動はできるけど、右胸のパワーセルを破壊されると活動が止まってしまうから、それだけは気をつけなさい。それと、」
「レクチャーは取りあえず良いからトイレへ」
少女は振り解こうと力を入れたが、紅葉はビクともしなかった。
「パワーは油圧式である私の方が上、体重もメタルフレームである私の方が上、当然強度もね。無理に動くと壊れるから、無駄な抵抗は止めなさい。もう一つ。トイレって、嘘よね?」
「嘘では、ないんだ」
少女が抗い止めたのは、諦めではなく本能と理性のせめぎ合いの結果だった。
廊下の壁にドンという音がした。少女は手首を掴まれ、壁に押さえつけられてしまっていた。迫るのは紅葉の悪戯めいた表情だった。互いの息の味が分かる程に二人の唇は近づいていた。悔しさを滲ませつつも少女が目を逸らしたのは、透明だが粘り気のある露が、ぴっちりと閉じられた太腿を伝っていたからである。
紅葉はクスリと笑った。
「……顔が赤くて呼吸も荒いからどうしたのかと思ってたけれど」
それを拭い取った紅葉の指には、銀色の橋が掛かった。
「柔らかいし、良い匂い。こんなに華奢なのにこんなに大きいなんてインチキね。でも――」
大きさの違う二人の胸は、衣類越しであったがツンと向き合っていた。
「先っぽが固くなってるのは、私に弄られた胸が気持ちよかったからよね?」
少女が目を剥いたのは、触れられれば切っ掛けとなってしまう胸の先端に、紅葉の指が近づいていたからだった。掠めたのみで終わったそれは、少女の唇をそっとなぞった。ピクリと身体が振れた。紅葉の唇が囁いたのは、少女の耳元である。
「もどかしさが、上半身どころか全身に響いてるでしょ? 男の子のそれと違ってしばらく残るわよ」
「……聞きたいのは、対処方法だけで、それ以外は要らない」
紅葉がゆっくりと誡めを解いたので、少女は庇う様に腕を身体に絡めた。紅葉の物言いは穏やかだった。
「そうね。スイッチが入っちゃったって言えば分かる?」
「使い古しの言葉だけれど、自分の身に降りかかるとは思わなかった」
「だから手伝ってあげる。洗礼って言って私もされたんだけど、それ以外無いわ」
「洗礼?」
「イイコトよ」
少女の呼吸は「フーフー」荒かった。頬は赤く染まり瞳は潤んでいた。紅葉が頬を染めたのは、期待と恥じらいである。
「やだ。我慢してるアンタのカワイイ顔をみてたら、私まで高鳴ってきちゃった」
「……紅葉ってそうだったのか」
「ここの皆はそうだけどね。誰も来ない良い場所を知ってるから、今からいきましょ」
少女は紅葉の手を払い退けたが、紅葉は大して気分を害さなかった。
「気持ちだけ貰っておく」
「そう? 我慢すると辛いわよ?」
「これでも我慢は慣れてる」
背を丸めた少女は、自分の身体を抱き締める腕に力を籠めた。痛みでもどかしさを掻き消す為だが、大した効果は無かった。溜まらずよろめいた。はぁと溜まった何かを吐き出した。壁に手を付いた。こう言った。
「それより、仕事を先にしたい」
「自然な欲求を抑えて仕事か。社会人の鏡だわ」
「社畜ってのはそう言う物だ」
◆◆
二人が歩くのは、衣装室通じる廊下だ。少女は、火照った身体に手を焼きつつもこう言った。
「仕事って、家事って事で良いのか」
人差し指を指揮者の様に振る紅葉のその様は、先輩風だったが優越感も混じっていた。
「仕事内容を説明すればそうなる。ただ私達はご主人様の為だけにあるって事を念頭にすること。いい? 水都 大地〈みなと だいち〉様。私たちのご主人様であられるこの名を頭に刻んでおきなさい」
「紅葉の物言いは、家事以外の仕事もある様に聞える」
「もちろんご主人様のお相手も立派な仕事よ」
「ゲームとか?」
「馬鹿ね。献身的な抱擁を与えるって言いましょうか」
少女がうんざりしたのは、紅葉が頬を染めていたからだった。
「十歳と聞いてるけど、いいのか、それ」
「馬鹿ね。仇なす者が男とは限らないんだから、裸で驚かれる様では困るでしょ?」
「なるほど」
少女の脳裏に浮かぶのは、ご主人様と自分が裸のつきあいをする未来予想図である。
(おねショタか。じーさんよりはマシだな。ガチムチよりもマシだ。これはマシ……あぁぁあぁぁああぁぁ)
少女が頭を抱えたので、長い髪がくしゃくしゃになった。
「でも年端もいかない男の子って犯罪にならないのか」
「ここは日本の司法が及ばない土地なのよ」
「馬鹿な事を聞いて悪かった」
◆
だぼだぼTシャツをズルリと落とし、肩を露にしてまで少女が脱力したのは、楽屋の様な部屋に、セーラー服・典型的なメイド服・チャイナ服・修道服・ナース服・スクール水着など、様々な衣装が並んでいたからだった。
「おぼっちゃまに、この衣装を全部?」
「宴などの余興で使うのよ。夜伽はランジェリーだけ」
(夜伽、夜伽、夜伽、夜伽、夜伽、夜伽……うわぁあぁぁぁあぁぁぁ)
「大地様は可愛いんだから。もぞもぞって、私の腕の中で身動ぐの……」
紅葉は恋する乙女の様な表情をしていたが、少女は肩の荷が下りた様に笑っていた。
(一緒に寝るだけか。あーおどろいた。それはそうだよな。十歳から励んでたら若くして打止めになる……)
少女が凹んだのは、長年連れ添った分身がもう無いからである。
「はい。アンタの仕事着がコレよ」
紅葉が持ってきたポール脚のマネキンは、少女が着るメイド服を着ていた。それは、真っ黒なワンピースだった。スカートの裾は膝の中程まで届いていた。袖は手首まで覆っていた。襟は、首の中程に達していた。エプロンすら黒く、白は袖の折り返しとフードのみである。紅葉と同じ仕立てだが、胸回りは少女に合せられ余裕があった。ストッキングを穿くならば、露出は手と顔のみとなる仕立てだった。
少女は、おっかなびっくりにチョンチョンとそれを突いていた。
「メイド服って言うから華やかなものを想像していたけれど、随分本格的なんだな」
「シックって言いなさい。大地様のお家で使えていたメイドと同じらしいわよ。着方は分かる?」
「ワンピースなら服の構造から着方ぐらいは察しが付く」
見過ごせないと紅葉がそう言ったのは、マネキンが着ているメイド服のファスナーを、少女が降ろし始めた時の事だった。
「一つ聞くけれど。ぶかぶかTシャツの上から着るつもりでいる?」
「無しは駄目?」
「下着を着けなさいよ。女の子用を」
「……今南斗水鳥拳?」
「ランジェリーを着ろって言ったの」
「男物は?」
「駄目」
ガガーンとは、少女の心理を表した落雷エフェクトである。紅葉は咎める様に言った。
「アンタの部下が、元女だからってショーツを穿いてたらどうする? 職務への取り組む態度として問題があると思わない?」
「……分かってる。言ってみただけだったんだ」
◆
「はい。これ」
紅葉が手渡したモノは、レースの薔薇をあしらった白色だった。前布と後布を結ぶサイドは紐だったが、布面積は相応にあった。ただ当て布以外の部分はうっすらと透けていた。シンプルなデザインだが色気が相応にあるそれは、かつて獣人〈ライカーンスロープ〉が“ギャルのパンティおくれ”神龍に願ったシロモノである。それを両手で横に引っ張る様に持つ少女の身体は、震えていた。頬は紅く染まり、そして脂汗が流れていた。
(穿く? 俺がこれを穿く?)
「そんなに珍しい? 奥さんも使ってたでしょ?」
「も、もっと大きかった。スッポリと隠れるぐらいの」
「それはフルバックね」
肩が露になっていたので、少女はTシャツの襟を直した。紅葉があっけらかんとしていたので、こう言った。
「俺は、紅葉が羞恥を感じていない理由が気になってる」
「女の子が女物の下着を扱って恥ずかしいと思う?」
「言い直す。俺とこういう会話をして、抵抗がないのかと言う事」
「私は、アンタを男と思ってないから」
「アンドロイドだから?」
「ぶかぶかTシャツを脱いで」
「は?」
「いいから、さっさと脱げ」
髪は長かったが、前髪は目に掛かる程度だった。目尻は釣り上っていたが、それでも柔らかな印象があるのは眼が大きいからだった。艶やかで長い黒髪が隠すその肢体は、肌のきめの細かさと白さが相まって瑞々しかった。無駄な肉のない華奢な体付きだったが、蕩ける様な柔らかみを醸し出していた。発育した腰は身籠もるのに申し分なかった。何よりも目を見張るのは、胸を彩る豊かな膨らみである。差し込んだ指を包み込む程に大きく柔らかいそれは、ツンと上を向いていた。
鏡の中で全ての肌を晒す少女が、俯き加減で目を逸らしているのは、直視できないからだが、それは身体が訴える恥じらいのみではなかった。
少女の肩に手を置いた紅葉の声には、強制力があった。
「姿見に映る自分の姿をちゃんと見る」
俯いたままチラと一瞥した少女の目尻には、涙が浮かび始めた。
「この娘が、トランクスとかを穿いてるのが正しいって思う?」
「自我が崩壊の瀬戸際に立ってるのに、紅葉は容赦なく追い立てる」
「私色に染まっていくアンタが可愛いから一生懸命なのよ♪」
ため息をついた少女は顔を上げた。
「違う種類はない?」
「他にもあるから好きなのを選ぶと良いわ」
紅葉がドスンと箱を置いたのは、折り畳み机の上である。
「Tバックは、サイドからバックに掛けての面積が少ないタイプで、下着のラインがアウターに出にくい。ストリングは、サイドが紐になっているタイプ。Gストリングは、サイドからバックが紐のタイプだけどほぼ紐の物もある。ヒップハンガー・ローライズは、股上が浅い。ブラジリアンは、Tバックよりは布面積が広いタイプで、ショーツ姿を綺麗に見せられる。ありふれた勝負下着ね。オープンタイプは、クロッチの部分にスリットが入ってて、布をくり抜いた様なタイプもの物もある。開いている理由は察してね♪ バックレースは、広い後ろ布がレースで透けているタイプ。Oバックは、お尻の部分が丸く開いているタイプ。ヒップラインを矯正するモノもあるけれどセクシーランジェリーに属する物が多い。
形としてはこんなところだけれど、生地で分けると、そうね。
レースでも透けてるタイプ透けてないタイプ・薄手で伸縮性があるショーツラインが浮かびにくいタイプ・綿タイプ、フリルやリボン付きもある」
「なんというか、どれも性的なのは何故?」
「綿の幼児タイプもあるけど、それは逆に不味いと思うわ。まぁ、アンタを考慮するとヒラヒラやリボンのないシンプルなストリングタイプが無難よね」
「どれ?」
「レースだけれど最初の奴よ」
「俺は反省しています。こんなヘンタイなのを女の子に求める男共はしね」
「言っておくけどブラもあるから。アンタは、ボリュームのある釣り鐘型で柔らかいからフルカップブラがいいわ」
ブラを両手で持った少女は、ギリギリと油の切れた人形の様に首を回した。涙ぐんでいた。ため息をついたのはもちろん紅葉である。
「ブラを先に付ける人も居るから好きな方から付けなさい」
「ぶらも つけないと だめ? これがないと さきっぽが いたくなる?」
「当り前でしょ。動く度に中で暴れるんだから。アンタ位のサイズだと何かと揺れて大変よ?」
「ごふん じかんを いただきたいです」
六〇分が経過した。
「こ、これ、どうやってつけるの?」
「(やっとか)いい? ストラップに腕を通したら、アンダーホックを止める前に、前屈みになって掬い上げる様に……」
パチンとはホックがはまる音である。
「ショーツを忘れてるわよ」
「えぐえぐ」
◆
衣装室を出たメイド少女を表現するならば、産まれたばかりの子鹿が適当だった。
「キャミソールはスベスベで落ち着きません。ブラは苦しいです。パンツは、少ない布がぴっちりしていて混乱しています」
「そのうち慣れるでしょ。多分」
「そうだよね。俺もそんな気がしてる(こ、壊れた。大事な何かが一つ壊れた……)」
ドテと転んだ。
「アンタ、良く転ぶわね」
「動揺してるだけだと思います」
「ま、転んでも脚を閉じてるのは褒めてあげる」
紅葉がため息をついたのは、少女が飲んだくれの様に慌てて脚を開いたからだった。
「意地っ張りというか、往生際が悪いというか、身体の訴えに従ったら?」
「紅葉は、つき合ってる人がいるか?」
「居ないけど。なによ突然」
紅葉が驚いたのは、少女が彼女の両手を握っていたからだ。少女が詰め寄ったので、紅葉は僅かに後退った。
「なら俺と付き合ってくれ。もちろん結婚を前提」
「は?」
「こんな恥ずかしい事を知ってる紅葉を放し飼いできない」
「馬鹿な事を言ってないで、次のレッスンを始めるわよ」