「なん……だと……」
とある日曜日。
全身を激しく動かす運動を終えて、一息ついていると何となくつけていたテレビから衝撃なニュースが流れてきた。
思わずコップを倒してしまい、テーブルの上に水が広がる。
「んん……どうしたのかな?」
「すまん、起こしたか」
慌てて布巾でガチャガチャと後始末をしていたら、背後から声が掛かった。
先ほどまでダウンしていたベッドの上の櫛田さんである。当然のように衣服を着ていない姿だった。
生まれたままのたまらなくそそられる姿だが、布団が汚れていないか心配だ。
あのベッドで今夜寝ないといけないわけだが、櫛田の匂いに包まれて眠れるだろうか。
愛の結晶に包まれるのは、赤ちゃんだけでいい。
まあ、2人のって言葉が示す通り櫛田の単独犯ではなく、オレも共犯者だが。
「少し、驚きのニュースだ」
「どんなニュース?」
「見てもらった方が早い」
まだ次のニュースに切り替わっていなかったので、立ち位置をずらして櫛田の位置からよくテレビが見えるようにした。
『従来の予想は誤り!? ティラノサウルスの歯はむき出しではなかった可能性が』
ティラノサウルスと言えば、強靭な顎とどう猛な牙が有名だが、その牙がむき出しではなく唇に覆われていたというニュースだ。
正直、ガッカリもいいところだろう。
ティラノサウルスは、牙がむき出しだからこそティラノサウルスであって、唇なんかを標準装備していたら、それはもう恐竜の王失格である。
つまり、このニュースは、ティラノサウルスの地位が脅かされるというものなわけだ。
どれだけ重要かが分かっただろうか。
「ねえ、綾小路くん」
「分かってくれたか櫛田」
「心底どうでもいい」
櫛田は興味を無くしたらしく、リモコンでテレビを消した。
なぜだ。
どうしてこの重要さが分からない。そして勝手にテレビを消すなよ。
ニュースに対する芸能人のコメントとかは、どうでもいいから別にいいんだが、温度差が辛い。
「分かっているのか櫛田」
「なにが?」
「ティラノサウルスだぞ。つまりTレックスだ」
「それがどうかしたの?」
「Tレックスと言えば綾小路、綾小路といえばTレックス」
「…………」
「Tレックスが否定されたら、オレが否定されるようなものだろう」
「意味わからないし」
櫛田はこちらを見るのすらやめて、携帯端末を操作しはじめた。
溜まった連絡の処理をしているらしい。
く、男のこだわりというものは櫛田には通じないのかもしれない。
「オレはこれからどうしたらいいんだ。もう終わりだよ、Tレックスは」
「Tレックスが王様じゃなくなるのなら、綾小路くんがトリケラトプスを名乗ったらいいんじゃないかな」
「それだけはダメだ」
「声大きい!?」
綾小路トリケラトプス……う、頭が……。
封印された記憶が襲い掛かってくる。それだけは絶対にダメだ。悲しい結末になってしまう。
「じゃあ綾小路トリケラトプスがダメだったら、綾小路スピノサウルスでも綾小路プテラノドンでもなんでもいいんじゃないかな」
「スピノサウルスが恐竜の王様って感じがするか?」
「しないけど、別に私はどうでもいいから」
「しっくりこないんだが、試してみてもいいか」
「それも意味が分からないんだけどね」
Tレックスが、唇に覆われている可能性が出てしまった以上、別の恐竜を試してみるしかあるまい。
櫛田には協力してもらおう。
こういうのはイメージが大事だ。羽ばたくイメージで行ってみよう。
櫛田と飛ばす勢いで激しくだ。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路しっそちょーーーーー」」
違うな。これじゃない感が満載だ。
始祖鳥はゴロが悪すぎた。
小さい『っ』が間に入っているあたり致命的だ。却下だな、却下。
次いってみよう。
肉食恐竜であり、巨大な爪が有名らしい。Tレックスに似た存在と言えるだろう。
とってかわるならお前しかいない。
ブリッジする勢いで下から櫛田を突き上げるイメージだな。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路ヴェロロロキラプトルーーーー」
これもだめだ。
変に巻き舌まで入ってヴェロキラプトルが、ヴェロロロキラプトルになってしまった。
行為の最中に叫ぶのは良くない。舌を噛みかねない。
舌は絡めるものであって、嚙むものではないはずだ。
次いってみよう。
四つん這いっぽいのがトリケラトプスを連想させて怖いが、別物だから問題ないだろう。
よし、櫛田を四つん這いにして、と。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路スピノサウルーーーース」」
悪くはないな。
しっくりはこないが、それは慣れていないだけで、そのうちしっくりくるかもしれない。
これからは綾小路スピノサウルスを名乗っていくしか無いだろうか。
「ねえ、綾小路くん」
「どうした櫛田」
「スピノサウルスって肉食でも魚がメインだったらしいよ」
「全然王様でもなんでもないじゃねえか」
ダメだ。魚をメインでいただくとか嫌な予感しかしない。
マグロは佐藤だけでいい。
悪くはなかったのに、残念だが無理だな。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路ステゴサウルーーーーース」」
草食系だった。却下だ却下。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路アルゼンチノサウルーーーース」」
これも草食系だし、アルゼンチノはアルゼンチンを指してるらしいから綾小路アルゼンチンって続くのは気持ちが悪いから無理だ。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路ギガノトサウルーーーース」」
これだ。
最大級の大きさだった。肉食恐竜。Tレックスとどっちが強いのか論争になる恐竜だ。
Tレックスに代えるのならこれしかない。
辿り着いた。長かった旅路の末にようやくここまで来たか。
これからは、綾小路Gの時代だ。Tレックスは時代遅れだ。
噛む力が弱かったってのが気がかりだが、それ以外は問題ないだろう。
ギガノトサウルス、ギガキモチヨス。
「決まったな」
「うーーん」
「櫛田は不満か」
「あやのこう『じ』の後に『ぎ』って続くのは言いにくいよ」
綾小路ギガ、綾小路ギガ、綾小路ギガ。
「言われてみれば、これも噛みやすいか」
「必死になってるときに言いにくいってのはどうかと思うんだ」
「だが、ギガノトサウルスも却下になるといよいよ他が無くなる」
試していない恐竜はまだまだいくらでもいるが、王者である素質を持つものは多くは無い。
あきらめるしかないんだろうか。
「そもそもだけどね、唇があるって決まったわけじゃないんだよね?」
「唇があった可能性を指摘するニュースだ」
「それなら、唇がなかったってことでいいんじゃないかな」
「そんなにあっさり解決できるのならここまで悩んでいないんだが」
牙がむき出しであって欲しいが、勝手に決めるわけにはいかない。
決めるのなら根拠が欲しい。
「私は、唇は無かったと思う」
「何か理由があるのか?」
「だって綾小路くんのが覆われてないから」
「それだ!」
そうだ。オレはいったい何を悩んでいたんだ。
Tレックスがむき出しだったら、Tレックスもむき出しに違いない。
流石は櫛田だ。目の付け所が違う。
「櫛田、愛してる」
「はいはい」
よし、解決したからには改めて一発、本番と行こうか。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
やっぱりこれだな。これしかない。
こうして綾小路のおバカな休日は過ぎていくのであった。
続かない。
佐藤「このタイトルで私が出番なしって酷くない!?」