綾小路シュガーレックス   作:チームメイト

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2年生編9.5巻の内容を含みます。
未読の方はご注意を。


クリスマスプレゼントに欲しいもの

 2年のクリスマスの出来事。

 

 1年時には知らなかったことだが、世の中にはクリスマス商戦と言うものがあり、ケヤキモールもしっかりとその商戦に参戦していたようだ。

 

 この事実を知ったのは前触れもない昨日の夜。

 

 聖夜、クリスマスイブに行われたグループTレックスの最中の雑談で、盛り上がっていたときに出た話題だ。

 

 パーティーの参加者の1人である篠原は、クリスマスイブに恋人の池と過ごす予定が入っていた。

 篠原だけ早めに切り上げて、念入りにシャワーを浴びて池の部屋に向かうために出ていった後なので、7時を過ぎたあたりか。

 

 聖夜を共に過ごすという池と篠原の話題から、デートの場所、ケヤキモールと飛んで、クリスマス商戦に話題が移っていった。

 商戦のことを知ったオレは、大いに心を動かされていた。

 

 特価販売。

 

 ポイントに困っているわけではないが、無駄遣いを控えたい学生にとってその響きの持つ意味は大きい。

 気になっていた商品を手にする機会としては、これ以上のものはないだろう。

 

 なんとなくチェックしていった商品群の中で、オレのアンテナに引っかかるものがあった。

 オレの目に留まったのは、ヨーグルトメーカーだ。

 牛乳さえあれば、ヨーグルトを簡単に作ることができるようになるらしい。

 

 一人暮らしでのヨーグルトの消費量を考えれば、わざわざ作るよりも市販品を買った方がコスパ的には正解な気もするが、こういうのは考えて買うものではない。

 不毛な思考はやめよう。

 

 大事なのは、そこにロマンがあるのかどうかだ。

 自由にヨーグルトが作れる。

 

 冷静になって考えれば、大したことはないと思う。

 が、たまにはこういう頭の悪い商品を買うのも良いだろう。

 

 クリスマスのムードに浮かれるのも悪くない。

 特売で売られていたら買う。

 

 据え膳に飛びつくのと同じだ。深く考えなくていい。

 

 商品によってはアイスとかも作れるらしいが、アイスはどうでもいい。

 シンプルにヨーグルトを作って食べてみたい。

 

 それだけだ。

 翌日に備えて気合を入れなおして、イブのグループTレックスに励んだ。

 

 

 翌日。

 昨日のパーティーの持ち込み品で、ケーキ被りで大量に余っていたものを朝から1ホール分消化する。

 昨日は、専門店から取り寄せたケーキから食べていったので、残っていたのはスーパーで売っている大量生産品で、昨日のものと比べたら味はかなり落ちた。

 

 今までの人生でケーキを食べる習慣が無かったので、ケーキ1つとってみても食べ比べてみたら面白い。

 ヨーグルトも自作品と市販品を食べ比べてみたい。

 

 夢が広がるな。

 

 夢と言えば、昨日は佐倉と堀北が生クリームを身体に塗りたくって私を食べてと言ってきたが、あれはあれで男の夢だったな。美味しく頂いたが、ただでさえケーキを食べた後だったので、生クリームを食べ過ぎた。少し胸やけしている。

 

 こんなときは、すっきりとしたヨーグルトが食べたい。

 つまり、ヨーグルトメーカーを買う事こそが正義だ。

 

 種として使うヨーグルトや牛乳の種類によって完成品は変化するんだろうか。

 頭の中はヨーグルトメーカーでいっぱいだ。

 どんなヨーグルトを作るのかを考えながら寮を出る。

 

 特価品は在庫限りの限定販売だ。

 売り切れたら終わりなので、早めにケヤキモールに向かう。

 

 

 

「失敗した」

 

 10分前には到着していた。

 が、それでも出遅れてしまっていたらしく、目当てのヨーグルトメーカーを買うことはできなかった。

 

 悔しい。これならば、もっと早く出ていればよかった。

 昨晩遅くまで盛り上がっていたのが悪いか。

 

 仕方ないので、たまたま出会った茶柱と星之宮コンビとカラオケボックスでストレスを発散してから寮へと帰っていた。

 

 溜まっていたものを発散したのは、オレなのか教師コンビなのかは、判断が難しいところだ。

 なお、教師と生徒が外で遊ぶことは、過度な接近は禁止だが、基準として1対1でなければ問題ないらしい。

 

 問題だらけだが、そういうことだ。

 

 

 

 夕方になって、櫛田が部屋に遊びに来た。

 交友関係の広い櫛田は、イブから今日の夕方にかけて、友達との予定が詰まっていて忙しかったらしい。

 

 その最中に3人から告白されたらしく、いろいろとめんどくさかったようだ。

 恋人が居ないモテる女子にとって、クリスマスはめんどくさいイベントなのかもしれない。

 

 オレはオレで失意のどん底だったので、櫛田の愚痴に続いてヨーグルトメーカーが買えなかったことを嘆いた。

 

「多少高くつくが、セール対象じゃないものを買った方が良いと思うか?」

 

 相談と言う形にしたが、実際はほぼ買うことを決めていた。

 買おうと思って買えなかったという悔しさが、ヨーグルトメーカーへの思いを強めていた。

 

 こうなったら意地でも買ってやる。買わないと気が済まない勢いだ。

 

「ねえ、綾小路くん」

「そうか、賛成してくれるのか櫛田」

「ヨーグルトメーカーは必要ないんじゃないかな」

 

 浮かれているオレに、櫛田が冷静にツッコむ。

 言わんとすることは分かる。落ち着いて考えれば、必要ないのは確かだ。

 市販品のヨーグルトを買えば、事足りる範囲内だ。

 

「確かにコスパを考えたら怪しいが、ロマンがあるだろ」

「いや、そうじゃなくて、さんざん女子に食べさせてる綾小路くんが、白くてドロッとしたものをそれ以上作ってどうするのかなって」

「下ネタかよ」

 

 ヨーグルトメーカーはオレだった!?

 

 クリスマスの定番ソングに赤鼻のトナカイというものがある。

 

 真っ赤な鼻のトナカイは、自分のことをよく理解していなかったキャラクターとして歌で描かれているが、まさかオレが赤鼻のトナカイの立場になろうとは。

 

 そうか、オレはすでにヨーグルトメーカーを体内に宿していたのか。

 

 いや、ねえよ。

 

 つーか、鼻が赤いのは理解できるが、それで夜道を照らすって意味が分からない。

 白くてドロッとしているからといってヨーグルトに結び付けるくらい意味が分からない。

 

 ん? 同じくらい意味が分からないのなら、例えとして正解なのか。

 

 流石は櫛田だ。さすくし。

 

「櫛田には手作りヨーグルトを提供しよう」

「ひどい親父ギャグを聞いた気がする」

 

 オレだって傷つくことがある。

 ヨーグルトとオレを連想させたのは櫛田のくせに、裏切りがひどい。

 

 まあいい。相手が望もうが望まなかろうが、オレのヨーグルトを櫛田にごちそうするしかあるまい。

 前回の製造から12時間は経っている。既に次のヨーグルトは完成しているはずで、在庫は十分だろう。

 

「櫛田」

「綾小路くん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 こうして2年のクリスマスは、ヨーグルトメーカーとなって過ごすのであった。

 

 

 最後に。

 

 後日、オレがヨーグルトメーカーを買いたがっていたことを知った櫛田が、ネットで注文してプレゼントしてくれた。買うのを止めたのはそのためだったらしい。

 坂柳みたいなことをしやがって。

 

 流石は櫛田だ。愛してる。

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