── 私はまだ、洞窟の中にいた。
(アヌー)「まさか⋯このオレサマを引き抜いたのが⋯女だとは⋯」
ヤリ(アヌー)は、宙に浮いたままブツブツと呟いている。かなり困惑しているようだ。
確かに私は女だ。だからなんだ!
すると、アヌーが突如大声で叫び出した。
「オレサマの主(あるじ)が女?フン!認めん!!」
その言葉にムカついた私は、目の前のナマイキなヤリにこう言い返した。
(ターフ)「はぁ!?抜いてもらっといて何その態度!ありえないんですけど?」
私とアヌーはその場でしばらく言い争うと、アヌーが声を荒らげてこう言い切った。
(アヌー)「とにかく、キサマと手を組むなど願い下げだ!」
(ターフ)「あっそ!じゃあもういい!」
結局、出会った早々ケンカになってしまった。
しかし、このナマイキなヤリをこの場に放置しておく事も出来ず、仕方なく、返事をしなくなってしまったヤリ(アヌー)を持ち帰る事にした。
洞窟を出て、家に帰ろうと思ったその時、一人の男の子がもの凄い勢いでかけて来た。
すごく慌てている様子だ。
私は「どうしたの?」と声をかけた。
男の子はひどく青い顔をして、切羽詰まった声で私にこう訴えた。
(男の子)「魔女が魔物をいっぱい出して村を襲ってるんだ!ボルトの兄ちゃんが戦ってるけど、早く誰かを呼ばないと、兄ちゃんが危ない!」
ヤリの次は魔女とは⋯まったく、不思議な事が次から次へと⋯
とにかく、急がなければ。
私は男の子に案内を頼み、魔女の元へと走り出した。
── 一方その頃
ボルトと魔女は激しい戦いを繰り広げていた。
紫色の髪に、全身紫色の衣装を身にまとった魔女は、優しそうな笑みを浮かべながら、禍々しい魔物を次々と繰り出し、ボルトを取り囲み襲いかからせる。
しかしボルトは、魔女が繰り出すその魔物たちを次々と自慢の鉤爪(かぎづめ)で引き裂いていく。
二人の力はほぼ互角だった。
(ボルト)「いいかげん魔物を引っ込めろ!どこの誰だか知らんが、村を荒らすヤツは、この俺が全員ぶっつぶす!」
それを聞いた魔女は、ニコニコ笑いながらこう答えた。
(紫の魔女)「それは出来ませんね。ですが、オーブのありかを教えてくれるのであれば、この子たちをお家に帰しますね。」
(ボルト)「オーブはおとぎ話でしかないんだ!わかったらとっとと帰れ!」
ボルトは紫の魔女目掛けて飛びかかった。
しかし、その攻撃は魔女の張ったバリアに阻まれてしまう。
ボルトが何度攻撃してもバリアは硬く、紫の魔女には傷ひとつ付けられない。
(紫の魔女)「いけませんね、女性に暴力をふるっては。」
紫の魔女は、またニコニコしながら言った。
怒っているのか、面白がっているのか、全く分からない。
それが逆に気味が悪い。
(紫の魔女の杖)「主(あるじ)よ!いつまでも小僧にかまっている暇はない。他を当るぞ。」
紫の魔女が持っていた杖が突然喋り出した。
思わず、ボルトの攻撃の手が止まる。
(紫の魔女)「はぁ⋯教えてくれそうな人だと思ったのに⋯残念ですね、マガさん。」
そう言うと、紫の魔女はどこからかほうきを取り出し、マガと呼ばれた杖を持って、そのほうきにまたがった。
紫の魔女が飛び立とうとしたその時、男の子に案内されたターフが駆けつけた。
(ターフ)「ボルト!加勢するよ!魔女はどこ?」
ボルトはほうきに乗った魔女を指差した。
すかさず、ターフは紫の魔女に向かって声を張り上げた。
(ターフ)「待て!!」
その言葉が届いたのか、魔女の乗ったほうきがピタリと止まった。
そして、ターフが持っているヤリを見てこう言った。
(紫の魔女)「あら、あなた⋯伝説のヤリに選ばれたようですね。それなら⋯その力がどれほどの物か、試させていただきます!」
そう言うと、魔女は天空から魔物を繰り出してきた。
黒い犬のような魔物が次々と現れる。
(ターフ)「アヌー!戦える?」
そう問いかけても返事がない。さっきのケンカで、まだ腹を立てるのか?
そう思ってよくよくアヌーの顔(?)を覗き込むと、なんとアヌーは呑気にイビキをかいて寝てるじゃないか!
(ターフ)「アヌー!起きろ!!」
ターフは杖をガクガクと揺さぶり、寝ているアヌーを叩き起した。
やっと目を覚ましたアヌーだったが、ターフと目が合うとそっぽを向いてしまった。
(アヌー)「言ったはずだ。女と手を組むつもりは無いと。」
(ターフ)〈まだ引きずってる⋯〉
ターフはさっきのケンカを思い出した。
(ターフ)〈私もちょっと言いすぎたかな⋯?〉
そう思うと、だんだん不安になってきた。
その時、真っ黒な犬の魔物たちが、一斉にターフを目掛けて走り出した。
それを見たボルトが叫ぶ!
(ボルト)「来るぞ!」
しかし次の瞬間、複数の矢が犬の魔物たちを次々と貫いていた。
矢に貫かれた犬の魔物たちは、たちまち黒い霧となって消えていく。
ターフが矢の飛んできた方向に目をやると、右目はピンク、左目は緑色をしたオッド・アイの少女が、木の上から紫の魔女に狙いを定めて矢を引き絞っていた。
よく見ると、オッドアイの少女のいる木の下に、さっき道案内をしてくれた男の子がいる。きっとこの子が少女を呼んでくれたのだろう。
(紫の魔女)「今日は運が良かったようですね。私はひとまず帰ります。ちなみに私の名前はマフィー。マフィー・リクルスです。次もまた私とマガさんの邪魔をするのなら、今度は本気でお相手しますよ。その時は覚悟して下さいね。」
そう言うと、マフィーはひらりとほうきにまたがり、空高く飛び去ってしまった。
しばらくすると、矢をかまえていたオッドアイの少女が木から降りて、こちらへと近付いて来た。
(ターフ)「助けてくれてありがとう。」
ターフはオッドアイの少女にペコリと頭を下げた。
(オッドアイの少女)「礼には及ばないわ。それと、私はレイン。レイン・ザ・コモドドラゴンよ?」
すると、レインはターフの足から血が出ている事に気が付いた。恐らく急いで駆けつけている間にどこかで切ったのだろうが、ターフ自身も傷がある事に気付いていなかった。
(レイン)「その傷、見せてくれない?大丈夫、すぐに終わるから。」
そう言うと、レインはテキパキとターフの足を治療し始めた。
(レイン)「私のママは医者なの。はい、これでもう大丈夫よ。」
(ターフ)「悪いな。何から何まで⋯」
ターフは足に巻かれた包帯をしげしげと眺め、もう一度レインに頭を下げた。
(ターフ)「君がレインを呼んでくれたんだね?」
ターフはレインの隣にいた男の子に話しかける。男の子は黙って軽くうなずいた。
すると、遠くからその男の子の元に、母親と思しき人が駆け寄ってきた。
男の子はその女性の顔を見て走り出し、そのまま二人は抱き合った。
聞けば、魔女が村を攻めてきた時、親子は離れ離れになってしまったんだそうだ。
そんな状況だったのに、母親を探す事より、ボルトを心配して人を呼びに行った男の子の行動は、とても立派だったと思う。
すると突然、空から緑色の宝玉が降りてきて、抱き合う親子の頭上で、まるで二人を祝福するかのように輝き始めた!
(ボルト)「これは⋯さっきの魔女が欲しがっていたオーブなのか?本当にあったとは⋯」
しばらく誰も口も利けず、輝くオーブを見つめていると、ゆっくりと輝きを失ったオーブは、物凄い速さで森の奥へと消えていった。
皆が呆然と立ちすくんでいると、唐突にアヌーが口を開いた。
(アヌー)「オーブは全部で七つある。」
(ボルトとレイン)「ヤリが喋った!?」
ボルトとレインが驚いて声を上げる。
そんなボルトとレインには目もくれず、アヌーは話を続けた。
(アヌー)「ヤツらはそのオーブを集めて、邪神を復活させようとしているのだろう。その邪神の名は⋯オーマガ!かつて、このシワイ島の大陸を滅ぼしかけたバケモンだ。」
(ターフ)「邪神⋯オーマガ⋯!」
ターフは邪神の名前を聞いて、つばをゴクリと飲み込んだ。
(アヌー)「オレサマはそのオーブの守り神、アヌーだ。で、ヤツが持っていた杖はまさしく、災い(マガ)の杖⋯と、いったところだろう⋯」
(ターフ)「守り神だったとは、初耳だ。」
(ボルト)「つまり、ヤツらより先にオーブを探し出して守ればいいんだよな?」
(アヌー)「そういう事だ。」
そこまで言うと、アヌーはターフに向き合い、少し気まずそうに言葉を続けた。
(アヌー)「それとターフ⋯さっきの事はすまなかった⋯」
(ターフ)「私も言いすぎたよ。ゴメン。」
二人はニッコリと笑いあった。
(アヌー)「改めて、キサマを主(あるじ)と認めよう。ただし、全てを認めたわけではないがな。」
(ターフ)「何それ?」
和やかに笑いあう二人の間に割って入るように、ボルトとレインが顔を出した。
(ボルト)「そのオーブ集め、俺も協力させてもらうぜ!面白そうだからな!」
(レイン)「安全な旅には、安全な看護師が必要じゃない?」
ターフは二人の顔を交互に見つめると、はっきりと言い放った。
(ターフ)「よし!善は急げだ、さっそく明日出発するぞ!」
ターフの旅は始まったばかりである。
──一部始終を水晶玉で見ていたマフィーとマガ⋯⋯
(マフィー)「厄介な相手が現れましたね、マガさん。」
(マガ)「若い芽は早めに潰すまでだ。主(あるじ)よ。」
(マフィー)「ですよね。ターフ、あなたの苦しむ顔を見るのが今から楽しみです。フフフ⋯」
マフィーはそう言うと、不敵な笑みを浮かべるのだった。