八神はやては男子生徒からの告白を受けた。
近々遠くへ引っ越す彼女はそれを断るが、最後の思い出作りに二人で遊びに出掛ける事に。
八神はやて誕生日記念SSです。
誕生日記念SSなのに話が誕生日関係ねー。
予約投稿してから書き上げた。
「八神さん……俺と、付き合って下さい!」
中学校卒業を間近に控えたある日、わたしこと八神はやては同じクラスの男子に呼び出されて告白された。
告白されたことにも驚いたけど、何でこのタイミング? というのが正直な感想だった。
「えーと……うん。告白は素直に嬉しいんやけど……なんでこの時期? もう卒業やない?」
わたしの質問に彼は視線をわたしから逸らして頬を掻く。
「……前々から気にはなっていたんだけど。告白しよう告白しようと思っても中々踏み出せなくて」
「それでこんな卒業間近になってしもうた、と?」
「うん……はい……」
情け無さによる羞恥からか、恥ずかしげに答える彼。
「だからその……出来ればこれから高等部にも上がる訳だし。付き合えたらなって」
あーなるほど。
聖祥大は初等部から大学までのエスカレーター式やからか。
それなら高校生になっても同じ学校で仲良う過ごせると思ったんやね。
だけど、困ったなぁ。
「う〜ん。ゴメンなぁ気持ちは嬉しいんやけど」
わたしだって年頃の女の子や。
男子からの告白にはそれなりに憧れもあるし、もしもわたしに何のしがらみが無いなら、この告白を受けてたかもしれん。
「実は、家の都合で中等部を卒業したら外国に引っ越しするんよ。だから、高等部でお付き合い言うんは無理やね」
わたしは両手を合わせて謝罪する。
義務教育を終えたら時空管理局での仕事をこれまで以上に請け負うことになる。
だから同じく管理局に就職するなのはやフェイト。そして親友であるすずかとアリサを除いて周囲には海外に引っ越すと説明してあった。
それも教師や仲の良くても魔法のことを知らない友達だけで、目の前の彼がそれを知らないのも仕方ない。
「そ……か……」
わたしのカミングアウトに彼はあからさまに肩を落とした。
そこまで落ち込まれると申し訳ない気持ちになる。
(フェイトちゃんに、男子からの告白を断るコツでも教えてもらえば良かったなぁ)
本人が聞いたら顔を赤くして怒りそうだが、フェイトちゃんはその容姿からかなりモテる。
本人はそこのところがイマイチ自覚の無い様子だが、百人中九十九人が彼女を美人と答えるだろうし、人当たりも基本良い。
この学校の男子が見ることは無いが、仕事では有能で完璧な人間でありながら、プライベートではややポンコ──―少し天然なところがあって、それを見れば更に男子からの好感度が上がると思う。
実際、わたしも何度かフェイトちゃんとの仲を取り持ってくれないかと頼まれたことがある。全部断っだけどな。
そんな訳で、フェイトちゃんには定期的に告白する男子が後を絶たん。
(と。思考が明後日の方向に行ってもうた)
途切れていた集中力を彼に戻す。
落ち込んでいた彼も、この間である程度立ち直ったのか、残念そうに笑う。
「ごめんね。そんな大事な時期に」
「ううん。えぇよ。男の子から告白されたんは初めてで、ドキドキしたし」
そう言うと、彼はありがとうと口にして教室に戻ろうとする。
そこでわたしの中である考えというか、自分でもどうかと思うような迷案が浮かぶ。
「あ〜。もし良かったらなんやけどー」
「で。今度の休みにそいつと遊びに行くことにしたわけ?」
「そやよー。最後の思い出作りに」
腕を組んで確認するアリサにはやては楽しそうに話す。
「男の子と二人で遊びに行くなんて初めてやから楽しみやわぁ」
はやてと同い年で異性の友人といえばユーノ・スクライアがそれに当たるが、彼と二人で遊んだことはない。
仕事で二人きりになることはあるが。
そこで話を聞いていたフェイトが少しだけ怒った様子で質問する。
「でもはやて。付き合うつもりも無いのに、その提案はちょっとひどいんじゃない? 相手の子が勘違いするかもしれないよ?」
フェイトにははやての行動が不誠実な対応に思えるのだ。
「せやろか? だとしても、別の世界まで追っかけて来れる訳やないし。時間が解決すると思うよ?」
ニコニコと笑いながら問題を時間に丸投げするはやて。
すずかが話に入る。
「でも本当に意外だよ。はやてちゃんがそういう受け方するの」
「うん。まぁなぁ。わたしら、中等部を卒業したら本格的に管理局でのお仕事やろ? もう学生に戻ることなんてないやろうからなぁ。だから少しだけでも学生らしい
別に管理局に就職する事に後悔がある訳じゃない。
家族皆で罪を償う道を選んだのははやて自身だ。
自分の才能で誰かの幸福を守り、役に立つことが出来るなら、こんなにも嬉しいことはない。
だけど同時に、進学する周りを見て、羨ましいと感じたのも事実だ。
もしもこのまま周りと同じように進学したら、どんな青春を送ることになったのか。
そんな羨望を抱くのも事実だ。
「はやてちゃん……」
はやての告白に友人達は何とも言えない表情を見せた。
「それにな──―わたしが男の子とデートする言うたら、ウチの子らがどんな反応をするのか、ちーとばかし気になってな!」
「台無しだよはやてちゃん……」
最後の台詞になのはが呆れてツッコむ。
はやてからたぬきの耳と尾が一瞬生えたように見えた。
「あれ? 早いな」
「わたしの家、この近くやから」
そうなんだ、と相手の男子が言うと、はやては読んでいた文庫本をカバンにしまう。
「それじゃあ、エスコートよろしくなぁ。楽しみにしとるから」
「お、おう……!」
手を繋いでみると、恥ずかしそうに顔を赤くしつつも強めに握り返してくる
そのウブな反応がかわいいと思った。
はやてが同い年の男子と合流したのを
「よし。行くぞヴィータ!」
「おう!」
それは八神はやての家族であるシグナムとヴィータだった。
数日前に今日、異性と二人で出かけると告げた敬愛する主。
シャマルは手を合わせて喜び、末っ子のリインフォース・ツヴァイははやてちゃん、大人です〜、とはしゃいでいた。
ザフィーラに関しては会話に入る素振りすらなし。
ちなみにシャマルはリインの検査を兼ねての仕事である。
故に相手がどんな男か、家族であり、臣下である自分達が見定める義務がある。
そう意気込んで、二人ははやてのデートを尾行する事にしたのだ。
しかしそれは八神はやてにとって、予想通りの行動だった。
「そこまでだよ、ヴィータちゃん」
「シグナムも。落ち着いて。ね?」
二人の肩を後ろからガッチリと掴まれる。
「なのは!? テメェ、放しやがれ!」
「テスタロッサか! 主の危機なのだ!」
暴れる二人をなのはとフェイトが強引にこの場から引き離す。
「ゴメンね。はやてちゃんから、ヴィータちゃん達が尾行するだろうから何とかしてって頼まれてて」
なのは達も友達のデートだ。
それを無粋な邪魔を入れたくない。
「くっ! 主はやてには我らの行動などお見通しという事か!」
「シグナムも駄目ですよ、こういうことしちゃ。はやてがかわいそうです」
「翠屋の新作デザートを奢ってあげるから、大人しくしようね、ヴィータちゃん」
『放せぇえええっ!』
騎士二人の願いも虚しく、その場を引き離されていった。
「なんか今、後ろが騒がしくなかった?」
「さぁー? なんやろなぁ。全然分からんわー」
彼の疑問にはやてはわざとらしい棒読みで返す。
「それで、何処に連れてってくれるん?」
「ちょっと季節外れだけど、映画はどうかな? 少し前に父さんから券を貰って」
「映画かぁ。えぇな。最近はあんまり行かんかったし」
「そうなの?」
「うん。家族と映画館に行っても観たいジャンルがバラけたり、単純に時間が合わないことが多くて。それならレンタルして順番に観たり、どうしても観たい作品なら一人で、とかなぁ」
ここ数年は管理局での仕事を優先させて都合がつかず、態々友人達と映画館に行く事もなかった。
「それじゃあ、行こか!」
「や、八神さん!」
男女の仲っぽく腕を組んでみると、彼が顔を赤くさせた。
「えぇやん。こうした方が恋人っぽくて」
そんな相手の
(う〜ん、イマイチ?)
それなりに話題を呼んだ映画というから期待したが、正直微妙に感じる。
アクションシーンに全振りしたような内容なのだが、そのアクションシーンに何故かのめり込めない。
話題を呼んだだけあり、すごい、というのは理解出来るのだが。
何故だろうと心の内で首を捻っていると、すぐにその理由に思い当たる。
「あ〜。そういえばわたし、日常的にこういうの観てるんやった」
なのはやフェイト。それに自慢の家族。
管理局に所属していると模擬戦でこれ以上のアクションを観ているし、自分自身その輪に入る。
むしろ、この映画を観ていると、そこはそうはならんやろ。と内心でツッコミばかりしてしまうのだ。
隣で観ている彼はそれなりに熱中しているようだが。
まぁ、つまらない訳ではないし、とはやては買ったポップコーンを口に放り込んだ。
約九十分の映画を観終えて、二人は映画館を出ると時間は一時を回ったところだった。
「映画、あんまり面白くなかった? 退屈そうに見えたけど……」
「あはは。どうやらわたし、アクションはあんまり楽しめんようになってたみたいや」
ばつが悪そうに頬を掻くはやて。
解散、というにはまだ早い。どうしたものかと思っていると、彼の腹がグーっと鳴る。
「ごめん。近くのファミレスでお昼にしていい?」
「うん。わたしもちょうど小腹が空いてたし」
近くに在った適当なファミレスに入り、はやては軽食のサンドウィッチ。彼はハンバーグセットの大盛りを注文した。
「お〜。結構食べるんやね。さすが男の子」
「普段から部活とかで体動かすしね」
「部活は何の?」
「陸上部」
そんな風に会話をしていると、注文した料理が届く。
「ちょっと訊いてもえぇ?」
料理に手をつけながらはやては質問する。
「どうしてわたしに告白したん?」
もし告白するならフェイトとか居ただろう。
元から友人だったならともかく、これまで大した接点も無かったのだから。
はやての質問に彼は恥ずかしそうに天井を見る。
「前にさ。散歩してたら八神さんを見かけた事があるんだよ。その時に車椅子に乗った小さな子がさ、車輪が溝に填まったみたいで困ってたんだ。それを助けてるのを見て」
そういえばそんな事があったな、と思い返す。
昔の経験から放っておけず、つい助けてしまった。
「あの時、泥まみれだったタイヤを自分が汚れるのを構わず拭いてあげてるのを見て、なんかいいなぁって」
はやてからしたらなんて事のない出来事だったが、それを褒められるのは少し照れる。
「ほー。つまり君は車椅子が填まって困ってる子供を助けず見ていたと?」
「う! いや、気付いたら八神さんがその子と手を振って別れてたというか……」
別に責めてる訳ではなかったが、思った以上の反応が返ってきて面白半分にからかう。
ファミレスを出てから特に目的もなく歩いて買い物やらバッティングセンターで遊ぶと時間はあっという間に過ぎ去っていった。
「いやー。面白かったわぁ!」
いつも遊ぶメンバーが決まっていたので、それ以外とこうして遊ぶのもなんだか色々と新鮮だった。
「今日はありがとなぁ。お陰で良い思い出になったわぁ」
「そっか。なら良かった。俺も楽しかったから」
今日の事を振り返りながら話す二人。
すぐに別々の帰り道になる。
「あ。わたしこっちやから」
「あー、うん」
名残惜しそうにこちらを見る彼は右手を差し出してくる。
「八神さん……その、向こうに行っても元気で」
「うん。ありがとう。君も元気でな」
はやては彼の手を握り返した。
十数年後。
「ん~! 海鳴に帰って来るのも久しぶりやわ〜」
「結婚式、楽しみですね」
久方ぶりの帰郷。
それは長年の親友の結婚式へ参加する為だった。
「今日のところはホテルに泊まって。それから〜」
かつて海鳴で暮らしていた家はとっくに売却し、今では別の人が住んでいる。
なのはとフェイトは既に到着してる筈だと思いながら予約していたホテルに向かう。
久しぶりの故郷を懐かしみながら見回して歩いていると、たまたま目に止まった車から人が出てくる。
「あ……」
その人物にはやては目を大きく見開いた。
車から出てきたのは昔、一度だけデートした彼だったから。
当然見た目は昔と比べて大分大人びているが、その姿は見違えようもない。
はやては声をかけようとするが、彼に近づく人がいた。
「パパ!」
小さな女の子と彼と同い年くらいの女性。
ここで待ち合わせていたのか、彼は女の子を抱き上げて、女性と仲睦まじく話している。
その姿を見て、はやては話しかけるのをやめた。
「どうかお幸せに」
誰にも聞こえない声量でそう呟くと隣に立っていたリインが不思議そうにはやてをみている。
「はやてちゃん、どうかしましたか?」
「ううん。なんでもないよ、リイン」
八神はやては家族と談笑しながら彼の横を通り過ぎた。