仮面ライダーバクト   作:墓脇理世

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第1話「777:欲望の街・ダイバーシティ」

 ここは欲望の街・ダイバーシティ。

 十二年前に日本から独立したこの地では、あらゆる欲が肯定され、認められていた。

 その最たるものが、町中に偏在するカジノ。この街において、カジノは最大のビジネスであり、勝利を掴み取ろうとする人々を日夜虜にしている。

 そしてここにも、また一人。勝利への欲求に飢えた男がいた。

 


 

「だーーーーッ!!また負けたーーーーッ!!」

 ダイバーシティの隅っこにあるパチンコ店。そこでは、金髪にサングラスの青年が叫んでいた。

 このままでは、今日の生活費すら怪しい。青年はすっからかんになってしまった財布を何度もひっくり返して振ってみるが、出てくるのは百円玉一枚と十枚にも満たない一円玉だけだ。

 どうしてこうなったのか、青年──吊鐘(つりがね)博人(ばくと)は数日前のことを振り返る。

『ごめんバッくん……ウチ、他に好きな人できたんだよね』

 数日前、博人は一年ほど同棲していた恋人にフラれた。直接は言われなかったが、フラれた理由は自分でも分かっている。働きもせず、彼女の脛を齧ってギャンブルに明け暮れる毎日だったのだから、愛想を尽かされたのだろう。

(いや、でもそういうロクデナシなトコが好き〜♡つって告ってきたのお前じゃん。パチ行く時も馬券買う時もお前金渡してきたじゃん。お前のその中途半端な優しさが俺というモンスターを生み出したんだぞ。この場合一番責任あんのお前だろ……)

 自分のロクデナシを棚に上げ、博人は恨み言を呟く。ポケットから取り出した、擦り切れた箱から抜き取ったタバコに火をつけようとしてみるが、どうやらライターのオイルを切らしていたらしい。乾いた音だけが無常に響き、博人の苛立ちはさらに募っていく。

(どーすっかね、これ。……つっても、実家に頼んのもアレだしな。これ以上お袋にクソの役にも立たねー放蕩息子見せたら腰抜かして骨折って死んじまうかもだし…………)

「……やっぱ、こういう時に頼れんのはダチだけだよな」

 仕方がないので、博人はタバコを箱にしまい、足のバネだけで立ち上がった。行き先は大学時代の友人の家。さぁ、再び脛齧りライフの始まりといこう。

 


 

 ピンポーン。シティの中心街にあるマンションの一室で、インターホンが鳴る音が響いた。家主である少女──小山内(おさない)皐月(さつき)は、寝ぼけ眼を擦りながら、ふらつく足取りで玄関へと向かっていく。

「はいは〜い、新聞なら間に合って……って、あ」

 ゴンッ!!寝起きで力加減がわからず、思い切り開いてしまった扉が、その先にいた青年の無駄に高い鼻先を強打した。

「……バクじゃん。こんなとこで何してんの?」

 突然訪ねてきて、鼻に大打撃を受けてうずくまる旧友を見下ろし、皐月は問う。

「サッチ、詳しい話は後にしてとりあえず今はこの鼻血をどうにかさせてくれねーか?」

「あーわかったわかった。ティッシュ取ってくるからちょっと待ってて。あと……その状態で玄関越えたりしたら本気で殺すからね」

「お前が俺の鼻を破壊したってのにひでー言い草だなオイ」

「それ言い出したらそもそも連絡もなしに突然押しかけてきたのはバクだけどね」

 鼻から溢れ出る鮮血を必死で抑えようとする旧友の姿に呆れを隠せないまま、皐月は自室に置かれていた大量のポケットティッシュを持ち、博人のもとへと小走りで向かっていく。

「はい、これでよし……っと」

 テキパキと手際よく鼻血を止め、その血で赤くなったところを拭き取り、皐月は博人を部屋に上げた。

「……なんっつーか、昔から変わらねーなお前の部屋」

「何?文句あんなら出てってくれる?」

「文句あるとは言ってねーだろ。お前らしいなってだけで」

 無骨なマンションに不似合いな、ゴシックロリータ全開の部屋。そこかしこに散らばる性具とアダルトコミックと開けてもいない段ボールの箱。何もかもが噛み合っていない不思議な空間に、博人は思わず苦笑する。

「……で、何があって急にあたしんとこ来たわけ?」

「実はかくかくしかじかでよー……」

 博人は、ここ数日で起こったことを全て皐月に説明した。すると、皐月は下卑た笑みを浮かべ、

「へー、要するに彼女にフラれたってことね。で、あたしに慰めてもらうついでにお金もせびりに来たと」

「フッ、お前は何か勘違いしてるようだなサッチ。……なんなら俺はしばらくお前んちに泊ーめてっ♡ってまで思ってるからな」

 魂胆を見透かされ、博人は冷や汗をダラダラと垂れ流しながら開き直る。そんな博人に冷たい視線を向けて、皐月は言う。

「……別にあんたを住まわせるのは構わないけど、態度が気に食わない。もっとあたしに媚びへつらえ」

「恵まれないバクにどうかお慈悲を与えてくださいませサッチ様」

「あんたプライドとかないの……?ま、ギリ合格ってとこね。ただ、あたしも何もしないやつを家に置いとくつもりもないからさ」

 流れるような土下座を披露した博人に若干引きつつ、皐月は交換条件を提示していく。

「あたしはあんたにお金と住む場所を提供する。そのかわり、あんたはあたしに家事というサービスを提供して」

「家事ぃ?まー、できねーこともねーけど……つーかお前、それ人に頼むって逆にこれまでどうしてたわけよ」

「掃除は見ての通り、ご飯は基本外食だったんだけどね。その辺のことをあんたがやってくれればあたしはあたしの時間を増やせるしいいかなって思ったんだよ」

 金銭面以外で生活能力が皆無の旧友に、今度は博人が呆れた視線を向けた。だが、これを断ってしまえば自分の明日が無くなるということくらい、バカの博人にも理解できた。

「……わかった。つーわけで、これから世話んなるわ」

 


 

「つーか……サッチって最近何やってんの?こんな平日の朝と昼の間に押しかけて迎えてくれるって、言っちゃわりーけどろくな仕事してると思えねーんだが」

「無職で女の子の脛かじってパチンコ三昧のあんたにだけは言われたくないんだけど……なんていうか、あたし別に働く必要ないし。頭よーく投資してるからさ。その辺のサラリーマンが一生で稼ぐって額はとっくに稼いだし、あとはもう全部ボーナスステージ、ボチボチ好きなことだけやって余生を過ごそうかなって」

 空腹を凌ぐために、とりあえず近場のカフェにでもと部屋を出た二人は、道中でそんな風に駄弁っていた。大学を出てしばらく会わないうちに、デイトレードやFXで要領良く稼ぎまくっていたらしい。

「ほら、そこのメイド喫茶。制服が好きだからあそこでバイトしたり、あとはちょっと前までキャバもやってたかな。お酒もドレスも好きだしね」

 ちょうど通りがかったメイド喫茶を指し、皐月は言う。ちょうど今も、一人のご主人様がお帰りして行くところが見えた。

「はーん。……言っちゃ悪りーけど、そういう水系って金に困った奴がやるモンだと思ってたわ。つーか俺もそれでホストやってたし」

「……で。それで、無茶な掛けして飛ばれて文無しになった、ってことね?」

「…………御明察。払えもしねーくせにたっけー酒入れんじゃねーって話よ」

 博人もまた、大学卒業後の自分のことについて話す。過去のことに目を翳らせる旧友に、皐月は呆れと憐憫を混ぜた視線を向けて、

「どうせあんたのことだから見るからに支払い能力なさそうな女落として入れさせたんでしょ。客ごとに態度使い分けられないようじゃお水の仕事はやってけないと思うけど?」

「言われずともそれが身に染みたからやめてんだわ」

 そう言った。博人はばつが悪そうにこめかみを掻き、唇を尖らせる。

「ここでいい?結構美味しくて気に入ってるんだけど」

「どこでも、サッチの好きなとこでいいぜ」

 二人は皐月が気に入っているという喫茶店に入り、案内されるままに席に着くと、適当なメニューを選んで雑談を再開した。

「ところでさ、最近妙な噂聞いたんだけど……バクは知らないかな」

「妙な噂、ねー。そりゃーお金の匂いがプンプンしますなー。とりあえずどんな噂か教えろよ」

 皐月の口ぶりから金の匂いを感じ取った博人は、目を¥マークに変えて続きを促す。

「りょーかい。……この街の中心にある大型カジノは知ってるでしょ?あそこの地下で、借金返せなくなった人間がバケモノにされる人体実験を受けてるとか……って何その顔」

「……。いや、流石にねーよそれは……サッチ、お前俺がバカだからってちょっとバカにしてねーか?いくら俺でもそれは信じねーわ」

 しかし、いざ皐月がその噂について話すと、博人はその表情を途端に白けたようなものに変えた。

「いや、まぁ信じられないっていうのもわかるけど。というか私だって信じてはないけど……ほら、火のないところに煙は立たないって言うじゃん?だからちょっと気になってさ」

「にしたって現実的じゃねーよそれ。確かに現実的じゃねー儲け話には夢があるけどよー、現実離れしすぎてるのはあんまりそそらねーんだよな」

「……そうよね、あんたギャンブラーのくせに変なとこでドライだったわね」

 どうやら、あまりにも現実離れしすぎていることには、博人の食指は動かないらしい。普段リスクがどうのと言っているくせに、納得ができない。皐月は唇を尖らせ、とりあえず今は目の前のオムライスを片付けるのに集中することにした。

 


 

「……で、この後どーするよ?サッチ、例のメイド喫茶のバイトって今日あったりするか?」

 昼食を終えた二人は、また街をぶらぶらと散歩していた。しかし、することがない。

「や、ないけど。……そうね。久しぶりに会ったんだし…………やるわよ、いつものアレ」

「……へぇ。そっちから誘ってくれるとは好都合じゃねーか。……サッチ、お前が俺に勝てたことあったっけ?」

「結構あったと思うけど?というか、あんたとの勝負だと、ほとんどあたしが勝ってたでしょ」

 二人はしばし思案し、大学時代に何度もした『アレ』をすることにした。二人は満面の笑みで、件の大型カジノへと向かっていく。

「やっぱ俺ら元ギャンブル同好会が二人以上揃ってする遊びっつったら、これしかねーよな」

 二人が訪れたのは、国内有数の大型カジノ施設『スカーレットパレス』。その一階に位置する、パチンコ・スロットコーナーだ。

「そうそう。……初期金額は五万でいい?」

「おーよ。……つーわけで、お小遣いくださいっ♡」

「まったくもう、こういう時だけいい顔するんだから……はいはい、大事に使いなさいよ」

「わーいお小遣い、バクお小遣いだーいすき♡」

 二人は、それぞれ別の筐体の前に座ると、サンドに紙幣を投入していく。

 大学時代、博人と皐月はギャンブル同好会に所属していた。というか、二人で立ち上げた。活動こそ不定期だったが、二人をはじめとした一部の会員は、たびたび時間内にパチンコでいくら勝ったかで勝負していた。

 今回のこれも、その延長。別に、勝ったから、負けたから、何があるわけではない。ただ、二人ともかつての『青春』を思い出しただけなのだ。

(バクのことはよく知ってる。勝負運は強くて割とすぐに当たりを引けるけど、バカだから引き際が分からずに勝ちを帳消しにする。……でも、そのマイナスすら掻き消すくらい勝負運が働き続ける時だってある。だったら……あたしも、全力で挑むまで)

 四年と少しの付き合いで、博人の勝ち方も負け方も、皐月の脳に焼き付いていた。皐月は一度その台で当てると、店員を呼び、他の台へと向かっていった。

(……あたしは、バクみたいに勝負運はない。でも……あたしには、当たりそうな台がなんとなくわかっちゃうんだな)

 そう。皐月は、昔からそういった兆候を感じ取る能力に優れていた。友人からは、エスパーだの見聞色の覇気使いだのロリのカタクリお兄ちゃんだのと好き勝手に言われてきたが、皐月は、持ち前のこの観察眼と賭けのセンスだけで、たった三年でサラリーマンの平均年収をやや上回る程度の額を稼いだのだ。

「おっほ、キタキタキタキタ!!このまま稼いでサッチをぶちのめしてやろーかねーっと!!」

 博人は、皐月が今小さめの勝ちを繰り返しているのを知らず、目の前の当たりに大喜びしている。そして、そのまま金を注ぎ込み続けて、その価値を帳消しにしていた。

 皐月も言った通り、博人の勝負運の強さは桁外れだ。もしも一回こっきりの勝負なら、小さな勝ちをコツコツと積み上げて大勝ちに変える自分では絶対に勝てないと皐月は確信している。問題は、ヒートアップしすぎて引き際を見極められない頭の悪さの方だが。

 そんなこんなでタイムアップ。二人は玉を景品と交換し、それを換金所へと持っていき、現金に変換した。どちらが勝ったか──それは、比べるまでもなく、それぞれの表情が物語っていた。

「……どうやら、あたしの勝ちみたいね?」

「な、なぜだ……途中まではあんだけ勝ててたのになぜこうなった……」

 満面の笑みで、項垂れる博人の頭を撫で、皐月は言う。そして、マンションに帰るために、二人は歩き出した。

 ──その瞬間のことだった。爆発音が響き、地下へと繋がる関係者用通路の扉が謎の怪物によって叩き壊されたのは。

 


 

「おいおい、マジかよ……ッ!?」

「あの噂、結局マジだったみたいね……ッ!!バク、逃げるわよ!!」

 先程、カフェで話した話は、どうやら本当だったらしい。皐月は博人の手を引いて走り出す。しかし、いきなりだったためか、すぐにバランスを崩して倒れてしまった。

「いったぁ……」

 その拍子に膝を擦りむいたらしく、皐月は涙目になる。そうしている間にも、馬のような外見の怪物はこちらへと迫ってきていた。博人は皐月を抱えて走り出す。

「サッチ、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない……痛いよぉ…………」

「わーかったわかった。帰ったら消毒してやっから泣くんじゃねーよ」

 痛みにぐずる皐月の頭を軽く撫で、博人は自動ドアまで全速力で向かっていく。しかし、

「チッ……さっきのでこっちまでイカれちまったのか……ッ!!」

 どうやら、先程の攻撃でこちらのドアまで壊れていたらしい。博人は舌打ちし、非常扉のある方へと走り出した。それとほぼ同時に、武装した集団が現れ、怪物へと銃口を突きつけた。

「大丈夫か!?我々が来たからにはもう安心だ!!ジャンクラー撃退任務を開始する!!」

 その中心にいた男は、部下に指令を出し、ジャンクラーと呼ばれた怪物へと発砲させると、自らもまた懐から人間の腰ほどのサイズの機械を取り出し、それを腰に押し当てた。それを見たジャンクラーは銃弾の雨をすり抜けつつ、男に向けて突進する。その衝撃で機械は跳ね飛ばされ、博人たちの足元に落下した。

「お、おい!!」

 博人は叫ぶ。しかし、ジャンクラーは止まらない。吹き飛ばした男を締め上げていたジャンクラーは、やがてその男を武装集団の方へと放り出すと、博人の方を見てニヤリと笑った。

 博人は冷や汗をかきながら、視線を武装集団の方へ移す。放り投げられた男は首が普通ではあり得ない方向に曲がっていて、即死していることは明白だった。隊長らしき人物の死亡を受け、武装集団も震え上がっている。

「そ……それをこちらに渡せ!!し、素人ではジャンクラーと戦うことなど…………」

 すると、武装集団の一人が、震えながらもそう叫んだのが見えた。その声に反応して、ジャンクラーはそちらを振り返る。それを見た瞬間、博人のすべきことは決まった。

「バク、まさかあの人たち助けるなんて言わないよね……?」

「……よくわかってんじゃねーか、サッチ」

 抱えられたままの皐月が、博人を見上げて問いかけると、博人は笑みさえ浮かべて親指を立てた。止めようと必死で言葉を探る皐月だが、覚悟を決めた博人の前に、それは通じない。

「わかった……わよ。でも……やるからには、絶対に無事に戻ってきなさいよ。あたしだって、友達をこんなとこで無くしたくないから」

「あぁ。言われなくてもそのつもりだっつーの」

 博人は皐月を下ろし、足元の機械を拾い上げると、それをジャンクラーに向けて投げつけた。鈍い音が響き、ジャンクラーは蹲る。反動で跳ね返ったそれを片手でキャッチし、博人は武装集団のもとに着地した。

『Gambet Driver!』

 それを腰に押し当ててみると、側面からベルトが吐き出され、博人の腰にぴったり巻きついた。

「そーゆーわけで……変身に使うアレちょーだい♡」

「な、なぜ君がそれを……まぁ、構わんが…………」

 博人がそう言うと、その中の一人が隊長の懐からボール状のアイテムを取り出し、彼へと差し出した。博人は、それを右手に握り、左前方に高く掲げてボタンを押す。

『パチンコ!』

 透明だったボールに色がつき、パチンコの筐体を思わせるレリーフが刻まれていく。博人はそれを左手に持ち替え、スロットに装填した。

『BURN! BURN! BANG!! BURN! BURN! BANG!! BURN! BURN! BANG!! BA・BA・BA・BURN!! BURN! BURN! BANG!! BURN! BURN! BANG!! BURN! BURN! BANG!! BA・BA・BA・BURN!!』

 直後、響き渡る大音声。背後にパチンコの盤面が浮かび上がる中、博人は左手を右前方に移動させ、右手をベルト右側のハンドルに添える。そして、口角を上げ、そのハンドルをぐるりと捻り、叫んだ。

「──変身ッ!!」

 玉が、ジャンクラーに向かって射出される。それによって、ライダーの姿が描かれた図柄が三つ揃い、甲高い音が辺りを包んだ。その音に合わせるように、博人の体が変質し始め、そこに装甲が纏われていく。

『マックス・フルスロットル!仮面ライダー!GO!ON!』

 高音が止んだ頃、そこには、ひとりの戦士が佇んでいた。その戦士──仮面ライダーバクトは、その拳を強く握り、ジャンクラーに向けて言い放つ。

「さーて……愉しもーぜ、命賭けでなァッ!!」

 


 

「えっと……?これは、確か……こー、だよ、なッ」

 ジャンクラーの攻撃を躱しながら、バクトは記憶を辿る。そして、その記憶のままに、打撃を叩き込んだ。衝撃が走り、ジャンクラーは吹き飛ばされる。

 だが、バクトの攻撃はそれだけでは終わらない。その打撃がクリーンヒットしたことによって、リーチが始まった。その背後にスクリーンが現れ、二人のライダーの戦闘の映像が流れ始める。それに合わせて、回転する図柄がジャンクラーへと襲い掛かる。

「っしゃ!!来い来い来ォいッ!!」

 止まった二つの図柄は“2”。バクトはテンションを上げながらジャンクラーへと飛びかかるが、直後、空から降ってきた“5”の数字に打ち落とされ地面に叩きつけられた。

「がッ!?」

「何やってんのよほんとに!?おばか!!」

 痛みに頭を抑えて悶えるバクトだったが、皐月の言葉で我に帰り、ジャンクラーの追撃をなんとか回避する。そして、傍に転がっていた鉄パイプを掴み取ると、コンマの迷いもなくそれを振り抜いた。その一撃がジャンクラーの顎を揺らし、再びリーチが始まる。

「さー、今度こそ決めてくれよなーッ!!」

 流れている映像は先程のものとほぼ同じだ。二つの“3”の数字がジャンクラーを打ち抜き、その数秒後に最後の数字が舞い降りた。そこに記されていた数字は、

「っしゃ、来た来た来たッ!!そんじゃ行くぜーッ!!」

 すでに揃っていた二つと同じ“3”。これによるボーナスの効果によって、バクトの体に力が満ち、同時に何かの楽曲が流れ始める。

「オラ、オラ、オラァッ!!見た目の割におせーんだよ馬野郎!!」

 高速で移動しながら、バクトは笑う。その度に叩き込まれる打撃が、その度にジャンクラーの外骨格を少しずつ砕いていった。

 やがて、流れる曲も終わりを迎え、バクトの体を包んでいた未知なる力も霧散していく。好機とばかりに駆け出すジャンクラーだが、彼は──否、当事者であるバクトでさえも、ギャンベットシステムの恐ろしさを理解していなかった。

「おっと、力が抜け……っとォ!!」

 先程までと比べると、威力が明らかに低いパンチ。それがジャンクラーの胸部に触れた瞬間、再びリーチが始まる。現れた二つの“7”がジャンクラーを吹き飛ばす中、遠くからその戦いを眺めていた皐月の目に、あるビジョンが映った。

(これは……あたしがいつも見る勝利のビジョンと似てる。でも、これは……そんなチャチな勝ちのものじゃない!!)

 そのビジョンをなぞるように、三つ目の“7”がジャンクラーの体を打ち上げた。大当たりのボーナスを得たバクトは、何が何だかわからないまま、強く地面を踏み締めた。それだけで、バクトの体は、大きく飛び上がる。

「おいおいマジか、こんな大当たり見たことねーぞ……ッ!!」

 テンションの上がったバクトは、軽快な音楽に合わせるように飛び降り、ジャンクラーの体を踏みつけた。スリーセブンの加護で向上した身体能力のままに、宙返りをして再びジャンクラーを見据える。

「そんじゃ、まー……ツキが回ってる内に終わらせるとしよーぜーッ!!」

 そして、ドライバーにセットされたボールのボタンを押し、側面のハンドルをグリンと回した。バクトの両足が、金色のエネルギーを纏っていく。

「ライダー……キーーーック!!」

『パチンコ!ジャックポットストライク!!』

 ドライバー中央のボタンを力任せに叩くと、そこから電子音が鳴り響いた。両足のエネルギーも、さらに激しさを増す。その勢いのままに、バクトはジャンクラーめがけて飛び降りた。

 必殺キックが炸裂し、ジャンクラーの体がひび割れていく。バクトが着地し、音楽が終わると同時に、その体は大きく爆ぜ散った。

 


 

「ふぃーっ、流石に疲れたぜ。サッチ、怪我の方は大丈夫か?」

「ん。さっきあの武装した人らに軽く手当てしてもらってもうだいぶ楽になったわ。……で、どさくさに紛れてそのベルト?持って帰ってきちゃったけど、そっちは大丈夫なの?」

「んー?あ、いけね。普通に返すの忘れてたわ。まーそのうち回収しに来るだろ。それまで預かっといてやろーぜ」

 戦いを終えて、スカーレットパレスを後にした二人は、笑いながら皐月のアパートへと帰っていく。

 その裏で、武装集団の属する組織の本部では、博人に持ち帰られてしまったドライバーの件が大きな話題を生んでいた。その科学班の班長である青年と、同じく副班長である女性は、部下の大失態を前に呆れかえる。

「……俺の聞き間違いか?もう一度確認するが、ギャンベットドライバーを部外者に使われた挙句、持ち逃げされただと?何をやってるんだ、お前たちは…………」

「幸いアレにGPS付いてるし、回収すんのは簡単だろうけど……めんどいねぇ」

 さらに同時刻。ダイバーシティ内のカフェでは、二人の男女が同じ携帯の画面を眺めていた。

「ねぇシュウくん。ニュース見てたら出てきたんだけど……この人、バクちぃじゃない?」

「いや、そんなことないでしょ。どうせ他人の空似……あれ、これほんとにバクんちゅじゃん。あいつ何やってんの」

 シュウくん、と呼ばれた中世的な青年は、その映像に映った博人の姿を見て、目を細めて小さく笑う。

 ──ここは欲望の街・ダイバーシティ。あらゆる欲が肯定され、認められるこの街に、一人の戦士が生まれ落ちた。それにより、街を構成していた歯車が、異なる動きを見せ始める。今日この日が、まさに、その始まりであった。

 


 

次回予告

 

博人「さーてついに始まったなー、俺たちの物語が。……で、このコーナーで俺ら何やんの?」

皐月「そうね。……世界観とか設定とか、そういうの解説していく感じでいいんじゃない?」

博人「じゃーそれで行くか。……今回解説するのは、ズバリこの街・ダイバーシティについてだ」

皐月「12年前に日本から独立したこの街は、何度も言われてるけどあらゆる欲望が肯定されてるの。だからいろんなお店とかも出てるってわけ」

博人「特に多いのはホストやらキャバクラ、風俗とかの夜の店と……何より大事なギャンブル系の店だな。大規模なカジノとか、もーちょいスケールダウンすれば競馬場とかパチ屋とかもアホほどあるぜ」

皐月「そんな街だからバクも破産して女の子のヒモになってたんだよね。あんた外に引っ越した方がいいんじゃない?」

博人「フッ……甘いなサッチ。俺のダメ人間っぷりを全然理解できてねーぞ。……俺は、多分この街の外に出てもパチだの競馬だのでスって女の子の脛齧ることになるからな」

皐月「そんなに胸張って言うことでもないと思うけど……」

 

博人「次回、仮面ライダーバクト!」

皐月「『333:バイクと武器とインテリ眼鏡』!」

博人「次回も──愉しもーぜ、命賭けでなァッ!!」




こちらのサイトでは初めまして、墓脇理世と申します。
当作品は、pixivで連載中の作品となっていますが、故あってこちらでも公開させていただくこととなりました。
さて、本作は、「欲望の街」とも呼ばれる海上都市・ダイバーシティを舞台に、博人たち欲にまみれた人間がそれぞれの信じる正義(欲)のために戦っていく物語となっています。
ギャンブル大好きダメ人間と愉快な仲間(?)たちが織りなす物語、短い間ですがどうかお付き合いください。
感想・評価などもいただけましたら幸いです。墓脇でした。
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