「あ〜あ、よく寝た……。つーかマジで頭いてー……飲みすぎた……」
博人がライダーに変身し、怪人・ジャンクラーと戦った翌日。皐月の部屋の、皐月のベッドの上で目を覚ました博人は、盛大なあくびと共に二日酔いに頭を抱えていた。
「ん……なんか言った……?」
「お、サッチも起きたか。おはよーサッチ。ちょっとおせーけど、テキトーに朝飯作っとくからもーちょい寝てていいぜ」
博人の独り言に反応するように、皐月も目を覚ます。言葉を紡ぎながらも未だ船を漕いでいる皐月にそう言って、博人はまず顔を洗うために手洗い場へと向かった。
「さーて……こーやって料理すんのも久しぶりだなー。腕が鈍ってねーといいんだが」
顔を洗った博人は、フライパンの上にバターを溶かし、二枚の食パンを焼き始める。それとほぼ同時に、インターホンの音が響いた。
「ふわぁ、いい匂い……。……あ、そっか。今バク朝ごはん作ってくれてる最中だもんね。あたし出てくるよ」
「なんだ、もー完全に起きてたのかよサッチ。そんじゃ頼……いや待てサッチお前今ほとんど服着てねーよな⁉︎半裸だよなお前⁉︎」
うとうとしながら、玄関に向かっていく皐月に、一瞬流されそうになる博人だったが、その一瞬ののちに今の皐月の格好──シャツ一枚のみを羽織った姿──を思い出した。慌てて火を止め、今にも扉を開けようとしていた皐月に抱きつき、それを止め──ようとして、勢い余って扉に激突する。そして、元より扉を開けようとしていた皐月の手は、既にドアノブにかけられていた。となれば、これから起こることは、ただ一つしかない。
「がッ⁉︎」
勢いよく開かれた扉が、その前に仁王立ちしていた青年の顔に直撃した。その勢いでかけられていた眼鏡が放り投げられ、青年の足元へと滑り落ちる。そして、受けた衝撃によろめく青年は、自らの眼鏡をバキリと踏み砕いた。
「俺の眼鏡、どこに行った……?」
地面を這う青年は、手探りで自らの眼鏡を探す。だが、どうしても見つけられず、仕方がないので運転用の眼鏡を鞄から取り出して掛け直した。その一連の流れを見ていた博人は、皐月を抱き潰したまま、青年へと声をかける。
「……テルさー、お前マジでこんなとこで何やってんの?」
「お前は……吊鐘か⁉︎それは俺の台詞だぞ、お前こそこんなところで何を……って俺の眼鏡ェ⁉︎」
その青年こそ、博人・皐月とともにギャンブル同好会を立ち上げた仲間──
「それはそうと吊鐘。さっきから情熱的なバックハグをかましているところ悪いが……いい加減小山内が死にそうだから離してやれ」
「あっ」
それから数秒が経ち、ようやく少しの落ち着きを取り戻した輝彦が言うと、博人はようやく、自分が皐月を強く抱きしめたまま地面に臥していることに気付き、急いで飛び上がりその手を離した。直後、怒り狂った皐月のかかと落としが炸裂し、博人は再び地面に倒れた。
「それで……テル、何の用があってあたしのとこに来たわけ?まさかあんたもバクみたいにあたしのヒモになりに来たわけじゃないよね?」
博人を沈めて十分ほど経つ。鬼の形相で自室に戻り部屋着に着替えた皐月は、リビングで正座しながらコーヒーを啜る輝彦に問いかける。
「当たり前のことを抜かすな。そも、俺には将来を誓い合った恋人がいる。いくら仕事で、そこが旧友の家とはいえ、本来なら他の女の家になど入りたくもないんだぞ?」
「将来を……って、もしかしてマナのこと?驚いた、あんたらまだ続いてたんだ……」
すると、輝彦は、ため息をつきながらそう答えた。大学時代から続く友人のバカップルぶりに、さっきは呆れ混じりの声をこぼす。
「それで、早速だが本題に入らせろ。……っと、その前に。いい加減吊鐘を起こしてやってくれ。流石に見ていて申し訳なくなってくる」
そして、今も気絶したままの博人を指して、本題に入る前に彼を起こすように皐月に提案した。
「……ほらさっさと起きなさいペドフィリア。起きないとあんたの小遣い8割減らすから」
「小遣い8割減ッ⁉︎」
「……はい、起こしたわよ。それじゃテル、続きをどーぞ」
皐月は億劫げに息を吐くと、その爪先で博人の脇腹を小突き、ボソリと呟いた。直後、博人はガバリと起き上がる。その目はすっかり¥マークになっていた。
「いや、その前に一つだけ聞いておきたいんだが……お前たち、いつの間にそんな爛れた関係に……」
そんな友人たちの姿を見て、輝彦は困惑したような顔で独り言ちた。確かに、大学時代から二人は仲が良かったはずではあるが、ここまで距離が近かったか?
「爛れてないけど。文無しになったこいつがヒモりに来たから仕方なくうちに置いてるだけだし」
「そーだぜ。家に住ませてもらう代わりに家事やるって契約なんだよ。テルと例の後輩ちゃんと違って俺とサッチは別に爛れてはねーのよ」
「そ、そうか……。いや、お前たちがいいなら俺としては別にどうでもいいんだが……まァ、本題に入るとしようか」
どうやら、爛れているわけではないらしい。気を取り直し、輝彦は本題を切り出した。
「俺は、ギャンベット社で防衛装備開発プロジェクトのトップを任されているんだが、その一番大事な装備が一般市民に使われた挙句持ち逃げされたらしいんだが……単刀直入に聞くぞ吊鐘。お前、心当たりはないか?」
「防衛装備、ギャンベット社……あーもしかしてアレか?ボール入れてライダーに変身するやつ……。わりーわりー、返すの忘れて普通に持って帰ってたんだわ」
その二つの単語から、博人は輝彦の言わんとしていることを完全に理解した。間違いなく、昨日持ち逃げしてしまったギャンベットドライバーについての話が始まろうとしている。やっぱ返した方がいーよな?そう言って、博人は自室に向かうべく立ち上がった。しかし、輝彦は、その必要はないと博人を呼び止める。
「……つい数時間前の朝礼で言われたんだが、どうやら上は、吊鐘を対ジャンクラー用の戦闘要員として雇いたいらしい。なんとも、うちの戦闘班の誰よりもスペックが発揮できていたとかでな。……どうだ吊鐘、新しいバイトとでも思ってやってみないか?」
「どーすっかな……。昨日やって改めて思ったけどよー、あれメチャクチャ危ねーぞ。それをたまたまうまく使えただけの外部の人間に任せていーもんなのか?」
輝彦の言葉は、意外にもドライバーの持ち逃げを咎めるものではなく、むしろ協力を乞われるものだった。それにより、却って面倒なことになってしまった。煙草に火をつけながら、博人はどう断ろうか思考を巡らせる。
「まァ、そりゃあ考えるか。ちなみに、だが……仮にお前がうちに雇われてくれるのであれば、ジャンクラー一体撃破につきおおよそこの程度の額の報酬が支払われることになっている」
すると、輝彦は、鞄から取り出したタブレットを操作し、表示された画面を見せつけてきた。そこに記された金額を見て、博人は目を丸くした。
「……それで、どうする?」
「この金額見せられてやらねーなんてやつはもう人じゃねーよ」
「よし、これで契約成立だな。……詳しい話は後ほど、うちの会社でさせてもらう。都合がつき次第教えろ」
これで、交渉は成立した。二人は、互いの手を強く握り、ニヤリと微笑み合った。
それから数日。博人がライダーとして戦うことを嫌がっていた皐月をなんとか説得し、二人でギャンベット社を訪れていた。
「待っていたぞ、吊鐘」
入口で待っていたのは、白衣姿の輝彦だ。博人はつーんと顔を背ける皐月を嗜めながら、もう一人の友人へと軽く手を振る。
「おー、待たせたなテル。……で、昨日言ってたアレなんだけどよー、そっちに関しちゃ大丈夫そーか?」
「あぁ。そちらは問題ない。……というわけだ。小山内、お前にも同席してもらうことになるが、それは構わんな?」
「……えぇ、構わないわよ。というか、ここまで来てあたしが同席できないってなってたら、それこそバク連れて帰ってたから」
輝彦も、皐月が納得していないであろうことは知っている。念のために確認をとると、皐月は、不服そうな顔で携帯をいじりながら小さく頷いた。
「そうか。……では応接室まで案内する。ついてこい」
これにて、一応の合意は取ることができた。輝彦は安堵の息を漏らし、二人を連れて歩き出す。
「失礼します」
「失礼するんだったら帰ってぇ。……って、およ。てるひーパイセンじゃん待ってたよぉ」
応接室の扉を開けると、禁煙の張り紙をバックにタバコを吸っている女性が三人を出迎えた。輝彦は、重苦しいため息を吐き、その女性──彼の恋人・
「愛美、お前ここで煙草吸うなと何度言えば……」
「るっさいなぁパイセン。昨日ウチの胸吸いまくったくせに偉っそうに……」
「今それ関係なくないか愛美⁉︎というか性事情を他人がいる場所でそうホイホイ話すんじゃありません‼︎」
ところ構わず喫煙する恋人に注意する輝彦だが、予想外の反撃を食らって真っ赤になった。撃沈する輝彦をつつきながら、愛美は博人と皐月に深々とお辞儀をする。
「さぁてと。羞恥に悶絶するパイセンはひとまず置いといて……お久ですぅ先輩方。あ、ウチのこと覚えてます?」
「覚えてるに決まってるでしょ、マナ。あんたほど面白い後輩、忘れろって方が難しいわよ」
先ほどまでの不機嫌は何処へやら、相変わらず元気そうな後輩を見て、皐月は満面の笑みを浮かべて愛美に抱きついた。
「きゃぁ皐月先輩に褒められちゃったぁ。先輩大好きぃ♡」
「はいはいそういうのはあたしじゃなくてそこで真っ赤になってる眼鏡に言ってあげなさい♡でもよかったわ、あんたが元気そうにしてて」
「へへっ、まぁねぇ。ほら、ウチのカッコいいダーリンがいっぱい愛してくれるもんでさぁ、いやでも元気になっちゃうよねぇ」
出会った当初は、愛美は元気とは程遠い性格をしていた。そのことを覚えている皐月は、そんな彼女が、今ではこうしてどこまでも明るく振る舞っているという事実に喜びを感じ、その頬を緩ませる。対する愛美も、少し頬を染めながらも微笑み返した。
「どーでもいーけどよー、さっさと本題入ろーぜマナちゃんよー。早くしねーと競馬が始まっちまう」
二人が素敵百合空間を醸し出し始めてしまった。このままでは二人のイチャつきで時間が浪費され、競馬の時間が始まってしまう。そう察した博人は、その手を挙げて二人の会話を遮った。
「わかりましたよぉっと。……博人先輩、相変わらずギャンブル好きなんだねぇ」
「おーよ。ギャンブル好きじゃなきゃ俺じゃねーからな。ノーギャンブルノーライフだぜ」
「さっすがぁ。イカしてますなぁ先輩」
博人の相変わらずのギャンブル狂いぶりに、愛美は思わず笑みを漏らす。直後、公私の切り替えと言わんばかりにタバコの火を揉み消し、自らの両頬をパチンと叩くと、改めて席に座り直した。
「……まぁ、あんまり時間かけるのもよくないしねぇ。そんじゃまぁ、ぼちぼち本題に入るとしよっかねぇ」
愛美はコキリと首を鳴らし、タブレットを取り出すと、その画面を二人に差し出し、話し始める。
「まずは……そだねぇ。ジャンクラーについてお話ししよっかな」
タブレットの画面をスワイプしながら、愛美はライダーとして戦う上で必要となる情報を二人に話していく。
「ジャンクラーは、こないだ博人先輩が戦ったみたいな怪人のことだよぉ。少し前からこのダイバーシティに出るようになって、その対処のためにギャンベットドライバーが作られたらしいねぇ」
「少し前から、ね。……ちょっと待ってマナ、あの手の怪人が前から出てるんだったら、ニュースとかで取り上げられてるはずじゃない?でも、この間の件まで、そんなこともなかったわよね。あたしも、都市伝説として怪人のことは知ってたけど……あんな脅威が一切報じられないとか、そんなことあるの?」
少し前からジャンクラーが出現していた。その話を聞き、皐月は愛美に問うた。なにしろ、ジャンクラーは一撃で人の首をへし折ってしまうような危険な存在だ。そのことを一切公にしないということがありえるのだろうか?
「あぁ、そこやっぱ気になるよねぇ。答えはイエスだよぉ。混乱を防ぐためにってウチらの上司と政府が結託して隠蔽してるってわけさねぇ」
「それ言っちまっていーやつなのか?」
「あっ。やべ。今のは聞かなかったことにしてねぇ」
すると、愛美は、待ってましたと言わんばかりの笑みでそのことについて話した。曰く、ギャンベット社の上層部と政府が情報を隠匿していると。明らかに危険な香りを漂わせる言葉に、博人が冷や汗をかきながら問うと、愛美は真っ青になって数刻前までの言葉を取り消した。冷静になって、この情報を漏らしたことが知れれば危険だと気付いたのだろう。
「……まぁでも、今までに出てたのは警察とかウチの戦闘員だけでも倒せるような雑魚ばっかだったからねぇ。騒ぎになる前に消すってのができてたんだけどぉ……今回、やたら強いのが出てきたせいで、政府としても隠すわけにはいかなくなっちゃったってわけだねぇ」
冷や汗を拭い、愛美は続ける。先日出現したジャンクラー──ホース・ジャンクラーは、これまでに出現していたジャンクラーとは一線を画する実力を有していた。それゆえに、政府は情報の公開を許したのだろう。
「さて。ここからはそもそもジャンクラーが何なのかについてお話ししよっかなぁ。ジャンクラーっていうのは、都市伝説で噂されてる通り、改造手術を受けた人間が変異する怪人なんだねぇ」
「改造手術……というと、具体的には?」
「詳細はウチらでも把握できてないんだけどぉ……まぁ、人間の体にギャンボールってのを埋め込んで作られるってところまではわかってるかなぁ。あぁ、こないだ博人先輩が倒したアレに関しても、あの後こっちで中身保護したから安心してねぇ」
さらに、愛美は続けていく。ジャンクラーの正体が人間だと聞き、博人たちの表情が一瞬強張ったのを見て、これではいけないと愛美は情報を付け足す。
「まぁ、お話はこんなところかなぁ。……それで、どうすんの博人先輩?今ならまだヤダって言っても間に合っちゃうけどぉ」
今共有しておくべき情報を全て話した愛美は、タブレットを回収して問う。はっきり言って、こんな案件は拒否される可能性の方が高い。だからこそ、愛美は逆に退路を作った。こうすれば、間違いなく彼はそちらとは逆の道を進むと確信しているからだ。
「……マナ。相変わらずお前わかりやすいなー。そうやって逃げ道作りゃー俺はその逆に行くって思ってんだろ」
しかし、博人は馬鹿だが、決して頭の回転が遅いわけではない。その思惑を見通し、呆れ混じりに呟いた。ぎくっ。愛美の顔色は、みるみるうちに白くなっていく。
「……そんなしょーもねー画策しねーでも、俺が嫌っつーわけねーだろ。だってあの金だぜ?多少危ねー真似しても、やる価値はあるからな」
「よ、よかったぁ……それじゃぁ、こっちの契約書にサインしてねぇ。あっ、皐月先輩もお願いしますねぇ」
断られるかもしれない。そう思い、先ほどの博人の比ではないくらいに冷や汗をかいた愛美は、その言葉を聞くなりパァッと目を輝かせた。カバンから取り出した契約書を二人に差し出し、署名を促す。二人が書いたのを確認すると、愛美は立ち上がり、二人を手招きした。
「それじゃぁ……先輩方、こっちに来てねぇ。本格的に我が社に雇われてくれるってことで、渡しとかなきゃいけないもんがあるからさぁ」
「さて、ここからは俺が解説をさせてもらう。……先程は醜態を晒したな。ここから持ち直させてもらう」
「いや無理だろテル。乳吸いチュパカブラをバラされた今お前がどれだけカッコつけたってもう印象の持ち直しようがねーんだわ」
「誰が乳吸いチュパカブラだ。ペドフィリアのお前にだけは言われたくないぞ吊鐘」
数分後、一行はギャンベット社の地下倉庫を訪れていた。ようやく羞恥から立ち直った輝彦は、三人を中心のコンピューターの方へと案内していく。
「俺からお前たちに渡すものは三つある。まずはその一つ目なんだが……吊鐘、ドライバーは今持ってきているな?」
「まー持ってきてはいるけどよー……アレ出してどーするんだ?もしかしてアレか?今変身しろとかそーゆー話なのか?」
「まァ、変身してもらうことには変身してもらうんだが……それより先にやることがあるんでな。ほら、いいから貸せ」
輝彦は博人の腕からギャンベットドライバーを強奪すると、コンピューターに接続されていたギャンボールをドライバーのスロットに装填した。しばらくすると、ドライバーからピーッと高い音が響き、中央部のボタンが赤く光を放った。輝彦はギャンボールを抜き取り、ドライバーを博人へと返却する。
「さァ、変身してみろ吊鐘。何もなければこの間とは違ったことが起こるはずだ」
「あいよーっと。変身ッ」
『仮面ライダー!GO!ON!』
輝彦に促されるままにドライバーを装着し、流れ作業のようにバクトへと変身する博人。しかし、装甲のデザインが変わっていたりといった違いは見当たらない。一体『何か違うこと』とは何なのかと輝彦を問いただそうとするが、その手は愛美によって遮られる。
「まぁちょい待ち博人先輩。まだてるひーパイセンを怒るには早いよぉ。ちょっと手に力込めて見てねぇ」
「手に?えーっと、こーすりゃいーのか?」
愛美に言われた通りに、バクトはその手に力を込める。すると、ドライバー上部から噴出した液体金属が、巨大なパチンコ型の武器を形作った。
「パチンカーストライカー。ギャンベットドライバーによる戦闘をサポートする武器だ。モード変更によって遠近双方の戦闘スタイルに対応できる。……なんだその目は?」
「いや、この名前テルがつけたのかなーって……」
「……設計は俺だが、命名は俺じゃないからな。それだけは弁解させろ。俺ならもう少しマシな名前をつける」
輝彦の口から語られた武器の名前を聞き、バクトは白い目で彼を見る。輝彦は、舌打ちとともにその疑念を切り捨てた。
「使い方に関しては後ほど説明する。……次は小山内に渡すアレだな。愛美、そちらは任せてもいいか?」
「はいはぁい。ウチのお仕事だねぇ。了解しましたよぉっと」
パチンカーストライカーの説明はもう十分だと考え、バクトの変身を解除させ、輝彦は話を進める。説明を頼まれた愛美は、待ってましたと言わんばかりに勢いよく立ち上がり、皐月へとあるものを投げ渡す。
「これは?」
「これは博人先輩と遠隔で通信できるデバイスですぅ。ギャンベットドライバーに組み込まれたカメラの映像をリアルタイムで共有して、皐月先輩が指示を出したりする感じですねぇ」
どうやら、バクトのシステムと連動した通信機器のようだ。しかし、その説明を聞いた皐月の顔は、なんとも言えないような表情へと変わっていく。
「あたしが、指示……?いや、知っての通りあたしってかなりどんくさい方だし、戦いに関して言えることなんてないと思うんだけど……」
「けど、皐月先輩前に言ってたじゃないですかぁ。ギャンブルしてる時とか、たまに勝利への道筋が見えるとかってぇ。それにぃ、指示と言ってもどの方向から敵が来てるとか教えるだけでも十分ですからぁ」
戦闘経験などない皐月にとって、指示を出すという行為は不可能に近かったからだ。ここに来て暗雲が立ち込めてきたことに焦りながら、愛美はあたふたして訂正していく。
「それにぃ……危険が迫ってるにも関わらず博人先輩が戦いを続けようとしたときに強制的に戦線を離脱させる機能とかもついてるんですよねぇ」
「まぁ、そういうことならいいかもだけど……」
どうやら納得が得られたらしい。ホッと胸を撫で下ろす愛美を横目で見て、輝彦は両手をパンと叩いた。
「それで、三つ目だが……」
そして、最後の一つが語られる。──その、一瞬前に、コンピューターの画面が赤く点滅し、辺り一面に警報の音が響いた。
「何⁉︎何が起きたの⁉︎」
「ジャンクラーが現れたか。……丁度いい。三つ目に関して俺から説明している時間はなくなった。実際に乗って確かめてみろ‼︎」
どうやら、ジャンクラーが出現したらしい。輝彦は忌々しげに呟くと、新たなギャンボールを取り出し、そのボタンを押して放り投げた。ガシャンガシャンと音を立てながら、ギャンボールは馬を思わせる形状のバイクへと変形していく。
「吊鐘専用のバイク。名を『イッチャクマンバー』。例に漏れず命名は俺じゃない。……場所はナビに表示される、まァ習うより慣れよだ。さっさと行けッ‼︎」
そのバイク・イッチャクマンバーについて一言だけ語ると、輝彦はコンピューターにパスワードを入力し、倉庫のゲートを開けた。その先にあるのは、普段は運搬用に使われている、地上と繋がった通路だ。
「フッ……いーじゃねーか。俺専用の武器に、俺専用のバイク。いー感じに燃えてきたぜ。……そんじゃ、行こーぜ相棒ッ‼︎」
一方、輝彦の言葉でテンションを上げた博人は、その勢いのままにイッチャクマンバーへと跨っていた。愛美から差し出されたヘルメットを装着し、全速力で地上へと飛び出していく。
《hr
ダイバーシティの一角、夜の店の立ち並ぶ歓楽街。そこに、ジャンクラーは現れた。
「なるほどな。昔の職場のそばで暴れるってのはちょっと気乗りしねーが……引き受けちまったからにはやるしかねーよな」
バイトでホストをしていた頃によく通った道。すっかり嗅ぎ慣れてしまった、人々の欲が入り混じった淫靡な空気の匂い。そのロケーションに懐かしさを覚えた博人は、過去を振り返って呟く。
博人の存在に気が付いた、牛のような怪人──ブル・ジャンクラーは、彼へと飛びかかった。博人は軽やかな動きでそれを回避し、ギャンベットドライバーを装着する。
『パチンコ!』
「おいおい、あんま暴れんなっての。……まー、そんくらい暴れてもらった方が、こっちも闘りがいがあるってもんだがなー」
起動したギャンボールをドライバーに滑り込ませ、博人は変身の構えをとった。軽快な音楽が爆音で流れ始め、ブルは思わず耳を塞ぐ。
『BURN!BURN!BANG‼︎ BURN!BURN!BANG‼︎ BURN!BURN!BANG‼︎ BA・BA・BA・BURN‼︎』
「変身ッ‼︎」
叫びながら、ドライバーに備え付けられたハンドルを回す。すると、それと同時に放たれた玉がブルを弾き、三つ揃った図柄が博人の体を取り囲んだ。キンと高い音が響き、博人はライダーへと変身していく。
『マックス・フルスロットル‼︎仮面ライダー!GO‼︎ON‼︎』
「さーて……愉しもーぜ、命賭けでなァッ‼︎」
バクトは、変身を完遂させると、すぐにその手に力を込め、パチンカーストライカーを出現させる。しかし、何の説明も受けていない状態では、そもそもの使い方がわからない。これでジャンクラーを殴ればいいのか?などと考えていると、その仮面の内側に声が響いた。
『あー、あー。こちらサッチ。……バク、聞こえてる?』
「おー、問題なく聞こえてるぜ。それで、どーした?そっちで通信機能のテストでもやってんのか?」
『違うわよバカ。……テルが、その武器の使い方について説明したいんだってさ。変わるね』
皐月からの通信だ。どうやら、パチンカーストライカーの使い方についての説明があるらしい。博人は頷きながら、その柄の部分を振るい、襲いかかってきたブルを吹き飛ばした。
『……俺だ。先程は説明を省いたが、ジャンクラーが出現した今、後ほどなどと言っていられないからな。簡易的なものにはなるが、こちらから説明させてもらうぞ』
皐月から代わり、今度は輝彦の声が仮面内部のスピーカーから聞こえてくる。バクトは、その声に相槌を打ちながら、ブルの打撃を受け流していく。
『まず、確認なんだが……カメラからお前の動きが見えているんだが、流石にその使い方は間違っていると薄々気付いているよな?』
「あ、バレた?絶対これ使い方ちげーよなって思ってたんだが、これでも割といけっからよー」
『……まァ、そんなことだろうと思ったよ。……まず、お前が今ジャンクラーに向けている方を下にしろ』
間違った使い方をしている自覚があるにもかかわらず、悪びれもせずに柄で敵を叩き続けるバクトの姿に、ため息をつきながら輝彦は言った。
『次に、持ち手のそばにあるハンドルを回せ。そうしていればしばらく弾は出続ける。お前が大好きなパチンコと同じようにな』
「えーっと?こうか?」
輝彦の指示通りに、パチンカーストライカーのハンドルを回す。その瞬間、そこから無数の弾が射出され始めた。
「うわ、すっげーなコレ……って、おいおい。これでもリーチ始まんのかよ」
その中の一つが、ブルの弱点を撃ち抜いた。それにより、リーチが始まる。立ち上がり、バクトへと走り出すブルの頭上に、二つの〝6〟の数字が落下し、その体勢を再び崩させた。
「よしッ‼︎勝て勝て勝てッ‼︎お前なら勝てるぞ‼︎頑張れ‼︎」
バクトの背後では、ライダーと怪人が戦う映像が流れている。その映像の中で、ライダーの拳が怪人を撃ち抜いた。それと同時に、三つ目の〝6〟が、ブルの体を吹き飛ばす。
「っしゃ‼︎来た来た来たァッ‼︎ラウンド突入だーッ‼︎」
刹那、どこからともなく鳴り響く大音声。三つの図柄が揃ったことにより、この音楽が流れている間、バクトの身体能力は飛躍的に上昇する。
『オォォォ……‼︎』
バクトがラウンドに突入すると同時に、ブルは唸り声を上げながら、その腕を地面に叩きつけた。両腕からこぼれ落ちる無数の球体は、人のような形・大きさへと変貌していく。
『奴らは、ギャンキーズと呼ばれる怪人だ。ジャンクラーが呼び出す、意思のない兵隊といったところか』
ギャンキーズ。輝彦の口から、その詳細が語られる。
「へー。しっかし、数が多いな。どー戦うべきか……」
『まァ、数こそ多いが、戦力に関しては大したことはない。先ほど同様、パチンコモードで問題なく対処できるはずだ』
その数を前に尻込みするバクトの背を押すように、輝彦は言った。バクトは頷くと、再びパチンカーストライカーのハンドルを回し、無数の弾丸を放ち始める。ラウンドに入ったことで強化されたそれは、たった一度触れただけで、ギャンキーズを消滅させていく。気付けば、一分と経たないうちに、辺りを取り囲んでいたギャンキーズは姿を消していた。
『よし。残るは本命のジャンクラーだけだな。……次はソードモードについて説明するぞ。射出部を折り畳み、柄を取り出せ‼︎』
「はいはいっとォ‼︎」
輝彦の指示に従い、バクトは手にした武器を変形させる。パチンコから剣に姿を変えたそれは、ギラリと獰猛に瞬いた。
『それに関しては、使い方を説明する必要もあるまい。……あとは、好きに戦え』
バクトは駆け出し、その刃を振るう。音を、空気を裂き、ブルの外骨格を斬りつけた。
『グゥ……ガァァァァアッ‼︎』
「あっ‼︎おいコラ待て‼︎」
バクトに恐れをなしたのか、ブルはバクトに背を向けて逃げ出す。バクトはそれを追うが、フィーバー状態でスペックが上がっていると言えども、本能のままに走るブルには追いつけない。
「あの野郎どこ行きやがった……ラウンドが終わっちまうじゃねーかよ」
周囲を見渡しても、ブルの姿は見えない。もしや取り逃がしたのか?焦りが、バクトの中を駆け抜けていく。直後、その背後で、空を切る音が響いた。
『バク‼︎後ろから来てる‼︎跳んで避けなさいッ‼︎』
それにいち早く気付いた皐月が、デバイスに向けて叫ぶ。バクトは、友を信じて飛び上がった。渾身の突進が不発に終わり、ブルは壁と衝突する。
『バク、聞いて。……多分だけど、今この機会を逃したら、図柄揃えられずにあんたは負ける。だから、今のうちに終わらせた方がいいわよ』
カメラの映像を通して、皐月が見たというビジョン。その信憑性が高いことは、四年間ともにギャンブルに明け暮れた博人は痛いほど理解していた。
「サッチが言うなら、間違いなくそーなんだろーな。……なら、その通りにしてやろーじゃねーか‼︎」
『パチンコ!』
バクトはパチンカーストライカーを放り投げ、ドライバーのスロット内のギャンボールのボタンを押した。溢れ出すエネルギーをその拳に収束させ、レバーを回す。それと同時に、壁から抜け出したブルは、全ての力を込めてバクトへと飛びかかった。
(不思議だな。サッチのビジョンじゃねーけど、どー動けばいーのかがわかる。あいつの動きが、見えるッ‼︎)
バクトは、最小限の動きでその攻撃を避けると、左の手でドライバー中央のボタンを押した。電子音が鳴り響き、未知なる力に包まれた拳が振るわれる。
「ライダー……パァァンチッ‼︎」
『パチンコ!ジャックポットストライク‼︎』
その一撃がブルの胸を撃ち抜くと、一瞬遅れて爆発が起こった。それにより、限界を迎えたブルの装甲は剥がれ落ち、その中から現れた一人の女性と一つのギャンボールが地面に倒れ伏す。
『よくやった、吊鐘。後はこちらでなんとかしておく。処理班が到着し次第、こちらに戻ってきてくれ』
「おーっす。了解しましたよーっと」
輝彦からの通信に応答し、バクトはその変身を解除した。
次回予告
愛美「第二回設定補足コーナー、はぁじまぁるよぉ」
輝彦「今回は、俺たちが勤めるギャンベット社について解説させてもらう」
愛美「ギャンベット社はねぇ、この街じゃ一番の大企業?的な感じでぇ、いろんな事業に幅広く手を伸ばしてるよぉ」
輝彦「俺たちが参加している防衛装備の開発のほかに、大きな事業としてはカジノ運営が挙げられる。前回で吊鐘たちが訪れたスカーレットパレスがまさにその一つだな」
愛美「というかぁ、そもそもウチらが防衛装備なんてもの作ってるのもそっちで客が暴れると大変だからなんだよねぇ」
輝彦「相手がただの人間からともかく、ダイバーシティには獣人だとかも結構数住んでいる。奴らが暴れ出すと俺たちでは手に負えんからな」
愛美「あ、一応言っとくとパイセンの今のは獣人ヘイトではないからねぇ。そもそもの身体スペックが違うって言ってるだけだよぉ」
輝彦「次回、仮面ライダーバクト!」
愛美「『222:闇のライダー』!」
輝彦「次回も──愉しむとしよう、命賭けでなッ‼︎」
今回は、輝彦と愛美の二人が本格的に登場しました。この二人は、前回も言った6人のメインキャラのうちの二人なので、今後もバシバシ爆殺コンビに絡んできます。
さて、タイトルにもある通り、今回からバクトは武器とバイクを得ました。や、別にインテリ眼鏡は得てはいませんが……。
これで、ひとまずのバクトの戦闘に必要なものは揃いましたね。バクトの戦闘シーンにもバリエーションを持たせられたらなと思います。
さて、次回はタイトルが「闇のライダー」とある通り、文字通り闇のライダーが登場します。
ここからバクトの物語が本格的に始まっていきますので、応援の程よろしくお願いします。墓脇でした。