仮面ライダーバクト   作:墓脇理世

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第5話「555:深淵に触れた、それ故に」

「……実は、な。俺がこのドライバー使ったのって、あの日が初めてじゃねーんだ」

 輝彦がディーラーに変身した、その少し前。病室にて、博人は、自身が初めてギャンベットドライバーを使った時のことを語っていた。

「昔、俺がホストやってたのは知ってると思うが……その時もまー金に困っててよー。営業とかもそんな得意じゃねーし、そこまで金を使われたりとかもなかったしな」

 時は二〇二〇年まで遡る。当時の博人はホストクラブ『KAGURA』に在籍していたが、そこまでの売上があったわけでもなく、今同様に金欠に喘いでいた。

「そん時、だったかな。同僚に、割のいいバイトがあるって聞いて、ちょいと興味を持ったわけよ」

「吊鐘……お前これまでで何回か詐欺にあったりしてないか……?」

「ねーよそれは。俺はこー見えて意外と警戒心つえーからな?」

 そして、そこで、同僚からとあるバイトに誘われたという。輝彦の呆れ混じりの呟きをさらりと流しつつ、博人は続ける。

「そこでやってたのが、ドライバーの治験みてーな感じのバイトだったんだよ。んで、周りはみんな一回で終わってたんだが、俺はどーも適合率が高かったとかで、その後もちょくちょくテスターに呼ばれてたんだわ」

 そのせいで半年留年する羽目になったんだけどよー。そう言って、博人はたははと笑った。

「だが、そんなバイトを募集していたという話は聞いたことがないぞ。一体、誰がそんなことを……」

「俺もなー、ちょっと怪しいとは思ってたんだよ。どーも、周りにギャンベット社の奴っぽい姿も見えなかったしな」

 しかし、外部の人間を雇って試験運用を行なっていたという話は、輝彦でさえ誰からも聞いたことがなかった。記録さえ、ギャンベット社には残っていない。博人は頷き、話を進めていく。

「……それで、しばらくしたらジャンクラーが現れだした。しかも、その変身にはギャンボールが使われてるときたもんだからよー」

「つまり、吊鐘。お前は……」

「おーよ。……ジャンクラーを生み出してる連中とつるんでる野郎が、ギャンベット社にいるんじゃねーかって疑ってる」

 そして、博人は、自らの考えを口にした。曰く、ギャンベット社の中に裏切り者がいる、と。

「あぁ。……この件について、俺も少し調べてみるとしよう」

 輝彦も、その件については確かな疑念を抱いていた。小さく首肯し、再びギャンベット社に戻るために、病室を歩き去っていく。

 


 

「ふーん。そうだったんだ。……じゃああの時あたしがジャンクラーの話題振っても微妙な反応しか返さなかったのはどーしてなんですかって話なんだけど」

 それから数日後。退院した博人は、その時のことを皐月に話した。すると、皐月は、つーんと唇を尖らせながら博人の脇腹を突いた。

「いてて……悪かったって。サッチにはあんましそーゆーことには関わってほしくなかったんだよ」

「ん〜……そうやって気ぃ遣ってもらえるのは嬉しいんだけどさぁ……」

 博人はその手を払い、コーヒーを啜りながらそう答える。すると、予想外の言葉がクリーンヒットしてしまったようで、皐月は真っ赤になってテーブルに突っ伏した。

「なーにニヤついてんだよサッチ。昭和のエロ親父みてーな顔だぞ」

「なっ……‼︎ ニヤついてないし昭和のエロ親父みたいな顔もしてないけど⁉︎」

「はいはいわかったわかった。そんなムキになんなよエロ親父」

 すると、博人は、笑みを浮かべる皐月の背を叩き、格好の獲物を見つけたとばかりにいじり始めた。皐月は必死に否定するが、こうなった博人には、それは通じない。

 ──と、そこで。皐月のポケットのデバイスが、着信を知らせる音を鳴らした。

「……はい、あたしだけど」

『小山内か。今そこに吊鐘はいるか? いるならスピーカーにしてあいつにも聞かせてやってくれ』

 送り主の輝彦は、皐月の応答を確認すると、博人にも聞かせるよう促す。

「あん? どーしたんだよテル、急に改まってよー」

『ここしばらくで出現したジャンクラーの変身者の取り調べを行った結果、ある共通点が浮かび上がったんだ。このことは、お前たちにも伝えておくべきだろうと思ってな』

 先日、博人の話を聞いてから、輝彦は色々と探りを入れている。頭を掻きながら答える博人に、輝彦は淡々と用件を伝え始めた。

『取り調べによれば、お前が先日倒した闘牛のジャンクラーの女は、あるホストクラブに入り浸っていたらしい』

「ホスクラに……?」

『そうだ。ちなみに、その店は『KAGURA』と言うらしい。……どうした吊鐘、そんな素っ頓狂な声を上げて』

 その結果判明したのは、闘牛のジャンクラー──ブル・ジャンクラーの変身者が、ホストクラブに入り浸っていたこと。

 その名が出た瞬間、博人は「ひょえェ⁉︎」との声を上げた。輝彦は不審げに眉を顰めるが、それもそのはず。

「いや……KAGURAっつったら、俺が昔バイトしてたとこだからよー。ちょいと驚いたんだよ」

『……そうか。それで、吊鐘はそこの同僚に誘われてギャンベットドライバーのテストのバイトを受けていたんだったか』

 そのホストクラブこそ、博人が大学時代にアルバイトとして勤めていた店なのだから。

『話を戻すぞ。……この間、俺が撃破した競輪のジャンクラーの獣人だが、奴に関しては別段ホストに入れ込んでいたりだとか、そういった感じはなかった。第一、男だったしな』

「待ってテル、その発言は場合によってはヘイトと取られかねないかも」

『こら、重箱の隅をつつくんじゃない』

 輝彦は続ける。途中、皐月からからかい混じりの指摘が入ったが、輝彦は額に青筋を浮かべながらそれを躱した。

『……だが、奴は極度のギャンブル狂いだったようだ。調べたところ、ある金融会社から、莫大な金額を借りていたらしい』

 輝彦がそう言うと、皐月は視線を隣に逸らす。すると、博人は「俺?」と首を傾げた。

『その金融会社が、蛇穴(さらぎ)金融。まァ、ここだけ聞けば、どこに共通点があると言いたくなるだろうな。特に吊鐘に関しては』

 蛇穴金融。その名前を聞いても、博人はピンと来ていない様子だ。一方の皐月は、顎に手を当てて得心したそぶりを見せている。

「蛇穴金融に、KAGURA……あぁ、そういうこと」

『そういうことだ。小山内は理解が早くて助かる』

「えっ、何? あんまし状況飲み込めてねーんだけど、ぜってー今そこはかとなくバカにされたよな?」

 皐月と輝彦は、少し声を弾ませながら頷く。それが自分への煽りを含んでいるものと気付いていた博人は、つんと唇を尖らせた。

「えっとね、バクも知ってると思うけど、KAGURAのオーナーの名前は加巳乃龍二って言うじゃん?」

「あー……ま、そーだな。いつも笑ってるけど、何考えてるかわからねー人だった。正直めちゃくちゃ怖かった」

「そ。……で、蛇穴金融の社長の名前も、加巳乃龍二。言いたいことわかった?」

 仕方がないので、皐月は噛み砕いた説明をしてやった。すると、博人も状況を理解できたようで、ほーと頷く。

『その他のジャンクラーたちも、多くが同じホストクラブに通い詰めているか、同じ金融機関から金を借りていた。疑うには十分だろう。……吊鐘、当時の同僚に連絡は取れるか?」

 こうなった以上、加巳乃龍二が関与していることはほぼ確実だ。彼を表舞台に引きずり出すために、まずは周りから攻めたい。

「できなくもねーだろうけどよー。……ま、やってみるわ」

『頼む。こちらもこちらで調べてはみるが、人手が多いに越したことはないからな。……切るぞ』

 輝彦の言葉はそういう意味だ。そのことに気付いた博人は、億劫ながらも頷いた。

 


 

「──と、言ったはいいものの……連絡取れねーじゃねーかよ」

 それから、博人は当時ギャンベットドライバーの試運転のバイトに誘ってきた同僚に連絡していたが、どういうわけか電話もメッセージも繋がらなかった。

 ──そんなこんなで不貞寝して今に至る。食事も用意していないということで、バイト帰りの皐月を拾い、近くのラーメン屋に入った。

「いや、あのさぁバク。あたしって一応女の子なんだけど」

「……? そうだな」

「なんで女の子連れて入る店がラーメン屋なのって聞いてるんだけど、わかって?」

 しかし、どうやら皐月は不満らしい。人差し指で博人の脇腹を突っつきながら、皐月はこぼす。

「いや、サッチならその辺気兼ねしなくてもいーかなと思ってよ。ゆーて好きだろ? ラーメン」

「まぁ、好きではあるけど。……実はさ、最近ちょっとお腹が出てきてましてね? 誰かさんの作るご飯が美味しいせいで」

 すると、博人は、一切の悪気を感じさせない顔でそう言った。本当にこの男は……。皐月は深くため息を吐き、博人を両手の指で指し示した。

「いーやいやいや俺のせいではねーだろサッチ。お前に自制心がねーから食いすぎて太るんだよ」

「自制心がどーとかバクにだけは言われたくないし。あんた一番その言葉と縁がない人間じゃん」

「くそッ、そー言われると反論のしようがなくて困っちまうぜ……」

 自分が作る料理を褒められるのは嬉しいが、そのせいで太ったなどと言われてはたまらない。それは皐月の自制心の問題だと指摘する博人だったが、皐月の反撃を受けてあえなく撃沈。黙りこくってしまう。

「……まー、別にいいだろ。痩せてーなら俺の行きつけのジム紹介するぜ? あそこはマジですげーぞ」

「えー……。あたし別にそういう激しい運動したいわけじゃないし……」

「運動はしたくないでも痩せたいってお前ンな強欲な……」

 動けば痩せる。話題を逸らそうとする博人だが、これまた失敗。

「お待たせしましたン、翠風(はやて)の豚骨二人前ですン」

「お、あざーす。そんじゃ食うかー」

 呆れ顔で皐月を見下ろしていると、ラーメンが運ばれてきた。博人はぺこりと頭を下げ、割り箸を割る。

「……バク、紅しょうが食べてもらっていい?」

「いや自分で食えよサッチ。紅しょうがうめーだろ」

「いやあたし紅しょうがあんまり好きじゃないっていうか……ラーメンに乗せる意味がわからないっていうか……」

「紅しょうがに謝れサッチ。……ま、くれるっつーなら遠慮なく貰っちまうか」

 直後、皐月は、ラーメンの上に鎮座する紅しょうがを見て、おずおずと博人に問うた。

 紅しょうが自体は嫌いではないが、ラーメンに乗せる意味はわからない。そう言う皐月に、博人は冷ややかな視線を向けつつ、それを取ってやった。

「ふふっ、ありがとバク。……へぇ、結構おいしいじゃん」

 すると、皐月は、満面の笑みでラーメンを口に運んだ。想像を超えた味に、思わずこぼす。

「だろ? 普段豚骨はあんま食わねーけど、ここのだけは別なんだよ。紅しょうがあるとさらにうめーんだけどな」

「そんなにぃ?」

「おー、そんなにだよ。試しに食ってみりゃわかるぜ」

 博人は、まるで自分のことのように笑うと、先程取った紅しょうがを少しだけ皐月の器に移した。皐月は訝しげに目を細めると、数秒間考え、意を決してそれを実食する。

「……あれ? 意外といける?」

 それを味わい、飲み込む。思っていたよりも豚骨ラーメンと紅しょうがの相性が良いことに気付いた皐月は目を見開いた。

「だろ? どーよサッチ、さっきの失礼極まりねー発言を訂正して紅しょうがに謝罪する気にはなったか?」

「いや、謝罪する気にはならないけど……。でも、思ってたよりは合うんだ。びっくり」

 勝ち誇ったように、博人は言う。皐月はそれを軽く流しつつ、しれっと博人の器から紅しょうがを横取りした。

 


 

 食事を終え、しばらく辺りをぶらつく二人。買い出しのためにとディスカウントストアに向かった二人は、そのすぐ近くの広場で、見覚えのある男の姿を見た。

「……あれ? ねぇバク、あれって……」

「どー見てもシュウだよな……? でも、なんでドン(ぜん)なんかにいるんだ……?」

 ──ドン前。ダイバーシティ・バットエリアの中心に位置する広場で、すぐ目の前にあるディスカウントストアの名称から、そう呼ばれている。

 昨今では、自身の家に帰れない事情を持つ若者の溜まり場となっており、重大な社会問題にもなっている場所だ。なぜそんな場所に彼が? 二人は、ゆっくりとシュウの方へと歩いていく。

「シュウ兄、なんかあの人らシュウ兄のこと見てない?」

 すると、高校生くらいの歳であろう少女がそれに気付き、二人を指差した。シュウは、不審げにその視線を動かす。

「えっ、誰? ……って、バクんちゅにメイちゃんじゃん。こんなとこで何してんのさ」

「いやそれはこっちのセリフだよシュウ。なんでお前がこんなとこにいんだよ」

 それが知っている人間だとわかると、シュウは途端に肩の力を抜き、フゥと息を吐いた。博人は彼の方に駆け寄ると、呆れ混じりのため息を吐く。

「シュウ兄はね、ボクらに色々良くしてくれてるんだ。ほんと、何もしてくれないどころか、ボクらの居場所を奪おうとまでしてくるような大人どもとは大違いだよね」

 すると、シュウの後ろで弁当をかき込んでいた少年が言った。シュウはポリポリとこめかみを掻きながら、二人を連れて少し離れたところまで歩き出す。

「……ホストがこういうところに来るって聞くと、新しい金蔓を育てようとしてるんじゃないかって不安になるんだけど、そこんとこどうなの?」

「うわ、率直に聞くねメイちゃん……。答えはノーだよ。なんて、ホストの俺が言っても信用ないかもだけど」

 ドン広から離れると、真っ先に皐月が問うた。仕事柄、そういった類の人間もよく見る皐月は、訝しむような目でシュウを見据える。シュウは苦笑しながら、首を横に振った。

「……あそこに集まるのは、殆どが家庭の事情とかで、家に帰るに帰れない子供たちでしょ? そんな子たちに、何かしてあげられたらなって思って、自己満足で始めた……日課、みたいなもんかな」

 遠くを見つめながら、シュウは語る。その目は、普段の優しい色とも、仕事中に時折見せた冷たい色とも、どこか違って見えた。

「いつかは、そういう子たちの居場所になれるような施設とか作りたいとは思ってるけど……今は、まだ自己満足の偽善止まりかな」

 哀愁にも似た何かを含ませて、シュウは小さく笑う。

「なるほど、いい夢じゃねーか。……って、ちげーちげーそうじゃねー。折角KAGURA関係者に会ったんだから、アレ聞いとかねーと」

 その話を聞き、腕を組みながらうんうんと頷く博人。直後、我に帰った博人は、自身の両頬を叩いたのちに、シュウに問いかけた。

「シュウ、お前ミツキが今何してるかとか知らねーか? あいつに用があるんだが、どーも電話も繋がんねーし既読もつかねーんだよ」

 九重(ここのえ)ミツキ。博人にギャンベットドライバーの試運転のバイトを紹介した張本人のことだ。博人は、彼との連絡が取れない状況にあった。

「ミツキ……あぁ、彼ならちょっと前にやめたけど。連絡先……は、ちょっとわかんないかな。何かあったの?」

「いや、知らねーならいいんだ。わりーな、折角の休みに時間使わせて」

 しかし、どうやらシュウは彼の行方を知らないようだった。博人たちはひらひらと手を振って、その場を去った。

 


 

「(ふぅ……危ない危ない。うっかりミツキのこと知ってるってバレちゃうとこだった)」

 博人たちが去った後、シュウはタバコに火をつけ、一服する。

 ミツキのことを知らないと語ったのは、全て真っ赤な嘘だったのだ。煙を吐き出しながら、シュウは空を見上げた。

「そろそろ、帰るか……」

 タバコの火を揉み消し、シュウは起き上がる。それと同時に、彼のスマートフォンが鳴き声を上げた。表示されたのは、加巳乃の名前だ。

「……もしもし、藤咲です」

『お疲れ様です、秀司くん。……先程、彼がジャンクラーを放ちました。万が一にも倒されないよう、サポートをお願いしますね』

 どうやら、また新しいジャングラーが放たれていたらしい。それが博人たちに倒されないよう、フェイゼルとしてサポートに回れとの命令の電話だった。

「……承知しました。それと、オフの時はできればジャンクラー放つなって言っておいてください」

『えぇ、伝えておきましょう』

 〝秀司〟は、ため息の後にそう言って、ジャンクラーが放たれた地点へと歩き出す。

「シュウ兄、もう帰るの? もうちょっと居てもいいと思うけど……」

「ごめんね、ちょっと呼び出しが入っちゃったんだ。そんな悲しそうな顔すんなよ、また会いに来るから」

 すると、ドン前の少女の一人が、何もわかっていないであろう表情でシュウを呼び止めた。秀司は片手を首に当てながら苦笑する。

「あ、わかった‼︎ 彼女さんでしょ‼︎」

「……うん。まぁ、そんなとこかな。それじゃ行くから。みんなによろしく言っといて」

 少女の言葉に適当に頷き、秀司は走る。そして、裏路地に入ったあたりで、ポケットから取り出したギャンボールを放り投げた。

『キョウテイ!』

 ギャンボールが変形し、ボートを思わせる形状のバイクがそこに現れる。傍らに備え付けられたヘルメットを被り、そのバイクに跨って、秀司は走り出した。

 しばらく進むと、大通りに出た。それと同時に、数秒前に同じ道を通った博人の姿が現れる。

「お前は……ッ‼︎」

『(つくづく、間の悪い男だよ。君は)』

 秀司はヘルメットの奥でため息を吐くと、バイクの速度を上げた。空に描く残像が、瞬く間に博人の影を捉える。

 博人は舌打ちし、右にハンドルを切った。並走する秀司に接触するスレスレのラインで、真空が切り裂かれていく。

『次に俺たちのシマを荒らしたら殺すって言わなかったっけ?』

「わりーな、そんな昔のことは忘れちまったよ‼︎」

 信号に捕まった二人は、睨み合いながら言葉を交わす。直後、博人は手を振り、隣接していたコンビニの駐車場へとハンドルを切った。

「(本当はこんな狡い真似はしたくねーが……流石にあの野郎もこんな往来であんま派手な真似はできねーだろ)」

 爆速で交差する道に出て行く博人。彼はまだ、秀司の執念がどれほどのものかを知らないが故に、どこか余裕のようなものを残している。しかし、

『舐めた真似してくれるね……吊鐘博人ォッ‼︎』

 博人が相対しているのは、曲がりなりにも、ダイバーシティの闇に生きる者だ。秀司は懐から拳銃を取り出し、博人に向けて引き金を引いた。

「うおッ、嘘だろお前⁉︎ 往来でチャカなんか出すかよ普通⁉︎」

『先にコンビニワープなんてした君が悪いよ。ちゃんと信号変わるまで待ってたら、俺だってこんな物騒なもの取り出さないって、のッ‼︎』

 ハンドルを切り、銃弾を躱す博人。狼狽する彼を追いながら、秀司は声を荒げる。

 そうしているうちに、弾が切れた。秀司は舌打ちののちにハンドルを切ると、そのボディを意図的に博人のイッチャクマンバーに接触させた。

 横合いからの衝撃を受け、博人はよろめく。AIの補助もあり、なんとか立て直すことには成功したが、その頃には、秀司の背はすでに小さくなっていた。

「舐めやがってあの野郎……やりやがったなコラァ……ッ‼︎」

 博人は闘争心をむき出しにして、スピードを張り上げる。そうして、秀司に追いつく頃には、すでに二人はジャンクラーが出現した現場に辿り着いていた。

 


 

「遅いぞ吊鐘‼︎ 何をしている‼︎」

 そこでは、先に到着していた輝彦が、ディーラーに変身してジャンクラーを抑えていた。

「わりーテル‼︎ そっちは任せてもいーか⁉︎ こいつ放っとくわけにもいかねーからよ‼︎」

「わかっている‼︎ だが、前のように無理はするなよ‼︎」

「おーよ、言われずとも‼︎」

 博人の到着の遅さに苦言を呈するディーラーだったが、秀司の姿を見て、態度を変えた。

 ジャンクラーとの戦いを彼に任せ、博人は秀司を睨みつける。

「さっきはよくも当て逃げしやがったなこの野郎‼︎ おかげで俺の相棒の塗装がちょっと剥げちまっただろーが‼︎」

『センスのないバイクだったから、ちょっとオシャレにしてあげたんだけど……不満だったかな?』

 火花を散らし合いながら、二人はギャンボールを取り出し、そのボタンを押した。

『パチンコ!』『パチンコ……』

「野郎……‼︎ 言いてーことは山ほどあるが……まずはお前をぶっ飛ばして、そのだせーヘルメットを引っぺがしてやらねーとなァ‼︎」

『できるもんならやってみなよ。一回俺に完敗してるくせに、学習能力ないんだね』

 二人は同時にそれをドライバーに装填し、その口を開く。

「変身ッ‼︎」『変身』

 それぞれの体が、ライダーへと変化していく。二人は、武器を手に、高々と言い放つ。

「さーて……愉しもーぜ、命賭けでなァッ‼︎」

上がれ(Raise)。ここが君の死に場所だよ』

 


 

「先手必勝……ぶちかますッ‼︎」

 バクトはパチンカーストライカーを出現させると、瞬時に飛び退き、そのハンドルを回した。打ち出された無数の弾丸が、電磁石の力によって放たれる。

『無駄、無駄。豆鉄砲じゃいくら撃っても俺には効かないし……俺が君のフィーバーを乗っ取れること忘れたのかな?』

 しかし、それらは大きなダメージには繋がらない。リーチが始まると同時に、フェイゼルはレイズサーキュラーを振るった。

「ッ、テルッ‼︎」

「まったくもって、世話の焼けるッ‼︎」

 バクトは、ディーラーへと叫ぶ。それを受けて、ディーラーはカーディールガンの光弾を放った。手元を正確に狙い澄ました一撃は、バクトのフィーバーへの介入を許さない。

 直後、飛来した二つの〝4〟が、フェイゼルとダイス・ジャンクラーの動きを止めた。

『ジャンクラーは任せるって言ったのはどうしたよ……ッ‼︎』

 ジャンクラーは任せる。先ほどそう言ったにも関わらず、ジャンクラーにも攻撃を加えるバクトに、フェイゼルにも攻撃を加えるディーラー。それを見て、思わずフェイゼルはこぼした。

「戦場では臨機応変に対応することが勝利に繋がる。そんなことも知らなかったか? まったく、加巳乃龍二は何を教えているんだろうな?」

『は……?』

 その直後、嘲るようにディーラーは呟いた。加巳乃龍二。その名が出た瞬間、フェイゼルの動きが止まる。

「当たり、みてーだ、なァッ‼︎」

 その隙を突くようにして、バクトは猛攻に出た。持ち替えたパチンカーストライカーの斬撃が、フェイゼルを吹き飛ばす。

『何が当たりだよ、的外れすぎてびっくりしただけなんだけど……⁉︎』

「そーかよ。ま、今はそーゆーことにしといてやるか。……お前をぶっ倒して、何から何まで全部吐かせりゃいいだけだしな」

 とぼけるフェイゼルに、バクトは冷たく言い放った。直後、バクトは地面を蹴り、フェイゼルへと殴りかかる。

 それと同時に、ダイスの攻撃を躱したディーラーが、カーディールガンの引き金を引いた。五つの光弾がダイスを吹き飛ばし、バクトの攻撃に備えていたフェイゼルへの不意打ちの一撃を食らわせる。

『な……ッ‼︎』

「そろそろ年貢の納め時だぜ、闇のライダーさんよォッ‼︎」

 二人のライダーは、そうして生まれた隙を逃さないために、同時に地面を蹴った。

『パチンコ!』『ポーカー!』

 ギャンボールのボタンを押し、その力を手と銃口に込め、二人は叫ぶ。

「ライダー……パァンチッ‼︎」

「──ライダーシュート」

『『ジャックポットストライク!』』

 二人の必殺技が炸裂し、土煙が巻き上がる。しかし、二人は慢心しない。何が起こってもいいようにと、ただ一点を凝視していた。

 そうしているうちに、バクトのフィーバーが終了する。それと同時に、土煙が晴れた。

 ──というよりかは、むしろ、晴らされたというべきだろう。神速の影が、バクトへと切り掛かった。

「ンの野郎……ッ‼︎」

 反撃のために、バクトは拳を振るう。しかし、その一撃は空を切り、その沿線上にいたディーラーのマスクを打ち抜いた。

「痛った‼︎ おい吊鐘‼︎ お前はどこに目をつけているんだ‼︎ アホめ‼︎」

「わりーテル‼︎ そんでお前は待てコラ‼︎ よくも俺にテルを殴らせやがったなこの野郎‼︎」

 声を荒げるディーラーに頭を下げたのち、バクトは走り去るフェイゼルの背を追う。しかし、フェイゼルはすでにバイクに乗っており、バクトの視界の端まで消えてしまっていた。

 イッチャクマンバーへと向かっていくバクトを、ディーラーが遮る。

「何すんだよテル、ここであいつ逃がしたら……」

「──先程の俺の攻撃で、奴のクリスタルコンバーターを撃ち抜いた。あれは、ギャンボールごと修理せん限り再生しない。あの状態でコトを起こそうとはせんだろうよ」

 フェイゼルを追う必要はない。変身を解除し、淡々と話す輝彦に反論を試みるが、その理由を説明され、バクトは頭を掻く。

「いや、でもあいつの正体を知らねーと……」

「それに関しても問題ない。……愛美が、ドローンで奴の足取りを追っている。奴の正体なら、愛美が掴んでくれるさ」

 次いで、フェイゼルの正体を知る必要があると反論するが、これもまたすでに対策済み。それならと、バクトは変身を解除した。

 


 

『ここまで来れば、もう大丈夫か……‼︎ ったく、なんで加巳乃さんの名前があいつらに割れてるんだ……‼︎』

『蛇ノ目の會』本部ビルのほど近く。裏路地の薄暗闇の中を、秀司はフラフラと彷徨う。

 まさか、加巳乃の名が博人たちに知られているとは思っていなかった。その動揺で、本来のスペックを発揮できず、惨めな敗北を喫したことに、確かな苛立ちが募っていく。

 羽織っていた上着をバイクのトランクに入れ、ギャンボールに戻して隠蔽。ヘルメットを外し──その瞬間に、自らを眺める何者かの視線に気がついた。

「……誰だッ‼︎」

 ドローンの存在を察知した秀司は、懐から取り出した拳銃で、それを的確に撃ち抜いた。地面に落ちた残骸を踏みつける秀司の脳裏を駆け抜けていくのは、確かな焦燥。

「(ヤバい、ヤバいヤバい、ヤバい‼︎ 俺の正体があいつらに知られた⁉︎ だとしたら、どうするんだ‼︎ 考えろ俺‼︎ どうにかして考えを絞り出せ‼︎)」

 焦りに焦る秀司。だが、たった今焦っているのは、彼だけではない。彼をドローンで追っていた愛美も、同様に焦燥に駆られていた。

「(あの顔は見たことあるけど……嘘でしょ? だってあの顔、神去シュウだよ? 前にてるひーパイセンとか、博人先輩も皐月先輩も助けてくれたっていうホストの人が、闇のライダーな訳が……)」

 頭を抱える愛美。とりあえず、まずは輝彦に報告だ。携帯を取り出すも、なぜか圏外の表示となっていた。

「(嘘……そんな筈なくない⁉︎ こんなネットするためだけに作られたとこで圏外になるわけ……‼︎)」

 ありえない。ここはギャンベット社のPCルームだ。社内でも最も通信環境の良い場所だ。そんな空間で、ネット機器の接続が全て圏外になる筈がない。

「おいおい、こんな時間にこんなとこで何してんだ倉科ちゃんよぉ。ちゃぁんと利用申請出してんのかぁ?」

 直後、PCルームに響いたのは、下卑た男の声。防衛装備開発課課長・松原の登場である。

 普段ならば、顔も合わせたくない相手。しかし、今この状況に限っては、第三者の存在というのは、まさに砂漠に湧きだすオアシスと同義だった。

「課長‼︎ 今すぐ伊集院に繋いでもらえますか⁉︎」

「あぁ? どうしたよ、愛しのカレにブロックでもされましたってかぁ? だったら、俺が慰めてやろうか?」

「今はもう何でもいいです‼︎ とにかく、彼に……」

 普段通りに、いや普段以上に不快感を駆り立てる言動だ。しかし、今はそこに目くじらを立てていられる状況でもない。藁にもすがる気持ちで、愛美は捲し立てる。

「あぁ? ……あぁわかったわかった。ちょっと待ってな」

 愛美の態度から、只事ではないと理解したのだろう。松原はポケットに手を入れ、携帯の画面を開いていく。

「あぁ? おい、圏外じゃねぇか。どうなってんだ?」

「……ッ、ウチだけってわけじゃないよね、

 やっぱ……‼︎」

 しかし、こちらも圏外。愛美の言葉から、少なくともこの部屋全域で電波が遮断されているのだと理解し、松原は言う。

「電波が通じてねぇってことか。取り敢えず外出てみろよ倉科ぁ」

「ッ、ありがとう、ございま──」

 その、一瞬後のことだった。愛美が、扉が施錠されていることに気付くのは。

「え──」

 そのことに絶望する暇もなく、首筋に何かが押し当てられる。それが自分の開発したスタンガンだと気付いた瞬間、愛美の体を高圧電流が駆け抜けた。

「(確かに、ウチに裏切り者がいるとは聞いてた。……なんで、この状況で出てきたコイツを疑わなかったんだろ)」

 薄らぐ意識の中、確かな後悔の言葉が脳裏に浮かんでは消えていく。次の瞬間、その意識は深い闇に閉ざされた。

 


 

次回予告

 博人「今回も、設定補足コーナーやってくぜ」

 シュウ「前の俺の担当回ではカオリのせいで何も説明できなかったからね。今回はちゃんと説明していくよ」

 博人「っつーわけで、今回紹介すんのは『KAGURA』。俺が前まで働いてたホスクラだな」

 シュウ「俺に関しては今も働いてるけどね。……まぁ、説明とはいっても、中身はそこらのホスクラと大して変わらないんだけど」

 博人「売掛頼りの営業が横行するディストピアだぜあそこは」

 シュウ「その結果、バクんちゅみたいに飛ばれて文無しになるやつも出たりするもんね。ちゃんと客を管理できないからそうなるんだよ」

 博人「うるせーな。つーか、それでもシュウが売上一位になれねーのはなんでだろうな?」

 シュウ「……喧嘩売ってんの? ぶつよバクんちゅ。……売上一位、朱坂ヨハン。あいつは掛けに頼らずに年三億売り上げるバケモノだから。統計上の外れ値みたいなもんなの」

 

 博人「次回、仮面ライダーバクト!」

 シュウ「『101077Q:怒りのジャックポット』」

 博人「次回も……愉しもーぜ、命賭けでなッ!」




あとがき
 シュウくんみたいなのが動揺して焦り散らかすの、非常にHP(エッチポイント)高いですよね。なので書きました。はい。

 というわけで墓脇なんですね。今回はメイン勢各方面で動きがありました。主人公とヒロインはなんかラーメン食ってるくらいしかありませんでしたが……。
 このラーメン屋のシーンですが、筆が乗った結果なんか知らんうちにできてました。このシーン書いてたのがラーメン屋でラーメン届くの待ってる時だったからかな。
 本筋進める上では絶対にいらないんですけど、せっかくのヒロインということで皐月の出番を増やしたかったのと、ここから始まるドシリアスの緩衝材が欲しかったという理由で採用しました。

 さて、今回はついに加巳乃が一連の事件に関与していることが博人たちにもバレてしまいました。
 さらに、口封じのスタンガンが出たとはいえ、フェイゼルの正体も愛美にバレましたね。
 このことが、更なる波乱を巻き起こしていくことになりそうです。

 それから、松原が内通者であることも明かされましたね。あいつはいつかやると思ってました。パワハラ野郎だし。
 シュウくんも何やらミツキの今を知ってる風な感じを出してましたし、この辺りも今後の話に関わってきます。

 さて、次回はタイトルがアレということで、輝彦メイン回になります。愛美を傷つけられたとき、輝彦はどうなるのか?ご期待ください。

 ……あ、ちなみに次回予告に出てきたナンバーワンホストのヨハンくんは本編には多分そんなに関わってきませんからね。
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