仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第10話「解き放たれた『囚人』」

 鳴り響いた轟音に反応し、黒薙とミスティは背後を振り返る。

「ふひひ。脱獄せいこーう☆」

 その影は絶えず脈動し、形を幾度となく変えていく。

「そんな目で見ないでくれよぅ、ぼくが犯罪者みたいじゃないかよぅ」

 姿形を不気味に変動させながら、ソレは言う。

「ごめんねぃ、久しぶりの能力だからうまく使いこなせないんだよぅ」

 ヒトのカタチをしているものの、その正体はまるでわからない怪物が、子供のような純朴な笑みを浮かべて言った。

「……先輩、アレは?」

「聞くってことはそっちの世界だと何もしてねぇのか……恐らくアレは2年前、誘宵学区に対して反旗を翻した当時のランク10の超能力者……その第2位だ」

 そんなやつがなんでここに……と黒薙。

「ねーぇー聞ーいーてーんーのーぅ?ぼくはきみたちを殺しに来たんだけどぅ」

「……先輩、なんだか向こうは私たちの命狙ってるみたいですけど」

「らしいな……チッ、なんであんなバケモノと戦わにゃならんのだ」

 ゆらりゆらりと揺れる影は、虚ろな瞳で黒薙を見つめると、

「じゃぁ、死んでもらおっかなぁ」

 次の瞬間、競技場の客席が爪で引っ掻かれたかのように抉りとられた。

「ねーぇー逃ーげーんーなーよーぅ、ぼくだってきみたち以外に危害を加えたくはないんだよぅ」

 ソレは、あくまで真剣な瞳で黒薙たちを見据 えながら言う。

「つーまーりーぃ?きみたちさえ死んでくれればぼくもどこかに隠れてひっそりと暮らせるんだけどぅ」

「……大人しく牢に戻ってくれると助かるんだけどな、クソ野郎」

「駄目だよぅ、せっかく檻の外に出ることと引き換えにきみたちを狙ってるんだからさぁ」

 銃を抜いてソレに向ける黒薙とミスティ。しかし、臆することもなくソレは笑った。

「あれぇ、でも殺しちゃ駄目なのかぁ、めんどくさいなぁ」

 しばし掻き毟ると、そのバケモノは鍵を首に突き立てた。

「……っ、あぁっ、うぅあぁぁっ!!!」

 次の瞬間、ソレの体が真っ白な鎧に包まれる。貌を持たないながらも、これまでの怪人とは明らかに異なる容貌の怪人。得体の知れない怪物が、黒薙たちに襲いかかった。

 


 

「……チッ、疲れてるが仕方ねぇ。ミスティ!まだやれんだろうな!?」

「やれますよ、先輩……先輩こそ、足引っ張らないでくださいよ」

「言うじゃねぇか、後輩。こりゃマジで負けてらんねぇな……」

 二人は笑い合うと、ベルトにマテリアキーを差し込み、

「「変身ッ!」」

『Time OO!』『Proto OO……』

 レバーを倒し、仮面ライダーに変身した。

「行くぜクソ野郎……失われた時間の力、見せてやる」

「……特に決め台詞が浮かばなかったので、とりあえず行きますよ」

 剣を出現させ、二人は走る。白い怪人は二人の攻撃を受け、防戦を強いられた。

「あれ、先輩……こいつ、もしかして弱い……?」

「気を抜くんじゃねぇミスティ!腐ってもランク10だ、行動の全てに気を配れ!!」

 二人の剣戟を防ぐ中で、ふと、白い怪人が動きを止める。

『けひっ、きひひっ、くっひゃはははははは!!はひぃっ、ひぃっ、ひぃぃぃはははははは!!!』

「……ッ、ほら見やがれ、なんかしやがるつもりらしい」

 白い怪人は高笑いをすると、宙に舞うエネルギーを一点に収束させ、

『ひひっ、解錠……♡』

 自身の胸を貫き、そのエネルギーを体内に取り込んだ。

『Rhino……』

「チッ、一度倒した敵を僕が倒せねぇわけねぇだろうが……!」

 OOは舌打ちすると、ベルトの鍵を差し替え、メタルフォームに変身する。

「いくぞミスティ、徹底的にブチのめす……!」

「わかりました先輩……いきますよ!」

『Oblivion Metal Crash!』

『Oblivion Strike……』

 サイの鎧を纏った怪人に、青と黒の閃光が直撃する。爆発とともに煙が上がり、怪人は闇に消えた。

「やりましたか……!?」

 プロトOOが軽くガッツポーズをした直後、煙の中から、異なる鎧を纏った怪人が現れた。

『Barrier……』

『ふひひ。ひぃーっははは!!そんなに驚かなくてもいいじゃないかよぅ、でもその顔はなかなかかわいいぜぃ』

 その言葉遣いは、間違いなく件のバケモノのそれで。

「テメェ……まさかと言うべきか、やっぱりと言うべきか……他の怪人に変身できる、ってワケかよ……ッ!」

『そうなのぅ?ぼくも初めてこれ使ったからわからないんだよねぃ……教えてくれてありがとねぃ』

 バリアを眼前に張りながら、怪人は笑う。

「チッ、ナメやがって……!」

『ナメてないってぃ。そんなに怒られると怖くて泣いちゃうよぅ』

「それをナメてるってんだよクソが……!」

 OOは怪人を睨み、後ろに飛び退き、距離を取る。

『あれあれ、そんなに怯えてないでよぅ、大丈夫、殺しはしないからぁ』

 怪人は笑い、OOに迫る。

「……ッ、させると思いますか?」

『うん。だってぼく強いもん』

 攻撃を受け止めるプロトOO。しかし、数秒間持ち堪えたものの、すぐに跳ね飛ばされてしまった。

「チッ、どうすんだよコイツ……ッ!」

 


 

 逃げるように競技場から離れるOOたち。しかし、理性を飛ばした怪人が加減などするわけがなく。

「……ッ、どうしますか先輩、このままじゃ一般市民にまで被害が及びますよ」

「それを今考えてんだよ……ッ!」

 OOはしばし思考する。

 件のバケモノが変身した怪人はライノとバリアー。その共通点は、黒薙がすでに倒した怪人ということ。

「……もしかして、あいつは既に倒された怪人にしか変身できねぇんじゃ」

「可能性としてはあり得ます……けど、あいつは自分のタイミングで別の怪人に変身できる可能性もあるんですよね……怪人ごとに有効なマテリアキーは違いますから」

 と、ここまで言った段階で、プロトOOは何かに気付いたように目をかっと開け、

「まさか先輩……さっきみたいに力でゴリ押すつもりですか……!?」

「ご明察、ってなワケだから頃合いを見計らってあのセービングキャンセラーとやらを外せ」

「まぁ、確かにそれくらいしか対処できる手段は無さそうですけど……それで効かなかったら二人仲良く死にましょうか」

「ハッ……テメェなんかと心中するつもりはねぇよクソ後輩」

「冗談ですよクソ先輩……来ますよ!」

 二人は臨戦態勢に入る。

『まったくさーぁ、ぼくに関係ない奴を殺させようとするなんてぃ、きみも案外人が悪いねぃ』

「安心しろ、テメェほどじゃねぇよ」

『あっはは!言うねぃ、でもさぁ、きみたちがぼくに勝てずに逃げ出したのは事実だよねぃ?』

 挑発し合うOOと怪人。

「まぁ、こっちにも作戦ってもんがあるんでな……どんなもんかは教えねぇけどな」

『、教えてなんて言ってないよぅ、自意識過剰にも程がないかなぁ?』

「今一瞬言葉詰まったろ?テメェみてぇなガキが僕に口喧嘩なんて百年早ぇよ」

 一度揚げ足を取って自分のペースに持ち込めば、舌戦に負けない自信がOOにはあった。

「おいおいそんな黙り込まなくていいだろ?僕の良心が痛むよ、元からンなモン持ち合わせちゃいねぇけど」

『…………殺すよぅ』

「言い返せなくなったからってキレんなよガキ、それで捕まったの忘れてりゃ世話ねぇよな」

 OOは不敵に笑うと、マテリアキーを抜き、

『Material Attack!』

「今だミスティ!ぶちかますぞ!」

「わかってますって先輩……セービングキャンセラー完全解除、レベル1→5ッ!!」

 怪人は表情を歪め、OOたちを睨みつける。

「テメェの敗因は、僕の時間稼ぎに乗っかったことだ」

『Oblivion Blast!』

 正面からの光弾を避けようとバリアを張る怪人。しかし、本命は背後に回ったプロトOOで。

「私から訂正ですが……あなたの敗因は、私を侮ったことですよ」

『Material Finish……Oblivion Strike……』

 超高圧のエネルギーが収束した右足が、怪人を撃ち抜く。爆音が響き、巻き上がる煙を眺めながら、プロトOOは勝ち誇る。

「先輩、これで私に1ポイントですね」

「何の戦いだよ……ならさっきお前に勝った僕は5ポイントくらいは貰っとくぞ」

「むぅ……」

 しかし、煙が払われると、その中からは新たな鎧を纏った怪人が現れた。

『Armored……』

『ははっ、あっはははははは!!ぼくは勝った、勝ったんだよぅ!!!』

「……おいおい、お前と心中なんてお断りって言ったよな」

 OOは舌打ちし、臨戦態勢をとるが、予想に反して怪人は立ち向かってこなかった。

『あれ、なんで動かないのぅ……?ぼくはまだ戦え……っ』

「……最後の最後に力を込めた結果、って感じか」

 やがて、怪人の鎧は剥がれ、幼い少女がその場に倒れ伏した。

「……先輩、捕まえときますかこいつ」

「ま、それが得策だろうな……」

 


 

 少女に手錠を掛けようと屈み込み、その手を取ろうとする黒薙。しかし、次の瞬間、脇腹に激痛を覚え、数メートル転がった。

 辛うじて立ち上がり、その先を省みる。黒薙は、自身を攻撃したと思われるその男に確かに見覚えがあった。

 ミスティではない。むしろ、そのミスティに危機が及んでいる真っ只中だ。

「……何考えてやがんだクソ野郎、誘宵学区に宣戦布告して、こんな白昼堂々と気軽に外歩かれちゃ僕らの面目丸潰れだろうがよ」

「あぁ、これは失礼しました。ソロプレイがお好きな黒薙くんにそこまで考えられる脳ミソがあることなどまるで考えていませんでした」

「チッ、その人を小馬鹿にしたような物言い、裏切る前から大っ嫌いだったよクソ淫行教師……今のテメェを見りゃ、水削先生も悲しむだろうな」

 水削の名を出されて不快に感じたか、菱杖の顔が露骨に歪む。

「……そうですね、しかし、もう後戻りなんてできないんですよ。する気も何もありませんがねェ……ッ!」

 背後から襲いかかるミスティの一撃を躱し、その腹部に掌底を加え、突き飛ばす菱杖。

「安心してください、今ここで事を荒立てるつもりはこちらにはありませんよ……最も、貴方が私に楯突けばその限りではありませんが」

「……何でもいいがそこのガキを離せよ、不良生徒の保護は僕らの仕事なんだ」

「離す気などさらさら無いのは聡明な黒薙くんにはわかるでしょう?そして、この少女を連れ帰る私を止められる可能性がないことも、ね」

 気がつけば菱杖は気絶した少女を抱え、黒薙たちの遠くまで飛び退いていた。

「あぁ、それとこれは私からの助言ですが……16時半くらいになったら執行衛兵の本部に向かってみてくださいね、面白いものが見られるので」

 

「ミスティ!大丈夫か!?」

「……私は大丈夫ですよ、というか人の心配する前に自分の心配したらどうですか」

「チッ、減らず口叩く余裕があるなら大丈夫そうだな……」

 先程蹴飛ばされた際にできた顔の傷を拭いながら、黒薙は息を吐く。

「……あの男の言葉が気になってるんです。敵の言葉を真に受けるのも何ですけど、どうにもあれが犯行予告のように思えて」

「それは僕も思ってるよ……っつーか、あの野郎は教師をやってた頃から意味のない行動はしねぇやつだったからな」

 言いながら、黒薙は携帯を取り出す。それどころではなかったため気が付かなかったが、もう2時間が経過していて。そのことを自覚した瞬間、二人の腹が同時に鳴った。

「……なぁ、能力の化身も腹減ることってあんのか?」

「ありますよそりゃあ。食べなくても死にはしませんし度を超えた空腹感を覚えることはありませんけど」

「……どっか飯でも食いに行くか?」

「……いいですね、それ。先輩のおすすめのお店でも連れて行ってくださいよ」

 ミスティの返事を聞くと、黒薙は頷き、

「ド平日の昼間っからやってるような店だと……あそこしかねぇか」

 競技場の駐車場まで二人で戻る中、黒薙はボソリと呟いた。

「行くぞ、乗れミスティ」

 バイクに跨ると、黒薙はミスティにヘルメットを投げつける。

「……楽しみにしてますよ、先輩」

「おう、楽しみにしとけよ後輩」

 


 

 16時になった。おそらく、あと30分で執行衛兵の本部が菱杖らに襲われるのだろう。その件については、すでに先ほど遠山に連絡してあった。

「一応、幹部以上の執行衛兵は集めましたし念のために全構成員に待機するよう指示は出していますが……レーツェルちゃん、貴女いつの間に和解を……」

「……すみません遠山先輩、込み入った事情がありまして」

「それは構わないけれど……次に裏切ったら、今度こそ許しませんからね」

「そこは安心していいっすよ委員長、ミスティと僕は同じだ、僕が約束破ったことないでしょう?」

 黒薙は笑いながら言うが、遠山は目を細め、

「……貴方に背中を刺された思い出の数々が今まさに私の脳内を駆け回っているのだけれど、どの口が言っているのでしょうね」

「そりゃお互い様でしょ、僕らの関係は裏切り裏切られのドロドロ昼ドラちゃんだし」

 蛇のような目で互いを見つめ合う二人。

「……なんでもええけど、あのクソだけは俺が殺すで」

 一方で、上方は額を掻き毟りながらつぶやいた。

「落ち着くにゃ〜上方左舷、あのクソはあたしがブッ殺すんだから邪魔させないゾ☆」

「落ち着くのはお主のほうだろう、奈菜々。……同胞をやられて許せないのは、拙者も同じだ」

「……本当に短絡的ですね、ウチの単細胞どもは。と、嘆いてはみるものの自分も同じ怒りを抱いていることを隠しきれずに呟きます」

「下総はともかくとして自分もあのカスのお仲間に一発もらってるっすからね、ぶっ潰さないと気が済まないっすよ」

 上方に続くように、集まったメンバーが口々に怒りを漏らす。

「……来ましたよ、全員、戦闘準備をお願いします」

 遠山の言葉をトリガーに、執行衛兵たちが臨戦態勢をとっていく。

「「変身ッ!」」

 黒薙らもベルトのレバーを倒し、襲い来る怪人に備える。

『んー、その様子を見る限り、素直に対話に応じるような状況ではなさそうだねぇ』

 現れた怪人──パラサイト・シャトランは人差し指でこめかみを掻きながら言った。

「……見る感じもともと対話しに来たわけじゃなさそうだけどな」

『んー、そう言われるとちょっと傷ついちゃうなぁ。間違ってはないけどねぇ』

 悪びれもせずパラサイトは言う。その隙を突くように上方と奈菜々が飛びかかるが、二人の攻撃は横合いからの影に遮られた。

『久しぶりだね〜ナナ〜!親友のボクがいなくて寂しかった〜?』

「黙るにゃアバズレ、あたしはお前を親友と思ったことにゃんて一度たりともにゃい」

『んも〜口が悪いんだから〜!……今まで騙してきたのは悪いけど、ボクだって後戻りできないんだよね』

 明るかったフォックスの声が途端に陰る。

「……俺んこと、忘れるんちゃうで」

『ごめんね上方先輩、あなたの相手をしてる暇はないんだよ〜』

 上方はハンマーを振りフォックスにら襲いかかるが、周囲から湧くように現れた狐面の怪人たちに阻まれ、不発に終わった。

「……あたしを隔離して、にゃにするつもりかにゃ?」

『……ただ、お話ししたかっただけだよ、ナナ。ボクはもう戻れないところまで来ちゃったし……だから、最後に親友に会いたくってさ』

「だから、あたしはお前と親友ににゃった覚えにゃんてにゃいけどにゃあ」

 睨みつけながら奈菜々は言う。

『フラれちゃったか……ツレないな〜』

 フォックスは笑いながら飛び退く。

『じゃあねナナ……最期に話したのがキミで本当に良かった』

 


 

「チッ、テメェのその尋常じゃねぇ強さ、反則じゃねぇのか……ッ!」

『んー、俺はもともと強いからなぁ。でも、それ以上に強く戦えてるのは君のおかげだよ黒薙颯斗くん』

 一方で、OOは新たに現れた怪人に苦戦していた。

『俺は君に恨みがある。ここまで言えばわかると思うけどなぁ、ここまで強くて君を恨むような相手に誰がいるか考えてみるといいねぇ』

 ヒントはさっき君が戦った相手、とパラサイトは言う。

「まさか、テメェは2年前の……ッ!」

『ご明察。君たちに捕らえられた2年前の借りを、今返しに来て差し上げたというワケだねぇ』

 かつて誘宵学区に反旗を翻し、黒薙らが呉越同舟で力を合わせてようやっと捕らえた元ランク10の超能力者。それがこの怪人の正体。

「……通りで強い訳だ、こりゃちょっと本気出さねぇとマズいか」

『んー、本気出しても勝てないと思うけどねぇ。というか、今日のところは勝ち負け気にせず楽しむつもりなんだけどなぁ』

 パラサイトは笑うと、パチン、と指を鳴らし、

『どうせ遊ぶならみんな輪になってほしいんだよなぁ、統率が大事なのは君たち執行衛兵が一番よく知ってるよねぇ』

 壁が周囲を円状に囲む。先程飛び去ったフォックスはともかく、バキュームと元ランク10、それにフォックスが残していった大量の雑魚が執行衛兵たちに襲いかかる。

「面倒な真似を……っ!武装、限定解除……っ!」

 遠山はペンダントを握りしめると、両腕に機械の腕を出現させ、狐面の怪人を次々と倒していく。

「早瀬ジュン……あなたごときの相手をしてる暇はないんですけどね……ッ!」

『暇がなくても付き合ってもらうぞ……俺なりの時間稼ぎにな』

 一方、プロトOOはバキュームの武器に苦戦を強いられていた。

「クソが……ッ!面倒な状況作りやがって……ッ!」

『んー、君の気持ちもわかるなぁ、けどねぇ、君が俺たちにしたことを考えれば、これくらいされても文句は言えないよねぇ」

 パラサイトは余裕げにOOをあしらいつつ、チラチラと壁にかかった時計を盗み見ていた。

「……戦いに集中されないって、こんなにムカつくことだったのか」

『んー、君には怒る権利があるしそれを止めるつもりはないけどねぇ。でも怒ったところで状況は何も変わらないんじゃないかなぁ』

 OOは武器を持ち替えつつ、パラサイトに幾度となく攻撃を仕掛けるが、そのことごとくが弾かれる。

『んー、そろそろ時間かなぁ』

 そんな中、ふとパラサイトが口を開いた。

 その次の瞬間、円状の壁は消滅し、所狭しと暴れていた怪人と執行衛兵が一斉に放たれる。

『黒いOO……俺の時間稼ぎに付き合ってくれたことには感謝しておくよ』

「どこまでも私をコケにしますかクソ野郎……ッ!」

『……また、いつか戦えるといいんだがな』

 プロトOOの攻撃を躱し、バキュームは遠くに飛び退く。

『委員長さん、俺たちの陽動に気を取られてくれてどうもありがとねぇ。今すぐ明星学園に戻ってみるといいと思うなぁ。面白いものが見られるからねぇ』

 パラサイトはそれだけ告げると、まるで霧に吸い込まれたかのように姿を消した。

「……行きますよ、どうにも嫌な予感がします」

 


 

 明星学園に着いた黒薙たちが目にした景色、それは悲惨という言葉では収まりきらないほど悲惨であった。

「どうなってやがんだこいつは……ッ、澪は無事なんだろうな!?」

「今はうろたえてる場合じゃにゃいってわかってはいるけど……何がどうしてこうにゃったのかにゃあ……!?」

 言葉に反して、奈菜々は顔を青ざめさせながら言った。

「……黒薙くん、黒薙くん!!大変だ、赤萩さんが、赤萩さんが!!!」

 ボロボロの校舎から駆け出してきた黒薙の友人、朱鷺澤。

「赤萩さんがどうしたんだ朱鷺澤、僕は今来たばっかで状況が掴めてね……」

「赤萩さんが怪人に攫われたんだよ……!ごめんなさい黒薙くん、僕たちは何もできなかった……!!」

 矢継ぎ早に語る朱鷺澤。その言葉を聞いた黒薙は顔色を変え、

「………………クソ野郎ども、人様の友達に手ェ出すってことがどれだけの意味を持つかその身に愉快に爽快に理解させてやるよ」

「……待ってください、先輩。先輩の友人が攫われたのは残念ですが、今からあてもなく怪人たちを追うことはおすすめできません」

 焦燥に駆られる黒薙を止めるかのように、校内の様子を見に行っていたミスティが話しかけた。

「どうにかして特定すんだよ、それが僕らの仕事じゃねぇのかよ?」

「……違うわよ黒薙くん、私たちの仕事は全ての生徒に公平に救いを与えること。まずは生徒たちの安否を確認して……」

「委員長まで僕の怒りを否定すんのか?……ふざけんじゃねぇ、僕は今久し振りにブチ切れてんだ」

「ふざけてんのはお前だろクソガキ、あまり勝手な行動をして隊列を乱さないで欲しいのですが?」

 黒薙と遠山の間にピリピリとした緊張感が生まれる。

「……はいはい落ち着きなはれやお二人さん、遠山はんの言う通り、今の俺らの仕事は生徒の安否を確認することやろ?仲間同士で争うこっちゃあらへん」

 二人を仲裁するかのように上方が割って入る。

「…………チッ、どうしてどいつもこいつも僕の邪魔を……ッ!」

「落ち着いてください先輩……いくら怪人とは言え、何の目的もなく人を攫うとは考えにくい。後になんらかの声明があるはずです。そして、今のままではあの怪人たちを倒すことはほぼ不可能に近い」

 ミスティは黒薙を諭す。

「……じゃあどうするってんだ。悠長に鍛えるなんて馬鹿なこと言うんじゃねぇぞ」

「マテリアブレイカー。マテリアキーのリミッターを強制的に解除し、本来以上の力を生み出すガジェット。それが、これからの戦いに必要になります」

 

 同時刻、誘宵学区のある場所で、コンピュータの前で、白髪の青年が呟いた。

「まさか、菱杖透流がOverXまで解放するとは……さすがに予想外でしたね、理事長先生」

『現状では私のプランに支障は及ばない、とこの機械の肉体は述べているヨ』

 液晶に映った『人間』は、機械的に言葉を紡いだ。

『しかシ……ふム。OverXの暴走が巻き起こす被害を考えるト、少しばかリ、厄介なことになってきたようだネ』




今回は黒薙と因縁のある怪人が二人登場しましたね。
彼らはかつて誘宵学区に反旗を翻し、黒薙たちによって制圧された最強の能力者たちです。
……が、そのあたりの細かいことがO本編に関わってくることはほぼないので、そういう事件が昔あったんだとだけ覚えておいてもらえれば幸いです。
さて、今回のラストには、マテリアブレイカーとかいう明らかにヤバそうな名前の代物が登場しましたね。
めちゃくちゃ使ったら暴走しそうな名前ですが、果たしてどうなることやら……。
いつも読んでくださり、誠にありがとうございます。
感想などございましたら、是非コメントいただけると励みになります。墓脇でした。
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