仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第12話「この手に『梓弓(ゆみ)』」を

「兄さん……もう大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫だよ……悪い、お前に心配かけちまって」

「……本当だよ。何回も何回も何回も何っっっ回も心配かけて、兄さんはもう少し妹のことを考えて欲しい」

 澪に責められ、黒薙は言葉に詰まる。

「まぁ、そこが兄さんの長所であり短所でもあるんだけどね。どうせ兄さんはあたしが止めたって効かないからもう何も言わない」

 澪の言葉は棘だらけだったが、その奥には黒薙を心配する本心が隠れている。そのことを黒薙は知っている。だから。

「澪……ありがとう。それがお前なりのエールってやつだろ?」

「自分勝手に物事を解釈するのは間違いなく兄さんの短所だよ。あたしは何も言ってないし何も言わないって今言ったけど」

「僕とお前がどれだけ長い付き合いだと思ってんだ?言わずとも大切な妹のことならなんでもわかってるつもりだよ澪」

「〜〜〜〜ッ、そういうとこだよ兄さん、兄さんは女なら誰でも口説かなきゃ気が済まないの!?」

 いつも思っていることを口にしただけなのになぜ澪がこんなに怒っているのかわからない、といった顔で黒薙は首を傾げた。

「……ほんっと。そういうとこだよ兄さんは。あたしが何言っても兄さんは止まらないんでしょ?ならもう迷わないで亜矢さんを助けてきてあげて」

「迷うな、ってか……よくわかったな、僕が迷ってるって」

「あたしと兄さんがどれだけ長い付き合いだと思ってるの?言わずとも兄さんのことならなんでもわかってるつもりだけど」

 意趣返しと言わんばかりに言った澪のケロっとした顔を見ると、黒薙は笑い、

「……ハッ、言うようになったじゃねぇか澪。いいぜ、赤萩さんくらい僕が颯爽と華麗に救い出してやるか」

「……うん、いい顔。兄さんのその顔が見たかったんだよあたし。最近ずっと浮かない顔してたから。兄さんがそんな顔してると、あたしもちょっと悲しくなるから」

「〜〜〜〜ッ、テメェもテメェで男をオトすのが上手ぇじゃねぇか。一瞬キュンと来ちまったよ」

「……ごめん兄さん、今の兄さん過去最高にキモかった。写真撮りたいからもう一回今の顔してくれない?」

「無茶言うな澪、イケメンにする要求じゃねぇだろそれ」

 二人が笑うと、ミスティが部屋の扉を叩いた。

「兄妹で許されざる禁断の蜜月を過ごすのは構いませんができればそれは食後に、ご自身のお家でお願いします。そこ私の部屋なので」

 


 

「……さて、行くかミスティ」

「ですね……亜矢先輩を助けるためにこの命を投げ打つ覚悟くらいならできてます」

「言うじゃねぇか後輩……じゃ、僕もテメェの命賭けて赤萩さん助けてやるかね」

 菱杖の指定した時間の一時間前、黒薙とミスティは、作戦会議も兼ねてカフェを訪れていた。

 まずは黒薙とミスティが突入し亜矢を解放。菱杖を撃破し、後詰めの執行衛兵とともに怪人を殲滅することを第一に考える。第一プランが失敗した際のことも考え、第二第三と策を出し合った。

 そして今、二人は菱杖が呼び出した廃ビルの前に立っている。

「よし、行くぞミスティ。赤萩さんを救いに」

「何度も確認取らなくてもいいじゃないですか先輩、この確認フェチめ」

「ンだよ確認フェチって……ま、戦闘前にボケられる余裕あるってのはいいことか」

 黒薙は口角を少しだけ上げると……廃墟のドアを蹴破った。

「オラ出てきやがれ菱杖透流!テメェが呼び出してくれやがった黒薙颯斗様の到着だ!」

「……待っていたぞ黒薙颯斗。赤萩亜矢に釣られてノコノコと顔を出すとは、存外に貴様も俗な男だな?」

 菱杖は姿を見せず、その代わりと言わんばかりに高坂が現れた。

「おや、誰かと思えば腰抜けの高坂操糸サンじゃないですか、情けなく逃げ回るためにストレッチでもしたらどうですか?」

「貴様は確か……黒いOO、いや、ミスティーク=レーツェルか。自分に跳ね飛ばされた小娘がよくその口を叩けたものだな?」

 ミスティは高坂を睨みつける。一触即発の空気の中、ミスティが懐のドライバーを掴んだ瞬間、邪気を多分に孕んだ声がフロア中に響いた。

「大人しくしてください、黒薙くん、レーツェルさん?ピエロもです、私に逆らえば貴方であれど消しますよ」

「……はッ、ようやく出てきてくれやがったか諸悪の根源!」

 目的の相手──菱杖透流が現れ、黒薙は悪魔のような笑みを浮かべる。

「チッ、ならば何のために自分を前に出させたんだ?まぁ良い、自分の仕事はまだあるしな」

 高坂は不満をこぼすが、菱杖は気にも留めず、黒薙を見下している。

「いやはや、貴方なら来てくれると信じていましたよ黒薙くん、正義感の強い君なら、ね」

「いいから赤萩さんを出せよ、罠の可能性も考えた上でわざわざこんな辺鄙なトコまで来てやった元教え子サマの頼みだ」

「ハハッ、そう逸らないでくださいよ元教え子くん?言われなくても赤萩さんは返しますよ」

 ホラ、と菱杖が言うと、螺旋階段から、目隠しをされた亜矢が、鮎川に連れられて現れた。

「こっちの顔できみに会うのは初めてだよね?鮎川悠翔だ、以後よろしく」

「……知らねぇよテメェの名前なんざ、いいから赤萩さんを離せクソ野郎」

「口の悪さは相変わらずだね『異能共鳴』……そんなに急かさなくても返してあげるって、きみの彼女をさ」

 鮎川が亜矢の手錠に触れると、ひとりでに錠は解け、同時に目隠しも解除された。

「ほら、行きなよ人質……ごめんね、これも仕事だから」

「あっ、えっ……?な、なんであんたがこんなところに来てるのよ!?今すぐ逃げて黒薙!!こいつらの狙いは私じゃ……」

「だからどうしたんだ?このクソ野郎どもの狙いが赤萩さんじゃなかろうと知ったこっちゃねぇんだよ、僕はアンタを助けに来たんだからな」

 拘束が解かれた赤萩……だが、彼女が述べたのは黒薙への感謝ではなく、むしろ責めるような言葉であった。

「ヒューッ、なかなか格好いい言葉を言うじゃありませんか黒薙くん!いや、いっそ歯の浮くような、と言ってあげた方がいいでしょうか?」

 菱杖は嘲るように笑い、さらに下卑た笑みを浮かべながら言う。

「これで黒薙くんの要求は通した。今度はこちら側の要求も飲んでもらいましょうか……今、ここで、貴方の両手を切り落としていただきます。……まァ、拒否権もありませんがねェ!!」

 危ない、とミスティが叫ぶが、時すでに遅く。

 見えない刃が、瞬時にして黒薙の腕を切り裂いた。

 


 

「ぐッ、あッ、あァァァァァッ!?あッ、ひィッ、ぐァァァァァァァァッ!!??」

 切り取られた腕の切断面から鮮血を噴き出し、黒薙は絶叫する。骨ごと切り裂く旋風の刃は、まともな意識を保つことさえ許さず、

「先輩っっっ!!!くっ、あなたたち、一体なんの真似ですか……ッ!!!!」

 倒れ伏した黒薙を省みて、ミスティが叫んだ。

「レーツェルさん、貴女ならわかるハズですよね?黒薙颯斗の両腕がどんな価値を持つか……さぁ、やりなさいピエロ、ビークル。仕事の時間です。やかましい蝋人形を消し飛ばせ」

 菱杖がパチン、と指を鳴らすと、高坂と鮎川は鍵を取り出し、

「まったく、どうしてこのぼくがポーン上がりの『木偶人形』なんかと……まぁいいか」

「こちらの台詞だ。黒薙颯斗を消すのが目的ゆえ、この小娘をやるのは本意ではないが……」

 高坂は鍵を首に突き刺し、鮎川は銃のような武器に差し込み、それぞれ呟いた。

「「解錠」」

 二人の体が鎧に包まれる。それぞれが決戦兵器とも呼べる怪人の視線の先には、応戦の準備を終えたミスティがいた。

「チッ、あぁそうですか……ハナっからこれが狙いだったと。仕方ねぇ、私がこの手であなた方を殲滅する」

『Proto OO……』

 ミスティもノーモーションでベルトを装着し、黒い鎧をその身に纏う。

『『異能共鳴』に負けたきみがぼくに勝とうなんて百年早いと思うんだけど、そこのところをどう思っているのかお聞かせ願いたいね、『異能共鳴』のバーターちゃん』

「あなたごときに答える言葉はありませんよ、来るならさっさと来い、雑魚」

『口の悪さは『異能共鳴』譲りだね、打たれ弱さは違ってくれると嬉しいよ!』

 ミストOOとビークル、ピエロが打ち合う。その一方で、菱杖は返り血に濡れた手で亜矢を捕らえた。

「はな、して……!離せっ!!私はアンタなんかに……!」

「ははっ、赤萩さん、貴女は何か勘違いしているようですけど、私は貴女を解放するとは一言も言っていませんよ?万一のことも想定してスペアプランの貴女にも来ていただきたいのでね」

 逃げようとする亜矢の手首を強く掴んだ……その瞬間。菱杖は言い知れない恐怖を覚え、ふとその手を引き、振り返った。そこには、腕を切り落とされ気を失ったはずの黒薙しかいなかった。

「……まったく、半死人のくせに私を驚かすなんて、本当に出来の悪い教え子ですね、いっそ殺意すら湧く」

 黒薙の返事がないことを確認すると、菱杖は再びその手を亜矢に伸ばした。

「ぇ……赤萩さんに、手ェ出すんじゃねぇ……ッ!」

 それを遮るように、絞るような声が響く。誰もがその声のした方を向く。有り得ない、何故、──と。

「……、どういう、ことだ。貴方は確かに、私が、この手で……!?」

 肘から先を切り落とされ、本来ならば正気を保つことさえ出来ず、命すら落としかねないはずの鬼神は、しかし、菱杖の疑問に答えない。

「まさか……先輩、駄目です、その力は……」

「いいから黙って力を貸せ、ミスティ」

 ミスティの制止も聞かず、黒薙はその手をミストOOへと伸ばす。

「せん、ぱ……」

 すると、その体は光の粒子となり、黒薙の体へと吸い込まれ始めた。

「黒薙……アンタ、一体何、を……」

 亜矢は驚きの声を漏らす。黒薙がミスティを吸収した瞬間──黒薙の身体に大きな変化が訪れたからだ。

「「ったく、他人の腕を好きに切り落としてキャーキャー喚きやがって。で、約束は破ると。僕はお前みたいなヤツが世界で一番嫌いなんだよ」」

 その少年は、確かに黒薙颯斗だった。青みがかった髪を肩まで伸ばし、切り落とされたはずの腕を携え、赤青二色の眼を煌めかせてはいるが、それが黒薙颯斗であることは誰の目にも明らかだった。

「「僕の腕はおろか赤萩さんにまで手ぇ出そうとしたんだ、この程度、何の文句も言わねぇよな?」」

 黒薙の声がブレる。光が腕に収束し……やがてそれは、梓弓(ゆみ)を形作った。

「くっ……黒薙くん、貴方は一体……!!」

「「この手に梓弓を。その真なる役は断罪。番えられし矢は破滅の光刃」」

 菱杖の問いは、ギリギリ、と糸を引くような音にかき消される。

「「神の名において遂行する──解き放て、『三叉の魔弓(ピナーカ)』」」

 


 

 “黒薙颯斗”の掌から放たれた光の筋は、やがて三叉に別れ──3人の敵を貫いた。

「くっ……!少しはやるようだね『異能共鳴』……っ!」

「…………不甲斐ない」

 ビークルとピエロの変身が解かれる。しかし、当の菱杖は、何もなかったと言わんばかりに笑っていた。

「ハ、成程、成程、成程ねぇ!それが『異能共鳴』の真の力というワケですか!!交換材料以上の用はなかったつもりなんですがねェ!!!俄然興味が湧いてきましたとも!!!!」

 不遜に笑い、笑い、笑い……菱杖は銃に鍵を突き立てる。

「私をもっと楽しませてくださいよ黒薙くん、解錠……!」

 杖を構えた悪魔が現れる。しかし“黒薙颯斗”は眉一つ動かさず、ただ腰にバックルを当てるだけだった。

「「楽しむ暇なんて与えると思っていやがるのか?これからテメェが味わうのは、断末魔の苦しみだけだ」」

 “黒薙颯斗”は淡々と告げ、マテリアキーをベルトに挿し入れ、マテリアブレイカーを滑り込ませる。

「「変身」」

『Breaking OO……Time Charge』

 一切の躊躇いもなくブレイクフォームに変身する“黒薙颯斗”。

『ハハッ、早瀬くんを死に至らしめた力すら躊躇なく使いこなしますか!やはり君は獣だ、血に飢えた醜い獣だァ!』

「「吠えたきゃ好きに吠えりゃいいさ、どうせ負け犬の遠吠えだ……いちいち気に留めるまでもねぇ」」

 OOはクロージャーの言葉を聞き流すと、瞬時にその姿を消した。……否。その一瞬でクロージャーの背後を取っていたのだ。

「「ホラ、言ったろ?雑魚がいくら吠えようと所詮負け犬の遠吠えでしかない、ってな?」」

 一瞬の剣戟がクロージャーの首を切り落とす──寸前。クロージャーは大きく飛び退き、銃から3発の光弾を放った。その光弾は確かにOOに直撃し、変身を解いたかのように思われた。

『……Metal Charge』

 しかし、OOは無傷で立っている。その鎧の色を青く変えて。

『何故です、私は確かに貴方を……』

「「まさかお前、OOが幾らでも鎧を変えられること忘れていやがるんじゃねぇだろうな?このオモチャを使ったところでそれは変わらねぇよ」」

『くっ、面白いじゃありませんか……ッ!』

 クロージャーは笑い、OOから距離を取ろうとするが、

『……Spin Charge』

「「不利になって逃げるのは勝手だが、僕がお前を逃すとでも思うのか?」」

 “黒薙颯斗”は、一度定めた標的を決して逃さない。

『まっ、待て!私は……』

「「今更言い訳しようったってそうはいかねぇよ……お前の罪の重さを、地獄で呪い続けろ」」

 OOの鎧が再び赤く変わる。その指先が、マテリアブレイカーを幾度か叩いた。

『First Charge……Second Charge……Third Charge……Full Charge……』

 秒針の音が鳴るたびに、赤黒い閃光はその強さを増す。

『Over Charge……Over Breaking Oblivion Time Strike……』

 そして、その光は時間を止め……次の瞬間には、全てを奪い去っていた。

 


 

「……ッ!菱杖はどこだ、あのクソ野郎……ッ!ってあれ?なんで僕の手くっついてんだ!?」

「いたた……強引に吸い込まれたから身体中痛いんですけど……」

 廃ビルの中で、二人は目を覚ました。

「……よかった。黒薙も青い子もちゃんと目覚まして」

「……ん?どうした赤萩さん?つーか菱杖の野郎はどこ行きやがったんだ?」

「なんでもないわよ黒薙。ていうかアンタ、ほんとに忘れてるわけ?アンタがそこの青い子を吸い込んで、変身して、菱杖を倒して……トドメをさす前に逃げられたんだけど」

「吸い込ん……!?赤萩さん、こんなこと言うのもなんだけどあんた何か妙な夢でも見てたんじゃねぇのか?」

 亜矢の口から溢れた理解できない言葉に黒薙は驚き、つい口調が荒くなる。

「ハァ!?私がそんな馬鹿な夢見るわけないでしょ!?私はただアンタを心配して…….って何言わせんのよバカ!!」

「痛ってぇなテメェ!!手負いの怪我人ブン殴るとか何考えてやがんだあんた!?」

「うっさいバカ!!心配して損したわ!!」

 言い争いに発展し、しばらくその状態が続くと、ふと、扉が開くような音が響いた。

「誰だ……って、テメェは……ッ!」

「誰だ、はこっちの台詞だよ……なんで、てめぇが亜矢を連れてやがる!答えろ!!」

「今さっき助けに来たからだよ、テメェの妹は無事だ、安心しな」

「嘘をつくな!嘘をついても俺にはわかるぜ、てめぇが亜矢を洗脳でもして無理矢理に連れ出したってことは!!黙って亜矢を返しやがれクソ野郎がッ!!!」

「違うのお兄ちゃん!私はこいつに、黒薙に助けられて……」

「亜矢……あぁ、そのクソ野郎に操られちまってるんだな……安心しろ、俺がお前をそいつの呪縛から解き放ってやる!」

 赤萩は黒薙を睨みつけると、

「──解錠ッ!!!」

『Armored……』

 その身を鎧で包み、黒薙へと襲いかかる。

「チッ……!ミスティ!赤萩さんを連れて下がってろ!こいつは僕が何とかする……変身ッ!」

『Time OO!』

 黒薙もOOに変身し、臨戦態勢をとる。

「マテリアブレイカーも使わずにどう勝つつもりか知りませんけど……!チッ、仕方ねぇ……赤萩先輩、逃げますよ……っ!」

「えぇっ!?ちょっ、何が起きてんのよコレ!?」

「諸々説明してぇのは山々ですけど、今はンな悠長なことやってられる場合でもないんです、すみません!」

 ミスティは亜矢の手を取って駆け出す。黒薙が赤萩を倒した時、赤萩を完全に救えるのは亜矢だけだと知っているからこそ、一時的にその場を離れる。

『逃がさねぇ……!亜矢を連れ去ろうったってそうはさせねぇ!!』

「させねぇってのはこっちのセリフだクソったれ!いい加減目ェ覚ましやがれ!!」

 ミスティを追おうとするアーマードを、OOが制す。刃の切っ先でもって、その行く手を阻む。

『クソ……っ!なんでてめぇらは亜矢を狙う!?“sister”は二度と作らせねぇ!!』

「だから落ち着けっつってんだろ馬鹿野郎がッ!!!」

 怒りを込めて振り下ろされる斧を間一髪で避け、OOは叫んだ。

「操られてんのは赤萩さんじゃねぇ、テメェだろうが!さっさと正気に戻って赤萩さんに謝らせてやるよ!!」

 アーマードの斧による一撃を受け流し、カウンターとしての一閃を放つ。

『俺が操られてる、だぁ?訳の分からねぇことを言うんじゃねぇ!俺は俺だ!!他の誰でもねぇ、超能力者の赤萩陽希なんだよォォォ!!!』

 直後、叫びに呼応するかのように、アーマードの斧が爆炎を纏った。

 


 

「チッ、めんどくせぇ真似をしやがる……ッ!」

『Replace! Metal OO!』

 青い鎧を身につけたOOが、燃え盛るいくつもの炎を消し去る。

『バーカ、その炎は囮に決まってんだろうが!』

「気付いてるっつーの……っつーかテメェ、随分と動きが鈍くなったんじゃねぇか?」

 アーマードは背後からOOを切りつける……が、OOはまるで見切っていたかのように斧を受け止めると、そのままへし折った。

『……っ!ならこいつでどうだ!?』

 続けて、極細の超高熱レーザーがOOに向けて放たれる。

「変身しててもクソ熱いんだ、まともに食らえば一撃かもしれねぇな……だが、愉快に爽快に理解しな。能力ってのは根元を断てば消えるモンなんだよ!」

『Spin OO!』

 しかし、緑の閃光が、その発射口を瞬時に貫くと、その熱線は消失し……直後に、大爆発を起こした。

「なぁ、テメェの渾身の必殺技はもうネタ切れか?興醒めだなランク10、ンなテンプレ通りの使い方じゃなく、テメェの頭でひり出した戦い方を見せてくれよ」

『どこまでも俺を舐めやがって……!いいぜ、てめぇがそんなに死にたいなら好きにしてやるよ!』

 アーマードの手のひらに炎が収束し、それはやがて剣の形を模る。

「ほぉ、流石は炎使い、ありがちな見栄え重視の技を使う……テメェ人が話してる最中に切りつけるってのは反則じゃねぇのか!?」

『亜矢を人質に取ったてめぇにだけは言われたくねぇよ、死ね』

「どこまで勘違い拗らせりゃ気が済むんだテメェは……ッ!」

 超高熱の炎の剣がOOを掠めた。

『さっさと観念したらどうだ?黙って亜矢を返せば命だけは奪わずにおいてやるからよ』

「お断りだよ……ッ!テメェこそさっさと目ェ覚ませってんだ」

『そうか……残念だな。亜矢のために人を殺すなんてやめにしよう、って決めてたのになァ!』

 OOは振るわれた炎剣を避けようとする……が、直後に無数の熱線が黒薙に向けて照射された。

『てめぇに攫われた亜矢は今すぐにでも取り戻してやるから安心して地獄に落ちてろクソ野郎……つっても、もう死んでるから聞こえねぇか』

 倒れ伏したOOに背を向け、歩き出すアーマード。その背に、巨大な光弾が突き刺さる。

『……ッ!?』

「……へ、へ。無防備な背中にブチ当たる銃弾ってのは、なかなかに効くモンだろ?」

 息を切らしながらも、OOは不敵に笑い、銃口を撫ぜる。

「不意打ちにゃ不意打ちで返す、悪りぃが正義の味方に正々堂々なんて文字はねぇんだ」

『ふ、ざけやがって……てめぇだけは俺がこの手でブチ殺す……ッ!』

「やってみやがれランク10、『陽光豪炎(プロミネンス)』!こっちも手加減はしねぇからよ!!」

 アーマードは再び極細のレーザーを放つ。先の負傷が故か、その数は目に見えて減少していた。

「ハッ、その程度で僕をやろうなんざ舐められたモンだなぁオイ!」

 対するOOは、武器を振るってその熱線を弾き返す。しかし、その軌道は、疲れからかブレが目立っていた。

「……ッ!クソッ、タレがァ……ッ!」

『チッ、こうなりゃあ拳で語るしかねぇよなぁ!』

 そして、OOの武器は手元を離れ、アーマード熱線を放つホルスも尽き……二人は互いを目指してその足を踏み出す。

 ドッ、と。鈍い音が二重に響く。

『これで俺の勝ちだ……トドメだ、せめて亜矢を誑かしたことを悔いながら死ね!』

 先に膝をついたのはOO。高濃度のエネルギーを纏ったアーマードのキックがOOに叩き込まれようとした瞬間。

「……ざ、けんな。こんなところで終われるワケねぇだろうがッ!」

『Materia Breaker!』

 OOの手がマテリアブレイカーのスイッチを押した。そしてそのまま、手元に転がっていた剣へと挿し込まれ……

『Material Attack! Oblivion Break Slash!』

 真っ黒な斬撃が、コンマの差でアーマードを無力化した。

 


 

「……こ、こは……?そうだ、亜矢は!?亜矢はどこにいる!?」

「お目覚めのようで何よりだよ赤萩陽希。ちゃんとソッチの方は目ェ覚めたんだろうな?」

 数刻のち。赤萩が目を覚ましたのを確認すると、黒薙は片目を抑えながら尋ねた。

「お前は、確か……黒薙颯斗、だったっけ?ソッチの方ってのは一体……ま、さか」

「思い出してくれたようで何より。で、何か言うことがあるんじゃねぇのか?」

 何かを思い出したか、顔を青ざめさせる赤萩に、黒薙は迫る。

「……悪かった!!俺は俺の勝手な感情で……ッ!?」

「……違うだろ。テメェが謝るべき相手は僕じゃねぇだろうが!ぶっちゃけテメェの気持ちはよくわかる!妹を守りたいって思うのはどこの兄貴も一緒だよなぁ!あぁ、常識かもしれねぇ!だがこれだけは言わせろ!テメェが本当に謝るべき相手は誰だ!?これでまだ最初に僕に頭ァ下げるってんなら本気で一発ブン殴るぞ!?」

 赤萩の返事に対し、黒薙は目を剥いてまくし立てた。

「オラ、テメェが謝るべき相手は、そこに居んだろうがよ」

 赤萩の首を掴んだまま、黒薙は大きな螺旋階段を指し示す。

「……お兄ちゃん、おはよ。ちゃんと、目は覚めた?」

「亜矢……俺は、お前を……ごめんなさい、本当に、ごめんなさい……っ!!」

 亜矢の姿を見た赤萩は、黒薙を突き飛ばし、亜矢の方まで走って向かうと、目に大粒の涙を浮かべながら、謝罪の言葉を述べた。

「……よかった。ちゃんとお兄ちゃんが戻ってきてくれて……ねぇお兄ちゃん。誰にだって間違いはある。それが大きいか小さいかは違っても、間違えることは悪くない。大事なのはそこからどう立ち直るか、じゃない?私はお兄ちゃんからそう教わったんだけど?」

 対する亜矢は少し頬を染めながら、義兄の頭を撫ぜる。

「はぁ……先輩。あなたは本当に、こんな御涙頂戴のコテコテ兄妹愛ストーリーを見るためにあんな無茶したんですか?」

 一方で、亜矢の後を追うように降りてきたミスティは、黒薙に問いかける。

「ため息をつきてぇのはこっちだよクソッタレ。っつーかテメェはまだまだ僕のことを知らねぇみてぇだなミスティ?立ち直れそうな奴にはしっかりとバックアップすんのが僕の流儀だ」

 黒薙はこめかみを掻きながら答える。そこには単なる怪人事件の被害者に向ける以上の憐憫が含まれていたことは、想像に難くない。

「……ま、もちろん赤萩陽希に対しては後でたっぷりと事情聴取はさせてもらうが……せめて今くらいは義妹と話させてやりたくてな。そうしねぇと、あいつを本当の意味で救うことはできねぇだろうしよ」

「……えぇ、そうですね。それにしても先輩は甘い……私の知る黒薙颯斗と先輩は、もはや別人と言っていいです。……お願いです先輩。絶対に、闇に飲まれたりしないでくださいね」

「何言ってんだか。僕みたいな正義の使者が闇に染まるワケねぇだろ?……さて、あとはアイツを確保して連れてくだけか……ま、しばらくは待ってやるとするか」

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