仮面ライダーO   作:墓脇理世

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Ordinary Days「とある少女の映画鑑賞」

 仮面ライダープロトOOこと、ミスティーク=レーツェルの朝は早い。

「ふぁ〜あ、またクソ最悪な夢でしたね……」

 毎朝4時30分に彼女は起床する。ここ最近はかつての悪夢に侵されることも珍しくなく、その日の目醒めはあまり心地よいものではなかった。

「……シャワーでも浴びますか」

 起床後すぐ、ミスティは寝巻きから下着に至るまで全てを脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿でバスルームの前で仁王立ちする。見ていた夢がどんなものであろうと、これだけは外せない、一種のルーティーンと呼べるものになっていた。

「……ふぅ」

 キュッ、とハンドルをひねると、無数の冷水の筋がミスティの柔肌に突き刺さる。そうしている間は、余計なことなど忘れられる。そのためだけに生きていると思えるほど、ミスティはこの時間を愛していた。

「あぁ、今日もまた一日が始まってしまう……」

 とはいえ、いつまでもシャワーを浴びていられるほど暇ではない。一応だが、ミスティは普段の生活を高校生として過ごしている。その方が都合がいいからではあるのだが、それでも面倒なものは面倒だ。濡れた体をバスタオルで拭いながら、口の中で愚痴を何度もリフレインさせる。

「お弁当……何入れましょうかね?っつって、私別にご飯食べなくても問題はないんですけどねぇ……」

 IHで加熱した卵焼き器に卵を落としながら、ミスティは一人ぼやく。

「卵焼きと……昨日の残りの肉詰めと、あとは……んー、ごぼうサラダとあと一つ何にしましょう」

 そうこう言っているうちにだし巻き卵が出来上がる。我ながらいい出来栄えだ。ミスティは満面の笑みを浮かべた。

「そうだ、昨日コロッケ買っておいたんだった」

 卵焼きを皿に移した瞬間、ミスティの脳内に一日前の記憶がフラッシュバックする。

『第三学区のナントカって店のコロッケすごい美味しいらしいんだよね、ミスティも行ってみたら〜?』

 比較的仲のいいクラスメイトにそんなことを言われ、つい買いに行ってしまった。一袋5個入り500円(税別)。購入後すぐに寮に持ち帰って一つ食べてみたが、評判も頷けるほどの味だった。それからあと一つを夕食に食べ、現在は三つ残っている。

「……よし、完成」

 冷蔵庫から取り出したピーマンの肉詰めとコロッケを温め、それらを細長い弁当箱に詰め込む。ふと時計を見上げると、すでに6時30分を回っていた。

「あぁ、朝ごはん食べないと……」

 そう言うと、あんぱんの袋を開け、牛乳をコップに注いだ。張り込み中の刑事みたいな朝食だな、とミスティは思う。

「さて、行きますか……」

 食事を終え、制服に袖を通してミスティは呟く。憂鬱だが仕方ない。ヘルメットを被ると、そのままバイクに跨って明星学園まで向かう。

 

 

「……なんで先輩化学全く勉強してないんですか」

「うるせぇな後輩、だいたいテスト勉強でなんで他人の記憶に頼ろうとすんだよ馬鹿か」

「だって先輩の記憶って私のものって言っても差し支えないじゃないですか……ちゃんと化学も勉強しておきましょうよ……」

「残念ながら僕はバリバリの文系なんだよ……正直今やってる物理だって何にも頭に入ってきてねぇよ」

 昼休み。テストを控えているため、勉強に精を出すミスティだったが、向かった先の図書室で彼女の先輩にあたる男子生徒──黒薙と遭遇した。

「他の科目は先輩が去年必死こいて勉強した記憶を頼りになんとかする予定ですけど、化学の記憶だけ一切ないの本当に何なんですか??」

「うるせぇな何回やっても理解できなかったから捨てただけだよ……だいたい元素記号なんて覚えて何になるってんだ。僕の生活には何の関係もないだろ」

「勉強をそういう観点で見るから駄目なんですよ先輩は……」

「……そうかもしれねぇが、他人の勉強した記憶を盗んで勉強した気になるアホ女にだけは言われたくねぇな」

「…………、それもそうでしたね」

 黒薙の正論を受けて、ミスティは黙ってしまった。

 


 

「それじゃお疲れ様です、お先失礼しますね」

 放課後、一通りの業務を終え、ミスティは一足先に風紀委員室を抜け出す。

「お〜、早く終わったんだね〜ミスティや」

「はい、幸いにも何も起こりませんでしたし……このご時世、怪人だとか色々ありますし、正直休みを取れたのが珍しいくらいですよ」

「ホントさね〜、いっつも誘っても来れなかったし〜?」

 今日は比較的仲のいいクラスメイトと映画を観に行く約束をしていた。テスト期間中ではあったが、息抜きということらしい。正直、ミスティは彼女がまともに勉強している姿を見たことはないのだが……。

「それで、どの映画見るんですか?やっぱり今人気のアレですか?」

「ノンノン、そんな流行りに乗っかる人生じゃつまんないからね〜。B級以外見ないよ〜ん」

「……あんまりつまらないの見せたら怒りますからね」

「ノープロノープロ、あたしのB級審美眼をおナメなさんな〜」

 そうして映画館でチケットを購入する。電鋸男とサメが描かれたポスターが一部で話題となっていた映画だ。ミスティは恐る恐る座席に座った。

 

 

「…………いや、普通に面白かったですね」

「ほれ言ったろ〜?あたしのB級審美眼は日々進化し続けてるのさ〜、その成長速度たるやタケノコをも凌駕する」

 映画を観終わり、ミスティは友人とファストフード店で駄弁っていた。

「そのB級審美眼とやらが元々どの程度のものだったのか知りませんけど、めっちゃよかったです……あっ、あれ続編出るんですね」

「あ〜、刺客編だっけ〜?楽しみさね〜、それを本編終わった後に告知しないのはいかがかと思うがね〜」

 屈託のない笑み。それを見られただけでも、執行衛兵の仕事を早上がりした甲斐があるか。とミスティは思う。もちろん、口には出さないが。

「ん〜?どしたんキモい笑顔して〜、ミスティめっちゃキモいニヤケ面してんよ〜」

 そんな折、パシャッという音が、感傷に浸るミスティの思考を停止させた。その音の発生源は、そばかすが目立つ悪友だった。

「……ちょっ、おまっ!消してくださいよその写真!消せ!!」

「へへ〜、明日には消しとくよ〜!ただま〜、ミスティもそんな顔すんだね〜」

 思わず摑みかかるが、のらりくらりと躱される。

「……もう。本当に消してくださいよ?」

「心配しなさんなミスティや〜、あたしはちゃんと約束は守るよ〜ん」

 悪びれもせずに笑う彼女。そんな笑みを向けられたら、何をされても許すしかないじゃないか。ミスティは思わず頬が緩む。

「じゃ、あたしは帰るけど〜。ミスティもはやく帰れよ〜?あ〜そうだ、あの映画の前作のDVDあるんだけど見る〜?見るなら明日貸すけど〜」

「いいんですか?ならお借りしたいですけど……明日というか、テスト終わってからでもいいですか?」

「あ〜、いいけどミスティは真面目に勉強とかやる人〜?」

「……あなたはもう少し勉強したほうがいいと思いますけどね」

 あっけらかんと笑う彼女を見て、思わずミスティは言ってしまったが、彼女は気にした様子もなく。

「はっはっは〜!ちゃんとあたしは勉強やってるぞ〜?テスト期間に急いで勉強しなくていいように日ごろ頑張ってるだけだよ〜ん」

「くっ……!まぁ、また明日会いましょうか、那月(なつき)

「お〜っすまた明日〜、生きて会おうぜ〜」

 那月、と呼ばれた少女は満面の笑みを浮かべて手を振った。

 

 

「……ふぅ。たまには、ああやって友達と遊んでみるのも悪くないですね」

 20時。入浴剤で白く濁った湯船に浸かりながら、ミスティは一日を振り返った。

『よっすミスティ テスト終わったらまた映画行かんかね』

 湯船から上がり、バスタオルで水滴を拭っていると、携帯がピコンと鳴った。那月からのメッセージであった。

『行きます』

『よっしゃ 今から何にするか考えとくから楽しみにしときなさい』

 ふふっ、とミスティの口から微笑が漏れる。

『楽しみにしときますよ、那月 』

 そう返すと、ミスティはショーツに足を通した。

 

 

「さて……今日はこの辺にしておきますかね」

 ミスティが見上げると、時計はちょうど23時を指していた。ミスティはちょうど終わらせた化学のテキストを畳むと、そっと鞄に差し込んだ。

「今日は平和な一日でした……願わくば、明日も明後日もその先も、ずっと平和が続いてほしいものです」

 そして、ミスティは寝床に就く。リモコンのボタンを押し、部屋の明かりを消すと、ミスティはすぅと寝息を立て始めた。

 

 

 数刻後、少女の朝はまた始まる。




番外編です。というわけで墓脇です。
こちらのOrdinary Daysシリーズは、本作ヒロインの『日常』にフィーチャーした番外編になっています。
特にといって本編に関わってくることはありませんが、読んでみると本編をより楽しめるかもしれませんので、ぜひお楽しみください。
墓脇でした。
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