仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第14話「厳かなる『威光』のキング」

「黒薙!ねぇ!黒薙ってば!!目ぇ覚ましなさいよ!!ねぇ!!!」

 亜矢は黒薙の肩を掴み、何度も揺さぶるが、黒薙は目覚めない。

「何が起こってんのよ……!と、とりあえず救急車呼ばなきゃ……!」

「その必要はありません、そこをどいてください」

 慌てて鞄を漁る亜矢に、謎の男が声をかける。

「な、何よ?黒薙に何する気!?」

「血気盛んな御嬢さんだ、ですがご安心ください。私は黒薙颯斗を絶対安全な場所まで連行するだけです」

「アンタみたいな名前も知らないヤツ、信用できるわけないでしょ……!」

「やれやれ、貴方ごときに構っている時間はないのですが……どうしてもどいていただけないのでしたらこちらも強硬策に出ざるを得なくなるのですが」

「くっ……!やってみなさいよ、アンタみたいな不審者に黒薙の身柄を渡すくらいなら死んだ方がマシよ!!」

 亜矢が啖呵を切り、黒薙を背負って逃げようとした瞬間。男が亜矢を撃とうと拳銃を取り出した瞬間。

「全く……こんなところで騒ぎを起こされても困るのだけど。赤萩亜矢。この男は統括理事会の者、不審人物ではないわ」

 遠山が、二人の動きを止めた。

「行きなさい、ヴォルフ。……怖かったでしょう、赤萩亜矢さん?もう怪しい相手に挑むような真似はしないでくださいよ?」

「あ、えっ……遠山、先輩……あ、あの、男は……?」

「統括理事会所属、誘宵学区副理事長ヴォルフ=ジェルマニア。何考えてるか解りゃしない、ある意味での不審人物ですよ」

 


 

「……ッ、ここは!?」

『ふム……ようやくお目覚めかネ?『異能共鳴』……いや、黒薙颯斗』

 何もない、真っ白な空間で黒薙は目を覚ます。すると、何やら巨大な影が、黒薙を見下ろして笑った。

「あ……?なん、だ、このでけぇ奴は……」

『初対面の相手に「でけぇ奴」とハ、些か失礼ではないかネ?まぁ良イ。初めましテ黒薙颯斗。ワタシは誘宵学区統括理事長、ヘリオス=ジェルマだヨ』

「統括理事長……そんなお偉いさんが僕を呼び出して何の用です?勤務態度については委員長を通してお願いしたいんですが」

 統括理事長を名乗るソレに対し、黒薙は平静を装いつつ探りを入れる。

『何の用ダ、とは笑わせるネ?ワタシは最初にキミを『異能共鳴』と呼んダ。その意味もわからないほど愚かではないだろウ?』

「……もう面倒ごとに巻き込まれんのは懲り懲りなんですけど」

『そう言わずにお願いするヨ、少し話を訊かせて欲しいだけなのでネ』

 ヘリオスはそう言って、自身の体に映像を映し出した。

『この光の筋……三叉に分かれ怪人たちを変身解除に追い込んだ力についテ、キミの知っていることを全て聞かせたまエ』

「そのことですか……生憎と、僕の頭はその辺りの記憶がすっぽり抜けてましてね。ソレについては何も知らないって状況です」

 他人の記憶を覗く能力者でも連れてきてくれても構いませんよ、と黒薙はおどける。

『ほウ……つまりアレは極限状態に陥った末に起こった、防衛本能のようなモノであル、ト?』

「まぁそうなんじゃないですかね、僕は何も知らないんで……話は終わりですか?なら帰らせてもらいたいんすけど」

『そうだネ……これ以上キミと話してもなんの収穫も得られないだろウ、行きたまえヨ。ワタシはそこまで暇じゃあないのでネ』

 ヘリオスが突き放すように言ったのを聞くと、黒薙は背を向け、静かにエレベーターへと乗り込んだ。

(偉そうにしやがって、テメェが無理矢理連れてきたんだろうがデカブツ……ま、頭がコレじゃこの街が腐ってんのも当然か)

 高速で上っていくエレベーターの中で、黒薙は呪詛を紡ぐ。自覚こそしていないが、その中には、亜矢との時間を邪魔された怒りも少なからず含まれていた。

『ゲーテ……彼の言葉に嘘はあったかネ?』

「いえ……少なくとも、私の瞳には彼の嘘は視えませんでした」

『ほウ……となるト、“あの男”が仕込んだという訳ではなさそうだネ?だがあの現場からは不自然なほどにホルスの残滓も見つからなかっタ……『黒薙』でも『異能共鳴』でもないとすれバ、あの力は何によるモノなのだろうネ?』

 ヘリオスは愉しげに嗤う。もはやその目には黒薙颯斗やヴォルフ=ジェルマなど映ってはおらず、ただ突如として現れた新たな研究材料しか映っていなかった。

『あア!あア!!愉しイ、愉しいヨ!!!このワタシの頭脳を以ってしても理解の及ばないモノがまだ存在したとはネ!!!!コレも我が『プラン』に組み込ませてもらおうじゃないカ!!!!エ!!??』

 


 

「……なぁミスティ、僕今どこに連れてかれてるんだっけ?」

「何言ってるんですか先輩、マテリアブレイカーの力を制御するために先輩には私相手に特訓してもらうって言ったじゃないですか」

「……だよなぁ。何言っても変わらねぇよなぁ……」

 連休明け一日目の放課後、黒薙はミスティに特訓のためにとある場所へと強制連行されていた。

「はい、着きましたよ先輩。ここならどれだけ暴れても誰にも気付かれません」

 ミスティはそれだけ告げると、直後に黒薙の腹部へと強烈なキックを叩き込んだ。

「がッ……!?」

「その程度で蹲られても困りますよ先輩、これから先輩にはボロクソのカスになるまで虐め抜かれて、あの時のように私を自由に吸収できるようにしてもらわないと困るんですから」

 くるくる、と特殊警棒を弄びながらミスティは言う。

「あぁ、そうそう。そのためには先輩だけじゃなくて私も追い込まれないといけないので本気で来てくださいね?じゃないと……命の保証はできかねます」

「チッ、にしたって手荒すぎねぇか!?」

「何が手荒なものですか、この程度でバテられても困るんですよこちらも!!」

 黒薙はミスティの重い一撃一撃を躱して反撃の隙を見つけようと試みる。

「……ッ!オラそこだっ!」

 そしてようやく見つけた隙に一撃を加えようとするが……。

「遅い」

 その一撃は、ミスティに軽く流される。

「一つ言うの忘れてましたが……今の私は先輩が『異能共鳴』の力を歪ながら使用したことで多少は強くなってますからね」

「なるほどな……っ!こりゃ生身でやるのも厳しいか」

 会話しながらも次々と襲い来るミスティの攻撃の全てを間一髪で躱しながら、黒薙はOOドライバーを腰に巻きつける。

「変身ッ!」

『Open! Reclaim Lost Time! Time OO!』

 黒薙の体が、瞬時に赤黒い鎧に包まれた戦士へと変貌する。

「やれやれ……確かにそっちの方が好みではありますけど」

 変身した黒薙が二本の指でミスティを挑発するのを見ると、ミスティはOOへと向かって走り出し、

「行きますよ先輩、変身」

『Open……Proto OO……』

 ミスティも、黒薙が変身したソレと似通った見た目の仮面ライダーへと変身する。

(ハッ、知ってるぜミスティ……変身直後のお前はリミッターを解除できない。こっちも場数踏んでんだ、今更リミッター付きのお前に負けるかよ)

 OOはほくそ笑み、プロトOOを豪快な一振りで切りつけるが、

「だから、遅いんですよ先輩。何度も言わせんな」

 その刃は、全く同じ太刀筋のミスティの一撃によって弾き飛ばされた。

「なっ……!?」

「セービングキャンセラーが働いている私になら、とでも思ったんでしょうけど……多少は強くなってるって言いませんでした?」

 ミスティは仮面の下で蠱惑的に微笑む。

「先輩が場数踏んで強くなったなら、その写し身である私は?少し考えればわかるでしょうに……まぁ、戦い以外のことで心が揺れ動いてるようなら仕方ないか」

 プロトOOは挑発的に笑うと、そのまま剣の切っ先を黒薙の喉元に突きつける。

「だから、本気で来いと言ったでしょう?この期に及んでまだそんな手抜きで来るというなら……もういっそ、先輩の大切な人でもブチ殺しちゃいましょうか」

 直後、ドン!と轟音が響いた。

「テメェ……冗談でも言っていいことと悪いことがあるってことと、どっちが上かってこと、愉快に爽快に理解させてやらなきゃいけねぇらしいな……?」

「なんだ、やればできるじゃないですか先輩、その調子でかかって来てください」

 


 

(と、啖呵を切ったはいいが……一撃一撃があの重さだ。食らえば一発でアウトだが……さてどうするか)

 プロトOOの放つ攻撃を受け流しながらOOは思案する。

(先輩……先輩は気づいていないのでしょうが、これを受け流せる時点でもう“この”特訓の半分は終わっているようなものですよ)

 一方で、己の攻撃を全て横へと流すOOを見て、プロトOO密かに笑みを浮かべる。

(ですが……この程度のことにあまり時間かけていられないんですよね)

 そして、プロトOOは攻撃を止めると……自らの胸を撫ぜた。

「セービングキャンセラー解除、レベル1→3……いきますよ先輩」

「あぁ、来い!僕も躱してばっか逸らしてばっかじゃつまらねぇからよ!」

 プロトOOのベルトから鍵が抜き取られ、それは剣に挿し入れられる。直後、どす黒い巨大な一閃が、OOを飲み込んだ──ように見えた。

「ありがとよミスティ……その力、ちっと借りるぜ」

 昏く、黒い、負のエネルギーは、OOの翳した剣に吸収され、真っ赤にその色を変えてゆく。力に充ちた刃が振り下ろされた瞬間。

 

 

 ──空間を捻じ曲げるほどのエネルギーの奔流が、小さな世界を丸ごと弾き飛ばした。

 

 

「やった、のか……?」

「おめでとうございます先輩、第一段階は無事習得できたようですね?」

 土煙の中から、変身を解いたミスティが現れる。

「第一段階……?」

「だから言ったじゃないですか先輩……私を自由に吸収できるようになってもらわないと困る、って。そのためにもまず『異能共鳴』の力を完全に使いこなせるようにしましょう」

 あれだけ大きな一撃を浴びて、なおけろっとした顔で微笑むと、ミスティはOOから距離を取り、虚空を見上げて叫んだ。

「では、早速ですが……第二段階行きますよ、来てください!!」

 空から舞い降りる二つの影。見覚えのあるその姿に、OOは思わず驚愕の声を上げる。

「な……ッ、テメェらは……!?」

「お前の相手が一人だなんて誰が言った?ずっと終わるの待ってたんだ、少しは楽しませろよ黒薙颯斗」

「と、いうわけですので……全力であなたを追い詰めさせていただきますよ、黒薙くん」

 かつてアーマード・シャトランとして黒薙の前に立ちふさがった超能力者・赤萩陽希。黒薙の上司にして、現在、ライダーシステムを開発している遠山叶絵。

「解錠」

『Rook charge……open“Armored”』

「武装、限定解除……“右腕”」

 赤萩の体が煤けたような鎧に包まれ、遠山の右腕には仰々しいパワードスーツが装着された。

「チッ、めんどくせぇ……!」

『Replace! Metal OO!』

 OOも鎧を換装し、アーマード・遠山の攻撃に備える。

「青い鎧か!けど悪いな黒薙颯斗、その程度じゃ耐えられねぇぞ!」

 アーマードの振り下ろした斧が、OOの腕に食い込む。OOは腕に力を込め、少しでもダメージを和らげようと試みるが、

「敵は一人ではない、と忘れていますね?そこがあなたの弱点です、黒薙くん!」

 横合いからの遠山の拳をわき腹に受け、くの字に曲がり吹き飛ばされた。

「一人の敵を相手にしてるなんて思うんじゃねぇぞ!敵がいつも一対一で正攻法で戦ってくれると思うな!」

「ンな事ァ……テメェに言われずとも分かってるっての!」

 アーマードの斧を右手に構えた剣で受け流しつつ、左手に装着したナックルで遠山の攻撃を受け止める。しかし、背後に斬撃を受け、バランスを崩してその場に倒れ伏した。

「だから先輩、油断すんなって言ったでしょう?先輩の相手は一人じゃない、三人いないなんて言ってませんよね?」

「言うと思ったよミスティ……」

『Replace! Spin OO!』

 舌打ちをしながら、OOは再び鎧を換装する。そして鍵を抜き去り、槍へと挿入して襲い来る三人を撃破しようとした瞬間。

 

 

 ──ドンッ!!と、爆音が上空で鳴り響いた。

 


 

「フッヒ、ギャッハハハハハッ!ギャハ、ゲホッ、ゴホッ、オエェェ……楽しんでるみたいだなぁお前ら!?俺も混ぜてくれよ!!解錠!!」

 土煙の中に飛び込むようにして、ソレは上空から落下してきた。

「誰だテメェ……つっても、その見た目見りゃ怪人ってことだけはわかるが」

「何故ここが分かったんですか……気付かれないよう完全にカモフラージュしていたはず……」

『オーケイオーケイ、一つずつ答えてやろうじゃねぇか!』

 スーパーヒーロー着地で華麗に地面に降り立った怪人は、あくまで笑いながらOOとプロトOOを見る。

「名乗らなくていいぜ、クラウン?ただ一つだけ聞かせろ……てめぇのお陰で、亜矢がどれだけ苦しんだと思ってやがる?」

『おぉっとアーマード……それについて言いたいことは山ほどあるし、お前の態度も最もだが……』

 名を名乗ろうとした怪人の首に斧を突きつけながらアーマードは問い詰める。

『……今俺はOOたち(こいつら)と話してんだ、邪魔すんな雑魚』

 しかし、凄むアーマードを裏腹に、怪人はするりとアーマードの腕を抜ける。それと、赤萩の体が高速で吹き飛ばされたのは、ほぼ同時のことだった。

「赤萩くん!?クラウン、と言ったな……今、何をした!?」

『ギャッハ!そう睨むなよ風紀委員長!ちょっと軽く小突いてやっただけだろうが!それとも、なんだ?アンタもアーマードみたいにブッ飛ばされたい口か?』

「言ってくれるわね……その言葉!後で悔いても知らねぇぞ!?」

 遠山はクラウンに殴りかかる。しかし、クラウンは首を僅かに傾けただけでそれを避けると、

『悪いな風紀委員長!俺は女は好きだが……男みてぇに血気盛んな女に限っては例外なんだよ……だから消えろ』

 腕を軽く振るい、風圧だけで遠山を壁まで突き飛ばした。

「テメェ……何の目的でここに来やがった、怪人!」

『オウオウOO、随分と寂しいこと言ってくれるじゃねぇの!だが俺はまずお前たちの最初の質問に応えようとしてるんだ、あのバカ二匹みてぇにはなりたくねぇだろ?』

 嘲るようなクラウンの言葉に、OOは思わず目を伏せる。

『アーマードの紹介にもあった通り……俺はクラウン!怪人シャトランの……『王』ってトコだな!』

「怪人の……王……」

『そうだ!俺こそがシャトランの王だ!よろしくな、雑魚ども!』

 クラウンは高らかに嗤うと、プロトOOに舐めるような視線を向け、

『で、なんだっけ?アーなんでここが分かったか?あんなチンケなカモフラで、漏れ出すバカみてぇな量のホルスを抑えられるわけねぇだろうが!』

 そして、OOの真横へと移動すると、

『これで質問には答えた、それじゃ始めようぜ?こっからが本物の第二段階だ!かかってこいよ正義のヒーロー様方!!』

 直後、音を超える速さで剣が振るわれた。

「……ッ、危ねぇ……!」

『ギャッハハ!よく避けたなぁ!!コンマ一秒でも違ってたら今頃右手その辺に転がってたんじゃねぇの!?』

「お褒めにあずかり光栄、ってなァ!」

 OOは、右手で強く握った槍を、クラウンの首筋に向けて振るう。

『なるほど!イイ殺意だなぁ!だがまだ遅ェなぁ!?』

「遅いのはあなたの方です……セービングキャンセラー完全解除!レベル1→5!」

『オオゥ!?なかなか重っ苦しい一撃じゃねぇか!だが、まだ、遅ェ!!』

 不意打ちで、プロトOOが後頭部に回し蹴りを叩き込んだが、クラウンにはまるで効いていなかった。

「……ッ!てめぇが……てめぇさえ居なけりゃあ……!!」

『ギャッハ!違いねぇなアーマード!だが……こんなとこで火ィ出されたら迷惑だろ?』

 続けて、アーマードが能力を用いた無数の火球を放ったが、その全ては、虚空から現れた剣によって消し去られた。

「気付いていなかったようですが……このゾーンに入った以上、あなたは最早逃げられない!『捕縛(バインド)』!」

『オッ、オオァッ!?両手両足縛られたら何もできねぇじゃねぇか!?……なーんてな』

 クラウンは膂力だけで拘束を引きちぎると、遠山の背後まで瞬時に移動し、

『悪りぃな、アンタは眠っとけ!』

 首筋に打撃を与え、気絶させた。

『さて、あと三匹……どいつからやってほしいか名乗り出てみねぇか!?』

 


 

『ど、れ、に、し、よ、う、か、な……決めた、お前から行くぜアーマード』

「……ッ!?」

 クラウンが軽く剣を振るう。するとたちまちに斬撃が空を切り、風圧のギロチンと姿を変え、アーマードへと襲いかかる。

「効かねぇよ……その程度の一撃!」

『言うと思ったぜ……ならこいつはどうかなぁ!?』

 アーマードの拳が、クラウンの鳩尾に叩き込まれる。一瞬生まれた隙を突くようにアーマードの胸をクラウンの膝が貫いた。

「が……ッ!?」

『教えといてやるよOO!怪人の弱点は胸の鎧だぜ!そこに全力の一撃をブチ込めば変身は解かれる……こんな風にな?』

 衝撃が胸に突き刺さり、宣言通りにアーマードの変身は解かれる。

「どうやら……嘘というわけではなさそうですね」

「わからねぇよ、アイツが強ぇだけかもしれねぇ」

『ギャハ!そんなに褒めんなOO!確かに俺は強ぇが……他の場所にブチ込んでもこうはならねぇぜ?』

 クラウンはひとしきり笑うと、OOとプロトOOを交互に指差し、

『よし決めた、次は黒いの、仕上げにOOだ!』

 ミスティに向かって飛びかかった。

「……ッ、知ってはいましたが……中々に手強いですね……ッ!」

『だろ?これでもまだ手ェ抜いてんだよ、びっくりするよなぁ!?』

「なんて傍迷惑な馬鹿力……ッ!」

 クラウンの剣とプロトOOの剣がぶつかり合い、火花を散らす。クラウンの剣技は一撃の重さで戦う剛の技で、プロトOOは受け流しつつ戦う柔の技。力で押されても、その力を武器とするスタイルのプロトOOは、クラウンにとって天敵とも呼べる相手だった。

『チッ……カンカンと受け流すんじゃねぇよ!男らしく力と力でやり合おうぜ!?』

「男らしく、と言われましても……生憎と私は女ですので……ッ!」

 ミスティはクラウンの一撃をひとつひとつ逸らしながら笑った。しかし、直後にクラウンのパワーに耐えきれず、剣がその手を離れた。

『ギャッハハ!神さんはお前を見捨てたらしいなぁ!?』

 下卑た笑い声とともに、クラウンの重い一撃が迫る。

『Enough Power Too Destroying Everything……Breaking OO……Time Charge』

「そこまでにしろ……さもないと、本気で殺すぞ」

『ギャハッ!!ついに出やがったなマテリアブレイカー!!それがどれだけお前の力を引き上げてくれんのか愉しませてくれよ!!』

 その凶刃を食い止めたOOに対し、クラウンはさらに笑みを邪悪なものにする。

「勝手に言ってろクソ野郎」

 べきり、とクラウンの剣をへし折る。それと同時に、左の拳をクラウンの胸元へ突き立て、衝撃を送った。

 ドォン!と、爆音が響く。その衝撃で大きく弾き飛ばされた黒薙だったが、射線上に倒れていた遠山を傷つけないよう、すんでのところで踏みとどまった。

「やったか……!」

『やってねぇよバ────カ!!ヒヒ、ギャッハハハハハ!!!呆然としてんじゃねぇよOO!!!確かに俺は胸に一撃受けたが……お前ごときの力じゃ変身解除には追い込めねぇんだよ!!!!』

 しかし、OOの本気の一撃も虚しく、クラウンは吼える。

『オイオイどうした!?まさかただのパンチで俺を倒せると思ったか!?バカ言ってんじゃねぇよ!!俺を倒したきゃせめて必殺技でもブチ込んでみな!!』

「……ええ、おかげさまで。背中がガラ空きですよ」

 笑いながらOOへと迫るクラウンの背後に、漆黒の影が迫る。

『Material Attack! Oblivion Slash!』

 黒き斬撃が、クラウンの背を切り裂いた。

 


 

「ハァ……ハァ……先輩、まだ生きてます、早くトドメを刺してください!!」

 渾身の一撃でホルスを使い果たし、変身が解かれたミスティが、OOに大声で語りかける。

「先輩……!」

「……ッ、馬鹿!ミスティ避けろ!」

 OOは応えず、逆にミスティに注意を促した。しかし。

「…………ッ!あァァァァァァァッ!!!!」

 咄嗟のことに反応が遅れ、ミスティはその一撃をモロに食らってしまった。

『アー、なんか悪いな?空気読んでノリで倒れてやったが……よく考えたら俺コイツに気ィ遣う必要なかったわ!!』

 煙を吹く銃口でこめかみを小突きながらクラウンは笑う。その姿に言いようのない怒りを感じたOOは地を蹴り、クラウンに全力で掴みかかった。

『First……Second……Third……Full Charge』

「テメェ……ッ!決めたテメェだけはこの手でブチ殺す!!」

『Full Breaking Time Crash!』

 赤黒い、無数の閃光が残像を描き、クラウンへと突き刺さる。

「まだだ、テメェは肉片も残さず粉々に砕いて殺してやる……ッ!」

『Full Breaking Time Strike!』

 さらに、追い討ちをかけるように、回し蹴りをクラウンの頭蓋に叩き込む。

「どうした!?さっきまでの威勢の良さはどこに行ったんだろうなァ!?」

 狂気じみた笑みを浮かべ、OOは幾度となくクラウンを切りつけるが、そんな中、ふと、ぼやくような声が耳に入った。

『…………ハァ、やめだやめ。少しは面白ぇかと思って受けてやったが……今のお前はクソつまらねぇや』

 そして、OOの剣を片手で受け止めると、それを強引に奪い取り、

『教えてやるよOO、武器ってのはこうやって使うんだ!』

 右肩から左脇にかけて、一直線に切りつけた。

「…………ッ!!!!ま、だだ……まだ僕は戦え……ッ!」

『もう無理だろ、諦めて楽になってろよ』

 哀れみの声をかけるクラウン。OOに背を向けた直後に、背後に強大な圧を感じ、咄嗟に振り向いた。

「aNnNeKaZuF、aGuAoRaDeANTiAuTaDMH勝負……!!」

『なるほどな。……それがマテリアブレイカーの暴走か。だが残念だったな?お前じゃ、俺は止められねぇ』

 意識を失い、機械のごとくクラウンに殴りかかったOOだが、クラウンが人差し指でOOを指した途端、その動きは止められた。

『つまらねぇ幕引きだが……悪いな、これも仕事なんだよ』

 クラウンの銃の上部に刃が現れる。その切っ先をOOに突きつけると、クラウンはその引き金を引き──震える刃が、OOの変身を強制的に解除した。

 

 

「先輩……!目覚めましたか……!」

「……ッ、あの野郎はどこ行きやがった……ッ!」

「今は動かないでください先輩、大きな外傷はないとはいえ、私たちは全員あの怪人に襲われた……どんな影響が出ているのかもわからない以上、あまり下手なことはできませんし」

 目を覚ました黒薙をミスティが諌める。

「ほら先輩、救助が来ましたよ。あの怪人を追いたい気持ちはわかりますが今は大人しく検査を受けましょう?まぁ先輩は安静にしてても暴れちゃう人って有栖川さんから聞いてますけど」

「だからテメェは一言多いんだよ……わかったわかった、大人しく検査受けるからいい加減離してくれ」

 暴れないよう手を後ろで拘束されていた黒薙は、呆れたような顔でミスティに頼んだ。

 


 

「はいはいはいはいそれでどーしたんすか?そこのアホどもはもう少し面倒見る方の身にもなってほしいんすけどね……」

「本当にすみません有栖川さん……心中お察しします……」

「わかってるなら手間かけさせないでほしいんすけどね……」

 半ば呆れたような目で有栖川は黒薙たちの身体を診ていく。

「んー、どいつもこいつも大したダメージはないみたいっすね。特に能力を掛けられたような痕跡も見当たりませんし」

「となるとあのクソ野郎の目的がますます見えなくなってくるが……ま、それは後から考えりゃいいか」

 黒薙はため息を吐きながら言った。

「あっ、ちょいちょい赤萩くん。あなたに頼みたいことがあるのだけれど今時間あるかしら」

「何だよ遠山……俺は忙しいんだよ……なんて言おうもんなら俺は懲罰房行きだしな。空いてるよ、それがどうした?」

 一方で、遠山は赤萩を小突き、ある場所へ連れ出そうとしていた。

 

 

「ふぅ……ここまで来ればあの三人には聞かれないわね……」

「それで頼みたいことってなんだよ……お前のことだし、どうせ面倒ごとなんだろうけどな……」

「あら、よくわかってるじゃない?ただ……今度の面倒ごとはいつもの比じゃないの」

 遠山は一拍おいて、赤萩に語った。

「現在開発中の『高位能力者用ライダーシステム』の試作品……そのテストを赤萩くん、あなたにお願いしたい」

「ライダーシステム……それって遠山が使ってたあの腕とかに鎧出すやつとはまた違うのか?」

「あれは無能力者用よ、あっちは現状量産の目処が立たなくてね……主に予算面で……」

 遠い目をして哀愁に耽りだした遠山に、赤萩は哀れみの声をかける。

「あー……その、俺はそこそこ金持ちだし、それの予算については協力させてもらいたいんだが……」

「本当!?……いや、やめておくわ。いくらあなたがランク10の超能力者で裏組織の人間だとしても表向きは民間人、一人の民間人から巻き上げた金で量産したなんて知られたら私の沽券にかかわるもの……」

「……ほんと、お前って無駄なプライドあるよな」

「なんとでも言いなさい、私にも立場ってものがあるのよ……」

 普段の威厳は何処へやら、遠山は自分の立場が危うくなると完全に丸くなってしまうのだ。

「それで、ライダーシステムのテストの件だけれど……」

「……ま、考えとくよ。そうすることで俺の罪が少しでも償えるなら」

 

 

「フフ……面白くなってきましたねぇ。話によればライダーシステムの試作機は既に完成しているそうじゃありませんか」

 その頃、怪人たちが拠点としている廃ビルでは、何人かの怪人が集まっていた。

「おおっ、楽しそうだねぇクロージャー、俺の方は化野(あだしの)のしつけで手一杯だよ。あんたも手伝ってくれないかい?」

 苦笑いを浮かべながら菱杖に語りかけるのはゲノムス=リボー。かつて誘宵学区に反旗を翻した超能力者集団の一人で、先日解放され黒薙を襲った怪人、パラサイト・シャトランの変身者である。

「それはお断りですねぇ。ワタシは子供が嫌いなのです、実年齢はどうあれ……あれだけ精神を崩壊した娘など、ワタシの手には負えませんよ」

「はは、言ってくれるねぇ……だがまぁ、その純真さを利用してるのも確かだ」

 ゲノムスは悔いるようにグラスに注いだ酒を流し込んだ。

「ところでパラサイト……赤萩亜矢に仕込んだ“虫”の様子はどうですか?」

「あぁ、アレかい?順調に成長してるみたいだねぇ、このまま行けば明後日には完全に育ちきってあんたのホルスを受け取るアンテナになってくれるんじゃないか?」

 ゲノムスの効果で生み出した寄生虫。菱杖が亜矢を攫った際、秘密裏にその卵を亜矢に植えつけていたのだ。

「それにしても趣味が悪いなぁクロージャー。遠隔操作で罪のない女の子を操り、友人を裏切らせるんだろう?悪趣味が過ぎる」

「別に裏切らせるだけじゃあありませんよ、情報を収集するためのラジコン代わりに使わせてもらうだけです。まだ『痛傷共有』の力は発現しないようですしね……それとも君は嫌いですか?こういう悪趣味なのは」

 菱杖は露悪的な笑みでゲノムスに問うた。

「いや、嫌いじゃあないよ。むしろ大好きだ。罪のない女の子の尊厳を陵辱し尽くすのはとても気持ちが良い。彼女たちにはせいぜい全力で殺し合ってもらおう」

「100点満点ですパラサイト君。……まぁ、情報についてはいくらあっても困りませんからね。それに仮に黒薙くんが赤萩亜矢を救ったとしても……」

 菱杖の笑みがさらに昏いものに変わる。

「……ワタシたちに情報をもたらすコウモリは、彼女だけではありませんからねぇ」

 二人が乾いた声で笑い合うと、数秒後に、廃ビルの扉が開いた。

「よう!王様の凱旋だぜ!……おぉ、いいところにいるじゃねぇかクロージャー。少し聞いておきたいことがあったんだがちょっと時間もらうぜ」

 扉を開けて入室した人物は、黒薙たちもよく知る男だった。怪人クラウン・シャトランに変身していた男、本来ならばこのように街の裏側にいてはいけない人物。黒薙がもしこの場に居合わせていたならば、全力で彼を殴り飛ばしていただろう。

「なんでしょうクラウン?貴方に質問されるようなことなどした覚えがないのですがねぇ」

「おぉそうか、じゃ答えてもらうぜ!……俺は赤萩亜矢は巻き込むなと言った筈だが、なぜお前はあの女を攫ったんだ?」

 その男の名は、牧瀬玲王。黒薙の悪友の一人であった。




牧瀬、お前もか。というわけで墓脇です。
今回は、怪人のボスの正体が牧瀬であることが判明しましたね。牧瀬もまた、その立場上、今後のキーパーソンとなってきます。
そして、今回、赤萩の変身フラグが立ちましたね。ここで一つ余談なのですが、本作に登場する名前に色がついているキャラクターは、基本的には構想段階でライダーへの変身が予定されていたキャラクターです。亜矢さんや澪のようにその人物の身内に関してはその限りではありませんが。
今後は、キャラクターの名前にも注目してもらえると嬉しいです。
感想などございましたら、お気軽にコメントいただけますと幸いです。墓脇でした。
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