仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第15話「『贖罪』の焔」

「……俺は赤萩亜矢は巻き込むなと言った筈だが、なぜお前はあの女を攫ったんだ?」

 牧瀬は菱杖を睨みつけると、怒りを含んだ声色で問うた。

「それ……答える義理あります?」

「さぁな?答えねぇならそれでいいんだよ。答える気になるまで苦しめるだけだ」

「なるほど……いい機会です、ここはいっそ貴方を殺して怪人たちの統率権を全て奪うとしましょうか。……ねぇ、パラサイト」

 菱杖が嗤うと、怪人の鎧をまとったゲノムスが牧瀬に飛びかかった。

「ハッ……ナイトごときがキングの俺に勝てると思うなよ、解錠」

 パラサイトの触腕が牧瀬を捉えた直後、無数の斬撃音が狭いビル内に響いた。牧瀬の変身した怪人・クラウンが、その全てを切り裂いたのだ。

『なぁクロージャー、いいや菱杖透流。誰がお前に力を与えたと思ってる?借り物の力でイキってるだけの間抜けが、よく俺を殺すなんて言えたな?』

 剣の切っ先を菱杖の首に突きつけながら、牧瀬は笑う。

『答えろよ菱杖透流センセイ、簡単な質問だろ?お前は、どうして、俺の命令を無視してまで、赤萩亜矢を攫ったのか……としか聞いてねぇんだから』

「『痛傷共生(ダメージリンク)』の力を持つ彼女ならば……『異能共鳴』の黒薙颯斗を取り逃がした際の保険にもなると思ったのですよ」

『へぇー……なるほどな。理解したよ。ただそれを踏まえた上で一個だけ言わせてもらうが……』

 クラウンの声が低く変わる。

『赤萩亜矢を黒薙を引きずり出すための囮に使った時点で説得力ねぇんだよ、嘘つきは泥棒の始まりだぜ』

 クラウンの刃が菱杖の頬を掠めた。

『今回は見逃してやる……だが、次にもう一度同じことをやってみろ。その時はお前を殺す。どこに逃げようと必ず捕まえて、この世に生まれたことを後悔するほどの苦痛を与えた上で殺す』

 


 

「……で、アンタはまた面倒ごとに巻き込まれたって?」

「あぁ……ミスティは特訓とか言って赤萩さんの兄貴とかまで連れ出してきて僕をリンチするしよくわかんねぇ野郎には襲われるし最悪だよ……」

「……ご愁傷様ね。よかったら食堂で何か奢るわよ?」

「気持ちだけ受け取っとくよ赤萩さん……前の埋め合わせすら台無しにしちまったのにあんたにばっか負担かけられねぇよ」

 食堂の気分だったので弁当を作ってこなかった黒薙は、偶然にも弁当を忘れたという亜矢とともに食堂へと向かっていた。

「あらあら人目もはばからず逢瀬ですか、おアツいですねぇ先輩も」

「……ほんと、偶然ってあるんだ。まさか私もレーツェル先輩も亜矢さんも兄さんも居合わせるなんて」

「……赤萩さん正直に言ってくれあんたこれ仕組んだだろ」

「ぶふッ」

 わざとらしく目をパチクリさせる澪を見て、黒薙は亜矢の肩を掴んで問いただした。

「ちょっと先輩?そうやって女の子の肩掴むのってなかなかセクハラですよー?」

「兄さん、これはもう責任取るしかない」

「だからテメェらはいっつも……っつーかやたら混んでんな、相席いいか?」

 冷やかすような目を向ける二人を無視し、黒薙は空いている席に腰掛ける。

「あれー?お二人さんどうして席一個空けて座るんですかー?」

「うるせぇミスティお冷頭から被せんぞ」

「あー、もしかして恥ずかしいとか?先輩ったら意外とウブなんですかr」

 ニヤニヤと汚い笑みを浮かべるミスティに、黒薙は冷たい水を浴びせかけた。

「ぷッ……!?先輩やってくれましたね……!?」

「だからお冷かけるぞっつったろ?僕が言ってる間にやめとかねぇからこうなんだよ」

 あ、まだ口はつけてねぇから安心しろ、と黒薙。

「おっ、もう出来たのか。じゃ僕は僕の飯貰ってくるからちょっと離れるぜ」

 ブー、と番号の書かれた発信機がなったのを確認すると、黒薙はそそくさとその場を離れた。

「(あぁ危なかった……あのままあいつらに煽られ続けてたら赤萩さんに殺されてた……)」

 そんなことを考えながら、黒薙は頼んでおいたラーメンを受け取る。

「……あ?」

 席に戻ると、人影が一つ増えていた。当然のような顔でひらひらと手を振る少女を見ると、黒薙は表情を歪め、

「なーんであんたがこんなトコにいるんすか……」

「いいじゃないか減るモンでもないだろう?それに……見てわかる通り他の席は空いてない。それとも何かな?ボクがいると困るような話でもするのかい?それは見逃せないなぁ、報道部部長としてね」

 少女は澄ました顔で黒薙を挑発する。

「あの、先輩……流れでこの方の相席許可しちゃったんですけど……どなたですか?」

 いつになく困惑した顔でミスティは黒薙に問いかける。

「おっと、これは失礼した。挨拶がまだだったね。ボクは久城(きゅうしろ)希望(のぞみ)。明星学園報道部部長、誘宵学区の情報誌F!nder(ファインダー)の編集長もやっているよ、よろしくね」

 久城はどこからか取り出したフライヤーをぴらぴらと見せびらかし、軽く会釈をした。

「キミたち、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。ボクは確かにゴシップは大好きだけれど、今はただ空腹を満たしたいだけだからね。今ならどんな恋愛話をしても無視してあげるよ」

 


 

「ところで先輩……後で少しお話があるんですけどいいですか?」

「ん?あぁ、大丈夫だが……」

「それ、恋愛話かい?ゴシップならボクにも聞かせてほしいな」

「違いますから安心してください久城先輩……というかあなた先ほどどんな恋愛話しても無視するって……」

 ミスティは亜矢と黒薙を結びつける目的以外に、純粋に黒薙に用があったが、久城の存在がこの場でその目的を果たすことを不可能としていた。

「あれ?そんなこと言ったかなぁ?ボクは自分に都合の悪いことはすぐ忘れるようにしているんだ、すまないね」

 ケロッとした顔で久城は言う。

「都合の悪いことって自覚があんのがタチ悪りぃんだよなこのクソ女……」

「何か言ったかい黒薙くん?ボクがキミの過去を報道するだけでキミの社会的地位は地に堕ちることを理解しているかな?」

「何も言ってませんよクソ女(きゅうしろさん)、黙って帰って耳掃除でもしてたらどうですかショタコン野郎?」

 黒薙は久城を睨みつけながらラーメンを口に運んだ。

「ハ……キミも言うようになったね。別にボクはショタコンでもなんでもないし仮にボクがそうだったとしてシスコンのキミにだけは言われたくないけれどね」

「ハイ早口ー、っつーか僕はシスコンじゃないんですけど?ただ一人の家族を大事にしてるだけですーなぁ澪?このクソ女自分(テメェ)のショタコン肯定するために他人をシスコン呼ばわりすんだけどどう思うよ」

「どうと言われても困る。というか別にあたしは久城先輩がショタコンだろうと関係ないし。兄さんのシスコンはあたしに影響あるけど」

 予想外の一撃を受け意気消沈する黒薙。

「ほらキミの妹くんもボクの味方に着くみたいだよ?ほらほら謝るなら今のうちだよ黒薙くん、『【悲報】執行衛兵の重役、妹に自分のジャージを着せる変態だったwww』なんてばら撒かれたくないだろう?」

「あァ!?それに関しちゃ澪の服のサイズが合わねぇっつーから仕方なく……ってなんでテメェその写真持ってやがんだ返せよ肖像権とプライバシーの侵害だぞコラ!!」

「ちょっと兄さん、そういう話外でするのやめてほしい……」

 澪が黒薙のジャージを部屋着にしている写真をチラつかせられ、黒薙は思わず声を荒げた。

「あー面白い、煽り耐性低い後輩イジって遊ぶのが一番面白いよ。ごちそうさまでした。……黒薙くん、この写真はキミに返しておくよ。撮ったのはウチの後輩だけれどね」

 黒薙を挑発しつつも箸を進めていた久城は、お盆を持ってその場を去る。

「……はぁ。嵐のような人でしたね、久城先輩……」

「嵐っつーか荒らしだろあのクソ女は……で、ミスティ。話ってなんだよ」

「あー、大したことないわけじゃないんですけど流石にここで話すのもちょっと……なんで後で連絡入れますね」

 ここで話せないってことはまた面倒ごとか。黒薙は息を吐く。

「……ん、ごちそうさま。僕は教室戻るけど赤萩さんはどうする?」

「私はまだしばらく話していくわ。先戻ってて」

 黒薙は一足先に食堂を離脱する。久城のせいで気にかける余裕がなくなっていたが、亜矢といる時の胸のざわめきから逃れたい、というのも根底にあったのかもしれない。

「……レーツェル先輩。亜矢さんと兄さんをくっつけるのが目的なのにあなたが率先して兄さんと話してどうする」

「……ハッ!すみません澪ちゃん、完全に忘れてました」

「本当に使えない人……次は気をつけて」

 澪は冷ややかな視線をミスティに向けると、コップの水を飲み干した。

「また黒薙とろくに話せなかった……」

 


 

「あの、黒薙くん……赤萩さんとご飯行ってたけど……」

「あ?安心しろって朱鷺澤、僕はあの人に下心なんて持ってねぇから。これはそう、アレだ。視察だ」

「そう、なの?ならいいんだけど……」

 教室に戻るなり、朱鷺澤が心配そうな顔で黒薙の元に駆けてきた。

「流石にお前のことは裏切れねぇからな……数少ない友達を減らしてたまるかよ」

「じゃあ、その……できれば赤萩さんと二人きりでどこか行くのは控えてほしいんだけど……」

「……お前、ほんとあの一件から生意気になってきたよな。まぁいいけど……考えとくよ」

「うん……ごめんね黒薙くん……君にばっかり迷惑かけて……」

 今にも泣き出しそうな目で黒薙を見つめる朱鷺澤。その仕草にやけに母性本能をくすぐられた黒薙は、気がつけば朱鷺澤の頭を撫でていた。

「あの……黒薙くん……ちょっと恥ずかしいんだけど…………」

「ん?あぁ悪い、マジで無意識のうちに撫でてたわ……言っとくが、僕は別にホモでもなんでもねぇからな」

「うん、わかってるよ……」

 頬を染めながら朱鷺澤は微笑む。

「ん、悪りぃ朱鷺澤、電話きたからまた後でな」

「うん……」

 気まずい雰囲気を醸し出すなか、救いの手を差し伸べたミスティからの電話。黒薙は心の底からミスティに感謝しながらその場を後にした。

「はいもしもし、こちら黒薙。要件は?」

『先ほどの「お話」です先輩、マテリアブレイカー使いこなすぞブートキャンプについてなんですけど』

「ちょっと待てそのダサい名前はどうにかならなかったのか」

『えっ、そんなに酷かったですか?私の渾身のネーミングだったんですけど』

「だとすりゃお前は二度と何かに名前をつけるのやめた方がいいぞ……で、本題は?」

 あまりのネーミングセンスのなさに黒薙は思わず呆れたような声を出してしまった。

『まぁ特訓なんですけど……今日は赤萩先輩も遠山先輩も来れないそうです。だからといって特訓をやめるわけにも行きませんし、執行衛兵の皆さんのお力をお借りすることにしました。昨日と同じ場所にお願いしますね』

「はいはい……っと、切るぞ。ツレ待たせてんだ」

『はい、放課後また会いましょう』

 プツン、と通話が切られる。

「おっ、黒薙ぃ、誰と電話してたんだ?まさか赤は……」

「ンなわけねぇだろ牧瀬ブン殴るぞ」

 教室に戻ろうとする黒薙の前に牧瀬が立ち塞がったが、黒薙は鳩尾に一撃を叩き込んで牧瀬を無視して進んだ。

「うん、うん……よかった、ありがとう希望……呼び方なんて何でもよくない?わかったよ先輩、切るね」

 黒薙が教室に戻ると、朱鷺澤も誰かと電話をしていたようだった。

「おっと、邪魔したか?」

「ううん、大丈夫だよ黒薙くん。ちょっと知り合いと電話してただけ」

 

 

「ふふ、永治はつれないなぁ。もう少し食いついてくれてもいいのだけどね」

「せんぱぁい、どうしたんですかぁ?」

「あぁ、少し幼馴染と電話をね。彼もなかなかに非道い男でね、自分の好きな女と友人が食堂で二人きりになるのを防げというのだよ」

 同時刻、報道部室で、久城はコーヒーを飲みながら後輩と話していた。

「もともとこの曜日が混雑することは知っていたけど、念には念を……ということでね。もともと彼らは別の子たちと相席だったけど、その子たちもあの二人を応援しているようだったからね」

「ふぅん……せんぱいにしては意外ですねぇ、普段ならせんぱいはカップル成立を優先するひとだと思うんですけどぉ」

 猫のような鋭い目で、久城を見つめる。

「『報道部部長が妨害する男女二人組のヒミツは?調べてみました!』って記事がいいですかねぇ、せんぱぁい?」

「はは、キミには敵わないな礼子!だけど、そうはさせないよ。ボクが、ではなく、蒼哉(そうや)が、だけどね」

 


 

「ハァ……こっちから手出しできねぇってのもなかなか面倒じゃねぇ、かっ!?」

「オラアホ薙颯斗余所見してんじゃね〜にゃ〜!」

 放課後。OOは執行衛兵の仲間たちに追い詰められていた。もちろん、特訓のためだ。

「こんなモン……全部叩き潰しゃ済む話だろうが……ッ!」

『Metal OO!』

 OOの体が青色の鎧に包まれ、重力を圧縮した拳が放たれる。──はずだった。

「黒薙さん、一つのことに気を取られて、他を疎かにするのは、あなたの欠点、ですよ」

 ひとりの少女から放たれたライフルの弾丸がOOに突き刺さると、被弾した箇所から段々とOOの体が凍りついていく。

「隙だらけやで、黒薙ィ!」

「そういうことっす、大人しくするっすよ!」

 直後、左右から重い一撃が襲い来る。一方はハンマーで、一方は岩石。もし黒薙がOOに変身していなければ、そのまま死んでいたに違いない。

「がッ……ゲホッ!いい感じに追い詰められてきたじゃねぇか……!行くぞミスティ、テメェの体貸せッ!」

 変身を解除されながらも、黒薙はミスティに手を伸ばす。ミスティの身体が微かに光を帯び、霞んでいったが……それだけだった。

「……?失敗みたいですね、先輩……」

「やめろよその目で僕を見るの、恥ずかしいだろ……」

 格好つけた手前、ミスティの吸収に失敗したことをつつかれるのは痛いようだった。

「ま、今日のところはやめにしておきますか……これ以上やって先輩が使い物にならなくなっても困りますし。この程度なら明日には全快してるでしょうし」

 ミスティはふふっと微笑み、黒薙の胸ぐらを掴む。

「次こそは、わかりますよね……?」

「わかりました……」

 笑顔の圧に負け、黒薙はつい敬語になってしまった。

「ん?あー黒薙先輩!怪人出たっす!場所は第五学区の住宅街!」

 そんな有栖川の声で、場の空気は一変した。

「チッ、少しはタイミングってもんを考えろクソが……僕とミスティは先に行く!お前らは後詰を頼む!」

 

 

「さて、赤萩くんは来ますかね?」

「叶絵、本当にあの男を信じているのですか、と問います。……元怪人で、裏の人間でしょう?」

「半分は信じてますよ、もう半分は敢えて言いませんが」

 同時刻、遠山は、廃工場で赤萩を待っていた。ライダーシステムの試作機の実験台の件だ。

「おっ、誰か来たみたいですね?……ッ、菱杖透流……どこからこの情報を掴んだのか知りませんが……野乃々!黒薙くんとレーツェルちゃんに連絡を!」

「もうしてる……けどダメ、同時に第五学区に怪人が出てるみたい。颯斗だけでも借りたけど期待はできない……!」

「チッ、やはり赤萩くんを信用したのは間違いでしたか……ッ!」

 遠山は唇を噛んで臨戦態勢をとる。遠山が選んだ『フラワー』部隊の少数精鋭は全員引き連れてきているが、菱杖の相手をするにはあまりに力不足だ。

「おや、しばらくぶりですねぇ遠山さん、お元気でしたか?ライダーシステムが完成したと聞きましたが……あるのでしょう?それをいただきに参上しました」

「お断りですよ、菱杖先生……私たちの希望を、あなたなどに奪わせるわけがないでしょう……ッ!」

 遠山は犬歯をむき出しにして菱杖を睨みつける。

「おっと、それは残念です……では、力尽くでいただくとでもしましょうか、やれ」

 菱杖が指をパチンと鳴らすと、虚空から無数の怪人が現れる。

「させるわけないでしょう、と伝えます……」

 しかし、ただやられるだけの執行衛兵ではない。野乃々と放った煙幕弾が炸裂し、次に菱杖が目を開いた時には二人の姿は消えていた。

「ほう、なかなか小賢しい真似をしてくれるじゃあありませんか……ッ!それでこそ執行衛兵、せいぜい無駄に足掻いた上で絶望しなさい」

 


 

「まだ追ってきてるみたい……ほんと、面倒なヤツら、とため息を漏らします」

「口より足を動かしなさい野乃々、菱杖が変身でもしようものならすぐに追いつかれるのだから……」

「誰が変身したら、追いつかれると?貴女達ごとき、シャトランの力を使うまでもありません」

 遠山は息を飲んだ。撒いたはずの巨漢が、自らの目の前に現れたのだ。そして男は、その長い足で自らを狙っている。

「おっと、そういえばそちらには無能力者用のライダーシステムもあるのでしたね、身体の一部にしか装着できないそうですが……まさか、そのオモチャが?」

「ッ、だとしたらどうします?」

 咄嗟の判断で、右腕にアーマーを纏う。菱杖の一撃を辛うじて受け止めて遠山は焦り混じりの笑みを浮かべる。

「どうもこうもないでしょう……面倒ですが、貴女を殺して進む他はありませんねぇ」

 菱杖の表情が暗く染まり──直後に、遠山の腹部を菱杖の右足が蹴り抜いた。

「か……ッ!?」

「叶絵……!あぁくそ、数だけ無駄に多い……!」

 一方で、野乃々は鉄仮面を被った怪人たち相手に苦戦を強いられていた。

「安心してください銭谷さん、貴女も後でブチ殺して差し上げますからねぇ」

「お断り……!」

 遠山の頭を踏みつけながら、菱杖は言った。

「それでは……そろそろ死んでもらいますかねぇ」

 銃口が遠山へと向けられる。

「……さようなら、遠山さん。貴女のことは数日は覚えておきますよ」

 死を前に、遠山は目を塞ぎ、後悔の言葉を脳内で幾度となく反芻する。しかし、いつまでたっても遠山の意識は途絶えない。

『させる訳、ねぇだろうが……!もうこれ以上てめぇの犠牲になる誰かを出させる訳ねぇだろうが!』

 怪人の鎧を纏った赤萩陽希が、菱杖を殴りつけたからだ。

『悪い、遅くなったな遠山……せっかく誘われたんだ、答えくらいは出さねぇとな』

 アーマードは、遠山を省みながら言った。

『おや、赤萩くんですか……裏切り者の貴方が自ら殺されに来てくれるとは楽でいいですねぇ……!』

『裏切り者、ねぇ。てめぇにだけは言われたくねぇな菱杖!』

『言ってくれますねぇ赤萩くん、妹を傷つけておきながら未だに優しいオニイチャンぶるワタシ以下の屑とは思えない口ぶりだ』

 いつの間にやら怪人へと変身していた菱杖は、銃口を撫でながら赤萩を挑発する。

『て、めぇ……ッ!』

『おや、図星でしたか……彼女、善人ぶった悪人の貴方を何と思っているんでしょう、ねッ!』

 怒りのままに飛びかかったアーマードに、巨大な光弾が放たれる。その一撃は、アーマードの変身を解くには十分すぎる威力であった。

『おやおや、無様ですねぇ。まぁいいじゃないですか、貴方はここで、遠山さんと共に死ぬんです。かつての敵と心中することになるなんて無様ですねぇ!?』

 饒舌にクロージャーは嗤う。

「赤萩くん!……馬鹿、どうしてあんな安い挑発に乗るんですか……!」

「遠山……?悪い、頭に血が上った……」

 口元に溢れた血を拭いながら赤萩は言う。

「まったく……いい?このままでは私たちは地獄に急行。ここを生き残るには、ライダーシステムを使ってもらうしかない」

「ハッ、そもそもここに来たのだってそのためだよ……だから、さっさとそれを寄越せよ」

 遠山が握ったベルトのバックルを半ば強引に奪い取ると、赤萩はそれを自らの腰にあてがった。

「赤萩くん……これを。レーツェルちゃん謹製、人工マテリアキー?らしいわ」

「サンキュ……それじゃ、ちっと離れてな遠山」

『ほう、結局使うのですね?しかし、貴方はワタシにシャトランの状態で敗れている……今更ライダーの力を使ったところで意味はありませんよ』

 挑発を続けるクロージャーに対し、赤萩はあくまで冷静に、絞り出すような声を放った。

「そうか……じゃあ、てめぇのその理想論、俺が今からぶち壊してやるよ……変、身!」

 


 

『Fire! Fire! This is the burning flame! ignited HORUS system……“Flamer”』

 赤萩の身体を、真っ赤なリングが包み込む。

 次の瞬間には、燃え盛る炎が上がり──その中心に、烈火の如き紅の戦士が、仮面ライダーフレイマーが佇んでいた。

『ほう、これは壮観……ですが残念ですねぇ、これほどのモノを今から破壊しなければならないとは』

「言いたきゃ勝手に言ってろよ、ただし……お前の安い想像なんて、軽く超えちまうかもしれねぇけどな」

 クロージャーの挑発を軽く受け流し、フレイマーは笑う。

『Crimson Warrior!』

「うぉっ!?こんなモン出てくんのか!?しかし斧か、使い慣れた得物で助かった!」

 走り出したフレイマーの右手に、突然として真紅の斧・クリムゾンウォリアーが現れる。

『武器がどうしました?その程度ではしゃぐようでは……』

「あ?今何つった?悪い、聞いてなかった、もう一回言ってくれよクロージャー」

 余裕ぶって挑発するクロージャーだったが、振るわれた一閃を見て、瞬時に後退する。直後、廃工場の壁が真一文字に抉り取られた。

「おいおい、まさかあれだけ余裕ぶってたくせにビビったなんて言わねぇよな?」

『ハハッ、前言撤回です!貴方だけはここで確実に殺しておかねばならないようですねぇ!』

 その一撃は、確実にクロージャーにとって害となるもので。故にクロージャーは眼前の『敵』の認識を改める。

『そのまま自滅しなさい、赤萩陽希ッ!』

 菱杖の能力が、フレイマーに仕掛けられる。洗脳ではなく、ホルスの出力を急速に高めることでオーバーヒートを起こさせるのが狙いであった。……が。

「 ははっ、残念ね菱杖透流!そのライダーシステムに干渉系の能力は効かないわ!」

「おいなんだよソレ!一瞬避けようとした俺の気持ちをなんだと……」

「いいから戦いなさい赤萩くん!」

 べーっ、と舌を出してクロージャーを挑発する遠山。当然、その行動はクロージャーを刺激し、攻撃を誘発することになるのだが、

「無駄よ、ここにはヒーローがいるし……いなくとも、あなたの攻撃を止める術ならある。執行衛兵の顧問なら知っているでしょう?『第一懲罰術:捕縛(アインスジャッジスキル:バインド)』。基礎中の基礎の技よ」

 遠山は、見事にクロージャーの拳を止めてみせた。

『どうやって……一体どうやってここまで張り巡らせたと言うのです?そこまで縦横無尽に逃げ回る機会など……』

「最初からよ。もともとこれは赤萩くんが逃げようとした場合に捕らえるためのものだったけど……出力は通常の数倍から数十倍よ」

『ほう、ですがその程度でワタシを止められるなどと思ったのならばそれは勘違いですよ』

 クロージャーが腕に力を込めると、瞬時に拘束が弾け飛ぶ。

『さぁ遠山さん、まずは貴女から死になさい!』

「さて、どうかしらね?……私がこうして時間を稼いだ意味、わからないとは言わせないわ」

 クロージャーの武器が遠山の鼻先を掠める。だが、それ以上の攻撃はなかった。

「ありがとよ、遠山……おかげさまでパワーは十分だ」

 最大限までチャージされた光弾が、クロージャーを数十メートル先まで弾き飛ばしたからだ。

「レプリシューター、てめぇが俺に寄越した武器だ。なんて言うんだっけな、寝首を掻かれる、ってやつか?」

『ほ、ざくなよ、クソガキ……ッ!』

「ハッ、威勢は上等!けどな、こっちは本気でてめぇを倒そうとしてるってこと忘れんじゃねぇぞ」

 クロージャーがフレイマーに飛びかかるが、フレイマーは気にも留めずに、全力を込めた右の拳を叩きつける。

「てめぇは俺の妹を傷つけた……その報い、俺がここで格安で受けさせてやるよ」

 体勢を整えたクロージャーの腹部に強烈なキックを叩き込みながら、フレイマーはベルトのマテリアキーを抜き──ソレを、真紅の斧に突き刺した。

『Material Attack! Crimson Slash!』

 爆炎を伴った一閃が、クロージャーを飲み込んだ。




赤萩、初変身です!
というわけで墓脇です。今回はOにおける2号ライダーのお披露目回でした。
前回も言った通り、名前に色が含まれているキャラクターは、澪や亜矢といった主要人物の身内を除けば、初めからライダーへの変身が予定されていたキャラです。
そういうわけで、赤萩が変身したのは予定調和なわけですが……さてここで今回登場した久城さんのセリフを思い出してください。そういうことです。
ここから、戦いはさらに激化していきます。応援の程、よろしくお願いします。
感想などございましたら、お気軽にコメントいただけますと幸いです。墓脇でした。
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