仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第16話「内なる声は『慟哭』に似て」

「やったか……!?」

『やってないよ、アーマード……ったく、俺にこんなクソ面倒な真似させるなんて、クロージャーも人が悪いなぁ』

 爆炎が包み込む中、菱杖を庇うようにして立つ怪人がいた。パラサイト・シャトランだ。

『助かりましたよ、パラサイト……完全に油断していました。まさかここまでとは』

『しっかりしてくれよクロージャー、あんたがいないと俺たちの計画も水の泡なんだからさ』

 二人の怪人は笑い合う。その意識に、すでに赤萩らは含まれていなかった。

「てめぇら、この俺が逃がしてやるとでも思ってんのか?」

『うん、思ってるよ?というか……逃がさないと痛い目に遭うのは向こうの銀髪ちゃんなんだけどね』

 野乃々が怪人たちと戦っている方を見ながら、パラサイトはせせら笑う。

『じゃあね、アーマード……次に会うときは殺し合いの場だ』

 

 

「はぁ……はぁ……硬い、と本音を零します……このままでは……」

 一方、野乃々は3人の怪人に苦戦を強いられていた。

「ま、ず……ッ!?」

 怪人の凶刃が迫り来る。思わず身を竦め、攻撃を躱そうと試みる野乃々だったが……。

「切り裂け、『無明の暗剣(コーシャ=アヴィディヤ)』!」

「目障りよ、凍てつきなさい!」

「……邪魔なのだけれど」

 突如として現れた三つの影が、その怪人たちを瞬時に撃破した。

「……あ、なた達は……?と、問います。その身のこなしは……」

「忘れた、とは言わせないけれど。『ファング』。仕事ついでに助けに来たってワケだ」

 藍色の髪の少女が、野乃々を睨みつけながら言った。

 


 

「クッソ、大丈夫か委員長……あれ?もう終わっちまってた感じか?」

「ありがとうございます黒薙くん、赤萩くんがなんとかしてくれました……野乃々の方も通りすがりの『ファング』に救われたとか」

「あ?あいつら何やってんだよ……いや仕事ほっぽり出して来た俺も人のこと言えねぇけどさ……」

 救援を頼まれて、怪人の相手をミスティ一人に任せて飛ばして来た黒薙は、到着するなり自分の仕事が終わっていることを言外に察し、安堵した。

「そうっすか……助かったよ赤萩陽希。っつーか腰のソレ、あんたもなったんだな、ヒーローってやつに」

「先輩をつけろよ黒薙颯斗。……ってか、ヒーローなんて小っ恥ずかしいからやめてくれよ、俺みたいなチンピラがそんな風に呼ばれていいワケねぇだろ」

「あら?私は貴方が助けてくれた時に『あぁ、この世にヒーローっていたんだな』って思ったけど?」

「話がややこしくなるからお前は黙ってろよ遠山……」

 二人からヒーローと連呼され、赤萩は顔を赤らめる。

「あぁ、そんなことより黒薙颯斗、お前いいのか?何だっけ、もう一人変身できる奴いただろ?そっちに戻らなくても」

「ん?あぁそうだな……おっと、委員長。ミスティが怪人の変身者2人をとっ捕まえたってよ」

 

 

 黒薙が遠山のもとへ向かっている最中。ミスティ──プロトOOは二人の怪人と対峙していた。

(戦闘能力は低いのが幸いですが……それでも一人で二人を相手するのはなかなかに面倒です)

 カメラのような頭の怪人の攻撃を右手に握った剣で受け止め、ペン先のような腕の怪人の腹部にニーキックを叩き込みながらプロトOOは思案する。

「あぁもう面倒ですね……執行衛兵の皆さんも来たみたいですし、そろそろ片付けますか」

 プロトOOはぼやきながらベルトのレバーを倒す。

『Material Finish……Oblivion Strike……』

 エネルギーをまとった右足の一撃で、カメラ怪人の胸のディスクを打ち抜く。

『が……ッ!?』

「まだですよ、そっちのあなたもですッ!」

『Material Attack! Oblivion Time Slash!』

 どす黒い剣戟が、ペン怪人の腰のバックルを切り裂き、爆発を招いた。

「はい、確保です。お迎えが来るまで無識で非常識な自分の犯した罪でも再認識しててくださいね」

 

 

「ってワケだにゃー、委員長こいつらどうすんのかにゃ〜?」

「どうするも何も、怪人の力に手を出した以上は懲罰房コースしかないでしょう?で、千聖。この生徒たちの身元は?」

「はいはーい、私の出番っすねー?右から神山(かみやま)銀子(ぎんこ)守澄(もりずみ)寛也(ひろや)、どっちも報道部の下っ端っすね」

 有栖川は携帯の画面を見せながら言った。

「報道部、ですか……いえ、悪いとは言いませんが、どうしてもあのバカの顔が浮かんでしまうのよね……おっと、公私混同甚だしかったわね、忘れてくださいね」

 苦虫でも噛み潰したかのような渋い顔で、遠山は呟く。

「ま、こいつら放ってやる必要もないでしょ、オラさっさと乗れクソ怪人ども」

「やめなさい、わたしのような誘宵学区の宝を捕まえるなど……」

「お前たちが我々を捕らえるのは隠蔽のためだろう?マッチポンプで怪人を倒しヒーロー気取りか、見上げたもんだ」

「あ?ワケ分かんねぇこと抜かしてんじゃねぇぞクソどもが」

 黒薙を睨みつける怪人の二人に、哀れみの目を向けながら黒薙は二人の後頭部を蹴り飛ばした。

「上方、こいつらの尋問は任せたぞ」

「了解、俺に任せとけや」

 護送車のコンテナに強引に投げ入れながら、上方は嗤った。

 


 

「へぇ、なるほど。まさか報道部の部員が怪人の力に手を出すとはね。これは完全にボクの監視が行き届いていなかったと反省すべきだね。……で?要件はそれだけかい?こう見えてボクは忙しいんだけど?」

「怪人事件にあなたが関与しているのでは、と思ったのですが、あくまで無実であると?」

「うん、そうだよ?だって怪人事件に自分から関わってもボクに得はないし。後輩が関わったからってボクを疑うのはナンセンスだね、それを言ってしまうと、キミだって怪人事件に加担しているようなものだろう叶絵」

 翌日。遠山は久城を呼び出し、怪人事件についていくつかの質問をしていた。

「そうね……ところで質問なのだけど、今回怪人となった二人は、報道部内ではどれくらいの地位にいたのかしら?」

「銀子も寛也も下っ端中の下っ端だね、どこか決まった部門を担当するわけでもなく……というか、ボクはその二人にマトモな仕事を与えた覚えはないな。持ってくるニュースもつまらないゴミみたいなものばかりだったし、正直才能のカケラも無かったからね」

「なるほど、その二人が怪人の力に手を出した理由は大体わかったわ。お前のせいじゃねーか」

 流れるように二人を罵倒する久城に、遠山は冷ややかな目を向ける。

「ボクのせい?何を言うんだ叶絵、F!nderは実力が全てなんだ。無能につまらない話を載せられて購読者が減ったら誰が責任を取る?ボクには先人たちが紡いできた報道の糸を未来につなげる義務があるんだ」

「そう思うことは勝手だけどそうして切り捨てられる人間の気持ちを考えたことはある?」

「ないね。無能の気持ちなんていちいち理解してやる義理がない。だってボクは天才なのだから。無能に同情してやるのは中途半端に才能を持つ者がすべきことじゃないかい?」

 何一つ悪びれることなく、久城は言葉を紡ぐ。その様に遠山は思わず拳を握ったが、すぐに手を開いた。四方の陰からカメラを向けられているのを察したから、ではない。こんな相手には殴るだけの価値もないと判断したからだ。

「そう……ならば勝手にすればいいわ。ただし、これ以上あなたの後輩から怪人が出た場合、しかるべき措置がとられると覚悟しておきなさい」

 

 

「……で、なんで僕があんたと飯食う羽目になってんだっけ?」

「そんなツレねぇこと言うなって黒薙颯斗、これもホラ、ライダーのよしみってことで」

「ライダーのよしみって……私関係なくない?お兄ちゃん?」

 一方、黒薙・亜矢・ミスティは、赤萩に強引に食堂まで連行されていた。

(なぁ、目的は分かってんだろ、黒いOO?)

(えぇ、あなたの目を見れば考えていることはわかりますよ赤萩先輩)

 赤萩とミスティは視線だけで語る。

(それじゃ始めるか、亜矢と黒薙颯斗を付き合わせるぞ計画を)

 赤萩たちの黒い笑みに、二人はまだ気付かない。

「いやぁ、せっかくだし亜矢にも付き合ってもらおうかなって……気持ちはわかるだろ?」

「いや、全然わかんないんだけど……」

「そこはわかれよ……」

 赤萩兄妹の言葉がすれ違う。

「で、僕とミスティを呼んだのはなんなんだ赤萩陽希?」

「先輩をつけろっつってんだろ黒薙颯斗。いやほら、せっかく俺もライダーになったことだし所属は違うけど情報の共有くらいはって思ったんだが……」

「黒薙でいいよ赤萩陽希。情報の共有ってなぁ……委員長通じてやりゃいいじゃねぇか」

「なんかこう、風情ってモンがあんだろ?」

「ねぇよ赤萩陽希。風情もなけりゃ共有する情報もねぇ」

「相変わらずツレねぇやつだな……」

 それから、赤萩たちは取り留めもない会話を重ねていった。

「あぁそうだ亜矢、そろそろお前の誕生日だったよな。なんか欲しいモンとかねぇの?」

「あれ、もうそんな時期だっけ……特にこれと言ってはないから適当に雑貨でも買ってよ」

「了解……じゃ、俺はそろそろ戻るけど……黒薙。前も言ったと思うが、亜矢を苗字で呼ぶのやめねぇか?俺を呼ぶときの赤萩陽希と最初四文字被ってるから混乱すんだよ」

 


 

 それから2日後、5月11日。黒薙は澪を連れ、新装開店したばかりのデパートを訪れていた。

「……ま、あんなこれ見よがしに誕生日アピールされたら流石に何か買わないと失礼だろ」

「それで、あたしにアドバイスを頼むって訳ね。まぁ兄さんって女心ないしプレゼントが何がいいかなんてわからないもんね」

「確かにそうだが何でそんなに不機嫌なんだよ澪……」

「さぁ?自分の胸にでも聞いてみたら?」

 澪は冷たく突き放す。事の顛末をミスティから聞いており、赤萩が亜矢と黒薙を付き合わせようと画策していることも知っているが、だからこそ、いつまで経っても亜矢が自らを想っていることに気がつかない兄に苛立ちを覚えているのだ。

(兄さんのクソ鈍感、ほんといつになったら治るのかな……特に自分のことになるとコレだからなぁ……)

 黒薙の横顔を盗み見ながら、澪はため息を吐いた。

(こりゃ先は遠そうだな……)

「ほんとどうしたんだよ澪、なんか嫌なことでもあったのか?……頼りない兄貴かもしんねぇけど、僕でよかったら相談乗るぞ?」

「別に……兄さんのその優しさとか気遣いとかもっと他に向けてあげてほしい人いるんだけどな……」

 呆れたような目で睨む澪に、思わず黒薙はたじろいだ。

(マジで何なんだ、見当がつかねぇ……澪を怒らせるようなことなんてしてねぇよな……?)

「別に怒ってないし。はやく行こ?女心のカケラもない兄さんに付き合ってたらどうせ時間かかるんだしせめてはやく行っておかないと」

 

 

「で……亜矢さんはなんか適当な雑貨って言ってたんだよね?雑貨ならよっぽど下手打たない限りハズレはないから便利だよね」

「へぇ、よくわからねぇけど食べ物とかよりは簡単に選べるってことか?」

「極端だけどそういうこと。あんまり奇抜な、人を選ぶようなものでさえなければ嫌がられることもないでしょ?」

 澪は黒薙に説きながら高級雑貨コーナーを渡り歩く。

「というか澪、なんで僕はこんなどの商品もゼロが5つは並ぶような不思議空間に連れ出されてるんだ?」

「そこまで酷くないよ?いくら高級ブランドの集合体みたいなこのお店でもそこまで高いものは売ってない。そういうのは一部のVIPにしか売らないって聞いた」

 流れるように否定された。

(いや、それにしたって高ぇよ……ただのグラスで5万とかだしそんな高ぇモン渡して気があるって思われたら恥ずかしいじゃねぇか)

 そんなことを考えながら、黒薙は己を取り巻く無数の生活用品を目利きする。

(自慢じゃねぇがそれなりに道具の良し悪しは解ってるつもりだ。せっかく友人(ツレ)にプレゼントするなら最高に出来のイイやつがいい)

「勝手に自分の世界に入り込まないで。ところで質問なんだけど、亜矢さん何かそれっぽいこととか言ってなかった?最近肩が凝ってつらいとか」

 ふと、澪の声が黒薙の思考を停止させた。肩が凝ってんのはお前だろ、と口をついて出そうになったが、すんでのところで黒薙の理性が抑えた。

「最近あんまり寝れないとかそんなことは言ってたっけな、まぁ赤萩陽希……あぁ、あいつの兄貴のことだけど……その件とかあったし仕方ねぇとは思うんだが」

「なるほど……房総行ったときは誰よりも早く寝てたけど、安眠効果ありそうなのとかもいいかも?亜矢さんの好きな香りとかは知らない?」

「流石にそこまでは知らねぇな……ってか、なんでお前は僕がそんなこと知ってると思ったんだよ」

「聞いてみただけだよ。シュレックだかなんだかの猫ってあるじゃん、知ってるか知らないかなんて蓋開けてみるまでわからなくない?」

 さらさらと流れるような屁理屈であった。

「お前、ほんとロクでもないところが僕に似てるよな……」

 


 

「驚いた……まさか兄さんにそこまでセンスあったなんて……」

「おいおい澪ー?お前は僕をなんだと思ってるんだ」

「正直兄さんのプレゼント選ぶセンスなんてたかが知れてると思ってたけどいい意味で予想外だった、きっと亜矢さんも喜ぶはず」

 黒薙の指摘も無視して澪は鼻息を荒くする。

「おっと、悪い澪ちょっと電話きたから」

 ふと、ブルっと携帯が震えたため黒薙は澪から離れる。

「はいこちら黒薙、要件は?」

『黒薙くん、今どこにいるか教えてもらえるかしら?緊急事態が発生した』

「どこって……第七学区のデパートですよ、それがどうしました?っつーか緊急事態って……」

 困惑する黒薙に、遠山は震える声で起こった事実を伝える。

『落ち着いて聞いて、黒薙くん……つい先ほど、上層部から連絡があったの。9日から正体不明の毒に苦しむ生徒が多数確認されていると』

「……は?どういうことです?毒って……」

『毒の成分はオオスズメバチのそれと似通っているそうなのだけど、問題は効力がその何百倍と高められていること。幸い死者は出てないそうだけど……』

 遠山は語る。

『その被害者に共通して見られたことも伝えるわね……「その時最も人口密度の高い場所にいた生徒」。今あなたのいるデパートは、その条件に合致している』

「………………え?どうすればいいんだよ、澪が巻き込まれたら──」

『今、特殊な装備を揃えた『暴児止め』をそちらに向かわせているわ。それから赤萩くんも。……黒薙くん、あなたもそこから動かないで、落ち着いて行動して。今一番怪人と相対する可能性が高いのはあなたなの。多くの人の命があなたの両肩にかかっている……絶対に死なないで』

 言いたいだけ言われ、通話が切れる。

「……兄さん、どうしたの?すごい顔色だけど……」

 ずっと一緒にいたからか、些細な顔色の変化さえも澪には見抜かれる。しかし、と黒薙は思案する。ここでそのことを伝えたらどうなる?混乱というものは人から人へと伝染するものだ。ここで事実を伝えてしまえば、その混乱は瞬く間にこのデパート中に広がる。

「……何でもねぇよ、澪。ただちょっと肌寒いってだけだ」

 だから、黒薙は嘘をついた。きっと澪にはバレてしまうだろうとわかっていたが、少しでも安心させたかったのだ。

「そう?……なら、いいんだけど……」

 しかし、黒薙の配慮も虚しく、大量の怪人が、突如としてデパートの中心部・噴水広場に現れた。

「え……兄さん、これってどういう……」

「お前は今すぐ逃げろ澪、でも絶対に閉塞空間には行くな。できるだけ開けた場所に行け……いいな?」

「う、うん……兄さんも無理しないでね……?」

 黒薙は亜矢へのプレゼントの袋を澪に渡すと、手すりを跨いで噴水広場へと飛び降りた。多くの生徒たちが逃げ惑う中、変身した黒薙が舞い降りる。

「気持ちはわかるが慌てんなお前ら!あくまで冷静に動け!」

 蜂の巣のような頭の怪人たちを切りつけながら黒薙は叫ぶが、その声は、憔悴しきった人間たちには届かない。

「チッ……何がどうなってやがる……!」

 そんな中、救いと言わんばかりに防護服の集団が現れた。その中心には、赤萩とミスティがいた。

「やっぱビンゴだったな……行けるか?レーツェル」

「当たり前でしょう?そのために来たんですから……」

 二人は腰にベルトを巻き付け、叫んだ。

「「変身!!」」

『Regains Mist World……Proto OO……』

『Fire! Fire! This Is The Burning Flame!』

 赤と黒の二人のライダーは、目に入った怪人を手当たり次第に撃破する。

「赤萩陽希!それにミスティも!……あいつらの正体は分かってんのか?」

「それがわかれば苦労しませんよ先輩。ただわかるのは……あの怪人たちには統率している存在がいるはず。でなければあれだけの数がいて毒で攻撃された生徒が出ないというのはおかしい」

 


 

「よし、全員避難は済んだみてぇだな……にしてもこの数頭おかしいんじゃねぇのか!?」

「口より先に手ェ動かせ赤萩陽希!」

「だからてめぇは……先輩をつけろっつってんだろうが!」

 憎まれ口を叩き合いながらも、OOたちは蜂の巣頭の怪人たちを次々と撃破していく。

 その数を残り数体まで減らした──その時。何やらどす黒いオーラを纏った怪人が、三人の背後を横切った。

「……ッ!?なんだ今のは……」

 その言いようのない恐怖に、三者三様の方向に思わず飛び退く。

「ま、さか……てめぇがその怪人どもの親玉か!?」

 フレイマーは問いかけるが、スズメバチのような鎧を纏った怪人は応えない。

「全員の避難、完了しました!我々もすぐに……」

 互いに動かない膠着状態が続く中、防護服を着た男が声を上げた。

「馬鹿ッ、さっさと離れろッ!」

「……え?」

 直後、ハチ怪人──ホーネット・シャトランが指をパチンと鳴らした。すると、どこからともなく現れた蜂の巣頭の兵士(ポーン)たちが、『暴児止め』たちに襲いかかる。

「くっ……!本当に数が多い……ッ!これで本当に食い止められるんですか……ッ!」

「仕方ねぇ、ちょっと飛んでろテメェら!」

『Metal OO!』

 メタルフォームへと変身したOOは、グラビティナックルで地面を殴りつけ、衝撃波でポーンを一掃する。

「チッ、まだご本尊には届かねぇか……ッ!っておい待て!テメェ何を……ッ!?」

 一瞬、気を抜いた隙に。ホーネットの毒針が、一人の防護服を貫いた。

「あッ、あァァァッ!?痛え、痛えよォ!誰か、助けでッ!?」

 特殊な防護服で身を固めていても、一度刺されただけでここまで苦しむものなのか。思わずOOは息を飲む。

「逃げろッ!てめぇらも死にたきゃねぇだろ!?」

 フレイマーは吼え、今にも二人目の犠牲を出そうとしていた怪人の毒針に切りかかりながら叫ぶ。だが、毒針と蜂の巣頭の怪人。二重の脅威の前に、全てを防ぎきることなどできず。毒に苦しむ多くの暴児止めたちを見て、OOは叫んだ。

「クソッ……テメェ、何が目的でこんな真似しやがるってんだ……ッ!」

 しかし、怪人は応えない。お前などと交わす言葉などない、とでも言わんばかりに。

「何とか言えよ……テメェは何なんだ!黙りこくってねぇでなんか言ってみたらどうだ!?」

『Materia Breaker!』

 怒りを露わにしたOOが、マテリアブレイカーを起動する。

「殺す、テメェだけは僕が……ッ!」

『Breaking OO……Metal Charge』

 そして、OOは真っ黒な鎧を纏う。

 力任せにグラビティナックルを振るい、蜂の巣頭たちを蹴散らす。

「余裕ぶってんじゃねぇ、オラ死ねッ!」

 ホーネットへと飛びかかり、その顔面に全力の一撃を叩き込む。その衝撃で、ホーネットは数十メートル離れたエレベーターの透明ガラスまで吹き飛ばされた。

「まだだ、テメェはその程度じゃ済まさねぇぞ……」

 そこに追い打ちをかけようと走り出すが……ホーネットは瞬時にOOの背後を取り、その背中に毒針を突き刺しながらようやく口を開いた。

『悪いわね……私の目的なんて、アンタ達みたいな恵まれたヤツになんてわからないでしょ?』

 その口調は女性のものだった。

「先輩ッ!」

「安心しなミスティ、この程度かすり傷だ……ようやく口開いたな?つまり、テメェはそこそこ追い込まれてるって思っていいのか?」

 毒を流し込まれて、なお。OOはホーネットを挑発する。ダメージがゼロというわけではないが、ライダーシステムがそれを緩和しているのか。

『本当にそう思ってるなら……アンタ相当なお花畑ね?ところで知ってるかしら?ハチって、花の蜜を吸う虫なのよ』

「それがどうしたってんだ……ッ!?」

 蠱惑的な笑みを浮かべるホーネット。その口ぶりに一瞬油断させられたが故に、黒薙は一瞬判断が遅れた。

 目を疑うほどの速度で、OOたち三人に毒針をもって襲いかかったのだが──フレイマー・プロトOOはなんとか防ぎきれたが、OOだけは違ったのだ。

「かッ、あ……ッ!?」

 胸を貫く毒針。先程とは比べものにならない量の毒を流し込まれ、OOの変身は解除される。

「先輩……ッ!?待て、私が逃すと……」

「駄目だレーツェル……もう追いつかねぇよ」

 毒に苦しむ黒薙を尻目に、ホーネットは姿を消していた。

 


 

「ハァ……ハァ……う、そ……?なんで私、黒薙……え……?」

 逃げ出したホーネットは、路地裏まで来てから変身を解く。その鎧から現れたのは、赤い目に赤い髪の美少女、赤萩亜矢だった。

「ていうか何よこれ……!なんで私がこんなもの……これじゃ私が怪人……嘘よ、そんな訳ない!!」

 自らの手からするりと抜け落ちたレプリシューターを見て、亜矢は叫ぶ。

「違う!!私がそんなことする訳……する訳……」

 必死に否定の言葉を並べるが、脳裏に浮かぶのは自らの毒に苦しみ喘ぐ黒薙の姿だった。

「うッ……!?おッ、おェッ、あッ……!」

 そのギャップに耐えきれず、思わず亜矢は胃液をその口から漏らした。

「なんで……私はこんなことしたい訳じゃ……誰か、私を助けてよ……ッ!」

 大粒の涙を零しながら、亜矢は一人嘆きを撒き散らす。だが、その声はヒーローには届かなかった。

「おっ?可愛いネェちゃんがいるじゃないの〜?オレたちと遊ぼうぜェ?悪いようにはしねぇからさ〜」

 あれだけ路地裏で叫べば、当然チンピラたちに見つかることもあるだろう。下卑た視線を帯びた男たちは、当然のように亜矢の肩に手をかける。

「るな……私に、触れるな……ッ!」

『Queen charge……open“Hornet”』

 しかし亜矢は、人が変わったかのように目の色を変えると、マテリアピースを躊躇なくレプリシューターに滑り込ませる。

 直後、ハチが羽ばたく音のみが響いた。

 それからは、男たちの亡骸が、そこに転がるのみだった。

 

 

 

「いやはや、趣味が悪いなぁクロージャー!女の子を操って、その想い人をヤらせるとはねぇ!」

「お褒めに預かり光栄ですねぇパラサイト。しばらくワタシ自身は動けませんからねぇ、手駒その一は上手く機能してくれたようで嬉しいですよ」

 一方、場所は変わって怪人たちの根城。ハックした監視カメラ越しに亜矢が狼狽える様を見て、二人は嗤った。

「これも貴方の『虫』のお陰ですパラサイト。ワタシの能力一つでは成し遂げられないところまで催眠が効くのはなかなかに新鮮です……術中にある際の記憶があるのも面白い」

「そうさせたのはあんただろう、クロージャー?流石にそこまでして一人の女の子を壊したいだなんて思ってなかったよ。正直少し引いたね」

 ゲノムスは携帯ゲーム機を弄りながら、心にもないことを言った。

「それはそうと……もう片方の、手駒その二の準備はできてるのかな?ライダーシステム、奪い損ねたんだろ?」

「大丈夫ですよ、あれを奪えなかったのは痛かったですが……一応、設計図はこちらにもありますからね。あの男から頂いたものです。……まぁ、材料の調達が面倒なので、できれば奪いたかったんですけどね」

 ぴらぴらと、複雑な構造が描かれた紙を見せびらかしながら菱杖は言った。

「ライダーベルトは完成した。あの面倒な機構だけは省きましたが……あとは実戦に投入するだけです」

 直後、廃ビルのシャッターが、爆音とともに爆ぜ飛んだ。

「おや、テストはもう十分でしたか?“プレデター”」

 プレデターと呼ばれた、ホルスドライバーを装着した“仮面ライダー”は、舌打ちしながら答える。

『……最悪だな。目的のためとはいえ、君たちのような救いようもない悪人に手を貸すなど、心地良く思えるはずもないだろう』




亜矢さん!!!!!?????
というわけで墓脇です。今回のエピソードは赤萩亜矢編ということで、亜矢さんをメインに据えた話なわけでしたが……怪人になっちゃったね。いやはや、これからどうなることやら。目が離せませんね。
そして、今回。OO、(プロトOO)、フレイマーに続く3号ライダー・プレデターが初登場しました。本格的な登場は次回からになりますので、彼の暴れぶりにご期待ください。
今回冒頭に出てきた『ファング』とかいう怪しい人たちは、私が隔週日曜に更新している本作のスピンオフ小説・「『Fang』-lengthy prologue-」にも登場しているので、詳しくはそちらを見ていただけると嬉しいです。暇な時にでも読んでください。
感想などございましたら、お気軽にコメントいただけますと幸いです。墓脇でした。
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