仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第17話「飢えた獣と『歌姫』と」

「……ッ、ここは!?」

「医務室っすよ先輩、先輩はよっぽどここが好きみたいっすね?」

 ホーネットに毒針を突き刺され、数十分の間苦しんだ黒薙は、医務室で目を覚ました。

「そうだ、僕の毒は……」

「一応治ってはいるはずっすよ、しばらくはあんまり激しい運動は控えてほしいそうっすけど」

 有栖川はりんごの飾り切りをしながら素っ気なくつぶやいた。

「いや、一応治ってるはずって……解毒剤とかはないんじゃなかったのか?」

「それに関しては毒のプロを呼んで何とかしたっす。ほらあそこの」

 有栖川が指差した先、窓際で一人黄昏れる美女は、その声に反応して振り向いた。

「あら、お目覚めでしょうか?はじめまして黒薙颯斗さん。わたくし、毒島(ぶすじま)斯夜(かぐや)と申します」

「あぁ初めまして……って、毒島斯夜!?毒島斯夜ってあの毒島斯夜か!?」

 目の前の美女の言葉に、つい黒薙は騒いでしまった。毒島斯夜といえば、二年前にランク10の超能力者が反乱を起こした際に、それに関与しなかったにもかかわらず自ら除名を申告した変わり者の名だ。

「しーっ、静かに、ですわ。傷に響きますよ。それからわたくしがあなたを助けたことは秘密にしておくこと。口外すれば……わかりますわね?」

 


 

「おっ、回復したんだな黒薙。痛みとかはねぇか?」

「おう赤萩陽希、全快だよ全快。痛みなんてこれっぽっちもねぇ」

「だから先輩をつけろって言ってんだろ……」

 医務室を出るとすぐ見える廊下、そこに設置されたベンチには、赤萩・ミスティ・澪の三人が、学校には似つかわしくない私服で座っていた。休日だったことも考えると当然だろうが。

「ひとまずは無事みたいで安心しました先輩、でもこれしばらくは特訓も休んだ方が良さそうですね……」

「……全く兄さんは。無理しないでってあたし言ったよね?それなのになんでまた医務室送りになるような馬鹿な真似してるの??言われてもわからないおバカさんなの兄さんは???」

 心配げな声を黒薙にかける二人。馬鹿にしたような口調ではあるが、特に澪の方にその色が濃く表れていた。

「……ほんと、悪い。まさか僕もあんなになるとは思ってなかった」

「わかってるならいい。兄さんが無事でいてさえくれればそれで……正直兄さんには無理しないで欲しいけどもう言っても無駄だってわかってるから」

「…………ほんと、悪いな澪」

「あたしは謝れなんて言ってないんだけど?」

 むにっと黒薙の右頬を二本の指で掴み、みょーんと伸ばしながら澪は言った。

「……兄妹でイチャついてるとこ悪いけど、つい今悪いニュースが入ったわ」

「うわっびっくりした!急に出てくんな遠山!」

「驚かせてごめんなさいね赤萩くん。けど今からする話はあなたにも関係がある話だから少し黙って頂戴……というかむしろ一番あなたに関係があることよ」

 そんな中、割り込むように遠山が現れた。

「俺に関係がある……?」

「えぇ。黒薙くんもレーツェルちゃんも心して聞いて頂戴。……っと、その前に澪ちゃんだったかしら?今からする話は部外者に聞かれるとまずい話だから、少し席を外してもらってもいいかしら」

 蛇のような遠山に睨まれ、その意思とは無関係に澪は逃げ出した。

「……委員長、あんまり澪をイジめないでくださいよ。僕が重度で極度で限度超えてるシスコンだってのはあんたも知ってるだろ」

「こうでもしないと彼女まで巻き込むと判断したのよ……幸い、彼女を追い出せばここには私たちしかいないから」

 澪が去ったことを確認すると、遠山は声色を変えて言った。

「先程あなた達を襲った怪人……あの場所には、とある人物のホルスが残留していた……赤萩くん、あなたの義妹(いもうと)のものよ」

 その言葉を聞き、思わず赤萩は遠山に吼える。

「嘘だ、なんかの間違いに決まってる!亜矢が、俺が怪人になってあれだけ傷つけちまった亜矢が怪人になんてなるはずねぇだろ!?」

「疑いたくなる気持ちもわかる、けどこの監視カメラの映像を見て頂戴。怪人が変身を解くところも、不良に襲われそうになって変身したところも捉えられているわ……証拠は、これで十分かしら?」

 遠山が淡々と紡ぐ言葉は、判決を下す裁判官のそれに似ていた。

「……ところで、そこでコソコソ盗み聞きをしている部外者は早く出てきた方がいいと思いますよ、ねぇ久城希望さん」

 一通り伝えた後に、陰に隠れていた久城に声をかける。

「おっと、バレてしまったか……こんな重大なニュースを報じないなんてジャーナリストの名折れだ、それをキミたちだけで独占しようだなんてズルくないかな?」

「言っておきますけど、あなたにそれを報道させる気はありませんよ?」

「言うね、やっぱり身内は庇いたくなってしまうよね?でもその程度でへこたれるジャーナリストではないよ、『執行衛兵総隊長がひた隠しにする怪人の謎!』で一本いい記事が書けそうだ!」

 ハハハと久城は嗤う。しかし、遠山も一歩も下がらない。

「別にそれでも構いませんが……一部員のみならず副部長が怪人事件に関与している疑いがある部活動の頒布物など、上層部(うえ)が許すとお思いで?」

「副部長……蒼哉が怪人事件に?少し待ってくれ、そんな話、一体どこから……」

「聞きたいんですか?なら交換条件です。これ以上この件に関わるな、少しでもこの事件を報道しようとすれば……どうなるかわかりますよね?」

 遠山は最悪の事態をチラつかせて久城を脅迫する。

「はぁ、キミには勝てないな……いいよ、この事件については報道しない。それより蒼哉について聞かせてほしいな、彼、最近部活にも来ていないんだ」

 


 

「わかりました……赤萩くんたちにも聞かせて構いませんよね?」

「あぁ、構わないよ。もし彼が本当に怪人事件に加担しているとしたら、それはそこの三人に対処してもらうことになるからね」

 久城は遠山の問いを快諾した。

「ではまず質問ですが、草壁(くさかべ)蒼哉(そうや)が姿を見せなくなったのはいつでしょうか?」

「先週の水曜日からだよ、ご丁寧に自分の仕事だけは済ませていったのが憎らしいね」

「なるほど……まぁ聞いただけですが。草壁蒼弥のホルス反応はログも残っています。それを見る限り……毎回、同じ場所で反応が途絶えている」

 そこまで聞き、黒薙は思わず話に割り込んだ。

「ん?ちょっと待ってくれ委員長。もしその草壁ってやつが怪人事件に関わってたとして、いつも同じ場所でホルスが途切れてんなら怪人の根城が掴めるんじゃねぇのか?」

「それは無理です黒薙くん。草壁のホルスが消える場所の近くに根城にできるような場所はない。地図からもわかりますしこの目でも確かに見てきましたから」

 あっさり切り捨てられた。

「でも毎回ホルスの反応がそこでバッタリっておかしくないですか?身を隠せるような場所もないんですよね?怪人にせよライダーにせよ、変身した時にはそれなりにホルスが漏れ出るはずですけど……」

 続けてミスティが疑問を口にする。

「いや、一応そういう道具はあったはずだ。表じゃ流通してねぇけどな。今でもそこらのチンピラ能力者には使われてるらしいが……遠山、草壁ってやつの能力のランクは?」

「確か7だったはずですが……その手の道具って最大でもランク6程度までしか機能しませんよね」

「だよなぁ……また振り出しに戻っちまった」

 悩めど悩めど、答えは出ない。

「……なら、ボクがそこに張り付いて検証してみようか」

 そんな中、久城が名乗りを上げた。

「……これ以上この件に関わるなって言いましたよね」

「ふふっ、ボクは清く正しいジャーナリストだよ?疑惑止まりの情報を信じて権力者に媚びを売るだなんてとてもじゃないができないな。キミの話を聞く限り、蒼哉が怪人事件に関わっていることは疑惑でしかない。ボクは事実以外は信用しないよ?」

「屁理屈を……!」

「屁理屈で構わないさ、ボクのジャーナリストとしてのプライドを知っていながら焚きつけたのはキミだろ?大丈夫、真偽を確かめるだけで報道『は』しないよ……今のところは」

 久城は勝ち誇ったような顔で笑う。

「チッ、仕方ないか……調査の際は赤萩くんを同行させること。得た情報は全て私たちに渡すこと。真偽がどうあれ赤萩亜矢に関する情報は一切報道しないこと。これがこちらにできる最大の譲歩よ。守れないのなら草壁蒼哉に関する調査は一切させない、これでどうかしら?」

「おお、お得意の言論統制かい?報道の自由も何もあったものじゃないな、それが許されると本当に思っているのかな?」

「えぇ、思ってるわよ?私には誘宵学区内の公的権力以外の活動を制限する権利がある。それが誘宵学区のバランスを崩すものであったり混乱を招く恐れのあるものであった場合に限るけれど……あなたのそれは後者にあたるわ」

 真剣な表情を浮かべ、二人は睨み合う。

「……ハァ、いいよ。えっと……キミが赤萩くんかな?ボクは久城希望。そういうワケだからキミにボクのボディガードを頼みたいな。明日ヒマかい?」

「明日ァ!?……ま、亜矢が怪人になっちまった以上、もともとあった予定はなくなっちまったし暇だよ久城。面倒だがそれくらいなら」

 観念したのか、久城は赤萩に自らの護衛を頼み、赤萩はそれを快諾した。

「あぁ……そうだ。黒薙くんには聞き込みを頼みたいのだけど、キミも明日ヒマかい?ヒマならこの喫茶店に行ってほしい。蒼哉の恋人がそこで働いているはずだからね」

「……これほど暇であることを呪った日もねぇよ」

 僕まで面倒ごとに巻き込むんじゃねぇよ。黒薙は重苦しいため息を吐いた。

 


 

「なぁミスティ。なんで僕がこの喫茶店来たくなかったかわかるか?」

「一応私は先輩自身みたいなものですからわからなくもないです。……行きつけの店ですもんね」

「正解……はぁ、ここでしょうもないこと言ったら来づらくなるから嫌なんだよ……」

 どうして草壁の恋人が働いている店がよりにもよってここなんだ、と言わんばかりに黒薙はため息を吐く。この店は好きだ。平日の昼間からやっているから以前のミスティとの決闘の日のような緊急の際でも気兼ねなく訪れられるし、何より味が良い。少し前に亜矢を連れて来たのもこの店だ。それだけ気に入っている店だ。あまり騒ぎを起こしたくはない、というのが黒薙の本心だ。

「いらっしゃい、2名でいいか?」

「まぁ注文はしてくけど、今日はあんたと話をしに来たんだ神蔵(かみくら)さん。今空いてるか?」

 そう黒薙に伝えられた、藤色の髪の美女────神蔵(かみくら)藤子(とうこ)は、人差し指で頬を掻きながら応じた。

「おっと、これはダイタンだな……私には蒼哉という恋人がいるが、いいだろう。今だけは君の女になってやる」

「いやすいません違います神蔵さん!本当にただ単に話聞きに来ただけですから!!」

「そうなのか?まぁどちらでもいい。マスター、若人の獣欲を晴らすのに付き合うからしばらく休憩入る」

「だから違ぇって!!そういうトコだぞホントあんた!!!」

 あの黒薙に顔を赤らめさせた強かな女性を見て、ミスティはため息を吐く。これから、この女を相手にしなければならないのか、と。

「……で、話とは何だ?私に愛の告白でもしに来たか?恋は甘美な媚薬だ。私のオトナの魅力に充てられてそうなってしまうのもわかるが、私には恋人がいるから……すまないな」

「だから違ぇっつってんだろさては分かっててやってんなテメェ!?やめろその目!!なんか僕が負けたみてぇになってんじゃねぇかやめろ!!」

 このままじゃ何年経っても話が進まないと判断したミスティは、面倒だが神蔵に声をかけた。

「それ以上先輩をいじめるのやめてあげてください……話なんですけど、あなたの恋人……草壁蒼哉さんについて聞きに来たんです」

「蒼哉について?驚いたな、この流れで私についてではなく?だがそれは難しいな、蒼哉の魅力について語ってしまうと君が蒼哉のことを好きになってしまうかもしれない。彼は私のことを心から愛しているからないとは思うが、万が一というものも……」

 どうして私がここ数日で知り合う女はみんなしておしゃべりなやつしかいないんだ。ミスティは頭を抱えた。

「いえ、そうではなく……最近、草壁さんについて、何か変化とかそういったものはありませんでしたか?」

「変化、か……特に思い当たるところはないな。昨日もあんなに激しく私を……」

「だから!そういう話をしてるんじゃねぇって!!何べんも言わすな!!!」

 あくまでシラを切る神蔵に、ついミスティの怒りが炸裂する。

「……こわ。最近の若人すぐキレる……カルシウム足りてる?牛乳とかおすすめだよ、その粗末な胸にも少しは……」

「先輩ごめんなさい、こいつぶん殴る」

「やめろって僕が来づらくなるから!」

 ミスティは思わず拳を振り上げたが、すんでのところで黒薙が羽交い締めにして抑えた。

「あー……変化って言っても、大したことじゃなくていいんだ。なんかこんなこと言ってたとかそんなことでもいい。何かなかったか?」

「んー……別に何か変なことを言っていたとかはないな。強いて言えば……『私は君が好きだよ、そのためならばどんなことだってする』とかか?遅れて来た厨二病か出した後の賢者モードか何かだと思って放っておいたが、今思い返すとあの目は後悔とか諦観とか罪悪感とか色々綯い交ぜになっていたな」

 神蔵は手を顎に当てて考える。その言葉を聞いて確信を得たミスティは、鋭く切り込んだ。

「神蔵藤子さん……単刀直入に言います。あなたの恋人、怪人事件に関わってますよね」

 


 

 あれから一時間経った。肝心の黒薙たちはと言うと……。

「何なんですかあの失礼な女!!恋人が怪人事件に関わってるって言っただけで嫌味中傷のオンパレード!!挙げ句の果てに引っ叩かれるとか絶対何か間違ってますよ!!あのクソ女絶対殺す!!」

「あれはお前の言い方も悪りぃだろアホが!お前のせいで僕まであの店行きづらくなったんだけど!?あそこ僕の行きつけだったんだぞ何勝手な真似してくれんだテメェ嫌な予感的中させやがってよぉ!!」

 ミスティの配慮の足りない発言のせいで、散々神蔵に怒られた上に二人まとめて引っ叩かれて店を追い出されていた。

「ほんとあの店マジで美味いし落ち着けるしで最高の空間だったんだぞ、それをテメェなんてことしてくれやがる……ッ!」

「知りませんよそんなの!!客引っ叩く店員がいるような店のどこがいいんですか!!口コミ荒らされても文句言えねぇぞあいつ!!」

 ミスティは怒りのあまりちょうどそこにあった壁を蹴りつけたが、あまりの痛みにタップダンスを踊って悶える。

「おやおや、こんな白昼堂々痴話喧嘩とは感心しないな黒薙」

 そんな中、黒薙に声をかけたのは好田詩帆。水削の車の助手席に座っているが、二人でドライブでもしていたのだろうか。

「いや、別にこれは痴話喧嘩ってわけじゃないんすけど……」

「そうか?私にはそうとしか見えなかったが……ハメるのはいいが、あまりハメを外さないようにしろよ?君たちの本分は勉強……だからね」

「ハメてもねぇけどな!!ほんと何で一日で二回も下ネタ女に会わなきゃならねぇんだよ……」

 ほんとこの姿を早見が見たら何言うかわからねぇな……と思ったが、口には出さない。

「ははは、これは失礼した。……では、行こうかしずく」

「はい……それでは良い休日を」

 そう言うと、二人は爆速でどこかへ向かっていった。

「……怪しいな。水削ちゃんは菱杖と付き合ってたらしいが、まさか……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうに先輩……」

「まさかの先も聞かずに手放しで否定すんのお前の悪い癖だと思うぞ」

「まさかの先が怪人事件に関わってるんじゃとかそういうのなら聞きましたが菱杖がいなくなった寂しさを埋める道具に好田先生を使ってるだけじゃとかそういうアホみたいな話を聞く義理はないでしょう?神蔵とかいうクソ女の下ネタに脳汚染されてますよ先輩」

 言われて初めて自分がそう考えていたことに気がついた。

「……おぅ。ナニ考えてたんだ僕は……」

「そんなことは置いといて……あっ。赤萩先輩たちが草壁を見つけたらしいです。とりあえず尾行中らしいですけど……追います?」

 ミスティは訊く。追う以外の答えはいらないと言わんばかりのその顔に、黒薙は思わず苦笑する。

「行くよ……そのために赤萩陽希たちは出てんだろ?」

「まぁそうですけど……あぁそうだ、この際ですし先輩に見せたいものがあるんですよ、来てください!」

 ミスティが叫ぶと、どこからともなく見覚えのあるバイクが飛んできた。

「……おいこれなんか見たことあるバイクなんだが自動操縦機能なんてついてなかったよな?」

「私がこっそり改造しました☆ああ痛い痛いほっぺたつねらないでください先輩痛い痛い痛い!!」

「テメェ勝手になんて事しやがる!!元々の性能がバグってる問題児をさらに改造なんてしたら……」

 そう。このバイクは元々問題児なのだ。『ランサー』に配備されるものの中でもとびきりの問題児。量産機の一つではあるが、量産の過程で生まれてしまったバケモノ。かつて誘宵学区のSNSのバイクコミュニティで、『暴君』と称される暴れ馬『ワイバーンナイト』と並んで二大問題児と語られたそれを、ミスティは勝手に改造したのだ。

「……で、どんな改造を施してくれやがったんだ?」

「えっと……最大時速を300km/hから750km/hにして……」

「待て待て待て、なんで最大時速を倍以上にしてくれやがってんだテメェ!?変身時に使うのを想定したっつったってそうはいかねぇからな!?」

 トンチキな数字が飛び出し、黒薙は叫んだ。

「でもそれだけじゃありません!マテリアキー挿すとその力を使えるようになるんですよ!!面白いでしょう!?」

「面白いかつまらねぇかで言や面白ぇかもしれねぇが時間(タイム)鋼鉄(メタル)回転(スピン)をどう使えってんだ、アァ!?タイムは置いといても他二つは轢き逃げにしか使えねぇだろ!!」

 


 

「まずいね……完全に見失った」

「まずいね、じゃねぇだろ……どこに逃げやがった……」

 一方、赤萩たちは草壁を見失っていた。先ほどまではすぐ目の前にいたはずだが、数秒目を離した途端にこれだ。

「悪い赤萩陽希、草壁は?」

「すまん黒薙、完全に見失った……あと先輩をつけような」

「そうか……ミスティが僕を茶番に巻き込みさえしなけりゃ間に合ったかもな」

 赤萩たちと合流した黒薙は息を吐く。

「先輩がいちいち私に噛み付いてくるからでしょうあれは!!ねぇ!!」

「うるせぇテメェが勝手に僕のバイク改造したからだろうが!!むしろあの場所で消し炭にされなかっただけありがてぇと思えクソが!!」

「な、なにがあったんだい……?」

 黒薙とミスティのやりとりを見て、久城は呆れたような声を出す。

「……で、草壁がどっちの方向に行ったかとかはわかんのか?」

「それくらいなら、ね。彼ならあちらの方向に向かっていたよ」

「なら追うか」

 黒薙は再びバイクに跨ると、草壁が向かった方向へと走り出す。赤萩・ミスティもそれに合わせてバイクのエンジンをつけた。

「……先輩、先に行ってください。草壁が怪人だとして、その戦闘力がどれくらいのものか知りませんが……少なくとも、病み上がりの先輩ではこいつらには勝てない」

 少し進んだところで、ミスティはバイクを止めた。目の前に二人の怪人が現れたからだ。

「久城、アンタは黒薙の方についてくれ……ここにいられちゃ気が散るからな」

「それじゃあお言葉に甘えるとしようか……黒薙くん、後ろ座らせてもらうよ」

「勝手にどうぞ久城さん」

 久城を自身のバイク後部に座らせると、黒薙は強引に切り抜けようとする。

『ぼくがきみを通すと思うのかい、だとしたら甘いな『異能共鳴』』

「いいや通してもらうぜ?まずはこいつのスペックをテストしてやるとするか……」

 黄色い自動車のような怪人──ビークルが黒薙の行く手を阻もうとする。それに対し、黒薙は先ほどミスティが言っていたことを思い出していた。

(タイム……テメェから試してやるよ)

 そして、タイムマテリアキーを懐から取り出すと、それをハンドル中央に突き刺した。

「久城さん、しっかり掴まってろよ」

「ふふ、お言葉に甘えて」

 ギュッと自らの腰を強く抱きしめる感覚が生じる。

「それじゃ試運転開始と行く、かァッ!?あァァァァァァァァ!!!!????」

 直後、頓狂な黒薙の声が響く。バイクが、尋常ではない速度で前方へと爆発的に進んだからだ。

「黒薙くんキミふざけてるのかァァァァァァァァい!!!!!??????」

「僕が聞きてェェェェェェ!!これどうやったら止まんのォォォォォォォォォ!!??」

 その絶叫は、すぐに聞こえなくなった。あの一瞬で、どれだけ遠くまで吹き飛んでいったのか……。

『それで……きみたちがぼくたちの相手をしてくれるってことでいいのかな』

「そうなりますね……あなたと会うのは亜矢先輩を助けた時ぶりですね、今度こそあなたを倒させてもらいます」

『アーマード……裏切り者は処罰する』

「なにが裏切りだ、俺を操って好き勝手やっといて勝手なこと言うんじゃねぇ」

 ミスティはビークルと、赤萩はライブラリとそれぞれ向かい合い、ベルトを腰に巻きつけた。

「「変身」」

『Proto OO……』『“Flamer”』

 

 

「はぁ……やっと止まった……」

「黒薙くん……ハァ……キミ、ボクに殺されても文句言えないからね……」

「クソ、こればかりは反論できねぇ……」

 一方、黒薙たちはその爆速で船着場まで飛ばしてしまっていた。

 しかし、いつまでも茶番を演じていられるわけではない。次の瞬間、黒薙たちの目の前に、青い髪に眼鏡の青年……草壁蒼哉が、バイクに跨って現れたのだ。

「おや、希望までいるとはね……まさか、私を疑って執行衛兵などに手を貸した、などとは言わんな?」

「ご明察だよ蒼哉、キミが余計な真似をしたせいでボクは商売の機会を一つ失ってしまった。どう責任を取るのかな?」

「そんなことは私には関係がない。……黙ってそこの白髪頭を引き渡せば君くらいなら見逃してやる。どうだ?」

 草壁は見下したような目で久城に語りかける。

「……黙ってりゃ好き勝手言いやがって。その台詞、テメェが怪人って名乗ってるようなモンだぜ」

 黒薙はベルトを腰に巻きつけながら、草壁を睨む。

「私が、怪人……?ハ、ハハハッ!そうか、そう思われても仕方がないな!だが、君は一つ勘違いをしている」

 しかし、草壁は高らかに笑うと、懐からベルトのバックルを取り出した。赤萩が使っているそれと、全く同型のものを。

「私は怪人ではない……“仮面ライダー”だ」

「な……ッ!?なんでテメェがそれを持ってやがる……ッ!!」

「答えてやる義理はないな。……構えろ白髪頭、ここからは戦争だ。変身」

 


 

『Bite And Bark! That's a Greedy Beast!』

 鋭い電子音声が流れる。青黒いリングが草壁の体を包み込み、次の瞬間には獣のようなアーマーを形成した。

『Ignited HORUS system……“Predator”』

 無機質に告げる。そこには、触れるもの皆傷つけると言わんばかりの剥き出しの獣が佇んでいた。

「なるほど……久城さん、あんたは下がってろ。こいつは僕が止める……!変身ッ!」

『Breaking OO……Spin Charge』

 それに対抗すべく、黒薙はマテリアブレイカーを使って変身した。

(速攻でケリをつける……!)

 OOは高速でプレデターの周囲を移動しながら、攻撃の隙を探す。

(見つけた……!)

 そして、そのまま胸のディスク目掛けて槍を持って飛びついた。

『GauntRed Checker!』

 しかし、届かない。

 吠えるような波動が放たれ、OOは吹き飛ばされた。

「……ッ、危ねぇ!」

 そのまま海へと落下しそうになるが、すんでのところでそれを回避する。

『どうした?もしやそれが君の全力なのかね?だとしたら……興醒めだな』

「言うじゃねぇか強敵、ならちょっとは楽しませてやるから覚悟しろ」

 黒薙はマテリアブレイカーのボタンを三度押した。

『First……Second……Third Charge……』

 電子音声とともに、深緑のエネルギーがOOを包み込む。

『Third Breaking Spin Strike!』

 空中を駆け回り、OOは全力の一撃をプレデターへと打ち込んだ……が。

『……もう一度聞くが、それが君の全力かね?つまらん……少しでも期待した私がバカだったか』

 プレデターは吐き捨てる。失望の色を浮かべた複眼が、真っ赤に染まった。

『ならば、せめてこのまま君を倒してやろう……覚えておくといい、これが“全力”だ』

『Material Finish! Beast Charging Strike!』

 ライオンの一噛みのような破壊力の一撃が、OOに叩き込まれる。

 

 

『さて、黒薙颯斗を連行するか……おや?なるほど、この姑息な手は執行衛兵だな』

 煙が上がり、そこに倒れる黒薙を回収しようとしたプレデターだが、そこに黒薙がいないことに気がついた。

『だがまぁ……しばらくは泳がせておくのもあり、かね』

 

 

『……ビークル、退却の命令が出た』

『らしいね。というわけだからぼくたちは帰らせてもらうよ』

 時を同じくして、鮎川たちにも退却の命令が下されていた。

「させると思うのか?」

『させてもらえないと困るんだよね』

 そう呟くと、鮎川たちは姿を消した。

「チッ、逃げやがったなあのクソ野郎……!」

 

 

「よかった、間に合ったみたいっすね先輩」

「あぁ、サンキューな有栖川」

「感謝なら私じゃなく久城先輩にするっす。あの人がいなかったら私たちも間に合ってなかったっすから」

 有栖川は言う。

「それで、草壁蒼弥は怪人事件に関与していたと……一体どこからホルスドライバーが流出したんでしょうね」

 遠山は頭を抱えながら言った。

「……まぁ、今日のところは終わりにしましょうか」

 

 

 翌日。何事もなかったかのように黒薙は登校する。当然と言うべきか、亜矢の姿はそこにはなかった。

「それで、黒薙くん……話って何?」

 そう。亜矢が怪人であると聞かされた瞬間から、黒薙は朱鷺澤にこのことを伝えようと考えていたのだ。

「悪いな朱鷺澤……お前と赤萩さんが付き合えるよう応援してくれってあの約束、なかったことにしてもらっていいか?」

 残酷な一言を、無慈悲に伝えた。




予約投稿入れるの忘れてた!!!!!
というわけで墓脇です。完全にやらかしました。
さて、今回は三人目のライダーことプレデターが登場しましたね。これを言うとプロトOOは?と思われるでしょうが、あいつは0号枠なのでカウントしていません。
そんでもって朱鷺澤にとんでもないこと言い出した黒薙ですよ。あいつなりに考えがあってのことなのはわかりますが、果たしてどうなることやら……。
感想などありましたら是非コメントいただけると嬉しいです。墓脇でした。
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