仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第18話「相打つ『黒騎』と本の虫」

 僕は、赤萩亜矢という女の子が好きだ。

 初めて会ったあの日に、心を奪われた。

 僕はあの日、初めて恋を知ったんだ。

 けど、彼女は僕の友達のことが好きで。

 それでも、彼は彼女の想いに気付いていなくて。

 それにつけ込むように、応援してほしいと彼に頼んだのは僕だ。

「悪いな朱鷺澤……お前と赤萩さんが付き合えるよう応援してくれってあの約束、なかったことにしてもらっていいか?」

 だけど、彼にこんなことを言われるだなんて、僕は思ってなかったんだ。

 

 

 黒薙の言葉が一瞬で何度も脳内を駆けずり回る。理解ができない。一瞬が途方も無い時間のように感じる。意味もなくこんなことを言う黒薙ではないとわかっているが、それでも、その意味を理解できない。

「えっと……黒薙くん、何を考えてるの?」

 だから、朱鷺澤は聞き返した。何かの間違いかもしれない。何かの間違いであってくれなければならない。そう願いながら。

「お前じゃあの人は守れねぇ……だから、悪りぃ」

「急にどうしたのさ黒薙くん!?何かあったの!?君がそんなこと言うなんて……」

 黒薙の言葉が脳内で何度もリフレインする。

「……赤萩さんがまた怪人事件に巻き込まれた。力もないお前じゃ赤萩さんは守れねぇだろ?だから……」

 感情を押し殺した黒薙の声を、パチンと鋭い音が遮った。

 朱鷺澤が、黒薙の左頬を平手で撃ち抜いたのだ。

「それ以上、言わないでよ……!戦えることがそんなに偉いの!?黒薙くんが戦ってる時、ずっと僕は心配してたんだよ!?それを……!!」

 朱鷺澤の瞳が涙で潤む。それを見て、黒薙は激しい罪悪感に襲われた。

「黒薙くんのことは対等な友達だと思ってた……けど、君は僕のこと、戦えもしないやつだって、下に見てたんだね……」

「そ、れは」

 否定はできない。黒薙が朱鷺澤にこのことを告げに来たのもその感情があったからだ。

「もういいよ、何も言わなくて……さようなら、自分勝手で我儘な、最低の黒薙颯斗。君と友達でいた時間は楽しかったよ」

 そう告げると、朱鷺澤は踵を返した。最後の言葉は、普段の朱鷺澤からは考えられない、突き刺すような言葉だった。

 


 

「どないしたん黒薙はん?なんか落ち込んで見えますけど」

 昼休み。執行衛兵第66支部の新顧問が決まったと呼び出されていた彼らだったが、流石に黒薙の様子の変化には気がついたようで、退院した下総が疑問を口にした。

「さぁ?私が来た時には、もう、この有様でしたし……」

「あぁ僕はなんて馬鹿なことをしたんだ僕は最低だクズだ死にたい消えたい生まれてきてすみません………………」

「……正直、私も、ネガティブな自覚はありますけど、ここまでひどいのは……」

 双海も呆れ半分の声を漏らす。

「な〜にやってんのかにゃ〜アホ薙颯斗……」

「先輩……気持ちはわかります。切り替えていきましょう」

 すでに黒薙が何をやったか知っているミスティだけは優しい言葉をかけた。

「はい、全員揃いましたね……ではお入りください先生。こちら執行衛兵第66支部の新顧問の……」

「ノー、名乗りは自分からというのが私のポリシーだ……諸君、こうして顔を合わせるのは久しいものが大半ではないかね?弊校の教頭を務める剣持(けんもち)剛史(たけし)だ。あの小僧の後釜としてここの顧問を務めることになった」

 エレガントな髭を蓄えた壮年の男性が名乗る。それを一切聞いていない雰囲気であった黒薙だが……。

「黒薙だな?この私が名乗りを上げている真っ只中に放心とはいい度胸だな」

 当然、剣持に気付かれてしまった。

「いいか覚えておけ少年、私は私の話を聞かない人間と学習しない人間が大嫌いだ」

「……すんません」

「……反省しない人間も大嫌いだったな」

 剣持は鋭い眼で黒薙を睨みつける。

「……まぁ良い。私からは以上だ。解散」

 

 

「なぁ黒薙、少しいいか?」

「あ?ンだよ早見……」

 そんなこんなで集会を終えた黒薙は、弁当をどこで食べるべきか考えていた。そんな折、早見が声をかけた。

「朱鷺澤の機嫌が悪そうだったからな……あの状態のあいつと昼食などお断りだ。牧瀬も食堂に行っているということでお前を待っていたんだよ」

「別に食堂行って牧瀬と相席すりゃいいだろ……っつーか、お前モテるんだから食堂行きゃ女子なんて寄ってくんだろ」

「はは、確かにそうかもしれないな……だが俺は興味もない女と昼食を共にする気など毛頭ない」

 あっけらかんと早見は笑う。

「にしても僕を選ぶのは最悪な選択だぞ……僕だって朱鷺澤と同じで今相当機嫌悪りぃんだから」

「お前が朱鷺澤に何を言ったか知ってると言ってもか?」

 黒薙は顔をしかめる。確かに脈絡もなくあのようなことを言ったのは自分だ。だがそれを早見にバラされるとは……。

「……チッ、人に聞かれたい話じゃねぇし屋上行くぞ」

 

 

「……で、テメェはどこまで聞いてるんだ?」

「房総旅行の時にお前が朱鷺澤から応援してほしいと頼まれたこと、そしてお前が今になってそれを断ったことだけだな、それ以外は何も聞いていない」

 それが全部だよ、と黒薙は内心で呟いた。

「……赤萩さんが怪人事件にまた巻き込まれたって話は?」

「一応聞いている。確かに朱鷺澤には戦う力はないかもしれないが……言い方というものがあったのではないか?」

 早見はズバリと痛いところを突いた。

「……そうでもしねぇと、あいつは下手に首を突っ込みかねないと思ったんだ。だからあぁ言うしかなかった……ほんと、僕って最低のクズだよな」

 早見に隠し事はできないと察した黒薙は、心情を吐露した。

「ああ、最低だ。そうやって自分を卑下して同情を誘う辺り最もたちが悪いクズだ」

 普段であれば言い返しでもしたかもしれないが、今の黒薙にはそれをするだけの気力が残っていなかった。

「だがまあ、言い方は置いておくとしても、それが朱鷺澤のことを想った上でのものだとは知っている。俺も、あいつもな。朱鷺澤には謝っておくべきだと思うが……」

 フォローのつもりか、早見は付け足す。

「お前は、お前のしたいようにすればいい……と、俺は思う。いつまでも自分の行動を後悔してウジウジとしているお前なんて、見ていて気味が悪いものでしかないしな」

 最後の余計な一言。だが、今ばかりはそれに安心させられた。

「……ありがとな、早見」

「よせ、気持ち悪いな」

「気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは」

 


 

「おーい朱鷺さ……駄目か、逃げられちまった」

 早見に背中を押されてから数時間が経つ。朱鷺澤に配慮のない発言の謝罪をしようと試みた黒薙だったが、話しかけるなり逃げられてしまった。

「まぁ、全体的に悪いのは僕だしな……」

 哀愁のあるため息を吐き出すと、黒薙は風紀委員室へと歩き出した。

 

 

「あぁもう忙しい、これも全部あの馬鹿があんな真似したからだ……まだ仕事は山積みだと言うのに余計な真似を……!」

 一方、報道部室では久城が怒りでペンをへし折っていた。これで本日四本目のペン粉砕である。

「せんぱぁい、忙しい忙しいって言ってる暇があったら先に仕事して欲しいんですけどぉ……」

「ああすまない礼子……まったく、どいつもこいつもまともな記事を用意することはできないのか……!」

 部員たちから提出された記事を流し読みしながら、久城は怒りを露わにする。

「駄目だな、これで四記事を用意するのは難しい……礼子、なにか他にネタとかないのかい?」

「無茶言わないでくださぁい、一日に二記事も書くとか常識的に考えて無理ですぅ!」

 四記事、というのは明星学園報道部のノルマだ。各校の報道部・新聞部・写真部が集まって作られるF!nderには、それぞれの学校ごとにノルマが決まっている。普段は大抵久城、草壁、そしてこの猫目の少女……多々羅礼子ともう一つを部員から提出されたものから選ぶという形式をとっているが、草壁は今いない。よって、部員から二記事を選ばなければならない訳だが……。

「じゃあどうしろと言うんだい!?このクソみたいな紙くずの束から比較的マシなのを二つも見つけろと!?それこそ無茶だろう!?」

「だからってなんでわたしが書くんですかぁ!?せんぱいが書けばいいじゃないですかぁ!!」

「……うん、それも……そうだね」

 逆ギレと正当な怒りの応酬の末、折れたのは逆ギレ(きゅうしろ)の方だった。

「じゃあボクは記事を探しに行ってくるから礼子は比較的マシな記事を一つ選んでおいてくれグッバイ!!」

「あっこれが狙いでしたねぇ!?大人しく記事書いておけばよかったぁ〜!!」

 面倒な仕事を押し付けられ、多々羅はぴえんと鳴かんばかりに両目を潤ませた。

「う〜ん……『第五学区でツチノコ発見』?そんなうちはタブロイド紙でもなんでもないんですから……えぇと、『超能力を生み出す巨大コンピュータの謎』?だからF!nderはタブロイド紙なんかじゃないですよぅ……」

 多々羅は情報誌とクソしょうもないゴシップ誌の違いもわからないドアホどもの記事を一つずつ丸めてゴミ箱に投げ入れる。

「……ごめんなさぁいせんぱい、この中にまともな記事なんてないですよねぇ」

 

 

「ん?あぁ、早見か?ちょうどいいところに来たね、このテキストを体育教官室まで持っていくのだが……手伝ってもらっても?」

 時を同じくして職員室。偶然通りかかった早見は、好田に呼び止められた。

「それは構いませんが……うぉっ、重いな」

「大丈夫かい?あまり無理はしないでほしいが……」

「大丈夫です、好田先生。先生こそ無理しないでほしいですね……先生、まだあの時の怪我完治してないんでしょう?」

 そう言われると、ばつが悪そうに好田は頬を掻いた。

「確かにそうだが……君は心配しなくてもいいよ。もともと軽傷ではあったしね」

「そこは心配させてくださいよ……ここに置けばいいですか?」

 早見は両腕で抱えたテキストの束を机に置いた。

「あぁ、助かったよ早見……ところで、このあと時間はあるかい?」

「このあと、ですか……ないこともありませんが……」

 そう応えると、好田は目を輝かせて言った。

「そうか!なら一緒にお茶でもどうだい?」

「お茶?俺と、先生がですか?」

「初めからそう言っているつもりだよ。それとも……私のようなおばさんとじゃ嫌かな?」

 拗ねるような上目遣いで、好田は問う。いくら好田の身長が高いとはいえ、それは女性の平均から見たときの話だ。男性の平均から見ても高身長の早見からは常に見下ろす形になり……。

「嫌ではないです。それに先生……まだまだお若いんですから、そんなに自分を下げてはいけませんよ」

「おっと、これは失礼した」

 


 

「ところで……よかったんですか、先生?部活とかは……」

「心配いらないよ、今日は演劇部の活動は休みなんだ」

 早見が問うと、好田は首を横に振った。

「君の方こそ大丈夫だったのかい、早見?部活には入っていないのかな?」

「はい。興味はありますが……その、嫌味ったらしく聞こえるかもしれませんが、俺ってどこに行っても女子が寄ってくるんですよ。それが嫌でどこにも入れずにいます」

 ばつが悪そうに早見は言う。

「なるほど……なら、演劇部に来てみないか?みんな演劇に真剣で、恋愛なんて舞台上以外では考えないような根っからの演劇バカの集まりだが……」

「……なるほど、考えておきます」

 勧誘され、一瞬、好田との距離を縮めるチャンスかと早見は思案する。数刻後に、演劇に真剣なものばかりだという演劇部に、自分のようなハッピー野郎が入っても迷惑なだけだろうと結論を出した。

「一度見学だけでもしていってほしい、そうすれば君はもう演劇の虜さ」

 俺は今あなたの虜になってるんですがね。早見は内心で呟いた。

「ほーいコーヒーブラックおふたーつ。それにしても珍しいな、好田さんが男を連れてくるなんて……」

「はは、ただの二者面談みたいなものだよ藤子。コーヒー、いただきます」

 神蔵に差し出されたコーヒーを口に運ぶ。

「あぁ、美味しいな。藤子、また腕を上げたんじゃないか?」

「そっ、そう褒めるな好田さん!こんなものはただの慣れだ!!」

 そう告げられると、神蔵は顔を真っ赤にして照れた。

「ふふっ、藤子は相変わらずだね。人をからかうのは好きなくせに直球で褒められると照れる。わかりやすくていいと思うよ」

「わかりやすさなんて求めてないんだが……」

 早見に凝視されていることに気がつき、おずおずと踵を返す神蔵。

「それで早見。今日、私が君をこうして連れ出した理由だが……君、何かあったのか?」

「何か、とはなんでしょう?俺、そんな心配されるほど様子おかしかったですか?」

「いや、様子は普段と変わらないように見えたが……なんというか、雰囲気がな」

 内心を見透かされ、早見は観念する。この人に隠し事はできないな、と。

「まぁ……友人同士の板挟みってやつですかね。片方が惚れてる女子が、もう片方のことを好いていて……でももう片方は気付いてなくて……」

 早見はこれまでの経緯を話した。

「なるほど?恋愛というものは得てして複雑なものである場合がほとんどだが……君の周り、複雑すぎないかい?」

「それは俺も思います……他にも友人の妹に惚れてる別の友人とかもいますからね……」

「……いや、本当に複雑すぎない君の周り?」

 牧瀬といい朱鷺澤といい、本当に……。早見は重苦しい息を吐き出した。

「ただ、あいつは巻き込みたくないとしか言っていませんでしたが……そこには、あいつ自信すら気付いてない、別の感情もあったんじゃないか、と俺は思います」

「へぇ……それが誰かは知らないが、そういうのはわかるものなのかい?」

「わかりますよ、そういう目を見るのは慣れてますから」

 モテ男の余裕を見せつけるかのように、早見は笑う。

 

 

(……ああ、そういうことか。スキャンダルの香りがして追ってみたけど……そういうことだったのか)

 記事のネタを探す中で、二人がカフェに行くのを目撃し、尾行していた久城は、二人の会話を聞いていた。

(道理で、永治の様子がおかしいわけだ……永治を巻き込みたくないのはわかるが、余計な感情が黒薙くんにあるとすれば、それは永治のためにも取り除くべき……)

 そして、久城は決意を固めた。

(……けど、本当にそれでいいのか?なんて、ボクらしくもないことを考えるのはやめよう)

 


 

「お〜っすちわ〜っす先輩、もう死にたい死にたい鳴かなくていいんすか〜?」

「いいのかにゃ〜??」

「ええんどすか〜???」

「えっと……いいん、でしょうか????」

「いいんですか先輩?????w」

「いいのかしら黒薙くん??????ww」

「よし決めた全員ケツ向けて横並びになれ腫れ上がるまで引っ叩く」

 風紀委員室に着くなり、他の面々から煽り散らかされ、黒薙は静かな激情を露わにした。

「FU〜!かっこいいっすね先輩!!ケツだけにBad Assっすね!!!」

「うるせぇ黙れアメリカかぶれ、っつーかテメェ今までそんなそぶりなかったくせに急にかぶれんなよ混乱するわ」

「昨日の夜やってたMCバトルが最高だったんすよ、あんなキレッキレのパンチラインなかなか聞けるもんじゃないっす。いやーたまには夜更かししてみるもんっすね〜!」

 有栖川は両手を頬に当て、指をわなわかと震わせながらクネクネと身悶える。ちなみに有栖川が見たのは深夜枠で放送しているラップバトル番組だ。昨日放送されたのは特別編でその番組で何度も勝利を収めた日本のラッパーが海外のラッパーに挑むという企画だったそうだが、かなり白熱したdisが繰り広げられたらしく、誘宵学区内のSNSでも昼過ぎ頃までトレンドのトップに残ったほど。

「あ〜アレ?有栖川も見てたのかにゃ?でもアレどう見てもヤラセ臭か……」

「あぁん!?人が楽しんでるとこに水差すんじゃねぇっすよぶっ殺すぞ!?」

「だってあんなに日本語通じてラップもできる黒人なんているわけなくにゃ〜い?期待して見てたぶん興醒めだったけどにゃあ」

 したり顔で言う奈菜々。その調子に乗りに乗った顔は、この場にいた人間に全員苛立ちを覚えさせたことだろう。

「その辺にしとき奈菜々サン、それ以上言うたら優しさの塊みたいなボクでもキレるで」

「あれっ?下総もアレ見てたのかにゃ〜?あ〜汚い汚い、ヤラセに騙されるアホが伝染るにゃ」

「チッ、いい加減黙っとけクソ猫」

 こいつ喋らせとくと話が進まねぇ。黒薙は奈菜々の首根っこを掴むと、そのまま来客用のソファに投げ飛ばした。

「あ痛たた……何すんにゃアホ薙颯斗〜!!」

「何すんだはこっちのセリフだボケが!なんだテメェ誰彼構わず喧嘩売りやがってストレスでも溜まってんのかクソアマ!?」

「これがあたしなりの優しさにゃ〜!下総が退院したのにあんたが辛気臭いツラして空気悪くするから和ませようと……」

「あァ!?人のせいにするんじゃねぇぞクソガキ!!空気悪くしたのは僕かもしれねぇがこれのどこが和んでる場だコラテメェの目は節穴か悪化してんじゃねぇかえぇおい!?」

 黒薙は奈菜々に怒鳴るが、奈菜々の目は嘘を言っているそれではなかったし、仕方なく許すことにした。

「……まぁ、原因が僕にあんのは認めるが、だからって他の奴らにまでお前のノリを強要すんなよ。ただでさえお前は嫌われやすいんだからな」

「……散々怒鳴った後に声色優しくするの、めっちゃDV男みたいで怖いっすね先輩」

「お前は黙ってろ有栖川、お前もかなり嫌われやすい部類に入る人間だからな」

 思わず声を漏らす有栖川に、黒薙は辛辣な言葉を投げかけた。

「……ま、もうあのクソ辛気臭いのはやめたみたいで安心したにゃ。みんな巻き込んでごめんにゃ〜」

「反省は、しないんですね……」

「反省なんてあたしの辞書にはないからにゃあ?どうしてもしなきゃいけない時以外にする反省なんて疲れるだけだしにゃあ」

 そう言って奈菜々は笑う。

「それはそうとなんであたしら呼び出されてんだっけにゃ〜?」

「ああ、それは……」

 奈菜々が吐いた疑問に遠山が答えようとしたその時、怪人のホルスを捉えたのか、モニターがジリリリと金切り声のような音を鳴らした。

「チッ、こんな時に……亜矢ちゃんに草壁蒼哉のホルス反応あり!黒薙くん、レーツェルちゃん、行けるかしら!?」

 


 

「もちろん行けます、よっと!」

「私も行きま……」

「待って、レーツェルちゃんは残って頂戴。はいこちら遠山、要件は?」

 黒薙が走って風紀委員室を飛び出し、それを追うように起立したミスティを、遠山が呼び止めた。依然として増え続ける怪人のホルス反応を前に、遠山の携帯がジリリリと啼いた。

『遠山殿!単刀直入に申し上げますぞ!懲罰房に拘束しておいた報道部の怪人二人が逃げ出した!!』

「は?はぁぁぁぁ!?またなの真寧!?チッ、クソが、なんでこんなにザルなのよ懲罰房!!レーツェルちゃん!あなたはそちらの鎮圧に!!」

「……了解しました」

 服部からの電話を受け、焦りを隠そうともせず遠山は叫んだ。

 

 

「赤萩陽希!テメェも聞いてんだろ!?今すぐ来い!!」

『だから先輩をつけろって言ってんだろ黒薙!それにとっくに向かってるっての!!』

 バイクを走らせながら、黒薙は赤萩に連絡する。どうやら改造バイク──『オブリビオンランサー』と名付けられた──には、移動中の通話機能まで搭載されていたらしい。

「おっと、こんなところで敵前逃亡の腰抜けに出会うとは……奇遇だな。ちょうど私はストレス発散の場を探していたんだ。少し付き合え白髪頭」

「チッ、やっぱ黙って行かせちゃくれねぇか……ッ!」

 そんな中、突如現れた草壁が黒薙の行く手を阻む。

「チッ、なんでここに赤萩さんまで来てやがる……ッ!」

 それに続くように、意識のないような目をした亜矢が現れた。

「ハッ、2対1か!それが俺ならなんとかなったかもしれねぇが、黒薙にゃ荷が重いだろ!!そこの青いの、てめぇは俺が相手してやるよ!!!」

「君は……赤萩陽希か。君の噂はかねてより聞いている。こうしてランク10の超能力者と見えることができるとは、光栄だな」

 単体相手ですらどちらもにやられている黒薙を見かね、赤萩が救いを差し伸べた。

「……赤萩陽希、いいのか?あの人は……」

「お前には抗体があるんだろ?それに……コイツは強ぇ。お前は亜矢を助けることにだけ集中しろ」

「……あぁ、わかったよ。愉快に爽快に理解した。とりあえずブン殴って目ェ覚まさせりゃいいんだな?」

「正解。……行くぞ、黒薙」

 黒薙と赤萩は背中合わせになり、互いにベルトを装着する。それぞれの視線には、もはや敵しか映っていない。

「「「変身」」」

『Time OO!』『“Flamer”』

『Open“Hornet”』『“Predator”』

 それぞれの体に、ライダーや怪人の鎧が纏われた。

 

 

「逃げたのは……あちらですか。この分ですと追いつくのは容易……ッ!」

 一方、逃げ出した怪人を追うミスティだったが、バイクを走らせる中で、その射線上に一人の少女が佇んでいるのに気がついた。

「黒いOO……ここから先は、一歩も通さない。これ以上仲間を減らされたらたまったもんじゃない」

「その声……ライブラリ・シャトランですか。あなたが誰であれ、業務の妨害は処分する決まりです。それが怪人なら尚更……」

 ライブラリこと朱本を前に、ミスティは怒りを多分に含んだ貌で、ベルトを装着した。

「変身……ッ!」

「解錠」

 二つの音が重なり合い、不協和音を奏でる。次の瞬間には、黒い仮面ライダーと、本の集合体のような怪人が姿を現した。

『Oblivion Saber!』

 ミスティは剣を出現させ、ライブラリへと飛びかかる。対してライブラリも何冊もの本を空中に浮かべ、白刃どりの要領でそれを受け止める。

『その程度?それでは先には進めない』

「言ってくれるじゃないですか……ッ、ならコイツはどうですかァ!?」

 挑発するライブラリに、ミスティは吠える。

『Shoot Mode!』

 オブリビオンセイバーを銃に組み替え、一、二、三と引き金を引いたが、ライブラリは宙に浮かんだ本から熱線を放ち、それをかき消す。

「チッ、めんどくせぇ相手ですね……ッ!」

 


 

「この……ッ、ちょこまかと猪口才な……ッ!」

『もう諦めるといい。これ以上やったってあなたに勝ち目なんてない』

「生憎、諦めの悪さは先輩(やどぬし)譲りでしてね……ッ!」

 それから、幾度となくミスティは攻撃を繰り返したが、その悉くを弾かれ、未だに決定打を出せずにいた。ただただ、消耗の一途を辿るのみであった。

「セービングキャンセラー解除、レベル1→2!」

 リミッターを部分的に解除できるだけの時間が経過し、ミスティは攻撃をさらに激しいものへと変える。

『……いくら策を弄しても小手先だけの付け焼き刃。そんなのが私に届くわけがない』

 しかし、一向にライブラリにダメージを与えられない。斬撃を繰り出せば受け止められ、射撃を繰り出せばかき消され、打撃を繰り出せば同程度より少し上のパワーで相殺され。

「まだですッ、セービングキャンセラー解除、レベル2→4!」

 さらに解除段階を引き上げる。従来のスペックの2.5倍の出力だ。流石のライブラリでも受け流すというわけにはいかなかったのか、宙返りで後退した。

「ようやく見せましたね、回避行動」

『……それが何。私があなたの攻撃を避けたからといって、あなたが私を倒せるわけじゃない』

「あなたの行動を見ていて、ずっと考えてたんです。“どうしてこの女は、私の行動全てに瞬時に、かつ的確に対処できるのだろう”と」

 ライブラリの返答も聞かず、ミスティは語りだす。

『私の方があなたより強いから。それ以上の理由なんてない』

「ところで私は遠山先輩からある話を聞いて、気になってGW中に調べてたんですよ。えぇ、人工的にとある能力を植え付けられた無能力者の話です。あなたも聞き覚えがあるでしょう?」

『……ッ、それ以上言うな!』

 しかし、ライブラリの制止など気にも留めずにミスティは続ける。

「“sister”にまつわるとある事件に巻き込まれ恋人を喪ったそいつは、首謀者を見つけ出し復讐するため、この街の暗部に身をやつした。もうお分かりですよね?」

 

「無能力者兼、人工能力発現実験の被験体ナンバー01、朱本抄子。そして植え付けられた能力は……相手のホルスを学び、その流れを見通す『異能目録(ホルスサーチャー)』、ですよね?」

 その言葉を聞いたライブラリは、言葉もなくミスティに飛びかかった。何の力も使わずに放たれたその一撃は、ミスティをノーバウンドで10m近く吹き飛ばす。

「は、はは。どうしたんですかその動揺?まるであなたが……」

『黙れッ!私の過去に土足で踏み入るなッ!殺すッ、あなただけは私が殺すッッ!!』

 怒りに震えるライブラリは、続く言葉すら許さない。

「は、は。案の定キレましたね。策に引っかかる馬鹿ほど面白いものもない」

『もうその口を開くなッ!泣いて喚いて謝っても遅い、血だるまにして人間としての尊厳を最大限踏みにじった上で殺すッッ!!』

 ライブラリの一撃が薄い胸板に突き刺さり、ミスティの変身が解除される。

「……づ、ウッ!ハァ、なぜ、私が……あなたを、ここまで……挑発、したか…………わかり、ますかね…………」

『知る気もないし知りたくもない。あなたは殺す、私がここで殺す』

「そう、ですか……」

 ミスティは俯き、再び変身レバーを倒す。

 直後、どす黒く強大なエネルギーの奔流が渦巻き。

 

 

「……ッ!?ライブラリ、き、みは……一体、なんて馬鹿なことをしたんだ……ッ!!」

 ハックした監視カメラ越しにその様を眺めていた鮎川は、思わず声を漏らした。

 そこには、大地をまるごと抉りとったような凄惨な傷跡と、全身から鮮血を吹き出したミスティと……。

 腹に大きな穴が空いた──朱本だったはずの肉塊のみが残っていた。




ミスティがやっちまった……。
というわけで墓脇です。今回はミスティがやらかしちゃいましたね。
その力を解き放ち、敵だったとはいえ人一人の命を失わせてしまったミスティは、これからどうなっていくでしょう。
それから、冒頭で黒薙は朱鷺澤にひどいことを言ってしまいました。
彼を戦いに巻き込まないためとは言え、彼との友情に亀裂を作ってしまった黒薙のこれからにも注目していきたいところです。
感想などございましたら、是非コメントいただけますと幸いです。墓脇でした。
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