仮面ライダーO   作:墓脇理世

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第19話「『能力(チカラ)』の再覚醒」

 ぼくは鮎川悠翔。どこにでもいる平凡な一学生だった。大した能力を持ってるわけじゃなかったけど、可愛い妹もいたし、そこそこ幸せな毎日を送ってるつもりだった。二年前のあの日、照りつけるような日差しが眩しかったあの日、“sister”の事件に妹が巻き込まれ、その命を落とすまでは。

 ぼくは必死であの事件の手がかりを探した。能力のランクが伸び悩み、悩み抜いていた妹が何の意味もなく死ぬなんてあっちゃいけない、と。今にして思えば、ぼくは妹の死に何らかの意味を持たせたかっただけなのかもしれないな。

 そんな中、同じ事件で恋人を喪ったという女の子と出逢った。名前は朱本抄子。彼女も、あの事件の真相を探っているらしかった。

 それから、どんどん気持ちが復讐へと向いていった。そして、あいつが現れた。

 あいつはクラウンと名乗っていた。粗暴な格好で、性格も最悪。本来ならばこんな人間とは関わりたくなかったけど、あの事件の首謀者に復讐する力をくれるっていうんだから、ぼくはあいつに付くしかなかった。

 それからしばらく経って、クロージャーの計画が本格的に始まった。ぼくは自らの復讐のため、その計画を手伝うことにした。

 そして仮面ライダーが現れた。弱っちくて、戦い慣れてないぼくでも楽に倒せるやつだった。けど当たり前だ。力があるから仕方なく戦場に立つやつとぼくとでは覚悟が違う。

 そして、今。

 ぼくの相棒とも呼べた最高の復讐仲間は、その仮面ライダーの仲間に殺された。

 だからぼくは、もう一つの復讐を背負うと決めた。

 黒いOOを殺す。そうでもしないと、元の望みを果たしても、心が救われないと思ったから。

 ぼくは、どこで間違えてしまったんだろう。

 教えてよ、朱本。

 


 

「どうしたんすか、怪人の動きが急に鈍くなったっすけど……」

「知らね〜〜〜にゃ〜〜〜〜!ってあれ、ホントに鈍くなってるにゃあ?」

「と、言うよりは、むしろ、苦しんでいるような?」

 ホルスの弱い、大量に現れた怪人を対処している執行衛兵たちであったが、突然その動きに変化が生じ、それぞれ疑問を口にした。

「あっ、消えたっす」

「……ホントに綺麗さっぱり消えてるにゃ」

「何が、あったんでしょうか、これ……?」

「どっかで高位能力者がバカみたいな強さの能力でも使ったんすかね?……いや、それにしたってこのホルスの濃さは明らかにおかしいっす」

 小型の計測機器で、空気中のホルス濃度を確かめた有栖川は首を傾げる。

「確かに、ここまでのホルスの濃さは、これまで、感じたことないです」(……となると、まさかレーツェル先輩?)

 

 

「これで終わらせる……ッ!」

『やってみろ赤萩陽希、こちらとて君に負けるつもりは毛頭ない!』

 フレイマーとプレデターがそれぞれ同じ動作でベルトのボタンを押す。赤と青の閃光がそれぞれの脚に収束し、ぶつかり合う。

『Fire Charging Strike!』

『Beast Charging Strike!』

 電子音声の共鳴。炎と牙が衝突し、強大な衝撃波を生み出した。

「いい加減目ェ覚ませ赤萩さん、あんたにンなダセェ鎧は似合わねぇ!」

『……アンタに、私の何が解るッ!』

 対して、OOは、ホーネットに押されながらも、少しずつだが有効打を与えていた。

『Full Breaking Time Strike!』

『Queen Charge……Hornet Drive』

 そして、こちらでも高度なエネルギー同士の衝突が発生。反物質反応的に反発しあい、OO・ホーネットはそれぞれのいる方向へ弾き飛ばされた。

「チッ、重い……ッ!」

 マテリアブレイカーの毒素が神経を蝕んでいることを察し、それを外そうとした瞬間。超高濃度のホルスがその場にいた全員の変身を解いた。

「……このホルスの濃さ……まさか。どうやら本線はお預けらしいな、この勝負は預ける。互いに命拾いしたな」

「って、てめぇ待ちやがれ!逃げんな!」

 何かを察したのか、草壁はどこからか呼び出した金色の趣味の悪いバイクに跨りその場を去る。赤萩は追おうとしたが、断念した。

「赤萩さん……待て!待てって言ってんのが……」

「………………ごめんなさい、黒薙」

 亜矢は、涙で濡れた顔で一瞬だけ黒薙の方を振り返ると、レプリシューターの煙を用いて、そのまま姿を消した。

 

 

「確かレーツェル先輩のホルスが乱れたのはこの辺っすよね委員長?」

『はい、その辺りでレーツェルちゃんの強烈なホルス反応が生じて、後はあまりの強さに観測機器がぶっ壊れたので……』

「はぁ……ぶっ壊れたってあれいくらかかると思ってんすか……」

 遠山からの言葉を聞くと、有栖川は思わずため息をついた。直接自分が払うわけでもないが、一応は誘宵学区の住民として支払っている税金その他諸々が自分たちの起こした問題の補填に使われるのは気分が良くないのだろう。

「はぁ……はぁ……ほ、本当に、進むんですか……?」

「双海、あんまり無理するにゃよ〜?軽くとはいえホルス過敏症あるんだから、無理してまでついてこなくていいにゃ」

「い、いえ……私も、執行衛兵の、一員、です、から…………ぁ?」

 奈菜々の肩を借りて歩く双海だったが、そんな中、何か見てはいけないものを目にし、思わず顔を背けた。

「ん?どうかしたのかにゃ双海……あぁ、こりゃあ確かに目ぇ背けたくもなるよにゃあ」

 奈菜々も、その先にあるものを視界に入れると、眉をひそめた。

「どうしたっすか二人とも?……ッ、うわぁ。これレーツェル先輩がやったんすか……?流石に、少し引くな……」

 有栖川すらも、余裕ぶった口調を崩し、その惨状に絶句する。無理もない。コンクリートは抉れ、木々はへし折れ、ミスティは鮮血に塗れたまま倒れ伏し、怪人の変身者だったろう少女の腹部には巨きな穴が空けられ、その手の先にはヘッド部分が丸ごと抉り取られたマテリアピースが転がっているのだから。

「……とりあえず、護送車二両手配しとくにゃ」

「助かります……それにしても、レーツェル先輩は何を思ってこんなことを……」

 


 

 少女は、夢を見ていた。

 荒廃した大地、ボロボロの身体、照りつける太陽すら覆う霧のヴェール。まさしく『絶望』の2文字で言い表すことのできるだろう風景の中に、ミスティーク=レーツェルは佇んでいた。

 あぁ、またこの夢か。ミスティは思わずため息を漏らす。

 鋭利な爪が逃げ惑う人々を二つに裂き、ギロチンのような牙が大地を抉り食らう。見慣れた景色だ。凄惨な光景すらいつの日か日常になった過去に、今更ながらも嫌悪感を抑えられない。

「……あぁ、私、やってしまったんですね」

 右手の開閉を何度か繰り返し、ミスティは自分の体の中心にポッカリと穴が空いたような感覚を得る。

「いい加減こんなクソみてぇな悪夢から逃れてぇが……私がしたことを考えりゃ、これも当然か……」

 とはいえ、誰にも聞かれていないと安心できる空間ではあるのか、素のままのミスティは、荒い口調で愚痴をこぼした。

 そんな折、悲鳴と鉄錆臭い香りが絶えず生まれる。強い不快感の中で、ふと霧が微かに晴れたような気がした。

 僅かながら突き刺すような熱を帯びたそれは、ミスティの眠りを妨げ──。

 

 

「やっと目ぇ覚ましたかミスティ。こんなんでも心配したんだぜ?」

「…………おはようございます、先輩」

 眼が覚めると、ミスティは病室のベッドの上に転がっていた。四肢は包帯に包まれ、静脈にはチューブが繋がれている。どうやら、あれから数日が経過したらしかった。

「あぁ、あんま動くなよ?お前の怪我、お前が思ってるより深いらしいしな?」

「……ンなこと、私が一番わかってますよ」

「なら良し……色々、大変だったみてぇだな」

 今まで見たこともないような表情のミスティに、黒薙はどう接していいかわからないようだった。

「……先輩。先輩は怒らないんですか、私がしたことに」

「生憎、僕もそこまで詳しくお前が何やったか聞かされてるわけじゃねぇし……それに、相手が怪人とはいえ、生徒の命を奪っちまったのは僕も同じだ。あんまり人にとやかく言えるモンでもない」

 真剣な目をして、黒薙は言う。

「……いえ、私なんかと先輩を比べるのもどうかと思います。先輩が早瀬ジュンを殺害したのはマテリアブレイカーの毒素に蝕まれたからで、その遠因は私です」

 しかし、ミスティは自らを卑下する言葉を並べるばかりで、黒薙と目を合わせようとすらしない。

「……それに、私は先輩と違い、自らの意思であの怪人を……朱本抄子を殺害した。自らが生き残るために、立ち塞がる別の正義を討ったんです。そんな私が、私のせいで望みもせず命を奪ってしまった先輩と同じ?そんなの、誰よりこの私が納得できませんよ」

「なぁミスティ、お前は知ってると思うが……僕だって昔はそうだったんだよ。澪のためなんて言って、愛する妹を人殺しの理由にし続けてきた。今も大して変わっちゃいねぇかもしれねぇが……過ぎたことは変えられねぇ。大事なのはこれから先どうするかじゃねぇのか?」

「これから先、ですか……本当に、私にそんなものがあるのなら、そう言えたかもしれませんね」

 黒薙は考えに考えて言葉を紡ぐ。しかし、ミスティはその救いの言葉すらはねのけ、自らを否定し続ける。

「チッ、さっきから聞いてりゃもう自分には未来がないみてぇなことばっか言いやがって。いつもの皮肉屋なテメェはどこ行きやがったんだ?」

 一向に自分の言葉を聞かないミスティに対し、ついに黒薙も口調が荒くなる。

「……えぇ。少なくとも“仮面ライダーとしての私”の未来なんてどこにもありませんよ」

「あ?……どういう、ことだ?それじゃ、まるでお前が……」

「はい。……ごめんなさい先輩。私はあの一撃で、仮面ライダーとしての力を全て失いました」

 驚く黒薙に対し、ミスティは、あくまで淡々と、朱本を撃破した際のことを語り始めた。

 


 

「ハァ、なぜ、私が……あなたを、ここまで……挑発、したか…………わかり、ますかね…………」

『知る気もないし知りたくもない。あなたは殺す、私がここで殺す』

「そう、ですか……」

 時は少し遡る。プロトOOがライブラリを挑発し、その挑発に乗ったライブラリの攻撃を受けて変身が解かれた。

「ですけど……私も負けられないんですよ、どんな手を使ってでも……変身…………ッ!」

『Proto OO……』

 痛む身体を抑えながら、ミスティは再度レバーを倒す。

『……やめておいた方がいい。そんなことをしても死期を早めるだけ』

「ハ、そうかもしれませんね……ですけど、ここで私一人が負けて死ぬくらいなら、せめてあなたを道連れに死んだ方が良くないですか?」

『その言葉が許されるのは私に勝てるだけの力があるやつだけ。あなたにそれはない』

 ライブラリは意趣返しと言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべる。

「言ってくれますねクソアマ……私も、無条件でテメェに勝とうなんて思ってねぇよ」

 吐き捨てるようなミスティの言葉。もし、ライブラリがこれを負け惜しみと捨て置かなければ、今も生きていられたのかもしれない。

『何をしても無駄。無駄な抵抗はやめて、大人しく殺された方が楽に逝ける』

「無駄かどうかはコイツを食らってから判断しろよクソ根暗」

 直後、プロトOOの眼が血のように紅く染まる。

「セービングキャンセラー……超過解除。レベル1→6」

 胸部のディスクが高速で回転し、火花を散らす。身体に走るラインは黒煙を上げ、プロトOOの状態が尋常ではないことを暗に示していた。

『偉そうなことを言っておきながら、その程度?その程度であんな大口を叩くなんて、正直期待外……』

「だから……ビッグマウスかどうかは喰らってから判断しろっつってんだろうが、ブチ殺されてぇのか?」

 怒りを帯びた口調で、プロトOOは一歩二歩とライブラリの方へと歩を進める。

「そのまま潰れて死ね」

 そして、右手を伸ばし……それを閉じた。その瞬間。

『……ッ、あッ、がァ……ッ!?』

 ライブラリの右腕が、ぺしゃりと潰れて消え去った。

「オラ、どうした?さっきまでの威勢はどこ行きやがったんだ?あ?」

 プロトOOは潰れた右腕を抑えながら悶えるライブラリに飛びかかり、オブリビオンセイバーで軽快に何度も切りつけた。その度に、腕のアーマーにヒビが入り、皮が裂けることに気付いていながら、単純な攻撃を繰り返した。

「ハハッ、そのままくたばっちまいな、汚ねぇ路上の染みにでもなってなァ!」

 ライブラリに馬乗りになり、右頬を強烈な一撃を叩きつける。それでも震える足で立ち上がろうとするライブラリを見て、ミスティの形をした“魔物”は嗤った。

「ハッ、綺麗にボロクソのカスになったじゃねぇか!だがまだだ、念には念を入れてテメェをブチ殺さねぇとなぁ!?」

『……こ、こを。通す、わけには……』

 ライブラリは余力を振り絞り、無数の本を宙に浮かべ、目の前の魔物と相対する。

「上等ォ!粉々になるまですり潰してやっから覚悟しなァ!」

『Material Finish……Oblivion Strike……』

 対するプロトOOは、あくまで下卑た笑みを崩さず、ベルトのレバーを倒す。

 軽いジャンプの後、回転を加えたキックが、立ち塞がるライブラリの胸部に突き刺さる。その薙ぐようなどす黒いエネルギーの奔流は、射線上の木々をなぎ倒し、コンクリートを抉り、

「……………………ッ!?」

 ついに怪人だった少女の変身を解除させ、その腹部を貫き、即座に絶命させるに至った。

「ヒャハッ、まだだ、骨すら残……さ…………ず…………」

 少女だった肉塊に追撃しようとするソレだったが、急激に自らの力が抜け落ちていくのを感じ、そのままうつ伏せに倒れた。その腰に巻きつけられた石像が砕け散ったのは、その次の瞬間だった。

 


 

「以上が、私の行ったことです。何か質問ありますか?」

 黒薙は絶句する。たしかに自分に似て多少短気な一面はあったかもしれないが、ミスティがそこまで狂乱するとは思えなかったのだ。

「……まぁ、何も言えませんよね。先輩が早瀬ジュンを殺害してしまった時、正義の味方みたいなツラして批判した奴が、私みたいなクズだったなんて」

「……質問なんだが、その怪人を殺したのは本当にお前だったのか?」

 額に冷や汗を浮かべながら、黒薙は問う。ミスティがそんなことをするはずがない。そう思いたかったのだろう。

「……その顔、否定してほしそうですけどしませんよ。それに……仮にそれが私じゃなかったとしても、それを呼び起こしたのは私の意思です」

 その希望を打ち砕くかのように、ミスティは否定の言葉を並べる。

「……ライダーの力を失った、ってのは。ベルトが壊れたってだけで別のベルトがあればなんとかなるもんなのか?」

「なりませんよ……ベルトは壊れた上に私の体内で変身に必要なホルスを錬成する機構が破壊されたんですよ?」

 ミスティは自嘲的な笑みを浮かべた。

「ごめんなさい、先輩……私のせいで、また先輩の負担増えちゃいますね」

 そして、再び謝罪の言葉を述べる。

「……テメェ、さっきから聞いてりゃ自分を下げる言葉ばっかだな?ほんッッッとロクでもねぇとこまで僕に似てんじゃねぇよクソが、ついこの間早見に言われてから気にしてたのに地雷踏み荒らしやがって」

 その態度に、ついに黒薙の堪忍袋の緒が切れる。

「そうやって自分を卑下してばっかで、どっかで僕に同情してほしいとか思ってんだろ?言わなくてもいいよテメェは僕だしその辺りはよ〜く分かってんだ」

「……先輩に、私の何がわかるんですか?私がどれだけの想いであの力を使ったか、何も知らねぇくせに偉そうに語るんじゃねぇよ」

「わかるっつってんだろクソめんどくせぇ女だなテメェ?僕がテメェだったらそうした。それを咎めるつもりはねぇよ……だがなミスティ」

 鋭い目をした黒薙は、ミスティの心の奥まで見透かしたように語る。

「……僕のくせにいつまでもクヨクヨしてんじゃねぇよ情けねぇ、変身できようができまいがテメェは仮面ライダーだろうが。さっさと怪我治して戦線に復帰しろ以上だ何か質問は?」

 早口でまくしたてると、黒薙は手元に置いていた液体を飲み干した。

「ありません。…………ねぇ、先輩。私は人の命を奪いました。それが許されないということもわかってます」

 ミスティは俯きながら言う。前髪で目が隠れて、うまく表情を読み取ることはできない。

「そんな私でも、まだ先輩と一緒に戦うことを許してもらえるのなら……私は、いくらだって立ち上がります」

「……ハ、言うねぇミスティ?じゃあまずよく寝てさっさとその怪我治しな。そのままじゃ執行衛兵の仕事すら怪しいだろ?」

 空元気で胸を張るミスティに対し、黒薙はあくまで挑発的な笑みを浮かべて応える。

「はいはい、わかりましたよ……あぁそうだ先輩、ちょっと水買ってきてくださいよ」

「……いや、このノリでパシらせるか普通」

「いやだって喉乾いたんですよ、はいスタート」

 ピッと携帯のストップウォッチアプリを起動して見せたミスティに、黒薙は思わず苦笑する。

「……わーったよ、すぐ買って戻ってくる」

 

 

「……まぁ、これでいいかね。あのクソアホ、水の銘柄にまで文句つけやがったら今度こそ逆さに吊ってケツ腫れ上がるまで引っ叩いてやる」

 ミスティの注文通り、天然水を売店で購入すると、黒薙はミスティの病室に向かおうとする。──すると、エントランスの方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「……あ?病院でギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ常識もモラルもねぇゴミどもが……」

 怒りの色を含んだ顔で、黒薙は騒ぎの中へ向かっていく。だが、そこには──。

「テ、メェ……ッ!病院で何考えてやがんだ……ッ!!」

「あぁ、『異能共鳴』か。……残念だけど、きみには興味ないんだよね」

 ビークル・シャトランこと鮎川悠翔が、レプリシューターを引っ提げて佇んでいた。

「じゃあテメェの狙いは何だ?」

「いちいち言わなくてもわかると思ってたんだけど……黒いOOを出せ。ぼくはそいつを殺しにきた」

「……ハッ、それを聞いてハイそうですかと道を開ける僕じゃねぇってこと、愉快に爽快に理解させてやんなきゃいけねぇらしいな」

 黒薙は人差し指をクイクイッと動かす。鮎川が黒薙の方に駆け出したのは、それとほぼ同時だった。

 


 

「おいおい、怪人の力を持つ鮎川サマにしてはチマチマと来るじゃねぇか!病院で怪人になるわけにはいかねぇってか!テメェも存外常識あるじゃねぇか!」

「黙れ!この……っ、ちょこまかと!!」

 鮎川の掌底が何度も襲いくる。基礎的なトレーニングの結果か、一撃一撃は重く、顎にでも喰らえば意識が飛ぶことは間違いない。だが、こればかりは実戦経験の差が出るもので、素手の喧嘩に慣れた黒薙は、止まって見えるとでも言わんばかりに、掌底の一つ一つを流れるような身のこなしで躱していく。

「オラ、僕はただちょこまかと逃げ回ってただけじゃねぇぞ!『第一懲罰術:捕縛(アインスジャッジスキル:バインド)』!」

 鮎川の右腕に、光の鎖が巻きつく。

「こんなもの、変身すればすぐ……」

「させねぇよバーカ、この応用技でも食らいやがれ。『改造懲罰術:鎖槌(カスタムジャッジスキル:チェーン)』ッ!」

 レプリシューターにマテリアピースを挿し入れ、怪人に変身しようとする鮎川だったが、黒薙はそれを許さない。黒薙の右腕が光の鎖を掴むと、そのままブンブンと振り回した。

「あァッ!?が……ッ、はァッ……ひッ!?」

 病院のエントランスの空中で、無様に鎖ごと振り回される鮎川。やがて黒薙の目は自動ドアを見据え、そのまま鮎川を投擲した。

「……ッ、よくもぼくを吹き飛ばしてくれたな……ッ!」

 幸い、自動ドアに衝突してガラスを粉砕する、ということはなく、着地に成功するかギリギリのラインで鮎川は踏みとどまる。

「ハハッ、これなら病院のあいつらを巻き込むこともねぇな……じゃ、行くぞ」

 黒薙はベルトを巻き付け、宣言した。

「変身」「解錠」

『Time OO!』『Open “Vehicle”』

 二人の体が、それぞれの鎧に包まれる。

『あのマテリアブレイカーとかいうオモチャは使わないのかい?今のぼくはあの頃よりも強い。あの頃のぼくに勝てなかったきみが勝てる相手じゃあないと思うけど?』

「言ってろクソ野郎……あの頃とちげぇのはこっちも同じだ」

 OOは吐き捨てると、虚空からオブリビオンセイバーを取り出し、そこにメタルマテリアキーを装填した。

『Material Attack! Oblivion Metal Slash!』

 先手必勝、と言わんばかりに、蒼い一閃がビークルの鎧を削る。

『……あぁ、確かにこれは前とは比べものにならないね。けど、その程度じゃまだまだ足りないよ』

 しかし、それも想定内といった態度で、ビークルはオブリビオンセイバーを弾き飛ばした。

『今度はぼくの番だ……死ね』

 ビークルの腕のホイールが高速で回転する。その殺人円盤が迫るのを見て、OOは急いでメタルフォームに換装したが、直後、メタルフォームの装甲すら打ち破られ、その変身は無残にも解除された。

『さっきはよくもぼくを痛めつけてくれたね、これは仕返しだから悪く思わないでね』

 ビークルの足が黒薙の腕を踏みつける。

「あッ、か…………ッ!?」

『痛いよね?でもやめないよ。きみをこうして痛めつけてれば……』

 ビークルの言葉を遮るように、蒼い閃光がビークルの腕を撃ち抜いた。

『ほら、きた』

「なかなか帰ってこないと思って心配していれば……あなたの狙いは私でしょう?なら……先輩には手を出さないでください」

 その閃光を放ったのはミスティだ。ビークルは狂気的な笑みを浮かべてミスティへとダッシュで駆け寄った。

『涙ぐましいね……いいよ。『異能共鳴』を殺すのはきみをヤった後だ!』

 その重い拳が、ミスティの鳩尾に突き刺さる。思わずくの字に折れ、ミスティは胃液を口から漏らした。

『ホラ立てよ!ライブラリが受けた痛みはそんなもんじゃないだろ!?まだだ、もっと嬲られて見苦しく命を乞え!!聞き届けるつもりはないけどね!!』

 繰り返されるボディブロー。ミスティの細い体が宙に舞い、胃液には赤黒い液体が混じる。

「ふっ……あっははははははっ!!!」

 そんな様を見て、黒薙は思わず声を上げて笑ってしまった。

『あーあ、『異能共鳴』も壊れちゃったか。何が面白いのかだけ聞かせてもらってもいいかい?』

「ハハ、いや何、不謹慎かもしれねぇけどよ……僕もそいつも満身創痍、これってチャンスなんじゃねぇのかなって」

 猟奇的な笑み。その言葉を微かに聞き届けたミスティは、血まみれの右足を杖代わりにして立ち上がる。

「奇遇、ですね……私も、同じ、ことを……ハァ……考えて、ました、よ……」

 二人の掌が淡い光を放つ。

『な、にを……何をする気だ、きみたちはッ!?』

 答えはない。ただ、そこに佇む神秘的な少年の存在が、一種の答えを示していた。

 


 

 その少年は、確かに黒薙颯斗だった。青みがかった髪を肩まで伸ばし、赤青二色の眼を煌めかせてはいるが、それが黒薙颯斗であることは誰の目にも明らかだった。かつて菱杖の前で姿を現したそれと決定的に異なる点があるとすれば眼光か。全てを射殺さんとするほどの鋭さは今の彼にはなく、むしろ世界を丸ごと包み込まんばかりの優しさに充ちている。そんな目をしていた。

「「……おいおい、こんなあっけなく成功しちまっていいのか?どっかで間違ったりしてねぇこれ?」」

 自らの両手を交互に見て、黒薙は懐疑的な声を上げる。

「「……ま、言ってもどれが正解かなんざ知らねぇしな。今はあいつを倒すのが最優先だ」」

 二つの声が重なる。蒼い残像を残しながら、黒薙は再度バックルを腰に当てた。

『……二人一緒になってくれて助かるよ。これで心置きなくきみ達をぶっ殺せる』

「「言ってろよ……こっからの僕は、ガチのマジでさっきとはちげぇからな」」

 黒薙の体から、尋常でないほどのホルスが溢れ出す。目視できるほどの超高圧ホルスが、両の手の平に収束する。ホルスを帯びた指先で、マテリアキーのヘッドを倒し、マテリアブレイカーのボタンを押した。

『Materia Breaker!』『Time! Set!』

「「変身!」」

『Open……Enough Power Too Breaking Everything……Breaking OO……Time Charge』

 まるで怪人かと思うほど毒々しく、刺々しく、攻撃的な鎧。だが、今のOOは、それすら感じさせないほどの『希望』を纏っていた。

『あれだけ格好つけて出てきた割にそれだけかい?何も変わってないじゃないか』

「「変わってねぇかどうか、まずはその身でご賞味あれ、ってな?」」

 笑うと、黒薙はオブリビオンセイバーを出現させ、右手でそれを掴んだ。

(ふん、どれだけ言っても変わり方に限度はあるはず……そしてその程度ではぼくに届かない!)

 そう油断し、ビークルはOOの斬撃を受け止めようとホイールを回転させて構えた。直後、パキンと鋭い音が響き──腕の装甲ごと、ホイールが二つに割れた。

「「唖然としてんじゃねぇよ……上手く避けなきゃ危ねぇぜ?」」

 あまりの威力に惚けるビークル。その胸部装甲を、オブリビオンセイバーが抉りとる。

『か…….ッ、き、みは……ッ!?』

「「お、なんだ?今更自己紹介してくれってか?黒薙颯斗16歳、それからミスティーク=レーツェル肉体年齢15歳だ、以後よろしく」」

『そんな話はしてない……ッ!』

 苛立ちを隠せず、ビークルは高速でOOの周りを走り、重いタックルを仕掛けた。

「「…………ッ、やるじゃねぇ、か……」」

 瞬間、黒薙の動きが一瞬鈍くなる。

(ま、ず……アレの暴走ってこっちでもあんのかよ……ッ!)

《安心してください先輩……ちょっと体借りますよ》

 マテリアブレイカーの毒素が思考を蝕むのに気がつき、絶望しかけた黒薙だったが、脳内にミスティの声が響くと、その心配は消し飛んでいた。

「「……さて、ここからは先輩に代わって私が相手してあげますか」」

 一瞬、OOの目が蒼く光る。ミスティが告げると、直後、もう片方の手にオブリビオンセイバーを現し、二刀流でビークルに襲いかかった。カキン、カキンと、剣が鋼鉄の鎧を叩く音が鳴る。

『そうやってライブラリも殺したのか……ッ、絶対にきみは許さない!』

「「許してもらおうなんて思ってねぇですよクソ野郎、その罪も背負って力にするだけです」」

 OOは、迷いを吹っ切ったような爽やかな声色で言ってのける。

「「そろそろ……終わりにしますよ」」

 そう言うとミスティはベルトのレバーを倒す。赤と青のエネルギーが、両の脚に収束する。

『Material Finish! Oblivion Break Strike!』

 防御態勢をとったビークルだが、それすらも二人の一撃が打ち砕いた。




また予約投稿忘れてました。バカがよ。
というわけで墓脇です。今回は前回で変身能力を失ったミスティの復活と、ブレイクフォームの暴走克服の回でした。
それから、鮎川のバックボーンも明かされましたね。敵方にも事情があるというのは割と最初から共通していることですが、彼もまた家族の復讐のために戦っているのでした。
そんな中で出会った朱本は、彼にとって一番気が合う復讐仲間だったんですね。そういうわけなので、彼女が殺されて暴走してしまったのです。こわいね。
ご感想などございましたら、是非コメントお願いいたします。墓脇でした。
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